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 結核病を征服した 意氣を以て 三陸震災の復興に活躍す

地震だ
と誰かの叫びに僕は枕を蹴つて
飛起きると、 「ゴウー」と一種云ふ
に云へぬ 異樣の地響。 忽ち電燈
が消えて眞暗闇。 何所をさヽへて
良いのか、足はフラフラとして取
り付く腕の力もない。只ウロウロ
する家族を勵まして寢衣の儘連れ
出し、まだ余震の頻々と起る大地
に幾度も幾度も轉びつ轉びつ、瓦
壁や木片の飛ぶ巷を夢中で廣塲へ
避難した。すると、俄に彼處、此
處で警鐘亂打。
津浪だ
津浪だの聲に僕は又驚かされ、
老人や女子供の泣き叫ぶ悲鳴の中
を、 恐れ戰く家族を急き立て裏の
藥師山へ再避難した。 其頃はもう
町中、 狂瀾怒濤に呑まれ、 家屋は
倒壞し、 難破船は木葉の如く 弄
ばれて陸上に打ち上げられ、 状景
悽愴。 是れ慘憺たりで募る不安は
絶頂に達した。
而し僕は餓と寒さに耐へて、 數
日間凡有る困難と戰ひ得た。 又再
興への活動も出來た。 これと云ふ
のも皆、 有田治肺劑によつて得ら
れた潜勢力の露頭偶發で、 僕にと
つては如來永劫の功德とも感ぜら
るヽのである。
以下少し僕の過去を語つて見やう

(続き)

高野山
の某寺院に 法座を 置いてゐた
節、 不圖した風邪が因で肋膜炎を
患ひ、 それから主治醫の命ずる儘
に六ヶ月余りの加療も効なく、 更
に京都帝國大學病院に就て診斷を
受けたが「病状頓に進昂。大事を
取れ」と胸板に應へる注意。
 而して此處でも月余に渉る服藥
療養も大して効なく、只博士の投
藥と云ふことが、病める身に多少
の慰安となつたに過ぎなかつた。
思案の擧句、横濱市在住の親友に
計り善處策を問ふ事にした。
 友は有田ドラツグの藥が偉効あ
る事を知らせ、來濱を促したので
直ちに往訪、同伴せられて同市伊
勢佐木町の有田ドラツグ專賣所の
店頭を訪ふた。
 當時、此處の主任深水氏は醫藥
よりも、日光・空氣・食餌等の自
然療法によらねばならぬ所以を、
細より微に亘り懇切に説示され、
一日も早く都會を去つて田舎で養
生する樣勸誘せられたので、僕は
喜び勇んで特製治肺劑と血液素を
買ひ求めた。
 そして匆々と歸鄕、服藥養生す
ると、數日ならずしてさしも頑強
な病兆も一掃されて、秋天高く蒼
空を望む樣な晴々した氣持になり
四週間の連服により永年苦しんだ
肋膜炎の難症を、見ん事驅逐した
のである。
 僕は現在釜石郵便局に就職
日夜繁
多の事務に缺掌し、時に不
眠不休の日もあり、 特に今回の大
震災に遭遇しても、 前述の如く何
等身體の異状を感ぜず、 活躍する
事が出來たのである。
× × × × × ×
僕は此の體驗記を發表し、 以つ
て世間同病者の爲めに福音を頒ち
病魔撃退の參考に供したいと一片
の報恩心より……………………。
岩手縣上閉伊郡釜石町中須賀六二
全 快 者 上 野 實 應