調 査 會 の 救 濟 方 法
宮城縣會議長藤澤幾之輔氏海嘯被害地を巡斎し
罹災者の現?を實見し來りて同志者と相謀り海
嘯罹災者救濟方法調査會を設く、洵に美擧と謂
ふべきなり、吾輩は切に本會の多數者より賛成
せられ其勢力政府を動かすに足る迄の隆盛に至
らん事を頭る
今其救濟方法の原案を讀むに三項に分たれたり
(全文は昨日の本紙にあり)而して其第一項は前
度政府の給與せし食料の外尚六十日分の給與を
求むるにあり、第二項は前度の給與額廿圓の外
更に五十圓の救助費を求むるにあり、第三項は
土木を起して罹災者に活路を得せしむべしと云
ふにあり、三項共に目下の急務にして罹災者を
塗炭の苦に救ふて袵席の安きに置くの法先つ以
て此三項を實施するより外なかるべし、是吾輩
が大に該會の主旨に同意する所以なり、但吾輩
が杞憂に堪へざる所は該會より第一第二の兩項
を政府に請願するに當て政府は能く之を採納す
べき乎否の一点にあるなり、
蓋我政府は或時は極めて柔軟なる代りに或時は
非常に強硬なる事あり、又或時は非常に從順な
る代りに或時は極めて剛愎なる事あり、大抵外
に對しては柔軟にして且つ從順なれども内に對
しては強硬にして剛愎なるを常とせり、彼が帝
國議會の建白决議に對する所爲と諸外國の忠言
勸告に對する所爲とを兩々比較し來れば其用意
の在る所必すしも吾輩の多言を待ずして知るべ
し、而して彼の尤も禁物とする所は民間の忠言
を聽納して非を悔ゐ過を改むるの事是なり、彼
假令自ら其非擧過失を知る事ありと雖も一旦民
間より云々する所あれば决して其過非を悛改す
る事なく之を遂行するを以て得意と爲す、され
ば今回救助の事彼自ら不充分にして民意に滿た
ざるを知りたりとするも人民の請願を容れて補
正するものにあらず、況や今回の擧は彼れ自ら
其方法宜を得たるものと爲し揚々として誇色あ
るに於ておや、何を以て之を知る、蓋今回の處
置は自由黨を以て組織せられたる内務省の意思
に依るものなり、故に自由黨機關紙の述存を一
讀する時は其如何に用意の在る所を知るに難か
らざるべし、乃ち近日の東京新聞は罹災救助費
の題に於て前後四日に渡り實に左の如く論せり
之を蝟繹的に打算したるは三縣知事當初の概
算にして之を歸納的に打算したるは實際支出
の救濟金額なり乃ち先づ被害人民の情態、被
害人民の戸數に照會し精細に打算して此の金
額の數目を得たり、而して上京したる三縣の
知事亦た此の金額を正當なりとし、些の不滿
あることなし、
評云、今日豈罹災人民の爲三千圓乃至三千五百
圓を棒に振るの二千石あらんや、是些の不滿な
き所以、之を以て金額正當の證と爲すは迂なり
救濟費四十餘萬圓は巨額の金錢にあらずと雖
ども罹災の民は資して以て衣食を求め家具を
購ひ猶ほ其殘余を以て産業に就くことを得べ
し、三陸の民何の不滿ありてか妄りに望蜀の
念を長し政府救濟の不及を云々せんや、
評云、三陸の民豈に妄りに望蜀の念を長して云
々せんや、唯救助費の以て生計の道を立つるに
足らず、彼等は實に得隴の感を抱く者なり
乃ち先づ被害の程度數量を調査し其程度、數
量に對して適當の金額を支出したる者にして
吝濫の兩弊を防ぎて救濟の實を擧げんとする
の意は炳焉として照し見るべし
評云、本項以て自由黨の意思を見るべく亦以て
政府の意思を見るべし
三陸の災民は食料として一戸に五圓以上を受
け、被服及ひ家具料として十五圓を受け、授
産費として二十圓を受け、合計して金四十圓
余なり、災後の窮民は國家雨露の恩に浴して
飢寒の憂を免がれ且つ以て生業に就くことを
得べし
評云、屡次生業に就く事を得べし云々を繰返す
以て彼等も亦二十圓の金其果して能く生業に就
く事を得るや否に繋念あるを推測すべし
政府救助の意は乃ち貧民を救助するにあるを
知るべし、救助金の不足を言ふ者一たひ此の
精神に溯源する所あらば則ち赧然として愧色
あるべし
評云、?に救助と云ふ、其意富民豪戸にあらざ
る事は惡そ多言を須ん
國家が海嘯の爲めに出したる貧民を救ふて之
に四十五圓を支給せりと云はヾ救助の額は寧
ろ過大に失せさるかを思ふ、彼の救助額の不
足を言ふて政府を攻撃する者は其不足を言ふ
て之を攻撃せんよりは其過大を言ふて之を攻
撃せば其論鋒は鋭利にして政府を苦しむる者
却て大なるべきを思ふ、
評云、貧民救恤の當否を以て直に黨派問題と爲
す、誤解も亦甚たし、此誤解の爲めに救助費の
減削を來たしたるものとすれば罹災者の不幸洵
に憫むべき哉 (未完)
雜 報
沿海一帶の嘯害稀有の慘?を 逞 うし人心尚ほ
●藤澤議長の海嘯被害地 斎察談 一 滴 生
余は今氏が存話の要領をして成へく讀者に了解
の便を與ひん爲之を數項に分て掲載すへし