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大 臣 の 信 任

今の大臣諸公は人民より幾何の信任を享け居ら
るるやと謂はば必すしも吾輩の存明するを待す
して諸公明かに之を知らるるならむ、抑人民の
諸公を信任せざる人民の暗愚にして諸公の智德
を認識せざるに依る歟、將諸公實に人民の信任
を享受するに足るの智德を具有せられざる乎、
是亦諸公の自ら認識せらるるに任す、吾輩は必
すしも之に對して巨細の存明を爲すの無用なる
を信すればなり
蓋一國の大臣宰相たる者は單に上 御一人の御
信任厚きを以て足れりと爲すべからず、必すや
併て下萬民の信任を受くる丈の智德を具有する
を要す、扨其信任の程度如何と謂ふに戸毎に像
を画て之を祀り人毎に香を焚て之を頭れりと云
ふ我邦の菅丞相道實宋の司馬光の如くなるこそ
難からめ、一般人民より輕蔑侮辱せらるる事殆
と一遊冶の少年に異なる事なき迄には下落せざ
らん事を望まざるを得す、人民にして大臣を遊
冶少年と同斎するは决して美事と謂ふべからず
即ち坦上の義に於て或は欠くる所あらむ、然れ
とも堂々たる大帝國の大臣にして人民より遊冶
少年と同斎せらるるに至る者ありとすれば其人
の不德も亦想ふべし、人自ら侮て而して後ち人
に侮らる、他人の侮蔑を受くる此の極に至つて
は其人亦决して罪なしと謂ふべからざるなり
人民にして大臣を信任せざらん乎、政府の威信
は何を以て立つ事を得ん、苟も政府にして威信
立たすんば國威何に依て振はん、民福何に依て
進まん、大臣たる者豈深省熟思せずして可なら
んや、按に德川幕府の滅亡せしは大臣の人民に
信任せられざりしに因る、而して其人民の信任
を失ひし原因は大臣たるの智に欠くる所ありし
と謂はんより、寧ろ大臣たるの德に欠くる所あ
り驕奢婬縱遊蕩度なく民を剥く酷にして自ら奉
する所甚た厚かりしが故なり、是皆大臣諸公の
目撃耳聞せる所にして健忘を疾む者にあらざれ
ば遺却する能はざるなり、而も尤めて之に傚ふ
が如き?あらば人民は之を何とか評論せん、諸
公は人民の自己を信任せざるを以て是人民の暗
愚に因ると言はむ、而も人民は却て諸公が幕朝
大臣の前轍を遺却するの速かなるを怪んで健忘
を疾む者にあらざるかを疑ふ者あるべきなり
大臣驕奢なるか吾人得て之を知らず、然れとも
新聞雜誌は屡々諸公の驕奢なる事を報道す、彼
操觚者悉く爲めにする所あつて讒誣誹譏に出つ
る乎、大臣婬縱なるか吾人又得て之を知らず、
然れとも新聞雜誌は頻々諸公の婬縱なる事を報
道す、彼操觚者爲めにする所あつて讒誣誹譏に
出つる乎、將又諸公實に彼が如き驕奢婬縱の行
爲實存するある乎、此も彼も吾人の知る所にあ
らず、唯諸公が人民の信任を受くるの厚からざ
るは江湖の誹謗を速くの多きを以て之を推量す
るに難からざるなり、夫れ然り諸公信任の厚薄
は實に國家盛衰の由て判るる所、而して現?斯
の如し吾人特り諸公の爲めに惜むのみならず、
實に國家の爲めに悲しむ、諸公にして國家の休
戚に意なくんば已む、苟も此に志あらんか願く
は其行爲に反省して悛改する所あり人民の信任
を厚ふし上下一致の實を擧けて以て 聖明に報
効する事を勉め玉へ、敢て望む、

    雜    報

  ●海嘯罹災者救濟方法調査會

去る廿二日當仙臺市會閉會後仝議事堂内に於て
進歩黨員仝志者相會し今回海嘯被害地を斎察せ
られたる縣會議長藤澤幾之輔氏に就き實况及び
善后策の意見を聽聞したる末仝議長の主唱にて
仝志者菅克復猪狩章豊島闌室窪田敬輔杉目庄吉
櫻田周毛利淸右エ門の諸氏一昨夜藤澤氏の自邸
に集會海嘯罹災者救濟上に就き種々協議する所
あり結局岩手縣の例に傚ひて救濟方法調査會を
組織し尚ほ知事に對して其意見を具申すると仝
時に政府に對して尚ほ斯上の救助を請願し又他
の一方に於ては海嘯關係地方縣税負擔の現に起
しつつある土木工事及び早晩起さヾるを得ざる
復舊工事個所等を調査し以て直接間接罹災者に
就業の途を與ふること等の各事項に就き其材料
蒐集の爲め豊島一力櫻田の三氏を委員に撰擧し
又他の諸氏は汎く有志諸氏を勸募して其賛成を
求むるの任に當ることに决議して散會し昨日亦
仝議長邸に委員諸氏集會して左の會則及ひ救濟
方法の原案を調製したる上本月下旬を期し當市
に縣下有志の大會を開くことに準備結了せしと
云ふ
    會 則
 第一條 本會は宮城縣海嘯罹災者救濟方法を
 調査し其善后の策を講究するを以て目的とす
 第二條 本會は主として縣下有志者を以て組
 識す、第三條 本會は仙臺市に設置す、第四
 條 本會は左の役員を置く
  一委員長一名  一委員若干名
 第五條 委員長は本會の事務を総理す 委員
 は會議の議决に基つき調査事務に從事し又は
 調査の材料及ひ自己の意見を提供すること、
 第六條 委員長は公撰とし委員の撰擧は委員
 長之れを指定す、第七條 本會の會議は総會
 及ひ委員會の二種とす、第八條 本會の役員
 は名譽職とし給料を支給せす、第九條 本會
 の費用は有志者の醵金を以て支辨す
    救濟方法
 一、罹災者は今日迄ての救助金にては到底自
 活の緒に就き得さるは勿論之れを抛棄し置く
 ときは飢餓に瀕するは炳かなり依て今回政府
 給與の食料の外更に六十日分の給與を求むる
 ことを至當と認む依て本會は右政府に對する
 請願の件に關しては充分の盡力補助を爲し及
 ひ本會の意見として縣知事に陳情し其仝意配
 慮を求め他の一方には政府に向つて請願する
 こと
 一、救助費一戸に對する政府の給與額金廿圓
 は到底罹災者をして生活の途に就かしむる克
 はざるを以て更に一戸平均五十圓の救助費を
 求むるを至當と認む依て本會は該救助費請願
 等に關しては縣知事に對し充分盡力を求め且
 つ本會の意見として政府に請願すること
 一、目下罹災地方に縣税を以て施行中の土木
 工事は斯際取急き且つ早晩必要を見るへき仝
 工事は之れを起工し以て直接間接罹災者をし
 て活路を得せしむへく縣知事に具申すること

  ●藤澤議長の海嘯被害地    斎察談      一 滴 生

東奥海嘯の慘害は蓑子時代以來未曾有の天殃な
り苟くも仝胞として惻隱の心あるもの誰れか一
掬悲哀の涙を揮つて是れが慰問に道途の險夷遐
邇を意とするものあらん況や親しく被害の縣民
として而かも躬は縣會議長の公職を帶び常に縣
民の利害得失を以て其喜戚を爲すものに於てを
や然ればにや本縣會議長藤澤幾之輔氏は去る十
六日程を發して沿海被害の地に向ひ巡斎殆んと
一週日備さに其慘害の?况を悉くして還る被害
の縣民として而かも縣會議長としての氏に於て
は此行固より當然其所なりと雖も時正さに炎天
火傘を張りて背肝爲めに漿を漲らし時に陰空霖
雨を降して兩脚爲めに泥塗に没するの勞苦を厭
はずして其斎察を遂けられたるは吾々縣民の謝
せざるを得ざるものあり依て昨廿四日特に氏を
東一番丁なる自邸に訪ひ先つ曩日の行途を勞し
て叩くに被害の?况及び善後の經綸を以てす、
氏喜んて是れに應し存話頗る力む其要旨は乞ふ
載せて明日の紙上に報道すべし