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      社    告

  本社員の特派

去る15日の大海嘯は前代未聞の惨事なり。その景
況に就いては、本社既に同地方特設の通信員により
て詳細に報し来たりおれども、なお本社はこれを以て満
足せず、既に司筆木坂三五六氏
を本県被害地に特派したり。同地方被害の状況は
細大洩らさず次号の紙上より顕出し大に天下の同
情に訴ふるあるべし。読者乞う活目して待たれよ。

    雑   報

   ●大海嘯彙報

    ●侍従差遣

 
去る18日、侍従東園基愛氏、宮城県岩手県へ差し遣
わさる。本県へは別の侍従差し遣わさるべしと。

●各大臣の義捐

今般宮城、岩手、青森3県下、非常の災害に就いては右
被害者恤救のため、総理大臣より150円、枢密
院議長及び各大臣より100円ずつ都合、1,150円
を義捐せらるる旨、一昨日内務省県治局長より本
県知事に宛電報ありたり。

●野村氏の義侠

上北郡野辺地村、野村治三郎氏には、三澤百石両村
罹災者へ米100俵を義捐することとなり、既に上北
郡役所へ差し出したる由にて、同郡役所にては諸事
整頓次第、直ちに救助配当すべしと云う。

●内務参事官の出張

今回の災害につき、内務省参事官久来金弥氏は、属僚
2名と共に宮城岩手青森の3県に出張を命ぜら
れ、去る18日宮城県に到着したりと云う。

●党員の被害地視察

宮城県、岩手県、青森県海嘯惨害視察のため、自由党
にては武者伝次郎、江原■六外1名。進歩党にては
首藤陸三外2名、派遣することとなれり。

●海嘯災害事務取扱委員設置規程

 本県内■に
海嘯災害事務取扱委員を設けたれば、その規程は
左の如し。
第一条 海嘯災害に関する事務取扱のため、委員
若干名を置く。
委員は県属警部の内よりこれを命ず。
第二条 委員の取り扱うべき事務の概目左の如し。
一 罹災救助に関する事
二 閣省及び他管■■の往復に関する事
三 官報その他報告に関する事
但し警察上の報告はこの限りにあらず
第三条 委員は■内別に一室を設け、その事務を取り
扱う。
第四条 委員は便宜その事務分担取り扱う事を得る。
第五条 委員取り扱う事務の決議に関する順序は
通常事務決議の順序に同じ。

●委員の任命

 前項事務取り扱い委員は左の如し。
(内務部第一課)三浦慶作、丸瀬正果、中林三平
(第三課)大沢真澄、毛内嘉胤◎(第四課)田村
束穂◎(第五課)西川廣◎(警察部)松本正理、
古村■義

●岩手県大海嘯被害統計

 昨日まで報道を得■る
管内各地被害の統計を概算するに、家屋破壊総数
4,746戸、死者総計14,970人
なり。なお詳細は調査の上報道すべし。

●福島県の沿海地方

 福島県相馬地方にも多少
の海嘯は起こりしが特別被害はなかるべしと云う

●大海嘯に就いての損害

 家屋財産の流失、田畑宅
地の荒廃等を精算せんには、その損害高は非常の金
額に上るべく単に■■のみの損失のみにても余
程の巨額なるべし。就中最も困難なるは塩入の田
地にて、以前の如き肥沃に回復するとは殆ど望む
べからず。これがため破産に至る者も数多あるべし
と云う。

●被害地と衛生

 天災後には往々恐るべき流行
病伝染病等の発生することあり、これ災余の人民
が一時の急を凌ぐの余り、衣食住共にその完全を欠
くものあればなり。これ実に万やむを得ざるの事
なるべけれども、運搬に関する予防注意最も肝腎
なりと■さて今回の凶変に就いては、東海岸一帯殆
ど60里に渉るの大惨害、実に前代未聞のことな
ればこれが処置の手配り、もとより最初より完全な
るを望み得べきにあらざれども、さりとて及ぶ限
り出来うるだけは万般のことに緻密なる注意こそ望
ましけれ。而して衛生上のこと特に然りとなさざる
べからず。例せば避難所の設置かた、傷痍者の救護、
蒐集したる屍体の埋葬かた、飲料水は如何に、散布したる
汚■物の掃除かたは如何にすべき等。これらは差し当た
りての注意すべき要件にして、万々が一にもこの
滔天の凶変に加うるに恐るべき病疫の発生する
が如きあれば、これぞ誠に由々しき大事なれば
■般の注意最も肝要なるべし。

●被害地方臨時為替貯金払い渡し手続き

 青森仙台両
郵便電信局区内海嘯の害を被りたる地方に於
いて、為替受取人貯金払い戻し請求者の急■に応じ、その便
利を充たすために、正規の手続きを省略し、即時特別払い
渡しをなすの便法を設け、通信局長より去る17日青
森仙台両局長へ通牒せる手続きは左の如し。
(1)貯金通帳又は印形亡失のものは、町村長若しく
 は警察官の証明を以て払い渡しを許可すること。
(2)貯金払い戻し請求を受ける取扱局は、、電報を以
 て通帳の記番号金額等取り調べをなすこと。
(3)払い渡し局所に於いて、未済みの報知書を亡失した
 る向きは貯金にありては通帳受領証を証とし、為
 替にありては差出人よりの書面等を証とし、何
 れも正当の受取人たることを確かめたるうえ、相当証
 人を立て払い渡すこと。

    ●大海嘯の原因

今回の大海嘯は如何なる原因よりして起こりたる
や。今その筋の人々につきて聞き得たる意見の概要
を挙ぐれば左の如し。
海嘯は如何にして起こるや。海嘯の起こる原因はこれ
を約言すれば二種に起す。則ち一は暴風、他は地
震なり。暴風より来る海嘯は、例せば洋心に於いて大
暴れのありし結果として海水を激揚し、その余波延
きて陸地を侵すものにして、大浪の更に幾層大な
るものの如し。地震より来るものは海中の地盤滑 
り又は火山脈のため、地盤の隆起する等の事変よ
り海水を震とうして陸地を侵すものなるが、海嘯は
何れかと云えば寧ろ地震より来るもの多し。
今回の海嘯は地震より来たれり。 去る16日の気
象を云えば、低気圧朝鮮にあり。高気圧北海道の釧
路辺りにあり。数日来の天気と合わせ考えるに、地震
を考える方の側より云えば、余り好気象には非ざれ
ども、暴風の心配は■に無き天気なりしのみなら
ず、海嘯の中心たる釜石付近を始め、全国至る所多
少の地震あらざるはなく、青森の如きは前後合わせ
て数十回の地震あり。東京の如きも今朝(去る17
日朝)までに30余回の微震ありて、何れ何処にか
大地震のありしは明瞭の事実なる故、今回の海嘯
は無論地震より来たりたるものに相違なし。
震源地は何処なるか。 さて今回の海嘯を地震の
結果とせば、その震源は何れのところにあるぞ。事実の示
すところによれば、そのあたりは大凡付け難きにあらず。即ち
タスカローラの深海■■その震源に相違無し。
タスカローラの深海 古伝説の如く地震を大鯰
の動く結果とせば、その大鯰の棲所はタスカローラ
の深海なり。この深海は英船タスカローラ号が測量
して発見したる結果として、かかる名前を付せられ
たる次第なるが、位置は北太平洋の日本陸地に併行
する部分にありて、日本陸地を距てること最も近き
ところは僅かに3、40里に過ぎず、その水源は4千メー
トル(1万3千2百尺)にして、これに加え断崖絶壁の如く
その部分だけ急に深くなりおることにして、恰も太
平洋中に東西幾十里、南北幾十里に綿亘せる大な
る切竪の穴あるが如し。この海の底より見れば普通
の太平洋の底は恰も富士山より殆ど1千尺も
高きわけにして、今日までのところにては世界第一の深海
と称せらる。この深海の四方は屏風の如く絶壁を
もって囲まるることゆえ、地滑り甚だしきは■の免れ
ざるところにして、その地滑りの度ごとに日本及びその近海
は多少の地震を感ぜざるをえず。従来日本に地震
多きは実にこの鯰の棲み家に密接すればなり。而して
今回の地震もまたその震源はこの深海の方面にあり。
震源推■の証拠 去る17日までに中央気象台に達
したる報告によれば、東京に最も近きところにて津波
のありしは、福島県双葉郡富岡付近にして、東京を
距たること最も遠きところにて、津波のありしは北海道
の東南端襟裳岬付近の地方なり。この両極点は津波
と云うほど津波にあらざれども、とにかく津波と見る
べき現象のありしには相違なければ、仮にこれを
両端とし、而して津波の最も激烈なりし陸中の釜
石を中心として、その形勢を案ずるに大約左の如し。

    震源(タスカローラ海の辺)
/ \
襟裳岬 釜石 富岡

右の如く震源に最も近きは釜石にて、その被害も多
く、襟裳と富岡は両端にしてその被害最も少なく、而し
て富岡より震源に至るも、襟裳岬に至るもその距離
は大凡相匹敵しおるところより見れば、震源は釜石
と遙かに相対するタスカローラの深海■■にあ
りて、これより諸所へ震動の影響を波及し、両端に至
りて広く■らぎたるを知るに足れり。この■■は■
より正確なるを保するを得■また果たして地震源
地盤の陥没による■若しくは隆起せしに因るかを
判じ易からずと雖も、この証拠物によりてこれを推す
に当たらずと雖も遠からざる判断なりとす。

    ●海嘯の歴史

その筋において最近の記録により調査したるところによ
れば、海嘯は地震に比して古来甚だ多からず。今記
録に残れるものを摘載すれば、享保11年2月29
日、越前国勝山において大津波あり。人家■■死
傷無数、泥水湧出せり。また天保6年6月25日仙
台大地震■居城大破、大津波にて民家数百軒流失
し、死人数知れず。また安政元年11月4日、5日駿■
三、伊賀、伊勢、摂津、播磨、及び四国大地震土佐最も甚だ
し。この震災のため伊豆国下田港は悉く破壊す。当時
露国の軍艦ヂャナ号は該港にあり、退潮のために
42度漂回し遂に破砕せり。これまた一種の津波
なりしならん。その後明治年間においては18年に広
島地方に、■5年に名古屋地方にありしのみに
て、何れも小区域に止まりしが、今回の東北地方の
津波の如きは古今希なる大津波なりと云う。

●本県参事会員惣代

 同会は協議のうえ、関春茂、
浦出廣の両氏、惣代として大海嘯被害地を視察及
び慰問のため、出張せしめんとしたることは前号に
記載せしが、浦田氏は止むをえざる事故あるに会
したるを以て、関氏は一人惣代として一昨日出張
したりと。

●青森町民の義捐

 今回の天災は実に希有の凶
事、非常の惨況にして、一段の報道を得るに従いて
その惨況の無情なる■害の洪大なるに、誰か腸を断
ずるものなからん。畏くも陛下には今回の惨害を
深く叡慮にかけせられ、侍従派遣のご沙汰あらせ
られたりとの報あり。また東京市等にては、早くも救
助金募集の義挙あり。青森町民は豈傍観するに忍
びず。よろしく県下各市町村に率先してこの際応分の
救助に尽力せざるべからずとの趣意をもって、青森
町役場は昨日来市内の諸氏に協議せしに誰も
同感の情義を表し、なお本日病院■上において協議
するはずなるに、直ちに協賛して義捐金を申し出たる
は左の諸氏なりと。
 金20円 佐藤 龍弁  金10円 上田幸兵衛
金 5円 西澤佐兵衛  金 3円 村林 文助
金 5円 長谷川茂吉  金 5円 長谷川■兵衛

●義捐申込み

 今回の大海嘯に付き本社は愈々満
天下人士の義侠に訴えてこの不幸なる被害者の
ために義捐金を募集するに至れり。これより先
昨既に本社へ義捐の取扱方を依頼し来たれるは
本県名誉参事会員関春茂、加藤宇兵衛、浦田廣、
佐々木弘道の4氏より金20円を、当地弁護士川
口栄之進氏より金10円等なりとす。