●臨時発刊
明二十二日は月曜日かれども臨時発刊を。
◎百本技手の負傷
本県技手百本雄三氏は今回の
凶変につき宮古方面へ出張を命ぜられ再昨日当
市出発せし。その途中東閉伊郡腹帯村附近において同
氏の乗りし人車は誤りて転覆し同氏は車夫と共に
重傷を負へ車夫は生命も覚束なき程なりとぞ。
●各自奮いてその本分を尽くせ
今回未曾有の大
兇変大惨害については洩れ承る処によれぱ畏れ多
くも去る十六日正午この凶変の報の畏きあたりに
達するや天皇陛下には■■■侍従試補男爵澤宣
元氏に中央気象台に差し遣わされ被害の模様を聞
き質さしめ痛く宸襟を悩ま■給うの余り畏き御思
召を以て東園侍従を御差し遣わし相成り別項掲載
の如く同侍従には昨日来盛相成りたる次第にて罹
災蒼民は上幸の中にもこの雨露の恩沢に咽ぶこ
となるが政府においても万々この一大凶変を度外に
付し置くなどの事はなく差し当たり国庫を開きて刻
下焦眉の急に際し大に救恤扶助の挙に出ることな
るべし。さればこの場合吾県治当局者たるものも敢え
て姑息躊躇の事なく非常の精励をもって全力を傾注
してこの急に処するの責任を完うせざるべからざ
るは今さら敢えて喋々と要するまでもなし。さてこの場
合吾県選出の各代議士は這般問題については果たして
如何なる成竹あるか吾人いまだその消息を詳らかに
せざれどもまた必ず晏然として傍観すべきものに
あらざるべく。特に彼等はこの度の凶変一時の応急方
法は云うまでもなくこれが永遠の善後策としては議
会に対する運動方策も今より確定を置かねぱなる
まじ。ついてはまず差し当たり被害地を跋渉して実際の
調査に従事せざるべからざるは是れまた一目炳焉の
理義に属するものにしてその責任たる決して少々
にあらず単に選挙区民に慰問状を発するぐらいの
みにては何の面目か天下に対せん満腔の熱血を澆
ぎて盛んに這般の事に鞠躬尽力せよ今日の事たる
一点遺怠あることを許さず奮って起てよ豈左顧右
眄のときあらんや国会議員已に然り彼県会議員また
然り彼等の責務たる必ずしも成規の招集に応じて
議事堂内に喋々もしくは沈々黙々するのみにて
その能事決して了れるものと云うべきにあらず。借
問す彼等は今回の凶変に如何に処せんとするかそ
の筋の招集に接するにあらざれば吾等は別に差し
当たり為すべきことなしとするか招集以外議事堂以
外にありては何事をも彼等の意趣を纏め一団とな
っての働くべき必要なしとするか。なしとすればそ
れまでなれども差し当たり被害地実地調査して善後策
の材料を得るなり伹しは救恤扶助その他の処分方に
ついてその一部分を担任して刻下の急務を完うする
なりその尽くすべきの方法は幾多もあるべしと
思わる非常の際には非常の手段に出でざるべから
じ斯くの如きの前古未曾有の一大惨害に際し区々
として杓子定規を墓守すべきにあらず県内の大事
は県民全体の力をもってこれに当たらざるべからず全体
の力は一致より生ず一箭衆箭の理り今ぞ最も■味
すべきことなり多少の資望あり位置なるものはこ
の場合奮いて相共にその本分を尽くすべきなり。
●東北地方の上幸
征清の役、目出度く我国の大
勝利に帰して局を結びたる以来は世間の景気大に
振起し事業の拡張、会社の増資続々起こり繁昌
の春を迎えたれども戦争中軍費金の散じたるは重
に関東地方に在り人馬の往来、旅宿の繁昌戦争の
ため潤いたるは東京以西にして東北地方はその恩沢
の興かるを得ず随いて今日世間の繁昌も主として東
京以西に在りて東北地方の人民は空しく之を羨み
起業の計画も事業の繁栄もこの地方には稀にみる
のみなりし。同じ日本国中にて在りながら均しく戦勝
の余沢は■う能わず。これさえ気の毒千万なるにかてて
加えて今度の大海嘯の変災、東北の罹災地方特に
憐れむに堪えざるものありと時事に記せり。
●到底比較の沙汰にあらず
今回の大海嘯大惨
害は前代未聞の大凶変にしてこれは東西古今の史
上に照らすものも多くその比を見ずとは吾人が已に喝
破せし処なり事情に迂なるの輩は深く実相をも極
めずして往年の濃尾震災に比較したらばどうだろ
うなどとたわいのない事を云うものもあり比較どこ
ろか先づ以下の証拠立つる処の一班をもって我県惨
害の非常なるに驚け。さて彼の震災の中心点にして
その惨害の最も甚だしと称せられたる岐阜県に就きて
調べてみよ。彼の県全管内の人口は九十一万六千三
百三十八人にしてこの中被害地方の人口は七十三
万千〇五十人この中実際死亡したるは四千九百〇
一人にして即ち千人については六人七分の割合なり
とす。今これを吾が県被害地六郡の人口総数九万九
千八百五十三にしてその死亡者は実に二万一千八
百十六人(右は一昨日の午後六時までの調査にして
なお精査の上は無論幾何の増員をみるべし)即ち
千人に対する二百十八人四分の結果に照らし来たら
ばその県隔の甚だしき到底同日の談にあらず比較の
沙汰にあらずこの一例以て他の全体を推すに足る
吾人が古今東西史上多くその例を見ずと断言する
ものもとより誣ならざるなり。嗚呼世界の志士仁人否
か苟しくも横目堅眉の人類たらんものはこの悲絶惨
絶の吾が罹災民を如何にして慰籍せんとするか。
●奥州の海吹を伊豆にして知る
去る十五日夜の奥
州の大海波は被害区域の広大なりしことまず世人
の警駭する所にして東京に二十余回の地震ありし
もこの海吹と関係ありしはうたがうべくもあらざるが十
六日の黎明ころのことなりし霊岸島より伊豆へ通
う通快丸が伊豆加茂郡稻取村を発して東京に向かわ
んとする折柄海嘯最穏やかに忽然として大畝の
波寄せ来たり平生絶えて水のつきたることなき海岸
を洗い船客の置きたる荷物上意に浸されたれば人
々稀有のことに思いしに同所に吊ある船乗業鈴木
勝平という者知人を送り来たりてこの体を見このヨタ
はただ事ならず何れにか大地震大海吹なりしにあら
ざれど後に大風吹くべしと云へりヨタの去来せし
時間は四時頃より七時頃までなりしが通快丸の航
海は無事にて風は起こらず一昨日暁つき海岸に着する
に及び果たして奥州大海吹の余波なりしを知り得る
由京報に見ゆ。
●大海嘯の原因(承前)
●大海嘯大惨害義捐人吊
一 金二十銭 東京神田区紺屋町二十八番出張店 西村音吉
一 金三円 盛岡市八幡町車屋共愛連
大星重兵衛 奥村萬蔵 大橋市太郎
松田孫平 大橋善次郎 大橋徳太郎
三浦重蔵 柳田泰吉 川村春松
阿部林次郎 大坪賀太郎 金澤徳二郎
一 金一円 盛岡市鷹匠小路 桐原眞顧
一 金五十銭 同内加賀野 獅子内哲三
一 金十銭 同鉈屋町 中島重太郎
一 金五銭 同 中島論太郎
一 金五十銭 西磐井郡中里町 千葉廣治
一 金一円 南岩手郡厨川村 藤田源蔵
一 金二円 盛岡市紺屋町 吉田徳太郎
一 金一円 同 菅原次郎
一 金二十銭 浅岸村新庄 藤原仁太郎
一 金二十銭 盛岡市大澤川原 浦上景宜
一 金二十五銭 同紺屋町 石■岩次郎
一 金五円十銭 同北上会社員
内 金一円 村井庄七 金一円 菅野忠之助
金一円 船越経也 金五十銭 斎藤末吉
金二十銭 村上銑五郎 金二十銭 佐藤徳太郎
金二十銭 古舘金兵衛 金二十銭 藤村三蔵
金二十銭 宮川善三郎 金二十銭 ?村太郎
金二十銭 米内健次郎 金二十銭 奥村松太郎
一 金一円 盛岡市紺屋町 瀬川徳太郎
一 金五円 同六日町海産物問屋 齋藤秀五郎
一 金二円 同馬町荷捌人 赤澤寅治
一 金二十銭 同穀町同帳附 目時豊治
一 金二十銭 同四ッ家町 瀧澤啓介
一 金五十銭 同馬町荷捌人 藤島平次郎
一 金五円 同鉈屋町海産物問屋 森田平八
一 金五十銭 同肴町同帳附 山口金次郎
一 金五十銭 同神子田同帳附 前澤喜代治
一 金十円 盛岡市 魚市場管理者
一 金五十銭 秋田県秋田市大町 竹田圓治
一 金五円 長野県東筑摩郡島立村 横内源作
一 金二円 大分県北海部郡上南津留村 麻生音波
一 金三十銭 西和賀郡新町 田口現吉
一 金一円 盛岡市六日町 村田専太郎
一 金一円 同加賀野新小路 吉田斗寛
一 金一円 同呉?町 多田国次郎
一 金五十銭 紺屋町 砂子田重兵衛
一 金十一円四銭 岩手県監獄署前南製軸工場内
内
金一円五十銭 田邊金三郎
金一円二十銭 多田耕次郎
金五十銭 森田卯吉 金五十銭 千葉勘次郎
金五十銭 齋藤松之助 金五十銭 阿部則明
金五十銭 藤原長九郎 金五十銭 川越徳次
金四十銭 中村富太郎 金二十銭 佐々木文太郎
金二十銭 松尾長次郎 金二十銭 加藤金次郎
金二十銭 齋藤市太郎 金二十銭 谷藤岩蔵
金二十銭 餘目榮吉 金二十銭 吉田申松
金二十銭 乙部圓治 金二十銭 谷藤鶴■
金十銭 姉帯市太郎 金十銭 森口源蔵
金十銭 千葉周吉 金十銭 齋藤寅吉
金十銭 平野米次郎 金十銭 吉田甚太郎
金十銭 藤原久吉 金十銭 笹森仁助
金十銭 武田仁太郎 金十銭 佐藤寅次
金十銭 井上初太郎 金五銭 佐々木千助
金二十銭 森口いと 金二十銭 竹原とめ
金二十銭 千葉志か 金十銭 井上きん
金十銭 工藤とわ 金十銭 古澤まき
金十銭 四戸なみ 金十銭 小松みき
金十銭 室岡そよ 金十銭 岩井花いし
金十銭 工藤さき 金十銭 齋藤ふさ
金十銭 高橋きく 金五銭 櫻庭つへ
金五銭 小森かよ 金五銭 古澤■み
金五銭 金平わか 金三銭 宮崎とめ
金三銭 谷藤き和 金三銭 熊谷たき
金三銭 沼田ちか 金三銭 川口つる
金三銭 藤原やい 金三銭 櫻庭やす
金三銭 高橋とく 金三銭 高橋みよ
一 金五円 盛岡市鉈屋町 荒井勘次郎
一 金十銭 同本町 上野喜三郎
一 金五十銭 南岩手郡厨川村 下田榮夫
一 金三十銭 同 下田ちえ
小以金六十八円七十四銭
通計金二百六十二円九銭