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配給品の偏食から  罹災地に感冒続出   捨てて置けば悪疫流行は必然    県衛生課で対策

県衛生課では震災以来災害地の傷病者につき毎日状況統計を取って居るが最近連日随像的に感冒患者が若干名づつ増加して行くので県衛生課で驚いて居るが二十二日現在の各警察署別の傷病者を見ると負傷者はさかり、釜石、宮古、岩泉、久慈署下全部で三百九十名でさかり署下の百六十四名が筆頭である。感冒患者は七百五十二名釜石署下の三百十二名さかり署の百三十八名宮古の百二十三名が多い。肺炎は久慈十四名さかり十一名計四十一名胃腸疾患は交通不便な岩泉署下の百八十二名を筆頭に四百三十四名で全部の傷病者一千七百五十六名で全部の傷病者一千七百五十六名に達して居る。右につき東海林衛生課長は語る。
 感冒、胃腸病者が毎日二三十名づつも増加して行くのは明らかに配給食糧品に依る偏食から来る病気でこの侭推し進めて行けば夜盲症、脚気、白米病更に伝染病が猛威を揮うことになるだろう。これ等を予防するためには一にヴィタミンの補給による外なく脂肪分の筋子、ニシン、ゴマシオ、キナコ、イワシの粕漬等の簡単に副食物に出来るものを救援に待つばかりである。

生活難から  医師逃出す   重茂種市大槌の各医師に    県で診療費手当増額

本県東海岸の罹災地は凶作に次ぐ銀行破綻、アワビの売行中絶等々の不景気に次ぐ今度の災害なので罹災地の一部では小学校教員でさえ昨年八月以来俸給不渡りの村さえあり医師にあっては罹災地のさかり、釜石、宮古、久慈署下で医師ある町村は二十五ヶ町村で医者なき村は十一ヶ村に上って居るが右医師のある町村に於いても公費一千円以上の支給を受けて辛くも医師が所在して居る村が十ヶ村もあるが打ち続く不況に医療費完納するもの少なく到底一家を経営することが出来ぬとあって逃げ出すもの続出し二十二日重茂村医師が逃げ出したが之より先種市村大槌町医師も他に去ったので県では大いに驚きこの調子で続々医師に逃げ去られては今後の傷病手当に支障を来すとて対策を講ずることになったが差当り診療費並に県手当の増額を計画し罹災地医師の足止めをすることになった。尚公費一千円以上支給の村を挙げると左の通り。
 ▽越喜来一五〇〇円▽綾里一八〇〇▽唐丹一五〇〇▽船越一六五〇▽津軽石一二五〇▽小本一二〇〇▽田野畑一三〇〇▽野田一一〇〇▽種市一四一五

両氏救療事務嘱託

大橋県医師会長、鳴川薬剤師会長は二日県から震災救療事務を嘱託された。

風評退治に  釜石二町議出県   魚を安心して食って下さい    復興の痛手と語る

最近沿岸から水揚げされる鮮魚の腹から女の髪の毛や子供の腕が出たなどという風評が立ち復興に燃ゆる漁師たちに大きな痛手となり折角の魚も売れ先がないという有様で当業者は悩み抜いている。廿二日右の噂を打消すため釜石町議平野庄五郎白土末吉の両氏は出県し県当局と対策を協議した足で本社を問い左の如く語った。
 アンな馬鹿な話しはあるべきでありません。若しあったとしたら私たちから生魚を食わない事になり或る一定期間漁をしない事になります。噂さを掲載した新聞を読んだ顧客は之を信じて買わぬという事になりました、国でも県でも私たちのために復興を助力して下さっているのに折角その途についた当業者はいったい何をすればよいのでしょう。ある得べき事でない事が真実のように伝わった事を悲しんで居ります。安心して買って下さい。

死体一名発見

田老村の潜水作業は前日に引続き廿一日も行われたが中井清一郎の死体一名を発見したのみであった。

罹災地の怪聞 強震来の  怪放送   緯度観測所に   問合せ続々

(水沢電話)十六日朝水沢緯度観測所に電話して
 昨夜ラジオで放送されました事について伺いますが去る三日の地震以上に強い地震が来るといいますが本当でしょうか。
と問い合せて来たものが三人もあり観測課長の池田技師を少なからず面喰らわせたが右について池田氏は語る。
 どうも変ですよラジオでそんな事が放送されたでしょうか若し放送した者があるとすれば多分モグリ発信装置をやっているものの仕業ではないでしょうか。それだとすれば事穏かではありません。流言飛語だと思いますが勿論そんな地震は来る心配はありません。

某海岸の  怪事件   死体番人代で   吏員の酒盛り

(久慈電話)社会大衆党九戸支部の嵯峨、水上外三名は廿二日八重樫久慈署長に会見し次の如き不正事件を告発し時節柄注目されて居る。右は某海岸に於て海嘯に際し溺死した長沢某の死体処分に対し某役場吏員が死者の引取人より死体の番人青年消防等の酒代棺代大工賃死体番人食費焼賃等の名目の下に合計金廿一円六十銭を強制的に徴収し之を役場吏員間に於て酒色の資に充てあまつさえ配給品の缶詰漬物等を酒の肴に用いたと云うので久慈署では関係者召喚取調べ中。

救恤金一千円  騎兵旅団下  将兵、夫人会

盛岡騎兵旅団下将兵一同は将校夫人会と共同し三陸地方罹災者の救恤金一千円を二十五日まで取纏める事になった。

死の床を探る  五百の魂を呑む海に潜って   田老湾作業を見る

(宮古電話)五百に近い死体を探す田老村の潜水作業の実況を見るべく記者は二十日田老に向った。
作業にかかるまでにはポンプの装置や準備でかなりの間があるので上陸してみる田老村と近在の消防自警団員が元気一杯で各地からの慰問品を配給すべくトロで遙かに見える役場まで運んで行く遽か造りの軌道、細い板の線路に薄金を打つけてあるだけであるが而し僅か二旬ばかりで此の復興振りに頭が下がるバラックながらも家が百五十戸ばかり色とりどりに建てられどの家にも着物やふとん綿が乾されてある生き残った牛数頭之も復興のお手伝いに浜から役場迄荷の運搬を何回と繰返して居る至る処に金槌、鋸の音も新しく村人は大人も子供も皆大工さんとなり屋根葺きとなって働いて復興の意気に燃えているのも頼母しい。役場近くの大きな石に
 罹災者に対する食料給与は来る二十二日付爾後は各自任意の生法をなす様それぞれ準備せらるべし    田老村役場
と貼り出されて居る。役場にはそれ以上配給する食料品がないとの事気の毒な罹災者達暗い気持になる村長の関口さんも近頃は非常な元気になって万■の指揮に余念がない。
 学校の入口に来た時担架で運ばれて行く患者にあった五、六人の生徒達が見送っているので訊ねると津波で重傷を負った吉田先生が重態になったので宮古病院に行くのだそうな。教員室では先生達が何か協議して居られる学校は愈々二十三日から授業を開始することになって居る。児童は六百二十九名中百十四名死亡しているが学校の編成は変えずにやるそうだがポツリポツリ空席になった友達の席を眺めては生残った児童の幼い心にもさぞかし友恋しの新しい涙がにじむことであろう。診療室では前日から引続き予防の種痘が行われている、三日以来ずっと診療を続けておる恩賜救護班の人達も心持やつれた面持ちだ、衣類さえ更えたら罹災者と間違えられそうである、医師の談によれば近頃は震災常時より外科患者が少くなったが反対に寝具や食物の関係で感冒、胃腸病等の内科的患者が激増したとのこと。なおこんな不潔な生活を続けておると伝染病でも発生したらそれこそ手がつけられないと懸念していた。
午前中の潜水作業は右岸一帯を行ったが徒らに海のロボットの姿にも似た潜水夫が空手で浮き上るのみで屋やや
張合抜けの態であった。潜水夫の人達に聞いてみると今日は海水がすき透ってよく海底が見えるが非常に冷たいそうである。昼食後再び作業が続けられ午前と反対の左岸の捜査に当った。依然何の収獲■もない潜水ポンプを上下しておる人々も見守っておる一行もいよいよ今日はダメだと観念して、打切りの四時が近づいたときだった。始めて懐中から力強い合図の綱がグイと引かれた。
 一同スワとばかり緊張し一斉に水面を見詰めるポッカリと大きな潜水夫の頭が・・・・・・続いて■右手に五つ位の裸体の子供が抱かれているではないか。次いでいま一つ■も気色ばんで引上げられる、また一つ若い娘さん半裸体の姿である。潮流の関係で一ヶ所に寄せられていたものだ、この辺から僅か三十分足らずの間に大人二人、子供三人の無残な死体が発見された、五つの骸が浜辺に並べられるや『死人が上った、上った』といち早く村人たちが聞きつけて群がりよって来る、そして死人に馴れていたものの流石に皆顔を曇らせて若しやと一々死顔をのぞく『赤沼のイサ坊だ・・・』と誰かの口から叫ばれる。身許の判明したのは三つになる女の子であっただけ、いくら寒いときでも半ヶ月海水で洗われた上に顔から手足にかけてむごたらしい創である中々識別がむづかしいのも無理がない、これらの人々も折角見つかったのだ■■■に■らわないが・・・・・・。夕闇迫るころ少し波立ってきた海上を■■■に一路釜石港へ向った(峯谷生)。

三陸海嘯 義捐金 県扱い(二十二日)

三円五十銭東北六県染物業連合会(仙台市)代表武田楽工場 二十円盛消防組一同 三十五円五十七銭岩手県種畜場一同 十一円七十銭白山村長取扱 五円二十五銭藁川村根田青年団一同 五十円三十二銭岩手県木炭検査所千葉喜蔵外三十八名 七円五十銭岩手県木炭移出同業組合一同 二十円横須賀市料理飲食店組合一同 五円東京市原町至誠会一同 四十三円東京市千東東部町会 三百円郡山市長取扱の分 廿五円七十六銭上有住村長取扱の分 七円東京市下谷第一青年訓練所生徒一同 七円九十銭長野県志賀村長取扱分 三百六十円七十二銭静岡県三島町長取扱の分 二十円御明神村青年団員一同五円十九銭兵庫県大沢小学校職員児童一同 千円帝国水難救済会会計課一同 十円東京市東大久保親東会一同 百円東京市厩橋四丁目町会町会長早川三之助同在郷軍人四丁目組長岩崎清一 八円東京淀橋区青年団西落合分団員一同 八十円東京市帝国在郷軍人分会本郷分会林町班 十五円東京市■戸町法話講一同 十円川井村川内川夏自警団一同 六円五六銭大川村浅内小学校児童職員一同 四円二十銭同浅内青年支会一同 一円六十銭同浅内女子青年団一同 二円三十銭同大川村軍人会第三班一同 二円軽米町青年団尾田分団一同 三円同長倉分団一同 二十六円五十五銭同同上舘分団一同 十四円八八銭同増子分団一同 九円二三銭同軽米町演芸団 二円神奈川県菅井小学校職員児童一同 十一円五一銭朝鮮咸鏡道市原弘現 九円秋田県大沼得壽 十七円三五銭清水市青果乾物市場仲買人組合一同九円五十銭浄法寺青年支会一同三円七七銭千葉県万才小学校少年団一同 十三円五十銭埼玉県大和田町小学校鳥塚八郎外四十三名 十四円九五銭浄法寺女子青年団浄法寺支会一同 五円山口県沖浦村戸田津■木支部女子青年団一同 九円四一銭千葉県東清小学校職員児童一同 三十五円六二銭東京市池袋丸山会員一同 十円六三銭下関市竹崎少年団一同
日計二千三百六十三円九十七銭
累計二十四万〇三百六円五十三銭