救 助 費 の 下 附
三陸大海嘯罹災地の人民が大旱に雲霓を望むの
思ひを爲したりし救助費國庫金の下附も漸く確
定し金四十五萬余圓を三縣へ分割して下附せら
る、而して本縣に属する分僅に金五萬九千六百
五十余圓とす、少額と謂はざるべからず
之を聞く國庫豫備金の現在高實に五十萬圓而し
て五萬金は他に用途あり、即ち三陸に分配すべ
きもの四十五萬圓を過くる能はざる所以なりと
此に於てか進歩黨一派の士は説を爲して曰く盖
ぞ速に臨時帝國議會を開て救助費を議せしめざ
る、臨時議會を開き救助案を議に附されんか百
萬圓乃至貳百萬圓位は必す異議なく通過すべく
以て罹災の難民を救助するに足らむ、若し又臨
時會を開くを不可とせば宜しく剰餘金を以てす
る事嘗て尾濃の震災に於てせしが如くすべし、
今や臨時會を開て國民の與論に問はず、又剰餘
金を支出して豫備金の不足を補ふ事をせす、是
人民の憂慮を視るに不深切なるものにあらすし
て何ぞやと、此論頗る道理あるを覺ゆ
然れとも臨時議會を開くと開かざると、剰餘金
を支出すると支出せざると廟謨?に决せる今日
之を言ふも復如何ともすべからず、好しや事前
に之を言ひし者ありとも今の政府は議會に多數
の頭顱を有するもの則ち自家の欲する所は議會
を開かざるも之を行ふべく、自家の欲せさる所
は假使議會を開くと雖も斷して之を行ふべから
ず、此の時に當て人民たる者は唯泣寢入りにし
て其處置の當不當は天下後世の公論を待つより
外なかるべきなり
吾人は今更斯の如き冷血の中央政府に對して侃
諤の議論を爲すの何の詮もなかるべきを知る、
故に敢て多言を費さす、唯縣治當局者に對し右
の國庫金を以て及ぶ丈け善後策を完全に施設せ
られん事を望まんとす、聞く處に據れば右救助
費の罹災者に配附せらるべき最多額は實に金四
十五圓(衣服家具料十五圓、授産金二十圓、小
屋掛料十圓、計金四十五圓、但被害の輕き者は
逓減せらる)にして之の四方慈善者の義捐金を
合すれば一戸の分配額七八十圓内外に達す不充
と云、此少額以て避難の一家を恢復するにべし
分なるは言ふ迄もなけれど縣治當局者の監督宜
敷を得ば猶窮民衣食の道を得るに庶幾からむ乎
、是吾人が中央政府の冷淡なるを責難するに先
て殊に縣治當局者の熱誠なる施設を希望する所
以なり