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  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  岩 手 縣 下 の 被 害 甚 大 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  無 人 の 釜 石 遂 に 出 火    既 に 三 百 戸 を 燒 き      遂に一千二百戸流失す

【釜石發】岩手縣釜石地方では三日午前三時地震についで
   ひきはじめたので沿岸民は裏山に續々避難しはじ
めたが三時五分ごろ大音響とともに海水が押寄せたため
   電燈線は切斷し釜石海岸通りは暗黑となり床下三
尺の海水が押寄せたので半鐘を鳴らして警報した、約五
   分間で海水はひきはじめたが避難民は襦袢一枚で
逃げまどつた
【盛岡發】釜石町只越に火災起りたるも町民は裏山に避難
   したるため火災は鎭火の見込なく目下延燒しつヽ
あり釜石港は人口二萬三千、戸數約五千、本邦唯一の大
   鐵山を擁し、棧橋には三千トン級の船數隻が横づ
けでき漁船の出入も頗る多い
【中央氣象台著電】釜石では千二百戸流失、三百戸燒失し
   た旨午前六時半通報があつた
 發 動 機 船 廿 數 隻 流 失 す
【盛岡發】岩手縣宮古町では地震と共に電線が切斷され海
   岸通りは海嘯が襲來すると騒ぎたて群衆は下閉伊
支廳の前に押し寄せ、かヾり火をたいて避難してゐる、
   午前三時頃に至り一度大浪が襲來し、沿岸につな
いであつた發動機船數隻は流失、漁具等も多數大浪にさ
   らはれた、同町の古老の話では明治廿九年の三陸
地方の海嘯の時よりも地震が大きく地方民は恟々として
   ゐる
【盛岡發】岩手縣宮古町は地震とヽもに怒濤押寄せ町の中
   央を貫流する宮古川を遡つて一丈余の海嘯が押寄
せ宮古川に繋留してあつた發動機船二十數隻は全部流失
   、宮古、山田間をつなぐ宮古橋(長さ百間)は中央
から陷落し交通杜絶した、なほ午前五時に至るも電燈は
    つかず町民は闇の中を悲鳴をあげつヽ役塲の裏
山に避難をつヾけてゐる
【盛岡發】宮古の浸水は鍬ヶ崎、上町、新川町、藤原區、
    磯鶏村海岸一帶約三百戸床上浸水、宮古測候所
下の豐臣久光(四〇)宅は流され同人は行方不明となつて
    ゐる
  濡れ鼠で暗黑の中を避難

(続き)

【盛岡發】岩手縣氣仙郡大船渡町は地震と同時に沖合遙か
    に大鳴動が起り一時に六尺余の海嘯が押寄せ三
時まで少しも引かず同町の赤澤、野田茶屋前、笹ヶ崎、
    長澤、平、下船渡など二百數十戸に浸水、町民
はいづれも悲鳴をあげて戸外に飛び出したが押し流され
    たものもあり町の道路内に海岸からの小舟が流
れ込み町民はこれを避けていづれも濡れ鼠で裏山に逃げ
    出し火を焚いて水の引けるのを待つてゐるが午
前五時に至り幾分水を呈して來た
【盛岡發】岩手縣氣仙郡大船渡町に三日午前三時ごろ海嘯
    が押寄せ道路四尺、床上三尺浸水し同町大船渡
郵便局は浸水二尺に達し熟睡中の町民はいづれも着のみ
    着のまヽで子供をつれ泣きわめきながら裏山に
避難してゐるが相當被害ある見込である
【盛岡發】地震と同時に二戸、九戸、氣仙三郡を除くほか
    縣下全部電燈が消え時計の振子は止まり下閉伊
、上閉伊、氣仙三郡は海水五尺膨脹、釜石方面の警察電
    話は不通となつた
  二 ヶ 所 で 四 百 戸 倒 壞
【盛岡發】岩手縣下閉伊郡山田町川向區南町區境田區は地
    震と同時に海嘯が押寄せ大槌電氣會社山田支店
をはじめ海岸に面した約三百戸はいづれも倒壞した、又
    同郡船越村田野濱部落は約百戸破壞された
大煙突倒壞【盛岡發】盛岡地方は地震の最中電燈線
    切斷され暗黑となり、何れも戸外に飛び出し避
難したが電燈は約丗分の後點燈された、盛岡驛待合室付
    近の大煙突が倒壞、待合室の屋根を大破した

 各 地 の 模 樣 秋田 廿年ぶりの強震

【秋田發】 三日午前二
時卅二分秋田地方に近年に例のな
い強震あり時計の振子が止まり商
店などの棚の物はガラ々々落ちる
といふ騒ぎで凍えるような風雪の
暗夜に市民は飛び出して、極度の
恐怖に襲はれたが約二分間で漸く
しづまつた
 この強震は 秋田 全縣に及び大
 館、能代、土崎、本庄、大曲、
 横手、各地も同樣で大正三年以
 來の強震である
仙 台  【仙台發】仙台測候
所では地震につき次の如く發表し

 發震時午前二時卅一分廿秒、初
 期微動廿五秒、最大震幅廿二ミ
 リ、有■■■■■間四分間、震
 源地は仙台を隔る六十里の金華
 山沖の海底
岩 手 【盛岡發】岩手縣下
を襲つた地震は發震三日午前二時
卅一分卅九秒、震動時間一分四十
秒、最大震幅廿一ミリ、性質緩慢
で震源地は宮古釜石中間沖二百四
十キロ(約五十里)で三陸海嘯のあ
つた外側地震帶と見られてゐる
福 島 【福島發】三日午前
二時卅二分頃福島地方に大地震あ
り福島測候所の調査によれば初期
微動繼續時間廿秒七、總震動時間
一時間、震幅は(地震計が外れて
測定不能)震度強、性質急で震源
地は福島市の東北東百六十キロ、
金華山東方沖合と觀測されるが福
島地方として未曾有の強震にて明
治廿一年の磐梯山の噴火および廿
六、七年吾妻山噴火の際よりも強
震であると

(続き)

千 葉 【千葉發】三日午前
二時卅分房總半島一帶に近來稀な
る地震あり震動時間は約五分間、
棚のものは落ち時計は止まり電燈
の消えた所もあり程度は強震、被
害個所は不明なるも相當ある見込
 測 候 所 の 地 震
 計 飛 ぶ
【甲府發】甲府盆地一帶には三日
午前三時卅三分頃から約三分間水
平動の強震あり、時計の振子が止
まり棚のものは落ちた、甲府測候
所の地震計の針ははね飛んで測定
不能となつた
出 動 準 備
    盛岡署員動員
【盛岡發】岩手縣警察部では中野
警務課長、齊藤保安課長など■■
にかけつけ各地の状况を調査して
内務省に報告し盛岡署員の非常招
集を行ひ出動準備を整へてゐる