自由黨の爲めに吊し 進歩黨の爲めに慶す 冷眼 道士
陸羽七州の野は自由黨立脚の地たり、其民心の
歸■離叛は一黨盛衰の係る所なり、而して今や
彼自由黨は立脚地を失はんとす、吾人豈之を吊
せざるを得んや
道士嘗て論らく今の内務省は自由黨の内務省な
り、故に海嘯事變に對する善後の處置にして其
當を得ざるものあらん乎、其責は直に自由黨の
頭上に堕落し來り大に其價格を損する事あらん
と、然るに不幸にも板垣内相の救助策は以て罹
災の人民を塗炭に拯ふに足らす遂に三陸の民心
に不滿足を抱かしめ自由伯の處置を批難するの
聲囂々然として起れり、自由黨立脚の地動揺せ
ざらんと欲すと雖も豈得へけんや
自由伯は人心収攪の策に於て確に一着を錯まれ
り、蓋三陸の嘯害は伯が大に恩惠を施こして自
由黨立脚地の根底を固ふするの好機會なりき、
其救恤の爲めには百萬圓を支出するも可なり、
貳百萬圓を支出するも亦可なり、其金額益々多
ければ民心の歸向彌々深かるべく、而して伯は
實に三陸幾百萬の人民より自由の眞神と崇敬さ
れ、自由黨立脚の地は磐石の如く堅牢なる事を
得たるべきに、事此に出てすして外は難民を斎
るに不深切なりとの物議を受け内は自身率ゆる
所の黨勢を減削す、失計も亦甚しと謂ふべし
斯く云はば黨員は必す辨せむ、罹災の民素より
憐愍すべきも巨額の金を支出するの名義なきを
如何せんと、然り適當の名義はなきなり、然ど
も救助授産として支給する二十圓も亦新に名目
を設けたるものにて舊來此名目あるにあらず、
?に我より古を爲して新に一名目を設け其名目
を以て支出するに於ては必すしも廿圓に限るに
及はす、百圓にても二百圓にても救助の實を擧
け得るの額を支出すべし、況や其特に此金員を
下附する理由は漁舟と漁具とを準備せしむるに
ありと云ふに於てをや、乃ち支出の目的を達し
救助の實あらしめんと欲せは百萬圓以上を支給
せざるべからず、且夫名義は當局者の自由に製
造し得る者なり、嘗て松方内閣は道路橋梁復舊
工事の名目を以て六百萬圓の剰餘金を支出せり
今部落復舊工事の名目を以て數百萬圓の剰餘金
を支出するに何の不可かある、道路?に復舊工
事の必要あり部落豈に復舊の必要なからむや、
若其名義の新奇なるに依て他日帝國議會の彈劾
するあらば伯たるもの宜しく責を引て進退を决
すべし、罹災の民を斎る傷むが如くなりしに依
て冠を掛くるにも至らば伯の聲望は忽ち海の内
外に震はん、是亦大政治家の行動たるに愧すと
謂ふべし、事此に出てす尾濃事件の物議多かり
し前轍に驚怖して區々たる名目に拘泥し糊塗摸
稜の善後策を建て謗議を世上に招く、硅々たる
一小吏の所爲としては巳む事を得ざるものあら
む、堂々たる大政治家の處置としては深く嘆惜
せざるを得す、而も事大に自由黨の衰運を促す
に足る是吾人の此に吊詞を呈する所以也(未完)