津波被災地義援金 19日分 (敬称略)
【本社扱い】五千三百二十四円
(仙台市木町末無)ボーイ・スカ
ウト宮城連盟▽一千円(仙台市*
町)子ども会▽五百円(群馬県富岡
市)全日本なぎなた連盟群馬支部
【小牛田通信局扱い】五百円(小
牛田町化粧坂)千田さとわ▽五百
七十二円(小牛田町)中*中生徒
会一同▽百円(小牛田町*山)一
老婆▽四百二十円(浦谷町花勝山)
青年会▽一千円(浦谷町)黄金農
業倉庫従業員一同
計 九千四百十六円
累計 一千五百九十四
万四千五百五十九円
国税庁長官通達「昭和三十
四年直法一ー一六四」によ
ってこの寄付金は指定寄付
金となります。
津波の跡はなお(4) 水田に漂う赤茶気水 無表情の中に困惑と絶望
陸前高田市松原
○…無我夢中だったこの十日
ばかりが過ぎ、やっと人心地の
ついた菅野長治さん(四*)はこの
ごろでは田んぼの水に指をさし
それをなめてみるのが日課にな
ってしまった。朝、田んぼに着
いた時、一
面田んぼを
埋めたドロ
を除く田舟
に疲れた足
腰に一息入
れる時、重
い足取りで
家路につく
時と、菅野
さんは無意
識のうちに
この動作を
何回も繰り
返す。しか
しその舌先
からは苦味
を伴った強
い塩からさ
だけが容赦なく伝わってくるば
かり。「なんじょすっぺなんてい
ったってこの通りだからナー」
無表情の中からも、一瞬、困惑
と絶望の入りまじった感情がよ
く読みとれる。”高田耕土”の
名で呼ばれ、この地方の穀倉地
帯として知られるこの松原地区
二百ヘクタールの水田は、田植え時から
二週間も過ぎたというのにほとん
どは潮が引かずまだ苗を植え
ることができない。一見して潮
を含んでいるとよくわかる赤茶
気た水がそちこちに漂い、また
押し上げられた海や沼のドロが
ひどいところでは三十センチ以上も
一面に田んぼを覆い、用水路と
いわず、田んぼといわず土壌の
すみずみまでに潮がしみ込みと
け込んでいる有様だ。
黄色く枯れる苗
○…「米さえとれてくれれば
田の水なぞ何回なめても何でも
ネェ」ともらす菅野さんの期待
とは関係なしに塩気は一向にな
くなりそうもない。満潮時にな
ると菅野さんの田んぼにはいま
も塩水が、地下からわいてでも
くるようにひたひたと寄せてく
る。それでなくとも、潮止めど
ころか田んぼを分厚く埋めつく
したドロをのぞくので精一杯だ。
しかも田植えがいつできる見通
しがあるわけでない。「昭和八年
の時は、この辺潮をかぶっただ
けでも四、五年は満足に米がで
きなかったがらナー、こんど
はそんなだけでは終わるめェ、
んだども、早くなんとかしね
ばなんねべェー」そして「早く
なんとか」という菅野さんの言
葉には土にしがみつく農民の本
能ともいえる執念がにじみ出て
いるが、いまはそれもただ空転
するだけである。県と陸前高田
市らの災害対策本部では県内外か
ら約四十万束の苗を集める計画
をたて、一応田んぼの整理のつ
いた農家に分けたが植えつけた
苗がもう黄色く枯れ始めたとこ
ろが出てきた。塩分が0・一パーセント
以上ある土壌では稲は育たない
のだ。
雀の涙の共済金
○…こうした中でいま激浪が
分断した高田松原海岸からの潮
の流入を防ぐため、松原海岸裏
の「中沼土手」をふさぐ応急突
貫工事が自衛隊の手で進めら
れた。二十万俵近い土のうが
投入され、十六日なんとか潮止
めできるようになった。一日
も早く田植えができるように
と懸命な努力が続けられてい
る。しかし、ことしは収穫皆無
のところは相当面積出そうであ
る。苗を植えるあとからつぎつ
ぎと枯れてゆくのを目のあたり
見ながら菅野さんはこういう。
「枯れるとわかって植えるのは
農業共済金を多くもらえるから
なんではない。第一植えて枯れ
たからといって給付される金額
は十メートル当たり四十円ばかり。そ
れはもらわないよりはましだが
百姓にとって一番心配なのはこ
れから先、何年米がみのらなく
なるというごったー」そして
やり場のないドス黒いドロを積
んだ田舟に力なげに目を落とす
融資もヌカ喜び
○…ところで菅野さんは最近
になって耳よりな話を聞いた。
被災農家に農林中金かどこかで
農協を通じ二十万円を年利五分
二十年の年賦で貸してくれると
いうのだ。*交をはじめ、中学
校などに通っている子供五人を
抱えている菅野さんは頼みの田
んぼを流され、それ以外しっか
とした生計の道がないだけに真
っ暗な中で一つの光明を見出し
たように思えた。「……んだども
よく聞いてみると、その対象と
なるのは一ヘクタール内外を耕作してい
る人に限るんだどよ。おらァみ
たいな暮らし向きの悪いのはど
ごまでもダメなんだナー」菅
野さんは二〇ヘクタール余りしか田んぼ
をもたないこの”零細”をいま
ほど深刻に感ずる時はないとい
う。しかし、松原地区でも一ヘクタール
内外の面積を持つ人たちは数え
るしかなく、ほとんどは二〇ヘクタール
から三〇ヘクタール、多くて五〇ヘクタールの耕
作者だ。こうした事情をよく知
る内藤岩手県大船渡農林事務所
長は「いまのところ、除塩作業
は関係法律では補助の対象外に
なっているが、伊勢湾台風の時
は特別立法で除塩そのものの事
業に九〇パーセント、各土に五〇パーセントの補
助を出しているのだから、決し
て政府の力でこれらの農家を救
えないことはない」という。そ
して市町村本部のある人は次の
ようにいうのである。「こうし
た”零細”の声を拾い上げる政
治こそが本当の政治なんでしょう
がね…」(小池記者)
【写真】田舟でショッパイ土を
運んではいるが…