津波対策で政府に望む 百年の大計講ぜよ 大きい民間活動との落差
“チリ津波”の恐怖が収まった二十五日朝から、災害地では、被災者が雄々しく復興に立ち上がっているが、国会が空白状態を
続けているため、これまでの政府機関の応急対策は、各省がまちまちの有様。総合的施策は全然見られず、このままでは被災者
は政治の空白の中に置き忘れられそうな心配さえ出てきた。これと対照的に民間では、各種団体が活発な救援活動を展開、それ
が真剣な運動であるだけに、政治と民間運動との落差が目立ち、被災現地では政治に対する批判の声が強まってきている。とも
あれ、現地では政府に何を望んでいるか、各方面から代表者の声を聞いてみた。
途絶した橋の 早期復旧を 石巻市長 千葉堅弥
いま中央か
ら事務当局
がぞくぞく
やってきて
被害の実体
調査をいそ
いでいる。政府関係ではよく調査
官の意見をきいて、予算の十分な
裏づけをしてほしい。石巻の場合
は、被災者の救助はもとよりだが
交通が途絶した万石橋の早期復旧
と、内海橋内外の復旧などを進め
てほしい。このほか復興資金の十
分な貸し付けをねがいたい。
港に三百メートルの 防波堤ほしい 宮城県女川町長 木村主税
いま国や県
の首脳部が
ぞくぞくき
て現場調査
に着手して
いる。こん
ごも地方の被害の実体をつかむた
め、どしどしやってきて、十分に
予算を回してほしい。女川町とし
ては、町の復旧は当面の課題だが
港がV字型で、津波がくれば大被
害をうけることは必定だ。百年の
大計としてどうしても港の西南部
に三百メートルの防波堤がほしい。国は
目先の復旧だけにとらわれず、大
局的な立場から津波対策を講じて
ほしい。
浅海養殖業に 根本対策を 塩釜市長 桜井辰治
こうした災
害の場合、
いつも国の
対策が手ぬ
るいので結
局は弱い地
方自治体にしわ寄せがくる。市の
財政でやれるのはごくわずかだ。
一時的な救援物資でお茶をにごさ
ずに国が長期で低利な資金を融資
するとか、高率の補助金を出して
早急にこわれた住宅を再建してほ
しい。ジェット戦闘機を数台つく
るだけの金が
あれば住宅資
金くらい楽に
出るはすだ。
津波で最も被
害が大きかっ
たのは湾内の
奥地にある浅
海養殖業だ。
この事業が浅
い所ばかりで
やっている
限り、津波や
洪水の被害を
くり返すだろ
う。だから浅
海養殖に対す
る考え方を根
本的に改めて
対策を立てて
ほしい。つま
り、被害をあ
まり受けない
沖合で養殖を
やることだ。
そのためには
防波堤や防
波サクによっ
て漁場を開拓
する方法が必
要だ。国が積極的に開放措置をし
て防波堤やサクをつくってもらい
たい。被害が大きくなるのはせま
い漁場にたくさんのノリ、カキ施
設が立て込んでいるからだ。沿岸
の市として痛切な願いだ。
臨時県会議で 対策打ち出せ 宮城県社会党県議団長 三春重雄
中小企業の
立ち上がり
資金、公共
土木事業を
おこして被
災者の救済
被災漁民に生産復興資金の無償交
付など差し迫った対策が山積して
いる。いまの政府では上からの早
期対策はのぞめない。このため臨
時県議会を召集して、どしどし県
の復旧対策を打ちだすべきだ。公
衆衛生、防疫対
策一つとっても
一刻を争う問題
だ。当面の県資
金がないなら財
政調整積立金を
あてるのも一案
だ。ともかく、
ぐずぐずしてい
られないので、
われわれはあす
からでも街頭に
立ち、救援募金
をやり、広く一
般大衆の協力を
求めるつもり
だ。抜本的な特
別立法の趣旨に
は賛成だが、新
安保をめぐる国
会正常化とは別
問題だ。政府、各
省の首脳陣が東
京にすわってい
ては多くはのぞ
めない。全くけ
しからん。生き
た救済対策が先
決だ。
思い切った助 成金が必要 宮城県漁業連会長 菊田隆一
沿岸漁民の
被害は言
語を絶する
ひどさだ。
家屋だけな
らまだしも
漁民が生きていく手段である共同
施設や漁船、浅海養殖施設が全滅
に近い状態だ。政府が法律で裏付
けされた根本的な救済策を行なわ
ない限り多くの沿岸漁民は二度と
立ち上がれないだろう。これまで
のようにスズメの涙ほどの融資で
はとても手ぬるい。厳密な査定を
した上で思い切った助成金をさす
べきだ。たびたびの災害や不漁続
き、あげくの果て国際的な漁業交
渉などで漁民は不利な立場に追い
込まれる一方だ。伊勢湾台風の借
金すらまで返していない漁民には
税金の減免とか返済期間の延長を
すべきだ。
何よりも国会 の正常化を 宮城自民党県議団 津波対策特別委員長 丹野亀一郎
さしあたり
の衣食住の
確保は県で
やり、根本
的対策は政
府の特別立
法措置のほか手がない。東北各県
の自民党とも手をとり、その実現
に努力したい。こうした大災害の
さいは、災害復旧の技術的面は行
政当局に一任し、われわれは、党
派を離れて政治力を結集すること
が大切だと思う。しかし、伝染病
対策、立ち直り正業資金の貸し付
け、被災者の収容施設の建設など
一刻を争う問題ばかりなので、国
会の正常化が先決だと思う。
被災者収容施 設を整備せよ 宮城県民社党県議団長 平野博
こうした大
災害には県
議会はもと
より、すべ
て超党派で
足なみをそ
ろえることが必要だ。そうした立
場から特別立法による根本的復旧
対策を政府に要望すべきだ。これ
は新安保をめぐる国会正常化とは
切り離して当然やれる問題だ。国
会正常化の道具にされたくない。
そのため、政府の責任者が災害地
の惨状を視察することが先決だ。
一方、復旧対策について臨時県議
会の召集の声があるが、これには
反対だ。県に応急対策をまかせ、
その不足する部分を全員協議会で
随時指摘すべきだと思う。とくに
被災者の収容施設を一刻も早く整
備すべきだろう。公共機関を中心
に一般大衆の協力を求めるため、
一本化した救援募金対策をやるべ
きだ。
貯金払戻しの確保など 農林中金津波対策で決める
農林中金は、チリ大津波対策を
たてるため二十四日東京本部で
緊急役員会を開き、深夜まで協
議した結果、次の五項目をきめ
二十五日発表した。また東北担
当の馬場理事(仙台支所長)は
二十五日夜帰仙、二十八日ごろ
まで被害各県を見舞う。
①貯金払い戻し資金の確保=農協
漁協とも単協・信連の貯金払い戻
しについては、簡単に手早く行な
われるよう全面的に協力する。ま
た災害関係資金調達のため、定期
預金を期限前に解約したい場合は
ただちに応ずる。このさい利息は
定期預金利息を支払う。
②全漁連、各県漁連などに対する
応援=災害関係物資、例えば魚油
などの緊急手配に必要な資金は積
極的に融通する。
③復旧資金などの積極的融通=農
地、水産施設などの災害復旧資金
については、政府、農林漁業金融
公庫などの施策に応じて積極的に
融資する。
④つなぎ資金の特別融通=天災法
による災害資金、自作農維持創設
資金、政府融資、災害関係補助金
などのつなぎ資金は、積極的に融
通する。この場合、信漁連資金は
日歩二銭三厘を二銭一厘に、それ
以外の資金の二銭四厘は二銭二厘
に、それぞれ二厘下げる。
⑤既貸出金の条件緩和=被害状況
により、返済期限の延長などを認
める。
現金補充など 応急措置とる 山際日銀総裁談
山際日銀総裁は二十五日の定例
記者会見で、東北、北海道を襲
った大津波による災害について
「極地的であるため、国内景気
に変化を与えることはあるまい
が、農林、漁業関係の災害が大
きいので、農林漁業金融公庫な
ど政府金融機関の活躍面が大き
いだろう」と、次のとおり語っ
た。
太平洋岸全部にわたって被害を受
けたようだが、宮城、岩手、青森
の東北三県の被害が大きい。しか
し災害が極地的に集中しているの
で、魚価は多少の値上がりは一時
的に起こっても、一般物価が値上
がりし、国内景気に悪い影響を与
えるこは考えられない。現在、各
支店に緊急対策を手配し、本店で
は臨機応変の措置をとれる態勢に
ある。
伊勢湾台風の経験を生かして、支
店では銀行券の引き換え、預金の
払い戻しなど手ぎわよくやってい
るので、いまのところ本店が直接
指導に乗りだす必要はなさそう
だ。しかし、来月十日ごろ私自身
が直接東北の災害地を視察したい
こんどの災害は工場地帯の被害が
少ないため特別融資の心配はなさ
そうだ。その代わり農林、漁業関
係の復興が優先的に取り上げられ
なければならないだろう。そうな
ると農林漁業金融公庫、農林中央
金庫など政府関係金融機関の活躍
に待たねばならない面が多いと思
う。
払い戻しなど で応急の措置 地方銀行協会で決める
地方銀行協会は二十五日、東京神
田鎌倉町の昭和産業ビルで緊急理
事会を開き、東北、北海道の津波
災害に対する金融措置を検討、伊
勢湾台風の災害に銃ずる措置を講
ずることを決めた。おもな措■次
のとおり。
①銀行の預金払い戻しをすみやか
に行ない、定期預金のうち期限内
でも払い戻しを認める。②印鑑、
預金通帳を紛失した被災者には、
本人であることが確認できれば直
ちに払い戻す。③運輸、通信施設
の災害で郵便物の遅達がでており
期日後に着いた手形でも災害によ
るものは期日後でも認める。④不
渡り手形でも災害によるものは銀
行間の話し合いで、二十四日から
六月十日まで猶予する。
また同協会は漁船、漁業施設、
住宅に被害が多くでているので
農林漁業金融公庫、住宅金融公
庫、中小企業金融公庫、中小企
業信用保険公庫に対して災害地
の銀行に対する代理貸しのワク
を拡大するよう要望した。
退陣、解散の意なし 岸首相野党三派代表と会見
岸首相と社会、民社、共産三野党首脳との会談が二十五日午後別個に行なわれた。これらの会談は野党側からの要求で開かれたもので、
会談は午後三時すぎから院内総理大臣室で民社、社会、共産の顔で引きつづき行なわれ、民社党は水谷国会議員団長、曽■書記長、社
会党は浅沼委員長、江田書記長、共産党は野坂中央委員会議長、岩間中央委員がそれぞれ出席、岸首相には椎名官房長官、川島自民党
幹事長が同席した。
会談は形式的にも内容的にも従来
のいわゆる“党首会談”ではなく
野党首脳が総辞職を直接岸首相に
要求して回答を求めるという前例
のないものとなった。これらの会
談で、野党側はいずれも岸首相に
対して十九日夜の会期延長、新安
保条約採決強行の議事を厳しく批
■したのち①岸内閣の即時退陣②
衆院の即時解散③アイゼンハワー
米大統領の訪日中止または延期を
要求して鋭く迫ったが、これに対
して岸首相は
一、十九日夜の議事は■■衆院
議長と政府の責任で運営したも
のだが、やむを得ない措置だっ
た。
一、現在総辞職または解散を行
なうことは“暴徒化”したデモ
など院外運動に屈服することに
なり、議会主義の危機を招くか
ら絶対にとらない。新聞報道や
デモは国民世論を代表していな
い。
一、アイクの訪日問題について
は慎重に考えたい。
などの強気な回答に終始し、会談
はいずれも平行線をたどり、国会
正常化について与野党が歩み寄る
糸口は全くつかめなかった。浅沼
社会党委員長は会談後「首相には
何らの反省がみられなかった」と
感想を述べており、水谷民社党国
会議員団長は「首相の考え方は非
常に甘い。既成事実を設け、冷却期
間を置けば何とかなるという考え
がうかがえた」と印象を語り、い
ずれも首相の態度に強い不満をも
ったようである。
また首相はとくに社会、民社両
党に対して「国会正常化のため
なお今後も話し合いを続けた
い」と希望したが、野党側は首
相が国会を空白化させた責任に
ついて反省しないかぎり、再度
の会談は無意味だとしているの
で、同日の首相と野党首脳との
会談が、国会正常化のきっかけ
となるきざしはほとんど見られ
なかった。
港湾にか なり被害 土木施設の被害
建設省は二十五日、津波による公
共土木施設の被害をまとめた。
被害対策としては二十四日、災害
査定官を岩手、宮城両県に派遣、
現地で応急対策、応急復旧工事を
急いでいるが、二十五日同省に津
波災害復旧本部の設置を決めた。
建設省の調べによると、津波の
波高は八戸市で二メートル、宮古市一
・七メートル、石巻市三メートル、小名浜港
三・四メートルで各地ともかなりの被
害だった。東北地方では八戸市
の馬淵川七ヵ所、新井田川二ヵ
所、高雄川一ヵ所の決壊、釜石、
宮古、大船渡市では小槌川二ヵ
所、大槌川一ヵ所の決壊のほか
県道重茂−津軽石停者場線、二
級国道八戸−仙台線がそれぞれ
二ヵ所決壊している。
宮城県では気仙沼市、石巻市、雄
勝、志津川、唐桑の各町で北上川
決壊五ヵ所、鹿折川決壊二ヵ所、
二級国道八戸−仙台線決壊五ヵ所
県道河北−志津川線決壊十ヵ所、
大原−女川線橋梁、石巻−女川線
橋梁各二ヵ所流失している。福島
県では磐城市で小高川決壊一ヵ所
で、東北四県の公共土木施設の被
害額は一億七千六百十一万六千円
に上っている。
なし
災害お見舞い
申し上げます
大和証券