土木関係 震災復旧復興計画 本県土木課発表
土木関係被害状況 土木関係の被害は直接地震に起因するもの絶無にして総て海嘯に依りて破損せられたるもののみなり従って海岸に接近せる道路橋梁河川並に港湾にして低地部を有する宮古以南の海岸に於て被害甚大なり目下工事施工中の産業振興並に匡救土木工事中港湾の被害最も甚大にして八木築港に於ては工営所並に『セメント』倉庫等建物は総て流失し土木技手一名小使一名怒涛に呑まれ行方不明となり久慈築港に於ては工営所は大破し『セメント』倉庫は流失し土木技手一名負傷し釜石港に於ては工営所及工事中の『ケーソン』台等流失し倉庫は幸に流失を免れたも大破浸水して『セメント』は過半使用に堪えざるに至り大船渡港においては幸いに建物の流失を免れたるも工事中の鉄矢板を一部破壊せられ工営所長は足部に負傷する等数名の死傷者を出したり然して各工営所共工事用器具機械其他の材料等は流失又は破損せるもの多く折角進捗中の工事も多大の手戻を生じ本年度中には到底予定の工事を遂行すること困難となれり災害復旧費見積り額左の如し。
震災復旧費見込表 三月五日現在
種 別 道 路 橋 梁 河 川 港 湾 計
ヶ所 金額 ヶ所 金額 ヶ所 金額 ヶ所 金額 ヶ所 金額
県一般土木工事 一〇五 一七三、一六〇 三一 二一一、四八〇 一 六四、〇八〇 一三七 四四八、七二〇
県匡救土木工事 三 七、一三八 — — — — 四 一四四、一■二 七 一五一、二八〇
小 計 一〇八 一八〇、二九八 三一 二一一、四八〇 一 六四、〇八〇 四 一四四、一四一 一四四 六〇〇、〇〇〇
町村一般土木工事 八四 四二九、〇六九 一三 三〇、〇三七 五 三三、二四九 八 三六四、七八三 一〇九 八五七、一八三
町村匡救土木工事 七 一九、三六五 一 二、四六九 二 六、二四〇 九 一一四、七八八 一九 一四二、八六二
小 計 九〇 四四八、四三四 一四 三二、五〇六 七 三九、四八九 一七 四七九、五七一 一二八 一、〇〇〇、〇〇〇
合 計 一九八 六二八、七三二 四五 二三四、九八六 八 一■三、五六九 二一 六一三、七一三 二七二 一、六〇〇、〇〇〇
備考 詳細調査ノ結果ハ多少増減アル見込
復興並に防備事業
三陸沿岸の海嘯は過去に歴史に徴するも必ず周期的に襲来するものなるを以て被害地の復興計画に当りては周到なる用意の下に其の目的を促進し併て来るべき被害を除去する最新の方法を考究せざるべからず則ち海にありては各港に完全なる防波堤を築造し陸にありては各港の連絡道路を改修し市街地にありては区■整理を行い海岸に沿い強固なる防波建築並に防波壁を施すの必要あり之が為には多額の工事費を要し疲弊せる罹災民の到底負担に堪えざる所なるを以て関東震災の例に倣らい多額の国庫補助を支給し其の目的を速かに達成せしむるの必要あるものと認む之に要する費用左の如し。
(一)港 湾 修 築 工 事 費
港湾名 郡町村名 工 事 費 種類 摘 要
長 部 気仙郡気仙 一五〇、〇〇〇 商港匡救工事施行ノ外
脇ノ沢 同 米崎 一七〇、〇〇〇 同
泊 同 広田 一〇〇、〇〇〇 漁
細 浦 同 末崎 五〇、〇〇〇 商
長崎港 同 赤崎 五〇、〇〇〇 漁
綾 里 同 綾里 二〇、〇〇〇 同 匡救工事施行の外
泊 同 越喜来 一〇〇、〇〇〇 同
根 白 同 吉浜 五〇、〇〇〇 同
小白浜 同 唐丹 三〇、〇〇〇 同
大 浦 下閉伊郡船越 五〇、〇〇〇 同
織 笠 同 織笠 二〇、〇〇〇 同
大 槌 上閉伊郡大槌 三〇〇、〇〇〇 商 匡救工事 行の外
山 田 下閉伊郡山田 三〇〇、〇〇〇 商、漁 同
大 沢 同 大沢 二〇、〇〇〇 漁
重 茂 同 重茂 一五〇、〇〇〇 漁
磯 鶏 同 磯鶏 三〇、〇〇〇 漁
大沢浜 同 崎山 五〇、〇〇〇 同
田 老 同 田老 一五〇、〇〇〇 同
平井賢 同 田野畑 一〇〇、〇〇〇 同
太田名部 同 普代 一五〇、〇〇〇 同
小 袖 九戸郡宇部 六〇、〇〇〇 同
柔 畑 同 侍浜 三〇、〇〇〇 同
小子内 同 中野 五〇、〇〇〇 同
計 二、〇〇〇、〇〇〇
備考 匡救土木事業にて施行中に■するものは省略す
三、復興道路改修費内訳書
略 線 名 改修延長 幅 員 工事費
盛釜石線 二二、六九〇米 四、八米 一五一、〇〇〇
小本宮古線 三八、一八二 同 四二九、〇〇〇
小本々■線 四九、〇九〇 同 三九九、〇〇〇
計 九七九、〇〇〇
三、防波建築工事費
町村別 防 波 壁
延 長 金 額 延長 金額 計 金 額
山田町 二四五間 一七、一五〇円 五〇〇間 八〇〇、〇〇〇 八一七、一五〇円
大槌町 八二〇 五七、四〇〇 五七、四〇〇
釜石町 一九五 一三、六五〇 三六五 五八四、〇〇〇 五九七、六五〇
大船渡町 八二一 一、三一三、六〇〇 一、三一三、六〇
田老村 三二〇 二二、四〇〇 二二、四〇〇
計 一、五八〇 一一〇、六〇〇 一、六八六 二、六九七、六〇〇 二、八〇八、二〇
四、区画整理
町 村 別 延 長 金 額 備 考
山田町 一、〇〇〇間 五〇、〇〇〇 府県道拡張
大槌町 二〇〇 一〇、〇〇〇 同
釜石町 五、〇〇〇 二五〇、〇〇〇 町村道新設拡張
大船渡町 一、〇〇〇 五〇、〇〇〇 府県道拡張
田老村 三〇〇 一五、〇〇〇 幹線拡張
末崎村 三〇〇 一五、〇〇〇 府県道拡張
唐丹村 二〇〇 一〇、〇〇〇 県道各町
計 四〇二、〇〇〇
備考 平均幅員二間を拡張するものとし工事費用地費其の間口五〇円と見積る
禍を転じて 福としたい 震災■■処置について 小野寺代議士談
東北地方就中本県が凶不作と財界の不況によって■■の苦しみをなめていた矢先今回又々未曾有の天災地震に遭遇した罹災者各位に対しては心からなる御同情と御見舞を申上る次第である元来東北地方に対する国家行政の取扱いは維新以降関東関西九州方面と同一の負担を強いている。更に道路鉄道河川港湾等の官業施設を始め其他全般の勧業施設に至るまで著しく他地方より薄遇されているその結果今日日に於て東北の経済力は前記各地方に比し大なる懸隔を生ずるに至った私達はこの大震災を機会に官民結束して奥羽全般に亘る組織ある産業開発計画を樹立しその繁栄を助長することが必要なりと信ずるものである。これ即ち今回の禍いを転じ福とする所以である。何卒この機会に於て各位と共に奥羽協会を創立しこの意義ある事業を完成したいと思う。尚今回の震水火災について直さまお見舞に帰県すべきであったが復興並びに応急策について政府を鞭撻し折衝を重ねて行くため代議士一同ここ暫らく滞留に決したが取敢えず県選出代議士代表として八角海軍中将を特派した次第でこの点御諒承を願う次第である。
本県産鮪 昂騰 東京市内相場
従来三陸沿岸の漁不漁は東京市内魚市場の相場を左右し来ったが今回の三陸海嘯は漁業地岩手が中心なだけその影響も頗る甚大で四日以来東京市内で消費される三陸物の鮪は忽ち五割方の高値を示し従って各種の魚値段は二三割方奔騰したので各家庭の台所はいずれも恐慌を来している。この内でも東京名物の寿司屋は可成りの打撃をうけ震災だといって寿司の値段を急に値上げする訳にも行かず高値の鮪で平常通りの奉仕を続け気転の利く寿司屋だと鮪寿司売切れなどと体裁より撃退方法を講じているこの外赤阪新橋といった一流の花柳界ではここ暫らく高い肴で平常の奉仕をつづけているので一日も早く三陸地方の復興を祈念している。尚東京市場に於ける八日の相場は左の如くである。
◇近海物(単位十貫)
△■三十五円乃至四十円 △真カジキ五十円より五十五円 △次品三十円から四十五円 △女カジキ十三円から十七円 △メバチ二十五円乃至三十円 △同小モノ二十円乃至二十三円 △ビンチョウ十二円—十四円 △メジ三十五円—四十円 △鮪大(一一〇から一三〇円)中(一三〇—一七〇)小(一〇〇—一二〇) △ブリ(八—九) △ワラサ(七—八) △鮪(六—一〇) △ヒラメ(四〇—四五三陸もの(常磐ものを含む) △■(六五—一〇〇) ヒラメ(三〇—四〇) △モウカ(五〇〇—五五〇)
◇関西のもの
△鮪(二七—三三)次品(一七—二〇)△黄肌(一七—二三)鯛(七〇—九〇)△レンコウ(二七—三三)
近県小信
宮城研知事は各関係部課長と災害地復興計画中第一段になすべき事業について協議中であったが被害民をして一日も早く生業につかしめるために最も重要なのは小漁船の建造であるとし十一日の参事会に提案することとなった。尚建造費は一隻百円の見込で至急建造を必要とすべきものを千七百隻として十七万円を要すると。
花巻地方は 変動がない
三陸地方の災害による花巻地方の魚市場は災害前と大差なく僅かにカレ、タラ、メヌキの類が品不足を呈している位である右について川勝問屋では語る。
花巻地方は普通時でも三陸地方との取引は需要高の三分の一位で他は北海道石の巻静岡との取引になっているから今度の災害では相場にも何等の変動はない。
速やかに救済策を 実施したい 丹羽社会局長官語る
(東電)三陸地方大地震海嘯の被害現地視察を遂げた丹羽社会局長官は九日朝六時上野駅着列車で帰京したが同日午後三時議会に山本内相を訪問約一時間余に亘って被害実情を具さに報告の後次の如く語った。
五日午後十一時宮古に到着翌朝未明に捕鯨船に便乗して死傷者九百名の多数を出した田老村に上陸した僕が岩手県知事時代に同県の県会議員をやっていた関口君が偶然にも田老村の村長でこの惨事に出くわしたのだ。同君からその日の惨状をつぶさに聞き悲話哀話のかずかずに思わず涙したそれから同村を隈なく視察して罹災民の慰問をなし又捕鯨船に乗って最も被害の甚だしかった釜石を訪ねた。この地は地震と火事の上に津浪に襲われたこととでその被害状態は悲惨の限りであった。海岸の堤防はすっかり破壊されてしまって百トン以上の沈没船や帆船が波の上に漂い沿岸の焼失家屋もまだかたづけられていずその惨状は目を覆いたい程であった。更に七日八日の両日には同様捕鯨船で宮城県の歌津村十三浜十五浜その他を視察して石の巻に出て牡鹿半島の金華山の被害実情等を調査して帰って来た。応急的な救護状態は県民の協力一致と陸海軍の敏速な救助作業で遺憾なく罹災民の救済保護が行われていたがこれから根本的な復興事業に着手しなくてはならない。復旧道路橋梁港湾等の改修は一日も早く政府の方針を樹立して復興事業に取りかかる方針である。