雜 報
●慈善演劇を觀る (成美團一座興行) 梨園 老子
深澤恒造(馬島威役)此芝居の主人公とも云ふべ
き役にて新作には川上音次郎が勤めたりしもの
何處までも敵役にて實に極惡無道此上なしとい
ふ難役なるに此優は始終隙なく仕打され中には
今一息と思はるる節なきにもあらざりしかど先
此位に仕て居らるれば太した腕と感賞せざるを
得じ
坂井惠司(馬島お幸役)よし子に言譯なしとてお
茶の水橋から身投の件思ひ切つて老て粧られ好
い出來なりき
竹内鎭雄(壯士半井現役)左したる役でもなき故
評する程の事もなけれど相變らず輕妙と言べし
矢野勘次郎(馬島金三郎役)盲目の仕種あどけな
くして居て孝心の情溢れて見えたりき
木下吉之助(跡部よし子)例のお嬢役只好し々々
野崎三郎(跡部晋一役)辨護士共大受大當り
偖二番目は是ぞ今回興行の主眼たる海嘯慘話
「嗟無慘」と題するものにて著者が親しく被害地
へ出張し慘害の實况を斎察し來つて直に之を舞
臺に移せるもの且道具は悉皆油?にて極めて精
細其神を寫せる事なれば俳優の妙技と相須つて
眞に其慘?の當時を目撃するの思ひあり
高田實(稻垣代議士)慘害の善後策を滔々と存く
所例に依て快 活 此人の口から出ると句々皆道
理らしく聞ゆる樣思はるるも不思議なり。 岩尾
慶三郎(勅使西小路資實)人品といひ躰度といひ
貫目も充分備はつて今に新華族樣にならるるお
役人とは慥に見受られたり。小織桂一郎(中野亮
齋) 維新前の勤王家で今は名を没し跡を埋めて
隱遁し居る漢學者何處めでも坦王といふ二字を
經とし緯とする人物にて平素 御坦影を安置し
奉 り出入共に禮するといふ程の義人なれば海
嘯の時にも最愛の娘をも助くる遑なく一番に
御坦影を持出して絶息の際にも放さヾりしとい
ふ無二の坦王家なるを優は夫々に仕分て見せら
れ得心が參つたり勅使西小路に面して舊友の名
告は最も看客に意外の感を抱かしめたり兎まれ
此優が斯云ふ老人氣質を斯程までに演めんとは
思はざりしに中々凄い腕前豪い物なり。深澤恒
造(角田周平)資産家の田舎紳士の半可通といふ
眞情を穿ち得て巧妙といふの外なし。 野崎三郎
(中野伴藏)どこまでも手強い敵役腕のある人の
て見事に演つて退けられたり。坂井惠司(女房お
すま) 女郎上りの莫連者海に千年山に千年とい
ふ喰へぬ代物とは受取れたり。
竹内鎭雄(五城新聞記者森川一夫)被害地の實况
斎察に來て居るといふ丈の役相應に遣つて居た
り。 矢野勘次郎(一等卒佐伯元次郎)此役は兵士
が歸休し居りて婚禮の夜に海嘯の兇變ズドンと
音したるを大砲と間違へて駈着け奔走しドヽ一
命を捨てて舅と 御坦影を全ふするといふ役な
るが普通り甘く演つて居られき。木下吉之助(中
野娘みよ) 此役は存外難役なるを彼の位に仕て
居れば此優の腕にしては大出來と言はねばなる
まじ、其他の役々何れも上評と見受にき何はあ
れ今回の大入大當りは慈善の二字與つて力あり
といへども亦成美團員が一致勉強の功勞に依ら
ずんばあらず
●義捐金募集 延 期 廣 告
海嘯慘害の報一たひ達するや本社は江湖に
率先して救恤金募集に着手せしが慈善諸君
は爭ふて義捐金を投ぜられ將に八百圓の巨
額に垂んとす本社は被害地人民に代り茲に
其高誼を感謝す、扨募集期限は昨二十日迄
の豫定なりしも爾後四方諸君よりの申込續
々ありて今日に於て〆切たらんには諸君が
折角の厚誼を空ふするの憾あり依て更に義
金募集期限を本月三十一日迄と
定む江湖の慈善諸君願くは同日迄に續々投
寄せられよ
七月廿一日 奥 羽 新 聞 社
本社募集 ●大 海 嘯 被 害 者
救 恤 義 捐 金
一金九圓五錢五厘 栗原郡
高淸水尋常高等小學校生徒
内 譯
金五十錢 大泉善左エ門
金拾錢宛 狩野吉三郎、 大津 深、 武田作兵衛、
佐藤榮七、 鎌田とみよ、 浦田 浩、 鎌田千代人、
沼倉さつき、須藤不成
金八錢 佐藤 仲作
金五錢宛 菅原範三郎、 岡崎勇助、 大島まりな
國井富生、 武川雄一、 高橋茂之助、 高橋惣五郎、
伊藤保吉、 鎌田もとめ、中村いさご、菅原あさの
鎌田とよ、 加藏さい、 千葉ゆりや、 岩淵たか、
板理もとよ、 沼倉初吉、 佐藤五十三、 山路方洋、
淸水要之助、須藤あさよ、石崎良行、 猪又なほよ、
高橋たまき、 板理文伍、 河東田教平、 土田信平、
菅野長三郎、狩野たまき、 石崎てるへ、沼倉さと、
大槻うめよ、木川田とよの、沼倉悌治、高橋しのぶ
加藤達太、 高橋文彌、 石川守衛、 鎌田淸人、 佐
藤みおの
金四錢五厘 千田 吉衛
金四錢宛 梅崎 茂平、佐藤 宗司、大泉子之助
千葉まうら、淸水きさよ
金參錢五厘 中村 鱗初
金參錢宛 宍戸廣見、佐々木由治郎、遠藤龜三郎
佐藤善吉、渡邊喜吉、沼倉蓮證、山田東三郎、
高橋勇三郎、狩野壽作、鎌田哲三郎、村上五百
名、高橋はるへ、大波とみゑ、細川早太、梅崎
彦治、高橋實、松本留治、佐藤りや、狩野しげ
の、武田きみよ、上郡なほ、鎌田豊吉、北村軍
司、佐藤修吉、菅原善助、武田政之助、芳賀彦
惣、菅原龜治、山路童二、武田あさの、石母田
こう、高橋秀吉、龜ヶ川美原、大波貢、德江晴
見、武田笹之丞、淸水とみよ、藤島さだよ、佐
藤きよし、浦田なか、菅原鶴治、石母田省三郎
淸水誠
金二錢七厘 齋藤 健治
金二錢五厘宛 齋藤覺四郎、松本こよ、八重
田文助、梅崎豊吉、高橋やゑの、阿部末三郎、
阿部市郎左エ門、高橋うめよ
金二錢三厘 木川田豊治
金二錢宛 操文治郎、佐々木友治、伊藤慶吉、
高橋小平、佐藤欣吾、永岡慶一郎、高橋梅之丞
德江勇助、新田淸治、鈴木覺治、高橋秀雄、土
田りやう、須藤たきを、袋とみ、德江やゑ、佐
藤ともよ、高橋りゑ、菅原はつよ、武田亮松、
八島とめよ、沼倉ふぢの、菊地なほよ、岡崎か
しく、湯澤惣治郎、津谷川こはる、猪又勘左エ
門、沼倉菊助、松本周治、狩野せい、狩野彦治
木村いな、今井はつえ、菅原菊三郎、八島善藏
大波幾之助、大槻隣雄、佐藤八郎、伊藤彦右エ
門、村上東三郎、細川熊一、狩野てつ、德江つ
るよ、永岡龜一、千田惣左エ門、伊藤竪助、伊
藤ちよの、男澤哲、桝亮平、木川田吉藏、沼倉
梅治、佐藤臣四郎、鎌田すゑ、鈴木たみへ
(此分未完)
前日計金七百拾四圓二十錢五毛
合計金七百貳拾參圓廿五錢五厘五毛