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社説・東奧の海嘯を聞て感あり 破 扇 子

頃日の電報に依れバ我東奧の海岸に於て海嘯及び
震災ありて多數の同胞ハ無殘の最期を遂げ家屋財
産の流失ハ固より幾多の秧田も亦變じて海沼とな
れりと餘輩ハ之を聞て實に酸鼻に堪へず顧ふに皇
天近來奥羽に殃を降す何ぞ其れ甚だしきや前年ハ
酒田地方の大震あり今又此報に接す豈悽然たらざ
るを得んや餘輩ハ被害者を弔すると同時に其善後
策に就て當局者ハ勿論社会一般が之に同情を表し
て適當の處置に出でんことを信ずるものなり而し
て餘輩ハ單に之のみに滿足すること能はず更に一
歩を進めて述ぶる所あらんと欲するなり蓋し古人
の天變地異によりて人世を警戒する所以のものハ
決して偶然にあらざるべきなり所謂治に居て乱を
忘るヽハ人間の常態にして敢て異レむに足るもの
なしと雖も安きに馴るヽ極遂に不慮に際して周章
狼狽するの憂なきを期せんとするにハ古人の警戒
の決して軽々に付すべからざるを知るなり
試みに思へ一年三百六十五日平和の天候固より其
多きに居り時に和風膏雨の至れるあるハ是却て人
間に益する事も害する事少なし但し若し漫に之に
安んじて一朝不慮の災變に備ふるなくんバ夫の天
の未だ陰雨せざるに及んで★戸を綢繆するの警戒
に負くものと云はざるを得ざるなり今其れ天變地
異なるものハ或点までハ之を防禦するを得べしと
雖も結局之を予知して禍害を未然に避くるの外な
き塲合も亦甚だ少しとせざるなり是に於て乎餘輩
ハ彼の氣象學の發達を希望して巳まざるなり今回
の災變の如き若し之を豫知することを得せしめバ
或ハ其慘状を免かるヽを得しならん歟顧ふに災變
の善後策として要する所の經費も亦甚だ少からざ
るべし此等の費用を投じて氣象学の研究に供し禍
ひを未然に防ぐの道を尽さバ其費やす所ハ同うし
て其結果ハ實に積極と消極との差異あるべきなり
是餘輩が災變の報に接して感ずる所の一なり
猶一歩を進めて餘輩の感ずる所を陳べんに夫の古
人が天災地變に遇ふて一家一國の運命に關し警戒
する所あるハ必ずしも直接の關係のみによるにあ
らずして所謂治に居て亂を忘れざるの意を寓する
ならん歟餘輩が北方の災變を聞て警北の必要を感
ずるも亦古人の意を得たるものと信ずるなり顧ふ
に日清戦争の後巳に平和に復したるが如しと雖も
妖雲暗澹たるの實況あるハ少しく意を用ふるもの
の容易に看破する所ならん夫の全然平和の時に於
てすら猶且變亂を忘る可らざる次第なれバ巳に氣
圧計の暴降を示しつヽある塲合に於てハ★戸を綢
繆するの覚悟なかる可らざるや明なり故に餘輩ハ
今回の災變を聞くに付ても益々氣象學の發達を促
すと同時に夫の北門鎖やくの益々堅固ならんことを
希望するのみならず施いて我日本全州警備の完成
を期せずんバあらざるなり國家将に興らんとする
必ず禎祥あり國家将に亡びんとする必ず妖ゲつあり
古人の言苟も軽忽に付すべからざるなり

雜報・赤十字社の救護

 今回の海嘯に付日本赤十字
社にてハ負傷者救護として不取敢巌手縣ヘ向け醫
員大森榮三郎氏に看護人三名を付し擔架天幕等を
携帶し一昨十七日午後八時出發せしめたるに昨日
午前十一時大森氏より更に醫員三名調劑師二名看
護人十名至急増遣を乞ふとの來電ありしに付同社
ハ即時増遣の準備に着手し本日の上野發一番汽車
にて出發せしむる由又宮城縣ハ師団所在地にして
同社支部の設けもあれバとて單に慰問として醫員
^W岩^T明氏に看護人一名を付して出張せしめたる
が尚負傷者の模樣等に依りてハ何時増遣の必要あ
るやも知るべからざるに付同社ハ差支なき樣準備
中なりと

雜報・政黨員被害地視察

 今回の海嘯に就てハ其救
助費等追て帝國議会の問題となるべけれバ此際實
地調査の必要ありとて自由黨にてハ江原素六氏を
派遣する事に決し本日上野發一番汽車にて出發の
筈又國民協會も幹事藥袋義一氏を派遣する事とな
り是亦本日上野發一番汽車にて出發又進歩黨ハ目
下中國遊説中の宮城縣代議士首藤陸三氏を派遣す
る事に決し至急帰京すべき旨電報を發したるが尚
本日午後一時より在京代議士其他重立者の集會を
開き首藤氏以外特派員の事及び東北地方遊説に關
する事を協議するよし

雜報・大海嘯と定期米

 今回の大海嘯ハ近古未曾有
の大變災殊に同地方ハ米穀の一大産地にして且被
害地の中心ハ米穀の集散地なれバ此變災の實業上
に及ぼす關係大なるものあらんとて一昨日の定期
米市塲に向て多少刺撃を譽へ十錢高を示したれど
も抑ゝ今回大海嘯の爲めに災害を被りたる地方ハ
太平洋に面したる海岸にして丘陵の連れる塲所多
けれバ所謂三陸米を産出する地方にあらず只之が
爲めに集散地の被害多きを以て自然出荷の手後れ
となるくらいの事ハあるべく又假令多少田圃の荒
廢に歸するものあるも三陸に於ける米穀の産額に
大影響を及ぼすが如き事万々あらざるべきに依り
昨日の如きハ敢て之を氣構へざるに至れり