雜 報
●藤澤議長の海嘯被害地 斎察談(承前) 一 滴 生
救護病院 海嘯被害當時は都合九個所に在りし
も今は三個所に集めて氣仙沼小泉志津川の日本
赤十字社宮城支部の病院に傷 病 者収容中なり
余は寸志許りの品物を呻りて是等病院を見舞ひ
しが其入院者の員數は氣仙沼三十七八名小泉志
津川は各十七八名なりき而して其傷 病 者には
大手術を施せるものあるに關らず多くは經過非
常に好く其覺束なきものは三病院を通して僅か
三四名に過ぎざるものの如し而して其覺束なし
と云ふものも亦た手術の結果にあらずして他の
疾病に原由するものなり入院患者にして閉院迄
てに僵るるものは最初より総計卅名に達するの
氣支はなかるへく而して其僵るるものの十中八
九は何れも肺炎に依てなり而して其肺炎は即ち
海嘯罹災のとき激浪怒濤の裡に汚泥を吸吮した
る爲め自然に肺部に障礙を與ひしに源由するも
のにして斯くの如き性質の肺炎は到底救ふへか
らざるものなりと聞く醫士の盡力看護婦の親切
は仲々簡單なる言語に盡しがたく又其救護を受
け居る傷病者は勿論地方人民は皆赤十字社の必
要を認め深く恩惠に感謝を表し居る模樣は紅然
として面色の間に翰れり然かるに余は赤十字社
宮城支部の幹事たるに關らず餘り熱心者の方に
あらざりしが今回病院に臨み始めて斯くの如き
好况を承知するや余をして坐ろに余こそ即ち宮
城支部の幹事なりと言ひたき程の極めて欣はし
き感情を持たしめたりき以て其全体の成蹟を窺
ふに足らん尚ほ今其取扱ひの一斑を示せば傷病
者は皆海濱のものなるのみならず汚泥に塗れて
負傷したるものなるに依り其頭髪の如き体膚の
如き如何に不潔なるやは推して知るへきものあ
り然るに看護婦は女に對しては髪を梳り又男の
髯を剃り垢を拭ふ等其親切鄭寧到らざる所なく
又退院に際しては新しき衣類鑵詰其他の物品及
ひ義捐金の幾部を携ひて皈家する樣の都合故誠
に滿足の色あり乃ち退院者の或る者が救護者に
對ひ個樣に立派になり物品を携ひて退院せば家
族に人違と思はるるも知れずと言へりとぞ以て
其取 扱 の行届るを想像するに餘あるべし(完)