●宮城縣海嘯被害者救護状况(續)
第二高等學校醫學科卒業受驗生 田澤 多吉
唐桑村大字小原本字舘は所謂山麓に位する小村
にして這回の被害を免れたるの地なり而して只
越と大澤の中央に位するを以て此二被害地の患
者を収容し得るの便を有す且茲處には洪龍寺な
る一小寺ありしを以て之れを假病院に充つる事
に决し住持龍山法師に謀り之れか準備をなした
り其間口七間半奥行六間の本堂を以て病室に充
て之れを二分して中央に手術室を設け其周囲は
天幕を匝らして之れを病室と區劃せり更に間口
二間奥行三間の小室を醫務室並調劑室に供し病
室と相隔離す手術臺は其設けあらさるを以て臨
時尋常小學校生徒用机を並列して之れを應用せ
り而して其準備整ふや器械藥品等の來着せるを
以て直に開院する事を得たり時正さに午后五時
なり
當赤十字社假病院附院長以下の職員は左の如し
院長 醫 學 士 神村 兼亮
院醫 醫學得業士 吉川 順吉
院醫兼器械主任 學 生 小野 純一
院醫 仝 斗ヶ澤彌吉
院醫兼報告主任 仝 田澤 多吉
院醫 仝 海上 仁壽
院醫 仝 遠藤 盛衛
院醫 仝 遠藤 泰助
事務員 宮城縣屬 佐武 雄平
其他院内兼務並宿直は交番之れを兼勤す
六月十九日午后五時開院す仝廿四日午后一時交
代院を去る其數日六日治療患者凡そ六十五名な
り之れを内外科に區別すれは内科的疾患に屬す
るもの十八名外科的疾患に屬するもの四十七名
なりとす而して外科的疾患の主なるものは擦過
傷、刺創、切創、外傷性筋痛、挫傷、裂傷皮下蜂
織炎等にして眼球 鞏 腫の溢血を起せるもの亦
尠からず其部位元とより一定せず其輕重亦一な
らずと雖も頬部の筋肉既に裂傷を受けて頬骨露
出せるものあり膝關節切創を受けて膝蓋骨の后
面に手指を挿内し得るものあり腰椎と薦骨との
關節捻挫傷を起して脊椎の后彎症を起せるもの
あり下腿及前膊の複雜骨折傷を起せるものあり
東部の甚しき挫傷を起せるものあり其他全身至
る所として擦過傷を受けたるものあり高度の蜂
織炎を起せるものありて茲に其詳細を記載す
る能はすと雖も其損傷の複雜なるとを以て見る
も其作用の單純性のものならさるを知る而して
患者初め微々たる疾患として之れを放任せるも
のも其時日を經久するに從ひ種々の續發症を合
併するに至れるものあるを見る而して其損傷部
を檢するに多くは化膿機を釀して腐敗臭紛々と
して鼻を衝けり之れ一は不潔なる物体に依りて
損傷を負へると一は醫士の乏せるに依り充分
なる處置を施し能はざりしに依ると雖とも該地
住民の風習として其損傷部に不潔なる草葉を貼
するか或は化膿を促すか如き賣藥を貼するある
を以て一層其化膿機を促せるものにあらざる乎
依て神村院長の指揮の下に成規の處置を施し腐
敗に傾けるものは之れを防腐洗滌し壞死組織は
之れを剪除する等のことをなし重症と認めしも
の悉く之れを入院せしむ殊に茲に特記すべきも
のは其骨折癒合機を誤りたるものに切斷術を施
せしに豫后佳良の結果を示せるにありき抑も切
斷術なるものは其防腐消毒を嚴重にせざれは往
々其癒合期を誤るものなり然るに余等は如斯き
不完全なる手術室に於て之れを施せしに關らず
茲に佳良の豫后を示すに至れる所以のものは轉
た歡喜に堪へざるなり又内科的疾患として主な
るものを示せは高度の氣管枝加答兒を患ふるも
の最も多く殆んと其半數を占む之れに次くに膓
加答兒、腦充血、外 傷 性肝臟炎等にして胸膜
炎、異物性肺炎等は比較的少數なりし而して肝
臟炎、肺炎等は其豫后不良なるものに屬せり斯
く氣管枝加答兒の多數なる其海水に濕潤せられ
幸ひに助命せられたるものも着るに衣なく入る
に家なきに依るものなり而して胸膜炎、肺炎の
少きは尚ほ一考すべき事なり即ち胸膜炎は濕潤
、感冒、打撲に依りて之れを發し異物性肺炎は
海水吸入に依りて之れを起して可なるの原因存
するも其患者の茲に至らざる所以のものは其海
水吸入若くは打撲の甚しからざるものヽみ助命
せられたるに依るならん乎而して本院重症と認
め入院を命したるもの内外科通して廿九名なり
しに漸次輕快して通院に變せしもの亦尠からず
又重症にして尚ほ數日の經過を見るにあらされ
は其豫后を定め難きもの數名ありき然れとも概
して其豫后佳良に屬し開院以來不幸の轉歸を取
りしもの三名にして共に初期より其豫后上に疑
ひを措けるものなり而して其疾病の經過を見る
は一は患者の爲め一は學術上の爲め緊要なりし
と雖とも余等身は學界にあるものなれは元とよ
り意の如くならずして遂に六月廿四日を以て交
代引上ぐる事となりぬ (未完)
●梅雨の季節に就て
支那にて立夏の後庚の日
に逢ふを以て入梅と爲し芒種(五月の節)の後壬
に逢ふを以て出梅とすとの説あれど日本にては
或は土用の入を以て出梅なりと云ひ或は入梅後
初めての雷鳴を以て梅雨の終となし出梅に於け
る一定の説あるなし今中央氣象臺員の語る所を
聞くに毎年晩春より夏季に掛け南方の海より北
方に向て濕氣を送り來れど晩者則ち六月十二三
日頃より七月十一二日頃に至る凡そ一ヶ月間は
陸地の温度高からざる故之を蒸發せしむるの力
なく氣壓も不活にして自然雨を結び易く又た
陰鬱なる天氣多きなり氣象學にては此間を以て
梅雨の季節とは爲せど確乎たる入梅なるものヽ
なければ出梅なるものもなし本年の梅雨は其中
頃より末にかけ雨量多かりしも全体より云へば
例年に比し雨量多しと云ふべからず昨今の温度
は例年よりは華氏にて四度許り降り居れど是亦
た異常と云ふ可らざれバ葫爪の莖の腐りたるな
ど若し本年の農作物に多少の害ありしとすれば
彼の一時雨量多かりしに由るならんが本年は最
早梅雨の季節を經過して夏季に向ひたりと云ふ
を得べく此後陰鬱なる天氣は概して之あらざる
べければ今後の氣候に就ては憂慮するに足らざ
るべしと云々
●慈善義太夫會
當地の義太夫會にては一昨日
午後五時頃より鹽町萬歳座に於て慈善義太夫會
を開かれしが當日の聽衆は殆んと四百名に上り
たりと云ふ因に記す仝會は當地に於て閉會の上
は油川に於て又た々々慈善會を催さるヽ由
●三陸海嘯死亡追吊會
昨日午後より明日まで
三日間當地新町安定寺に於て三陸海嘯罹災死亡
者の追吊會を執行する由
●土用の入り
本日午後二時五十七分
●昨日の天候
午前十時觀測温度七十度九最低
六十五度一北方の軟風曇天
商 報
本 社 取 扱 大 海 嘯 罹 災 救 助 義 金
一金貳拾錢 北津輕郡藤枝尋常小學校
職員 千葉富士太郎
一金拾錢 北津輕郡金木村大字藤枝 千葉 ひさ
一金五拾六錢五厘 中津輕郡小友尋常小學校
生 徒 一 同
一金拾錢 葛西重三郎
計金九拾六錢五厘
通計金五百五拾圓八拾六錢參厘
内 譯 四百六拾七圓貳拾六錢參厘 本 縣
四拾圓八拾錢 宮城縣
四拾貳圓八拾錢 岩手縣
再正誤
去ル九日 金五圓 神宮敎弘前本部ト正誤候處
右ハ弘前取次所ノ調達■出候モノニシテ七日掲
載ノ通リ金參圓ニ有之候ニテ茲ニ改メテ正誤ス
本社募集ハ來ル二十日ヲ限リ〆切