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波に押あげられ  路上に転がる伝馬船   着のみ着の儘さ迷う老幼男女    物凄い津浪のあと!

強震に覚まされた眠りから再びうとうととする一瞬の午前三時半ころ突然乱打された警鐘に飛び起きた記者は石巻署に駆けつければ三陸一帯大海嘯のため全滅だとの警■!女川町は
 全戸浸水して
裏手の山に避難中とのしらせ、ソレッとばかり八巻署長以下署員消防手等自動車で、トラックで現場へ急援に向うため記者も自動車を飛ばして−−途中石巻では北上川が三尺増水しますます増して来るという騒ぎで川岸は警戒の人々で堅めている、次の渡波町は異状なく急援に出かける人々が続くだけ女川町の入口についたのが午前五時半ざわめく町内の雑踏物凄い町の入口で自動車を降り二三丁程は大したことは認められなかったが熊野神社前に来ると大洪水のあとのようだ、着のみ着のままの老幼男女が右往左往路上は靴を没するぬかるみ、鷲の神一帯から魚市場にかけて約三百五十戸は床上三尺ほどの浸水が
 壁のぬれ目
ではっきり判る、塩水で洗われた家財を見つめて涙ぐんでいる人々の間を縫って魚市場近くに出ると「又来た!」との叫び、見る見るうちに海水が盛り上って押し寄せる、記者も青くなって人々と共に丘の上にある町役場の方へ逃げ出した、途中ふりかえると浪は海面から約三尺ほど高くなっている防波堤を越したが幸い被害なく済んだ丁度これで八回目だという、胸をなでおろして見ると魚市場前の小川に大きなトロール船がまたがるようにおかれてある、第三回の浪に押上げられそのままに置去りになったものだ、
 道路の真中
にも伝馬船がひっくり返っているその傍らには漬物樽が路上に押出されて、沢庵がハミ出し肴屋附近には大小の魚が白い腹を見せて散らばっている海嘯襲来の模様は
 二時半頃アノ地震で眼をさまし漸くしづまりかけた三時二十分頃雨のような音を聞いたが外は晴れ渡っているので不思議に思って見ると押し寄せた潮が引く音だ、と、はるか沖の方で無気味な海鳴りがする、続いて又も波が押しよせて来る、これはいよいよ大変だ、と逃支度をした三時五十分頃、続いて三十分過ぎ頃おしよせた大波は繋留してあった船もろとも堤防を越して三尺以上の怒濤が押よせたこの三回目と四回目とが
 致命的被害
 であったが、アノ時ばかりは天も地も海の中にまき込まれるのかと思った、勿論、生きた心地もなかった
町役場では、直ちに善後処置について協議すると共に午後一時から町会を招集した、記者が帰路につく頃、キラキラ光る太陽は海面を照らしてこんな大被害を与えた海とも思えぬほどの静けさであった

十五濱村荒部落  殆ど全滅の悲況   行衛不明の百五十名も死亡か    僅かに残った三戸

桃生郡十五濱村荒部落は海嘯のため二十七戸中二十四戸流失、三戸倒潰し部落民の死者十三名、行方不明者百五十名を出し一部落は殆ど全滅した。なお行方不明者は全部死亡したものと見られている。

線路上に家や船や  陸中八戸線の被害状況

震災のため影響を蒙った鉄道は仙鉄所管八戸線のみであるが沿線の被害夥しく就中種市陸中八木間四一キロ八五メートル附近には八メートルに十メートルの民家二軒、線路上に軒を並べて乗上り同箇所附近から陸中八木までは所々に線路の砂利が浚われ又は長さ四メートル十三センチ角の角材が所々に散乱し四二キロ六五〇メートル八木川橋梁橋台裏両方面共約五メートルずつ欠潰等のため列車の運転は不能となり目下上下各旅客列車は■濱八木間運転危険のため区間運休となり折返し運転を行っているが復旧救援者によって線路を点検すると各所に線路上破壊せる民家、木材、漁船等が乗上り支障しているので三日中の線路開通は見込なく全線開通は四日からの見込となった

地震を喜ぶ  飯坂温泉の湧  出量増す

福島県信夫郡飯坂温泉共同浴■新湯■来湯は従来一分間に二斗づつの湧泉があったのに今暁の大地震で俄然八升の増を見るに至り、その他浴場の湧泉量も相当増加しめづらしい減少を呈して来たので同温泉地では非常によろこんでいる。
 なお石城郡江名四倉両海岸に碇泊中の漁船は激浪のため破損したもの多く目下損害程度を調査中であるが、同海岸地方は海水が約二尺増した。

獲れる魚に  変化があろう     地震と仙台魚市場    一、二漁師のはなし

三陸沿岸の津波と聞いて仙台魚市場では当惑している、二十万市民の食膳に提供する鮮魚類の大部分は三陸漁場に仰いでいるので三日早朝から電話で取引先の安否を紹介しているが全く消息不明である金華山沖を中心とする三陸魚場の期節水揚ものは松川カレー、ナメタ、目抜、タラ、赤魚の類であるが津波の襲来した直後は魚場が根底から変化するものとされているから今後の魚獲物に大きな変化を来たすものと観測している。右につき市場当局は語る−
 三陸の大津波があったのは今から丁度三十三年前の五月の節句であるが今日は三月の節句で何うも妙な機縁である、又三陸の魚場には大きな変革が起ることであろうから夏魚が心配だ
市場に居合した漁師の一人二人が語る話を聞けば
 発震と同時刻頃丁度私は北上川口で発動機船を操作していたが地の底から湧いてくるような気味の悪い海鳴が二度三度起ったと思った直後、時速十里以上の大波が前後二回に亘って襲来した、これが地■だと意識した程で繋留中の小舟は岸壁に打ちあげられ大きな損傷をうけたらしい、私の船は川の中心に漕ぎ出してやっと平衡を保つことが出来ました電燈は消滅して暗黒となった川面に半鐘が響いて来る時の感じはとても物凄いものでした
と言っている。

肉親を案ずる  女行商人   仙台市内をお   ろおろ

三日払暁三陸を襲った大震大海嘯の報に、在仙の災害地関係者は郷里の親兄弟姉妹の安否を案じて保安課に状況問合せに来往する者多く、中には魚類の行商に来て仙台に泊っていた濱地方の女達が、行商姿で保安課にかけつけ災害状況をきいて悲嘆に暮れながら家に残して来た子供達の身を案じている姿も哀れであった。

瀬戸物屋の損害  鈴喜だけで二、三百円

今暁の地震で各地の被害甚大の模様であるが仙台市内商店中最も痛手を受けたのは例によって陶器店である市内陶器商五十余軒は何れも瀬戸物商品の破損が夥しく思いがけぬ突発被害に悲鳴を上げている
陶器商組合長鈴喜商店(南町)では語る
 今朝方組合員の方に電話でお見舞しましたが何処も大きな損害を受けた様子でした当店では二三百円の被害があったばかりです−

昨暁地震の震幅

向って右二ツは大正十二年関東大震災の時の震幅で左が今回のもの、共に東北帝大観測所地震計に依る