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◎海嘯視察(第一信)

六月十八日夜於仙臺特派員棚瀬軍之佐被害區域甚だ*く且つ日を經る事猶ほ淺きが爲め
詳細の調査を遂ぐる事素より望み得べからずと雖も只今迄に入手したる被害地實況の報告はさ左の如く實に一報は一報より慘を極めて轉た酸鼻に堪へざるものなり
宮城縣に於ける海嘯の中心點は本吉郡志津川に在るものヽ如く其慘状も殆んど各被害地を*するに似たり幾百年來繁栄發達し來りたる本吉郡の市街村落は憐む可し沿岸舉げて激浪渦中に捲入せられ蒼波渺茫今や其舊觀を留めざるに至らんとは實に喫驚す可き事にこそ桑田碧海の變も是に至りて其極端を示せる*とや云はん
○志津川字沖の須賀及埋地の被害は流失家屋四十戸餘全潰八戸、半潰廿戸死亡四十人、負
傷二十六人にして同町荒戸平磯袖濱清水濱細浦は流失家屋九十八戸、潰家十六戸、死亡三
百餘人、負傷者未詳馬匹一百餘溺死○歌津村流失家屋三百餘戸、死亡六百人餘、負傷三百人餘、其他未詳
○十三濱流失及潰家七十七戸、死亡二百十五人餘、負傷七十四人、馬匹八十六頭餘溺死○戸倉村潰家二十六戸、死亡百十八人、負傷五十人餘、馬匹溺死二十頭餘○小泉村潰家及流失家屋未詳、死亡三百人餘○大谷村死傷四百數十人、流失家屋及潰家百十餘戸○鹿折村流失及潰家五十餘戸、○階上村流失家屋百餘戸、死傷四百數十人其他未詳○松岩村潰家七戸、死亡三人、馬匹二頭溺死○唐桑村舞根と稱する所は流失家屋八戸、死亡十七人、宿と云ふ場所は總戸數三十六戸の中三十戸流失、死亡四十六人、○鯖之濱流失五十一戸、死亡六十三人、○小鮫濱總戸數二十六戸流失、死亡百五十八人○馬場濱七戸流失、死亡二十四人、決潰二町余○**濱流失二十四戸死亡九十九人○只越濱流失四十戸、死亡二百十人余
○大*濱流失五十三戸、死亡百六十二人、死骸發見二十一人○鶴か浦流失七戸、死亡八人
其他猶ほ調査未詳に屬する者枚舉に遑まあらざる可く船舶の如きは悉く流失若くは破壞したるが爲め死骸捜索を試むるに由なく刻下の處にては只だ岸頭に佇立して死骸の漂着し來るを待つの外なきが如し沿岸流失の各町村は滿目荒涼只だ僅かに山腹或は樹枝に幾多片木の**し居るを觀るに過ぎず慘澹の状最早や言語に絶へたり又今十八日宮城縣廰に達せる被害報知を得たれば併せて左に報道す本吉郡階上村流失家屋八十五戸死亡男女四百二十一人
本吉郡小泉村流失家屋五十五戸
死亡男女二百三十人
小泉村以北に於ても死亡者夥しく其負傷者のみにて既に三百餘人に達したるを以て同郡氣仙沼町に臨時非常病院を設置し治療中なりと云ふ石の巻警察署より今十八日宮城縣廰に報告せる者は左の如し牡鹿郡女川村の内女川にて水嵩七八尺乃至一丈屋内に在りて大人首丈け水に埋められ浸水家屋三十六戸巡査駐在所慘害に罹り諸帳簿流失す
女川の内御川濱の正面なるを以て水勢強く直進し來り二戸と納屋一棟流失大原村の内谷川濱四丈餘の増水にて溺死女一人、人家六十戸外建物十四棟流失其他宮城縣下亘理郡坂元沿海にも海嘯被害少なからず同村字須賀の如きは一面に海水侵入して床上に達し漁舟の如き破壞若くは流失したる者從て夥だしきも幸ひに此地方は人畜に死傷なきが如し當十五日初めの程は天氣ドンヨリとして天地何となく眠りたらん如くなりしが午後五時頃より一天漸く曇りて遂には深霧咫尺を辧ぜざるに至り雨さへ次第に加りて海上轉た不穏の兆候ありしも海邊に生長せる人々の事とて別に氣にも止めざりしが午後八時十分頃東方俄かに暗澹たる光景を呈せると見る間もあらせず轟然百雷の一時に墜落せる物音聞へければスハこそ何事か起りたらんと噂しある途端逆捲く激浪天地を叩きて俄然押寄せ來り遂に警戒の餘時もなく是の慘状を示すに至たりと

◎海嘯慘報 明治二十九年六月二十一日

● 軍艦發着

松島、*遠は一昨十九日竹敷に投錨、龍田は一昨十九日荻の濱に向ひ横須賀抜錨
● 明治二十九年六月二十一日

◎東奥海嘯救助義捐金

一金貮圓     東京          小林大次郎
一金参拾錢    同           同 玉之助
一金貮圓     同           島田 信
一金拾錢     同           中追太一
一金五拾錢    同           和川尚清
一金拾錢     同           安藤 某
一金拾錢     同           山下ケイ
一金拾錢     千葉縣         鶴岡ヨシ
一金貮拾錢    新潟縣         石橋桂十郎
一金貮拾錢    東京          旅川陸三郎
一金貮拾錢    同           原 胤昭
一金貮拾錢    同           原 みき
一金拾錢     同           原 ゆり
一同       同           原 きぬ
一同       同           原 龜太郎
一同       同           原 あい
一同       同           原 鶴麿
一同       同           原 みち
一同       同           原 梅三郎
一同       同           原 竹胤
一同       同           鄕橋彌太郎
一金五拾錢    岡山縣         留岡孝助
一金三拾錢                林*太郎
一金貮拾錢                中澤勝太郎
一金五圓         内外物産合資會社
                   東京支店々員中
一金一圓     東京京橋區桶町     YI
一金五十錢    仝           鄕橋岩三
一金参十錢    仝           宇佐美虎吉
一金参十錢    仝           TK
一金貮圓     横濱          島田豐寛
一金五圓     同           澤田コウ
計 金二十二圓

明治二十九年六月二十一日 欄外 ●宮城縣知事の報告

今回の海嘯に付宮城縣知事より去る十八日附を以て内務省へ報告ある中に就き家屋の流失、人畜の死傷を舉ぐれば左の如し
以下は再調査すること????????