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被災地を包む暗黒の夜

[浜中村臨時支局発]音もなく押し寄せた津波で壊滅的打撃をうけた厚岸郡浜中村の海岸地帯は不安と恐怖につつまれたまま二十四日
夜を送ったが、被災状況は時間がたつにしたがって拡大する一方だ。復旧対策はほとんど手をつけられていない状態。霧多布市街にあ
る浜中村役場の災害救助対策本部の午後六時の集計によると、被害は流失二百十戸、全、半壊百七十戸、床上浸水四百七十戸、橋の流
失二、漁船流失三十隻、木材流失四千石にのぼっている。このほか家財道具、飯場の流失、道路の決壊を入れると昭和二十七年の十勝
沖地震をはるかに上回るもので、着のみ着のままで逃げた被災者のほとんどはぼう然自失のありさま。鳥居浜中村長も被災者の救助と
村のたてなおしには暗たんたるものがあると顔をくもらせている。

被災者は霧多布市街のものは、霧
多布小学校や寺など五ヵ所、榊
町、■■別の人は榊町の法華寺、
■■寺の二ヵ所に収容され、婦人
会などのたき出しをうけている。
衣類など救援物資は巡視船”ゆう
ばり”で補給されているが、まだ
まだ不足で、法華寺、■■寺の収
容者六十八世帯四百四十人は狭い
本堂にぬれた姿のまま身を寄せあ
って一夜をあかした。
 橋の流失、電話線の断線で連絡
 が途絶していた榊町と霧多布市
 街との連絡は、二十四日午後五
 時すぎ自衛隊の無線でやっと回
 復した程度。いまのところその
 後の復旧対策は立てようがな
 く、村民の顔は一様に暗い。連
 絡が途絶していたため被害状況
 も夕刻からようやく活発にはい
 り出したが、それでもスムーズ
 にいかず、まだ復旧には手のつ
 けようがない。
荒廃と暗い不安につつまれた被害
地の復旧はこのように見込みがた
たないが、現地には道■釧路方面
本部の一個小隊四十人と、自衛隊
釧路駐とん部隊の大■二佐駐とん
司令以下三十人が午後二時すぎ到
着、治安の維持と被災者の救出、
災害復旧にあたっている。とくに
自衛隊では同日夜から道路の決壊
補修作業を徹夜ではじめた。

[写真]
浜中村榊町法華寺に収容された被災者


 判明した死者、行くえ不明者
◇死亡 △浜中村霧多布四区林■
衛(四〇)△同新川和島サダ(四一)△同
■(二つ)△同幕帰別三上ユミ(二三)△
同島竜二(四七)△鈴木明美(六つ)△同
上野カセ(八〇)△根室市東海古林益
雄(四八)△広尾町東通り五山岸モ
ト(七二)
◇行くえ不明 △浜中村霧多布四
区谷君代(不詳)△同及川正太郎
(五六)同ユキエ(四五)△同■帰別橋
本久、子供三人(名前、年齢不
詳)△同島竜二家族三人(名前、
年齢不詳)△広尾町水間鉄雄(三二)
△浜中村霧多布橋本ミサヨ(年齢
不詳)同タカシ(一六)同ヒトシ(一三)
同フミコ(一〇)同チズコ(八つ)同アツ
コ(四つ)△同桜場アサオ(三四)同初江
(三一)同トシコ(三四)同レイコ(八つ)同
フクコ(六つ)同ユウイチ(四つ)△同山
戸キミヨ(四二)△遠藤ハマ(七一)△同
■沢ヤステル(六〇)△同山田サダエ
(一八)△■川町三二一天谷喜平(六〇)


急激には衰えず 道東まだ続く

[釧路]二十四日早朝から本道東
海岸一帯を襲った津波は同夜半も
断続的に続き、二十五日午前零時
現在、津波の周期は平均四十分で
三千回におよび、その最高潮位が
三メートルに達している。潮位差は平均
二メートルで、急激な衰えはみられず、
釧路地方気象台では慎重に観測を
つづけ、まだ津波警報を解除して
いない。

 根室本線復旧
[釧路]根室、釧路両本線ののど
元ともいえる釧路川鉄橋の破損で
釧鉄局は釧路ー東釧路間の乗客の
バス連絡を行なう一方、鉄橋の復
旧工事を急いでいたが、二十四日
午後六時すぎ一応完了。釧路本
線は同夜八時釧路発弟子屈行き、
根室本線は同八時十分釧路発厚岸
行き列車から再開した。

 けさから平常に
    青函連絡船
[函館]欠航、仮泊などダイヤが
混乱している青函連絡船は、二十
五日朝から平常にもどる。二十四
日朝函館に入港、干潮のため接岸
できずにいた青森からの下り便摩
周丸は午後四時、十和田丸は同四
時半それぞれ接岸、気が気でなか
った千七百七十人の船客はホッと
胸をなでおろし下船した。遅れて
いた上り一八便は二時間三十分遅
れて午後五時摩周丸が折り返し、
同一四便十和田丸は平常ダイヤの
五時五十分に出港した。
 一方、青森午後五時十分発下り
 一九便羊蹄丸は一時間四十八分
 遅れて同十一時三十八分函館に
 入港、この折り返しの函館午後
 十一時五十五分発上り一二便は
 四十五分遅れて二十五日午前零
 時四十分函館を出港した。

 郵便貯金災害支払い
[釧路]浜中郵便局では二十五日
浜中村榊町に臨時出張所を開設
し、正午から郵便貯金の災害払い
出しを行なう。貯金通帳、印鑑を
流失したひとでも証明ができれば払
い戻す。[大船渡]三十人の死者と市の四分の一の家屋を失った大船渡市に二十四日午後足を踏み入れると、
泥くさい潮のかおりとめちゃめちゃに破壊されてた二つ三つの古ぼけた家の柱が泥水に洗われていた。
道路、鉄橋にはこわれた家の破片がひっかかり、惨事の激しさを示している。
二十四日午前四時二十分”魔の
水”は音もなく寝静まったこのマ
チを襲った。浜辺にある魚市場の
サイレンがけたたましく響き、市
民に非常事態をつげたが「津波は
地震のあとにやってくるもの」と
先祖から伝わった体験で安心しき
っていた市民にはサイレンも火事
程度にしか届かなかったのか、寝
間着も脱がずに外に出た。このた
めか避難が遅れ、死者三十、重傷四
十五、行くえ不明八(午後三時現
在大船渡署調べ)という大きな
犠牲者を出した。
 市内で被害をうけた家族は一千
 五百二十二戸もあり、全世帯数
 六千四百二十二の大船渡市では
 約四分の一にあたる。三陸屈指
 の漁港も堤防は打ち砕かれ、出
 発前の遠洋漁船が道路にゴロゴ
 ロころがっているかと思えば、
 港内には三千トン級の貨物船が打
 ち上げられ、荒れ狂った津波の
 ツメ跡がはっきり残っている。
家屋の流れたあとは泥沼と化し、
ひざまでつかりながらわずかに残
った家財道具だけでもと探し求め
る人たちもいた。[浜中]二十四日早朝、浜中村霧
多布を襲った津波で、家屋の屋根
に乗ったまま浜中湾の海中に押し
流され、完全に孤立してしまった
人々の救援に陸上自衛隊千歳基地
のヘリコプターと、海上保安部の
巡視船が活躍した。
同日正午ごろ現地に着いたヘリ
コプターは、まず海上で救いを
求めていた十四人を救出し、榊
町に運び、さらに家屋ごと流さ
れ琵琶瀬湾■■■島に■着した
五十人のうち、三十八人を巡視
船と協力しながら救い出した。
しかし、夜にはいって作業が困難
になったため、島に残る十二人に
は毛布、燃料、食糧などを投下、
二十五日に救出することにして、
同日は打ち切った。このほか巡視
船は同■の小島で五人を救助し
た。

津波に無防備だった霧多布

”防波堤”立ち消え
甘い判断 生かせなかった”前例”

○…”寝耳に水”で押し寄せた津
波に、瞬時にしてすべてを失った
浜中村霧多布は二十七年三月にも
十勝沖地震で同じような惨事に見
舞われている。それからちょうど
八年二ヶ月。浜中湾と琵琶瀬湾に
囲まれた■■■にしがみつくよう
にできたこの漁村は戸数は五百七
十戸、人口三千百三十九人。
 市街地は■と陸地をつなぐ■
 四、五百メートルの帯状の地帯にこじ
 んまりとでき上がっているが、
 付近は海面から一メートル前後の湿地
 に取り巻かれている。普通の日
 でも満潮時には波が道路を洗っ
 たりするところだ。
○…十勝沖地震のあとは村でいっ
たん防波堤を築く計画が進められ
た。しかしこの設計はせっかく建
設省まで出されたが、工費六億円
が村財政の負担になり、これに耐
えられないとその後サタやみにな
った。
 こうしたウラには当時の村当局
 や道の関係者の間に津波の恐ろ
 しさに対し誤った判断があった
 ことも事実。「被害は村を洗った
 波浪の直接的な影響ではない。
 港の外を埋めていた流氷群がた
 またま波に乗って陸地に押しか
 け災害を大きくした」とゆう長
 にかまえ、その後の防災工事に
 ■をいれなかったともいわれ
 る。
○…こうして忘れかけたころにや
てきたこんどの津波ーー村民た
ちはいまさらのようにホゾをかむ
思いだ。浜中村の二度目の悲しい
出来事に道もようやく腰を上げ、
こんどこそはと将来の”村づくり”
を真剣に検討することにしている
が、いまのところ
 1浜中湾と琵琶瀬湾を運河で結
 び、押し寄せる波浪を素通りさ
 せる。2防波堤で沿岸をおおう。
 3冠水の心配がある地区は結局
 ”危険地域”に指定して、住民
 を住まわせない。
の三つの方法しかないとしてい
る。だがこれも防波堤を築くには
一メートル当たり十万円もかかるなど、
膨大な金がかかり、実現は簡単で
はない。結局”危険地帯”の指定
といった一番手軽で、ありきたり
なものに落ち着きそうだ。
 昨年秋道南を襲った台風十四号
 の高潮は、道内や浜中村の人た
 ちに、海岸防災の大きな■■と
 なったが、関係者をほんとうに
 目ざめさせるにはまだまだ。三
 たびこうした災害は繰り返した
 くない。この教訓を生かして、
 こんどこそはマクラを高くして
 寝ることができる村を築きたい
 ーーこれが荒れ果てた被災地に
 立った村民たちの心からの願い
 だ。

[写真]
五、六十人も舟に乗ったまま百
メートルも流され、海岸に押し上げら
れ不安げな住民

津波に依るご被害を慎んで
お見舞い申し上げます。
 五月二十五日
    ソニー株式会社
    ソニー商事株式会社