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   雜   報

   ●本 縣 海 嘯 被 害     概 略 調 査 一 覧 表

   ●聖 恩 無 量

■上 皇后兩陛下には今回の大海嘯に付痛く聖
慮を惱まされ侍從を差遣はされて災害の情況を
視察せしめ賜ひ昨日に至り本縣下被害者に對し
兩陛下より思召を以て金 千 圓を下し置か
る嗚呼聖恩無景誰れか大御心を拜し奉りて感泣
に堪へざらんや海嘯 一たび起りて幾万 の生靈
を奪ひ僅かに一生を免かれたるものも尚ほ親に
別かれ子を失ひ入るに家なく着すべきの衣なく
辛くも世の救助に命を繋くと雖とも其慘状實に
酸鼻に堪へさるなり世の志士仁人聖慮を奉戴し
此の際早く起つて此の憐なる災民を救助するに
勉めざるべからず

   ●両書記官の出張

佐和本縣知事鈴木本縣警部長の兩氏は海嘯被害
地方の實况を視察し終りて歸靑したるに付島田
本縣書記官は之れに代はり昨日の一番列車にて
太田内務書記官は昨日の二番列車にて被害地へ
出張したり尤も島田書記官は湊方面より北方に
來り太田書記官は三澤方面より南方に向ふよし

   ●文部參事官の出發

文部省參事官岡田良平氏は岩手及び本縣の學事
視察として出張を命せられ■昨日來靑せられた
るが今回の海嘯に付本省よりは■■の學事丈け
を觀察の上■免つ歸京すべき樣電報ありたる由
にて昨日は弘前へ巡回の豫定なりしも之か爲め
俄かに見合せとなり昨日の一番列車にて上北郡
古間木へ向け出發したり夫れより災害地へ立寄
り岩手縣を經て直に歸京する都合なりと云へり

   ●百石短信  (廿二日正午發)

日本赤十字社東京の本社より昨日の直行列車に
て出張し來りたるは醫師小山善同尾崎市太郎の
兩氏外助手四名にして取敢へず百石村へ赤十字
社の仮病院を設けて患者を収容し治療に着手す
る由佐和縣知事は屬有賀久瀬の兩氏と共に昨日
三澤村を出發百石沿岸の被害地を視察して市川
村に至り三番列車にて歸靑せられたり警察部よ
りは尾形警部氏家技手の兩氏今朝百石に出張せ
らる

●見舞状と救助金

 今回の大海嘯に就き各縣よ
り續々見舞状及び義捐金を寄贈せられ居ること
なるが昨日も亦本縣廳へ宛てられたるは秋田縣
書記官より見舞状又た被害者救助としては(四
拾圓)横濱市北仲通松下クラ、仝マツ、仝■一(壹
圓) 東京下谷錦路通柳馬塲西入中魚屋町上田龜
次郎(五圓)仙台市大町八木久兵衛(拾圓)仝大町
藤崎三郎助(五圓)仝市杉山通伊澤平藏(拾圓)仝
肴町鎌田三郎右エ門(五圓)宮城縣桃生郡前谷地
村遠藤善夫(五圓)仙台市大町阿部善六(五拾圓)
仝北目町■金須松三郎(二拾圓)仝町松下回漕店
一同(四圓)仝町高瀬理三郎(白木綿五十反)大日
本私立衛生會々頭爵伯土方久元(白木綿五十反)
大日本私立衛生會事務所取締後藤敬五の諸氏な
りと云ふ各縣慈善家の厚意感するに餘あると共
に本縣人士の如きは之を見て一層奮發する所な
かるべからす

●知事以下の義捐

 本縣海嘯罹災者へ救助とし
て本縣高等官の義捐は知事七拾円書記官三十円
収税長二十円警部長二十円參事官十五円にして
又各郡役所収税署警察署監獄署の各官吏に於て
も目下夫れゾレ募集中にして取纏めの上縣廳へ
送達する筈なり

●東奥義塾の美擧

 本縣大海嘯の報一たび同塾
に達するや同塾一同其慘状を痛惻し直ちに上級
の生徒等發起となりて義捐金を塾内に募り救助
の一部に充てんと奔走中の處大抵纏まりたれば
今明日中其筋まで送達する筈なりと

●靑森町の義捐金

 其後續々ある由

   ●大海嘯視察   (第一信)  廿二日八時百石に趣く途中にて 木坂三五六

昨日一番列車にて八戸に着し先づ三日町なる靑
霞堂主人浦山十五郎氏を訪ひ今度大海嘯に就き
本社にて募集する救助義捐金の事に關し同氏の
尽力を乞ひたるに同氏は快く之を承諾されたる
を以て余は直ちに被害地に向はんとし■■の眞
向なる若松旅店に投宿しければ■山氏は直に訪
ひ來り被害の模樣大畧を説示され且■■を按じ
て巡視の順路を説示さる余は此の説示に從つて
便利を得たる事多かりしは氏に向つて深謝する
所なり

  ●海嘯と中央金融界     (佐々本第一國立銀行支配人の談)

◎北海岸線の海嘯は幾何の程度に迄被害を及ぼ
せしや未だ以て知る可らずと雖も而も釜石以北
久慈に至る沿岸の一帶は皆悉く海■の慘害を蒙
り家屋の流失人畜の死傷其數擧げて算ふ可らざ
る也
◎被害地一帶の沿岸は如何なる物産を有するや
試みに■指せんか乾鮑海鼠鰹節鰛締粕乾鯣等を
以て最も重もなる物産と爲す
◎是等の物産は同一の時季に産出せらるヽもの
にあらざるが故に産出の都度荷爲換として各荷
■は是れを東京の問屋に送る
◎米穀市塲に一勢力を有する本石米は三陸地方
特有の物産なるに相違なきも這は最上川の長流
を狹める大■區に於て産出し被害地一帶の沿岸
には産出せざる也
◎往時鐵道の便未だ開けざる時に於ては最上川
の長流を利用して各處の産地より是れを石の巻
港に送り石の巻よりは更に是れを船便に取て東
京に送りたりき
◎石の巻港は實に此三陸特有の物産たる本石米
の大集合地たりき然れども今は鐵道に依りて其
大躰を輸送するが故に石の巻は唯だ其殘餘の吸
集ちたるに過ぎざる也
◎三陸の物産と云ふも以上の外に出でず矧や今
は本石米の産出季にあらず亦だ海産物出盛りの
時季にもあらず言はヾ問合の一閑時季に屬す
◎其産出品の上より觀れば海嘯の爲めに慘害を
蒙りたりと言ふの事實は極めて尠なかる可く寧
ろ甚だ見る可きもの是れなきをずる也 (未完)

●東北地方の電信

 今回の海嘯にて不通となり
たる電信は去十九日午後一時を以て巖手縣東閉
伊郡山田迄開通し去廿日を以て宮古迄開通した
り尤も同地方の電信は平時に■■ても昨今の季
節は北海道漁業の爲め電信輻湊し其筋に於ても
複線の計畫ありしに今回の 害にて電信の輻湊
は甚だしく逓信省にては十九日の夜書記二名を
急派し其事務を補助せしむる事になりたるが現
に輻湊せる證據には盛岡電信局より至急局報を
以て去二十日午前十一時八分に發せし電報が午
後三時十五分に至りて漸く東京へ到達せしを以
ても知るべしと

●近衛の被害地入營者處分

 近衛第一第二聯隊
にては海嘯被害地より入營せる下士官以下に對
し二週間の休暇を與へて随意歸團せしめ故舊の
訪問を許し猶義捐金を募りて被害地出身の下士
官以下に贈與するに決したりと