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チリ津波の恐ろしさ歌う  宮城県女川一中三年生の短歌集

本社は、チリ津波の作文をつのっておりますが、
毎日寄せられる多くの作文に感激(かんげき)
しております。これらは十五日のしめ切り後、
新聞(しんぶん)にのせてゆくことになります。
これとは別に、宮城県女川一中学校三年生か
ら「チリ地震津波短歌集」がおくられてきまし
たのでのせました。津波にあった方々のみたも
の、かんじたものを、大
へんじょうずにあらわし
ています。みんなで、こ
の苦しさとたたかってい
るおともだちをはげまし
てやりましょう。
 高橋 朋子
づとん干す祖母のやせた手潮くさく津波の整理に忙し
避難する母と子の場所違いたり母よわが子よと泣き叫んでる
水欲しと山を下りて来て見れば家の前まで潮来たる跡
言葉なく津波のくりかえし眺めつつ母のつくりしにぎり飯食う
買い物に行った母達何も得ず津波の恐ろしさ語る
 高橋 洋悦
大津波被害与えて立ち去ればわが家を見つめ途方にくれる
初めての津波に出会い驚いて夢のようだとみんなで話す
日が沈みろうそく灯し床につきいつまた来るかと夜も眠れず
サイレンで津波警報受けてすぐ汗を流して荷物を運ぶ
 平塚 邦子
家のまれわが家の跡に立ちつくす親子の姿あわれなりけり
天災にうらみはなしというけれど手出しもできずこのつらさかな
いつくるかわからぬ津波恐ろしと海の彼方を見つめる姿
井戸端で着物を洗う母の顔疲れのためかふけて見えたり
 相原 ふみよ
友の家訪ねて行けば水びたしはだしの友のぼんやりと立つ
避難所の電灯つかぬ部屋なかに着のまま寝込む不安な一夜
震源地どこぞと問えばチリとやら驚くわれにまたよせる波
 木村 征郎
波のためつぶれかかりし我家も昨晩までは楽しい家庭
波が引き家はどうかと来てみれば柱は折れて傾きており
 阿部秀二
朝早く津波来たぞと大騒ぎみんな見ている高台の上
夕暮れに静まりかえる家々にただしょんぼりとたたずむ人かな
 渡辺祐弥
朝早く起きて走れば大騒ぎもう海水はあふれ出ていた
山の上心配そうな母達が自分の家をふりかえりみる
 佐藤清子
津波の後女川町に出てみれば見知らぬ町に出て来たようだ
山の上どこを向いても避難者がただぼう然と波を見ている
 藤田 愛子
サイレンに寝まきのままで外に出て火事かと思い空を見るなり
避難して家まで来ぬと知りてなお一層に腹がへるなり
 佐藤長子
朝起きて津波だといわれ海見れば水がさっぱりなくなっている
恐ろしいこんな津波をただ見てて何も出来ないこのくやしさよ
 鶴田 博子
海岸と山に挟まれた木材はこれがみんなの住んでた家か
被害なしと鼻歌(はなうた)うたう大人達これが大人の世の中なのか
 鈴木千恵子
サイレンの音を聞くなりとび起きて火事かと思えば津波警報
津波にてぬれた品物安く売ればそれでもまけろという人がある
 木村 昭
津波去りわが家の財産さがさんと一家総出で町に出でたり
 谷 文彦
商人はゴミと混じった品物を道路へ出してえり分けている
 青木 勝
子供泣きミルクも買えぬ母親は悲しい顔してあやしてるなり
 根本 勝利
住む家を波にさらわれぼう然とたたずむ友に何と慰さめん
 霜山 忠男
僕の家被害を受けずよかったがおにぎりつくり忙しそうだ
 木村 忠勝
消防のおじさん達はありがたい材木よけて道路つくりだ
 池田 正彦
自衛隊のスコップふるう音に励まされ町の人々復興に立ち上がる
 千葉 幸喜
津波来て逃げつつ見たるわが家は波にのまれて流れるばかり
 伊藤 永治
たきかけのご飯を食べて被災者の家なき人を思い浮べる
 菅野 静香
家なくして野宿している人もいるあわれなりけり泣き伏している
 阿部 俊之
自衛隊汚物整理に働いて引きあげる姿たくましく見ゆ
 堀松 勝彦
農業と汚水に暮れて早七日きょう役場員が消毒して行く
 佐藤 良一
大津波一回二回とおしよせて家をこわして引いて行くなり
 遠藤 美恵子
自衛隊がかたづけている町の道ただありがたく通り来にけり
 阿部 玉枝
つぶされたわが家見おろす人々はただぼう然とものをもいわず
 鈴木 冨子
津波来てあっという間に苦労してためた財産深い海底
 鈴木 きり子
知り合いの家へ呼ばれて(た)き出しのおにぎり食べて元気づく
なり
 山本 福子
**りて急いで起きて外見れば海水速く引いていくなり
 阿部 *子
今に見ろ大きな波が来るからといわんばかりに引いて行く波
 佐々木 恭子
カモメ達牧舎の屋根に集まりて被害のひどさを語っているのか
 遠藤 和子
草花は潮水かぶりて枯れて行くことしは咲かぬ花畑見る
 飯島 信子
津波との声に目が覚めあわて起き急いでカバンに教科書入れる
 新妻 つま子
濁流に押し流された家を見てわが家いかにと背伸びして見る
 水沢 和子
新築の家を*されぼう然とたたずむ母は無表情なり
 相沢 恭子
せなの見は津波のことを何も知らず深い眠りにふけりおるなり
 阿部 弘子
わが家の夕餉(ゆうげ)はいつと問う子あり答える母の眼に涙
 木村 幸子
流されて住む家なしと息子にかける**の前で老婆泣きおり
 平山 正子
波が来てせなにおいたる子供をばどこへ行ったと騒ぐ母かな
 村井 惠子
パラックの家より出でて登校する弟の家さびしかりけり