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津波とこども 作文集 動かなかった足  塩釜二小 五年 大和 量子

 その日は風一つないおだやかな
朝でした。
 ごはんのしたくをすませたおか
あさんたちはいつものように、
いすのまわりで話し合っていまし
た。私は、その話のおもしろさに
つられて便所へ行くもの忘れて聞
きこんでいました。それはいつも
のわが家の楽しい一日の始めだっ
たのです。それが数分後あんな
おそろしい一日の始めになろうと
は、だれも考えていなかったこと
なのです。
 突然「ゴオー」という変な音
がしました。私は何の気なしに家
を出ようとしたとき、「つなみだ
あー」と二階から、お兄さんの声
がしました。「はやく二階へにげ
ろ」とおとうさんの声。
 私たちは、ただおどおどしてし
まいました。「二階もだめだ。は
やく屋根にのぼれ」
 水はどんどんふえてきます。地
球最後の日のような気がしまし
た。私は、まだ、ゆめをみている
ような気がしてなりませんでし
た。
 二度、三度と、津波は私たち
におそいかかり、さっとひいてい
きます。屋根に登ったまま、おか
あさんのむねにすがって、ただ、
がたがたふるえていました。
 三度目のつなみが去って、やっ
と、屋根からおりようとしたとき
は、だれも、うまくおりることは
できませんでした。なぜって、足
がふるえて動かなかったのです。
 学校にひなんいた妹と私は、さ
びしい一日をすごしました。「ウ
ーウー」となるサイレン、「カー
ン、カーン」となるかねの音を聞
くたびに、教室のまどごしに、家
にのこっている両親や、お兄さん
のことをいく度も、いく度も考え
つづけました。
 午後二時ごろ、がっこうからいただ
いたおむすび、とてもおいしく食
べました。その時のあじは、今ま
でたべたこともないほどの、すば
らしい。ごちそうさまでした。
 つなみもおさまって、家にもど
ったとき、家中はちらかっていま
した。ロロちゃんは、尾をふりな
がら元気よくむかえてくれまし
た。