震災地二つの研究 三つに別けられる 今度の津浪の性質 本郷型、気仙沼型、綾里型の三つ 林博士の調査発表
三陸沿岸津浪の習性及び沿岸地形調査の為に二十四日本県水産試験場指導船早池峰丸に便乗女川を出航調査し続けて居る東北帝大海洋学研究室理学博士林喬氏及び地質学古生物学教室理学学士江口元起氏の一行は二十六日釜石に一泊、二十七日県水産試験場長岡技手の案内で宮古に向け調査を継続すべく出航したが林博士は語る。
三陸沿岸の気仙沼、広田、大船渡、綾里、越喜来、吉浜、唐丹釜、石、両石、大槌、船越、山田久慈等の十四湾を見るに非常に深かく釜石広田は八十メートル大槌五十メートル比較的浅い高田松原附近でも九メートルはあります。こんな所にもって来て防波堤を造ることになると少しばかりの経費では出来ませんかりに造ったとしてもその防波力は甚だ当てにならんものです。今度大船渡湾に付いて三回調査した所によると津浪の進行方向は、そう簡単に片付けてしまうことの出来ない重要性をもっていることが判明しました。
今回の津波は明治二十九年の時の津浪と同一方向でやって来て居ます。三陸の津浪は関東、関西に於ける津浪とは異った性質をもって居ます。今回津浪の進行方向を始めて調査した結果一層此の点が明瞭になりました。本県の湾港の形状はリヤス式地形と称しまして湾口がすべて北に向って開いて居る。それに砂浜はなく岩壁だけです。九十九里浜などとは全然地形を異にして居る。故に津浪がどれだけの力でやってくるか判らぬ。防波堤でいい例は宮城県牡鹿郡の大原村の鮫の浦に於て御大典記念に出鼻に防波堤を造った結果明治二十九年の津浪では被害がなかった同村が今回は此の防波堤に衝突した浪が廻り津浪となって其猛威を振るい民家の大半漁船を海中にまき込んでしまった。是非防波堤を造るなら位置の問題をよく考えねばならぬ。本県は特殊な海岸地形をなして居るので津浪の襲来する方向が夫々異なる。防波林も何んの用をなさん。其のよい例が、小友村で経一尺五寸位の松木林がボキンボキン折られて居る。亦明治二十九年の時の津浪の例であるが、釜石町須賀海岸にあった経二三尺の松がへし折られて今でも其株が残って居ると云う話もある高田松原の例をとって旺んに防波林の効能書を並べて居る人もある様だが、高田松原は浅く砂浜となって居り、此の例を直ちにとって他の湾にやろうとは調査粗漏です。
私は今度の津浪を三つに別けました。一つは『廻り津浪』これは破壊力最も旺盛で本郷湾においてよくその性質を見ることが出来ますので本郷型とも呼びます。二は『引き津浪』力は弱い方です。気仙沼がそれです。気仙沼型です。三は『潮ふき津浪』です。広田湾から久慈湾までの各湾は右にまいた廻り津浪、釜石湾から高田湾までの湾は左まきの廻り津浪で、いずれも被害が大きかった。同行の江口君は海岸地形を調査して居ます。四月一日までに調査をすまして帰仙、三日仙台で地震学会が開かれるので此の席上で各自の調査した結果を発表綜合的なものとするつもりです。兎に角漁村では船が一番大切です漁船の流失防止対策は是非共必要です。
津浪の発光と 魚の異状生態 東大武者学士の研究
東京帝大地震学教室理学士武者金吉氏は地震及び津浪と海中生物の特異関係の研究者として学会にしられて居るが今回三陸沿岸に就いて調査する為め来県二十四日宮古から調査を進め二十八日来釜同夜は佐々木旅舘に一泊二十九日越喜来方面に向った往訪の記者に次の如く語った。
二十四日宮古から調査を始めました、この辺から南が重要であるので南へ向って調査を進めます今回の調査の目的は津浪の発光現象と魚類の異状生態に就いての調査です。此の発光現象は明治二十九年の三陸大海嘯の際もあり未だにその何物なるかが諒判然として居ない。
私の知っている範囲ではヨーロッパには此の発光現象はない今迄の調査では発表する迄材料が充分集っておりません。魚類の異状生態についても昨年は鰯■が小気味悪い位大漁であった等々の事実をも少し集めあて研究したいと思っています。私は三陸沿岸は初めてですが景色のいい事は瀬戸内海以上です。それよりもっと美しいのは地方民の人情の厚いことです。お世辞ではありません。一日つぶして私の調査の案内をしてくれた漁師さんには涙が出る程有難かった。それから今日役場に町長さんを訪問したら津浪を予防するにはどんな方法がいいかと聞かれましたので小学校の生徒に津浪の知識をあたえることですと話して来ました。貴い人命の被害を減少するには小学生の頭へ強く入れることです。津浪の知識を与えるたって一年か二年は続くでしょうが永続は覚束ないでしょう。それ故釜石なら釜石で郷土続本を作ってその中に津浪の一項目を入れ津浪の理屈などはどうでもいいから先ず直ぐ高い所に避難することを訓練づける。
此の意見には町長さんも同意しました。それから道々感じて来たことは土佐あたりに行くと何年の津浪は水が此処迄来てこれだけの被害があった等等津浪の記念碑に明細に記録してあるんですが今度通って来た海岸には記念碑は二、三ありましたが当時の記録をきざんで居るものがありませんので残念に思って釜石迄きたのですが今日町内の石応寺で以前の津浪の模様がこと細かに記され山門の両側にかけられて居るのを発見して非常に愉快でした。
(写真は石応寺前の武者教授
中村博士と 林博士帰仙
沿岸各地の地形、地質を調査中の東北帝大中村左衛門太郎博士は三十日林博士、江口工学士の一行と釜石でおち合い一行は午前中両石を調査し帰仙の途についた。
三陸海嘯 義捐金(三月卅日迄本社扱い)
金五円青森県田名部町岩手県人会金五円気仙郡世田米村山内新聞店東部青年団 金一円川崎市M生H生K生
小計 金十一円
累計金三千三百十二円九十一銭也
県扱い(三十日)
二円二十銭岩手県庁社会課課員 三十四円三十四銭三重県尾鷲町各小学校職員生徒 二円九十二銭埼玉県櫻田小学校職員生徒 五円東京市御高西尋常小学校赤川泰子 同純子 八円福島県喜多方町東友会員 四円大更女子青年団団員 十五円秋田県土崎港町西船寺川■人伝友会会員 九円三十五銭千徳村女子青年団団員 二円四十銭同青年訓練所所員 八円上長山尋常小学校職員生徒 二十円埼玉県八條村仏教会会員 二円満州派遣第八師団第五連隊第一大隊機関銃隊佐藤政男 三十円神奈川県伊勢原町長田中音吉 二十円郷軍東京本郷区分会林町班班員 二百二十円東京市仙台同郷会 三円新潟県山村大法 百七円四十二銭新潟県大江山村扱分一円石川県小山熊吉 十円若松市■場小路青年会会員 十円同北分会内戦友会会員 三十五円新潟県内郷村泉婦人会会員 二円五十銭東京府三■尋高小学校高等科二学年 四円十銭兵庫県来位消防組第一部部員 百五十一円七十一銭下閉伊郡川井村門間村組合長下総百司 五円郷軍岩手軍太田村分会会員 十円岩手毎日新聞社扱分
日計 七百二十二円九十四銭
累計 二十六万二千百六十円九十八銭