●宮城縣海嘯被害者救護状况(續)
第二高等學校醫學科卒業受驗生 田澤 多吉
本吉郡唐桑村大字小原字舘は氣仙沼町を東北方
に距る四里許の海濱にして氣仙沼町より之れに
到るの途二あり其一は峻嶮なる山道を取ると一
は船に依りて海路を取るにあり而して余等一行
は海路を取るの必要あると且つ便船ありしを以
て之れに依る事となせり午前十時五十分唐桑村
字宿假病院附の一行と共に氣仙沼町を發す灣を
出づるや海水に浸されたる家屋根の奪はれたる
家など散見す思はす嗚呼ヒドイなる言を發す■
夫曰如斯きものは微々たるのみとの一言にて既
に戰慄せしむ船は一進一行眼底に映するものは
唯慘状!水中に家の建てるの不思議さよ否な彼
れは屋根のみ流れ來れるものにてありき船夫曰
彼の中にも幾多の死体あらん然れとも之れを片
附くるの人夫なきを如何せん唯眼底に映する茫
たる海濱然れとも尚ほ二三の人の何か堀起する
状あり船夫曰彼は袖濱とて八戸の家屋ありしも
今や其跡片もなしと噫無慘なる哉視るもの聞く
もの一として悲慘ならざるなし人間悲痛の極は
如斯きもの乎而して氣仙沼町を西に距る二里許
なる鮪立濱に上陸せしは正さに十二時五十分な
りし
鮪立濱は四十戸の流失家屋と七十一人の死亡者
を有する慘况を呈するを見る之れより宿並に舘
に向はれとするには陸路を取らざるべからず其
舘に達するには大凡二里半の行程を有す此地山
又山坂又坂途狭ふして凹凸常ならざる松果に類
し加ふるに炎熱爍すか如く肌を徹し流汗漓々と
して衣裳は爲めに絞るに足り若し余等感冒に侵
さるれは之れ屈竟の發汗劑なりしならんと昨日
來徹夜歩行の事なれは身体爲めに力なく實に言
ふべからさるの苦境に入れり然れとも海嘯被害
者に比すれは幾何の幸運よと自ら鼓舞して葉山
と稱する峻坂を越へ宿赤十字社假病院に着せし
は正さに午后一時三十分なり茲に暫時休憩午餐
を喫し同行の救護員四名を依托し午后二時同地
を發す尚を同病院より先輩醫學得業士吉川順吉
氏余等一行に加はりて其案内をなせり依て此行
醫士二名救護員六名なり而して其途亦山又山然
れとも之れ豫期せし所なれは敢て之れか爲めに
其素志を沮喪する事なく速に豫定地に達して被
害者を救療せんとするの心勃然たれハ其苦痛は
左まて覺えず沿道馬塲濱に到る唯眼に映するも
のは漠たる海濱のみ六戸の流失家屋と三十七名
の死亡者ありと聞き心窃かに惻然たり而して一
丈許の周徑を有する松樹根抜きの儘にて海濱よ
り數町陸上に壓流せられたるを見ても其慘状の
如何なりしやを想像するに足る之れより更らに
石濱を經て流失家屋十五戸死亡者九十三名との
事を聞くも轉た酸鼻に堪へざりしに壓潰家屋の
内に今尚ほ死体累々たるも誰一人氣附くるもの
なく爲めに腐敗に傾きて一種言ふべからざる臭
氣を放ちには此地を踏むものヽ一驚を喫せざる
ものなし嗚呼眞の酸鼻とは如斯きものを言ふ乎
余等學術上幾多の死体は之れを解剖せり然れと
も斯如き惡臭は未た接せざる所なりし夫れより
只越濱に達せしは午后三時なりき此地這回被害
の最も慘状を極めたるの地にして全村五十八戸
悉く流失し今や茫々たる海濱を殘すのみ死亡者
二百二十三名斃馬三十三頭生者僅に三四十名亦
皆負傷者ならざるなし嗚呼慘絶!悽絶!壓潰家
屋の内に今尚ほ死体の存するあるも之れを片附
くる人なしとは左ても酸鼻の極なりし其海上を
望めは無數の材木家屋の破潰に係るもの山をな
すか如く集れるものあるも絶へて之れを引上ぐ
る人もなし死体は其材木の下側に累々たるも誰
あつて之れを取上ぐる人なきは生者の悉く負傷
して唯茫然自失するに依る而して余等の此村に
到りし當日は正さに被害后五日目なりしに死体
の發見せられしもの僅に三分の一のみと嗚呼悲
劇の極!唯幸に被害を免れたるものは當日氣仙
沼町に於ける招魂祭に詣りて歸村せざる二三の
人のみと兎まれ余等の一行は負傷者救療の爲め
該地に派遣せられたるものなれは其駐在警官に
逢ひ其來由を談し患者の有無を問ふ警官曰く當
地には患者僅に二名敢て病院設立の必要を見ざ
るへしと於此余等大に自失せり何となれは如斯
く慘状を極むるの地に於て其負傷僅に二名とは
甚た疑點を有する所にして盖し得る所ありて余
等を騙するものにあらざるかと且此地の住民朦
昧にして日進の醫術に依り其手術せらるヽを忌
み唯た姑息的に草葉又は賣藥を貼して滿足し轉
た負傷を隱蔽するものヽ如し愚も亦甚し加ふる
に病院設立に至らは警官の事務亦多忙なるを以
て專ら患者の意に從ひ其疾患隱蔽の非を覺らし
めざるものヽ如し嗚呼之を以て警官の任務を盡
せりと言ふべき乎然れとも余等思らく豈唯獨り
此地のみに存せんや必すや其豫定地に假病院を
設立し其救護の任務を盡さは患者自ら來集せん
と直ちに其豫定地なる舘に向ふ然るに余等一行
の救護員たるを知るや直ちに其患者のあるを告
げ之れか治療を乞ひ來るものあり一行大に望を
属し該患者を假病院に送られんことを命して去
る且つ同行者吉川氏は該地方の産なれば自ら率
先して其疾患隱蔽の非を論し行々其來診せらる
べきを促せり依て余等一行は該地有名の只越の
峻坂を超え其豫定地なる舘洪龍寺に着す來り診
を乞ふもの十二名に達せり時正さに午后四時二
十分なりし然るに該地山道にして交通甚た不便
なりしを以て器械藥品の運搬容易ならず之れか
爲め其來着を遅延せり (未完)
●鰯の群來
下北郡大畑附近にては四五日以前
より鰯の群來にて漁民の喜び一方ならず又上北
郡百石沖合にも随分群來居る由
●某棏員に就て
去る十二日の本紙上に於て某
棏員ありと題して記載したる事實は本縣師範學
校某訓導の所爲なる旨次號の本紙に於て正誤し
置かれしか某訓導とは乃ち成田三千郎氏なる由
今同氏ヨリの申込みによれば同氏は最初より慈善
音樂幻燈會の入塲券を買ひしものにあらざれば
自分勝手に雨天の爲めに參會せずして不用とな
りたる爲め一旦買求したるものを返戻して料金
を請求するが如き其んな物の分らぬ事は爲さヾ
る由にて元來此の事たるや發起人より賛成を求
めて入塲券を廻し來れる當時より既に不用なり
とて斷然拒絶し置きたるにも拘はらず入塲券は
同氏の處に廻はされたり其後同校各職員にして
同會の主旨に賛成したる人々が取纏めて右入塲
料を支拂ふ際成田氏に此かる事情ありとも知ら
ず北畠書記に於て立替支拂らひ置き呉れたるを
成田氏は之を聞きて最初より不用としたる入塲
券に對して料金を支拂ふ所以なしと遂に右入塲
券を戻し發起人に談判して五錢の入塲料を取返
したるものなりと云ふ
●鮑漁の停止と鮑の騰貴
三陸地方の海嘯に依
り海外向海産物稍や引締らんとするの際北海道
の鮑漁は例年の如く本月より三箇月間禁止され
たるより横濱にては干鮑の入荷極めて少く相塲
は大上物六十五六弗の次物五十六七弗の珍直を
顯したるに在荷は僅に八十俵内外に過ぎされは
目先尚高模樣なりといふ
本 社 取 扱 大 海 嘯 罹 災 救 助 義 金
一金壹圓 野邊地村大字馬門 横濱 平治
一金五拾錢 仝 村大字野邊地 川村 福松
一金參拾錢 以下同シ 野坂平左衛門
一金參拾錢 近藤 禮助
一金貳拾錢 木津與兵衞
一金貳拾錢 野村恒三郎
一金貳拾錢 西村 安造
一金貳拾錢 霞 武藏
一金貳拾錢 船木 卯吉
一金貳拾錢 四戸 長助
一金貳拾錢 大橋常太郎
一金貳拾錢 山口彦之助
一金貳拾錢 大山 音松
一金拾錢 加藤幸太郎
一金拾錢 泉澤 傳藏
一金拾錢 角鹿 和吉
一金拾錢 野坂元太郎
一金拾錢 田島 彦吉
一金拾錢 田中 重助
一金拾錢 近藤 菊松
一金拾錢 田島 弁治
一金拾錢 田中 弘策
一金拾錢 中村德次郎
一金拾錢 角鹿千太郎
一金拾錢 若山 松藏
一金拾錢 菊池富三郎
一金拾錢 桑野幸太郎
一金拾錢 佐々木喜代治
一金拾錢 横濱 丑松
一金拾錢 佐藤 梅吉
一金拾錢 間海善五郎
一金拾錢 野坂 丑松
一金拾錢 大橋 三太
一金拾錢 喜田川芳太郎
一金拾錢 若山金太郎
一金拾錢 大橋定五郎
一金拾錢 藤川 兼吉
一金拾錢 中村 きよ
一金拾錢 飯田善五郎
一金拾錢 杉山 福松
一金拾錢 木村嘉代吉
一金拾錢 角鹿 金助
一金拾錢 野坂留之助
一金拾錢 高島 健治
一金拾錢 平尾 長太
一金拾錢 山口久太郎
一金拾錢 片石 惣吉
一金拾錢 上野■太郎
一金拾錢 秋田 寅吉
一金拾錢 小坂 次郎
一金拾錢 目時 政吉
一金拾錢 鋤柄伴之進
一金拾錢 柏葉紋之助
一金拾錢 野坂 富助
一金拾錢 横濱長次郎
一金拾錢 安田友太郎
一金拾錢 川口專太郎
一金拾錢 關 市太郎
一金拾錢 角鹿喜三郎
一金拾錢 遠田喜八郎
一金拾錢 玉川 松藏
一金拾錢 角鹿淸兵衛
一金拾錢 田中末次郎
一金拾錢 川村善之助
一金拾錢 鎌澤 万藏
一金拾錢 佐々木源作
一金拾錢 中村 熊藏
一金拾錢 相内松太郎
一金拾錢 奥寺保太郎
一金拾錢 高橋傳次郎
一金拾錢 濱田市太郎
一金拾錢 畑口時太郎
一金拾錢 小川岩次郎
一金拾錢 木村吉五郎
一金拾錢 福田 榮吉
一金拾錢 川村 賢
一金拾錢 阿部 良吉
一金拾錢 武石 みり
一金拾錢 木村 榮八
一金拾錢 田中 文助
一金拾錢 備前 久藏
一金拾錢 瀧野石太郎
一金拾錢 立花元次郎
一金拾錢 黑岡 山藏
一金拾錢 川村 武
一金拾錢 立花理三郎
一金拾錢 西村 由松
一金拾錢 野坂直次郎
一金拾錢 河野 直道
一金參拾錢 賴森新町 今村良太郎
一金貳拾錢 弘前市新寺町稻荷神社々掌山邊 稲城
一金七拾八錢 中津輕郡相馬村大字坂市
三上寅之助 外二十一名
一金拾五錢 同郡同村大字黑瀧山山内 みつ
一金參拾六錢 同 山内多次郎 外十一名
一金貳圓貳拾六錢 中津輕郡駒越、鳥井野、兼平、
町田尋常小學校職員生徒一同
一金貳拾錢 八戸本徒士町 赤澤 旗郎
一金參圓 賴森眞宗法義講中
内 壹圓 本縣 ・ 壹圓 宮城 ・ 壹圓 岩手
一金貳圓 賴森眞宗平常講中
内 壹圓 本縣・五拾錢 宮城・五拾錢 岩手
一金貳圓 東津輕郡奥内尋常小學校
職員及生徒百三人
一金壹圓拾錢 仝郡 三内尋常小學校職員生徒
計金貳拾參圓九拾錢
通計金五百五拾壹圓八拾九錢八厘
内譯 金四百六拾八圓貳拾九錢八厘 本 縣
金四拾圓八拾錢 宮城縣
金四拾貳圓八拾錢 岩手縣
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