調査會の救濟方法 (承前)
東京新聞は又二十三日の紙上進歩黨三陸を煽動
すと題せる雜報の末項に左の如く記せり
且夫政府の方針は已に一定して動かすへから
す、若夫誠心災民の爲めに憂ふる者あらば政
府救濟の金を以て速かに自活の道を求めしむ
ることを勉むへき筈なり、救濟金の增學を存
きて災民を迷はしめ彼等をして空想を恃んて
常業に就くの心を緩ふすることあらば彼等は
岐路に彷徨するの間に於て已に救助金を蕩盡
し赤貧洗ふが如きの身となり竟に究途に泣く
の民たらんのみ、進歩黨たる者自家の勢力を
擴張せんとして之に忍び乎
彼自由黨の機關新聞を以て政府の方針は一定し
て動かすべからずと斷言す、乃ち是等に依て政
府意思のある事を推知するに難からざるべし、
されば此救濟方法調査會にして露獨佛三國同盟
せし程の勢力あらしめは政府をして其請願を聽
き六十日の給與と五十圓の救助費を支出せしむ
る事を得へしと雖、原該會にして三國同盟程の
勢力なからん乎該會員が如何に熱心に如何に懇
切に罹災者が困難痛苦の?を陳述して請願する
所あるも政府をして自ら得意を鳴せる行政を不
完全として補正せしめん事は思ひも寄らざる所
なりとす、故に吾輩の希望する所は此三項の外
に一項を加へ若政府我請願を聽納せざる時は本
會は云々の方法を設け罹災者をして自活の道を
立てしむへしとの事を預め决議し置くに在り、
單に政府に請願するのみを以て方法とせは其意
思は善美なるも之を施設の上に顯はすものは甚
た少微なるの結果を見るべきなり、政府の力を
假らずして救助するの法如何、曰く法規の許す
限り縣會の補助を請ふなり、方法を設け大資本
家をして貸附金を爲さしむるなり、官林拂下の
事に就て助勢保護するなり
罹災者に向て縣會より直に支出し得へきは救育
費なるが這は救育を受くへき者の資格に就き頗
る狭隘の規定なるを以て迚も充分の支出を爲す
能はざるは勿論なるが善小なりと雖も爲ささる
に勝り斗升の水も猶以て轍鮒の急を救ふに足る
此他土木補助費教育費衛生費等に於ても亦同し
乃ち法規の許す限りは成丈多額の支出を决議せ
られん事を縣會に向て請ふ所あるへし
大資本家をして此際罹災者に貸金せしむるは至
難の事に属せり、況や本縣下には不幸にして酒
田の本間越後の市島の如き豪富にして且つ義氣
に富む者之れなきに於てをや、然れとも調査會
にして多數有資有力家の賛成を得熱心に周旋盡
力するあらんか船舶漁具の幾何を購求し得る丈
の資金を蒐集し得るに難からざるへし
官林拂下の事は其筋に於ても?に許可するの内
意ありと聞けは之に對して助勢を與へなば必ず
好結果を見るを得へし、但官林拂下の風存ある
と同時に之を奇貨として不義の巨利を摶せんと
する奸商四方より入込み種々の不正手段を廻ら
して貧民を欺騙瞞着し之が爲め官の恩惠は貧民
に利益せすして徒らに奸商の嚢中を肥す事往々
之れあり、或は之が爲め収賄等の醜聞を釀出し
て切角拂下んとせし官林をも之を中止せらるる
の已むを得さるに際會する事あり、滿一斯の如
き事にも立至らば罹災者の不幸は實に謂ふへか
らざるものあらむ、故に調査會は此点に注意し
罹災者を保護し奸商を驅逐し以て拂下の事を圓
滿に運はしむへし、被害地を巡斎して漁業者の
言を聞くに船舶及ひ船具を作るに適當の用材な
きに苦しむと言はざるはなし、左れば此際官林
拂下の事に盡力するも亦救助の一法なりとす
抑政府の被害地救助に冷淡なる事は彼が如く之
に加ふるに政府の謀主とも謂ふへき自由黨は直
に之を以て黨派問題と爲し?行の救助法を死守
し勉めて他の忠言を排除す、其意此の問題の勝
敗を以て自黨と進歩黨との存亡を卜せんとする
ものに似たり、事??に斯の如くなれば此上政
府をして民間の請願を聽納せしめんとするは實
に難中の難事に属せり、吾人は前日も宣言せり
政府賴むへくんば依て以て救恤の事を請ふへし
政府若し天職を盡すに意なく以て依賴するに足
らずんば民間の志士奮起し政府に代て此の不幸
なる罹災者を救恤せざるへからずと、今や救濟
方法調査會の與るを聞て茲に之を再言し以て同
會の奮勵を希望す
雜 報
●藤澤議長の海嘯被害地 斎察談(承前) 一 滴 生
漁業恢復の必要は前述の如し而して是れが恢復
に必要なる器具特に船舶に就て尚ほ一言せんに
今鰹魚漁船一艘を購造するに通常三百圓内外を
要すと聞く而して斯一艘の漁船に乘込むべき漁
夫の員數は六人乃至十二人なりと云ひば之れを
假りに一戸一人の男丁ありとするときは平均七
八戸に對し一艘の漁船あれば間に合ふべし然れ
ども平常に在りてすら三百圓内外も要する程な
れば特に罹災後の今日の如き塲合にては是れに
充つべき木材なく又其運搬賃も高くなり居る故
其船價の暴騰すべきは必然のことなり然るに今
回政府より救助料として支出せられたる金員は
一戸當り二十圓に過ぎず斯金額にては二十戸前
後のものが共同聯合せざれば一艘の漁船を搆造
する能はざるなり加之らず之れに伴ふ幾多の小
船又期節に依りては異りたる船を要することも
あるべく特に復た網其他の漁具も要することな
れば今回の如き救助金にては到底漁業恢復の見
込みなく所謂る九牛の一毛たるに過ぎざるなり
唯本縣は倖にも他二縣に比して割合能き多くの
義捐金を得たれば被害者の爲めには頗る幸福な
りと云べし然れとも斯金額を合算したればとて
其前述の目的を遂る能はざるは又明瞭なりとす
政府の救助金 政府が本縣に下附せられたる
救助金の総額は五萬九千六百五十圓内外にして
内食料金六千七百圓二十錢(但七千人三十日分
一日一人三錢二厘の割)被服及ひ家具料金一萬
七千二百五十圓(但千百五十戸分一戸十五圓の
割)救助金貳萬三千圓(但し千百五十戸分一戸
二十圓の割)潰屋取片附費金二千七百五十圓(但
七百戸分一戸九圓の割) 負傷者救療費金三千六
百卅圓(但七百廿六人分一戸五圓の割)等にして
是等は皆流用を許さるるものと聞く以下各項の
費目に就きて聊か意見を述べんに食料一日一人
三錢二厘是れは一石八圓の相塲にて四合の計算
なるが目下被害地に於ては物價総べて暴騰し特
に飯米は白米極下等にて一石幾んと十圓を踰ゆ
るとのこと左すれば斯割合の實際に適せざるは
推して知るに足るべく而して一日三錢二厘とす
れば卅日にて九十六錢となる故に若し數人の家
族を有するときは是れにて漸く粥位は啜ること
を得べきも是に反して一人若くは二人の家族と
せば僅々たる九十六錢や一圓九十二錢にては到
底卅日の生命を維ぐこと能はざるなり故に窮民
の恆心なき中には其金額の僅少に呆然し寧ろ是
れを以て晩酌一杯の資に投せんなど所謂る燒的
小言を放つものあり以て罹災民情の一斑を伺ふ
に足らんなり、次は被服家具料なるが是れは計
算の立て樣にて如何にもなるものなれば別に言
はざるべし又救助金に就ては?に漁船構造に就
ての談話中其不足を縷々してらば今復た重ねて
贅せず (未完)