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社説 被災地の人々を救おう

 重いがけぬ二十四日未明
の大津波。それからほぼ一
週間を経たいま、そのツメ
跡がまだ意外に大きく残されているこ
とに驚く。
 こんごの津波被害は一つの違った形
の結果を示している。死者五千を出し
伊勢湾台風に比べて、死傷者、被災世
帯の数は少ないし、同じように三陸沿
岸を襲って十万の犠牲者を出した昭和
八年の大津波に比べてもスケールは小
さい。しかし、こんどの被害状況を詳
細にみると、直接の死傷、冠水の被害
に対して、被害金額の比率が意外に高
いこと、いいかえれば、直接被災のう
ち、あるいは直接被害統計に表われぬ
面に伏在している産業的な被害が非常
に大きいことである。とりもなおさ
ず、東北地方の土台をなす三陸沿岸の
零細漁業が根こそぎにやられているこ
とであり、この沿岸漁業に関連をもつ
中小企業がまた徹底的な打撃を受けて
いることを示している。
 松島湾一帯のカキやノリだなは全滅
にひんしているし、女川、石巻、大船
渡でも同様。ことに大船渡では沿岸の
零細漁民が命の綱とたのむ磯舟がほと
んど全滅している。八戸のイカ漁、宮
古のワカメ漁も同じ運命にある。今回
の津波が被害統計に現われる以上の深
刻な打撃を沿岸大衆に与えていること
は否定できない事実である。
 いま大ざっぱに推定された被害県の
損害額総計は、宮城約八十四億、岩手
八十二億、青森四十七億、福島八千万
円と報告されているが、この計はほぼ
二百十四億円に達するもので、しかも
さらに大ざっぱにみても、このうち百
三十億が水産関係の被害として報告さ
れている。六割以上の被害が水産関
係に集中したことは、東北地方にとっ
て致命的なものといわなければならな
い。
 この意味で、こんどのチリ地震津波
の被害は今後調査を進めてくるに従っ
て、さらに増大してくることは当然予
想される。八戸の工場地帯も操作上の
被害のほかに、道路の破損のために目
に見えぬ事後の被害を受けているし、
この地帯で三百隻に達する大小船舶の
被害はイカ漁の壊滅のほかに、九月か
らのサンマ漁にも具体的に差し支える
事態となっている。カキやノリだなの
被害は三陸沿岸の零細漁民の生活を立
ちどころに地獄に追いやるものだし、
大船渡のように漁業に関連する冷凍加
工場が全滅した例も漁民全体の生活を
おびやかすものだ。水産関係三十億と
いう被害を出した陸前高田市のごと
き、市の年度予算三億では、市全体が
息の根をとめられたも同然である。
 これた悲惨な実例の数々は、岸首相
が政争の間にお座なりにいう災害対策
などではとうてい救いきれるものでは
ない。国の災害立法の福田農相という
ごとく必要欠くべからざるものだが、
これらの救済対策の手からこぼれる大
多数の零細漁民、零細中小企業者の生
活のことを、われわれはきょう即刻考
えてやらねばならない。
 食糧を、衣料を、薬を——とこの人
たちはきょうもなお叫んでいる。いま
すぐわれわれは愛の手を差しのべてや
らなければならない。われわれの生活
に必要なものでも、その一端をさいて
贈ろう。われわれはまだ寝るところが
ある、着るものもある。その恩恵を、
天災のためにどん底に突き落とされた
人々に分けてあげよう。

月曜評論 まずなによりも舟を  津波後の浅海養殖について    谷田専治

 地球の裏側でおこった地震によっ
て、思いがけない大きい災害
をうけたものだ。津波による惨状は、連日連
夜、各種報道機関を通じて、われわれの目に
耳に送られてきてい
る。その被害の大きい
のには、ただ驚くばか
りである。
 理の当然とはいえ、
津波で災害をこうむる
のは、沿岸に住む人々で、その被害は特に岸
近い浅海や内湾ほど大きい。したがって沿岸
漁民の打撃は想像に絶するものがある。
 リアス式の三陸沿岸は、わが国有数のワカ
メ、アワビ、ウニの産地であるばかりではな
く、浅海養殖の適地で、ここ数年来、カキ、
ノリ、ワカメの養殖、フノリ、ツノマタ、テ
ングサなどの養殖が急激に伸び、輝かしい将
来を期待された地域である。それだけに、伸
びかかった芽を、無残にも津波によってつみ
とられた浅海業者の方々の気持ちを思いやる
時、いうべき言葉がない。
 浅海の漁業被害を大きく分ければ、漁場に
おける被害と、海浜陸上における被害となり
あるいは施設被害と水族被害とに分類される
いずれにしても浅海の各種漁業にたより、増
養殖のさかんな地域だけに、いずれの被害も
きわめてじん大である。水族被害はその調査
が困難で査定がほとんど行なわれていないか
ら実際の被害額は報道をはるかに上回るもの
と信ずる。
 ではこの対策は? 各方面の暖か
い援助の手が早急にさしの
べられることはもちろんであるが、まず第一
に、浅海業者に舟を与えることを緊急対策と
して為政者に切望する。舟がなければ、いく
ら浅海といっても仕事はできないからであ
る。
 わが国の生産の半ばを占めるカキ養殖につ
いてみれば、一台五万円もする養殖イカダや
はえなは式の施設は、一万数千台が壊滅した。
この復旧は容易ではない。仕込みが終わって
間もない時であるだけに、たとえ施設の早急
な復旧がなされたとしても、養殖すべき種ガ
キの入手は困難である。種ガキ産地の宮城県
が被害地であるだけに、養殖カキ事業の復旧
には悲観的材料がきわめて多い。
 この当面の対策は、きわめて姑(こ)息
な方法ではあるが、流失沈下したカキを、で
きるだけ早期に拾いあげ、十分の一でも、二
十分の一でも、養殖体形にもどすことである
長く海底に沈下したまま放置すると、せっか
く養殖しかけたカキも、死んだり害敵におそ
われるものが多くなり、また成長身入り時期
がおくれてますます不利になるからである。
 特に種ガキの生産地では、親ガキ確保のた
めにも、早急に、少量でも垂下養殖を完成す
る努力を払ってもらいたい。
 ことしの種ガキは、輸出用のものまで作る
ことは望めそうもない。採苗用原板が流失し
今後の入手も見込みうすと考えられるうえ、
親ガキのなるべき養殖が全滅状態であるから
この夏の海況条件がよほど好適でないかぎり
三陸の養殖ガキに空白時代が招来するのでは
ないかと案じられる。これが杞(き)憂に終
わることを祈ってはいるが。あと二ヵ月に迫
っている種ガキ採苗期までの努力と創意工夫
とが、今後数年間のカキ養殖に大きく作用す
るともいえよう。
 ここ数年、物すごい勢いでのびて
きたノリ養殖について考える
と、こんどの津波がノリ養殖のほとんど終わ
った時であったことは、不幸中の幸いであっ
た。陸上や岸に片づけたばかりのノリ網や支
柱竹の流失はばく大なものである。しかしノ
リ業者の最大関心事は、今秋の種付けに対す
る形容であろう。
 カムチャッカ沖や三陸沖の地震に伴う津波
の経験からすれば、こんどもノリ種付けには
案じるほどの影響はあるまいと想像する。し
かし、種場の移動した例がみられているから
養殖場や種付け場の海底地形とか潮流の変化
には、細心の注意を払うことが必要である。
種付けに成功すれば、ノリ養殖は大いに希望
がもてるので、これによって津波被害を少し
でも軽減されるよう祈っている。天然種付け
に頼るだけでなく、糸状体培養によって人工
種付けをすることは、かかる災害に際しても
安心がもてるので、これを機会に、今後一層
の糸状体の活用をすすめたい。
 アサリ、ハマグリ、あるいはアワビ
やウニの生息地がどんな変
化をうけたか、収穫期にあるワカメや、フノ
リ、ツノマタ、ヒジキ、テングサなど藻類の
付着状態はどうなったかはたしかではないが
カキ養殖におけるほどの影響はあるまいと想
像される。津波によって海底が変化し、あ
る場所では悪変したかもしれないが、またあ
る場所では磯掃除が行なわれた結果を招来し
たとすれば、あるいは海底の撹(かく)乱、外
洋水の流入などによって、栄養が増加し、
プランクトン増加の可能性が生じたとすれば
功罪半ばする結果であるとも考えられよう。
 以上は津波直後並びにここ一、二年の浅海
増殖についての考察対策であるが、将来は防
波堤や防波橋をつくり、高潮や荒波の襲来に
そなえるとともに、外洋の利用・漁場の拡大
へと施策の講じられるのが本筋であろう。
(東北海区水産研究所増殖部長)

謹んで津波災害のお見舞を申し上げます

日本大学の校友で被災された方は本部よりお見舞を申し上げる関係
もありますので至急左記にご連絡願います。
  日本大学校友会本部
  日本大学宮城県校友会
 (連絡先)仙台市西文化町七八 電話②九三八九番
    日本大学宮城県校友会副会長 大宮利左衛門

チリ津波被災のお見舞を申し上げます

 このたびのチリ津波は全く突然のことで、多
大の被害を受けられた皆さまに心からお見舞い
を申し上げます。
 何かにつけてさぞご不自由ご難儀のことと深
くご同情申上げます。
 どうぞ健康に十分ご注意下さいまして、一日
も早く復旧されますようお祈り申上げます。
昭和三十五年五月三十日
 ライオン歯磨株式会社
 ライオン印子株式会社
   社長 小林富次郎