●嘯災義捐音樂會
さみだれの山を*めて鬱緑轉た濃かなりける去土曜日上野音樂學校奏樂堂に於て演奏會をぞ催されける此度の三陸大海嘯に幾多の*生災害を蒙むりしに同情の涙を揮ひて洽ねく世の紳士貴女の慈善心に訴へて此慘害の萬一を救ハむとの旨趣もて同聲會諸氏によりて開かれたるなり例に因りて曲ハ第二部に別たれ一部都て六曲を以て成る學友會諸氏により歌ハれたる唱歌ハ總じて八、『流れし宿』ハ大和田氏作にして父ハかへり來ず母ハ來らず月影の獨りさびしくうらみハ果てもなき大海原を見渡す孤兒の心を歌ふたるもの、『湖上』ハゲ−テ原作旗野氏の作歌なり『なき友』『歸る雁がね』ハ共に中村氏の作するところ歌詞いたく流麗に聞かれぬ『慈善』『廃宅』もまた同氏の作『義勇』ハ旗野氏の作義を見て無慘の同胞幾万を救へとの意を陳ぶ最後の『薩摩潟』ハ往日の學友會演奏にても喝采せられたるもの詞もあハれにして*も勇ましかりき奏樂ハ第一部に於て前田久八氏ピアノ獨奏先づ聽客の胸をさわ立たしめぬその調激越浩洋萬嶽頽れ怒濤摧くるの慨ありき次に最も人の注意を惹きしハ例の幸田延子のヴィオリン獨奏一は和暢温雅の調きハめて妙にして一ハ短弦憂々その細かにしていとすバやき手指のはこび巧を極めぬ第二部に入りてハ由比、上原、塚越、鈴木、四子聯彈のピアノいつもながら手際よろしかりき幸田氏のと相反映して異彩を煥發せしめしハ遠山きね子のピアノ獨奏急彈し來て驟雨浄瑠璃盤上を打つて韻を發するが如し各部の終りにハ何れも箏曲を以てし第一ハ山勢今井兩氏の『五段砧』にして第二ハ山勢、今井、萩岡、山室諸氏の『西行櫻』なりきこの日ハ會員各奮ふて救災せむとするの念充滿たれバにや演奏は何れもその妙を極め先きの同聲會の大會に比して優りたるも劣たりとハ見えざりき幸田遠山の兩子も幾度となう壇にあらハれて伴奏し或は指揮しぬ只遺憾かりしハ同日同時精養軒に於て樂友會の義捐演奏ありたる爲め來會する者例ならず尠くなかりし事にてありき
???スケッチあり
嘯害地小友村の假病室