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    雜    報

  ●藤澤議長の海嘯被害地    斎察談(承前)  一 滴 生

次は潰屋取片附費なるが是れは今迄で使役した
る人足賃を支拂ふに過ぎずして別に罹災者の懷
に入るものならざれば敢て言はず次は傷 病 者
救療費去る廿二日縣廳内に開きたる赤十字社宮
城支部幹事會が决議せし被害患者救護費豫算額
は金八千五百廿八圓一錢一厘なるが該社の組織
は元來慈惠的に出てたるものにて彼の日淸戰爭
の際に準備したる総べての物を利用して今回の
事變に應したるなれば割合に費用尠きは勿論な
るに其さへ尚ほ斯くの如く八千五百余圓を要せ
り然るに今回政府より下附したる救療費は僅々
三千六百卅圓に過ぎず思ふに這は當局者に於て
豫 め赤十字社の事業を胸算に置きたるに由る
ものなるべしと雖も兎に角實際の費用に適合せ
さることは分明なる事實なりとす
氣仙沼町 仝町は仙臺藩城下を除きては石巻古
川と共に昔時より三大市街の一に算へられたる
繁榮の塲所なりとすそは何に由りて然るかと言
ふに畢竟海産物集散の市塲なるが故なり然れと
其花主は何れかと云ひば皆隣郡の氣仙及び本吉
郡の唐桑鹿折等の濱々にして謂はヾ同町今日迄
での繁榮は决して其れ自身の力にあらずして全
く是等海濱の庇蔭に由るものと斷定するも敢て
不可なし故に若し是等海濱にして一朝不漁の荒
村と化了せんが氣仙沼の衰頽は言はずして知る
べきなり然れば仝町の人々は是等の点に深く着
眼する所ありてにや今回の事變に就きては公私
の團体と一己人とに論なく悉く被害地方の爲め
に大に盡力せられたるが特に彼の海嘯臨時會の
如きは其 尤 きものなり若しそれ仝町にして今
回無事ならずとせんか被害地方に急速諸種の供
給を爲し能はざりしは勿論縣廳其他より出張せ
る官吏及び有志者等は幾何の不便を見たりしか
乃ち救濟の目的を達せんとする上に於て非常な
る障礙ありしや知るべし要するに仝町と是等諸
海濱は唇齒輔車の關係あり互に相待ちて始めて
生存を全ふすべきの地なるを以て同町の有志者
は目下切に罹災者救助に熱中すと雖も幾んと其
微力を喞ち居るの實况なり
道路開鑿の要 東濱街道中氣仙沼町より南方に
通するものは可なりの縣道あれとも其大切なる
隣郡に通するものは數條の道路あるも何れも幾
んと道路を以て目しがたく車輛の通せざるは勿
論馬背の行くも亦た能はず過日岩手縣廳の吏員
が氣仙郡の災害地に出張するに當り其方面より
行を啓らくに頗る困難を感する爲め氏車にて一
關町迄て來り同地より復た氣仙沼町に至りて夫
れより右困難なる道路に就き往復せりと云ふ以
て氣仙郡の如何に不便なるやを伺ふに足るべし
然るに顧みて氣仙沼町と氣仙郡との關係如何を
察すれば?に前述の如くなるを以て其自町の繁
榮維持の方策と爲すも又仝町 南北 海濱即ち唐
桑鹿折等の罹災民に職業を與ふるの方便として
も斯際地方税の容るす限りは這間の道路を開鑿
すること目下の好手段なりと信するなり(未完)