津波の跡はなお この先どう生きよう 資金不足、もうできぬ磯漁 岩手県山田町織笠
家財一切を波に
○…「これでも打ち直せばど
うにか使えると思って…」いま
にもちぎれそうな五、六枚のワ
タきれをサオにかけながら、そ
んなボロにまで執着しなければ
ならない自分をいとおしむかの
ように佐藤ちせさん(三六)は寂し
く笑う。津波の日からもう半月
ー部落の復旧は少しずつ進んで
いる。何十人もがひしめいてい
た被災者収容所の小学校は二家
族、三家族と荒らされたわが家
や親類の家に引き揚げてさびし
くなってきた。一人は畳を干し
波に破られたガラス戸に板を打
ちつけ、家財道具を洗って生活
の立て直しにいそがしい。だが
佐藤さん一家は
何をどう復旧す
ればよいのだろ
う。ボロワタと
八人の家族だけ
を残して、家屋
も家具も漁具も
小舟もみんな波
に持ち去られ破
壊されてしまっ
た。そして、家
が残っていた借地も、この津波
を機会に立ち退きをせまられて
いるという。復旧の手がかりさ
えもないのだ。
細々と収容所生活
○…音もなく海は沈み、また
盛り上がって岩手県山田町織笠
部落に押し寄せた。ちょうどワ
カメ開口の朝「津波だぞう」
と呼び交わす声の中を佐藤長一
さん(三七)は死にもの狂いで舟を
漕いで岸に帰り、波に追われな
がらちせさんと子どもたちを連
れて裏川に逃げた。波は織笠川
の堤防を破り、引き揚げざまに
佐藤さんの生活を根こそぎ持っ
て行ってしまった。織笠部落は
六百戸のうち流失。全壊七十三
戸、半壊百三十七戸、床上浸水六
十戸と山田町のうちでも一番ひ
どい被害を受けている。水の去
ったあとは赤痢の発生、町から
の水道が機能を止めたためで、
十人の患者が出た。長女の峰子
ちゃん(三才)も赤痢になり町の病
院に移された。乳のみ子をかか
えて手の放せないちせさんに代
わり長一さんが病院に泊まり込
んで看病している。ちせさんと
小学校五年、三年、一年、六歳、
三ヵ月の五人の子は収容所で
「どうやら生きている」という
だけの生活を送っている。
何でも売ってるが
○…現金をみらったときが一
番うれしかったという。町役場
支所を通じ、最初は千五百円、
続いて千円、計二千五百円が八
人家族を半月間支えてきた。金
のほかに分配された物資は毛布
八枚、カンヅメ、乾パン、衣類
若干。「きのうは衣類をもらい
ました。ちょうどこの子にぴっ
たりでした」学校を休み、井戸
ばたで赤ん坊の子守りをしてい
る次男の竜次君(九才)を見つめな
がらちせさんはいう。だが、ぴ
ったりだったのは夏を迎えるの
に皮肉にもオーバーだったので
ある。「部落に靴下が五十一足
届きました。ところがみんな片
ちんぱ。日赤を通じてくる衣類
は使いものになりますがその他
はボロが多く雑巾になるだけで
す」支所の人はそうなげいてい
た。「町の商店に行けば何でも
売っています。立ち直るため少
しでもほしいのは現金です」
焼くものもない
○…「どうすればよいのだろ
う」ーおだやかな海、校庭を
遊ぶ子、二つ、三つ新しい木の
*で*った家をながめながらち
せさんは返答のない問いを自分
に投げかける。応急住宅の申し
込みはしたものの希望者全員が
入居できるわけではない。町は
応急住宅にはいれない人々のた
め公民館を改造してはいっても
らう考え。佐藤さん一家もそう
するより仕方がない。*力がな
いので小舟を造ることはできず
磯漁に一家が頼る希望は失われ
ている。たとえ、小舟があった
にせよ、荒廃した漁場でワカ
メやウニの収穫があるかどう
かー。七日から織笠部落では
使えない家具や衣類、木片を河
原に集めて焼いている。いつ燃
え尽きるとも知れないゴミの
出ー。「わたしたちはみんなな
くしたので…」とちせさんは
煙にむせ、腰を落とした。「なに
も焼くものはないのですよ」
(太平記者)
【写真】役に立たなくなった家
財道具を焼く煙が海岸に続く
(山田町織笠で)
津波被災地義援金 12日受付分 (敬称略)
【本社扱い】▽一万五千円(仙台
市南町通)ニューフロリダ従業員
一同▽一千円(同北材木町一四二)
宮城**株式会社仙台出張所▽
一千百十六円(東京都)保善高
校▽七千七百五円(仙台市東一番
丁)藤崎従業員組合▽三千百五十
九円仙台市五城中一年十二組有志
(街頭募金)▽一万九千五百円(仙
台市東八番丁)*ヶ岡西部町内会
▽一千二百円(同東一番丁)成*社
従業員一同▽二万円(富山市南田
町一九六)入部元次郎▽二百円(宮
城県小牛田町)青生青年学級一同
▽五百円(仙台市東三番丁)宮城
学院一生徒▽三千二百五十円(同
小田原)小松島市営住宅懇親会▽
四千百十一円(同鶴ヶ岡)生長の
家宮城県高校生連盟▽一千五百五
円(同)長*成子ども会▽六百円
(同)下荒井子ども会▽一千円(宮
城県矢本町)下町青年団一同▽一
千百円(同若柳町)七十七銀行若
柳支店職員一同▽一千六百円(同
泉町)七北田女子専修学校生徒一
同▽一千円仙台市原町小田原大梶
会
【白石通信局扱い】▽四千六百七
十五円(白石市駅前)仙台交通白
石営業所親交会
【小牛田通信部扱い】▽四百五円
(宮城県通谷町)仙北鉄道通谷営
業所青年婦人部募金会
【角田通信部扱い】▽五百円(宮
城県丸森町)小斎青年団▽四千円
(同)丸森町連合婦人会
【季館通信部扱い】▽一千円(同
粟駒町尾松)青年団一同▽一千円
(同季館町富野黒*)鹿島会
【山形支局扱い】▽一千円(山形
市七日町)鶴之巣会一同
【村山通信部扱い】▽八千二十円
(東*市神町)陸上自衛隊神町駐
とん部隊隊員一同
【河北新報仙台販売会社*町支店
扱い】▽三千六百五十円仙台市育
英商業高校生徒会一同
【同社富町支店扱い】▽八千三百
十円仙台市小松島町内会▽一千円
(同原町小田原)仙台小田原母子
寮一同
【同社南小泉支店扱い】▽五百円
(仙台市南小泉中文化)加藤善吉
計 十一万九千六円
累計 一千七十九万八
千二百六十四円
国税庁長官通達「昭和三十
四年直法一ー一六四」によ
ってこの寄付金は指定寄付
金となります。