文字サイズサイズ小サイズ中サイズ大

水害善後策如何

三陸海嘯の慘劇は、**の人心を驚殺して未だ幾ならざるに、先づ富山縣の大洪水あり、今又美濃陸中等に於て洪水氾濫の警報あり、富山復此災に*り、其他全國諸川の増水被害枚擧に暇あらず、汽車電信等不通の箇所少からずして、未だ報道の正詳を得ずと雖も、岐阜縣ハ木曾長良揖斐の三川出水の爲め、浸水廿一郡に及び、就中西濃各郡は一面湖水の如く、又大堤の破壞ハ十八ケ所小堤の破壞三十六ケ所にして、家屋の流失人畜の死傷算なしと云ふ、以て被害の慘烈なるを推想す可し。又盛岡發の飛報に因るに、岩手縣下ハ洪水の爲め堤防破壞し落橋多く、市内亦家屋の流失浸水無數にして、随時縣會ハ爲めに延期となれりと、朝に海嘯に襲はれて夕に洪水に遭ふ、天の岩手に殃する何ぞ夫れ酷なる。而して富山亦前日の洪水に處するの暇なくして、復又諸川出水の巨害に會し、不幸に重ぬるに更に一層の不幸を以てす、亦憐むべからずや。岐阜富山岩手三縣の如きハ、是れ慘害の巨大なるものにして、其他諸縣に於て出水の爲めに、橋梁を落し、電柱を流し、道路を埋め、田圃を荒し、家屋を浸し、人畜を傷けたるもの、敢て茲に叙述するを用ゐずして、讀者の既に知悉する所、此大災害に當り内務大臣の将さに施行せんとする處分法善後策ハ果して如何なるものぞ、三陸海嘯の悲報四方に傳はるや、天下の義人は皆馳せて實地を探檢し、擧國の仁人財を投じて恤救に力むるの日、板垣内相ハ尚漫然京坂の圖に優遊し、*延*日僅かに視察に赴くや、船を沿海に*して望遠鏡的観察を試みたるのみ、而して歸廳救濟の策を議するに當りてハ、第二豫備金に頼りて、一時を**するの外、英斷以て三陸十万の窮民を安意せしむるの法を論せず、僅々たる四十五万圓を以て救恤に充分なりとなし、今や怨嗟の聲ハ三陸の荒野に反響し、擧國の同胞皆内相の**を責めざるはなし。此の如く海嘯の善後策未だ其術を盡さゞるに、今又之に劣らざる洪水の災害あり、内相又前例に準じ第二豫備金を以て一時を糊塗せんとするも、其の餘す所*に小額のみ、到底之を以て救濟の目的を達すべきに非ず、剰餘金を支出して、事後承諾せし所、板垣伯今に至り知らざる爲して、此非*を強行するを得ざる可し、然りと雖も救濟ハ決して一日の等閑を許す能はず、内相将た前の所に其資源を求めんとするか、加之堤防の修築道路の修繕等、緊急の工費を要するもの、決して三陸海嘯の比に非ず、若し夫れ破損の堤防を委棄して省みざらんか、今後の強雨に當り、更に再三の出水に遭うて、益々其慘害を加ふるの患あり、復舊工事の着手亦一日を緩ふすべきに非ず、第二豫備金を以て之に應ぜんとするも、到底充分の修繕を*げ得べからず、内相又将た資源を何れに求めんとするか、救濟の費や工事の費や、只之を議會に求むるの外なかるべし、然りと雖も通常議會を待つハ、徒らに時日を遷延して、事の急に應ずるに足らず、故に今日の急に應ぜんとせバ、速かに臨時議會を召集して、救濟及工事の費用を要求するの一途あるのみ、政略上の都合に因り臨時議會を開くを厭ひ、焦眉の急務を*癈せんか、是れ閣和の安逸を貪ほるが爲めに、罹災民の究苦を犠牲に供するもの、何ぞ夫れ無情なる。