文字サイズサイズ小サイズ中サイズ大

明治二十九年六月二十七日

●兵士剣を握りて海嘯に死す
岩手縣氣仙郡唐桑村の歩兵根口萬次郎といえるハ清國より凱旋以來何時的間來*することあるやも知れずとて常に油斷せず心に掛け居たる際大海嘯の折柄海上遙に軍艦の走る如き響あると間もなく轟然大砲の如き音を聞き付けスワこそ敵艦攻め來れりと急ぎ用意の軍服を着け剣を提げて海岸に馳せ出づるや山の如き怒濤に*ハれてあわれにも其儘行衛知れずとなりしが其後濱邊にて死躰を見出したるに猶ほ手にせる剣を放さずありしとなむ