遠い所まで伝わる地震津波の話 海底の沈下などが原因
二十四日のあけがた北海道、本
州四国の太平洋岸に高さ三メートル
から四メートルの大津波がおしよせて
家が流されたり、たおれたりし
たほかたくさんの死傷者を出すという大きな被害をうけました。気
象庁の発表によると「チリ地震(じしん)津波」といい、二十三日
午前四時すぎの南米チリ沖の大地震のために起こったことがわかり
ました。きょうは地震の研究をしている北大理学部の福富孝治(ふ
くとみ・たかはる)先生に「地震津波のお話」を聞きましょう。
地震津波は、海底の大地
震にともなって急にできた
海底の沈下(ちんか)や隆
起(りゅうき)のためにひ
き起こされた海面のくぼみ
やふくらみが、水の波とな
って遠くの海岸まで伝わっ
てきたものです。水の波と
いっても、暴風のときにで
きる風波とはちがって波の
山から山までの長さ、また
は谷から谷までの長さ(波
長といいます)が数十キロ・
メートルから、二、三百キロ・メートルも
あるといわれます。
チリから日
本まで一日
伝わる速さも早く、こん
どの津波のように、太平洋
の深さが平均四千メートルもある
ところを伝わってきた波で
は、毎秒二百メートルくらいの速
さをもっています。このよ
うな波は「長い波」と呼ば
れ、海の深さに比例して波
長が長いのが特徴(とくち
ょう)です。たとえば波長を
二百キロ・メートルとして計算す
ると、チリ沖から日本まで
一万八千キロ・メートルの距離(き
ょり)をわずかに九十回波
がうねり、時間にしておよ
そ一日で着いてしまうわけ
で、津波の高さがあまりお
とろえないことがわかるで
しょう。こんどの津波は日
本だけでなく、チリでは高
さ十メートル、米国のカリフォル
ニアの海岸、ハワイ諸島に
も大きな津波がおしよせた
ということです。
洋上の船は
気づかない
このような津波も、大洋
ではせいぜい高さが二メートルか
ら四メートルぐらいの波だと思わ
れますが、波長が非常に長
いので、洋上を走っている
船ではぜんぜん津波に気づ
くことはありません。しか
し、津波が海岸に近づいて
海が浅くなり、とくに津波
の進んでくる方向に開いた
V字形の湾にはいると、奥
では津波の高さが大へん高
くなります。これは津波の
ような「長い波」では、水
の運動が、水面から底まで
同じような往復運動をゆっ
くりした周期でくり返して
いることと、四千メートルの深さ
のところでは波の速さが毎
秒二百メートルでも、深さが四十
メートルのところにくると毎秒二
十メートルにへり、浅いところで
はぐずぐずしている前の波
に後の波が追いついてくる
ことなどに原因していま
す。
湾の奥に行
くほど高い
昭和八年東北地方の三陸
沖に起こった地震津波のと
き、岩手県の綾里湾(あや
さとわん)では、図(東大地
震研究所長高橋竜太郎博士
の資料)のように湾の入り
口では十メートルくらいの高さの
波が、奥にはいるにつれて
だんだん高くなり、いちば
ん奥では約三十メートルの高さに
もなりました。津波という
言葉は”港の波”という意
味ですが、よく津波の性質
を表わしています。のっぺ
りした海岸線で海が急に深
くなっている海岸では、津
波の高さはあまり高くない
のがふつうです。
昔からわが国の歴史に残
っている大きな地震津波
は、こんどの津波をいれる
と三十五回、そのうち太平
洋沿岸が三十一回、日本海
沿岸が四回です。
明治十年に
も似た例
こんどの津波は非常に遠
方の地震によって起こった
津波で、特別な場合です。
同じような例としては、明
治十年チリの海底地震の津
波が太平洋上のいたる所に
伝わって、日本では函館で
一、二メートルの範囲に水面が上
がったり、下がったりした
という記録があります。
またこんどの津波では、
震源(しんげん)=じしん
のみなもと=が遠いので、
一日あとに津波がおしよせ
ていますが、日本近海の地
震津波では地震を感じてか
ら五分から一時間くらいの
間に津波がおしよせるのが
ふつうです。
[写真]津波で乗りあげたハシケと漁船=函館