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社説

 南米チリ沖合で起きた
大地震は大津波をともな
い、太平洋を横切り、約
二十四時間後には本土の
太平洋岸各地にも多大な被害を与え
た。北は本道、南は九州にわたる津
波の被害は同じでないが、三陸沿岸
以北がとくにはなはだしい。岩手県
大船渡市など全滅状態だし、本道で
も霧多布その他では十勝沖地震以上
の犠牲者をだし、家屋その他に大被
害をうけた。いたましいことである。
道でも緊急部長会議を開き、とりあ
えず最大の被災地霧多布を含む浜中
村に災害救助法を適用した。
 全国の被害は想像以上に大きいよ
うである。災害救助法の適用は当然
として、それだけでは当座をこ■
■する申しわけ的なものなのだか
ら、敏速な実情調査のうえ、生産再開
への非常対策を推進すべきである。
家族に死傷者をだし、路頭に迷う
ものの救済は、なにをおいても機敏
に行ないたい。新安保条約をめぐる
国会の非常事態とは別に、津波の被
害対策を政府もたて、すみやかに推
進すべきである。
 札幌管区気象台では、チリ大地震
による津波来襲は予想もつかなかっ
たという。ハワイ地磁気観測所から
の津波警報を、気象庁の係官が軽視
したり、各地の気象台に通報を怠っ
たりした事実もある。津波警報上の
ミスである。チリ沿岸には十メートルの津
波来襲のニュースもあるのだから、
警報をだし、いち早く対策を講じた
なら、人命を失うことぐらいは防げ
たろうと惜しまれる。
 伊勢湾台風の場合にも台風予報は
正確だったが、高潮予報はなってい
なかった。気象通報上の改善すべき
盲点の一つである。こんどのような
全太平洋沿岸を襲う大津波は、何十
年に一度もあるものではないが、局
地的には台風による同様高潮は、毎
年定期便的に各地に起こっているの
だから、根本対策をたてることが大
切である。伊勢湾台風にコリて、東
京湾、大阪湾、有明海その他の高潮
常襲地帯には気を配りはじめたが、
津波のため再度にわたって大被害
を受けた霧多布のような地区を、こ
んごどうしたらよいか。海岸におけ
る家の建て方、高潮来襲の場合を全
国的に調査し、防潮堤を築く余裕の
ない地域には、せめて警報措置で事
前に災害に対処させるくらいの配慮
が願わしい。
 治水工学に比べ、海岸工学が遅れ
ているのも問題だ。高潮や波浪が陸
地へ侵入するのを防ぐ堤防の構築で
も、現在では波が堤防に衝突して起
こる”波力”の算定さえ、正確なと
ころは明らかでない。宇宙開発どこ
ろか、海岸防衛ひとつできてない
のをどうするのか。地震による津波
も台風の高潮も、一元的対策で防止
するよりほかないが、伊勢湾台風の
貴重な教訓がもたらした科学的基本
対策さえ、臨時台風科学対策委員会
の結論まちとかで、今年度予算には
必要経費が計上されてない。このよ
うな不熱心さでは、いつまでたって
も津波、高潮対策ひとつ進むまい。
津波、高潮の応急、恒久対策を真剣
に伝えたいものである。 道は行政調査委員会を設け、支庁
の権限強化を含む道機構の抜本的改
革を検討している。これまでに明ら
かにされた方針によると、行政の能
率化、道と市町村の連携強化の二つ
を柱に、八月までに結論をだし、道
議会の承認をえて逐次、実施する意
向のようだ。
 この基本的な考え方には、われわ
れも賛成である。事務の能率を高
め、住民に密着した行政を促進する
には、支庁の権限強化や本庁機構の
再検討が不可欠の条件である。だ
が、これを実現するには、周到な準
備と強い決断が必要である。とくに
長年の懸案である支庁長の権限強
化、つまり支庁の実施官庁化は、幾
多の問題が横たわっている。その第
一は、行政権限の大半が中央官庁に
握られている現行制度のもとにおい
ては、本庁の権限委譲にもおのずか
ら限界があることだ。第二は、支庁
行政区域の変更と出先機構の統合を
抜きにしては、支庁の実質的強化は
望めないが、道議会との関係からみ
て、これは容易なことでは実現でき
まい。行政調査委員長の中島副知事
も、その困難性を認め、こんどの機
構改革にあたっては、支庁行政区域
の変更問題は見送り、差し当たり、
実施可能な権限委譲から手をつける
方針のようである。だがこれとて
も、単に雑用的な許可、認可権を与
えるだけでは、ますます支庁は動
脈硬化に陥るだけで、真の強化と
はならない。権限とともに予算、
人員を付与し、少なくとも指導行
政は、本庁にいちいち伺いをたてな
くても、支庁だけで解決できる体制
が確率されなければ意味はない。
 一方、本庁の機構改革にも多くの
問題がある。伝えられるところによ
ると、総務部長の負担を軽減するた
め、新たに「地方部」の創設を考え
ているようだ。事務能率を高め、市
町村に対する指導を強化するために
は、たしかに一つの考え方といえる
だろう。だが、一歩間違えば、地方部
が”市町村支配”の有力な道具に使
われる危険性があるだけでなく、庁
内対立を深める結果ともなりかねな
い。したがってわれわれは、地方部
の創設には、にわかに賛成はできな
いのである。
 いずれにしても、各部局間のセク
ショナリズムと中央官僚機構の是正
なくして、道機構の抜本的な改革は
期せられない。今日の地方自治体、
とりわけ府県団体は、まさに各省の
個別的総合出先機関と化し、知事の
統制権は有名無実の状態においやら
れている。このため、例えば建築部
と土木部との統合が、理屈として
当然とわかりつつも、中央との関係
から容易に踏み切れないでいるの
が現実の姿である。したがって知事
が、もし真に道機構を根本的に改革
しようとするなら、まず中央、地方
を通じて、このユガメられた行政構
造に深く目を注ぎ、セクショナリズ
ムのカベを打ち破る努力が示されな
くてはならない。

津波被害 中央に対策本部 政府、きょう設置を協議

政府は二十五日午前十一時から首相官邸に各省次官を集め、太平洋沿岸を襲った津波の被害対策について協議するが、現地の状況をみ
て中央に「災害対策本部」を設置する方針である。椎名官房長官は「被害もかなり大きいようだし、中央災害対策ほんぶを置く必要があ
る」と語っている。

 政府は二十四日午後三時から永田
町の官房長官官舎で建設、農林、
運輸、厚生など関係各省次官会議
を開き、対策を協議した。この会
議では被害地との通信、交通が円
滑にいかないため、被害状況の実
体がよくつかめないので、警察
庁、厚生、建設、農林、運輸など
関係各省の係官を現地に急派し、
被害状況を見きわめることを決め
たが、中央災害対策本部設置につ
いては二十五日の次官会議で改め
て協議することにした。
 なお和達気象庁長官は、席上
「この津波は南米のチリで起き
 た大地震の影響によるもので、
 日本の太平洋沿岸まで二十三時
 間で達した。このため津波の高
 さは予測できなかった。」と報告
 した。

 本道などに査
 定官を派遣
     建設省
建設省は二十四日午後省議を開き
津波対策を協議したが、同日は河
川局に津波対策本部を置くこと、
北海道、岩手、宮城に査定官を派
遣することを決めた。北海道には
河川局芦沢英夫査定官が同夜集発
した。

 道水産部から
 も調査班
道水産部は津波による漁業関係の
被害状況を調査するため二十五
日、釧路、十勝、日高の三班から
なる調査班を派遣する。
 道水産部の調べによると、二十
 四日午後五時現在の漁船被害は
 四百二十七隻に達し、通信状態
 の回復にともなってなお増加す
 る傾向にある。
被害の中心は浜中村で、沈没一、
流失二百六十隻にのぼっており、
釧路市も沈没四十三、大小破二十
五隻の被害をうけている。
 水産部では現地調査が終わり次
 第、対策を講ずる考えだが、浜
 中村漁協組などはもともと弱い
 組合なので、復旧についてはな
 んらかの特別措置が必要だとみ
 ている。

 住宅公庫で特
 別貸し付け
住宅金融公庫は二十四日、今回の
津波を大災害として扱い、つぎの
ような災害復旧特別貸し付けを行
なうよう各支所に指示した。
 一、半壊以上の被害家屋の場合
 =再建資金として一戸当たり三
 十万円まで貸し付ける(ただし
 本道は四十六万円)金利は年五
 分五厘、三年据え置きの十八年
 年賦(本道は三十年年賦)
 一、半壊以下二割以上被害の場
 合=補修金として被害に応じ四
 万円から十五万円貸し付ける。
 金利は年五分五厘、一年据え置
 きの十五年年賦。
 一、その他=土地整備費として
 五万円、移転する場合は移転費
 用として五万円を貸し付ける。

 中小企業金
融公庫でも
二十四日の津
波被害につい
て中小企業金融公庫、商工中金な
どでは、つぎのような対策を決め
た。
 ▽中小企業金融公庫=被災者に
 は復旧資金を優先的に貸し付け
 る。いまのところ伊勢湾台風並
 みの特別低利の金利は考えてい
 ないが、被害の規模、程度に応
 じては大蔵省と相談のうえ、特
 別金利の運用も検討する。
 ▽商工中金=被害状況を調査中
 で、被災融資の綱目は未定だ
 が、被災組合員には再建資金を
 優先的に貸し付ける。 大蔵省は、二十四日、津波被災者に
対し、昨年の伊勢湾台風の場合に
準じて、つぎのような税法上の救
済措置を決め全国国税庁に通達
した。
 ▽所得税 一、住宅、家財が五
 〇パーセント以上被害を受けた場合、
 (イ)年五十万円以下の所得者
 は所得税を免除(ロ)八十万円
 以下は税額の五〇パーセントを軽減(ハ)
 八十万円から百二十万円までは
 二五パーセントを軽減。
 一、被害額五〇■以下の場合は
 所得金一〇■以上の部分を課
 税対象から控除(雑損控除)す
 る。
 一、給与所得者の場合はいずれ
 も税金の還付または徴収を猶予
 する。
 一、商品、原材料、農作物など
 が被害を受けた場合、その損失
 額は事業所得の計算から控除す
 る。
 ▽法人税 法人資産の損失額は
 預金算入(非課税)を認める。
 欠損を生じた場合は、青色申告
 法人に限り、五年間の繰り越
 し控除を認める。
 △物品税など 酒税、砂糖消費
 税、物品税、キハツ油税、地方
 道路税、トランプ類税の課税対
 象が被害を受けた場合には、こ
 れらの税を控除、または還付で
 きる。 
 △徴収猶予 被害後、一年以内
 に納付する所得税、法人税、酒
 税、物品税などは、納入期限か
 ら一年以内徴収猶予を認める。