今回の津浪による 釜石町農家の被害 上閉伊郡農会調査
今回の災害による釜石町農家の被害状況は次の通りである(上閉伊郡農会調査、括弧内は金額)
△農業者の死傷 農業者総数一、四〇〇名中死者三名、負傷八名
△同住宅の被害 総戸数二三七戸中全潰二一、半潰八、浸水六二
△農業用建物及農具の被害 倉庫二八被害なし、納屋二三〇中一七(損害三、四〇〇円)厩一一五中三(同九〇〇円)堆肥舎一五中五(同 一、五〇〇円)肥料留小屋一〇〇中二八(五六〇)共同精米所二〇中 (五四〇)計六、九〇九円の被害高である。農具の被害は三、六 九七の中一、〇七八個でこの金高二、一四〇円である
△農作物の被害 栽培面積二八七町九の中四五、二で減収見込数は四九八石三、九五〇〆(五、〇四三円)で中大麦、大豆の被害が多い
△種苗の被害 五石一、五〇〇〆被害見積金額は二五八円中馬鈴薯大豆の被害大
△貯蔵作物の被害 三一五石一、五〇〇〆(二、七七〇円)稗大麦大豆、米の順で被害が多い
△肥料及農業用諸材料 厩肥二五、〇〇〇〆(三五〇円)人糞尿(二五〇〇〇(二二〇)木灰一、〇〇〇(五三)魚粕四〇〇俵(一、四〇 〇)■安三〇俵(九〇)過石四〇(六〇)計五一、〇〇〇〆(四七〇俵(二、一七三)農家以外の被害人糞尿(三〇〇、〇〇〇(二、六 四〇)魚粕六五、〇〇〇(一三、〇〇〇〆(二五〇)
△耕地の被害 浸水畑一五町三、表土流失畑八、五埋没畑五、二欠漬畑四、二計三三、二
△農業用役畜の被害 馬二頭(五〇〇円)牛三(一〇〇)豚一〇六(一、五八〇)鶏二、二五〇(一、三五〇)家兎三〇(二四)計一一一 (三五五)
対策協議会開催の結果食糧■急施設、馬鈴薯栽培指導、自給肥料対策等に就いて協議、種苗、農具、納屋の助成金、肥料資金としては五年据置二十年賦利率三分九厘の低資を反当四円六十九銭で融通されることになった
県治の動向を 定めよ 県会の関心事
一、
本日から海岸震災復旧及匡救予算審議の臨時県会が開催される。本県空前の予算である事から、そして又岩手県破局の真っ只中に於ける県会である事に於てもまさに歴史的な県会でなければならぬ。我々は開会の劈頭に於て県当局及び県会議員諸公が今回の震災に際しては応急の処置についても亦政府及議会に対する運動に就いても■遺憾なき努力を払われその結果震災後一ヶ月余にしてここに復旧予算の編成をなし得た事に最大の敬意を表する。希くば慎重審議、一日の速かに震災地の復活が出来るよう希望して已まない。
二、
震災に依って我々の経験した事を忌憚なく云うならば先第一は如何に岩手県が貧乏であるかである第二は如何に岩手県の交通が不便極まるものであるかである。即ち内陸部と海岸部とが全く縁を切って居る事である。そこで、この問題を何うすればよいかが我々の何うしても考えて行かねばならぬ処であると思う。第一の貧乏問題は固より自然が悪い。天は我々には山と断崖としか与えて呉れなかった。貧乏も己むを得ないには相違ないが、之とても山を征服し断崖を切崩して富を造り安全なる生活を営み得ないというのではない。懸案の国有林の払下げをやる事だそして断崖の海岸は今回の復旧費によって、石黒知事の村落計画を断行する事だ。之ばかりではいけない。更に恒久の計画を樹てて早く貧乏から離脱せなければならない。先づ県会が指導的地位に立って致富興産の事業を考えるべきだ嘗て牛塚知事が県治調査会を設置して岩手県の産業文化の開発を計画した事がある。之をもっと、効果的に実質的にやり直す事である補償生糸の払下げによって製網事業を起す事も面白い。電気県営は如何なものであろうか。銀行問題もいつ迄もほっておく訳に行かない県の借金も大分殖えて居る。これを如何にして始末をして行くか。学校費も随分かかる様である。場合によっては、之も廃合して行かねばならない。こういう問題を考究検討する為に調査会の設置など如何なものであるか。ここで何うしても県治の動向を定めておく事が緊要だと思う。
三、
交通問題は匡救事業に於ても海岸道路の開■が計画されて居るそうであるが、それのみでは満足されない。海岸鉄道の完成も必要であり本線との連絡即ち軽鉄の買収問題も決して見逃してよい、一会社の問題ではない。今回の事件によって何の位軽鉄線によって助かった事か之を本鉄道にする事は、独り交通問題よりのみならず、致富興産の見地から必要であるは説明の要はあるまいと思う。もう少し、県当局としても、県会議員諸公としても之等の問題についてもっと認識を持ち適当なる工作を望んでやまない。六原道場問題も県会に提出されるとか云われるが、教育は遅い様で然し早い大改革である事を信ずる。何うか、この非常時に際して、銀行問題以来重ね重ね御苦労であるが、県治の新動向に関して真剣なる努力を願う。