大海嘯大惨害義捐金の募集
今回管内南、東、北閉伊郡。気仙。南、北九戸。
各郡の大海嘯たる人命を害うこと実に二万
三千有余全町村覆没流離その形跡を留めざ
めるものまた少なからず。幸いにして万死の中一生
を得たるものもあるいは傷痍に悩みあるいは飢餓
に迫られ鰥募孤独その恃頼する処を失い居
るに家なく食うに食なく着るに衣なく悲
惨の極酸鼻の至り実に前代未聞の大事変
に属す。いやしくも帝国臣民たり同胞たる者は
豈袖手傍観するの秋ならんや。いわんや同一
の治下にあり同一の県民たるものをや奮
うて賑恤扶助の事真に剥下焦眉の急務た
り。本社自ら揣らず率先もって義金募集の労
を執りいささか同胞相恤の微旨を徹底せんと
す。仰ぎ願わくは大方慈仁の諸氏切に此挙を
賛成せられ多少に関わらず続々義捐あらん
ことを。即ち義金募集の手続きは左の如し。
一 義捐金額は各自の随意たるべき事。
一 義捐金募集の期は来たる七月十七日迄
とす。
一 義捐金は義捐者の姓吊とその金額と
を本紙に掲載して受領済みに換える事。
一 義捐金は一括して本県庁に配付の取
扱方を依頼する事。
明治二十九年六月十八日 岩手公報社
●経済界より見渡す海嘯
今回の海嘯が全国の
経済界に、三陸の経済界に、三陸附近の経済界
に、何等の影響を及ぼすべきか今日までに達した
る公報私報は人畜家屋の?害を列記するに止ま
りて産業上の被害につきては詳細の報道を得ず
随っていまだ十分に経済上の観察を下すに由なし
といえども、試みは吾輩の想像を以て経済界に推し寄
せたる海嘯の結果を描かん。
●日頃市村の美学
「長安寺檀徒の奇特《
同寺の檀家は日頃立根猪川大舟渡盛赤崎綾
里の各村に七百余の檀家を有せしが今般の災
害に罹りしは大舟渡赤崎綾里の三ヶ村にして同
門徒の死亡人数は百余吊有之由なるが日頃市
立根猪川盛の無害四ヶ村同檀徒は右檀家内の義
務として此の死亡者のため一大追吊法会を営ま
んと日頃市佐藤宇三郎立根千葉太門猪川鈴木長
蔵盛佐藤亀次郎の諸氏奔走尽力中なるが同寺住
職金正樹氏は追吊会は巳れ自ら営むに付き是等
死亡者には全家挙げて滅亡せしもあり偶々遺族あ
るも到底資力なきものなれば各其特志なるにおい
ては一大葬儀を営む方可然と此義に決し上日施
行する由なるが同日は各遺族者をも招き同時に
義捐金をも募集し遺族救護の資に充てる由。流石は
当時火の出の大派門徒とは云えながら必竟同寺
住職金正樹氏の教化薫陶の宣教によるものと
云うべし。因に記す金正樹氏は檀家内死亡者の追
吊会は追吊会として営みさらに一般罹災死亡者
のため本郡内真宗一派十ヶ寺?合して大法会を
施行せんと専ら尽力中なるが大概協議も纏まりし
由。もっとも他宗他派にして?合を望む譚なれば各宗
?合ともなすとのこと。
◎日頃市村青年団体の美学
同会は今般の災害については広く有志の士に訴え
義捐金を募集せんがため各地方に巡回して演説
会を開き盛んに運動中なるが■に同会員は日清
戦争中の折も恤兵金募集に奔走し五十円の金を
陸海両軍に奇送せしが青年にしてこの挙あり世
の父兄たるもの宜敷奮義一番救護の道を講ぜら
れんことを。
●釜石通信（六月二十三日発）
◎臨時病院を同地小学校に開設せり入院患者五十
吊。もっとも重傷者なり楼上は最重患者廊下は幾分か歩行
なし居る者。二十三日より室は拡張負傷入院せる筈。
同所医員は
陸軍一等軍医齋藤捨之助同三等軍医牧野庫二
本県赤十字社より出張医員は
医兼平準一同四戸琢磨同清今救護人は三浦泰同
宮龍雄同菅木良助
病院諸般の応援者
釜石高等小学校長石井直身同尋常小学校長巌田
齋助有志者佐野門平
右三人非常尽力諸般を周旋す。
負傷者は学校テーブルを寝台とし臨時病院の体裁
には頗る周旋到れりもっとも注意周到。
死屍これまで発見せしもの七百四吊。
◎龍田艦昨日来港事務所へ訪問の後山田港へ向け
発錨。
◎■山桟橋方人夫中死亡せし者上少といえども係り者
死没また原籍調流散詳細を知るに由なし家族を合わせ
ておおよそ百吊位死没。
◎遠野町医師四戸琢磨氏より同院へ製氷寄贈なり。
また牛乳搾取のため同地へ乳牛二頭貸与すべき旨申し
出てたり。
◎宮守村村長伊藤門内氏は人夫三十吊引率過る十九
日より出張救護尽力の処本日人夫一同帰村す。
◎ヘラルド、ガセット新聞記者本日来港。
◎海嘯後井水または渓流乾涸供給欠乏す。
◎死屍大概捜査発見せしも同地ただいま越邊水山中に
埋没しあるもの追々発見す。
◎死屍中引取り人なきもの半に過ぐ。
◎家屋の破壊は俗に云う粉微塵と云うか如し。
◎米穀は郡長の尽力にて遠野町より廻送し刻下差し支
えを見ず。漬物は各戸より義集廻送の上配当せり。
◎各港にて米買い入れの由上日着港の見込み。