志 士 仁 人 に 訴 ふ
今回の慘害に就ては余輩は報道に於て遺憾なか
らん事を■め初めは被害地の特信に依り後には
視察員の通信に依り尤も詳細に報道の任を尽し
たるは讀者の■■諒せらるヽ所なるを信ず伹だ
夫れ言は以て意を尽すに足らずをは以て言を尽
すに足らず況んや余輩特に筆華に乏しきおや悲
絶凄絶の實况も之れを筆端に上ぼすに至つて眞
趣索然として消失し讀者の心眼■事の實相を■
然たらしむる能はず乃ち憮然として筆を投じ自
ら不才を怨みたる事なりき
想ふに慧敏なる讀者は本紙の記事が力を極め筆
を極めたる塲合に於ても猶ほ實相萬の一を尽さ
ヾるを洞見し寸を量りて丈を推す所あり凄絶の
實况をして其慈眼に躍如たらしめ惻隱の心を動
かして救助の事を念とせらるヽ者あるを疑はず
と雖も余輩は余輩の筆紙尽さヽるを■念する毎
に自ら深く遺憾とするのみならず數千に上ぼる
多數の讀者中或は恕察の德をき慘况を推想す
るに於て充分ならさるものあるかを危懼するの
情に堪へず是れ盖し過當の危懼たるへしと雖も
本來言意を尽す能はざるの紙筆を事とする者は
何人と雖も此類の危懼を感せざる者なかるべし
況んや余輩文才に乏しき者に於て危懼の念特に
深きもの當然の事として之れを措かれ唯た讀者
は必す深く推想を精緻にし明らかに實相を恕察
し慈善の德行に於て後悔を遺さヾるを要すべし
、事後其慘禍の意外に慘なりしを發見するも時
既に去りて其慈心を揮ふべきなきに遭はヾ讀者
の殘懷如何ぞや、是れ余輩が此所に余輩の不才
を悔ふると共に讀者の精察を警告する所以なり
余輩筆紙を以てして慘禍の實相を尽す能はざる
を自認すと雖も足既に其地を踏み眼既に其人を
觀たるに於て實相は明らかに心眼に在り事毎に
其慘状を聯想するを脱かれず、一度彼の被害者
なるものヽ衣なく食なく住なく器具なく機械な
き慘状を想起する時は更に斷膓に堪へさるなり
、此の兩三日間強雨の續降に就ても彼等が數枚
の藁蓆を以て蔽ひ數枚の藁蓆を敷きたる原野中
の丸小屋に如何にして棲息し居る乎、彼等が困
頓して襤褸一枚のまヽ臥したる際に無情なる雨
滴が襲はざりしや、唯一枚の襤褸の外に一点の
衣類もなき彼等は雨滴の襤褸を着たるまヽ雨天
の冷濕と太洋の冷風とに苦まざりし乎、冷暑風
雨、二六時中、彼等の窮苦は决して實地視察者
の念頭を去る能はざるなり、惻隱の心を以て彼
等の現状と四時の變を對比する時は思ひ半に過
ぐる者あらん、余輩は世間の志士仁人、更に奮
つて窮■の救助に奮勵せられん事を切望に堪へ
さるなり
余輩先きに既に救助義捐募集の事に從ひヽあり
と雖も此頃實地に臨み親しく慘態を視ては悲愴
の感特に甚だしきものあり、抑ゑんと欲して禁
ずる能はざるが故に又此の催告ある所以なり
世間慈仁博愛の士、願くは相共に廣く勸誘し、
便に順つて同胞困窮者の拯救に勉められん事を
●東 園 侍 從
昨日岩手種市へ到着本日より本縣被害地を巡回
の筈
●國庫に請求し得べき罹災救助 の補助金額に就て
府縣が管下の罹災人民を救助せんには其府縣が
有する備荒貯蓄金より金額の五分の一を支出し
其以上必要の不足分は國庫の補助を請求し得べ
き定めなるが政府の貯蓄金支出の最上限と各府
縣の救助金最上限とは同一ならず規則を以て救
助金の極限を低く定めある府縣は夫に準じて國
庫えの請求額も少なからざるを得ざる事となり
居る次第なるが平時に於ては地方税の增加を慮
かり救助の極限を成るべく低く定むるを各府縣
の■■とする所にして固より人情の然るべき所
なるが偖て突然今回海嘯の如き大災害あるに際
しては罹災府縣は國庫に請求し得べき最多額を
得んと欲すべく政府も成るたけは救助の手を伸
べんと欲すれども既に府縣に救助規則ある上ハ
其規則に準據せざるを得ざる譯にして變災の塲
合には從前の規則を急に改正するか又は特別に
規則を造らざるを得ず甚だ手數なれとも事体止
むを得ざる次第なるが本縣抔も此の際夫々の手
續を尽くし國庫より應分の補助金を請求すべき
取運び中なりと云ふ
而して本縣に於ける現在の貯蓄金額は十九万六
千九百六十三圓三錢二厘にして此の百分の五は
九千八百四十八圓十五錢二厘なり此の中五千三
百六圓八十四錢一厘は海嘯以外に支出の必要定
まり居る者にして殘額四千五百四十一圓三十一
錢一厘のみが今回の海嘯に救助金として支出し
得べき分なり
然る所に本縣の救助規則に依つて海嘯被害に對
する救助金額を計算すれば総金六千二百八十四
圓三十六錢一厘にして此内より前記四千五百餘
圓の本縣支出額を差引くときは國庫に請求し得
べき金額は僅かに一千七百四十三圓五錢に過き
ず斯る少額にては救助上甚だ不充分なる事弁を
待たず
依つて更に貯蓄法に依り規則に定め得べき極限
に依り計算するに総金額は一万九百七十圓六十
三錢四厘となり此の内本縣の支出殘金四千五百
餘圓を減ずれば乃ち差引六千四百二十九圓三十
二錢三厘にして此の金額の補助を國庫に請求し
得べき者となる縣廳は此の金額を引き出し得る
樣に取運ぶならんと云へり
尤も右は備荒貯蓄法に依る分にして農具■小屋
掛料等專ら地上に關する分なれば船舶漁具の流
失等規則外不慮の大損害も之を打捨て置くべき
謂れなきを以て別に救助方を縣にても講すべく
政府にも要求せざる可らずとなり
●海 嘯 の 善 後 策
先年濃尾震災の當時政府は緊急勅令を發して豫
備金を支出し以て事後承諾を求めたるに自由、
改進兩黨は憲法違反として其承諾を與へざりし
ことは猶世人の耳目に炳焉たる所なり今回三陸
海嘯の被害に就ては政府は如何に其善後を策せ
んとするか、聞く進歩黨は政府をして緊急勅令
を發せしめず直に臨時議會召集の請求を爲すに
决したり自由黨は其総理たりし板垣伯今や嘯害
地にあるを以て其果して進歩黨と同一意見なる
か將た政府の前轍に倣はんとするか豫じめ之を
知る可らざるも既に實例のある事なれば假令板
垣伯内務大臣たればとて當初の意見を翻へすが
如き事萬々なかるべく内閣も亦愛岐震災當時の
内閣にあらざれば無論臨時議會を召集せらるべ
くも今後政府及び自由黨の擧止は頗る注目すべ
き者なるに依り進歩、國民兩派の諸氏皆其形勢
を窺ひ居れり
●小澤男爵
日本赤十字社幹事男爵小澤武雄氏
は社員打越光吉氏を随へ昨日一列車にて仙台に
出發したるか直に赤十字福嶋縣支部總會に臨ま
れ夫れより新潟縣に趣かるヽ筈なりと
●大津代議士の來靑
進歩黨代議士大津淳一郎
氏は海嘯被害地視察の爲め一昨日岩手縣より來
靑濱町鹽谷方に滯在
●収税長歸る
本縣収税長藤堂景泰氏は昨日被
害地より歸廳したり
●松本警務課長
東園侍從先導の爲め昨日終列
車にて被害地へ向け出發
●平出縣屬の出張
嘯害地へ出張中なる縣屬平
出正氏は一昨日歸廳したるが日本赤十字社群馬
縣支部より本縣に寄送せられたる繃帶を携へ本
日又た々々百石其他各被害地に向け出張の筈
●第二豫備金の現在
本年度第二豫備金は今日
迄獸疫及ペスト豫防費其他に 第一回及第二回
の支出ありしのみなれば其金額は兩度にて僅か
に十萬六百餘圓にて尚八十九萬九千餘圓現在し
居れりと云ふ
●豫備金及剰餘金の支出
三陸地方被害民救助
に要する經費は地方及中央備荒儲蓄金を以て刻
下の急に應じ居れども到底是等備荒儲蓄金のみ
にて救助の行届くべきにあらざれば尚ほ被害の
實况并に救助及補助の程度等内務大臣に於て充
分調査の上第二豫備金若くは國庫剰餘金の支出
を請求する都合なりと云ふ
●嘯害地兵士の臨時休暇
大山陸軍大臣は去二
十七日を以て宮城、岩手、靑森三縣下海嘯被害
地より入隊の下士卒にして親族亡失等の事情に
依り休暇規則に據て出願し難き者は此際に限り
特に本人の願に依り往復を除き二週日以内の休
暇を許可する事を得と達示せり
●北海道海嘯被害
渡島國龜田郡に於ける海嘯
被害の状况左の如しと
龜田郡戸井、小安兩村は去月十五日早朝より
天候朦朧として時々降雨寒暖計華氏五■七度
を昇降し海面は異状を現さヾりしも同日午後
九時に至り俄然海嘯起り村民海濱に出で防禦
に盡力せしも汐波のため凡そ三十分時にして
小安村は家屋一戸破壞同三戸浸水漁船三十四
艘及橋梁一箇流失戸井村は漁船六隻流失其他
陸上に打揚げたるもの亦■からず但し人畜に
異状なし
●救恤寄贈物品の種類
罹災地一般に副食物缺
乏し罹災民は勿論他の人民も鹽すら嘗むる事六
かしければ梅干漬物味噌乾物等皆賑恤の必要あ
り而して日用器具一物もなきことなれば燒かず
して食するものを要す次に患者用の滋養物も必
要なり皆營養非常に乏しきを以て左程の大患な
らざるも容易に治癒せず次に生計恢復の爲め漁
船は漁具の必要亦急なり其種類左の如し
各種漁具漁網釣鈎○網地網絲浮子沈子麻等の
製作原料網製作に要する器具○漁業用衣類餌
料容器等
●嘯害救恤慈善會(二日目)
弘前柾木座に於て
開催の同會は去る三十日には音樂幻燈其他とも
前夜より一層面白き趣向ありし由にて演説には
高杉良弘氏出席したるより同晩の入塲者は大凡
七八百名ばかり収入金額は十六円四十錢八厘な
りしと尚ほ同會に對し米國人スワルツ氏より金
五圓の寄附ありたる由にて是れに前夜の収入金
を加ふれば四拾餘圓なるべく發起人よりも夫々
寄附あり都合五十餘圓とし罹災救助金に充つる
筈なりと
●第二師團の義捐
乃木師團長より第二師管現
役將校諸氏の海嘯被害者救助金なりとて岩手縣
(四百圓)、 宮城縣(二百五十圓)、 靑森縣 (百六
十圓) に見舞状を添へ右三縣知事へ送附されし
といふ
●縣廳取扱の義捐金
一昨日まてに八千三百五
十九圓二十七錢五厘
●八戸護身會の義捐
同會は八戸町大■窪町に
在り主として柔劔術を講習し体育の發達を希圖
し一朝有事の時に際して國恩の万分一を報せん
と所謂護國護身の目的を以て昨年四月創設せら
れしものなるが爾來日猶ほ淺きにも拘はらす會
長鈴木好吉氏の勵精なると教授藤田順次郎氏の
熱心なるを以て目下八戸町及小中野湊白銀鮫港
等の靑年輩無慮數十名の會隱を有し日夜技術錬
磨に餘念なき由なるが今回本社に於て大海嘯遭
難救助金を募集の擧あるや同會員奮つて義捐を
爲し今回救助義捐金八戸取扱所靑霞堂の手を經
て金拾五圓を寄贈せられたり
●手拭藥品の寄贈
愛知縣幡豆郡吉田村西福寺
住職山本勝叡氏は手拭五十筋を本縣罹災用とし
て寄贈し、三河國額田郡岡崎町大字菅生安藤斷
鋒氏は藥百挺寄附し來れり
● 不 明
は本縣へ三十円■フランスス氏は本縣へ十七圓
宮城岩手兩縣へ■六円五十錢つヽ義捐の義昨日
當地のチャペル■の手を經て町役塲に差出せり
●時習舘の義捐
北津輕郡板柳村時習舘は同地
方靑年の氣風を養成し智識交換を目的とし居る
地方唯一の好團体なるが今回の海嘯罹災民の救
助にもとて金五圓を本社に送り來れり
●板柳小學校の義捐
北津輕郡板柳尋常高等小
學校職員及生徒一同は本縣嘯害罹災民救恤義金
四圓四拾一錢五厘を本社に依賴し來れり
●小學校生徒の義捐
靑森高等小學校生徒一同
は十一円四十五錢三厘仝新町尋常小學校生徒一
同は十一圓五十錢四厘都合二十二円九十五錢七
厘昨日町役塲に差出せり
●旅店番頭の義捐
當地旅店番頭一同の設置し
居れる共和組にても今回の海嘯に就き義捐を爲
さんとて同組頭取山田貞三郎氏は尽力し居る由
●石井省一郎氏
錦鷄間祇■石井省一郎氏は一
昨日岩手海嘯被害地より來靑大町中島方滯在