実例が教える 材木の海嘯防止力 廿九年のとはまるで逆な今回 大泉課長(青森営林局)の調査
青森営林局では八年度において久慈、古古、高田盛等の各事業区の施業案検定を控えている際だけで今回三陸沿岸を襲った強震と海嘯には相当の注目を払って居り、大泉計画課長は三陸沿岸全線に亘って森林と海嘯との関係に就き綿密な調査を行って二十二日朝帰局したが、同課長の収集せる林木による海嘯防止の顕著なる例を一つ二つ拾うと
一、宮城県桃生郡大原村字矢川は同部落殆んど全部が海嘯のため全滅の難に遭ったが、半農半漁の渥美庄次なる男は五間に九間半の杉、エノキ、シイダケ等の屋敷林を持って居たばかりに隠居に妻子十名を控えて逃げる暇なく止むなく屋根裏の物置に避難して却って命拾いをした。岩手県高田営林室管内の高田松原の中にある茶屋は眺のために前面の林を切り開いて居たのでもろくも押し流され、一部前面眺望が出来る小浜荘は半壊、森林中の尻寺は無事に難を免れた尚前記押し流された茶屋の家族はいずれも避難の途中海嘯にさらわれ、寄宿中の病人某は歩行が出来ず松の木にすがって助った
尚此等幾多の実例に就いて同課長は語る
明治二十九年の海嘯は追波湾を境にして南側が高く、北は低かったのでしたが今度は丁度逆な様でした、あれ以後、宮城県側は住居が一般に山の手に後退したのですが、岩手県の方は其の取締りがゆるかったのか又山が海岸に迫っている所多く後退し得る余地が少なかったの、今度の被害も比較的に多かったです。私の方としては防破林や屋敷林は大いに奨励する考えです
と、尚同じく岩手県方面に赴いた庶務課遠藤事務官は感想として
被害地救済方法の不公平と、土地不便にして一般に良く知れ渡らぬを利用して、宣伝のうまい町村長が政治的の力を巧に捕えてうまい味を占め、手廻しの下手な大槌町、小成等は殆んど救済の手が延びて居なかったが、何とかならぬものか
と深く同情していた。
漁船々舶被害 宮城郡水産会 の報告
宮城郡水産会より石巻海事部に達した報告によれば過般の海嘯で漁船々舶の被害は、
塩釜町伊勢隣作所有妙徳丸(一九噸)は釜石港で大破再度使用不能、津田さだ所有第二勢正丸(一九噸)は焼失、汽船では栄商丸(四〇噸)流失行方不明一名、常盤丸(四四噸)は大破、永■丸(三八噸)は流失している。
亘理郡の義捐金
亘理郡町村長会にては目下震災地への義捐金募集中であるが、二十五日一纏めとして弊社会課に配給方を依頼することになっている。拠出金額は一戸当平均十五銭で総額五百余円に達する見込みで一部亘理郡坂元村の被害者と逢隈村の火災罹災者にわかつ■■である