●内務参事官視察 （六月十七日午後五時四十分東京発）
大海嘯視察のため久米内内務参事官明朝。気象
台池上技師は本日をもって出発被害地へ向かう。
◎被害地と衛生
天災後には往々恐るべき流行
病伝染病等の発生するをとありこれ災余の人民が
一時の急を凌ぐの余衣食住共にその完全を欠くも
のなれども這般に関する予防注意最も肝腎なりとす。
さて今回の凶変については東海岸一帯殆ど六十里
に渉るの大惨害実に前代未聞の事なれどこれが処
置上の手配りもとより最初より完全なることを望み得
べきにあらざれども左りとて及ぶ限り出来得るだけ
は万般の事に緻密なる注意こそ望ましけれ。而して
衛生上の事特に然りと為さざるべからず。例せば避
難所の設置傷痍者の救護蒐集したる屍体の埋葬
方飲料水は如何散布したる汚穢物の掃除方は如何
にすべき等これらは差し当たりての注意すべき要件に
した万々が一にもこの滔天の凶変に加うるに恐る
べき病疫の発生するが如きあらばこれぞ誠に由
々しき大事なれば這般の注意最も肝要なるべし。
◎帰県
兼ねて服部知事随行として上京中なりし
三輪県属には一昨日帰庁したり。
◎日独通称条約の海関税率
日独間に締結する可
き通商条約の草案は規定せる海関税率の内我が開
港場において賦属す可き輸入税の要領ありと云うを
ある独逸新聞の報ずるまま記さんに。
天鷲絨及びこれに類する物品 一割
綿布類 同上
綿糸、麻布類 八分
毛糸類 八分
半絹織物、毛織物、金巾、繻子、鉄線、銅鉄線、薄き
鋼鉄板等 一割
■軌、銑鉄 五分
亜鉛鍍錫、鉄葉、鉄管 一割
◎本社義捐金募集について
往歳岐阜愛知両県地方に震災の起こるや本社率先し
て義捐金募集の労を執りしに我が慈仁なる県民は
貴賎となく貧富となく各々相奮いて貯を投じ財を
寄せもって同胞相恤の趣旨を徹底したりき。今回我が
東海岸一帯殆ど六十里の大海嘯たるすでに本紙に
その知れ渡りたる一班をもってしてもその惨害の酷
烈なる実に言語筆紙の能く名状し得べきにあらず。
本社が今回微力自ら揣らず率先して義捐金募集の
挙に出たものこの酸鼻の極たる悲惨の極たる
無数罹災民賑恤扶助の事刻下焦眉の急なる実に片
時瞬刻も忽せにすべからざるものあればなり義
侠慈仁なる我が県民は濃尾の震災においてさへすでに
前條の如く義捐せり。ましてや同じ治下にあり同じ
県民としてしかも悲惨酸鼻の状況たる彼れに比す
れば寧ろ勝るなりも劣るなるを見ず。六十余万の我
が県民が県同胞兄弟たるもの今日において義に奮い仁に奨
み及ぶ限り出来得るだけの資財を投ぜずしてまたいず
れの時をか待つべき。されど貧富となく老幼となく
この際その勧誘は待つまでもなく各自応分の義金を投
ぜよ。もとより同胞相恤と云う大義務大責任の神聖潔
白なる義金の事なれば真にその分に応ずるだけにて
可なり。何も名誉のためにもならず名聞のためにも
あらざれは多く出し得る分の人ならば多く出す最
も可なり少なく出し得る分の人ならばそれにて少
しも差し支えなし。要するにその分に応ずると云うこ
とは大切なり。本社率先して募集の労を執りて
辞せざるもの畢竟これがためなり。されば世上の人
々能く能くこの趣旨を会得して思い思いの義挙に
出ずべし今日は実に袖手傍観すべきのときにあらざ
るなり。
◎大海嘯大惨害被害統計
昨日まで報道を得たる管内各地被害の統計を概算す
るに家屋破壊総数四千七百四十六
戸。死者総計一万四千九百七十
人なり。なお詳細は調査の上報道すべし。