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  善 後 の 方 法 に 就 て    (聯合法と共有法)

三陸大海嘯の慘害に對する救助費は第二豫備金
八十餘萬圓を悉く支出するも猶ほ足らざるべく
政府如何に我が東奥に冷淡なりとするも百萬圓
位は必ず支出すべしとは我も人も皆共に想望し
たる所にして進歩黨の如きも百萬圓乃至百五拾
萬圓を遅滯なく支出すべきを唱道したりき然る
に内務省が澁々支出したる金額は僅かに總額四
拾五萬圓にして本縣が受くべき金額は壹萬七千
貳百圓餘之を縣下嘯害戸數四百八十四に平分す
れは三拾五圓五拾錢餘に過ぎず
若し救助費をして冷淡なる現政府の支出額に止
まらしめは善後の計なるもの到底立つべきにあ
らず被害地は永く荒癈を脱かれさりしなるべき
に幸にして一方には熱誠なる同胞の同情あり救
助義捐の金額頗ぶる少なからず昨今の景况より
觀れば本縣に集まる金額は約二万五千圓に至る
へしと云へり果して然れは冷淡なる支出と熱誠
なる義金と合はせ毎戸の平均猶ほ八拾七圓餘に
過きず
尤も被害戸數の中、救助を要せざる者あり又救
助を望まざる者もある由なれば九拾圓以上には
上る可けれども百圓以上には達せさるべく略々
百圓位の者なきべき歟
漁船一艘を新造するにも五六拾圓は必要なるべ
きに百圓を以つて漁船の外住所(仮にもせよ)、
網罟、釜其他の漁具を整備せんは到底望むべき
にあらず、去れども他に支出の途なしとすれば
是非とも此百圓の範囲内に於て善後の計を立て
ざるを得ず、於此乎善後法の撰擇が更らに解を
要するの緊急問題となり來る
聞くが如くんば本縣當局者は聯合法を取り數戸
を聯合して漁具一式を設備せしめん考なりとか
、被害地には從來とも聯合所有の事行はれたる
事は余輩も之を聞けり太平洋の漁業が勞力の聯
合を要する者なるに於て聯合所有の行はヽもの
亦自然の結果にして當局者の考案も自ら善後の
一法なるべし
夫れ然り當局者の考案にして円滿に行るヽ者と
すれば余輩は必ずしも不可を鳴らさずと雖も、
更に一歩を進めて共有法を取らば實行容易にし
す効果著大なるべく思はる、共有法とは其部落
漁民の數に依りて漁具の數を配當し之を其部落
の共有として設備するを云ふ
聯合法若し當局者囑望の如く円滿に行はるヽに
於ては其結果は共有法と異ならざるべしと雖も
其円滿に行はるヽや否は特に未だ明ならず、若
或は行はれずとすれは各漁民が別々に有する百
圓は帶には短かくして善後の目的を誤まるの恐
大なる者あり、若し共有法を取れば毫も此の恐
を感ずることなかるべきにあらずや
聯合法に於て特に余輩の恐るヽ所は漁業の實行
に多數の時日を要せずやと云ふに在り、今若し
救助金を交附して漁業の再始を各漁民に一任す
るとせば漁具の設備に至るまで多く日數を要す
べし若し日數を要する事多くして漁期を消過す
れば縣の損失する所多からざるを得ず然れども
今若し之を共有と爲し郡衙或は村役塲をして急
速に設備せしむるとせば事立るに成るべし
然るが故に之を行ふ上に於ては聯合法の甚だ不
安心なるに反し共有法は頗ふる行ひ易すしと謂
ふなり
更に効果の大小を計較せん乎、今若し百圓の救
助金を各人に交附せば前債の弁償其他の事情よ
り困窮者は目的以外に之れを費消するの恐あり
四万圓の救助費の中著るしき部分は善後の効果
を収めさるへきに反し、之れを共有として其の
筋に於て之れを取扱ふ者とすれば今日四萬圓の
現金は明日四万圓の漁具等と爲り直ちに生産の
用に供して充分の効果を収むるを得べし此の故
に効果の上に於ても共有法は聯合法に優る事遠
く充分善後の目的を達せんには共有法を最良と
するが如し
猶ほ參考たるへき一事の豫想を要する者あり、
即ち四万圓に價する漁具が被害地近傍にて直ち
に購求し得べきや否と云ふに在り、網罟の如き
釜も如き又漁船の如き本來不便なる被害地に於
て刻下に購入し得さる事情ありとすれば如何、
此の塲合に於て個々人々に其設備を放任し去る
時は彼此の事情俄かに其整備を望み難く空しく
漁期を經尽する者多からんとするに反し其筋に
於て其設備に任ずる時は網の如き釜の如き近地
に於て得る能はずんば即時に遠地より取り寄す
るを得べく船大工なき時は他地方より古船を購
入するを得べく総べて事速かに行はるヽを得べ
きが如し
余輩は善後法の實施は急速なると同時に有効な
らん事を望むが故に聯合法よりは共有法の取る
べきを信ぜり當局者以て如何となす

    雜    報