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    雜    報

●海 嘯 實 視 雜 録 (六)       於被害地特派員  今泉寅四郎記

今回の海嘯に就て波除堤防の破壞流失したるは
殊の外尠なく唯唐桑村の中馬塲濱に於て一丁餘
同村石濱に於て二丁餘の决潰を見るのみ、是等
は急に修繕せざれば漸次陸地を掠めて潮水の田
畠を浸すに至る可し
氣仙沼近海は柴海苔の産地にて當市は勿論奥羽
地方に輸出する者尠なからず地方の一財源とし
て貴重し居るものなるが幸にして其近海は紆餘
ワン環の内海なれば何等の異?もなかりき、殊に
採拾の期節ならねば柴立にも害を及ぼさず、勿
怪の幸福なりし。
鹿折村は産鹽地として有名の處にて同村の人民
の多分は産鹽を以て生計を立て居る者なり、今
回の海嘯にて如何あらんかと何人も心配する處
なりしが僅かに潮水の浸入せしのみにて鹽田は
無難なりし、階上村も亦産鹽の地なるが斯は襲
浪の爲に悉とく廢田となれり。
本吉郡内沿海の市街にて無難なりしは氣仙沼町
小泉驛十三濱村の中追波濱のみなり、其他沿海
の土地は多少の被害あらざるなし。
唐桑村の中大字小原木只越濱と云へるは戸數四
十七戸の小部落なるが一戸も殘さず悉とく流失
し溺死者の數は二百十人の多きに及べり、同濱
は昨年大火ありて多分類燒せしが郡内は勿論遠
近の慈善家が應分の義捐金を得、漸やく新築の
運びに至り先以て雨露を凌ぐを得るに立ち至り
しより罹災民は稍や愁眉を開きたるに間もなく
全濱擧て烏有に歸したる
は無殘と謂ふも愚かなり
且つ同濱は隣濱迄何れも一里以上ありて峻坂を
昇降せざれば達す可からず交通は殊の外不便な
り、去れば山上にある辻堂に重 傷 患者を収容
し其他は悉とく野宿なり(災後六日を經たる二
十日現?)要するに今回の被害は唐桑地方最も
甚だしく全濱悉く流失したる
は同濱の外小鯖濱及び大島村の中海豚波濱、田
中濱等なりとす、其慘害の?は筆紙の盡す所に
非ざる也。
松岩村は仙臺藩の重臣鮎貝氏の治下なれば仙臺
人にも同村には知己最も多く心配せらるる向も
多からんが同村は幸にして被害甚だしからず片
濱に於て二戸流失して二名の死亡者を出せるの
み、鮎貝氏一家は無事なり。
歌津村伊里前驛の駐在巡査八島某氏は嘯災の起
ると共に蹶起し濱邊に赴むきて救護に盡力し一
先駐在所に引き上げたるに無殘や氏の出ると共
に襲浪は駐在所を洗ひ去り最愛の長子(五つ)は壓
死せり、嗚呼是れ何等の慘事。
最も慘憺たる一事は余等が被害地を通行するに
際し罹災者に就き現况を尋ねんとすれば宛も回
向門前の乞食の如く四方より取巻きて「お役人
樣お助け下され々々」と泣き?ぶなり、是等窮
民に向て一々應接する事は報道の一刻を取急ぐ
余等の身の上として迚も出來得べからざる事な
れば餘儀なく心を鬼にして窮民
を睨め付け只管取縋られざらん事を
勉むるの外なし、是れ甚だ忍ぶ可からざる事な
りと雖も被害地を無事に通過せんには只この酷
薄手段あるのみ、盖し慘中の慘。

  ●本縣下海嘯罹災

救恤義捐金人名
一金五圓    宮城農學校内  佐藤 淸明
一金三圓五十錢 仝       轟木  長
一金二圓五十錢 仝       沼倉吉兵衛
一金二圓五十錢 仝       守屋 孝靜
一金二圓五十錢 仝       澤口 耕夫
一金一圓八十錢 仝      小々高文三郎
一金一圓五十錢 仝       太田 健三
一金六十錢   仝       倉橋 軍治
一金一圓二十錢 仝       伊藤駒次郎
一金一圓    仝       庄子休三郎
一金一圓    仝       棟方儀比郎
一金一圓    仝       黑澤 悌三
一金五圓    名取郡     守屋 孝章
一金三圓    仝       山崎 郷美
一金三圓    仝       明石吉五郎
一金二圓    仝       吉川  直
一金二圓    仝       丹野勝三郎
一金一圓二十錢 仝       戸田 良助
一金一圓二十錢 仝       佐藤運七郎
一金一圓二十錢 仝       星 圭三郎
一金一圓二十錢 仝       北畠 保治
一金一圓十錢  仝       犬飼秀太郎
一金八十錢   仝       谷津治郎作
一金六十五錢  仝       岩淵 一馬
一金六十錢   仝       吉田 隆次
一金五十錢   仝       兒玉 實忠
一金四十五錢  仝      大河内捨次郎
一金四十錢   仝       大友 勇作
一金四十錢   仝       川村 命尊
一金三十錢   仝       洞口 猷壽
一金一圓    仙臺市東二番丁 中島 謙藏
一金一圓    仝 立町    遠山 恒吉
一金十圓    仝 大町三丁目 横山 謙介
一金一圓    仝 國分町   眞山 藤吉
一金一圓    仝 鐵砲町   松倉 利藏
一金二圓    仝 大町一丁目 土田 茂一
一金三十錢   仝 名懸丁   齋藤 喜平
一金三十錢   仝 東三番丁  上野 健次
一金三十錢   仝 本材木町  照井 忠藏
一金二圓十二錢五厘
    仙臺陸軍豫備病院宍戸善八外三十二名
一金一圓    靜岡縣   外山武八外二名
一金三十錢   仙臺市立町  加藤兵右衛門
一金二十錢   仝      永井作右衛門
一金二十錢   仝       大友長兵衛
一金一圓    仝       宮城 金治
一金四十錢   仝       殘間 とよ
一金二十錢   仝       鈴木德三郎
一金三十錢   仝       黑澤喜之助
一金一圓    仝       野地 光好
一金五十錢   仝       森 喜兵衛
一金三十錢   仝       佐藤 くに
一金五十錢   仝       佐々木助治
一金一圓    仝       石川 勘七
一金五十錢   仝       岩片 傳六

一袷單衣等   五  元材木町 山川常五郎
一單衣     三  仝    小澤 わや
一單衣     二  仝   熊谷三郎兵衛
一仝      二  仝    堀田 秀平
一仝      二  仝    管原小平二
一單衣等取合  二  仝    菅野 長平
一仝      二  仝    龜ヶ岡養平
一仝      三  仝    行方 淸助
一單衣     四  仝    只木 忠藏
一單衣等取合  七  木町末無 黑澤 十太
一仝     十二  元材木丁 古川作兵衛
一シャツ    一  定禪寺通 山田雄五郎
一子供袷等取合 四  仝    西條祐三郎
一單衣シャツ取合二  本材木丁 安達 八藏
一單衣     二  仝    車谷松次郎
一單衣等取合  七  仝    關 藤兵衛
一仝      五  仝    住吉房次郎
一シャツ、ズボン等取合 九 仝   小島益太郎
一小供半天等取合 十一 定禪寺通 小野寺政行
一單衣等取合  八  本材木丁 吉岡莊五郎
一單衣    三 定禪寺通櫓丁 橘川 鋿君
一仝     三 仝      佐藤 萬助
一帽子等取合  三  本材木丁 杼窪 廣成
一綿入半天等取合三  木町末無 阿部 なを
一單衣半天等取合四  國分町  菅原 つね
一袷綿入等取合 廿  仝    江戸 吉平
一單衣     一  仝    木皿平五郎
一單衣袷等取合十三  仝    友部金兵衛
            (以下附録に續く)
 廿九年六月廿五日  宮 城 縣