被災地の復旧要望決まる 零細水産業に恩恵 主管部長会議 自治協議会案へ追加
チリ地震津波災害の復旧対策を協議する北海道、青森、岩手、宮城、福島の一道四県津波災害対策主管部長会議は、二十九日午前十時
から仙台市錦町白萩荘で開かれた。会議はさきに東北自治協議会できめた「特別立法措置案」を審議、これを被害関係県一本の要望と
してまとめようというもので、北海道をはじめ各県から政府に対する強い要望が述べられたが、結局、自治協議会案にさらに岩手、青森
北海道の意見を若干追加した最終案をまとめ六月上旬東京で開く一道四県知事会議に提出する。四県知事会議は同案を全国知事会議の
承認を得、知事会議の要望として政府へ実現を要請するという方針をきめた。
この日の出席者は宮城県から三浦
知事、重村副知事、大泉総合開発
室長それに羽賀青森、吉岡岩手、
湊福島の各県総務部長、佐々木北
海道総合開発企画本部長、立花東
北自治協議会事務局長らで、まず
重村副知事が「東北の後進性、特
殊性を加味し、伊勢湾台風を上回
る内容を持つ特別立法措置を講
ずるよう政府へ要望するため被災
地の歩調を一致させたい」とあい
さつ、ついで大泉宮城県総合開発
室長を議長にして、各県の災害情
報を交換した。
この報告で
①青森が八戸、岩手が大船渡、
宮城が志津川、気仙沼、女川と
被害が集中的である。
②公共施設の被害が比較的軽い
が、民間の被害が特に甚大であ
る。
③伊勢湾台風は商工関係の被害
が大きかったが、こんどの津波
では農林水産関係の被害も大き
く零細なものほど打撃が強い。
など、チリ地震津波の特殊性を確
認した。これを前提に「特別立法
措置」の内容を細かに検討した。
その結果、自治協議会案を承認、
さらに次の諸点を追加することに
なった。
一、水産動植物施設の復旧につい
ても高率の国庫補助措置を講ずる
ようにし、ノリ、カキ、ホタテな
どの零細水産業施設にも恩恵を与
えるようにする。(岩手、青森提案)
一、被災地区の住宅、工場などの
立地条件改善について高率国庫負
担する場合、被害が再来する恐れ
ある場合を考慮し、宅地造成禁止
区域を設ける。その際移転補償費
の国庫負担も講じさせる。(北海
道提案)
一、災害に関連する諸経費の中で
国庫支出金または起債の対象とな
らないすべての経費を特別交付税
で全額措置する。(福島県提案)
などである。
その他税財政、民政労働、衛生、
土木建築、農林水産、商工、文教
などの対策については、自治協議
会案が満場一致で採択された。
この会議終了後重村宮城県副知
事は午後五時十分仙台発上り急
行で上京、関係方面へ会議の決
定事項を伝え実現を促進する。
“最悪の場合単独で特別立法” 吉川衆院農林水産委員長ら来仙
衆議院農林水産委員会の吉川久衛
委員長(自民、長野)、金丸信委員
(同、山梨)と中山調査員の三氏
は、チリ地震津波の被害状況視察
のため二十九日午後三時五十一分
仙台着下り急行“みちのく”で来
仙、宮城県庁で三浦知事らから宮
城県内の災害状況をきいた。
そのあと記者会見で、吉川委員
長は「伊勢湾台風に準じた特別
立法措置を早急実現したい」と
次のように語った。
農林水産委員会は、特別立法の措
置を至急とる必要があると考え、
三班にわかれ、全国十八道県の災
害状況を視察している。立法措置
は伊勢湾台風に準じてとられるが
被害の特殊性から除塩事業、小型
漁船建造、公共土木災害復旧事業
被害農林水産者への融資などの特
別措置が重点になる。最悪の場合
は本会議を開いて単独審議し、特
別立法措置をとりたい。
個人救済が中心 農相、首相に災害報告
チリ津波の被害状況を視察した福
田農相は二十九日朝帰京したが、
同日午前十一時、岸首相をたず
ね、災害の状況を報告、「災害
復旧対策は個人救済が中心になろ
う」と語った。
福田農相視察に同行して 伊勢湾台風を上回る 被災者大臣より米に夢中
二十七、八の両日、宮城、岩手県下の津波被災地を視察した福田農林大臣は現地の悲惨な状況を自分の目でたしかめ二十九日夜
汽車で帰京した。東京へ帰るとその足で岸首相に被害状況を報告、そして「特別立法措置は絶対に必要だ」と語った。現地を見るため
二十七日の朝早く急行「おいらせ」で下ってきた時は車中で「伊勢湾台風とは比較にならないサ」と福田さんは突っ離すような口調で
記者に言ったものだ。だが塩釜をふり出しに現地を見て被害の大きさに驚き、最後の視察地釜石市では「伊勢湾台風を上回る深刻さ
だ。政府は対策に万全を期します」と約束した。その農相の言葉が一日も早く実行に移されることを期待しながら津波被災地での農相
二日間の記録“同行記”をまとめてみた。
力ないうなずき
福田農相は二十七日朝下り急行
「おいらせ」で下ってきた。斉藤
官房長、高橋水産庁次長らも■行
してきたが、仙台から堀仙台農地
事務局長、遠藤農林漁業金融公庫
東北支店長、大野青森営林局長ら
も同行、九時すぎ自動車で現地に
向かった。この朝仙石線本塩釜駅
前には道路に遊覧船がノシ上げら
れ、魚市場向かいの道路にも漁船
が打ち上げられるなど交通は完全
にストップしていた。農相は車か
ら降りて歩き始めた。板宮塩釜市
助役がこまごまと説明するそば
で中年の女の人が着物のすそをた
ぐり上げ水にぬれた畳をかつぎ出
そうと一生懸命。福田さんが「農
林大臣です。大変ですネ。がん張
って下さい」声をかけたが、女は
力なくうなずいただけだった。
思わず驚きの声
石巻市での視察コースの内海橋に
は五百トンの鉄船が二隻、へさきを
めり込ませ、鉄製の手すりがアメ
のように曲がっていた。また渡波
地区では万石橋は「く」の字に折
れて車が通れない。福田さんは
「想像以上だネ」とはじめてぽっつ
り口に出した。正午近くになって
女川−志津川と宮城県で最もひど
い個所にはいる。あまりのひどさ
に福田さんは思わず「オオッ」と驚
きの声をあげる。コッパみじんに
なった家、材木の山。つぶされた
屋根の上にフトン、衣類などが干
してあるが、まるでボロである。
塩釜で桜井市長と「津波も外国か
ら輸入されるようになった……」
と軽い冗談でいっていた農相の顔
は深刻になってきた。
大臣視察にも無表情
女川では「特別立法をつくって万
全を期したい」と関係者にかなり
具体的な公約をした。そして志津
川では田中町長の手をしっかりに
ぎって「力を落とさないで下さい。
政府はできるだけのことをしま
す」といますぐにも救済の手をさ
しのべたいという表情で激励、田
中町長は目に涙を浮かべて「ハイ」
「ハイ」「よろしく」と大臣にしが
みつかんばかりだった。午後二時
ころから無情のドシャ降りが襲っ
た。志津川町役場のわきにある八
幡神社の境内に救援物資をもらい
にきた被災者は配給になった米を
かかえてウロウロするばかり。福
田さんはたまりかねて自動車から
降り、おかみさんの群れにはいっ
た。「何ともお気の毒なことで…。
がん張って下さい。農林大臣も極
力やります」と声をかけたが、被
災者は無表情だった。大臣よりも
配給をうけたばかりの米の方が大
切だった。二十八日雨はまだ上が
らない。午前八時、福田さんは長
ぐつにはきかえ、車に乗り込んで
岩手県に向かった。
“北の方ほどひどい”
陸前高田市の米崎地区は見渡す限
りこわれた家の材木が続く、大船
渡線はアメのように曲がり、線路
から五十メートルも押し出されて田んぼ
の中に横たわり、その上に電柱が
倒れている。「北にゆくほどひどい
な」と福田さんはときどき窓から
のり出す。車は材木とゴミの山で
至るところで立ち往生した。福田
さんをはじめ視察団の一行はもう
口をきかなくなった。釜石市役所
の本会議場では大槌町、山田町の
町長が「ぜひ私の町にも視察にき
てくれ」と頼み込んだが、福田さ
んは「行きたいのは山々だが、そ
れより私の立場としてこの際一刻
も早く帰京することが大切だ。三
陸地方の被害は伊勢湾台風を上回
る深刻さだ。ノリ、カキ、漁船など
に高率の国庫補助と、つなぎ融資
を早急にやる」と公約、雨の中を
花巻に向けて車を飛ばし、深夜帰
京した。(柳田記者)
チリ津波三陸沿岸を襲う 東北 週間の動き 5月22日〜28日
24日早朝から三陸、北海道を中心とした太
平洋沿岸に大きな津波が襲い、各地で大被害が
続出した。仙台管区気象台の話によると、こ
の津波は前日23日午前4時15分、南米チリに
発生した大地震の反射で、波がわが国に到
着するまで22−23時間かかった。三陸一帯は
じめ北海道、千葉、神奈川、伊豆諸島、九州
の一部などに津波警報が出された。震源地と
日本の間は約18,000キロ離れており、これだけ
遠方からこれだけ大きな波が襲った前例はな
いといわれ、昭和8年3月3日の三陸津波い
らい、27年ぶりの大津波である。この大津波
でうけた三陸沿岸の被害は意外に大きく、宮
城約84億円、岩手約82億円、青森約47億円、福
島約8,000万円合計約214
億円にのぼっている。被害
は漁民と一般住民に集中
し、公共施設災害はわりに
少なかった。これに対し政
府はチリ地震津波対策中央
本部を設け、「特別立法」に
基づく救済対策に乗り出し
ているが「伊勢湾台風」以
上の対策を熱望する声が高
まっている。
志津川など死者続出(宮城)
24日未明から三陸海岸を中心に太平洋岸一帯
は“チリ地震津波”に襲われた。波は八戸で
最高5メートル、しかも不意打ちの大津波だったた
め各地で大被害を受けた。ことに宮城県志津
川町、女川町、大船渡市などは死者が続出、
町の大半を流されるという惨禍に見舞われ
た。全国の被害は死者104、行くえ不明80、
負傷者856人、家屋の全半壊、流失5,000戸、
公共土木施設の被害だけで17億円に達した。
この被害の大半は三陸海岸だけで占め、仙台
通産局の調べによると商工業関係の被害は50
億円という。南米チリで起こったM8.75とい
う史上最大の地震が原因だった。気象庁が警
報を出し遅れるなどの手違いもあり、予想以
上に被害を大きくした。被災地はいま自衛隊
などの応援で復興に大わらわだが、志津川町
には追い打ちをかけるように赤痢が発生、ま
ん延を憂慮されている。被災者を救えという
声が起こり、本社、日赤などには続々義援金
が寄せられている。
土木関係に被害甚大(福島)
23日南米チリに発生した地震により、福島県
太平洋岸一帯に24日午前5時ころ、津波が襲
来し、松川浦では高さが最高3.6メートルに達した。
この津波は突然の来襲のため、漁船、人命そ
の他に被害をこうむった。人命におよぼした
被害は死者6、重軽傷2を出し、被災者109人
を出した。とくに土木関係の被害が大きく、
河川、海岸、港湾などの堤防が決壊、被害額
6,255万円に達した。また水産関係でもカキ
など浅海養殖の被害をはじめ漁船の沈没、大
破など19隻がやられ、定置網の流失を含めて
1,300万円の被害に上った。そのほか、田畑
冠水16.7ヘクタールにおよび県全体の被害総額は7,
850万円に達した。しかし青森、岩手、宮城
3県の被害にくらべて少なかったのは不幸中
の幸いだった。
一瞬に荒らされた海岸(岩手)
三陸津波はほぼ30年周期でやってくるという
ジンクスは破れなかった。24日東の空もやっ
と白んだ午前4時半前後を
第1波に夕刻まで7、8回の
津波が発生、岩手海岸線を
洗った。大船渡、宮古、釜
石、陸前高田、山田、大槌
の4市2町は大被害を受け
た。6,700世帯が被災、死
者55、行くえ不明8、重軽
傷205人、被災総額は82億
3,200万円にのぼった。
人口10万の都市が一年で築
く所得を1度に奪い去った
被災地は港町だけに海岸線に人家が密集して
おり、ただぼう然とこの暴威を見送らなけれ
ばならなかった。被災者は「もう海岸線は
こりごりだ」といっているが、港あっての
生活であれば捨てることのできない宿命だ。
きょうの苦しい日をあすに2度とこうした大
被害を出さないように防災施策を待っている
最大被害うけた八戸(青森)
24日未明のチリ地震津波は青森県太平洋岸に
被害を与えたが、とくに八戸周辺がひとかっ
た。県が最終的にまとめた数字によると県下
の被害総額は46億9,000万円にのぼるが、そ
の90パーセント以上は八戸に集中している。こんどの
災害では、死者1、行くえ不明3、重軽傷4人
を出したのをはじめ、住家全壊16、流失8、半
壊34、床上、床下浸水5,762戸を数えた。さらに
イカ釣りの漁期をひかえ河口に勢ぞろいして
いた漁船がまともに津波をうけ、およそ半数
にあたる動力船373隻、無動力船184隻が被
災、修理用の資材まで流失してしまった。ま
た、昨秋完工したばかりの小中野市場が全壊
したのをはじめ、加工施設、漁網、漁具の被害
もひどこう、水産関係だけで総額の69.5パーセントにあ
たる32億6,000余万円に及んだ。このほか八
戸港などの土木施設に5億7,000余万円の被
害があったのをはじめ、東北電力八戸火力な
どの大工場も手痛い打撃をうけ、新興臨海工
業地帯八戸の発展にちょっとヒビがはいった
形。こんごの適切な対策が強く望まれている。
河北春秋
本社の窓から見お
ろす五十メートル道路
は、断続して降る
雨にぬれ、近くの
学校のグラウンド
では、若い元気な
青年たちが、球を追ってス
ポーツをたのしんでいる。
雨を喜ぶ風情である。仙台
近郊の田園も、慈雨を身
体一ぱいに浴びた農夫の
田植え歌ではずんでいると
いう。例年より早く訪れた
ことしの梅雨である▼しか
し、この雨を津浪の被災地
ではどのように迎えている
ことだろう。やっとかわい
た家財道具も、取り入れる
ところのないまま、ぬれた
ままでいることだろう。牡
鹿半島の沿岸漁民は、泥に
うずもれたノリだなやカキ
の掘り出しに雨と戦ってい
るというし、湾内に沈む
船舶の撤去作業も流されが
ち。屋根を持たない被災者
は炭火をかき集めて、むな
しく水気にいどんでいる。
思うだに胸痛み、悲しみは
激しいいきどおりにたかぶ
る▼しかも、待ってました
とばかり発生した赤痢であ
る。宮城県志津川町はじめ、
石巻市、岩手県山田町、同大
槌町、大船渡市、宮古市と、
被災地のほとんどに患者が
一せいに出た▼周知のよう
に、赤痢ほど伝染経路や対
策のハッキリしている病気
はない。未開地の病気で、欧
米にはないといわれるほど
だが、非衛生的悪環境が生
み、それが口から口へと伝
わるのである。だから破壊
された住居を復旧し、汚水
のまじった井戸や水道を消
毒し、きれいな手で食事を
とればよい—そんなこと
は、もちろん百も承知であ
る。それができないのが被
害地なのだ▼被災者の手の
とどかないことを早急に、
誠意をもってやるのが救援
であるはずだ。赤痢はこれ
からの季節病でもある。患
者の不注意や無関心をとや
かくいうべき時ではない。
患者発生数を、そのまま施
政の貧困を示す証左だと知
るべきだ。“無情の雨”を
一日も早く“慈雨”に変え
ないでは、ともに天をいた
だけではないか。
津波による災害を 心からお見舞申し 上げます
川崎製鐵株式会社
仙台出張所 仙台市名掛丁九一(第一ビル)