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常に澎湃たる怒濤を  呑吐する荒部落   一瞬にして夫、妻を奪われ涙も    出ぬ二度目の惨禍

ただ惨の一字に表現される災害地は桃生郡大須岬の一部落、それは太平洋の澎湃たる怒濤を常に大きな口を開けて、何等の障害物もなしに呑吐してる十五浜村舟越字荒である、ここの老人は男は一生涯を通じて妻や財産を同じような自然の暴虐に奪われ、女は夫や子供を失うて涙に暮れているの少なくない、二十余戸の平和な部落は一瞬にして阿鼻叫喚の巷に化された時これらの老人は泣くに涙も出ない仕末で、一瞬にして暴威をふるい一瞬にして女波男波のささやくような光景を眺めては先祖の地を愛着する気持に却て涙すると告白していた。高橋老人は涙を拭って
「いつも波浪の荒れ狂うこの沖に一本の防波堤を築いて貰えば、まさかこんな悲惨事が二度も経験することはなかろうと思う」と嘆息していた。
笑えない災害ナンセンスの一つ、桃生郡十五浜村雄勝一帯は■並に家屋は流失破壊され、見るも無残な廃墟に化したが、全滅の飛報とんだ三日朝、石巻日赤病院婦人科に前日入院したばかりの患者が病室から姿を消して了った、すは!と病院では大騒ぎしたが、雄勝全滅という■に彼女は矢も楯もたまらず付添の当時牡鹿郡渡波町新町宇田ちよ(仮名)の姉さんにも語る暇もなく病気を忘れて飛び出したものと判ったが、病院でもすっかり感心していた。

漁汽船  流失破損夥し   漁村の致命傷

津浪襲来で漁船々舶被害は非常なもので牡鹿郡大原村浦浜一帯海岸から金華山、網地、長渡、田代、江の島女川町海岸に亘って小舟の流失の破損は約四十隻といわれ、発動機船の破損流失も相当に多く現在十余隻を算えこれらは漁村地方の一大致命傷になろうと。

橋梁一呑み  渡船で連絡の長面尾崎間

桃生郡大川村字長面から尾ノ崎に至る長面連県道に架設した長さ約百五十メートルの橋梁は一と呑みに持ち去られたので同方面の交通は、臨時渡船を以て連絡しているが、さらに同湾に繋留中の、薪木満載の平駄船一隻も沈没した。

布団三百人分  十五浜村へ送附

桃生郡大川村では隣村十五浜大海嘯罹災民救助のため紫桃村長以下役場吏員各団体総出となって炊出し、衣類の供給をなし、殊に避難民全部は布団を持たないので、大川村各部落から取敢ず三百人分の布団を取纏めてトラック数台で運搬した。

人類愛の最高潮  身の危険を忘れ   支那人を救助    一家七名を失った十五浜村     鈴木求君に絡る美談

今度の海嘯騒ぎに日支親善の人類愛の最高潮ともいうべき美談が、悲しい中にも郷人に取沙汰されている、それは桃生郡十五浜村雄勝浜菓子商鈴木求(三三)君で同君は九名の家族全部が家諸共に渦巻く濁流に呑まれ、海水遠く押流されて行きながら実弟武志(二二)と共に屋根板を破壊して屋上に這い出し、闇夜魔の海を泳いで附近の陸地に逃れようとするとき計らずも同人方借家で十年ばかり以前に雄勝に居住している中華民国福州生れ邱恒栄(三八)が盛んに救いを求めながら押流されて行く声を聞いたので「邱さんは泳ぎを知らぬ筈だった」と直感するや直ちに自分の家族(老幼婦女子七名)の身上を案ずるいとまもなく邱さんを救助して安全地帯に泳ぎついた物語りは、大津浪後の村民を非常に感動せしめているが、求君の家族七名死亡したことは非常に同情されている。

鰯粕三四万俵  全部水浸し    損害莫大に上る

桃生郡十五浜の海嘯被害は既記の如く全村各部落殆ど海水侵入したため、折抦在庫中の鰯粕約三、四万俵は全部役に立たなかったので、この鰯肥料の損害のみでも莫大な数字に上る見込みである。

釜石の姉妹校  塩釜の間接的打撃   商漁業とも相当額

三日暁を襲うた三陸沿岸の大津波のために殆ど全町潰滅の厄に遭った鉱山町釜石港とは姉妹関係になる塩釜港のうける打撃は莫大なるものあり、総ての漁商取引において間接の災害地だろうとの評判である、
 先ず同町■井商店の如き、石油タンクその他の流失によって数十万円を水泡に帰しているし、繩席叺類を積載した船舶の流失にてこれまた同町として多大の損害だろうとの話。更に今後釜石港の復興までの経済関係及同沿岸各漁村における石油機船の沈没流失によって石油の需要減なども考慮せねばならぬ、今秋は共に携えて税関の設置により東北東海岸の双璧港湾として対峙する釜石の災害は、塩釜港にとっていはゆる片腕を失った形に陥っている、なお、今村村長は四日県庁に出頭、義捐金募集その他の件につき打ち合わせを遂げ、直ちに着手する段取りになっている。
殊勲の高橋巡査
 (雄勝駐在所詰)

このお金を上げて下さい  米谷校児童のいじらしい心

登米郡米谷町小学生男生徒四年生千葉豊年君外十二名は左の如き手紙を添えて本社宛金三十八銭を送附して来た、
 コノオ金ハ私タチガ小使ヲタメテイタノデスドウゾコレヲ昨日ノジシンデ家ノツブレタ人ニヤッテクダサイ、
千葉豊年、菅原誠志、小塚守、阿部律郎、沼田貞三、渡辺吉三郎、鈴木群士、早村達夫、黄川田富治、三浦丈吉、小出タク郎佐藤喜一郎、佐藤幸夫

伸びる慰問の手

(上)食糧、衣服を積んで四日午後塩釜を出帆する朝日丸(下)石巻町役場を出発する慰問隊