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明治二十九年六月二十五日 善後の策如何

東北三縣の大海嘯は維新以來絶無の大災害にして數萬の同胞を激浪の間に没殺し、沿岸百里の地荒寥一物を止めず、死に瀕するの傷者は路頭に呻吟し、家宅田圃を失へる窮民は四方に浪行し、人畜殺傷の慘害に至りては、二十四年愛岐の震災よりも更に數層酷烈なるものあり顧みれば二十四年の震災たる、道路堤塘を壞裂し官衛公舎を破損する今回の海嘯よりも烈しかりしと雖も、死傷の數は遥かに今回よりも少く、窮民亦今回よりも少數なりしならん。而かも尚政府は急遽數百万金を支出して、罹災民の救濟費に充てたり、當時國庫に巨額の剰餘金ありしを以て政府は之を使用して豫算外支出を爲したり。此の支出たる元より違憲にして、殊に通常議會の開期眼前に迫れるに拘はらず、政府が議會を蔑視して倉皇恣まヽに剰餘金を支出したるは、其措置の不當なる言を竢たずと雖も、罹災者は正當の手段を盡して之を救濟せざる可らず、今回の救濟金額或は廿四年より多大を要せん、政府は何を以て此救濟費に充てんとするか。
救濟の急施を要するが爲めに、盡す可きの手續を盡さず、又救助の方法公正嚴明ならず、遂に二十四年の如き物議の囂々を促發するは、吾人固より之を採らず。故に今回の救濟に就ては、政府善く憲法の命ずる所に導ひ、正當の手續に據りて、救濟の實効を舉げざる可らず。二十四年に存せし剰餘金は今存するなく、假令存するとも議會の協賛を經ざれば使用すべからざるものなり。究民一時の恤救は府縣及中央の備荒儲蓄金を以て辧ずるを得べきも、永く之を救助し得べきものに非ず、中央の豫備金は僅々二百万圓にして到底救濟其他復舊土木費等を充すに足らず、必ず他に其資源を求めざるを得ず。然るに此事たる議會の協賛を經ずして之を*行せば、再び違憲の非難を招き、物論の沸騰を促がすや論なし。救濟費と云ひ土木補助費と云ひ、議會の協賛を求めて、之を決行せば是れ正當の手續を盡したるもの、誰か又一點の非をい謂はん。然れども十一月の通常議會を待つ、是れ焦眉の急務を*廢するの恐あり、故に罹災視察の結果止むを得ず豫備金支出の外、更に巨額の支出を*し、或は租税の減免等に關し、急施を要するものあらば、速かに臨時議會を召集して、其協賛に頼らざる可らざるなり。東北海岸の地道路險*元と交通に不便、加ふるに
海嘯の爲に一層此不便を増し、被害の實况未だ其正詳を悉さず、善後の施設亦遽に議し難しと雖も吾人は政府の之に處する必ず正當の手續を盡し、二十四年の如き違憲の匪行を踏襲せざらん*とを切望するの餘り、茲に一言の注意を爲し置くのみ

雜報 明治二十九年六月二十五日 ◎海嘯被害記『其六』 特派員棚瀬軍之佐 (六月廿二日 午後二時發)

明治二十九年六月二十五日 ◎海嘯慘話 宮城縣下の一二

明治二十九年六月二十五日 岩手縣下の一二

その他

明治二十九年六月二十五日 ◎東奥海嘯罹災救助義捐金

一金壹圓      東京府下大森村        平林正之助
一金貮圓      東京             保田久成
一金貮圓      神田錦町國民英學會      磯邊彌一郎
一金貮拾錢     東京             宮崎*一郎
一金拾錢      同              宮崎茂太郎
一金壹圓八拾五錢  本郷湯島 順天堂内      大久保てる
一金壹圓                     後藤よね
一金壹圓                     川村もと
一金貮圓九拾錢 (各金拾錢づヽ)
         上田たつ、山崎てう、沖田すみ、小野はる、原田ま
         さ、金子たよ、玉城け*、茂木ひさ、矢島つね、長
         島まさ、大隈りん、大塲はま、仁ノ平わか、古市ま
         す、宮本まき、赤松てい、柴田よし、辻しづ、丸木
         さく、横川せい、大谷てつ、安西みち、土方こと、
         田村みつ、前川けい、鄕きぬ、寺田まさ、白井か
         つ、吉川せい
一金貮圓八拾五錢  看護婦            其他有志者數拾名
一金貮拾五錢    順天堂婦人科 一番室入院患者 有志者
一金貮拾錢     順天堂   二拾番室入院患者 附添人
一金貮圓七拾錢 (各金三拾錢づヽ)
         大關松五郎、長島利介、小峰清次郎、須藤庄三郎、
         横島三次郎、宮本兼次郎、淺野藤五郎、池田半七
         郎、小野要吉
一金拾錢                     森本松五郎
一金拾錢                     松永つる
一金拾錢                     煙草屋甚兵衛
一金貮拾錢                    小山万吉
一金三拾錢                    松本新一郎
一同                       田宮照映
一同                       長山藤之助
一同                       宮本廣吉
一金貮拾五錢                   小山幸次郎
一金貮拾錢                    野田金次郎
一金貮拾錢                    鄕橋善太郎
一金拾錢                     山田文吉
一同                       中村惣吉
一同                       鈴木新藏
一同                       長崎梅吉
一同                       黑瀬槌次
一同                       加藤助三郎
一同                       古第伊三郎
一金壹圓貮拾錢         順天堂内     有志者二名

横濱市の義捐金(第二回)
一金三拾圓     横濱             樋口登久次郎
一金貮拾圓     同              石川德右衛門
一金拾圓      同              原田久吉
一金拾圓      同              堀 榮吉
一金拾圓      同              川村由次郎
一金五圓      同              江馬富之助
一金五圓      同              關島宇兵衛
一金五圓      同              小澤勝藏
一金貮圓      横濱市元町五丁目       大河原作次郎
一金五圓      同 相生町四丁目       一ノ瀬興左衛門
一金五圓      同 宮川町壹丁目       山本喜右衛門
一金拾圓      同 辧天通貮丁目       辻 孝助
小計   百四拾九圓三拾錢
合計   四百三拾七圓九拾五錢
(正誤)昨日之横濱義捐金中*屋呉服店古屋德兵衛氏及同店員中の金額各五圓とありしは各金拾圓つヽ合せて貮拾圓の間違に付茲に正誤す