火と水の中から 生れた國際美談 三陸震災哀話の一つ
【石巻發】宮城縣桃生郡十五濱村
雄勝濱の鈴木求(三五)さん方では一
家七名が 溺死しました 「津浪だ
あ……」との聲を聞いた時はすで
に屋内に水が奔入しましたので家
族九名が二階に避難し
求さんの母きよの(六二)妻とめ
子(三一)妹とみ子(二五)さん達
がてんでに長女きい子(七つ)次
女とき子(四つ)長男勉(二つ)を
背負つて妹たま(三〇)と共に二
階の隅に互に抱き合つてゐるう
ちお家は海中に流れ出ました
津浪の音凄い暗の海上をお家とい
つしよに 流れ行く お子さん達は
「早くとうちやんかあちやん助け
て……」と背中から泣き叫びまし
た、父の求さんと弟武志さん(一九)
はやにはに屋根を破つてをどり出
て「今助けるから少し待て!」と
いひながらざんぶと海中に飛びこ
み息も絶え々々に岸に泳ぎつきま
した、しかしきい子さん達七人を
乘せたお家はそのまヽ沖へ々々と
流れ去つてその日の午後三時頃一
カイリも沖の小濱海岸で捜索船に
發見され消防夫が屋根を破つてを
どり込んだ時は七人とも固くだき
合つて死んでをりました
廖 」
やはりその時のお話し──求さん
の二階に間借りをしてゐた中華民
國人■恒仁(四六)さんも隣部屋で救
ひを求めながら流されて行きまし
たが屋根に躍り出た求さん兄弟は
兩手から血を出して屋根瓦をはぎ
取りやつと■さんを屋根上に救ひ
あげました、しかし■さんは泳ぎ
を知らず屋根にしがみついたまヽ
漂流中桃丸に救助されたのです
身の危急を忘れて異國の人を救
つたこの心こそ日本男子の華と
も申すべきでこの遭難談は六日
同地へ御差遣の大金侍從に直接
求さん兄弟から申し上げました
廖 」
かうした悲しい災難で父母兄姉
を失つた氣の毒な坊ちやん嬢ち
やんは今回部落の天雄寺に臨時
に開設された託兒所でおにぎり
などを戴きながら寒さにふるへ
てゐます