週間トピック 社会
”わたしの
長い経験をま
ったくくつが
えすものだっ
た……”二十
四日朝の”チ
リ地震津波”
に対する警報が、手遅れになったこと
について和達気象庁長官はこうつぶや
いた。和達さんをおどろかせたことは
二つある、一つはこんどのチリ地震は
史上最大級のものであること、二つは
地球の反対側から一万七千キロの太平洋
をこえて日本に被害を出すような大津
波が襲ったことだ。しかもそのいずれ
もが”学識経験”を完全に裏切るほど
の大事件だったのえある。
外電はチリ地震を”超地震”と報
じ、気象庁地
震課でも”一
口に最大級と
いうが、従来
の大地震とは
同じ横綱でも
双葉山と朝汐
くらいのちが
いがある”といっている。半世紀の間
沈黙していた七つの休火山がよみがえ
り、二つの新しい火山が噴火、大規模
な地すべり、津波をともない、地形が全
く変わるというものすごさーー。”地
殻大変動”ともいえるほどの”地球の
身ぶるい”だという。
まだ確報はないが、メルカリ式とい
う震度階でいえば、最大の十二(日本
の気象庁の方式では最大限の七以上に
当る)という規模のものが、現地では
いくつも観測されているらしい。東大
理学部地質学の小林教授は”現地の造
山活動や複雑な地殻構造だから、今度
の大地震も理由のないことではない”
とみて、日本から現地調査隊を出すべ
きだといっている。
一方、日本を襲った”チリ地震津
波”の方はどうだろうか。気象庁地震
課の計算では。二十四日朝の津波のエ
ネルギーは、大体8.4×10^23エルグ、
つまりビキニの十五メガトン水爆で起
こると仮定した津波の千倍近く、伊勢
湾台風の約半分という計算になる。こ
のような大津波が一万七千キロの太平洋
のはるかかなたの地震で起こるとは信
じられないというのが、気象庁のいつ
わらぬ表情であった。と同時に東大地
震研究所で”われわれが気象庁の立場
だったとしても、恐らく警報は出せな
かったのではないか”といっているよ
うに、現代科学の限界説もかなり強い
わけだ。広野気象庁地震課長ははっき
り”予報の手遅れは技術上の限界をこ
えていた”と釈明している。
学者のいう”経験”の中身をちょっ
とのぞくと……一七五五年のリスボン
の大地震のときには大西洋をわたった
津波が五千七百キロはなれた西インド諸
島に達したが、これがせいぜい。一九
三三年の三陸沖地震における津波はチ
リでたった十五センチだったという程度。
では、このような大津波が再び来襲
したらどうなるか・日本全国の海岸線
延長二万五千キロのうち、津波を防ぐ保
全施設はわずか延長六千余キロに過ぎな
いので、建設、運輸、農林各省でそれぞ
れ防波堤づくりを考えている。だがけ
っきょくはいかに早く逃げるかが被害
を少なくするカギというわけだ。この
伝達のあり方と、外国との情報交換体
制の確立を徹底的に研究史、実現を図
る方針を打ち出した。
つまり国内体制では①南鳥島の観測
施設を充実す
るほか、本土
各地の自動検
波器を整備、
増設して遠隔
操作で二十四
時間ぶっ通し
で海面を監視
できるようにする②外国での地震の影
響について研究を深める③津波担当調
査官が本庁にたった二人という現状を
改めるため、調査官を増員して当直制
にするよう予算要求をするという。そ
こで六月から八月にかけて開かれる
WMO(世界気象機関)IUGG(国
際測地学・地球物理学連合)の会合に
和達長官が出席して、公的な情報交換
の国際協定を結ぶよう積極的に呼びか
ける計画だ。それは結構なのだが……
”五十年に一度あるかないかという災
害研究のために大金は出せない”とい
う政治面の考え方が消えない限り、津
波対策は”豊かな学識があれば経験以
上のものを生み出せるはずだ”という
和達さんの科学者の”良心”だけにた
よるほかはない。 (伊藤満夫)