津波の跡はなお⑦ 津波の宿命背負って… 海を恨み海に頼る漁民
石巻市荻浜
戦後二度目のKO
○…石巻市荻浜部落の入り口
に昭和八年の三陸大津波の直後
に建てた石碑があり、碑文は「地
震があったら津波の用心忘れる
な、火の元注意、先に老幼、
続いて避難
第一」とい
ましめてあ
る。ところ
があの日、
五月二十四
日いは、せ
っかくのい
ましめも役
に立たなか
った。前ぶ
れの地震が
こなかった
ためである
異様な引き
潮をその目
で見ながら
人々は「地
震がきた昭
和八年のと
きでさえ、ほんの庭先がぬれた
程度だったのだから…」と落
ち着いていた。そして「津波
の前には地震を感じるとは限
らない」という新しい”知恵”
を得た代わりに、部落全部で八
十九戸のうち流失五戸、全壊十
五戸、半壊四十戸、床上浸水四
戸の被害を出した。昭和二十二
年に火事でほとんど全滅したこ
とがあり、戦後二度目の”KO
パンチ”は牡鹿半島の入江の奥
の、この小さな部落にとって、
あまりといえばあまりにむごい
仕打ちだった。
夫は北洋に出漁中
○…内海弥生さんの家は半壊
組だった。夫の庄助さんはクジ
ラを追うキャッチャー・ボート
の**員で、目下違い北洋に出
漁中、ほかに頼りになる男手は
なかった。「あの日ほど夫にい
てほしいと思ったことはない」
と弥生さんはいうのである。ま
だ眠りからさめない二人のおさ
ない子どもを引きずるようにし
て、高台にある氏神さま、羽山
姫神社に逃げるのが精いっぱ
い。さすがに赤ん坊のオムツを
持ち出すのは忘れなかった。た
だ気がかりだったのは足腰が立
たず二階で寝たきりだった八十
三際になる庄助さんのおばあさ
んと別れ別れになったことだっ
たが、幸い、おばあさんもやっ
と助かることができた。夫の庄
助さんには会社を通じて翌々日
には無線で家族の無事を伝えた
が、弥生さんにしてもゆっくり
これからの相談を持ちかける方
法がなく、市から借りた一万円
で家に応急手当をしたほかは、
隣近所の復旧ぶりをながめな
がら秋になる庄助さんの帰りを
待つしか道はない。こうした留
守宅は庄助さんと同じ会社の
者だけでも、この近所に十軒ほ
どあるという。
風で漁具もフイ
○…九九パーセントまでは海に頼って
いる暮らしである。その海があ
の日、突然にキバをむき出して
襲いかかってきたショックは大
きい。弥生さんの場合は経済的
な保証があるからまだ上の郡だ
年始むきガキ四千五百万円、雄
ガキ二千万円にのぼる部落の財
産が一日でまぼろしになってし
まったのである。泣きっつらに
ハチとでもいうのか、引いてい
く津波を追いかけるように、意
地の悪い北風が吹きまくった。
カキそのものはもとより、バラ
バラになった養殖用のロープや
浮きダル、さては*つけ寸前の
ホタテ貝のからの山まで家財道
具と一緒に根こそぎ沖へ押し流
された。いまでも持ち主の焼き
印を打った浮きダルが、仙台湾
をへだてた対岸の**海岸など
とんでもないところに打ち上げ
られていることがよくあるし、
つい先日は石巻市荻浜支所に勤
める赤間安治さんの背広の上着
がどこをどう流れたのか、はる
か福島県相馬市の砂浜で見つか
ったとのたよりが部落の駐在所
に舞いこんだ。赤間さんはあの
日夫婦でわが家もろとも浮き
上がり入江の中ほどでやっと助
けられており、現在は奥さんと
別居してそれぞれ親類の家にい
そうろうしている身のうえ。「ポ
ケットにはいっていた手帳から
ぼくのものとわかったのでしょ
う。拾ってくれた方にお礼を送
っておきました」と**に*し
ていた。
”差別援助”へ不安
○…カキをやられて困ってい
るのはここに限らない。麦倉常
長がローマに出発したときイカ
リを上げた月ノ浦をはじめ、石
巻市荻浜地区と呼ばれる牡鹿半
島の十三の部落は大なり小なり
同じなやみをなやんでいる。お
まけに牡鹿半島はあの日、根元
にあたる津波の万石橋がこわれ
たので陸路が途絶え、しばらく
は離れ島になり、国や県でもそ
の実情を正確につかみにくかっ
たという事情がある。いま人々
が待ちこがれているのは、カキ
の養殖をたて直すための資金だ
が、この最初のハンディキャッ
プが援助の面でもたたるのでは
ないかーーこうした不安が人々
の気持ちからなかなか抜けよう
とはしない政治ーー改めてそれが
**されるのである。(足立記
者) =おわり=
津波被災地義援金 24日受付分 (敬称略)
【本社扱い】一千八百四十五円
(宮城県宮城村)宮城村公民館川
前分館▽一千円(同)広瀬婦人会
▽三千円、千代田生命仙台支社職
員一同▽二千六百円(仙台市大
学病院前)**会社良ちゃん社員
一同▽五千円、仙台市荒浜小学校
社会学級▽二千二百五十円(仙台
市原町南目)宮城県美容環境衛生
同業組合仙台東支部員一同▽七千
五百三十円(同市通町)北振海▽
五百円(宮城県金成町)金成中学
校同窓会▽一万円(仙台市東一番
丁)スタンダード・ヴァキューム
石油会社仙台営業所▽五千円(同
市双葉商会内)仙北便利尾組合
【石巻通信局扱い】一万千百五
十二円(宮城県矢本町)矢本高校=
校内外募金
【塩釜通信局扱い】五千円(宮城
県多賀城町八幡)多賀製作所
【古川通信局扱い】一万千二百
五十八円、古川工高生徒会一同▽
二千円(古川市)森新聞店従業員
一同▽二千百八十五円(宮城県三
本木町新沼下沖)青年会一同
【岩沼通信部扱い】七百四十一円
(宮城県百理町)*理青年団▽三
百九十二円(同岩沼町)岩沼保育
園▽五百円(同)小川青年団
【福島支社扱い】一千四百七十一
円(福島市)福島二高生徒会
計 七万六千五百四十
円
累計 一千六百六十二
万六千五百五十
二円
国税庁長官通達「昭和三十
四年直法一ー一六四」によ
ってこの寄付金は指定寄付