例言
1.本書は昭和9年9月21日,22日に於ける關西地方風水害の土木工事に及ぼせる災害の最も正確なる記録を作製しこれを後世に傳へ以て將來土木建築工事上の參考資料たらしめんがために昭和9年10月特に本学會に關西地方風水害調査委員會を設け調査編纂せるものなり。
2.災害の調査に當りては調査部門を第1部氣象,被害概況,第2部河川,運河,灌漑,砂防,第3部港灣,海岸,第4部道路,道路橋,第5部鉄道,軌道,鉄道橋,第6部電氣工作物,第7部土地,建築物,第8部上下水道の8部門に分ち各部毎に別記當該方面の権威者よりなる委員會を組織して資料の蒐集選擇,被害の攻究に當れり。
3.本報告書はこれを編纂せる委員が各部門毎に異るが故にその記事の配列,体裁等に多少の相違あるを免れず。
4.本報告書編纂に際しては大体各部毎に總説に於て當該部門の災害に關する總括的意見を敍し,次に線路別,府縣別,港灣別等に分類せる第1號總括表を記載し,更に大体被害金額又は復舊工事費5000円以上の箇所毎に調査せる第2號表を原因別に分類して收め,各原因別に著名なる災害例を記載せり。
5.本調査に際し關西各地の官公署並に諸會社が多大の援助を寄せられたるは本学會の深く感謝するところにしてこゝに深甚なる謝意を表するものなり。
6.土木学會關西地方風水害調査委員會委員氏名は次の如し。
委員長 中川吉造
副委員長 靑山士 平井喜久松
幹事 古川淳三 宮本武之輔 靑木楠男 靑山秀雄
第1部(氣象,被害概況)
主査 山田隆二
委員 關信雄 沼田政矩 宮本武之輔
第2部(河川,運河,灌漑,砂防)
主査 谷口三郞
委員 赤木正雄 飯島馨之助 上田柳一 緖方虎之助
岸田正一 後藤季總 坂本助太郞 島 重治
杉浦 翠 高西敬義 寺田 甫 中川幸太郞
長谷川勝伍 村瀨吉雄 福留並喜 三宅發造
三輪周藏 物部長穗 故山内喜之助 山本廣一
吉岡計之助 ○伊藤 剛
第3部(港灣,海岸)
主査 鈴木雅次
委員 荒木文四郞 飯島馨之助 内山新之助 上田柳一
岡部三郞 岸田正一 後藤季總 坂本助太郞
關信雄 高西敬義 寺田甫 中川幸太郞
糠澤惟介 長谷川勝伍 三宅發造 三輪周藏
村瀨吉雄 故山内喜之助 吉岡計之助 山本廣一
○原田忠次
第4部(道路,道路橋)
主査 三浦七郞
委員 靑木楠男 飯島馨之助 上田柳一 緖方虎之助
岸田正一 後藤季總 近藤泰夫 佐藤利恭
島重治 田中 豐 高田 景 高橋逸夫
寺田 甫 中川幸太郞 永田 年 長谷川勝伍
福留並喜 三宅發造 三輪周藏 村瀨吉雄
物部長穗 山本廣一 吉岡計之助
第5部(鉄道,軌道,鉄道橋)
主査 井上隆根
委員 靑山秀雄 石田二郞 石塚宇吉 伊東祐介
小坂 進 兒島重次郞 佐藤鼎 佐藤利恭
淸水 ■ 田代瑞穗 田中憲造 出島嘉吉
野田林太郞 橋口行彦 平瀨三雄 平山復二郞
古谷 晋 松島寬三郞 山田隆二 ○岡部二郞
第6部(電氣工作物)
主査 野口寅之助
委員 石井頴一郞 高橋三郞 萩原俊一 ○山岡包郞
第7部(土地,建築物)
主査 田中豐
委員 靑木楠男 飯島馨之助 緖方虎之助 榧木寬之
高田景 高橋逸夫 三輪周藏 物部長穗
山本廣一 吉岡計之助 ○五十嵐醇三
第8部(上下水道其他)
主査 河口協介
委員 近藤博夫 島崎孝彦 高田景 ○は各部の幹事
關西地方風水害調査報告 目次
頁
第1部 氣象,被害概況……………1
第2部 河川,運河,灌漑,砂防……19
第3部 港灣,海岸…………………35
第4部 道路,道路橋………………77
第5部 鉄道,軌道,鉄道橋………107
第6部 電氣工作物………………181
第7部 土地,建築物……………193
第8部 上下水道…………………221
第1部 氣象,被害概况 目次
頁
氣象……………………………1
1.颱風の發生及經過……1
2.颱風襲來の状況………3
3.降雨の大勢……………8
4.高潮及風津浪の概況…11
被害概況………………………13
I.原因別被害……………13
1.暴風による被害, 2.豪雨による被害, 3.津波による被害
II.工事別被害……………15
1.河川, 2.道路,橋梁, 3.港灣,海岸
4.鉄道,軌道, 5.其他
氣象
1.颱風の發生及經過
1.颱風の發生
過般の颱風は其發生から見て極めて標準的の颱風であつた。其發生地は南洋パラオ島とラツク島との中間の海上,廣く云へば此附近一帶の島々を合む低氣圧の谷をなす區域であり,季節は9月に當り,發生の初まりは驟雨を前驅とし,やがて小低氣圧の蔟生となり,遂に颱風の卵に迄發達した。是等の經過は全く從來の颱風發生説を裏書きするもので,亦颱風の併合による生的成長を證するものである。図-1に於て×印は總て併合せられた小低氣圧を示す。
本颱風の發生前既に此地區からは殆んど同じ形式の下に兩個の颱風が出發し,一は1日に起りて臺灣より日本海に転向し,次には7日に起つて呂宋を經て南支那海に入つた。而して室戸颱風は12日頃より催し始め14日に至りて稍形をなした。即颱風の發生にも多少週期性を認め得るが如くである。
2.颱風の經過
16日午前6時以後の颱風の經過は大体規準的經路を取つた。即最初北西の經路を取り(図-1),平均1時間20㎞位の速度で進み,19日の夜沖繩島の南方で北々東に転向した。此時中心示度は推定722mm又は以下に下り沖繩方面は暴風雨となつた,転向した後は初め1時間30km位であつたのが次第に速度をまし20日夜半過ぎ土佐沖から室戸岬附近に上陸(上陸地は高知縣安藝郡奈波利町加領鄕)する頃は毎時60kmとなり,示度は684mmに下り(図-2),世界記録を破る大颱風であることがわかつた(図-1及表-1參照)。夫れ以後は陸上を通過するに從ひ幾つにも分裂して勢力を失つたが,進行速度は毎時70kmから21日の午後は毎時90kmに達し,遂に宮古の北方で太平洋に出た。此時の示度は推定732mmである。夫れからは東北東の進路を取り,22日の正午からは稍東南東に進んで23日には東經170度以東に逸走した。室戸から宮古迄は地上に印した中心は雁行經路を取り,一つの中心が停滯衰弱し前面に別の中心を生じて進み,かくて3個の中心を新生し,經路は3囘中断せられて居る(図-1)。是れは嘗て小林博士が朝鮮低氣圧に就て示された如き機構により上層は一つの渦卷として通過したものであるが下層は地形的障碍其他の影響の爲に幾つにも分裂し衰弱し,又新生したものであらう。
次に16日6時以後22日18時に至る迄の毎6時間の進行方向速度及中心示度を表示すれば表-2の如し。
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2.颱風襲來の状況
1.一般状況
颱風は良く知られて居る通り熱帶性低氣圧であつて,其中心に於て氣圧が急に低くなり,其周圍に猛烈な風が渦を卷いて吹くのを特長とする。過般の颱風も同樣であつて其中心の示度は室戸附近に於いては684mm又は以下に降り,秒速45m(20分間平均風速)と云ふ非常な風速を示し,始めは北東偏りの風で中心が通過後には西風に変つた。此樣な低圧はそういつ迄も持続せられず,次第に北東に進むに從ひ中心は淺くなつたが尚德島では706.8mm,州本では706.3mm,大阪では715.8mmと云ふ樣な著しい低圧を示し,從て風速も30mを越すものであつたから中心の通過した附近各地には何れも莫大な風害があり,樹や家の倒れたものが多く殊に問題となつたのは学校の倒壞で此爲に兒童の死傷が多く,又神社,佛閣等に損傷が多く國寶たる建築物にも少なからぬ被害が有つた。
又歴史的名木大樹の倒れたものもあり,又電線,電柱の切断倒伏が夥だしく,又列車の脱線転覆も起つた。又中心附近に於ける低圧は水面の隆起を來し,是に風力が加はり長波と風浪とを起し,高知縣の沿岸では暴浪が岸に上り漁村を浚ひ,又大阪灣の北及東岸低地に上つては高潮となり風津浪となり距岸4kmの陸上迄浸水して多數の人命と數千萬円の被害とを釀した。又中國山脈に於て暴雨が降り岡山縣,鳥取縣及附近に莫大な水害を與へた。かくて其被害は南は沖繩縣に始まり北は靑森縣に達し,其最大なるものは大阪府であつた。次に各地測候所で觀測した最低氣圧及最大風速を表示すれば表-3の如し。
表-3の最大風速は20分間の平均風速であるが瞬間風速はダインス型風圧計が兎も角自記したものを取り室戸に於ては明かに60m/secの線を二三回突破して居り,又大阪に於ても一囘は60m/secに達した模樣である。60m/sec以上は此器械は記録せぬ事となつて居るから室戸の如きは60m/sec以上尚若干mに達したであらうが記録から洩れたのは殘念である。平地最大風速は室戸の45m/secを最大とするが,山では當然之よりも大なるものがある筈で,富士山では60m/secに達した。此外に平地の値として岡山縣廣戸で58m/secを測つたものがあるが,附近に風害はあるが潰れ屋のない點から多少の疑を存する。
氣圧の最低は室戸の684.0mmで之は正に平地での世界記録である(図-2及図-3參照)。海上船舶の觀測にはこれ以下を示すものがあるが,船の測器の中には多少不信用のものもあるから必ずしも重きを置き難い事情もある。
雨量總量(降り出しから止む迄)の最大は表-3では大臺ヶ原山の367.4mmであるが,平地では大分の354.9mmである。尤も地方の雨量觀測所中には更に多量を計つたものがあり,400mmを超えた地方は廣島,高知,鳥取,奈良等諸縣にあり,其中高知縣長澤の506mmを最大とする。尤も是等は多量には相違ないが,日本の記録としては是よりも遙かに多量のものがあり,單に1日で700mmを超えたものもあるから以上は物の數ではない。
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3.降雨の大勢
1.概況
全國降雨の大勢は図-5に示す。此図に於て明かに認め得る事は降雨の二元性である。即南偏りの温濕風に依る降雨と,北東偏りの冷濕風に依るものとで,前者は主に太平洋岸南東に面する傾斜地に起り,後者は不連続線と地形の兩作用に依るもので主に中國山脈に於て起つた。此降雨は早いものは18日から初まつたが一般には19日からで強いのは20日から21日にかけての夜間であつた。
この降雨で学術的に注目すべき點は其中心の通路に當つて比較的少量であつた點である。堀口博士の颱風論に於て颱風勢力の維持は其域内の水蒸氣の凝結が主たるものであると云ふ。それかあらぬか過般の颱風は室戸上陸後次第に衰弱の一途を辿つた。尤も陸上の摩擦の影響もあつた事と思はれる。又局部的降雨によりてショーの所謂トルナドー中心が出來るのであるが,之れも上陸後颱風が盛に分裂した事から實證せられる。尤も是にも地形的障碍の爲に器械的に分渦を生じた意味も混在すべきである。
國家的經濟的に見れば降雨の爲に起つた水害が最も將來の爲,研究を要するものである。颱風又は低氣圧の襲來に當つて多雨域を豫報し警戒する事が出來れば被害を少くするに効があるが,遺憾ながら今の所まだ出來るとは云へない。併し降雨の機構がだんだん明かとなつて來たからやがては其可能な日も來るであらう。
在來颱風でも低氣圧でも其中心附近に豪雨がある樣に考へられたもので,外國の敎科書には多く其樣に出て居つたが、我國の樣な地形の複雜な所では決して其通りには行かず,又さらば最近の不連続線の考へ方のみから説明出來るかと云ふに歐洲流のもの丈では到底日本の降雨は説明し切れない。是れは既に西村傳三氏の説いた所で,今度の颱風でも亦それが明かにされた。西村氏に依れば太平洋通過又は内陸通過の低氣圧では多雨域が裏日本と表日本とに分れると云ふ。今度の例も明かに此型式を取り,他の颱風に見るが如き中心の豪雨はなかつた。
最も降雨の甚しかつたのは高知縣の山間部で長澤に於ては總量506mmを測り,附近に400mm以上の地數ヶ所あり,次は岡山縣と鳥取縣の山間地方で,總量400mm以上に達した所があり,急雨であつた爲に被害があつた。次に岡山及鳥取縣下の降雨の記述を掲げる。
2.岡山縣及鳥取縣降雨概況
岡山測候所報告 縣下の降雨状態 縣下各地に於ては岡山市と同樣本月13日頃より小雨断続し,北部地方に於ては13日,14日兩日の雨量30~50mmに達したる所あり,又16日より18日に亙り殆んど同量の雨量を測りたる所ありて表土充分潤ひたる折柄20日午後6時30分頃英田郡大原町古町に於ては1囘の雷鳴ありて,同9時半頃より降雨引続き,勝田郡豐田村は同日午後6時頃より雨激しく眞庭郡勝山町に於ては20日午後8時頃より降雨し,稍々小雨となりては又驟雨的豪雨來り,21日午前1時頃より2時頃までは恰も盆を覆すが如き豪雨に加ふるに同3時頃より烈風を伴ひたり。同所の時間別觀測の雨量は斯くて257.3mmの多量に達したり。斯く北部地方に於ては20日夕刻より21日未明の間に於て豪雨を降らし20日午前10時より21日午前10時に至る24時間に於ける雨量の最も多量なるは眞庭郡湯原村湯本の330.9mmにして既往の最大日量たる大正7年7月11日英田郡大原町古町に於ける283mmを越ゆる事,實に47.9mmの多量に及べり。之に次ぐは同郡美甘村美甘の265.5mm,上房郡呰部町下呰部の245.5mm,阿哲郡上刑部村山奧の243.8mm等にして19日午前10時より21日午前10時迄の2日間に於て湯本383.9mm,美甘は334.5mmに達せり。又16日午前10時より21日午前10時に至る5日間に於て雨の最も多量なるは湯本にして實に444.9mmに達し,之に次ぐは美甘の390.3mm,眞庭郡八束村上長田の344.5mm等なり。吉井川,旭川,高梁川の各流域別平均に就て其多寡を見るに旭川流域最も多く280.2mmにして高梁川流域は161.2mm,吉井川流域は159.4mmを示せり。今縣下各地の降雨量を示せば表-4及表-5の如し。
境地方測候所報告 18日は縣下一般に未だ寧ろ天氣良く,所により多少の驟雨を見たるに止りたるも,19日は天候漸く惡化の兆あり,驟雨頻々午後は縣下一帶に本降りとなり,殊に本縣西部の伯耆郡は雨勢強くこの爲に中部以西の河川は增水甚しく,19日夜より20日朝にかけて所に依り早くも出水を見るに至る。此等の地方は19日雨量(自19日午前10時至20日午前10時)は日野上村の153mmを最多とし,概ね100mm以上に達したり。而して翌20日も雨は終日降り続き風力も次第に增大し,夕刻より遂に強風程度となり,天氣は愈々最惡の状を呈するに至れり。即ち20日夜より21日未明にかけて風雨共に強く,殊に降雨は猛烈を極め遂に縣下一円大洪水の慘害を見るに至れり。20日の雨量(自20日午前10時至21日午前10時)は表-6の如く倉吉の340mmを最多とし,赤碕の338mm,靑谷の237mm等之に亞ぎ,黑坂,大山,境,蒲生等は200mm程度其他も概ね150mm以上の豪雨を測りたり。
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4.高潮及風津浪の概況
1.實測水位
水位に就ては最高潮位,同起時,同偏差は表-9の如くである。茲に偏差と云ふのは氣象現象に依る水位の增高數を指すもので實際潮高から推算による普通潮高を引いたものである。
大阪市に於ては氣圧の低下と風速の增加に伴つて図-6に示す如く海面次第に隆昇を始め,築港派出所前の道路に於て測定した所に依れば,21日午前7時49分には路面を潤す程度であつたが,8時には路面上83cmとなり,8時14分には路面上222cmの最高潮位に達し,8時20分より退潮を始め9時には路面上88cmとなり午後5時40分全く退水した。又天保山棧橋に於て測定した最高潮位は最大干潮面上5.15m(當時の滿潮位は最大干潮面上1.8m),大阪市港灣部構内に於て測定した最高潮位は最大干潮面上5.65mであつた。
2.水位增高の計算
高潮及風津浪が颱風の影響で起つた事は明かであるが其詳細なる機構は其潮位の高さが數量的に説明されるものでなければならぬ。潮位增高の原因としては(1)天体潮があり,是は當時大阪に於ては45cm程度のものであつた。(2)は海水の風下に堆積する作用で,之を肥沼氏の算式の係數を改めて計算すれば44cmを得る。更に之に灣底の深淺の影響を加へて荒川,吉武兩氏の計算する所によれば60cmとなる。(3)は低氣圧の爲の水位增高であるが,之を單に靜力学的に計算すれば65cmを得る。是は周圍氣圧を758mm,中心氣圧を南端洲本の706mmと北端春風丸の713mmとの平均を取り710mmとしたもので水銀の48mm,水にして65cmである。併し此低圧の中心が南より大阪灣の長軸に沿ふて北に走り,其速さが灣に於ける長波の速さと殆ど近似の値となつた爲に動的に潮高は增加された。此事は甞て琵琶湖上を雷雨の通過せる機會に初めて見出された處で大正6年の東京灣津浪の時にも考へはあつたが計算されず,今度更に荒川,吉武兩氏及寺田氏の論文に依りて別個に計算された。而して其結果倍率は兩速度の自乘の差の平方根又は通過時間と靜振半週期の自乘の差に逆比例して增高するもので擾亂の形の如何を問はず成り立つことが明かにされた。此倍率が寺田論文では大阪に對して1.59と出て居る。又荒川,吉武論文に於て,灣の長波速度√ghはhを27mと取り58.6km/hとなり殿風速度を堀口報文により7時と8時との間の速度73km/hに取れば倍率は1.68となる。此倍率をかけて103cm又は109cmを得る。更に長岡博士に依ると防波堤の水位增高作用がある。是れは波が堤を越へて港内に入れば水平流速の減少する丈水位は增高するからである。この作用は幸大阪港内と港外との水位の觀測がある。前記の水位表に於て尼ヶ崎,大和川尻等は偏差3.1mとあり,大阪港内は3.5~4.6mである。即ち防波堤の作用に依り約1m程度の增高が有つたと見るべきである。次に風浪の高さで有るが,之れには例へばBoergenの式,Cornishの式等がある。
式:Boergenの式,Cornishの式
の形である。Ηの單位はm,Ηmは最高波高でベルゲンに依れば,m/secで表はした風速の1/3の數字をmで表はしたものを取り,コーニッシュは0.37×風速とした。tは風の吹き始めからの時間,ωは最高風速でm/secを單位とするもの,Dは對岸距離を海里で表はしたもの,αは常數でベルゲンは之を10ともしたが普通は1.86とする。對岸距離を33海里即ち由良海峽以北とし風速は大阪の最高値30m/sec,吹き初めの時刻は洲本で南風になつたのが6時頃であるから,其れから8時迄2時間として計算するに121mとなる。
次に由良海峽に於て既に高浪が外洋から押し寄せて灣内に侵入したものと見なければならない。偖て室戸で南東風(秒速9m)が吹き出したのは20日の午後10時で其れから由良海峽へ波の到着した時刻推定21日午前7時迄は9時間である。又洲本や和歌山で南風となつたのは大体午前6時で,7時迄は只の1時間である。依つて■として此兩者の平均即ち5時間と取り,Dは無限大とすればΗm=10mに對して由良海峽の外に到着した波高は7.29mとなる。次に此波が海峽の狹窄の爲の影響はスティブンソンの公式h'=h√b/B-0.027(1+√b/B)√δを用ゐ,灣口と灣の幅の比b/Bは大阪灣に於て海図より12/103を得る。尤も灣の長軸に直角の向きに灣口の幅を取れば9.3/103となる。δは61000m h 即ち灣口での波高を7.29mと置きて大阪附近での波高1.66mを得る。是と灣内で起つた波高1.21mとを加へれば2.87mを得る。此半波高は1.44mである。
以上諸原因に依る增高の諸項を加へ合せれば大阪港外では
潮高偏差=動的低氣圧增高+風堆水+風浪半波高=1.06+0.60+1.44=3.10m
となる。是れは實測値3.1mと少し合ひ過ぎた感がある。
或は又スティブンソンの最高波高の式h=√s/ξ+0.75-0.25^4√sを用ゐs=61kmと取ればh=2.65mとなる。此れは風堆水と半波高の和に相當すべきものであるから,是れに尚氣圧の爲の增高1.06を加へれば3.71を得る。是れは當然上記の値よりも大で,大き過ぎる。
港内では之に防波堤の影響約1mを加へて4m程度となる。平水面以上の潮高は更に是に天体潮高として45cmを加へ港外で3.5m,港内で4.5mとなる。
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被害概況
I.原因別被害
颱風による被害は之を 1 暴風による被害,2 豪雨による被害,3 津浪による被害に分類する。
1.暴風による被害
毎秒30m以上の風速の暴風に襲はれた地方は高知縣室戸附近,德島縣の東海岸,大阪,京都,彦根等の各地であつて,此の爲に家屋,煙突,電柱,鉄道列車等の倒壞,転覆を招いた外,森林,果樹等の折損,荒廢も莫大なるものがあつた。その被害は大阪,京都,高知,德島,滋賀,和歌山の各府縣に於て特に著しく,大阪,京都兩府に於ては多數の倒壞家屋を出し,特に小学校々舍の被害夥しく兒童に多數の死傷者を生ずる大慘事を惹起したが,京都府及び滋賀縣下の山林が暴風の爲に樹枝,樹幹を折られ或はその動搖によつて地盤を緩めた結果,鴨川,桂川その他河川の水源を荒廢せしめたことゝ,和歌山縣下の果樹が暴風の猛威の下に無殘に蹂躙せられたことゝは特筆すべき損害であつた。
2.豪雨による被害
颱風經過地に於ける雨量は必ずしも多かつたとは言はれないが,高知縣,鳥取縣,岡山縣等では9月21日の雨量400~500mmに達した地方があり,その結果は各河川の出水氾濫となつて堤防,護岸に損傷を與へ,橋梁を流失せしめ,或は道路を決潰する等甚大なる災害を釀した。
降雨による被害の最も大きかつたのは岡山,鳥取,兵庫の各縣であつて,京都,島根,德島の各府縣之に亞ぎ,沖繩,宮崎,福岡,大分,山口,愛媛,香川,高知,大阪,和歌山,奈良,三重,岐阜,長野,靜岡,山梨の各府縣亦相當の被害を受けたが,被害の最も劇甚であつた岡山,鳥取兩縣の被害状況は次の如きものである。
岡山縣に於ては旭川,高梁川,吉井川の3大河川未曾有の增水を示して堤防は到る所に決潰し,岡山,津山兩市を始め縣下全般に亘つて慘害を釀した。
死傷者 572人 倒壞又は流失家屋 3417棟(住家)
浸水家屋 46131棟(住家) 汜濫面積 24220 ha
堤防決潰及破損 2771箇所(延長約145km)道路破壞 5617箇所(延長約468km)
橋梁流失 1402橋 被害總額 70000000円
鳥取縣に於ては日野川,天神川を始め全縣下の各河川增水して堤防の決潰實に1570箇所に及び,倉吉町の如きは殆ど水中に沒する慘状を呈した。
死傷者 132人 倒壞又は流失家屋 745棟(住家)
浸水家屋 20863棟(住家) 氾濫面積 21219ha
堤防決潰及破損 4700箇所(延長354km)道路破壞 2509箇所(延長189km)
橋梁流失 1251橋 被害總額 43000000円
3.津浪による被害
高潮又は風津浪の被害が劇甚を極めたのは高知縣室戸岬以北の土佐灣に面した海岸,德島縣の東海岸,大阪府の西海岸,兵庫縣の明石以東の大阪灣に面した海岸及淡路島の東西兩海岸,之に亞ぐものは香川縣の東海岸,和歌山縣の西海岸であつて到る所に船舶の遭難,防波堤,防浪堤,護岸その他の破壞,家屋の浸水倒壞を招いた。
中でも津浪による被害の甚大であつたのは大阪港,大和川尻の堺市三寶海岸,神崎川尻の大阪市西淀川區及兵庫縣尼ヶ崎市等であつて,多數の倒壞家屋と多數の死傷者を出したのであるが,特に大阪港の如きは大小の船舶は固より3000t以上の汽船すら錨鎖を切断せられて漂洗し,安治川,尻無川,木津川の如きは一時沈沒船を以て充塞せられる慘状を呈し,防波堤,淺橋等の大破を招いた。
暴風と津浪とによる大阪府市の被害家屋は右表の通りである。
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II.工事別被害
1.河川
河川に就ては京都,兵庫,岡山,鳥取,島根各府縣の河川何れも既往最高水位を突破する程度の出水を招いた。
斯くの如き大出水の結果各河川に亙つて堤防,護岸,水制その他甚大なる災害を被つたのであるが,その最も著しいものに就て複舊工事費を集計すれば次の如き數字を示す。
斯くの如き異常なる出水の結果旭川は從來の計畫高水量5000m^3/secを6000m^3/secに更生し,改修計畫の一部を変更するの餘儀なきに至つた。
特に被害の劇甚なる岡山,鳥取兩縣の小河川の被害情況を見るに河岸侵蝕,河床洗掘の結果による土石は下流の河道を埋め盡して河水兩岸に溢れ,人家,耕地等に甚大なる損害を與へたのであつて,到る處山腹並に溪谷砂防工事を施行して水源を治める緊急の必要を生ずるに至つた。
2.道路,橋梁
道路關係の被害の内隧道の被害は專ら豪雨によるもので被害額も極めて僅少であるが,橋梁の被害は主として河川の出水に由來し,且つ被害額も巨額に達する。道路の被害は豪雨と河川の出水との双方に基因し,その被害額は橋梁のそれを凌駕してゐる。
從て道路,橋梁の被害は降雨と河川の出水とが劇甚を極めた岡山,兵庫,鳥取の3縣が最も著しく,島根,京都兩府縣之に次ぐ。
道路の被害は豪雨による山腹切取面の崩壞,路側擁壁の破壞に因るものが最も多く,特に沿川の道路にして河道内を埋立て治水上必要なる河積を縮少して築造せられたものは,道路の流失を招いた外に河川にも甚大なる被害を及ぼした事例が少くない。その中でも興味のあるのは河岸の改修道路の路側石積が決潰して道路が流失すると中から在來道路の路側石積が現れて爾後の決潰を喰止めたと言ふ樣な實例であつて,道路築造又は改良の計畫樹立に當つて治水上の要件滿足が如何に重大であるかを實證してゐる。
次に橋梁被害の原因は本邦に於ける大小各河川の橋梁多くは木橋であつて,而も腐朽架換期に近いものが極めて多いのに因るが,豪雨の爲に急激な出水が起る場合には水源山地に山崩を惹起し,立木を根こぎにして押し流す外,家屋その他の流失を伴ふ結果として之等の流木,流材は假令新に架換へた木橋と雖も之を押し流すに充分である。更に上流の橋梁が流失すればその流材は下流の橋梁を順次流失せしめて停止する所を知らない。之が我が國に橋梁災害の多い重大原因であるが,鉄筋コンクリートの如き永久構造の橋梁でも橋脚の根入が淺いか,或は橋脚コンクリートが河底岩盤に切込んでなかつたが爲に流水の洗掘,流木の激突に遭つて破壞した事例は岡山,兵庫諸縣に尠くない。
特に岡山市内の旭川の如きは永久橋の桁下高が不足した結果流木や流材が橋梁に漂着して流水を堰止め,幸にして橋梁の流失は免れたが,西岸に甚大なる被害を及ぼした實例がある。
之等の災害例は橋梁設計上の貴重なる參考資料たらしむるに足るものである。
3.港湾,海岸
港灣及海岸の被害は暴風及高潮に基因し,大阪港は風速及海面の昇程ともに最大であつた關係上,被害最も甚大であつて被害額實に11000円を超え,堺港以南岸和田港に到る海岸一帶及兵庫縣尼ヶ崎港以西,西宮港に到る海岸一帶の被害之に次ぎ,德島,高知兩縣の被害亦甚大であった。
港灣にあつては防波堤,物揚場,護岸,淺橋等の被害が大多數を占め,特に船舶の被害は大阪港が最も甚だしく,安治川,尻無川,木津川流末は全く沈沒船舶を以て埋沒せられる慘状を呈した。
和歌山縣,德島縣,高知縣の一部には防潮堤又は防潮林の施設があつて,之によつて高潮による被害を免れた地方もあるが風津波の波動は所謂長波であつて防波堤,防潮堤等の前面に對して碎波による破壞作用を及ぼすことが比較的少いのに反して,その背面は高潮の溢流落下によつて甚大なる破壞を蒙る。例へば大阪府三寶海岸及濱寺海岸の國道16號線,和歌山縣廣港の防波堤等の被害情況を見るに海岸側,港外側には殆ど被害の認むべきものがないのに,山手側,港内側には必ず法崩,法先洗掘,根固捨石散亂の如き被害が認められた。之は防波堤,防潮堤の築造上極めて有力なる示唆を與へるものである。
和歌山縣の海岸では昭和7年以來の匡救事業で施設せられた防波堤,護岸等の大破したのが少くないが,その爲に後方の村落,人家が流失を免れたと認められる實例も亦頗る多い。
4.鉄道,軌道
鉄道,軌道の被害も亦頗る廣範に亙り,東海道本線米原以西,山陽本線倉敷以東,山陰本線石見益田以東並に之等各線の連絡線及關西,四國各線にして,關係線路は國有鉄道45線(自動車線を含む),地方鉄道及軌道61線の多きに上り,其の被害額,國有鉄道4595028円,地方鉄道及軌道2595240円,計7190268円に達した。
而も之は直接工事に支出したる金額にして,此の以外に總係費,運輸運転費及用品費等を加算すれば被害總額は約7500000円に上る見込である。
特に被害甚大であつたのは西成線,山陽本線,作備線,伯備線,山陰本線,關西線(大阪臨港線を含む)及德島本線(以上省線),大阪市電,阪堺,阪神,南海,京阪,大軌及中國各鉄道線(以上地方鉄道及軌道)である。
風害の代表的なるものは草津・石山間瀨田川橋梁上に於ける急行列車の脱線転覆,攝津富田驛構内に於ける旅客列車の転覆及野洲・守山間,野洲川橋梁上の貨物列車の脱線墜落等であつて,之等は殆ど同時に發生し,乘客に多數の死傷者を出した。從來運転中の列車が風圧の爲,脱線若くは転覆せる實例は尠くはないが,此の如き鋼製大形客車の事故は稀であつて,其の如何に猛烈なりしかは想像に餘りがある。從つて建物の飛散,倒壞,電線の切断,電柱,鉄塔の傾倒等も頗る多く,送電線路,配電線路及通信線に故障を生じ電源杜絶し各種交通,通信機關全く停止し,甚しき不安を感ぜしむるに至つた。
高潮及津浪の爲,大阪港附近に於ける沿岸各鉄道の線路及諸建造物は悉く浸水の害を被り,甚だしきに至つては線路上に船舶,巨木橫はりて線路を閉塞し,之が取片付に數日間を要したるのみならず,臨港各驛構内に留置せる車輛の浸水或は脱線に依る損害亦尠くなかつた。
水害は岡山,鳥取兩縣下に於て最も甚しく橋梁流出,築堤決潰箇所無數に上り,線路は慘憺たる情景を呈した。
併しながら,運転事故は比較的尠なく,山陰本線末垣・寶木間伏野隧道東口附近に於て上り旅客列車が崩壞土砂に乘上げ,機關車及客車2輛脱線し軽傷者1名を出したるのみであつた。
國有鉄道に於て災害のため列車不通に歸したる區間は,その總數135,延長646kmに達せしも關係員が晝夜兼行にて線路の修理及材料の調達に當り,尚必要に応じ假線を敷設する等鋭意開通に努めたる結果伯備線の11月25日開通を除き,他の大多數は9月31日迄に開通するに至つた。
5.その他
電氣工作物の被害は比較的少いが,岡山,廣島,鳥取,島根各縣に於ては,取水堰堤及水叩,護岸の破壞,水路の埋沒又は決潰,發電所の浸水等水力發電所に多少の被害があり,京都,大阪,兵庫各府縣に於ては暴風又は高湖による火力發電所の被害があつたが,その被害額は何れも僅少であつた。
鉄塔,鉄柱,木柱その他電線路の被害も亦比較的僅少であつて,特に鉄塔及鉄柱の倒壞,木柱の折損倒壞の如きは殆ど京都,大阪,兵庫,各府縣に限られ,何れも暴風による被害であるが,是等被害の結果,上記諸府縣に於ては發電及送電を一時停止するの已むなきに至り,給水,點燈その他に少からぬ支障を及ぼしたのである。
次に土地及建築物に就ては暴風,豪雨,洪水,高湖による被害が相當に大きく,農耕宅地,森林,果樹,農作物等に關する被害を除くも,住家,非住家の全壞,半壞,流失,浸水等の被害の甚大なることは殆ど先例を見ない。就中被害の劇甚なのは大阪府であつて,住家,非住家の被害數188690棟に達し,特に府下の小学校約560校中暴風によつて倒壞したもの約130に及び,兒童の死傷數萬に達した事は悲慘の極であつた。小学校の如き多數の窓を有して空氣の流入が極めて容易であり,從つて暴風の爲に吹き倒され或は吹き上げられる,危險の多い公共建築物に重量の軽い木造建築を採用する事は極力之を避けなければならない。
最後に上水道及下水道關係の被害も亦比較的僅少であるが,大阪,京都,堺,明石,岡山各市の上水道及下水道には少許の被害があつた。被害は主として淨水場,配水設備,抽水所,汚水處理場の喞筒,電動機,電氣設備の浸水によるものであるが,停電のために相當時間に亙つて是等の設備がその機能を停止せられ,一般市民に間接的被害を與へたことは僅少ではない。
是等の諸設備を洪水又は高潮の浸水から完全に防護するは勿論,一朝停電の場合にも動力供給の豫備原動機を備へて少くとも給水に支障なからしめる事は絶對の要件である。
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第2部 河川,運河,灌漑,砂防
目次
頁
總説………………………………………1
總括表……………………………………2
I.第1號總括表………………………2
1.京都府に於ける被害表 2.大阪府に於ける被害表
3.兵庫縣に於ける被害表 4.奈良縣に於ける被害表
5.和歌山縣に於ける被害表 6.鳥取縣に於ける被害表
7.鳥取縣に於ける被害表 8.岡山縣に於ける被害表
9.香川縣に於ける被害表 10.德島縣に於ける被害表
11.高知縣に於ける被害表
II.第2號總括表………………………8
III.被害原因總括表…………………8
IV.原因別被害總括表…………………9
原因別被害内譯…………………………11
I.出水に因る被害……………………11
II.高潮に因る被害…………………14
總説
今囘の災害はもちろん豫期せざる豪雨,高潮に依る天災的のものなれども深く其の遠因を考究すれば人爲的な原因なきにしもあらず,即ち此の主なるものを列擧すれば次の如し。
1.調査資料の不充分,調査事業の不完備
大阪灣の高潮は灣形より見るも,既往の歴史より見るも其の成生は明らかなり。故に防波堤其の他の防備構造物を必要とせしにも拘らず,之を缺き遂に今囘の慘害を見たり。河川にありても流量測定等の調査をなせしものは數河川を除き無かりし爲,既往の雨量等により極く概算的に算出し以て改修計畫の基とせしもの少からず。爲に今囘の出水により溢流破堤の憂目を各所に見たり。
2.平常の維持管理の不完全
河川構造物は一つとして永久的と認むべからず,從つて日常の維持管理は緊喫事にして小破の中に修理すれば少額の費用にて被害を免れたらんものを之を怠り遂に大破に至りたるもの少からず。
3.水源の涵養の怠慢
治水の基は治山にあり。今囘の出水跡を見るに,土砂流は出水と相加りて河積を狹め,溢流,亂流を生ぜしものその例甚だ多し。
4.河川改修の急務
今囘の災害にあたりても既改修河川の複害僅少なるを見れば其の理明かなり。
5.諸附屬構造物の不完全
橋梁,用水堰の元付工の不完全,橋梁の低きに失し或は径間短きに失し河積を狹め,堤防,護岸の被害の因をなせしもの少からず。今後は須らく河川技術者は此等構造物に關係する技術者と相協力し禍根を將來に殘さざる樣注意すべきなり。
6.現行河川法規の不完備或は此活用不充分,一般國民の河川に對する認識不足,技術者に對する國家の認識不足
改修河川にありても水源地方の状況を著しく変化せしむる時は大出水に對して脅威を感ずるに至る。我國の現状にありては河川の管理,工事は内務省の所管なれども上流森林地帶は然らず。この間の連絡不備ならば之亦被害の原因たりと云はざるを得ず。又一部技術者のみが河川の管理,維持に關係するとも一般國民が河川に關心少なければ如何に技術者が努むるともその務を全うするを得ざるは明らかなり,甚だしきは沿岸民が既成堤防,護岸を破壞するが如き者あり。平常穩かなる河川も一朝出水に遭遇すればその暴威計り知る可からざる事及び河川工作者は一般公共の利害,治安に關係する事甚だ大なるを一般國民に深く認識せしめ度きものなり。最後に一言したきは國家が技術を重んずる事少く,從つて技術者を遇する事低き事之なり。今日我國の隆盛は何人の力なるかを深く考究すると共に技術者に意見を發表,實現せしむべき機會と地位とを與へ,その純理的意見により年々10億円を突破する災害を軽減せしめ,以て天理にそむかざる樣國家は努力すべきなり。
總括表
I.第1號總括表
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II.第2號總括表
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III.被害原因總括表
河川
出水に依るもの
A.根固め工又は根入不足が主なる原因となりしもの
B.法面工の缺除又は不完全が主なる原因となりしもの
C.被害本体の不完全よりも上流構造物の影響に依り被害を生じたるもの
例 流下物,橋梁流材の激突,上流貯水池の決潰,水流を嵩上げしつゝありし橋梁が遂に流失せし等の爲,一種の山津浪を生じたるもの
上流破堤により裏面より水流の激突を受けたるもの等
D.附近の構造物の影響を受けたるもの
例 對岸の護岸突出,附近橋梁の河積を狹めたるもの,附近用水堰の元付不完全,樋管部分の滲透水等
E.堤防,護岸高不足のため溢流し裏面よりの決潰より破壞が始まりしもの
F.堤体又は護岸裏埋が滲透水により飽和の結果崩壞し遂に本体が破壞するに至りたるもの
G.床止め工又は水制工にありて基礎不完全が被害原因となりしもの
高潮に依るもの
a.高潮又は之の逆流により Aの原因にて被害を生じたるもの
b. 〃 〃 B 〃 〃 〃
c. 〃 〃 C 〃 〃 〃
e. 〃 〃 E 〃 〃 〃
砂防
堰堤 山腹工
a'空積堰堤がその天端石の脱落により破壞し始めたるもの e'山腹工の法面
b'水叩部洗掘により 〃 〃 〃
c'取付工,元付工の決潰より 〃 〃
d'溢流部と非溢流部との接續部より〃 〃
IV.原因別被害總括表
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原因別被害内譯
I.出水に因る被害
1.根固め工の不備による被害(Aの例)
【例-1】島根縣大原郡日登村大字西日登字院内
河川 斐伊川右岸,堤防19號
復舊費 54774円
被害原因 河川大灣曲部にあり河床年々低下する處根元深掘防禦設備無かりしに依る又堤頂低く溢流す。
被害状況 被害長850m,堤防決潰民有地に氾濫す,但し堤内地盤高きに付き大なる被害なし。
決潰箇所は益々民有地に喰込み民有土地も大部分流失,河川敷と化せしむ。
災害對策 屈曲凹部に當るを以て全長に渉り水制工を施し尚堤防を元位置に築造す。
從來の卷石を一部分蛇籠を以て卷くことゝす。
馬踏幅2.0m,兩法1.8割,蛇籠根引表根固とし河床低下に備ふ。
此程度を以て十分とす(図-2參照)。
【例-2】岡山市船着町 河川 旭川
被害状況 護岸の脚部を洗掘され遂に崩落するに至る(図-3參照)。
災害對策 根固工の完備
2.法面の不完全による被害(Bの例)
【例-3】島根縣大原郡加茂町大字神原地先
河川 斐伊川支川赤川左岸堤防 復舊費 10904円
被害状況 築堤の竣功日尚淺く爲に堤体土砂充分落付かず然も法面の芝草繁茂せざりし内に大出水に遭ひ,遂に延長792m決潰するに至る。
災害對策 法面工充分效果を全うせざりしためなるを以て單に原形復舊するに止む。
3.附近構造物の影響による被害(Dの例)
【例-4】鳥取縣氣高郡明治村大宇細見
河川 野坂川支流細見川筋
被害状況 附近橋梁が永久構造にして,然も橋長,径間共河川流量を流下せしむるに不充分なりし爲,嵩上げられし洪水流は附近護岸を決潰せしむるに至れり(図-4參照) 。
災害對策 橋長及径間を長くし,河積を充分ならしめ且護岸高及根入を一層充分ならしむ。
【例-5】島根縣八束郡大庭村
河川 意宇川右岸堤防
復舊費 41681円
被害原因 本箇所上流には俗に切通しと稱して山を掘割り水路附替の岩底落差2.3mの堰堤樣のものありて河水全部を此處に通ず,本箇所は此切通し落水の直角に突當る屈曲を爲したる外側に當る,依て洪水流水堤腹に激突し之に耐えず決潰したるものなり。
即ち堤高低く馬踏幅2m前後表裏兩法1割前後の小堤に有りし爲なり。
被害状況 破損長380m,堤防決潰流砂礫は附近田面に堆積し尚餘水は遠く1里餘の下洗一帶田面に擴がり流下中海に注ぎたるも大なる被害なし。
災害對策 落差2.3mの切通しを流るゝ洪水は非常なる勢を以て本堤防を突く爲,本箇所は洪水の度毎に決潰するを例とす,依て切通し河底を低下せしむるか本堤防を遙かに後退して河幅を擴大屈曲を緩和せざれば洪水に耐えること困難なり。
今囘は後段の法により堤防を30m以上後退し築造す。
馬踏幅3m,洪水位上1m,表裏兩1.2割法の石垣張石及コンクリート張表根固には木工床1段乃至2段積沈設又相當川幅を擴大す。
之に依り從來のものより多大の改良を加へらるゝことゝなる(図-5參照)。
4.溢流の爲の堤防決潰(Eの例)
【例-6】鳥取縣西伯郡福生村皆生
河川 日野川左岸堤防(堤防高4m)
復舊費 174609円
被害原因 河川氾濫し溢流の結果堤防裏側石積脚部洗堀され決潰に至る。
被害状況 延長767mの堤防決潰し,流失反別3町歩を生ず(図-6參照)。
被害對策 堤防高を充分ならしむるを第一義とす。
5.堤防土質砂質なるため飽和の結果崩壞(Fの例)
【例-7】島根縣簸川郡直江村大字上直江字法華經堤
河川 斐伊川派川新川右岸堤防 復舊費 59701円
被害原因 堤体に滲透漏水の爲決潰したり。
馬踏頂點最高水位上餘裕なく正に溢れんとす,其巾4m表裏兩法1.8-2.0割にして川床より堤内田面は4m低きにあり堤体荒目砂の川砂により構成せらるゝを以て滲透漏水は裏堤中段に滲出堤土を流下せしむ,斯くし堤体漸次ずり落ち決潰に至りたり。
被害状況 破損長160m,本堤は小山と小山を連結する長さ160mの短かき堤防なるが其全体決潰流失したり。
決潰跡は裏田面低きを以て河水は全部此處に流入して本川を流るゝ水無きに至らしむのみならず河床の流砂は全部此處に流入堤内地を遠く2kmに亙り高2~1mに埋積一大砂磧を造成せしめたり。共耕地の荒廢状況慘憺たるものなり(図-7及図-8參照)。
又河川流水は全部堤内地を流れ約6km下流の宍道湖に注ぐ迄田畑の耕地上を通じたり堤内下流にある莊原村庄原は人家連檐200戸に及ぶも全戸床上浸水,然も十數日に渉るも人家の流失3戸,幸ひ人畜の死傷なし。
急水止めは2囘に渉り失敗したるも3囘目十餘日にして漸く完成したり,蓋し難事業なりし。
災害對策 本川は斐伊川本流改修の曉は廢川となり不用に歸すと雖も灌漑面積數千町歩に及び利害關係の範圍廣きを以て之が復舊は相當強固のものとせざる可らず,依て馬踏幅を5mにし,洪水位上1mに表裏2割法,表小段及表中段表根漏水止失板工,粘土張漏水止工,裏根固石垣を設く。但從來のものに比し多分に改良せらる(図-9參照)。
工事費甚だしく多額を要するは応急水止工に36000餘円を費したる爲なり。
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II.高潮に因る被害
1.附近船舶の激突による護岸の破壞(cの例)
【例-8】大阪市大正區千歳濱通
河川 淀川派川尻無川 復舊費 117778円
被害状況 高潮襲來により附近繋留船舶の激突により延長5443.4m破壞す(図-10)。
災害對策 鉄筋コンクリート矢板護岸に復舊し,然も護岸高を相當高む,高潮の防備は防波堤その他により別個に考慮す。
2.溢流のための護岸決潰(eの例)
【例-9】大阪市西淀川區神崎川河口附近一帶
河川 神崎川及同派川 復舊費 643900円
被害原因 昭和9年9月21日夜半宮崎縣の南方約100kmの海上より北東に進路をとりて進行せる颱風の中心は風速60m/secの急を以て同日午前8時多量の雨を伴ひて大阪地方を通過せり。之に続いて大阪灣内に高潮襲來して,水位頓に上昇し神崎川川口附近に於ては標高O.P+6.0mを算するに至れり。水位は約20分にして下降を開始せるも,之がため神崎川,左門殿川,下流沿岸一帶に亘りて甚大なる被害を受けたり。
高潮襲來を受け神崎川及左門殿川口の中間に當る布屋町地先海岸堤防約900m並に神崎川本流川口と淀川口との間に相當せる矢倉町地先海岸堤防約200mの2箇所先づ決潰せり。之がため水の猛烈なる勢を以て侵入し,堤内を泥海と化し,昭和7~8兩年度に於て改良工事を了たる神崎川及左門殿川堤防の裏面を浸蝕し遂に數箇所(図-11參照)を決潰するに至り多數の死傷者を出したり。
神崎川改良工事に於ては4.5~8.0m長の鉄筋コンクリート板柵式護岸工を施したるも今囘の災害に當ては被害の大部分は堤防並に護岸裏埋土壤を裏面より浸蝕洗去られたるものにして護岸の被害は僅少なり。
災害對策 今囘の如き災害に對する將來の對策は次の如き意見に基き樹立せり,即ち今囘の如き高潮襲來に對し安全な堤防高及其の護岸の計畫は餘りに不經濟なるを以て,下記の如く堤防高は在來のものより適當に之を高め又潮により洗はるゝも洗掘なき樣表裏法天端共石張又は粘土張を施す事とせり。
神崎川本川
堤防高をT杭零號に於てO.P+5.50m(在來堤高O.P+4.545m),丁杭6號に於てはO.P+4.144m(在來堤高3.944m),T杭21號に於ては3.748m(在來堤高と同じ)とす。
河口より丁杭8號迄は兩岸共表裏法石張之より上流左岸にては約620m,右岸に於ては約520m,の間は表法石張,裏法は被覆粘土を以て保護す。
神崎川派川及左門殿川
左岸に於て丁杭0號にて堤高をO.P+5.50m,丁杭4號に於てO.P+4.50m(在來堤高4.166m),丁杭13號に於てはO.P+3.743mとし,これより上流は水平に在來堤防に取付くるものとす。
河口より丁杭6號附近迄は表裏法共石張施工,これより上流約540mの間は表法石張,裏法被覆粘土を以て保護す,右岸に於ても略之に同じ,けれ共派川左門殿川合流點に於ては堤防高を相當に高め表裏共石張施工をなす等の必要あり。
海岸堤防は全面石張工を施す。
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第3部 港灣,海岸
目次
頁
總説………………………………1
總括表……………………………4
I.第1號表………………………4
1.府縣別被害總活表 2.港灣,海岸別被害總括表 3.港灣,海岸別被害内譯表
II.第2號表……………………12
1.原因別被害總括表 2 原因別に依る各府縣被害總括表
原因別被害内譯…………………15
1.基礎捨石小なるため波浪による移動,流失
2.基礎根入不足又は地盤軟弱のため波浪の洗掘力に耐へず沈下又は転倒
3.波浪溢流による基礎又は法面の洗掘 4.波浪溢流による裏込の流失
5.波浪溢流による漂流船又は浮游物の激突 6.波浪による積石の脱落
7.土砂堤にして波浪防禦の力不足 8.波浪の破壞力特に大
9.波浪による砂濱侵蝕甚だしく防禦困難 10.河川の洪水に起因
11.暴風による船舶動搖又は風圧による破壞,坐洲 12.波浪溢流による鋪裝の浮上り
大阪港の被害……………………31
1.被害原因 2.被害状況 3.災害對策
總説
昭和9年の室戸颱風は高知縣室戸崎北方に上陸し四國,淡路を橫切り,大阪市と神戸市との中間を拔けて北方に去つた。此の記録的の深度を有した颱風は大暴風雨と高潮とを伴ひ,其の進路に當る各地方に大災害を惹起したが港灣及海岸の工作物被害は土佐,阿波,淡路及大阪港北岸の地方が特に甚大であつた(図-1參照)。
各地に於て觀測された風向,風速及海面の上昇高は表-1の如くであるが,室戸崎附近,紀伊水道西岸,播磨灘東岸及日本海沿岸地方に於て最強風の方向は略海岸線に直角をなし,波浪の破壞力の特に強裂であつたことが想像される。又高潮に就ては紀伊水道より大阪灣に入るに從ひ次第に其の高さを增し,大阪港に於て豫定水面上約4mに達してゐる(表-2參照)。
尚ほ海岸,港灣工事被害の分布を見れば(表-3參照),高潮又は風浪の特に大なりし地方を明かに知り得る。
此の災害の原因は勿論殿風に歸一し得るものであるが,個々の場合に就ては夫々異なれる内的原因に依つて災害を特に甚大ならしめたと考へられるものがある。其の主なるものを掲げれば次の如くである。
1.暴風,高潮のために生じた漂流物に因る被害 是は大阪港に於て特に著しいものであるが,暴風或は高潮のため大小汽船,艀船或は木材等が繋留索を切断されて押流され,或は岸壁,棧橋に激突し,或は護岸に乘上げ,又は上屋,倉庫を破壞した。一方又高潮に依る浸水は在庫中の貨物を損じ,住宅其他に多大の損害を與へてゐるが,港灣の工作物のみに與へた損害は浮游物に比較すれば遙かに小である。
2.永年間の波浪,潮流の作用による砂濱の侵蝕 土佐,阿波,淡路の海岸には古くから防潮堤,防潮林の施設があつて今囘の如き高潮防禦の用に供せられてゐたが,永年の間に作用した波浪,潮流のために工作物の前面の砂濱が侵蝕されて根固が薄弱となり,且之が維持修理の行屆かぬ結果今囘の激浪のため基礎を洗掘されて破壞したものが多い。
3.構造物の強度小なりし爲の被害 瀬戸内海等では普通風浪も餘り大きくないために護岸,防波堤等の構造も比較的簡易で基礎の捨石の軽きもの,根入の小なるもの等多く,特に大なる波浪の破壞力或は高潮に依る溢流等に耐へずして崩壞せるものが多い。
以上掲げたる諸種の原因に對しては當然下記の如き對策が考へられる。
1.に對しては外廓防波堤の築造は勿論第一に考ふべきも,更に又充分なる面積の船溜,貯木場の完備,繋船浮標の補強及暴風警報と共に小型船の避難命令の通達等は被害額の減少に多大の効果を與ふるものと信ずる。
2.に對しては砂濱の変動を防ぐ防砂堤の普及及海岸堤防の維持修理を嚴にすること。
3.に對しては構造物の重要さに応じ強度を適當に高め,極度の工費節約は之を避けること。特に地盤の軟弱なる箇所及著しく波浪を受くる個所にては基礎根固めの構造施工に注意し,又は波返し,裏込背面の鋪裝等を施すべきである。
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總括表
I.第1號表
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II.第2號表
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原因別被害内譯
【例-1】岩屋港(兵庫縣津和郡岩屋町岩屋)
工作物 防波堤 被害金額 23652円
被害原因 350kg程度の捨石突堤なりしが激浪のため上部の捨石が動亂の上崩壞せり。
被害状況 防波堤353m1箇所,上部の捨石動搖せられて内外法面に散亂せるため滿潮面以上の捨石僅か殘存するのみ(図-2參照)。
災害對策 被害の原因及状況に鑑み干潮面以上を天端幅4mのコンクリートブロックとし以下を外方2.5割,内法2割の捨石を以て突堤全般を強固にせんとす。
【例2】網代港(鳥取縣岩美郡網代村網代)
工作物 北防波堤復舊延長40.0m 復舊金額 20000円
被害原因 暴風のため波力強大となり防波堤先端法先地盤の洗掘及防波堤構成捨石の移動のために依る。
被害状況 北防波堤の頭部及頭部より陸に向ひ延長40.0mの兩法の捨石崩落流失し尚中央部の天端コンクリート延長の2mも破壞沈下せり。
災害對策 本港防波堤は從來殆んど大部分は海中の転石を採用したる捨石堤なり,然るに近年港灣工事進展と共に転石の量缺乏するに到りしを以て動もすれば小なる石を疊重せんとする虞れ有るを以て特に大なる石を用ふることに留意し又はコンクリート函又は塊を以て相當なるものを作り波力に堪へしむるの構造となすを要す。
【例-3】鞆港(德島縣海部郡鞆奧町大字鞆浦)
工作物 防波堤 被害金額 9127円
被害原因 本港に於ける防波堤は天端幅3.5m,内腹法2割,外腹法3割にして中埋捨石1箇重量20t程度のものを使用し,之れを1箇當り1t内外の割石を以て包み,更に其の上を1箇當りに2.5t内外の割石を以て被覆せる捨石防波堤にして相當の安定度を有するものなれ共昭和9年9月襲來せる波浪は意外に高くして約5mにも達し,強大なる波力は捨石を転動し遂に之れを破壞するに至れり。
被害状況 強波浪のため防波堤の先端より順次1ヶ所全長46.7mに亙り干潮面以上全部破壞され大小無數の捨石は港内に流散し,漁船の出入不能となれり。
災害對策 今囘襲來せる強波浪に鑑み全長にわたり干潮面以上コンクリート方塊及コンクリートを以て補強するを適當なりとす。
【例-4】印南港(和歌山縣日高郡印南町大字印南地内)
工作物 防波堤 復舊工事費 9744円
被害原因 外的原因:昭和9年9月21日の大風水害に依り波浪の爲破壞す。當時7.50m
内的原因:基礎工は2m平方,高1mコンクリートブロック及同大コンクリートボックス ケーソンを据付け,上部は1:3:6配合,厚50cm現場打コンクリート工なりしも波浪の爲,基礎ブロックに沈下を來し,上部コンクリートの龜裂及中埋礫の流失等の原因に依り遂に破壞したるものと思料す。
被害状況 總延長157.20mの内50.m(約1/3)上部コンクリート工全部破壞す。
災害對策 基礎工ブロックの歪を直し更に1個通りボックス ケーソンを積重ねる(水位の關係上現場打コンクリート施行不可能に依る)。上部工は扣55cm雜割石練積施工し,中埋礫は径30cm以上のものに改め,國庫補助を得て復舊せむとす。復舊延長50m,天端幅3m。
【例-5】安來港(島根縣能義郡安來町大字安來)
被害金額 11426円
被害原因 波浪高かりしため防波堤根元を洗掘し堤体沈下す,内的原因として舊堤は游泥土の軟弱地盤の上に捨石を爲し築造したりしが故に沈下したるものなり。
被害状況 1箇所,長43m,復舊工費11426円。突堤防波堤兼ピーヤ,1m以上沈下傾斜してピーヤ兼防波堤の用を爲さず。
災害對策 復舊工事は全長100m中破損したる部分43mを築造するに過きず,他の殘部と雖も同じく軟弱基礎の上に構築せらるゝを以て何れかの日に於て沈下を見ることは明かなり。依て此際併せて復舊するを得策とするも工費不足して困難に付別途費を支出して決行する覺悟なり。
今囘の復舊計畫は軟柔地質厚約3mを掘鑿取捨て其跡に砂を入れて置替,此上に粗石厚1mに捨石上均し上左右兩側幅1.2mのコンクリートブロックに改積,高2mとし其上は干潮面上となるを以て場所詰コンクリートとし高1.5m,敷設天端仕上幅7.0mとす。
【例-6】相生海岸(香川縣大川郡相生村字二ッ池)
工作物 護岸及防砂堤 被害金額 51079円
被害原因 外的原因:時速34m颱風に依る波浪激突及打越浪による。
内的原因:護岸根入淺く石垣の空積及石扣の不足,打越浪に依る流失。
被害状況 護岸全部を破壞し人家數戸を倒し尚,護岸に沿へる國道22號線を砂礫の濱とし交通杜絶す。
災害對策 1.根入過少なりしに依り之れが對策として根入を2.5m以上,即ち干潮面以下0.5~0mとし基礎コンクリート方魂を設置す。2.上部石垣は空積を廢し凡て練積とし尚裏込コンクリート厚0.30m以上を施行せり。石扣は35~45cmとす。3.打越波に依る背面よりの破壞に對し護岸高を最大滿潮面上1.20mとし尚高1.0mの防浪壁を計畫背面打越波の排水の爲,幅30cm,排水溝の幅2.0m,排水コンクリート地帶を施行す。4.護岸前面砂礫の移動を防止する爲,延長10mにして1個の目方600kg以上の捨石防砂堤を間隔30~40mに施行す。
【例-7】今津大手海岸(德島縣那賀郡今津村大字江野島)
工作物 堤防 被害金額 7041円
被害原因 本堤は空積石張工なるも根入不充分にして根固工なきため,海嘯襲來に際し砂丘の流失と共に激浪のため其の基礎洗掘されたるに因る。
被害状況 激浪のため本堤防附近砂丘は流出され堤脚に深掘を生じ,堤防空積石張弛緩し,薄弱なる堤体危險の状態となれり。
災害對策 堤防根固として木矢板及地杭上に幅1.5m,高1.0mのコンクリートを施工し,其れを基礎として玉石コンクリートを以て,堤腹法留工及浪返を築造せんとす。
【例-8】神戸港(神戸市沿岸)
工作物 南防波堤 復舊工事費 113000円
被害原因 今囘の高潮は神戸港に於て東京灣中等潮位上約2.6m(午前7時50分)を示し,過去34年間の最高潮位同上約1.50m(大正13年9月12日)に比するに尚約1.10m上位に在り,當日の潮位記録に依れば潮位の著しく上昇し初めたるは午前6時半頃にして午前7時に於ては本防波堤は全部海水中に沒し,其直立壁は全面的の浮力を受け居れる處へ更に一段の高潮を受け,加之外洋に惹起さる友ヶ島水道を通過せる波浪が本堤に迫り遂に此災害を生じたるものと認めらる。
被害状況 本堤の構造は捨石堤の天端を本港修築工事基準面(東京灣中等潮位以下0.8934m)以下4.85mに均し其上に上幅3.64m,底幅6.97m,高さ6.67m,長さ12.12m或は13.94mなる鉄筋コンクリート凾を据え,函室の填充及胸壁は場所詰コンクリートを以て施行し,函の兩側には補強のため根固方塊2段乃至4段を積疊するものとす,填充濟函塊1個の重量約870t及1000t,方塊1個の重量約14t及17tなり。
災後被害個所を檢するに捨石の法面は其上部に於て相當攪亂せられ表面を被覆せる大割石の転落流失せる箇所多し,又函塊の總數95個中63個迄何れも多少の移動を認められ,最大水平移動25cmに達せり。而して其移動状態を調査せるに函は内側の根固方塊と共に一体となりて港内に向つて滑動し,外側根固方塊は最上層に於て移動或は転落せるものあるも他は内側に傾斜せる程度にて最下層に至りては其移動を殆んど認め難し。
災害對策 函塊の移動は概して水平にして其程度も僅少なり。從つて本防波堤の機能は從前に比し,何等減退せるに非ざるを以て原状に復する爲には捨石の補充と離散方塊を函塊現位置に沿ひて規則正しく置き並べ整頓するを以て足れりとし,之が所要復舊工費は上掲の如く約113000円を用意すれば可なり。
然るに本堤施行位置は大体水深13m以上の深所に在り旦設置方向(約東西の位置を取る)より見て友ヶ島水道を通過する外洋波浪の衝撃を受くべきを以て從來に於ても本港防波堤中其構造特に堅牢を期したりと雖,今囘の如き高潮及風浪の猛威を再考するときは相當程度の增補を必要とするものと認めらる。少くとも函塊上部場所詰コンクリートを增施し又根固方塊の數を增加し直立部分の全重量を增して滑動の危險を緩和する必要あるべし,而して之がために要する增補工費は最少限度約300000円を算すべし。
【例-9】飾磨港(兵庫縣飾磨郡飾磨町須加)
工作物 防波堤 被害金額 22758円
被害原因 南風強く,且つ稀有の高潮により,防波堤に於ける越へ波多く,天端捨石(重量1個400kg以上)散亂せり。
被害状況 南防波堤乙部の港口(右図),突端の被害は殊に大なり。
散亂捨石は6896.5m^3,天幅4.0mに均し施工せるも,5.0~6.0mに擴大す。
災書對策 被覆捨石重量400kg以上を500kg以上のものに変更せんとす。
【例-10】濱寺海岸堤防(大阪府泉北郡濱寺町)
復舊工事費 89089円
被害原因 9月21日の颱風によりO.P+4.5mの高潮襲來し,強大なる波力により堤防に激衝し且溢流して崩壞せり。
被害状況 現堤は土砂堤にして高O.P+4.5m~O.P+5.5mにして被覆工なく全部雜草繁茂す。石津川を中心に北方に1134m,南方に768mあり。高潮襲來により風浪のため或は堤防低部より溢流し,北方堤防は約50mを殘して殆ど全部流失し,南方は一部決潰し又全面に亙り表法天端等を洗はる。
堤防決潰により堤内地に怒濤侵入し,前古未曾有の大慘害を沿岸地方に及ぼせり。被害延長1902m。
災書對策 今囘の大慘害に鑑み,沿岸住民安住の對策上強固なる堤防を施設する事となし,災害復舊國庫補助工事以外に都市計畫事業防潮堤工事とし,別途に國庫補助を受くる事なく防潮堤工事を施設する事となる。一般標準断面図-5の如し。
【-11】鳴尾海岸(兵庫縣武庫郡鳴尾村字平左衞門新田)
例被害金額 13906円
被害原因 暴風雨襲來と共に高潮堤防を橫溢し,堤防背面の土砂全く洗掘せられると同時に前面の石垣倒壞し潮除堤防全く決潰せり。
被害状況 被害延長214m1箇所,舊堤防は前面法石垣の下部を殘存するのみにして跡形なく破壞せり。
災害對策 高潮堤防を溢流せるにより堤防の高さを增加すると共に前面は法勾配1.2割として芦根土を以て被覆せり。
【例-12】松茂村海岸(德島縣板野郡松茂村豐岡)
工作物 堤防 被害金額 123088円
被害原因 本堤防は松樹繁茂せる防潮林あり,堤外腹は空積石張にして完全なる根固めなく,捨石によるのみにして,内腹は土砂を以て,盛立たるに過ぎず。
海嘯襲來に際し強風,激浪のため防潮林倒壞,堤防,根固より順次破壞さる。
被害状況 堤防決潰延長1167m,堤腹法留崩壞,根通りに崩落石堆積せるのみなり。防潮林倒壞,海水は堤天端を越えて耕宅地を浸せり。
災害對策 本海岸は常に波浪の強く襲來する地點にして,強固なる堤防の築造緊要なり。本堤復舊に當り地杭コンクリート根固工をなし,堤防外腹空積石張を練積石張に改良し,且つ其の上部に波除小堤を築設し以て激浪怒濤に對し安全を期せんとす。
尚海岸各所に砂防堤を築堤し波浪のため常に侵蝕されんとする砂丘の形成を促し堤防の補強となさんとす。
【例-13】觀音寺港(香川縣三豐郡觀音寺町大宇觀音寺字加茂)
工作物 防波堤,荷揚場護岸復舊 被害金額 63759円
被害原因 A.外的原因 激浪防波堤を乘越へたるを以て捨石を洗去られ徐々に大破したもの。荷揚場及護岸は裏埋土を洗出築石を搖動し遂に破壞したもの。
B.内的原因 防波堤は在來捨石の小なりしため自重軽くために波浪に堪えざりしもの。荷揚場は工作物裏側地盤徐々に沈下して空洞となり天端に大なる龜裂を生ぜしもの。護岸石張工作當時根入淺く且つ裏側地盤の弛緩を生じ居りしも一原因とす。
被害状況 防波堤の延長約400mの長に渉り捨石飛散埋設せり。
荷揚場は上記理由に依り延長約250m渉り天端に於て龜裂を生じ,前面工作物は傾斜し危險なり。
護岸は延340mに渉り在來築石破壞し四散して裏側土を露出せり。
災害對策 防波堤は舊弊に鑑み捨石の大なるものを使用し,天端に目潰用コンクリートを施して風浪の際,離脱せざる樣なしたり。荷揚場は前面コンクリートを施し根入を深め各所に丸桿径32mmのものを以て控を取り前面への転倒を防ぎ上部は在來通り復舊するも護岸は雜割石を以て胴込とし根入を深めたり。
【例-14】釜口海岸(兵庫縣津名郡釜口村釜口野田)
工作物 潮除堤防 被害金額 25651円
被害原因 在來護岸には粗石空積石垣にして且つ裏埋立は土砂なりしため激浪により裏埋土砂の洗浸流出と相俟ちて護岸石垣の崩壞をみる。
被害状況 被害延長1153m2箇所,在來護岸石垣は僅に根石の痕跡を止むる程度にして砂濱と化す。
災害對策 被害の原因及状況に鑑み護岸石垣を基礎梯子土臺とする練積コンクリート石垣として根入を充分深くし且つ天端幅1.5m並に提防裏1割法面を大栗石羽取として突込コンクリートを施し,潮除堤防を天端表裏の3面とも強固なるものとせんとす。
【例-15】神戸港(神戸市沿岸)
工作物 海岸通水深5.5m岸壁 復舊工事費 100000円
被害原因 本岸壁に對しては高潮激浪及西方の強風は何れも其原因を分擔せるものなり。先づ稀有の高潮に依りて浮函が其底面を護岸天端面と相等しき迄上昇し繋鎖の「たるみ」を失ひたることは第一の禍根なり,之に次いで激浪其威力を逞くして浮函を飜弄し偶々繋鎖の一部切断せるに乘じ波浪及強風は浮函を背後護岸上に押上げ護岸面と浮函底面との間に衝撃を生じたるために此被害を大ならしめたり。
被害状況 本岸壁は水深を5.50mに維持し船舶の舷門荷役に便ならしめんため鉄筋コンクリート浮函を併用したるものなり。即ち法線より7.40m後方に方塊積護岸を東京灣中等潮位上約1.24mの天端に仕上げ其前面に延長360mに亙り浮函(長22m,幅7.20m,高2.60m)16個を浮べ幅11mの渡橋4個,幅3.60mの渡橋3個とを以て陸地上屋と聯絡せしめ各浮函は繋鎖4本宛を以て繋留せるものなり。
從來の最高潮東京灣中等潮位上1.50mは護岸天端を超ゆること26cmに過ぎず,從つて波浪來襲するも防舷材及防舷鉄板にて充分浮函の安全を期し得たりと雖も9月21日の高潮は護岸上1.40mとなり,浮函の底面と護岸天端と殆んど同高となれる處へ折柄の西強風に煽られ,鎖を切断し浮函は護岸上に昇り波浪に弄ばれ,護岸上面と浮函底面とは約20分間衝撃しつゝありたり。依つて函は破損を受け潮位の急降に伴ひ護岸上より引卸さるゝと共に浸水せり。
事後に於て之が被害を調査せるに函16個中4個は沈沒し,5個は大破し,又護岸上部に於て少許の破損を生じたり。
災害對策 本岸壁を原状に囘復する爲めに要する工費は上掲の如く約100000円を要すべし,元來本岸壁は瀬戸内海航路船舶の荷役慣習に順応する特種の構造にして,常時の使用に際しては渡橋を通過して舷門直前まで貨物自動車其他の荷車を曳き込み得るを以て貨物取扱頗る迅速且つ便利にして夙に關係業者の推賞する處たり,唯荒天に際して浮函は來襲する波浪及背後護岸に依る反射波の影響を受けて複雜なる動搖をなすを以て今囘の如き不測の高潮及激浪の再來する場合を考慮すれば更に損傷を繰返す患なしとせず,故に多少の不便を忍びて此際之を固定岸壁に改造するを可なりと考ふ。本改造に要する工費は約130000円にして前掲復舊工費を超過すること僅に30000円なり。
【例-16】神戸港(神戸市神戸區新港町神戸税關新港構内)
工作物 神戸税關陸上設備(上屋、通路、橋掛け、防舷材 電氣起重機及電氣設備) 復舊工事費 66966円
被害原因 高潮の爲の浸水,激浪,浮游物の衝撃。
被害状況
上屋:鉄造16棟,鉄骨鉄筋コンクリート造2棟,木造2棟,計20棟
出入口扉は釣戸式,シヤツター式何れも撚曲又は灣曲,鉄造及木造の側廻羽目は地上約5尺位,諸所破損其他竪樋及窓硝子等破壞,復舊工事費 14916円
道路:碎石敷200坪,鋪石敷900坪,煉瓦敷(歩道)20坪,計1120坪,陷落,鋪床流失等,復舊工事費13000円
橋梁:1箇所(京橋)鈑桁突縁及綾構材損傷
橋上鋪床毀損,復舊費17150円
岸壁防舷材:甲種防舷材(密着格子形)48箇所,乙種防舷材(橫木一段式)1750尺毀損,復舊費11400円
電氣起重機及電氣設備:電氣起重機23臺,何れも多少の損傷,地中電纜及外燈設備損傷,復舊費10500円
災害對策 1.上屋の岸壁側貨物搬出入口は特別の事情の無き限り幅12尺位に止むること。
2.扉は釣戸式よりシヤツター式の方波撃に對して強固なり。釣戸式を採用する場合は敷居を設け,扉の下端突縁のガイドを充分になす必要あり。シヤツター式にありては下部約4尺位はダブム型とせば一層完全なり。
3.上屋側壁は地上5尺位までコンクリート造となすべきこと(平素の荷役に際しても貨物又は車体の衝突等にて損傷を受け易き箇所なるを以て,上屋の主体構造の如何に拘らず絶体必要と断定す。
【例-17】由岐港(德島縣海部郡三崎田町大字西由岐浦)
工作物 堤防 復舊工事費 6303円
被害原因 昭和9年9月21日の暴風高浪により強大なる波力をうけ加ふるに港内船舶並に木材堤体に激突し,之れに對する堤体は使用築石小にして且空積なりしため破壞せられたり。
被害状況 堤防延長209.5m堤体全壞せるも約6歩通りは基礎工は其のまゝ殘存せり。
災害對策 使用石材の大きさを大なるものとし,肌詰コンクリート石垣とし堤防の強固を計らんとす。
【例-18】福良港(兵庫縣三原郡福良町洲崎)
工作物 護岸 被害金額 5526円
被害原因 在來護岸工は粗石空積石垣なりしが激浪により脱落及差狂を生じ遂には崩壞せり。
被害状況 護岸石垣一部脱落差狂の儘現存するも大体崩壞状態を呈す。
災害對策 胴込及裏込コンリートを施す練積石垣とし,基礎地盤充分ならざる箇所にはコンクリートブロックを据付け基礎及石垣共に強固にせんとす。
【例-19】羽根海岸(高知縣安藝郡羽根村新田)
工作物 潮除堤 被害金額 8392円
被害原因 外的原因 高浪の襲來に依る。
内的原因 法高1m内外の空積石垣なりしも石垣に狂を生じたる處ありたるため決潰せしものなり。
被害状況 決所延長80mに及び爲に後方人家は流失又は全壞し其の被害大なるものあり。
災害對策 復舊防潮堤は堅牢なる練積石垣とし,基礎は1m以上根入をなし海面側には浪返しを附し,天端は+9.0m以上とし,從つて現存石堤は之を嵩上をなし延長283mに堅固なる防潮堤を作り,海岸線一帶には防潮林を復舊するを適當なるものと認む。
【例-20】今津大手海岸(德島縣那賀郡今津村大字江野島)
工作物 堤防 被害金額 106701円
被害原因 本地點は堤防無外裝なるに其の前面砂丘の最も小なる箇所にして,海嘯襲來に際し激浪堤防を溢流し決潰せしむ。
被害状況 堤防決潰延長484m,内無外裝堤200mの區間は堤防前に松樹防潮林ありたるも,砂丘の流失と共に悉く倒壞し,堤防破壞され潮水侵入して耕地並に宅地を浸し,其他根通り玉石コンクリート張を以て保護せる箇所も根入淺き爲め基礎を洗掘され堤天端を破壞されるに至れり。
災害對策 堤防根固として木矢板及地杭上に幅1.5m,高1mのコンクリートを施工し,其れを基礎として玉石コンクリートを以て堤腹法留工及浪返を築造せんとす。
更に本地點は砂丘著しく流失せるを以て堤防維持上玉石コンクリート方塊積突堤長25mを100m間隔に築設せんとす。
【例-21】安田海岸(高知縣安藝郡安田町安田)
工作物 潮除堤 被害金額 60890円
被害原因 外的原因 高浪の襲來に依る。
内的原因 海側に濱ボーの木有りしを以て堤体土砂の流失を免かれ得たる所ありしも大体は砂丘なりしを以て容易に根部を洗掘されたるに依る。
被害状況 延長660mに及ぶ本堤は海岸側は大半流失し,濱ボーの木の繁殖せる處は流失洗掘の程度極めて少くよく其の效果を實證せり。
災害對策 本箇所は後方には安田町を有するを以て舊來の土堤にては不完全なるを以て練積石垣の堤防とし其の標高を10mとするときは適當なるものと認む。從來家屋の建設に當りては土地の安價と漁業上の利便を以で海濱に沿ひて建設する向あるも爾來堤防附近に住宅禁止の區域を設くるも亦考慮すべきものと思考す。
【例-22】津呂港(高知縣安藝郡室戸岬町津呂)
被害金額 62763円
被害原因 昭和9年9月21日午前4時頃示度684mm,風速60mの大颱風となり,折柄3囘に渉り平均潮位以上約12mの大海嘯襲來し激浪のため被害を受けしものなり。
西防波堤は空積石垣にして中埋は栗石なりしも波浪により決潰されると共に前港を土石を以て埋設し,偶々第2護岸は滲透水のため多少龜裂を生じ居りたる處外浪の激突したるが爲に破壞され,続いて海嘯は内港に進み入口の狹少なるに乘じ水勢倍加され内港入口波止堤は練積石垣なるも中詰栗石不完全なりしがため破壞され内港亦埋沒せられたり,西防波堤先端捨石は豫想以上の激浪のため浚はれ東側砂防堤は西防波堤低きため海嘯の激動を受け根入少なかりしを以て根部を洗はれ崩壞するに到りたるものなり。
被害状況 西防波堤起點より85mは何等の原形をも止めず決潰し,前港4163m^3,内港395m^3,埋沒せられ東側第2護岸延長34.4m,高2.4m,厚0.3mのコンクリート被覆剥脱す,内港入口波止堤は右側石垣のみを止め左側長9.4m石垣根部より決潰され中詰亦空虚となる,西側防波堤先端捨石移動し空隙を生じ東側30m砂防堤起點より36.4m,根部より崩壞す。此の復舊金額60763円を要す,此の外港内一側に設置し有りたる船架流失し此の復費2000円。
災害對策 西側防波堤は高7.5m,幅4.5m,5分法にて宇内側を練積石垣,外側をコンクリートを以てし中詰粗石を玉石コンクリートで包み築造し,それに高1.5mのパラペツトを設け,決潰せし防波堤起點より44.0m西方に位置をかへ延長846mを以て前方防波堤に連ね,此の起點より44.0mを洗防堤として決潰せし防波堤起點に取付くれば前港,内港,埋設及内港入口波止堤は線積石垣にて中詰栗石を使用し,東側第2護岸は基礎を玉石コンクリートブロックにて上部をコンクリートで被覆し處々に滲透水に備ふる小孔を作れば西側防波堤完備と共に被害をまぬかるゝものと思考す。西防波堤は先端基礎捨石を施し長,幅4.0m,高3.5mの函塊7個を以て補強,東砂防堤は高7.0m位にて延長36.4m,西防波堤の如き断面を以て施行するに於ては何れも被害を免かれ得るものと認めらる。
【例-23】牟岐港(德島縣海部郡牟岐町)
工作物 防砂堤 被害金額 13700円
被害原因 昭和9年9月21日 大風禍の前9月9日の暴風の際に於ける波高を防波堤の西南方約百數十米餘の所に於て觀測し,最大波高6.2mを得たり。防砂堤附近に於ては水淺く波浪は碎波と変じたるを以て波高を測定し能はざれども防砂堤に激衝する波力は相當大なりしものならむも,調査の結果堤体に何等の異状も認めざりしなり。
災害當日9月21日午前5時頃の低氣圧は示度約700mmにして波高の觀測はなし能はざりしも9月9日の波高よりも著しく大なりしものと想像し得べし,加ふるに潮位は極度に上昇し干潮面上約4mに達せり(最大滿潮位は干潮面上2mと定む)。而して港内は碎波のため擾亂せられ此の強烈なる波力は防砂堤々体に激衝し一層其の強度を增し,堤体天端附近に強大なる力となりて堤の外面及内面に作用し張石の一局部を破壞し漸次擴大し遂に大崩壞に至りたるものとす。張石に使用したる石材は堤に衝激する波力を推定し1個の重量250kg~4tの間知石類似のものを使用せり。
被害状況 頭部より110mの崩壞にして張石,心部捨石,被覆捨石の散亂なり。其の状況は天端より1m~2mの部分のみの崩壞にして基礎の捨石及張石には何等の異状を認めざるなり。
災害對策 今囘の大風禍に當り沿岸各地の捨石堤又は張石堤を見るに殆ど決潰又崩壞せざるはなく其の被害は概ね天端附近なり。是を以て見るに波浪の激衝を受け堤の内部に侵入せる圧力は外圧力の小なる即ち引き波の際一層威力を發揮して重量少なき捨石又は張石を拔き去り大破に導くものと思はるゝを以て天端は重圧を加ふ必要あり。故に本防砂堤の復舊に當りては破壞部は場所詰コンクリートを冠し所々に空氣孔を設けることゝせり。
【例-24】今津大手海岸(德島縣那賀郡坂野村大字和田島)
工作物 突堤 被害金額 23580円
被害原因 本海岸は無外裝堤防に松樹防潮林あるも海嘯襲來に際し砂丘著しく減退し防潮林倒壞せしによる。
被害状況 今津坂野兩村界より北方1000mの海岸,激浪怒濤の爲,堤防前砂丘著しく侵蝕され防潮林は倒壞し無外裝堤防前面著しく崩壞され砂質露出し堤防危險の状態となれり。
災害對策 本海岸に於ける砂丘は波浪の爲,年々侵蝕減退されんとする傾向あり。而して天然砂丘を以て防潮堤となれる本堤の維持並に防潮林の保護上海岸に於ける砂丘の減退を防止する事が急務にして砂防の目的を以て延長25m玉石コンクリート方塊積突堤を全區域に亙り100m間隔に3箇所設置せんとす。
【例-25】今津大手海岸(德島縣那賀郡今津,坂野村大字 江野島 和田島 村界の處)
工作物 突堤 被害金額 6805円
被害原因 本突堤は空積石張にして砂丘減退により根入不充分なるため海嘯襲來に際し堤体基礎部洗掘され石張に狂を生ずると共に波力により決潰されるに至れり。
被害状況 本突堤は砂防の目的を以て築造されたるものなるが廣範に亙り只一箇所あるのみにして其の效著しからず,砂丘は年々侵蝕減退しつゝある状態にして,激浪の爲め先端より25m其の大部分を破壞され無外裝の本堤危險の状態となれり。
災害對策 本突堤の復舊は無外裝の本堤維持並に砂丘の侵蝕防止上必要にして空積石張工を玉石コンクリート方塊積に改良し,延長25mの中先端部12mは2.0×2.0×1.5m~2.0×2.0×1.0m方塊,3層積根付部13mは2.0×2.0×1.0m方塊に層積とす。
【例-26】津居山港(兵庫縣城崎郡港村)
工作物 防砂堤 被害金額 40267円
被害原因 山陰地方は日雨量は150~200mm程度なりしも時間雨量殊に多く,豐岡測候所の觀測に依れば3時間連続降雨量實に111mmに達し,各河川共急激に出水せり,円山川にありても增水甚だしく,殊に本港は円山川河口閉塞部にありて,その洗掘甚だしく,捨石の沈下に伴ひ、躯体のブロックも沈下せり。
被害状況 方塊積箇所延長260mにおける基礎根固捨石は地盤砂層の洗掘に伴ひ沈下し,或ひは散亂せる爲,方塊は約10°河側に傾斜せり。
尚ブロックヤードの一部は侵蝕し,塊積出棧橋,材料棧橋等深掘のため夫々流失す。
災害對策 洗掘を防ぐ爲,捨石を補充し,尚河側には根固方塊1個を增し,延長260mの間に3ヶ所の捨石水制工を設けんとす。
【例-27】濱坂港(兵庫縣美方郡濱坂町)
工作物 防砂堤 被害金顏 30200円
被害原因 山陰地方は日雨量150~200mm程度なりしも,時間雨量殊に多く,豐岡測候所の觀測に依れば3時間連続雨量實に111mmに達し,各河川共急激に出水せり,岸田川に有りても增水甚だしく,殊に本港は同川河口閉塞部にありてその洗掘甚だしく,實に20數尺に達せり。
在來防砂堤は長20呎位木枠内に捨石を施せるものにして跡片もなく流失せり。
被害状況 洗掘の爲流失し,何等殘留物を認めず。
災害對策 本箇所は岸田川河口にして而も屈曲あり。岸田川改修工事と關聯して防砂堤を決定すべきものなり。而してその河幅廣きときは毎冬の高波に依り砂は移動し河口の水深の維持は難しく船舶の出入困難なり,又河幅狹きときは斯くの如き災害に當りては流失する虞れあり。
依りて,第二の防砂堤により幾分の砂を止め,且つかゝる災害に當りては却つて流水の抵抗を小ならしむ樣,簡單なる木杭(長33尺)を2本並べ打つことゝせり。
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大阪港の被害
1.被害原因
大阪港に於ける被害は高潮が陸上に押揚り,風及波浪と共に沿岸工作物に暴力を揮ひ同時に流木,浮游船艇,艀等が其等と共に激突乘場をなして幾多の損傷を與ふるに至つた。護岸の高さは比較的低く臨港地帶も地盤の沈下に因り一般に低くなつてゐた。南北内港各防波堤は捨石防波堤であつて地盤軟弱のため沈下し,コンクリート方塊は其の位置を亂してゐた。堤頂の高さはL.W+3.0m或は+4.0mであつたが風力及波力の影響を最強く受け,上置コンクリート方塊は大部分北側に転落し,さなきだに低く防波堤は更に堤高を低めL.W+1.5m~2.0mとなり港外の波浪を充分に防ぎ得ざる状態となつた。それだけ風波及高潮の影響も亦擴大されたのである。貯木場は圍柵が破損され繋船浮標は維撃船と共に押流され或るものは錨鎖が切断され,船溜場では避難の艀が破損されるに至つた爲に流木,漂流船舶艀は港内を翻走し衝突坐礁の事故続出した。繋船浮標は其錨は4t,沈錘は6t,錨鎖は2連にして第1及第2區は錨鎖を東西に,第3及第4區は錨鎖を南北に張つて居た,故にS及SWの颱風に對して錨の把駐能力は低下し剩へ上昇力が働き錨鎖にかゝる分力も增加し,沈錨は持揚げられ維繋船は錨と共にS又はSWSの風に圧せられつゝNEの方向に移動した。沈錘は施設當初は海底に橫たへたるまゝにして自然に沈錘自身の重量にて海底に潜つたのであるから各沈錘の把駐状態は夫れぞれ異なり移動状態も其に応じて相違して居つた。船溜場は從來大阪港には少く艀の急遽避難場に不足してゐた。陸地内の運河も船溜りとして使用されてゐるが避難場として完備して居なかつた。北海岸通り前面及鶴濱通前面の船溜場は暴風の方向にあり,碇泊中の船は更に運河内に避難せんとし中には途中に沈沒したものあり,繋船中のものは波に覆はれて沈沒転覆したもの多い。運河内に難を避けてゐた船は殆んど被害なく転覆もしなかつた。木材整理場も亦其面積が少くして設備が不完全で高潮に據り大形浮標,太鼓浮標は浮揚り激浪暴風の爲貯木が動搖し圍材を破壞し貯木は港内を漂流して各種工作物を破損するに至つた。此流木は接岸建造物に激突して之を破壞し高潮に乘つて上陸しては人家を破損倒壞するに至つた。一般工作物の災害は此の流木に據るものが多い。大阪港は港内に3河川を抱擁し他方往年よりの習慣として艀荷役多く全貨物の大半は之に依つてゐる爲に,艀の航行は頻繁にして輻輳するのである。又1日平均50~60艘の船舶が出入し,到底現港内水面積6545500m^2では收容し切れず,第1及第2區の内に18個の繋船浮標があつて出入船舶の港内航行,曳航する艀の通航等は非常に危險感ありて港内は狹隘過ぎた位である。當時は維繋船にして颱風に際し錨を增さんが爲にself anchorをなしたが把駐力は充分に效かず,圧動されるに至つた。
接岸上屋及建設物の多くは木骨構造にして老朽せるものもあつて接岸第1線が流木,激浪暴風の爲無殘に破壞せられた。是等にして今少し頑丈なる工作物ならば脊面の建設物の被害は遙かに少なかつたであらうと思はれる。上屋の鋼鉄製扉が大部分破損せられ側壁よりも被害が大であつたのは構造上止むを得ない所である。
2.被害状況
港灣設備被害の概要を述べるならば,大阪港を襲つた高潮は激浪を伴つて陸地に押場げたのである。南北及内港の各防波堤は全体に亙つて大なる被害を受け,上置コンクリート方塊の転落したものは5000個の多きに上り堤高は低下し滿潮時水面下に沒し去る箇所さへ生ずるに至つた。港内繋船浮標は維繋船の圧流に因り之に曳摺られて変位するの事態を生じた。棧橋及繋船岸は其の位置,構造,維繋船の有無其他の事情の爲,被害の程度を一にせざるは勿論であるが最も大なる被害を受けたのは大棧橋であつて約2/3は原形を止めざる迄に大破し,僅かに基部のみが殘された。其他は概して被害程度軽く構造物として繋船に支障を來たす程には至らなかつたが,唯脊面上屋の被害及前面海底中の障害物等の爲,繋船を不可能ならしめた。最も慘状を呈したのは港灣部所屬諸事業用及工事用船艇小船等であつて,總數約150隻中110隻迄沈沒,坐礁,揚陸又は破壞等の厄に遭ひ,之が爲,曳船,綱取船舶,給水渡船等の諸業も其の能力の大部分を失ふに至つた(図-11參照)。
埋立地一帶は高潮の襲來によつて建物其他悉く浸水の厄に遭ひ,殊に沿岸所在のものに被害は概して激甚であつた。蓋し風潮の影響最も烈しかつたのと船,艀,木材其の他漂流物の激突を受けたるものがあるに因る。諸岸は隨所に損壞せられ沿岸市設上屋も甚だしきは流失倒壞其の他も大小の被害を受け起重機も被害を免かれることが出來なかつた。港灣部廳舍,各事務所附屬建物の類も夫々甚大の被害を受け各工事場の被害も少くなかつた。尚埋立地の浸水は場所によつて其の状況を一にしないが大阪府立測候所出張所(天保山棧橋前)附近の浸水の記録によれば午前7時49分高潮が路面上に現はれ8時には路面上83cm,8時6分116cm,8時14分222cmに昇り最高位に達した,8時20分頃退水し始め,9時87.5cm,10時41.5cm,11時27cmとなり,午後5時40分路面上より全く退水し終つた。附近路面中央の高さはL.W+2.25m前後である。
1.棧橋及繋船岸
大阪港に於て棧橋及繋船岸は14箇所にして總延長4627mである。其の内被害箇所は大棧橋を始めとして梅町外8箇所にして災害額は3303000円と見積られる。
埠頭大棧橋は鉄造にして延長455m,幅員27.3m,橋脚は18.3mのscrew pile造である。高潮襲來當時大棧橋の南側より北側へ圧流橫断したのは浦戸丸(1326t),ばたびや丸(4392t),日滿丸(1921t)及へいぐ丸(5641t)である。是等の爲に基部約168m,中央部30m,頭端部23mの3箇所を殘し(図-13參照),全延長455mの中234mは橋上の鉄骨上屋(建坪1405m^2)共水中に沒し去り原形を止めず,殘存部も敷板の大部分及橋上の諸施設殆んど流失し,又棧橋基部南側護岸に瑞鳳丸(1001t)坐礁して護岸の一部を破壞した。沈沒區域は敷板及木桁は殆んど流失し橋脚は綾構材及I形鋼桁の一部を取付けたるまゝ北側に向つて彎曲し,彎曲状況は鑄鉄橋脚6.1m3本継ぎの中上部2本が大部分は弧状に,一部は殆んど直角或ひはS形となつた。之等の彎曲は大体海底地盤以下の部分には及ばない樣である。
櫻島棧橋 は鉄造,木造,鉄筋コンクリート造の組み合せにして延長273mである。鉄骨橋脚は漂流艀の激突によつて最前列のもの3本折れ曲り,床構の一部及繋船柱一基を破壞し,防舷材は全体に亙つて隨所に損傷を受けた。西端鉄筋コンクリート部分約5.80mは帆船第三五菱丸(137t)の爲,鉄筋コンクリート円筒橋脚は6本全部基礎沓上端に於てコンクリートに損傷を生じて折損し,鉄筋を露出し又橋脚上部の支繋胴差は下流3本の柱との取付部損傷した。床構は最尖端橫桁の一部大破し其外縱桁及床版に小破を受けた。木造部のアスファルト鋪裝は敷板と共に殆んど全部破損された。
梅町棧橋は鉄筋コンクリート造にして延長364mにして橋面の木塊鋪裝は海水浸りとなり膨脹して基礎コンクリート盤と分離し激浪に洗流されて流失した。
棧橋先端部は盛運丸(4782t)の激突に遭遇し,鉄筋コンクリート橋脚は最先端3本の内2本は基礎沓上端に於てコンクリートに損傷を生じ北方に少しく傾斜し,上部胴差は4本全壞,2本半壞し,床構20m2許り破壞した。
天保山棧橋は前面の踏板(L.W+3.0m)は棧橋全長に亙つて流失し橋面の木塊鋪裝全部も浮游流失した。
棧橋上には各種漂流物及浮艇等打揚げられたが橋脚及床構には被害なし。
第1號繋船岸は本繋船岸に繋留中の諸船舶が繋索を切断し,漂流する際孰れも本岸各所に接觸激突したる爲,相當の損傷を受くるに至つた。外側のコーピング アングルは約4.8m許り損折を受け,床構小桁20箇所が小破した。鋪裝木塊は前同樣に大部分流失しタービア鋪裝も相當に剥脱するに至つた。棧橋背面と橋臺との間に架渡してゐた鉄筋コンクリート連接版(1.21×0.91×0.21m約0.5t)は激浪のため押場げられて移動し,橋臺笠石を墜落し更に西側支點より外れて海中に転落したるもの延長40m許りある。防舷材の損傷は17箇所にして縱材は折損し,橫材の一部は脱落流失した。尚橋脚前面の鉄筋コンクーリト防舷材受けは根元より破壞したものが1箇所ボールト孔より破壞したものが14箇所であつた。
第2,第6及第7號繋船岸は孰れも鉄筋コンクリート造にして被害状況殆んど大差なく,表面木塊鋪裝は高潮の爲に浮遊流失し連接版(1.91×0.91×0.265m約1t)は各繋船岸共兩端部に於けるものは前同樣に海中に墜落した。
防舷材は比較的被害僅少であつて大体橫材を所々流失したのみである。
第8號繋船岸は鉄筋コンクリート造にして前面及其附近に繋留中の工事用船艇16隻及夥だしき流木の爲め防舷材に多大の被害を受けた。西端隅角附近のものは殆んど全部脱落流失して隅角より東方約220mの間の橫材は1,2本折損した許りであつた。
櫻島鉄道繋船岸は鉄矢板造にして同岸上に運天丸(1025t)及艀數隻打揚げられた爲に西端より約30mの區間に鉄矢板天端延長6.0mは前方に同18.0mは後方に孰れも約1.0m宛出入し旦つ此附近延長約60m間は鉄矢板の根元前面に押出された傾向がある。
鶴濱通繋船岸は貝島炭礦株式會社及住友電線製造所の專用に係り延長339mあつて共に鉄矢板構造である。颱風の方向に對しては比較的安全な位置にあり,從つて其被害は全体的に僅少である。貯炭の一部流出したる程度である。
2.護岸及物揚場
埋立地護岸の被害延長は約4560mにして損害額は188000円と見積られる。
北海岸通荷揚護岸はコンクリート方塊造にして延長652mである。其の中石積胸壁延長約15m,護岸石垣延長約104mは流木の激突,漂流艀小船の坐礁に因つて破損した。
南海岸通り1丁目荷揚護岸はコンクリート方塊鉄矢板造にして延長595mである。石積胸壁13m,護岸石積8mコンクリート鋪裝95m2許り破損した。背面土砂は相當に流失してゐた。前面には瑞鳳丸(1001t)が坐礁した。
第4號上屋前面護岸は春天丸(5623t)の激突のため下部方塊に移動を生じ上部石積は延長96mの間大破した。
同時に基礎が弛んでコンクリート鋪裝約1180m^2が破損した。
第1號繋船岸東端護岸は摩耶丸(3145t)其の外曳船が接觸し其の船首は護岸東端より16m附近に坐礁したゝめコーピング アングル15m,コンクリート45m^3,起重機用軌條約9m,タービヤ鋪裝約50m^2が破壞せられ防舷材に多少損傷を受けた程度である。
南海岸通2,3丁目荷揚護岸は鉄筋コンクリート矢板造にして延長1056mである。笠石は153m墜落し,床構は1860m^2破損し笠桁は16m破壞した。
東及東北護岸は主に漂流艀の坐礁,流木の激突,其の他の爲被害は可なり大なりき。
梅町荷揚護岸は鉄筋コンクリート扶壁造りにして延長343mあり,外に石積護岸は延長70mある。此の南端部は艀其他漂流物のため扶壁延長7mは底部のコンクリートのみ殘して殆んど破壞し,更に之に接続して笠石約73m転落した。石積護岸延長70mは全長に亙つて上層部が崩壞した。
其の他の護岸及胸壁として鶴濱通沿岸の間知石空積護岸延長1255mは外法1.2割にして前面貯木場の木材其他の漂流物に衝撃せられ法肩附近の高約1.0m,即L.W+2.0~+3.0mを各所破壞された。其の延長は369mに及ぶのであるが其被害範圍は漂流物の接觸した法肩のみに限られ裏土の一部は流失した。
假護岸は梅町船渠東岸に延長638mあつて捨石造である。之は全長に亙つて捨石が崩壞し天端の高さは平均L.W+1.5mとなり背部埋立土砂の流失を見た。第1突堤及第2突堤の假護岸は延長1145mにして張石が崩壞し木柵板,根固捨石が流失して被害は其殆んど全延長に及んでゐる(図-14參照)。
3.運河及船溜場
運河の護岸は有錨鉄筋コンクリート矢板造と木造の假護岸より成つてゐる。總延長7274mにして水深は一般にL.W-2.3mである。此等の運河は3大河川に依つて海に連絡してゐるが海岸より相當の距離に在つて,其の間に障害物が存在し風浪の勢も減殺された。矢板護岸の被害を受けた箇所は僅少である。木津川運河,千歳堀,福町堀に於て退水の際全長に亙つて背面土砂を幾分流し去つたが福町1丁目の木造假護岸約182mの倒壞した外特記する程の被害はない。
船溜場の總延長925mにして705mの部分は水深L.W-2.3m,220mの部分は水深L.W-5mである。北海岸通り前面220mの船溜場は風の方向に沿ひ場内に避難中の船艀は押流され,櫻島棧橋へ打揚げられるか,安治川を逆昇つた。船溜場のpitに繋留してゐた船は波除堤を越した激浪の爲沈沒したものもある。鶴濱通前面の船溜場も風の方向に沿ひ運河内に難を避けんとした船の途中被害を受けたものも相當に有る。pitに繋留中沈沒したものは多い。繋船索の切断したものは暴風の激浪の飜弄のまゝに尻無川を逆航し,天保山運河入口で沈沒又は損傷を受け,或は第7及8號繋船岸に激突坐礁するに至つた(図-12參照)。
第1及3突堤根元船溜は平時は西風を受けて相當の蜒はあるが第1突堤根元船溜場に於ては今次の颱風に際して風下に當つて居たが,避難船艇餘りに多隻蝟集し高潮と同時に坐礁其の外の破損を受けた。第3突堤根元の船溜場は前面に倉庫を控へてゐたゝめ暴風の影響は頗る緩和され被害も比較的少い方であつた。第4及5號繋船岸中の船溜場は本市工事用船艇が多く避難しておつた。風波を受け高潮と同時に背後の埋立地に坐礁したもの多く中には圧潰されて沈沒したものもある。
4.繋船浮標及貯木場
繋船浮標は全部で36個(繋船能力30隻)にして被害浮標は34個,其の内位置の移動したもの9個,其の外沈置換を要する。貯木場3箇所大破し被害額は38000円と見積られてゐる。
當日の繋留中船舶は17隻にして孰れも其の船体に受けたS~SWSの風は41m/sec~48m/secにして4~5mの高潮竝びに激浪に據る船体の動搖等のため海底下3~4mに埋沒された沈錘(6t)を引き起し,其の兩方に約25m宛の錨鎖を延ばして沈置してゐた片爪錨(約4t)2個を引摺り北方へ押流された。此際主鎖の切断したのは1個だけで錘鎖,錨鎖共に各浮標を通じて異状を認めなかつた。主鎖の切断箇所は錨の附け根より1/4の所にして径2.5吋,錨鎖は1.5吋位に腐蝕されてゐた。繋船中最も多く移動したのは南18番で約550m,次は北3番で約450m,南9番で350m,南13番と16番の約300m,最小は約30mにして引摺られた主鎖,沈錘,錨鎖は互にもつれ合ひたるまゝ移動してゐた。繋留船中のばたびや丸,盛運丸は自船の繋鎖が切断されたゝめ漂流大破し,殊に盛運丸の如きは漂流中他船と接觸の結果沈沒するに至つた。ゴールデン ドラゴン號,南京丸,ゴスラー號,大永丸,錫蘭丸の5隻は能く荒天に際して諸準備を整へ,乘組員の措置宜しきを得たものか船体の安全を期することが出來た。
錨鎖は南1番より17番までは東西の方向に,北1番より5番までは西南西より東北東の方向に,南18番より24番までは南北の方向に張られて居た,故に南1番より17番まではS及SWの風に對して把駐力は殆どなく,南18番より24番までは把駐力を發揮し得たのであらう。
貯木場は港内第4區に於てA,B及C號の3箇所に木材整理場があり總延長1135m,總面積115400m^2である。A,B兩區域は内港防波堤内側に設置せられてゐたが石堤及コンクリート方塊の転落崩壞のために,直接風波を受けて被害は甚だしく網取環は全部使用不可能となり,圍材松丸太,太鼓浮標,大形浮標等は何れも貯木と共に押流されて原形を止めない。
圍材丸太は径1吋の錨鎖の古材にして連結しておつたが貯藏木材に受ける風圧及激浪による動搖且つ又高潮に因る浮標の浮揚のため全体が移動をなし,鎖の索曳貯木の圍材への激突等に據つて鎖は切断されるに至つた。浮標は鎖を有せずして大形浮標は3tコンクリート沈錘1個,太鼓浮標は1tの沈錘1個とした簡單な構造であつた。浮標の移動の最も著しいものは450~500mに及んでゐる。圍材丸太は鎖の切断と同時に風波の飜弄に任して2000~1500mも流されたものがある。貯木同樣港内各所に散亂し恩加島町,鶴町,船町邊まで漂着上陸してゐた。
C區域は波除用の300tの古潜水艦3隻の内2隻は陸岸側に移動したが錨鎖には何れも異状なく,浮標圍材は同樣の被害を受けた。潜水艦は7.5tのコンクリートブロック(1.2×1.85×1.5m)2個を錨として54.8mと27.4mの錨鎖で繋留してゐたから之の移動は強大な風圧及激浪に因るものと考へることができる。
5.防波堤
港内水面積は南北及内港の3防波堤によつて抱擁され,又第二次修築工事の一部として新設した木津川尻の沖合防波堤は同川口方面を掩護してゐるが之の外に港内に小船溜波除堤がある。南北及内港各防波堤延長8407mの上置コンクリート方塊の転落は約500個にして其の外波除堤の被害があつて災害額は大体558000円と見積られる。
南北防波堤共從來落下したコンクリート方塊の拾揚をして補修を継続して來て8月21日には之等補修工を終了し北防波堤は其の頂高平均L.W+約3m,南防波堤は同じくL.W+約2.5mとなした。北防波堤は延長2633mにして捨石上に小型方塊(長1.83,幅1.52,高1.22m)を一列に竝べた構造であつて延長は2633mの内2350mは方塊が算を亂して北側(港外)に転落し其の數は約1500個とす。防波堤頂部の高さはL.W+1~1.5mに低下した。南防波堤は總延長4434mにして猛烈なS~SWSの風を受けて方塊は北側(港内)に転落し,頂高平均L.W+2mとなつた部分は延長約2500mに達し,転落方塊の數は略3300個とす。南燈臺の基礎コンクリート方塊はL.W+1.5~3mのものが移動最も著しく其れ以下の方には大した影響を見ない。コンクリート方塊の移動は上部二段即ちL.W.L以上の部分が主にして以下の部分は殆んど被害はない。南燈臺から約600mの間は堤頂部は平均L.W+2.5m,600mから1200mの間はL.W+1.8m,1200mから2000mの間はL.W+2.0m,2200mから3100mの間はL.W+1.3m,3100mから4430mの間はL.W+1.5mに低下した。
内港防波堤は延長1340mにして其の内825mは下部が大割石積上部はコンクリート方塊二段積,頂高L.W+4.1mである,殘りの515mは方塊の代りに間知石積の胸壁であつた。
本工事竣功以來約30年間屡々暴風雨に遭遇してゐるが未だ微動だもしなかつたのである。這般の災害に際し南北防波堤に比べ最も無殘に破壞せられ石垣も大部分崩壞し天頂は僅かに約L.W+2mに低下した。
此の内港防波堤の外方に築設せられたる防波堤は鉄筋コンクリート潜函を杭打基礎上に配列し更に上部にL形コンクリート方塊を据置き根固めに前後脚部は捨石を以て被覆し,内部には砂及コンクリートを填充したるものである。木津川尻沖合新設防波堤は1個の重量約500tの鉄筋コンクリート潜函にして延長1150mである。今囘の災害に際してはSWの風浪に對し最も危險な位置にあつて猛烈な颱風と高潮に直面したにも拘らず,聊も被害の跡を見なかつた。鶴濱通前面船溜場波除堤は小形潜函を用ひ延長455mである。這般の災害に殆んど被害なく唯漂流船,木材類の衝突を受けて本堤の西端に設置した燈竿を倒壞し,方塊の一部を移動せしめたるに止まる。北海岸通り地先船溜場波除堤は延長220mにして安治川寄りの第1個は9月16日据付け,内部にコンクリート及砂填充の準備中に遭遇し,潜函側壁に天端より1.5m許りの所に長径1.5m,短径0.9mの楕円形を2箇所又同天端部に4箇所,内部隔壁天端部に4箇所孰れも高さ1.2mの三角形にコンクリート破壞して鉄筋を露出した。
大棧橋寄りの第1個と第2個は其の境界に於いて双方共約10cm又第7個と第8個は其境界に於て第7個のみ約15cm内側に移動した。
6.航路標讖
之が被害は僅少である。電纜裝置に故障を生じ,船溜場波除堤南及北燈竿が風波のため燈柱倒れ燈竿を破壞した。
南北突堤燈臺は其の基礎の方塊2,3個転落し,上部に多少の破損あるが點燈には支障はない。大棧橋燈臺は棧橋自体が大破されたが幸に何等の損傷をも受けずに殘り,電線が棧橋破壞と同時に切断されたのみである。桂燈浮標は3個の内1個は50m許り移動し,電纜に浸水點燈不能となつた。外の2個も夫れ夫れ燈器を破壞した。之れは流木,船艇の衝突に據る。木津川尻防波堤燈臺は今次の災害の第一線に立つたが何等の異状は認められない。
7.上屋及倉庫
市設の上屋27棟,倉庫2棟にして總面積60331m^2あり,其の内28棟が災害を被り被害額は1476000円と見積られてゐる。
上屋は木造石綿板葺鉄板張,鉄骨鉄板葺鉄板張,木造鉄板葺或ひは鉄骨石綿板葺石綿板張等の構造である。遭難場所又は使用年間にも因るが木造は一般に鉄骨造より被害は大きい。
今囘暴風に遭つて板葺は剥脱飛散し,風の方向に直面する屋根の被害は甚大にして大部を破損せられ,風の方向に竝行した屋根は剥脱した箇所は比較的少い。石綿板及鉄板は裏板と共に被害状態は異るけれども何れも剥脱飛散したものが多い。鉄骨柱,同間柱,胴縁又鉄筋コンクリート造の腰壁等は流木,漂流船舶等の激突によつて破壞又は屈曲するものが多く激波に因つて其の高さ前後に於て側廻りと共に歪曲した。側廻りの被害は漂流船舶,流木の爲折損せられ,前面の荷揚側の下家柱は側廻り同樣大破された。之以外の被害と見られる所は波浪の頂附近で悉く歪曲し破損してゐる。
風波に直面する側廻りは破壞されたが並行する側廻りは殆んど被害はない。鉄扉は同樣な構造にして被害状況も稍同一である。之も潮波の高さ附近で内側に屈曲してゐるが棧橋側及荷揚場側の鉄扉は流失したものも多く側面,背面鉄扉は僅かに殘るが開閉が不完全にして何れも内側に屈曲してゐる。背面倉庫は被害比較的少く颱風のため屋根の飛散したもの,側廻り上部破損したものもあるが藏置貨物の浸水程度は60cm許り少く,流失貨物は殆んどない状態である。
倉庫は煉瓦造にして海岸より後方にあり,扉口の數も少く浸水程度も上屋と比べて1.2m許り低い。建物としては格別の被害はないが,天窓硝子竪樋の飛散等の被害があつて屋根瓦20%許り剥脱された。
私營上屋及倉庫としては住友,三菱,川西,杉村,東神,5大倉庫業者の外に民間經營のもの相當ある。倉庫39棟11914m^2,上屋4棟936m^2は全壞し,倉庫221棟209580m^2,上屋11棟11517m^2は破損し,事務所は52棟は全壞,103棟は破損した。損害額は1254500円と見積られてゐる。倉庫の全壞のものは總て木造にして既に改築を要するに至つてゐたものである。
8.起重機
本市に於ける市設起重機は陸上機11基,水上機2基にして其の内災害を被つたのは11基で被害額は12150円と見積られてゐる。
陸上起重機の被害は主として風波のみで流木漂流物の衝突の形跡は見えなかつた。電纜機器が皆一樣に故障を生じ其の外電動機,機械室は海水浸しとなつた。2.5t可動式起重機2基共転覆し海水中に沈沒し電動機其他を大破した。水上機は船溜場内に繋留中風波のために或は錨鎖を切断され或は曳摺られて高潮によつて揚陸し其のまゝ坐礁した。ハウス其他を小破した許りで機械部には殆んど被害はなかつた。
民營作業用起重機トランスポーター其の他荷揚用機械に就て,全壞のトランスポーターは7基,デリック クレーン5基にして損傷を受けたるものは113基である。
滿鉄貯炭場のトランスポーターは組立工事中のものであり,未だ完成してゐなかつた所側面に直角に颱風を受けて滑動し前脚は約20m許り走り,後脚はストッパーがあつて止まり全体が■れて倒壞した。三井貯炭場のトランスポーターは風の方向に稍々平行であつたが殆んど倒壞した。沖ノ山炭礦貯炭場のトランスポーターも風の方向に平行にして何等異状はなかつた。
兩者の構造を比べると後者はゲイジに狂ひが生じても融通出來る樣になり後脚は橋体とピン コンネクションの構造をなし,前脚は剛性コンネクションになつてゐる。前者は双方共ピン コンネクションの構造となつてゐる。鉄道省貯炭場のトランスポーターは沖ノ山の場合と同樣な構造であつたが,漂流船が激突したり檣が引つ懸つたりして倒壞するに至つた。デリック クレーンは護岸運河岸側に面して設置してあつたが高潮波浪に洗ひ去られ,機械部分も転落した。起重機は住友倉庫以外には特筆する程のものなく同所のセミポータブル クレーンは風のために移動脱線し,モノレイル トレイラーの軌條が破壞した。ポータブル クレーンは流木漂流物の繋衝に據つて組立材が屈曲し操縱室が破損した。タワー クレーンには何れも故障なく,電力線が切断せられた。
以上の外に船舶類として本市工事用船艇110隻が沈沒,坐礁,大破,小破を受け損害額は1280000円と見積られてゐるが私有船舶の損害額は巨額に上ることであらう。本市港灣部所管内の道路,公園,橋梁も夫れ夫れ災害を被つたが額は全体で40000円と見積られてゐる。鋪裝路面には損傷を受けなかつたが砂利路面は表面土砂を流失して3箇所許り陷沒した。街路樹は漂流物の衝突の爲めに折傷,倒壞するものが多く,枯死するものも相當にある見込みである。橋梁は其の下端がL.W+5.0mにして被害なく,橋杭2本折損せられた許りである。主に運河に架設せられたるものなれば河水の急流を受けなかつた。
之の外船舶器具機械,廳舍工場,其の他の建物,港内浚渫,流失材料を考へ總被害額は2022000円に上つた。
9.復舊所要額
3.災害對策
這囘の樣な驚異的の颱風高潮を目標として之を完全に防禦し,其の災禍から絶對安全に免れる事が出來る樣に萬全の施設を整備することは經濟上,技術上,其の他の實情から不可能である。
然し此の對策は災害の實態に徴し,實跡を攻究し,天災の再遭に際して可及限に被害を防止し軽減ならしむることを第一義として立案することは當を得たものと思ふ。
暴風及波浪の豫報設備を完備せしめ,暴風に關しては特に室戸測候所と密接な連絡をとり,波浪に關しては紀淡海峽に觀測所を設け連絡をとる必要を認める。特にその通信方法の完全を期するため短波無線電話に據り詳報を急速に受けることを要す。地震津浪に對する設備を完成せしめる。地震に對する港灣各種工作物の安定強度を充分に加味し,地震強度として周期1.3秒,振幅170mm,加速度2000mm/sec^2を採用する。津浪に對する防衞陣を港灣第一陣に敷き,津浪の標準は安政津浪を以つてするを妥當と思はれる。大阪近邊に起り得べき最高潮位は安政,昭和の高水位に鑑みL.W+5.6mとして適當であると思ふ。
暴風警報設備を完備し之に對する措置に關しては強制力を附することが必要である。
1.防波堤
大阪港の最前衞をなす防波堤の增築或ひは補強工作をなすのは港内の保安,沿岸地域の防禦のため必要緊急な問題である。一方港勢進展に伴い港域の狹隘を感じてをり,たとへ此際舊位置に復歸せしめても早晩之を移築する必要がおこる状態にある。幸ひ第二次修築計畫に據る南港防波堤4100mの計畫があり,之に南方防波堤の尖端部を補強して此の目的を叶へ樣とする。南港防波堤は今囘の風水害状況から考へて高さを高潮の最高位を標準とせずに波浪のカイネテック エネルギーの大部分を減殺する程度を適當としてL.W+4mとすれば充分であらう。南防波堤3100mは転落したコンクリートブロックを災害前の形状に復舊し,南港防波堤完成で港内の安全を保たしめることゝし,既設内港防波堤は全部其の上部が倒壞し之を復舊するに多額の費用が必要となる。又港内碇泊地擴張のためにも木津川尻波除堤を延長して其の復舊に代へ,而して被覆される内港防波堤及南防波堤の一部を撤去することが策を得たものと思ふ。南方防波堤の尖端部の補強は高さ3.5m,底幅7.0m 頂幅5.0mのコンクリート潜函を設置し,上部にコンクリート方塊を積載し天端頂をL.W+4.0mとする。
南港防波堤は在來の海底を掘鑿し荒目砂を投下し,長21.0mの松丸太杭を打込みて杭頭をL.W-4.2m,となし,周圍に割石を詰込み床均しの上鉄筋コンクリート潜函(高6m,敷幅8m,頂幅5m)を沈置し,上部にコンクリート方塊(底幅5m,高さ前面2.2m,後面1m,重量33.5t)を積載し,天端をL.W+4.0mならしめる。木津川尻波除堤の延設は南港防波堤に於ける潜函の幅員を縮め方塊を減縮し,天端をL.W+3.0mに止め其の他は南港防波堤の工法に準據するものとする。
沿岸波除堤の施設ある箇所は沿岸建設物の被害は概して少かつた實情に鑑み,此の際第二次修築計畫所定のものを急設することは意味なきことに非ずと思ふ。沿岸工作物の保護に將又小船溜の用に併せて荷役の便に資せんとする。之は南港防波堤に於ける潜函の上幅を減縮し方塊の天端をL.W+4.0mに達せしめる,他は總て南港防波堤の工法に準據することゝす。
2.貯木場の施設
今囘の風水災禍の實跡を檢するに貯木場から逸流したり,筏が離散したりして流木が各工作物に撃突して破壞せしめた跡が歴然としてゐる。故に此際貯木場を完成せしめることは緊急を要する。即ち第二次修築計畫所定の住吉區平林町地先の波除堤を設置して其所に貯木場を構築することゝす。貯木場を新設する場合には可成陸地内に設置することを原則とするが大正區に於て尻無川,木津川兩河川に通ずる私營の貯木場があるから大阪港としては平林町地先の破覆水面515200m^2を木材整理場に當て同所の約1/5を貯木場として施設の完備を行へば充分であると思ふ。貯木場波除堤は470mで其の工法は大体に於て沿岸波除堤に準じ其の基礎杭を12mの松丸太とし潜函の長,高,幅を減縮し方塊の天端をL.W+3.0mとする。貯木の目的には場内の水を靜止せしめ流動することを防がねばならぬ。貯木場區域に對する法規を設け統轄,統制をとる必要がある。
3.小船溜場の施設
今囘の災害に鑑みるとき小船自身の保全上は勿論,他船の避難作業上將又陸上工作物の被害防止上からも此の際小船溜を急速整備及增設する必要がある。港内の沖懸り荷役に必要な艀船及曳船等を全部收容し得る小船溜は沿岸の適當の箇所に設け又颱風,高潮,津波が襲來の場合には之等を全部收容避難せしめ得られる樣な小船溜を陸地内に設置することは必要である。此場合其の地方の強風の方向に沿はずして之れに直角の方向を選ぶことの便なるは論を俟たず。故に本市に於て天保町船溜場を擴築すると共に尻無川口附近及木津川運河内に各々一箇所を新設し,尚天保山運河本線の幅員を更に約27m增加し一は運河交航の便を図り,一は小船溜又は避難の用に供することゝす。之等沿岸護岸は利用の状況から長6m内外の鉄筋コンクリート矢板若くは木造假護岸を新設し,水面はL.W-2mに浚渫することゝす。
4.錨地の擴張
這囘の暴風雨の際に港内第1區及第2區方面に碇泊中の船舶に被害が多かつた點及荒天に對する措置を採つたにも拘らず狹隘なるために相接觸し,或いは陸岸に撃突した結果損害を受けたものが多い實情を考え地方入港船舶激增の趨勢に応ずるために安全なる錨地の擴大を図ることが肝要である。
故に内港防波堤の撤去に因つて得られる港内水域655400m^2の面積を水深L.W-9mに浚渫し之に充てんとする。本港の強風に對して充分に波浪を防禦し得る錨地が得られる。
5.繋船岸
之の復舊及復興は在來の繋船岸の補強改築によつて行はんとす。
大棧橋は大破されて三分せられたが其の利用方面から見て寸時も差措き難ければ,基部殘存部分を基本として棧橋利用に不便を感じない程度に応急復舊し,各所の復舊を俟つて第二次修築計畫所の延長幅員のものに改築復興することゝす。
櫻島棧橋は全般に亙つて補強修理することが必要となり,在來の鉄造り橋脚柱をコンクリートにて補強し,木造部分を新築し破損箇所を修理復舊することゝす。
其他の繋船岸及棧橋の被害は比較的軽微にして橋面鋪裝の剥流竝に防舷材の流失に止まつたから之を修理をなすことゝす。
6.護岸
之の復舊及修築として被害護岸を大体原型に復舊し,第1及第3突堤尖端の物揚場護岸は被害の實況に據つて約1.0m嵩上をも同時に施行することゝす。
7.繋船浮標
今囘災害に當つて繋船浮標の數個が組合せのまゝ維繋船に曳摺られ転位した實情に鑑みて,主錨鎖を3連式に改め同時に沈錘の重量を增して把駐力を增大ならしめる。之に因つて生ずべき用具の餘裕を以つて既設繋船浮標の補強を行はんとする。船舶の大小にも因るが
10000t級以上 沈錘8t 錨5t 3個 錨鎖 3 1/2"φ
〃 以下 沈錘6t 錨4t 3個 〃 3"φ
とすれば充分であらう。
錨鎖は1連を東西に,他の2連は120°の角度を以つて配置する。沈錘は少くとも海底下4.0m許り埋沒すること。繋船浮標の配置を港内船舶航行の障害とならない樣内港防波堤撤去跡を利用し,浮標の間隔は暴風高潮のもとに錨の把駐力を堅實ならしめるため錨鎖を延ばす必要あり。外に維繋,離錨の際安全を期する必要上よりも增大するを當を得たものと思ふ。
8上屋
波浪に面してゐる地域内の建物は少くともL.W+5.0m以下の部分は總て鉄骨又は鉄筋コンクリート構造となし2t/m2の波力に耐ゆるだけの構造となす。而して上屋を多階式に建築することゝす。流失した大棧橋上屋は同棧橋の復興と共に主として船客昇降の便に資する樣な構造に改め,2階建にして階下は一般貨物の收容,其の他船舶の給水,綱取等の事務所又は船客待合所に充て階上は船舶信號所,監視所,船客用諸設備を配置することゝす。倒壞した南第2,第3號上屋及大破した南第4號,櫻島第1,第4號上屋はバラック建又は応急修理を施して利用してゐるが就中櫻島第1號上屋は其の破損程度甚だしく此の際改築することゝす。
9.臨港地區内埋立地及道路
本地域内の道路の大部分は砂利道であるが今囘の災害の跡を見ると各所破損し,災害直後に貨物の輸送及物資の配給等に非常に困難を感じた實例に徴して沿岸上屋,倉庫地帶内の道路を鋪裝すると共に之に接続する埋立地内主要道路は20cm内外地揚をなし更に厚さ約20cmのコンクリート又はアスファルトの鋪裝をなすことゝする。
10.河川
安治川,木津川,尻無川は上流まで船舶の航行が可能であり,是等河川の部分は港灣としての性質を有してをり,築港と共に大阪港を構成してゐる。今次の災害の跡を徴すれば陸地内ほど被害少く,河川及其上流に至る程暴威の及ぼす影響が著しく減じてをる故に,各河川を擴築整備して港灣としての利用を增進し,入津料を撤廢して河川の利用上,施設經營上障害なからしむること。安治川左岸松ヶ鼻の突端を切り取り河幅を增大し,六軒家川合流點下流を3000t級航洋船の繋留,荷役に可能ならしめ端建藏橋迄を港灣區域に編入する。尻無川は岩崎橋迄を港灣區域に編入し,甚平渡下流を1000t級航洋船の繋留,荷役に資することゝす。木津川は落合上ノ渡(大正運河合流點上)下流を3000t級航洋船の繋留,荷役に可能ならしめ,下ノ渡(木津川新橋架橋點)迄を港灣區域に編入する。
大阪港復興事業は之を昭和14年度迄に完成せんとするものであるが之に要する費用は最小限度に見積り20000000円の巨額を要し,而して之が財源は國庫の補助を仰ぎ,殘部を市の負擔とす。
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第4部 道路,道路橋
目次
頁
總説………………………………………1
1.總論 2.道路 3.橋梁 4.隧道
總括表……………………………………3
I.第1號總括表…………………………3
1.道路總括表 2.橋梁總括表 3.隧道總括表
II.第2號總括表………………………4
1.道路總括表 2.橋梁總括表 3.隧道總括表
原因別被害内譯……………………………6
I.道路……………………………………6
1.豪雨に依る切取法面の崩壞 2.豪雨に依る切取法留擁壁の崩壞
3.洪水の洗掘に依る法留擁壁の崩壞 4.波浪の洗掘に依る法留擁壁の崩壞
5.洪水に依る路面の深掘 6.滲透水に依る道路の崩壞
7.洪水の溢流に依る崩壞
II.橋梁…………………………………13
1.通水断面の小なりしに依る流失 2.流木,転石に依る橋脚の折損
3.洗掘に依る橋臺又は橋脚の倒壞 4.橋臺裏の滲透水に依る橋臺の倒壞
5.流木に依る橋体の折損 6.波浪に依る橋体の流失
7.風圧に依る桁又は方杖の継手の弛觧 8.堤防決潰に依る破壞
III.隧道…………………………………22
1.穹拱及側壁の滲透水に依る破壞
道路橋梁被害參考寫眞……………………23
總説
1.總論
我國は恰も颱風移動の通過圈内に帶状に橫はれる爲,颱風の襲來を受くる毎に多少なりとも其の災害を免れ得ざる状態に在り,而も多くの河川は急流且つ未改修にして出水毎に其の流路並に河床の変化著しきものあり,加ふるに改良費,維持費及修繕費は極度に節減さるゝ結果道路,橋梁等依然として明治時代其儘の状態に放置されたる所多し,從て海岸並に河岸沿ひの道路及各河川に架設せられたる橋梁の被害著しきは又必然の結果なりと云ふべし。即ち今囘の災害に際し其の原因を調査するに環境の変化に即し維持,改善を全うせざる爲,災害を蒙りし事例尠しとせず。
例へば道路に於ける路側石積の如きは從來野面又は割石等の空積多く之が河状或は海岸線の変動により流水又は波浪の激突する所となり又根入の減少となり,爲に崩壞せるもの多し。
又橋梁に於ても大部分は木橋にして且つ架換期に近づきたるもの尠からず。之が河状の変化に依り橋脚根入の淺小となり又洪水位上の桁下餘裕の僅少となりて流失せるもの甚だ多し。
沿水,治山の施設と相俟ち平素之等の維持,改善に力め災害を未然に防止し又之が軽減を計るは最も緊要事なりとす。
次に今囘の災害に鑑み之が防止並に軽滅方法として考慮すべき事項を擧げる。
2.道路
1.河岸並に水路沿の道路は成可く之を避くること。
2.河岸に沿ふ道路は河状を考慮するは勿論河積を縮小せざる樣築造すること。
護岸兼用の路側石積等は河川工事と同樣の方針によること。
3.道路は成可く之を氾濫區域外に選定すること。
已むを得ず氾濫區域内に設くる場合の路面高は洪水位より30cm以上とし,成可く洪水位迄は練石積等となすこと。
又路面を洪水位以上に築造し難き場合は溢流に堪える工法となすこと。
4.海岸道路にして波浪の襲來を豫想さるゝ箇所は防波護岸(波止擁壁)の構造となすこと。
波浪による洗掘の虞ある箇所は基礎入を深くし前面は捨石又は捨方塊等にて防護すること。
打越波に對しては波返壁を築造し其の後方には充分なる排水溝を設け路面を鋪裝すること。
5.切取法面は成可く勾配を緩にして法面保護をなし,地表水及地下水に對し適當なる誘導排除をなす排水溝を設くること。
法留工の基礎は根入を充分にし法面の排水は充分なる断面を有する側溝によること。
6.山腹道路は從來山崩のありし箇所は成可く避くること。
片切,片盛,道路は表土を一応削り取り,地山に段切りを爲したる後盛土をなすこと。
且つ山側には充分なる断面を有する側溝を設け湧水多き箇所には完全なる水拔設備をなすこと。
7.道路兩側切取部にして勾配箇所は兩側溝の断面を充分大ならしむること。
8.平常の維持,修繕を周到に行ふこと。
3.橋梁
1.橋梁は洪水による転石,漂流物等に對する防護施設をなすは勿論成可く永久橋となすこと。
2.交通上重要なる構造物の設計に際しては過度に費用の節約をなさざること。
3.橋臺は堤防より突出せしめず又無堤河川に在りては成可く河岸より後退せしむること。
4.橋脚は洪水時に於ける流水の方向と一致せしめ,幅員狹小なる河川の流心には成可く橋脚を設けざること。
流木多き河川に於ては径間を成可く大となすこと。
5.地質不良の箇所に於ては例へ些少なる基礎の移動あるも之に順応する危險性なき構造型式をとること。
6.河床洗掘の虞ある箇所の橋脚の基礎は成可く井筒の類を用ひ,又橋脚,橋臺の基礎の根入は充分にして例へ岩盤上に設くる場合と雖も充分岩盤中に切り込むこと。
7.桁下高は洪水位上1.5m以上となすこと。
8.河口附近に於ける橋梁は高潮並に波浪に對しても考慮すること,且つ成可く鉄筋コンクリート等の永久構造となすこと。
9.突風の起る虞ある溪谷に於ては成可く自重の大なる永久構造となすこと。
10.平常の維持,修繕を周到に行ふこと。
4.隧道
1.地質軟弱なる箇所の隧道は拱背部の充填に特に注意し,疊築工の卷厚を增大するは勿論地下水の誘導排除につき特に考慮を拂ふこと。
總括表
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原因別被害内譯
I.道路
1.豪雨に依る切取法面の崩壞(表-1參照)
【例-1】大阪府豐能郡東能勢村・東鄕村,線路名 府縣道妙見・福住線,工作物 道路,被額金額 17861円
被害原因 9月21日の豪雨により多量に雨水流下し側溝を洗ひたるに依る。
被害箇所は一般に軟弱なる土質にして降雨により水分飽和状態となり切取法面の脚部を洗はれしにより法面滑動崩壞す
被害状況 切取法面の下部洗はれしにより法面大崩壞し道路面に押出し一時は交通不能の状態となる。
被害延長:160m, 復舊工費:17861円(國庫補助關係)
災害對策 局部の被害に就ては原形に復舊する事とし切取法脚の洗掘を防ぎ土砂押出しを防止するため,強固なる法留石積を施工し,一面法勾配の緩和を計らんとす。
【例-2】島根縣能義郡能義村大字矢田(矢田橋手前2號),線路名 府縣道安來・三成線,工作物 法面工・
被害金額 15122円
被害原因 滲透水甚しく裏法面より漸次崩壞し始めたれども決潰には至らざりき。
被害状況 延長凡そ200m程殆んど決潰に等しき迄に崩壞せり。
災害對策 裏法面には厚40cm粘土法覆をなし尚天端幅3mの小段を附し,法尻には腰石垣を設け以て強固に築浩せんとす。
【例-3】德島縣美馬郡東祖谷山村,線路名 府縣道久保・池田線,工作物 土留石垣,被害金額 8102円
被害原因 從來滲透水比較的多き地點なりしに急激なる豪雨出水に基因し山腹弛緩を生じ山腹崩壞と共に土留石垣決壞せり。
被害状況 土留石垣及山腹崩壞し交通杜絶せり。
災害對策 施行延長92m,全幅員4.0m,山腹勾配1割5分を切取し土留石垣を玉石コンクリート擁壁に改良せむとす。
2.豪雨に依る切取法留擁壁の崩壞(表-2參照)
【例-4】大阪府豐能郡箕面村,線路名 府縣道勝尾寺・箕面線,被害金額 13508円
被害原因 9月21日の豪雨により雨水多量に流下し法留コンクリート工の底部を洗掘せり。
被害状況 路側は決壞し法留コンクリート工の一部は地盤の洗掘により転倒崩壞す。
被害箇所:1(國庫補助關係) 被害延長:110m, 復舊工費:13508円
災害對策 完全なる路側溝を作り雨水の流下を安全ならしめ又法留コンクリートは根入を充分になし再び同一被害を蒙らざる樣施設せんとす。
【例-5】岡山縣眞庭郡勝山町大字神庭,線路名 府縣道勝山・神庭線,工作物 道路擁壁 被害金額 13316円
被害原因 豪雨の爲,道路面洗掘,道路側石垣破壞す。
被害状況 破壞延長580m,道路側石垣破壞,盛土流失。
災害對策 道路側石垣は從來の空積を練積となし路面工を施す。
3.洪水の洗掘に依る法留擁壁の崩壞(表-3參照)
【例-6】兵庫縣美方郡射添村字長瀨,線路名 府縣道香住若櫻線,被害金額 73509円
被害原因 片切取部の屹立せる高さ數十米の岩層が龜裂多く平常時と雖も崩落するに之が豪雨の爲,一時に落下して道路を埋沒し,河川に面する土留石垣は根入淺く空積の不充分なりし爲,流水木の追突により此の被害を被る。
被害状況 上述の通りにして一部道路を埋沒し一部破壞して岩層を露出するに至り全く交通杜絶す。
災害對策 直下數十米の岩山は崩落其の盡くる所を知らず其の除去に遑あらず,常時崩落して自動車,人畜被害常なし。之を片隧道にする計畫を考究せる事あるも其の工費莫大にして却て此の路線を避け對岸(矢田川)に路線を変更し鋼構2橋を選ぶを以て得策として此の法を採用せむとす(之によれば降雪雨期に南向の路線となりて其の被害を大半除き得て一擧兩得なりとす)。
【例-7】鳥取縣東伯郡旭村今泉,線路名 府縣道倉吉・津山線,工作物 道路,被害金額 78585円
被害原因 河水兩岸に氾濫し石垣崩壞せるため。
被害状況 崩壞石垣1197.8m(図-1及図-2參照)。
災害對策 法線後退して河幅を擴張し鞏固なる石垣を施すを可なりと認む。
【例-8】鳥取縣東伯郡旭村久原,線路名 府縣道倉吉・津山線,工作物 道路,被害金額 42402円
被害原因 流水路側石垣に衝突し減水に乘じて破壞したるものと認む。
被害状況 石垣崩壞長415m(図-3參照)。
災害對策 現在の河成に做ひ完全なる石垣工を施し流水調節を計ること。
【例-9】岡山縣眞庭郡津田村大字野原舞高,線路名 府縣道落合・金川線,工作物 護岸道路擁壁,被害金額 37963円
被害原因 河川氾濫により道路面上6.0mの溢水のため洗掘をなし道路側石垣の裏面より漸次破壞せり。
被害状況 破壞延長999.9m,道路側石垣破壞,盛土流失崩土。
災害對策 道路側石垣を下部岩盤に相當切付けをなし石控の長寸なるものを選び積立崩土部分には適當なる土留石垣を施工し尚路面工施工の必要を認む。
【例-10】岡山縣眞庭郡勝山町大字勝山,線路名 府縣道勝山・倉吉線,工作物 護岸,被害金額 26919円
被害原因 水流激突部にして道路側石垣に激突せしため破壞せしものなり。
被害状況 破壞延長568.0m,道路側石垣破壞,盛土流失殆んど原型を止めず。
災害對策 道路側石垣の根入を深くし出來得る限り岩盤に到達せしめ,法勾配は努めて緩にし野面石胴込コンクリート積とし出來得れば路面工を施工せんとす。
4.波浪の洗掘に依る法留擁壁の崩壞(表-4參照)
【例-11】兵庫縣津名郡佐野町小井,線路名 國道21號線,被害金額 25735円
被害原因 稀有の波浪の爲,不完全なる空積石垣を侵し,路面を洗ひ,背水が辷動の原因となりて此の慘害を被る。
被害状況 道路の半壞,全壞點々として在り積石材水中に點在す。
災害對策 基礎砂層にして岩盤露出の見込なき箇所なれば適宜充分なる地盤迄掘込み基礎コンクリート又はブロックを以てし上部は練積石垣とすべきものとす。岩盤露出の箇所は之を切均し基礎となすべきものとす。
【例-12】和歌山縣西牟婁郡瀨戸鉛山村,線路名 町村道臨海研究所線,工作物 道路,被害金額 15049円
被害原因 9月21日の暴風雨に依り激浪の爲,側壁石積(練積)破壞したるに因る。
被害状況 被害道路延長714.99m,波のため側壁石積及路盤大部分流失さる。
災害對策 側壁石積は練積とし控を十分大なるものを使用し,路面はコンクリート鋪裝とす。
【例-13】香川縣小豆郡土庄町字覗平尾,線名町 町村道豐島道,工作物 道路,被害金額 10829円
被害原因 外的原因:颶風による波浪の激突による。
内的原因:石垣空積にして根入淺く打越浪の浸蝕せしによる。
被害状況 延長502m路側全部崩壞流失す。
災害對策 石垣の根入を深め空積を入分胴込の練積とし打越浪に對する路肩に幅1.2m,厚0.12mの鋪裝せり。
【例-14】德島縣板野郡鳴門村大字土佐伯より三ッ石迄,線路名 町村道土佐・伯浦線,工作物 土留擁壁,被害金額 12558円
被害原因 本路線は海岸に沿へる道路にして其の土留石垣築石小なる空積なりしため海嘯襲來に際し土留石垣基礎洗掘され,波浪路面に溢流し道路決壞さる。
被害状況 被害延長1133m土留石垣決壞し交通杜絶せり。
災害對策 災害前は小なる築石にして石組惡き空積土留石垣なるを以て築石を大とし肌詰コンクリート石垣に改良すると共に根入を深くし堅地盤迄達せしめんとす。
5.洪水に依る路面の深掘(表-5參照)
【例-15】鳥取縣東伯郡上中山村大字羽田井,線路名 府縣道赤崎・大山線,工作物 道路,被害金額 6725円
被害原因 丘陵地の切取箇所連続の爲,洗掘激し,側溝断面不足。
被害状況 切取箇所にて路床の洗掘0.30m~0.80mに及び人馬の通行困難なり,側溝断面不足。
災害對策 路線の位置を変更し切取少き平坦部に復舊せんとす。
6.滲透水に依る道路の崩壞(表-6參照)
【例-16】兵庫縣三原郡灘村字下灘,線路名 府縣道沼島・洲本線,被害金額 28108円
被害原因 該地は断崖絶壁の中腹に道路を築造せる状態にして波浪の侵害を受けたるに非ず,空積石垣の辛じて留まれるに岩盤を傳へる雨水が滲透して辷動落下せるに依る(図-4參照)。
被害状況 殆んど全部辷落し道路の形態なく自然の岩盤を露出す。
災害對策 幅員僅かに2m不足の道路にして交通稀なるも道路築造の必要は存す。岩盤を切均して基礎を強固ならしめ練積石垣を施し寧ろ路面を簡單にコンクリート等を以て鋪裝し水の滲透を避け且つ山側の側溝を完全にし排水を充分ならしむべし。
7.洪水の溢流に依る崩壞(表-7參照)
【例-17】鳥取縣日野郡神奈川村大字武庫,線路名 國道19號線,工作物 道路,被害金額 26228円
被害原因 溢流し裏側土留筋芝工なりし爲,該筋芝工洗掘が因をなしたるものと認む(図-5參照)
被害状況 河底より約1m程度表側石積を點々殘したるのみにて長300.2mを流失,補強工たる石卷水制4組も鼻部を殘して決壞流失す(図-6參照)。
災害對策 表側空石積を練石積とし裏側筋芝も亦練積石積とす。
【例-18】鳥取縣東伯郡旭村大字曹源寺,線路名 府縣道倉吉・津山線,工作物 道路,被害金額 19984円
被害原因 流水增加し狹隘なる河幅に溢れ對岸の谷川の水量嵩し氾濫せるため。
被害状況 被害延長241m(図-7及図-8參照)。
災害對策 河幅を擴め流水の調節を計ること。
【例-19】島根縣簸川郡出西村大字下阿宮,線路名 町村道出西・阿宮線,工作物 築立,被害金額 19517円
被害原因 斐伊川北堤防決壞せるため激流滔々として侵入せるためなり。
被害状況 幅員3mの道路延長約700mは原形全く止めず流失せり。
災害對策 從來築立なりし處,法尻には杭柵工を施工し舊路面より30cmを上げ山土を以て盛土計畫をなす。
【例-20】岡山縣赤磐郡竹枝村大字太田,線路名 國道19號線,工作物 護岸,被害金額 25321円
被害原因 本箇所は旭川筋左岸沿ひにして水流激突部なると道路面溢水2.0m以上に及びたるとにより道路側石垣基礎並に道路面洗掘の爲,破壞せり。
被害状況 破壞延長370.0m道路側石垣破壞盛土流失殆んど原型を止めず。
災害對策 道路側石垣根入を深くし岩盤に到達せしめ,水深1.0m以上なる部分袋詰コンクリートにて平水位迄積立,上部は總て玉石コンクリートにて法勾配は8分となし,出來得る限り法線を山手に入れ石垣積を少くし尚出來得れば路面工も施工せんとす。
【例-21】德島縣美馬郡江原町,線路名 府縣道市場・脇町線,工作物 取合道路,被害金額 47150円
被害原因 廣汎なる谷敷の一部を橫断し築造せる曾江谷橋取合道路なるに其の上流部曾江谷に於ける治水設備未だ完成し居らざるため洪水時に於て甚だしく氾濫し左岸部へ偏流したるため道路決壞と共に左岸堤防を決壞し耕宅地を流亡及埋沒せしめたるものなり。
被害状況 會江谷橋左岸約80.0mを殘し,左岸堤防より約40.0m左岸に至る取合道路決壞長約224.0m,同左岸取合部堤防決壞延長約144.0m,流亡家屋3戸,埋沒田畑約12反歩,死者1名,農作物被害約900円。
災害對策 道路再築箇所は廣汎なる谷川敷の一部を橫断し盛立したる場所なるを以て曾江谷筋亂流を防ぐにあらざれば決壞防止不可なるのみならず,若し本箇所の道路決壞を免るゝ場合は左岸耕宅地へ大なる被害を蒙らしむる地形なるを以て會江谷筋砂防設備の完了せる箇所より下流曾江谷橋へ至る地域に對し築堤及堰堤工を附帶工事として施設し決壞箇所へ流水の侵入せざる施設を行ふは本災害を再び繰返さゞる最大條件と認む,故に決壞したる道路に對しては土石盛立による原形復舊に近きものとし而して本再築道路の上流部曾江谷橋筋に對しては會江谷橋より上流砂防設備の完了せる地域に至る左岸部へ完全なる築堤を施すと共に,谷敷の要所に對し玉石コンクリート堰堤工1條を設け流水の氾濫を防ぎ,以て本災害を再び繰返さゞるやう對策を講ずることゝせり。
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II.橋梁
1 通水断面の小なりしに依る流失(表-8參照)
【例-22】兵庫縣多可郡杉原谷村,線路名 府縣道衫原谷・和田線,工作物 木造土橋(大見橋),被害金額 11467円
被害原因 加古上流河川改修(中小河川)に依り上流部疎水が完全なるによりて流速を增大し旦つ新設河川が土,砂礫を夥しく搬出せられ河床を埋築せるにより流水断面を縮小せると橋梁が相當腐朽せるために流失。
被害状況 橋臺兩岸共殘存脚柱一部存す,一面砂轢堆積して山をなす。
災害對策 交通閑散の道路なるを以て木造土橋として計畫高上昇を以て足る。
【例-23】鳥取縣東伯郡 南谷村 矢送村 大字 安歩 關金,線路名 府縣道八橋・勝山線,工作物 木造,被害金額 28393円
被害原因 径間小にして橋面低きため溢流。
被害状況 被害長144.5m全部流失。
災害對策 径間を長くし橋面扛上の必要を認む。
【例-24】鳥取縣東伯郡上小鴨村大字福山・鴨河内,線路名 府縣道倉吉・勝山線,工作物 木造,被害金額 30094円
被害原因 腐朽甚だしく径間小なるため溢流。
被害状況 被害延長153m全部流失(図-9及図-10參照)。災害對策 径間を大ならしめ橋面扛上の必要を認む。
2.流木,転石に依る橋脚の折損(表-9參照)
【例-25】大阪府南河内郡道明寺村大井,線路名 府縣道古市・八屋線大井橋,被害金額 95000円
被害原因 本橋は大和川に架設しある木造橋にして架設年度古く橋脚並に橋体の各部材相等腐朽の状態にあり9月21日の出水により橋脚に被害を受く。
被害状況 9月21日出水により川床底下し流水の激突により2箇所傾斜し橋体甚しく垂下せり。其の他の橋脚も動搖し危險の状態となる。
被害個所:橋脚全体に動搖を來す, 被害延長:橋長 190m
復舊工費:95000円, 内 國庫補助工費 34326円,府費單獨負擔 60674円
災害對策 本橋は木造土橋にして24径間より成る,架設年度古く橋梁各部材相等腐朽せるもの多く,殊に出水により水位の激突並に大暴風の影響を受け橋体の動搖甚しく危險の状態なり。國庫補助關係にては現橋を補強工作して保持する事に査定せしも本橋の交通上の重要性に鑑み此の際外に單獨府費支出により永久的の鉄筋コンクリート造に架設するを得策とす。
【例-26】和歌山縣有田郡箕島町大字箕島古江見立會,線路名 府縣道和歌山・御坊線,工作物 安諦橋,被害金額 28089円
被害原因 外的原因は暴風雨による有田川筋の出水流木により橋脚流失したるに因り,内的原因は木橋の爲,径間の小なるに依る。
被害状況 延長78m,径間10流失,其の他の部分に於て狂を生じたり。
災害對策 鉄筋コンクリート造りとし橋脚の數を少くするの要あり。
【例-27】鳥取縣岩見郡倉田村大字円通寺・八頭郡河原町布袋,線路名 府縣道鳥取・岡山線,被害金額 54465円
被害原因 外的原因は該橋梁は千代川下流部に位置せるを以て上流部よりの流失材料橋脚に積載せし爲,内的原因は径間小且つ腐朽甚敷きに依る。
被害状況 該橋梁全長199.5mにして橋脚1本だに殘らず流失(図-11參照)。
災害對策 復舊に關しては径間を大にし橋脚の數を減ずると同時に橋梁の高さを上ぐるの必要あり。
【例-28】島根縣簸川郡園村神西村入會,線路名 府縣道杵築・掛合線,工作物 境橋,被害金額 45758円
被害原因 大洪水に際し上流より流木多數あり,爲に橋脚流失せり。
被害状況 橋梁全部流失し兩岸の橋臺も崩壞流失せり。
災害對策 鉄筋コンクリート造に架改せんとす。
【例-29】岡山縣岡山市古京内山下地内,線路名 市道古京町内山下線,工作物 橋梁,被害金額 214845円
被害原因 流材多量橋脚に掛り流水を遮り上流よりの水勢の爲,橋脚に激突し流失せり。橋脚根元多少腐朽せるに依る。
被害状況 木造全壞流失,延長135.0m。
災害對策 上部構造:鋼鈑上路橋,橋臺及橋脚:鉄筋コンクリート,基礎:井筒工。
3.洗掘に依る橋臺又は橋脚の倒壞(表-10參照)
【例-30】京都府竹野郡豐榮村,線路名 峰山間人線,工作物 木造土橋(三宅橋),被害金額 26750円
被害原因 橋梁延長87.3m,径間7.3m,12連の木浩單桁橋にして增水の結果最大洪水位迄約90cmの餘裕ありしも速力大なる流水は橋脚に激突して盆々激流となり河床は軟弱なる細砂質なるを以て橋脚根元を洗掘し,夥しき漂流物は橋脚にかゝりて水圧加はり遂に流失せしものなり。
被害状況 兩橋臺共木造にして各橋脚及橋体と共に流失せり。
災害對策 径間を大にして橋脚數を減じ流水及漂流物の通過を可良ならしめ且つ被害の虞最も大なる低水敷の橋脚と兩橋臺とは永久構造物となし上部は木造單桁橋に計畫す。
【例-31】島根縣廣瀨町大字廣瀨・富田入會,線路名 町村道廣瀨・富田線,工作物 大渡橋,被害金額 24625円
被害原因 根入れ淺かりし爲,過般の大出水に橋脚根掘起され一部墜落及沈下等をなせり。
被害状況 木造土橋なりしが一部上記の原因により流失したる兩端は原存せり。
災害對策 土橋長147m,幅員3.7mに復舊堅固に築造せんとす。
【例-32】岡山縣吉備郡水内村大字中尾,線路名 府縣道八日市・美袋停車場線,工作物 鋼鈑橋(水内橋), 被害金額 166592円
被害原因 1.橋脚の基礎を洗堀されたること 2.流失物が掛りて橋梁が堰の如くなりたること 3.家屋、流木の激突を受けたること
外的原因 1.橋脚井筒の根入不足 2.桁下端が洪水位以上になきこと 3.径間が過小なりしこと
被害状況 舊橋構造は右岸洪水敷は鉄筋コンクリート造連続桁にして左岸中央低水敷は鋼鈑桁なり,鋼鈑桁の部分は全部流失下流20~100mの附近に流されてをり,橋脚は井筒洗掘されて露出し頭が下流の方へ傾き2基は転倒せり。橋臺は左岸の方の前面破壞せり。
災害對策
外的対策 1.河川改修を施行すること 2.砂防工事をなすこと
内的対策 1.橋梁を高くし桁下端を洪水位に対し相當の高さにすること 2.基礎の根入を充分深くすること 3.径間を出来得る限り長くすること 4.架橋地点を変更すること(転石のため井筒沈下困難)
【例-33】岡山縣 上房郡 中井村 阿哲郡石蟹鄕村 大字 西方 法會,線路名 府縣道刑部・成羽線,工作物 鉄筋コンクリート橋(中井橋),被害金額 71471円
被害原因
外的原因 1.橋脚の基礎を洗掘されたること 2.流失物が掛りて水を堰上たること
内的原因:1.橋脚の根入が不足 2.径間が小に過ぎしこと 3.橋梁が低く洪水に没したること
被害状況 舊橋構造は鉄筋コンクリート3連続桁にして橋脚は井筒を用ひず爲に右岸1連を殘して他の2連は橋脚基礎の洗掘により床版,橋桁は下流に押流され橋脚は下流に転倒しコンクリートは目茶目茶に破壞さる。
災害對策
外的対策 1.河川改修を施行のこと 2.砂防工事を施行のこと
内的対策 1.橋脚基礎は井筒を用ひ根入を充分深くすること 2.橋梁を高くし桁下端を洪水に対し充分の高さにすること 3.径間に出来得る限り長くすること
【例-34】岡山縣 上房郡 高梁町 川上郡 落合村 大字 梅山 近似,線路名 府縣道岡山・成羽線,工作物 鉄筋コンクリート橋(落合橋),被害金額 91593円
被害原因
外的原因 1.橋脚の基礎を洗掘されたること 2.流失物が掛りて水を堰上げたること 3.家屋,流木の衝撃を受けたること
内的原因 1.橋脚井筒の根入不足 2.径間の過小なりしこと 3.橋が低く洪水に没したること
被害状況 舊橋構造は鉄筋コンクリート3連続桁で低水敷の橋脚の根が洗掘されて其の場所で橫転し,爲に3連続桁は波状に墜落せり又左端より続く3基の橋脚は橫転はまぬがれしが橋脚の根の洗掘により沈下し橋桁は波状をなせり,尚橫転橋脚は井筒2m下げたるに井筒底下尚4mの洗掘を受け居れること調査によりて知られたり。
災害對策
外的対策 1.河川改修を施行のこと 2.砂防工事をなすこと
内的対策 1.橋脚の基礎を充分深くすること 2.橋梁を高くし桁下端を洪水位に対し充分の高さにすること 3.径間を出来得る限り長くすること
4.橋臺裏の滲透水に依る橋臺の倒壞(表-11參照)
【例-35】岡山縣邑久郡本庄村大字本庄,線路名 府縣道伊部・牛窓線,工作物 木橋,被害金額 6754円
被害原因 本橋附近は地盤軟弱なるため橋臺背後侵水により土圧著しく增大し橋臺に狂を生ず。
被害状況 兩岸橋臺積石に狂を生じ且つ沈下す。
災害對策 洪水位上桁下空間高を相當に定め橋臺,橋脚は空積石垣をコンクリートに改め堅固なる地盤に達する迄の杭打基礎となす。
5.流木に依る橋体の折損(表-12參照)
【例-36】兵庫縣城崎郡 香住町 森 長井村 加鹿野,線路名 府縣道香住・若櫻線,工作物 木造土橋(尺乘寺橋),被害金額 34276円
被害原因 上流約150mに位する龜井堰(用水)が至極堅固にして殆んど微動だもせざる爲,蛇行状の河川を破堤して直流し斜に流材を掛け橋梁と共に森部落の大部分を流失す,橋体の腐朽をも一因に算す(図-12參照)。
被害状況 左岸橋臺の空積石垣を存し舊体を留めざる程度に失す。
災害對策 流水量算定による河川断面に適合せしむると同時に該地は砂礫の良好地盤なるを以て恒久的構造物とし上部に鉄筋コンクリート連続桁,橋脚井筒沈下橋臺根入充分施工且つ高欄は瓦斯管取付程度に止め以て萬一の場合に資すべきとす。
【例-37】島根縣能義郡赤江村大字東赤江,線路名 國道18號線,工作物 飯梨橋,被害金額 45162円
被害原因 水位上昇するに隨ひ水勢愈々猛烈を極め,奔流に流木を加へ之が激突のため遂に流失せり。
被害状況 延長145.0m,幅員6.0mの木造板橋なりしが全部流失せり。
災害對策 鉄筋コンクリート橋に改架せんとす。
【例-38】岡山縣御津郡金川鹿瀨・赤盤郡竹枝村吉田,線路名 國道19號線,工作物 木橋(鹿瀨橋),被害金領 99846円
被害原因 (1)洪水位には橋梁の高欄迄達し水を堰き上げたること,流失家屋,流木等が衝突せること。
(2)橋梁の橋桁が洪水下に沒したること,径間小なりしため,木造なるため剛度が不足したること。
被害状況 橋長180m橋脚,橋桁全部流失せり。
災害對策 (1)河川改修すること,砂防工事を施工すること。(2)永久的なる構造物となし,洪水位以上相當の桁下空間を取ること,橋脚は井筒となし,径間は成可く大にするを可とす,井筒は岩盤中に50cm以上切込むこと。
【例-39】岡山縣御津郡上建部村大字建部上・久米郡福渡町大字福渡,線路名 府縣道福渡・足守線,工作物 木橋(八幡橋),被害金額 104912円
被害原因 (1)洪水位橋桁に達し流失家屋,流木等が懸りて水を堰き上げたること。
(2)橋梁低くして洪水位下に沒したること,橋脚洗掘されたり即ち基礎根入僅少。
被害状況 橋長161m橋脚,橋桁共全部流失せり。
災害對策 (1)砂防工事,河川政修をなすこと。
(2)永久的構造となし洪水位以上相當の桁下空間を取ること,橋脚は井筒を用ひ50cm程度岩盤に切込むこと,出來る丈け径間を大にすること。
【例-40】德島縣美馬郡穴吹町,線路名 府縣道德島池田線,工作物 木造潜水橋,被害金額 145863円
被被原因 洪水により流下せる木材激突したると全径間溢流せしによる,本橋は橋柱木材にして主桁をI形鋼材を使用せる潜水橋なりしため径間狹小なりしと柱材弱きに基因す。
被害状況 橋脚の中腹より折損全部流失せしものにて橋長91.7m,幅員4.6m,橋脚3本建,木造鉄桁,板橋,橋臺異状なし。
災害對策 径間を延長し且つ最大高水位を拔き橋脚は鉄筋コンクリート井沈下として相當根入を深めんとす,1径間長23.05m,橋長115.3m,鋼鈑桁,鉄筋コンクリート橋とす。
6.波浪による橋体の流失(表-13參照)
【例-41】鳥取縣東伯郡橋津村大字橋津,線路名 國道18號線,工作物 橋津橋,被害金額 18407円
被害原因 外的原因は橋津川河積狹小,加ふるに北風に依る波浪及高海水疎止並に東鄕川,天神川氾濫により下量增加の結果溢水に依る。内的原因は橋齢古く(明治26年災害に依て改築)橋梁径間狹小なりしに依る。
被害状況 上部構造(木造)及下部構造(石造)流失,延長36.0m。
災害對策 兩所家屋なるを以て可及的流水断面を增加する目的を以て橋脚を廢し1径間鋼橋(トラス橋)とすれば可なりと認む。
【例-42】高知縣安藝郡吉良川村大字吉良川,線路名 府縣道高知・德島線,工作物 吉良川橋,被害金額 46068円
被害原因 外的原因は高浪の襲來による。内的原因としては本橋梁は西ノ川河口に架設し其の流域は土砂堆積の爲,小丘を形成し波浪の侵入に對し何等の設備なし,加ふるに橋面高は基準標より僅か6.0mにして工法は木橋,橋臺は空積石垣なりしに依る。
被害状況 高浪に依り只木造橋脚の根本一部を止むる處ある程度に流失し其の他現場には舊橋使用材をも認めず,此の延長22.5m,有效幅員3.6m,此の復舊費取合せ道路275.0mを含み46068円を要す。
災害對策 橋体は鉄筋コンクリートとし橋面はコンクリート鋪裝且つ橋面は基準標より9.0m以上に保たしむ,橋臺は3.0m以上の根入を施し杭打施工,鉄筋コンクリート橋脚は4.5m,井筒沈下及鉄筋コンクリート工法に依るを適當なる工法と認む。
7.風圧に依る桁又は方杖の継手の弛鮮(表-14參照)
【例-43】京都府相樂郡加茂町瓶原村立會,線路名 加茂停車場・長野線,工作物 橋梁,被害金額 46404円
被害原因 橋梁は中央木鉄混合ハウトラス径間21.82m9連,右岸側径間土橋8.92m1連,左岸側径間土橋7.00m10連,4.70m1連。
本橋架設位置附近の木津川は上流に於て山間相倚り下流にて廣濶にして西南の颶風を眞正面に受けトラス結合點の結合緩み並に河床掘鑿されしに依る。
被害状況 木鉄混合ハウトラス結合點の結合に狂ひを生ぜしため床桁及敷板の一部脱落し且又橋脚の根入淺き爲,危險に瀕しつゝあり,之がため一般交通に及ぼす影響甚だ大なり。
復舊工費
橋体補強方杖工 36組 20702円,橋脚補強工 7基 23774円,足場 12852m^3(空) 1928円, 計 46404円,
災害對策 本橋は年々交通量を增し現橋に於ては其の目的を達し得ず。
舊橋脚は河床低下を考慮せざる趣に付河床低下を考慮し上下部構造を永久構造に架換するを妥當と認めらる。
8.堤防決潰に依る破壞(表-15參照)
【例-44】島根縣簸川郡莊原村大字下莊原,線路名 國道18號線,工作物 新橋,被害金額 8230円
被害原因 新川法華經堤防決壞し新川の河水は全部此の附近を流下し本橋は元より其の附近一帶は全部流失せり。
被害状況 幅員5.5m,橋長20.0mの高欄付の木造土橋なりしが,上記の原因に依り橋臺に至るまで跡形もなく流失したり。
災害對策 鉄筋コンクリート橋に築造せんとす。
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III.隧道
1 穹拱及側壁の滲透水に依る破壞(表-16參照)
【例-45】奈良縣吉野郡宗檜村大字永谷・大塔村大字天辻,線路名 五條・本宮線,工作物 隧道,
被害金額 國庫補助費17943円,縣費單獨負擔1835円
被害原因 穹拱及側壁コンクリート裏へ地下湧水滲透甚だしく冬季凍結に依り破損を誘發しつゝありしが豪雨に依り湧水激增し之が爲,破損を生ず。
被害状況 隧道長96.0m,幅4.8m,高4.2m,卷立コンクリート點々決壞崩落し地下湧水噴出し,之が爲,增破し穹拱コンクリート何時崩落を見るや計り難し。
災害對策 現在卷立コンクリート内側にコンクリートブロックにて厚0.3m卷立を行ひ裏より湧水はアスファルトフェルト及亞鉛板を以て防水,導水設備に依り之を側溝に排水し路面コンクリート鋪裝を施工せんとす。
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道路橋梁被害參考寫眞
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第5部 鉄道,軌道,鉄道橋
目次
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總説………………………………………………1
I.緖 言………………………………………1
II.被害の状況並に其の原因…………………5
A.水害………………………………………5
1.水害の状況,2.線路及線路建造物の水害の原囚,3.電氣工作物の水害の原因
B.浪害………………………………………8
1.浪害の状況,2.線路及線路建造物の浪害の原因,3.建物の浪害の原因,
4.電氣工作物の浪害の原因
C.風害………………………………………10
1.風害の状況,2.車輛の風害の原因,3.建物の風害の原因,4.電氣工作物の風害の原因
III.風水害防止對策…………………………13
1.風水害防止一般對策…………………13
2.水害防止對策…………………………14
a.線路並に線路建造物に關する事項,b.建物に關する事項,c.電氣工作物に關する事項
3.浪害防止對策…………………………14
a.線路及線路建造物に關する事項,b.建物に關する事項,c.電氣工作物に關する事項
4.風害防止對策…………………………15
a.建物に關する事項,b.電氣工作物に關する事項,c.其他の事項
總括表……………………………………………16
I.國有鉄道の線別,原因別被害……………16
II.地方鉄道及軌道の線別,原因別被害……31
被害内譯…………………………………………48
I.水害…………………………………………48
II.浪害…………………………………………61
(1)車輛の被害,(2)線路及線路建造物の被害,(3)機械類の被害
III.風害…67
(1)車輛の被害,(2)建物の被害,(3)電線路の被害
總説
I.緖 言
昭和9年9月21日未明四國の南端室戸岬附近に上陸せる颱風は其の中心氣圧示度實に684mmに達する記録的の低氣圧を示し,其の後陸上を北東に進行するに從ひ漸次分裂し勢力稍衰へたるも,尚德島,神戸,大阪及京都附近に於ては706~718mmの示度を有し,其の通過地點に於ては20分間の平均風速40m/sec以上,瞬間最大風速60m/secに達する未曾有の風速に達したり。
之がため草津・石山間瀨田川橋梁上に於て急行第7列車の脱線転覆せるを始めとし,攝津富田驛構内に於ける旅客第1307列車転覆及野洲・守山間野州川橋梁上の貨物第281列車脱線墜落等の事故殆ど同時に發生し,乘客に多數の死傷者を出したり。
從來運転中の列車が風圧の爲め脱線若くは転覆せる實例尠からざれども,此くの如き鋼製大形客車の事故は稀にして其の如何に猛烈なりしかは想像に餘りあるべし。從て建物の飛散,倒壞,電線路の切断及電柱,鉄塔の傾倒等到る所に發生し其の災害の程度言語に絶するものあり。
即ち颱風の襲來と同時に送電線路及配電線路に故障を生じ電源杜絶せるため各種交通機關全く停止せるのみならず,通信機關の機能中止の爲め一切の連絡不能となり甚しき不安を感ぜしむるに至れり。
又大阪港附近に於ける空前の低氣圧は著しき海水の昇騰を來し尚之れに對し颱風に基く風津浪及靜振の作用を伴ひたるため海面の上昇は平常潮位上4m,最大干潮面上5m以上に上り,沿岸各鉄道の線路及諸建造物は悉く浸水の害を被り,甚しきに至つては線路上に船舶,巨木橫はりて線路を閉塞し之が取片付に數日間を要したり。
尚臨港各驛構内に留置せる車輛の浸水或は脱線に依る損害亦尠からず。
今囘の颱風は一般に其の中心に於て降雨尠かりしも,四國及中國の山嶽地方は之が影響により400mm以上の豪雨を見たる箇所あり。特に中國脊梁山脈を中心として頗る廣大なる範圍に亙り豪雨ありたるため此の地方に源を發する各河川は未曾有の增水を來し橋梁流出,築堤決潰箇所無數に上り,線路は慘憺たる情景を呈したり。
然れども水害に依る列車脱線等の運転事故は比較的尠く,山陰本線末恒・寶木間伏野隧道東口附近に於て上り旅客第214列車が崩壞土砂に乘上げ機關車及客車2輛脱線し軽傷者1名を出したる事故1件にして,前記風害に依るものと合計し今囘の風水害に基く運転事故は4件に止まりたり。
今次の風水害は其の及ぶ所頗る廣範に亙り,東海道本線米原以西,山陽本線倉敷以東,山陰本線石見益田以東並に之等各線の連絡線及關西,四國各線にして,關係線路は國有鉄道45線(自動車線を含む),地方鉄道及軌道61線の多きに上り,其の被害額を總括表示すれば表-1の如く,即ち國有鉄道4595028円,其他地方鉄道及軌道2595240円,計7190268円に達す。
尚表-1を線別に内譯すれば表-2の如し。
上記は直接工事に支出したる金額にして,其他總係費,運輸運転費及用品費等を加算すれば被害總額は約7500000円に上る見込なり。
就中被害甚大なりしは西成線,山陽本線,作備線,伯備線,山陰本線,關西線(大阪臨港線を含む)及德島本線(以上省線),大阪市電,阪堺,阪神,南海,京阪,大軌及中國各鉄道線(以上地方鉄道及軌道)なり。
之等の災害のため各地の交通一時杜絶せるも,關係員は即刻之が復舊に出動し晝夜兼行にて線路の修理及材料の調達に當り,尚必要に応じ,假線を敷設する等鋭意開通に努めたる結果各線共意外に速かに運転を開始するを得たり。
國有鉄道に於て災害のため列車不通に歸したる區間を図示すれば図-1の如く區間總數135,延長646kmに達するも9月30日迄には大多數の開通を見たり。唯伯備線の橋梁流出箇所の一部は地勢の關係上假線を設くる能はずして,直ちに本工事に着手せるため竣功に手間取りたるも11月25日には全部開通するに至れり。
前述の如く今囘の災害は之を大別すれば水害,浪害(波浪及高潮に依るものを含む)及風害の3種に分類することを得。
線別並に原因別の被害状況は之を總括表(122頁)に示し,特殊の事故又は被害著しき災害例に對しては被害内譯(154頁)に於て其の詳細を記述したり。
今之等の被害の状況並に其の原因に就て概説し,且つ之が防止對策に關し述ぶれば次の如し。
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II.被害の状況並に其の原因
A.水害
1.水害の概況 前述の如く今囘の颱風に依る降雨量は四國中央山脈及中國脊梁山脈に於て其の密度最も大なりしを以て從て之等の山脈に源を發する各河川の增水は著しきものあり。
特に旭川,高梁川,日野川,吉井川,升田川及天神川等は數十年來嘗て見ざる空前の大出水を生じ,之等の河川を橫断する鉄道橋並に其の氾濫區域内に在る各種工作物にして流失倒壞せるもの極めて多し。
其の他地質不良箇所に於ける切取及築堤土砂にして豪雨のため崩壞せる箇所亦勘からず。就中被害大なりしは山陽本線岡山・西大寺驛間,伯備線,作備線,因美線,山陰本線(以上省線)並に中國鉄道線(以上地方鉄道)の各線路にして之等の線路は殆ど連続して不通となり,相當長時間交通杜絶するに至れり。
水害に依る國有鉄道の線路故障概況は表-3の如し。
特に山陰,山陽を結ぶ伯備線は橋梁被害甚大にして140km間に於て橋梁の損壞せるもの11箇所,其の延長1km 100m,橋桁の流失53連に達したり。
又電氣工作物の被害は河川氾濫區域内の木柱にして洪水の爲め倒壞傾斜せるもの及び築堤又は切取法面に建植せられたる電柱にして土砂崩壞と共に流出せるものを主とし之がため各所に於て通信網に支障を來したり。
水害に基く工作物及車輛の被害額は表-4の如し。
災害の直接の原因は要するに從來全く豫期せざりし稀有の豪雨と出水に依るものなりと雖も,更に其の破壞の過程を箇々の實例に就て精査するに工作物自体の構造又は保守上の缺陷を災害の内的原因として指摘し得る場合尠からざるなり。其の主なるものを列擧すれば下記の如し。
2.線路及線路建造物の水害の原因
a.河川氾濫區域内の築堤にして適當なる法面防護施設を缺きたるため築堤盛土流出す。
b.洪水が線路上を溢流せるため築堤崩壞す。
c.軟弱なる切取又は築堤土質内に雨水滲透せるため法面崩壞す。
d.片切取の場合切取法面より流下せる雨水線路を溢流せるため築堤崩壞す。
e.切取法面の勾配急に過ぐる爲め土砂崩壞す。
f.切取上部に施設せられたる排水溝の断面小なるため雨水法面に溢流し土砂崩壞す。
g.土留擁壁の背部に雨水滲透せるため孕出しを生ず。
h.避溢橋,暗渠又は下水渠等の流水断面積小なるため洪水停滯し水位上昇して築堤盛土流出す。
i.橋梁又は溝渠等の上流部に流木類山積し洪水の疏通を阻害せるため水位上昇し築堤を溢流す。
j.河川屈曲部に沿へる線路にして護岸石垣等不完全なるため洗掘せられ築堤流出す。
k.護岸石垣天端の高さ洪水位以下なりしため築堤土砂流出す。
1.河川屈曲部に於て流身の位置洪水時に際し変化し橋臺翼壁背後の築堤等を洗掘せるため決潰す。
m.径間小なる避溢橋に多量の氾濫水殺到し渦流を生じたるため橋下地盤面洗掘せられ橋臺傾倒す。
n.橋梁桁下高不充分にして水位桁下以上に上りたるため流木類激突し橋桁流出す。
o.橋脚基礎根入り不充分なるため底部洗掘せられ倒壞傾斜す。
p.橋脚の施工法不完全にして施工接手の密着不充分なりしため流勢に堪へずして接手部より折損す。
q.練積石垣類の目地モルタルの強度經年のため低下し居りたるため崩壞す。
3.電氣工作物の水害の原因
a.氾濫區域内に建植せられたる電柱(主として木柱)漂流物の衝突又は基礎洗掘のため傾斜転倒す。
b.切取又は築堤法面に建植せられたる電柱,法面崩壞と共に倒壞す。
c.ケーブル浸水のため通信不能となる。
B.浪害
1.浪害の概況 颱風は其通過地點各所に於て風津浪を生じ特に大阪港内に於ける高潮は21日午前8時10分頃O.P上約5m即ち平常潮面上の上昇高實に4mに達し沿岸一帶に甚大の損害を及ぼしたり。而かも其の上昇速度は頗る急速にして何等防護の手配をなす暇なかりしのみならず,低地に於ける居住者の如きは漸く天井を破り屋上に避難して生命を全うしたる状態なり。尚減水速度頗る緩漫にして低地にあつては數日間の長きに亙り浸水を餘儀なくせられたる箇所ありたり。
潮害甚しかりしは大阪臨港線今宮驛以西及西成線野田驛以西にして此の區間に於ける線路は道床流出し或は土砂其他の漂流物堆積せるため不通となれる外驛建物,諸詰所,倉庫,官舎等は悉く浸水し倒壞傾斜せるもの尠からず。颱風並に高潮のため木材並に港内碇舶中の大小船舶は驛構内附近に漂流し來り橋梁,起重機其他工作物に激突倒壞せしむる等多大の被害を與へたり。
西成線櫻島驛構内鉄道省貯炭所に約1000tの汽船を始めとし多數の艀乘上げ,シート パイル造岸壁を大破し且つ石炭陸揚用ガントリー クレーンを2基倒壞,1基大破せしめたるが如き其最も著しき例なり。
尚當時安治川口,櫻島及浪速驛構内に留置中の貨車總數約960輛中高潮のため脱線せるもの約100輛に及び其他の貨車も全部浸水せるため軸箱等に土砂侵入し,応急手當並に修理を要したり。
浪害による被害の最も大なりしは大阪市電にして延長24kmに亙り軌道の鋪裝浮動し或は道床弛緩を來し,其の復舊費額723000円に達したり。其他阪神電鉄神戸線及阪堺電鉄線亦尠からざる浪害を受けたり。
其他屋内に裝置せる電機器類にして浸水のため絶縁不良となり手當を要したるもの甚だ多し。
尚山陽本線須磨・明石操車場間は延長約14km間に於て,激浪並に高潮のため護岸工破壞せられ道床及築堤流出箇所11箇所に達したり。
浪害に依る線路其他工作物の被害額は表-5の如し。
2.線路及線路建造物の浪害の原因
a.大阪臨港線及西成線は逐年路盤沈降の傾向ありて軌條面一般に低し。
b.防潮堤決潰せるため海水侵入し線路流出す。
c.軌道鋪裝が板石空張りなりしため流失又は浮動す。
d.山陽本線須磨・明石操車場間には風波のため海岸線侵蝕され線路が直接激浪に洗掘せらるゝ箇所あり。
e.波除護岸石垣の強度不足にして激浪のため決潰す。
f.船舶其他の繋留方法不完全にして高潮の際漂流し他工作物を損傷す。
3.建物の浪害の原因
a.低地に建築せられたるため浸水す。
b.經年腐朽のため抵抗力少なく波浪により倒壞す。
c.基礎工不完全なるため沈下傾斜す。
4.電氣工作物の浪害の原因
a.建物の防水施設不備なるため機械室浸水し電機器の絶縁不良となり運転不能となる。
b.送電停止のため排水設備の運転不可能となり浸水の被害を增大す。
c.地中ケーブルは終端引上げ箇所浸水のため障碍を惹起す。
C.風害
1.風害の概況 風害の最も甚しかりしは東海道本線京都・大阪間,西成線,關西線及山陽本線神戸・鷹取間にして,大阪に於ては颱風の通過時に際し20分間の平均風速40m/sec以上,瞬間最大風速60m/secを觀測せられたり。之がため損害を被れるは車輛,建物及電氣工作物を主とす。
東海道本線下り急行第7列車は21日午前8時35分頃草津・石山間瀨田川橋梁上を進行中猛烈なる突風に襲はれ機關車及次位客車2輛を除き後続9輛の客車は全部最後部車輛より順次転覆し,死者11名,負傷者215名合計226名の死傷者を出したる重大事故なるも幸にして転覆せる車体が上り線軌道に乘り懸りたるため河中に墜落するを免れたるものにして,然らずんば更に多數の死者を出したるは明なり。
尚之れが復舊取片附作業は足場の狹き關係上困難を極め,作業中に死傷者を出すに至りしも24日午後8時下り線を,30日午前4時上り線を夫々開通せしめたり。
攝津富田驛構内に於ける旅客第1307列車転覆事故も亦稀有の例にして,客車6輛を牽引せる同列車が驛下り場内信號機附近に停止中颱風に依り後部3輛が吹き倒されしものにして停止中の事故なれば負傷者比較的尠なかりしは幸なり。
又貨物第281列車は現車46輛を牽引し,野洲・守山間野洲川橋梁上を運転し,機關車が同橋梁を通過し終り更に140m程進行せるとき,前部より17輛目より29輛目迄13輛が風圧のため脱線せるものにして尚一部は河中に墜落せり。転覆貨車は凡て上路鈑桁上にありたる部分にして30輛目より以下は構桁上にありたるため転覆を免れたるも41輛目より45輛目迄5輛は脱線せり。
其他梅小路,吹田操車場及梅田各驛に留置中の貨車並に宮原客車操車場に留置中の客車にして流転のため脱線衝突し破損せるもの尠からず。颱風に依る車輛の損害は客車転覆13輛(内廢車處分せるもの6輛)にして,貨車転覆21輛(内廢車處分せるもの12輛),脱線23輛に達す。其他飛散物等により屋根,窓等を小破損せるもの甚だ多し。
建物中軸組及小屋組に鉄骨又は古軌條を使用せるもの或は鉄筋コンクリート造建物は風害軽微にして,屋根,窓等の一部破損せるを見受くるのみなるも,木造の驛含,官含,詰所,倉庫等は多少共損傷を受けざるものなく,特に經年腐朽し居れるものは悉く倒壞又は傾斜せり。尚注目すべきは貨物積卸場上家,乘降場上家及待合室等の被害大なりしと,箱番,板塀,石綿スレート葺屋根が殆ど全部飛散倒壞せることにして,之等に對しては將來の設計上充分留意を要す。
其他天窓,雨樋,窓硝子等に至つては其の被害枚擧に遑あらず。
電線路の被害は大阪を中心として甚しく,鉄柱と木柱とを比較すれば前者は被害軽微にして主として軟弱なる路盤に建植せるか或は基礎の工法不完全なるため基礎部より倒壞せるもの多きに反し,木柱は材料腐朽のため強風のため地際より折損せるもの大部分を占む。尚木柱に對しては支線の有無が災害の發生に極めて重大なる影響あることを知りたり。
架空電線の切断は瓦,スレート,看板類等飛散物の接觸によるもの,家屋,樹木の倒壞によるもの又は短絡による熔断に基因するもの多しと雖も,電線自体の太さ,電柱の間隔及電線の弛度に大なる關係を有するものゝ如し。
風害による被害額は表-6の如し。
2.車輛の風害の原因
a.橋梁上又は築堤部に於ては遮蔽物尠きため全風圧が直接車体に作用す。
b.特に上路鈑桁にあつては遮蔽物皆無なるため側圧を受く。
c.オープン フロアーなるため車体の下部より上向圧を受く。
d.留置中の客貨車の制動不完全なりしため流転す。
3.建物の風害の原因
a.在來經年腐朽し居りしため風圧により倒壞す。
b.軸組及小屋組に使用せる材料の脆弱なりしと,要部の構造不完全なるに依る。
c.柱と土臺との緊結方法不完全なるに依る。
d.貨物積卸場上家及乘降上家は大なる風圧を受くるに拘らず構造比較的薄弱なるもの多し。
e.屋根瓦及スレート葺の工法不完全なるに依る。
f.筋違,燧梁の設けなきに依る。
g.白蟻の被害に依る。
4.電氣工作物の風害の原因
a.木柱が經年腐朽し居りしため風圧により折損す。
b.基礎地盤軟弱なるか,基礎部の工法不完全なるため基礎と共に倒壞傾斜す。
c.鉄筋コンクリート ポール等と雖も一柱に餘り多くの電線を架設せるため風圧に堪へずして傾斜す。
d.支線の施設なきか或は支線の強度不充分にして弛緩又は断線せるため電柱傾斜す。
e.隣接電柱倒壞の影響により其の衝撃と過大なる張力により順次倒壞す。
f.電線の太さの不充分なると,径間過大なるため断線す。
g.電氣的短絡に依り熔断す。
h.飛來物の接觸に依り断線す。
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III.風水害防止對策
1.風水害防止一般對策
以上各項に於て敍説せる如く今次の風水害を直接又は間接に誘致助長せる原因は極めて多岐に亙るを以て,災害の發生を防止軽減せんがためには箇々の場合の實状に応じたる防護手段を講ずるの要あるは當然なれども,之を一般的に見て下記對策の實施は喫緊の要務なりとす。
a.河川改修並に砂防工事計畫を擴充し且つ其の實施を促進すること,特に中小河川の改修に就て速に其の實施計畫を確立すること。
b.河川の維持を完全にし,特に河床の上昇,堤防の荒廢を防止すべき適當の對策を講ずること。
c.常に河川の流量,洪水位,河状の変化及雨量等を觀測して維持改善の資料とし,且つ重要なる河川に對しては洪水豫報施設を完備すること。
d.森林治水計畫事業を徹底的に實施し水源林地の保護,增植を図ること。
特に荒廢林野の復舊を促進すること。
e.洪水期に於ては流木を禁止し且つ流出の虞ある箇所に之を堆積せしめざること。
f.線路選定に當り災害の虞ある箇所を避くること。
g.災害防備施設を充實すること。
h.老廢又は腐朽建造物は速に之を更新改築すること。
i.建造物は細密檢査を勵行し常に其の強度に缺陷なきを期すること。
j.中央氣象臺との連絡を緊密にし,風水害發生前成る可く早期に其の豫報を受くると共に之を速に現場機關に通報し,事前に適當なる措置を講ぜしむること。
k.現場員に對し氣象知識を涵養し且つ氣象觀測裝置を普及すること。
l.風害の虞ある箇所には風速計を設備し,之に依りて適時に列車防護及線路警戒の手配を講ぜしむること。
m.颱風又は豪雨の際,災害を生ぜしむる虞ありと認むるが如き支障物は平時に於て適當に處理し置くこと。
n.非常の際に於ける防備方法並に復舊計畫を確立し置くこと。
o.災害時に於ける通信機關の杜絶を防止するため豫め適當なる方策を講じ置くこと。
2.水害防止對策
a.線路並に線路建造物に關する事項
1.氾濫區域内の線路は法面防護に留意し且つ其の施工基面は洪水の溢流せざる程度に之を扛上すること。
2.河川屈曲部に接近して線路を敷設する場合は洪水時に於ける流身の位置に留意して充分堅固なる護岸工を設くること。
3.護岸工の高さは最大洪水位以上となすこと。
4.切取又は築堤の土質不良なる場合は其の法勾配を成るべく緩ならしめ,且つ必要に応じ張石,張コンクリート又は土留擁壁を築造すること。
5.崩壞の虞ある切取法面には適當の排水施設を設けて雨水の排除を容易ならしむること。
6.築堤又は切取法面には成る可く木柱類を建植せざること。
7.洪水の際滯水の虞れある箇所には充分なる流水断面を有する避溢橋を設くること。
8.洪水の際流速大なる避溢橋の地盤面は成る可くコンクリート スラブ等を施工し渦流による洗掘を防止すること。
9.橋梁桁下高は最大洪水位上相當の餘裕を有せしむること。
10.洪水時に於ける流身の位置を考慮して径間割を定むること。
11.橋脚は基礎の根入りを充分にし,洗掘の虞れある箇所に在りては特に適當なる基礎工の選擇に留意すること。
12.径間小なる溝橋に對しても橋脚基礎は成る可く杭打となすこと。
13.橋脚躯体体コンクリートには鉄筋又は鉄骨を挿入すること。
14.橋脚躯体コンクリートの施工に際しては,施工接手の工法に注意し,當該部分の強度を低下せしめざること。
15.翼壁の延長は成るべく之を長からしめ且つ翼端を法尻に卷込むこと。
16.氾濫の虞れある箇所の翼壁及護岸石積は成るべく之を練積とし且つ尚基礎を洗掘せられざる構造となすこと。
b.建物に關する事項
1.建物の敷地の盛土高は洪水位を考慮して之を決定すること。
2.氾濫地域内には成るべく建築物を設けざること。
C.電氣工作物に關する事項
1.氾濫區域内には成るべく木柱を使用せざること。
2.河川を橫断する電線路は出來得る限り長径間とし,成るべく抗張力大なる合金線類を使用すること。
3.電線路は之を橋脚等に添加せざること。
3.浪害防止對策
a.線路及線路建造物に關する事項
1.地形上津浪襲來の虞れある箇所には堅固なる防波堤を築造すること。
2.波除護岸工は充分激浪に堪へ得る構造とし,特に基礎部の洗掘を防止すべき適當の防護工を施設すること。
3.浸飯甚しき海岸は植林其他によりて其の後退を防止すること。
4.軌道及踏切道鋪裝は成るべく板石練張とし,又縁端の留石を堅固に据付くること。
5.繋船岸壁背後の地表面を鋪裝し波浪による洗掘を防止すること。
6.船舶,木材等の漂流防止手配を促すこと。
b.建物に關する事項
1.浸水の虞れある低地の建物は成るべく之を他に移転し巳むを得ざる事情のため存置する場合其の床面は最高潮位以上となすこと。
2.重要なる機械類を裝備せる建物は高潮の侵入せざる構造となすこと。
3.排水用機械類は非常の際運転し得る樣配置し尚停電の場合をも考慮すること。
c.電氣工作物に關する事項
1.重要なる機械計器及配線は成るべく高所に配置するか或は其の周圍に防潮壁を設くること。
2.重要なる機械に對しては豫備を置き尚補助原動機を設備すること。
4.風害防止對策
a.建物に關する事項
1.腐朽せる建物は速に之を改築すること。
2.乘降場上家及貨物積卸場上家等は成るべく鉄骨又は古軌條を以て構築すること。
3.木造建物に在りては軸組及小屋組の要部に短册,ボールト等の金具を使用し堅固に緊結すること。
4.木造建物には筋違,燧梁等を充分に取り附くること。
5.風害の虞れある建物には支障なき限り成るべく控柱を取設くること。
6.乘降場上家及貨物積卸場上家等の壁面と屋根との間には相當の間隙を設け風圧を減ずること。
7.板塀の間柱及隅柱には成るべく腐朽の虞れなき材料を使用すること。
8.屋根葺材は破損の虞れ尠なきものを選び,且つ瓦は一枚毎に裏板に緊結すること。
9.箱番には成るべく支柱を取り附け,且つ土臺と基礎を充分緊結すること。
10.煙筒等の突出部は充分なる支線を設くること。
11.硝子窓はパテ飼ひ,硝子止めを完全にし,又天窓は硝子板の破損せざる構造となすこと。
b.電氣工作物に關する事項
1.電線路には成るべく鉄柱を使用し,殊に軟弱地盤に於て木柱の使用は之を避くること。
2.コンクリート基礎のアンカー ボールトは長きものを用ひ尚基礎には成るべく鉄筋を使用すること。
3.木柱は防腐材を使用し,且つ腐朽せるものは速に建替へをなすこと。
4.電柱には成る可く充分なる強度を有する支線を取り附くること。
5.電柱は地盤軟弱なる箇所に在りては其の根入を充分にし,且つ根枷を增加すること。
6.電線路附近の竹木類は之を伐採するか或は藪除裝置を完備すること。
7.電線の接続箇所は成るべく少くし,且つ柱間接続は之を避くること。
8.同一電柱に添架すべき電線數を制限すること。
9.重要なる饋電線は成るべく地下線となすこと。
10.電柱の間隔は成るべく小となすこと。
11.電線は成るべく太きものを使用すること。
12.ケーブル,ハンガーの選擇を嚴重にしハンガー自体によりて鉛被に損傷を與ふる虞れなきものを使用すること。
13.照明燈其他の高き工作物に對しては風圧に對し充分なる抵抗力を有せしむること。
c.其他の事項
1.風速大なる場合は長大なる橋梁及遮蔽物なき築堤上等の列車運転は之を避くること。
2.颱風時に於て列車が停止せんとするときは其の停車位置は危瞼の虞れなき箇所を選ぶこと。
3.驛構内に留置中の客貨車は流転せざる樣完全に制動し置くこと。
總括表
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被害内譯
I.水害
【例-1】山陽本線西大寺・岡山間140km500m附近旭川氾濫による線路流失
被害原因 直接の原因:旭川異例の大增水を來し,且流木等河流を閉塞せるため溢流せり。
間接の原因:河川改修工事未了のため。
被害状況 線路浸水:延長約3km827m
線路築堤流失:約8530m^3
道床バラスト流失:約2840m^3,延長2km586m
溝橋破壞:2箇所
橋梁橋脚破壞:旭川橋梁橋脚傾斜1基,百間川避溢橋橋脚龜裂發生3基
軌條流失:延長約990m
石垣崩壞:約520m^2
張石崩壞:約107m^2
(図-2及図-3參照)
復舊工事大要 橋脚の傾斜せるものは改築し,亀裂部は根固工を施行し其他略從來通り復舊せり。但し河川政修工事進捗に伴ひ旭川は橋脚一部補強,百間川は橋桁昻上並に径間整理の計畫あり。
被害額 復舊工事費額 59256円。
【例-2】山陰本線城崎・竹野間166km附近竹野川堤防決潰
被害原因 竹野川堤防決潰及避溢橋径間不足による。
被害状況 被害區間165km333m~167km244m,延長1km911mに亘り,大体下記の如き被害あり(図-4,5,6參照)。
1.築堤流失 7000m^3
2.線路流失 1km340m
3.軌道道床流失 500m^3
4.土留石垣,袖石垣の流失又は倒壞約 230m^2
5.須谷避溢橋基礎洗掘せられ基礎杭,高さ約1m露出す。
6.通信線,電柱流失1本,同折損1本,同傾斜9本。
復舊工事大要 築堤法面防護工及橋脚1基を增設したる外,在來通り復舊す,竹野川の完全なる改修工事を要す。
被害額 応急工事費額16100円,復舊工事費額28500円
【例-3】山陰本線久谷・濱坂間198km300m附近線路浸水
被害原因 直接の原因:上流河川の堤防決潰による氾濫水の溢流による。
間接の原因:避溢橋径間不足及築堤法面防護工の不備。
被害状況 197km970m~198km616m間延長646mに亘り次の如き被害あり(図-7,8,9,10參照)
1.築堤流失約1800m3(延長600m)
2.軌道流失延長約450m接目鈑ボルト切断し線路右側田面中に約70mを隔て転覆流失す
3.198km616m田君踏切番舎流失す
4.通信線,電柱流失9本,同傾斜4本
復舊工事大要 築堤法面防護工の增設及道床バラスト流止コンクリート新設の外,存來通り復舊す。
被害額 応舊工事費額11400円,復舊工事費額16400円
【例-4】山陰本線鳥取・鹽見間222km680m附近線路浸水
被害原因 豪雨のため出水一時に殺到せるも埋設土管径30cmにて排水困難なりしため。
被害状況 築堤の延長約30m,高約14m,土砂約1250m^3決潰し,線路は梯子状となれり(図-11參照)
復舊工事大要 假架臺4箇所を取設け,軌條桁3連を假設し,尚土俵2500俵を用ひて,根固工を施す。
出水甚大なりしため,コンクリート造溜桝を2ヶ所に新設し,ヒューム管径91cmを埋設し復舊せり。
被害額 応急工事費額4305.376円,復舊工事費額4582.573円
【例-5】山陰本線松崎・上井間269km400m附近線路築堤流失
被害原因 直接の原因:風速40m/sec以上雨量200mmに達す。
間接の原因:附近一帶の田野に溢水し築堤法尻を浚ひ法面流失せり。
被害状況 線路築堤法尻延長200mに亘り流失せり(図-12參照)。
復舊工事大要 土留柵工,土俵工等を以て盛土を復舊す。練積土留石垣延長約200mを新設す。
被害額 応急工事費額7041.849円,復舊工事費額1657.270円
【例-6】山陰本線由良・八橋間285km100m附近線路浸水
被害原因 宮尻川函渠(径間1.83m)附近一帶氾濫し,通水不能となり築堤決潰す。
被害状況 線路延長約40m,高さ約5m,土砂流失し,軌條は梯子状態となる(図-13參照)。
復舊工事大要 土留柵工,土俵工等にて盛土をなし,尚假軌條桁4連を架設,応急工事を竣功開通せしめ,復舊に際しヒューム管径91cm一列を新設し,土留石垣約70mを增設尚水刎新設せり。
被害額 応急工事費額10680.462円,復舊工事費額4841.676円。
【例-7】山陰本線莊原・直江間378km100m附近線路築堤破壞
被害原因 新川上流堤防決潰せるため第2前川橋梁附近著しく增水せるため。
被害状況 第2前川橋梁東背後より築堤決潰し,延長約100mに亘り軌條梯子状となる(図-14,15,16,17參照)。
復舊工事大要 築堤決潰箇所防護,假軌條桁架設2連,軌條桁受臺取設2箇所,土留柵取設延長209m,法面土俵工,線路盛土復舊ヒユニム管径1.03mを新設し,土留石垣約4m,延長約550m新設袖石垣を復舊す。
被害額 応急工事費額16752.434円,復舊工事費額14073559円。
【例-8】山陰本線波子・下府間468km400m附近線路法面崩壞
被害原因 唐鐘隧道東口右側切取上部よりの出水甚しく,法面崩壞せり。
被害状況 線路左側の切取,土砂約2000m^3崩壞せり(図-18參照)。
復舊工事大要 崩壞土石類を取除き土留土俵工を施す。
法面張コンクリート,土留擁壁,土留石垣,竪下水等を新設す。
被害額 応急工事費額1996.756円,復舊工事費額7874.635円。
【例-9】山陰本線八橋・赤崎間291km080m附近線路浸水
被害原因 豪雨のため附近切取よりの出水甚しく,法尻を洗ひ去り,築堤法面を崩壞せり。
被害状況 線路右側,築堤法尻を延長約60m間流失す(図-19參照)。
復舊工事大要 線路延長200mに亙り,假移転をなし,土俵工,盛土工等をなす。
法尻に土留石垣新設,水刎新設,伏樋を修繕し,築堤盛土を復舊せり(図-20參照)。
被害額 応急工事費額13628.299円,復舊工事費額1269.020円。
【例-10】山陰本線佐津・香住間181km附近築堤流失
被害原因 直接の原因:矢田川堤防決潰及香住川氾濫。
間接の原因:堤防決潰したる溢水が避溢橋に殺到せるに流木類の爲に通水妨げられたるため,築堤法面を大破せり。
避溢橋径間不足及築堤法面防護工不備。
被害状況 180km380m~181km230m,延長850mに亙り(図-21及図-22參照)
1.築堤流失約2200m^3(高さ平均1.5m)
2.道床流失約2000m^3
3.軌道延長約400m右側に約20m流下す
4.薦池避溢橋橋脚傾斜
5.薦池川開渠及同避溢橋翼壁は殆んど全部流失す
6.180km700m附近薦池官舎流失す
7.通信線の被害,電柱流失1本,同折損12本,同傾斜26本
復舊工事大要 薦池避溢橋の径間擴張及線路築堤法面防護張コンクリート工並に線路道床バラスト流止コンクリート工の新設の外,在來通り復舊す。
被害額 応急工事費額7900円,復舊工事費額15400円。
【例-11】伯備線江尾・伯耆溝口間126km700m附近日野川氾濫による被害
被害原因 日野川增水し,流身著しく変動して線路築堤に激突せるため護岸面を洗はる。
被害状況 線路築堤決潰,流失延長約200m(図-23參照)。
復舊工事大要 本箇所は線路を原位置に復舊すること至難なるを以て,線路移転の計畫を樹て,用地買收の上,約700mに亙り線路変更せり。
被害額 復舊工事費額8003.04円
【例-12】作備線久世中口・勝山間36km500m附近線路築堤流失
被害原因 旭川增水溢流の爲。
被害状況 築堤流失約17000m^3,軌道流失延長約750m^3,軌條流失760m,道床バラスト流失550m^3,土砂崩壞203m^3(図-24參照)。
復舊工事大要 線路変更延長約820m,線路中心最大45m,山側に移動し,一部勾配を変更復舊す。
被害額 応急工事費19917.41円,復舊工事費62114.00円。
【例-13】作備線月田・富原間44km100m附近月田川汜濫
被害原因 屈曲せる月田川に面する築堤法面の防護工薄弱なりしため,稀有の出水に際し洗掘せらる。
被害状況 築堤流失約1750m^3,軌條流出約140m,道床砂利流失約175m^3,延長約140m(図-25參照)。
復舊工事大要 今囘の增水に鑑み築堤法尻に雜石練積石垣を築造す。
被害額 13724.90円。
【例-14】因美線美作河井驛48km530m附近線路築堤崩壞
被害原因 豪雨溢流に對する防護施設不充分なりしため。
被害状況 豪雨の襲來により溢流し,築堤法尻より洗掘され下記の如き被害あり(図-26參照)。
道床流失 延長約80m
約23m^3
軌條流失 延長約80m
堆積土砂 約 1100m^3
築堤流失 〃 15424m^3
石垣崩壞 〃 340m^2
張石崩壞 〃 710m^2
復舊工事大要 溢流に對する護岸防護工を施行す。
被害額 応急工事費額1233.64円(37.92再用品),復舊工事費額49890.68円
【例-15】因美線知和・美作加茂間53km300m附近加茂川汜濫による被害
被害原因 直接の原因:加茂川の氾濫。
間接の原因:加茂川異常の增水による溢水の結果,河身の変化を來し,直接線路築堤に水流が激突したるため。
被害状況 築堤盛土流失約530m^3,袖石垣崩壞約33m^2,土留石垣崩壞約1010m^2,軌條流出延長約345m,橋脚破壞1基,道床バラスト流失約200m^3(図-27參照)。
復舊工事大要 護岸防護工を施し,橋臺,橋脚及袖石垣の根卷工を施工したるも尚河川堤防の改修を必要とす。
被害額 復舊工事費額 20244.82円。
【例-16】伯備線木野山・備中川面間41km987m附近第2高梁川橋梁流失
被害原因 高梁川の大增水と之に伴ふ流木のため。
被害状況 鉄桁8連中7連流失,橋脚7基中4基は基礎上部より倒壞,橋上軌道流失,橋臺背後,築堤崩壞,約150m^3(図-28及図-29參照)。
被害額 応急工事費 44466.61円。
【例-17】伯備線方谷・井倉間49km373m附近第5高梁川橋梁破壞
被害工作物 第5高梁川橋梁
径間119.08m,連數9.14m2連,18.29m5連,橋桁の種類鋼板桁,基礎の種類コンクリート。
被害原因 高梁川異常の大出水により洪水面桁下端を超えたるため。
被害状況 橋脚全數6基の中,躯体中途より倒壞せるもの2基,基礎の上部より倒壞せるもの2基,鈑桁7連全部流失,橋上軌條及枕木共全部押流さる。橋臺背後の土砂崩壞約250m^3,袖石垣一部破壞約5m^2(図-30,31,32參照)。
被害額 復舊工事費額359■0.29円。
【例-18】伯備線方谷・井倉間54km235m第7高梁川橋梁流失
被害原因 直接の原因:高梁川增水と之に伴ふ流木のため。
間接の原因:線路の河川横断状態が洪水の方向に對し,著しく斜角なること。
被害状況 鉄桁10連中6連流失,橋脚9基中基礎上部より倒壞せるもの1基,躯体中途より倒壞せるもの3基,橋上軌條全部流失,袖石垣20m^2,橋臺背後盛土約600m^3崩壞(図-33及図-34參照)。
被害額 36267.07円。
【例-19】伯備線井倉・石蟹間55km768m第8高梁川橋梁流失
被害原因 直接の原因:高梁川の增水と流木氾濫のため。
間接の原因:河川が屈曲せること,橋梁が半径402mの曲線部にありて橋脚の位置が流身に對し著しく斜角をなせるため。
被害状況 鉄桁10連全部押流さる。橋脚9基の中躯体倒壞せるもの3基,橋上軌條全部押流さる。橋臺背後築堤土砂約43m^3及袖石垣20m^2崩壞(図-35及図-36參照)。
被害額 41370.29円。
【例-20】伯備線黑板・根雨間107km367m附近第5日野川橋梁被壞
被害工作物 第5日野川橋梁
径間:97.94m,連數:5×18.29m,橋桁種類:鋼鈑桁,基礎種類:コンクリート
被害原因 日野川異例の出水のため洪水は桁下端を超すこと20cmに達し,尚家屋,流木等激突したるため。
被害状況 橋脚2基転倒潰滅し,鈑桁は5連共墜落大破す(図-37參照)。
復舊工事大要 減水を待つて橋脚基礎及躯体共復舊し,鈑桁架設す。
被害額 復舊工事費額 22786.988円。
【例-21】作備線中國勝山・月田間37km842m附近旭川橋梁破壞
被害工作物 旭川橋梁
径間137.81m,連數7×18.29m,橋桁の種類:鋼鈑桁,基礎の種類:コンクリート。
被害原因 直接の原因:旭川の大出水と之に伴ふ流木のため。
間接の原因:支派川との分流點近く架設したるものにして,河身亦甚しく屈曲せるため。
被害状況 鈑桁の流失:7連の内6連,橋脚の流失:3基,橋臺背後築堤土砂流失約300m^3,道床砂利流失約27m^3,軌條流失約230m(図-38及図-39參照))。
復舊工事大要 鈑桁を扛上し,径間增設並に一部下路構桁支間62.4mを架設し,超增水及流木に對して憂なからしむ。
被害額 応急工事費額24947円。
【例-22】倉吉線上井・上灘間2km038m附近竹田川橋梁被害
被害工作物 竹田川橋梁
径間:265.05m,連數:12.19m11連,11.19m8連,9.14m1連
橋桁の種類:鋼鈑桁,基礎の種類:石及コンクリート造,粗石張
被害原因 竹田川異例の增水あり,桁上面を超流するに至り,橋脚,鈑桁共流出するに至れり。
被害状況 橋脚第1,2,3號の3基倒壞,鈑桁4連流失す(図-40及図-41參照)。
復舊工事大要 鈑桁假受臺(木造)4ヶ所及鈑桁架設5連。
内務省河川改修工事に伴ひ,橋梁約3m扛上し,起點側に18m擴築し一部を径間30mの構桁に改造し,終點側,在來桁6連を廢止し,築堤盛土に変更せんとす。
被害額 応急工事費額 858753円,復舊工事費額 11268.774円。
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II.浪害
1.車輛の被害
【例-1】西成線安治川口驛構内貨車脱線
被害原因 1.颱風(低氣圧)による高潮,2.海水の靜振作用による被害,3.灣入せる地形に對し強風の方向一致せること。
被害状況 午前4時頃より漸次高潮となり,午前6時30分頃烈風と共に急激に高潮襲來し,浸水線路上2.4mとなり,線路不通となる。
停留貨車368輛全部浸水し,木材等流動衝突して貨車10輛脱線,15輛脱線破損せり。
被害額 貨車
脱線小破修繕 13輌 2600円
}計20800円
浸水手當 364〃 18200円
【例-2】西成線櫻島驛構内貨車浸水脱線
被害原因 1.颱風(低氣圧)による高潮,
2.海水の靜振作用による被害,
3.灣入せる地形に對し強風の方向一致せること。
被害状況 午前4時頃より漸次高潮となり,午前6時30分頃烈風と共に急激に高潮襲來し浸水線路上2.4mとなり線路不通となる。
停留貨車225輛全部浸水し,船舶木材等又流動衝突して,貨車75輛脱線,22輛脱線破損せる外ガントリー クレーン及船舶の下敷となれるもの9輛は廢車となれり(図-42及図-43參照)。
被害額 貨車
転覆破碎 9輌 12700円
脱線小破修繕 53〃 10600円 }計31400円
浸水手當 162〃 8100円
【例-3】關西本線(臨港線)浪速驛並大阪港驛搆内貨車脱線
被害原因 1.颱風通過に伴ふ低氣圧による高潮,2.海水の靜振作用による被害,3.灣入せる地形に對し強風の方向一致せること。
被害状況 大阪港驛構内に於ては高潮により午前6時30分頃停留貸車全部浸水し,船舶流材又はガントリークレーンの倒壞等の爲め損傷を受けたるもの多く,1輛は大破のため廢車となり,脱線破損せるもの25輛,浸水手當を要するもの51輛の多數に上れり。
浪速驛構内停留貨車101輛も破損は甚しからざりしも,悉く浸水し手當を要するに至れり(図-44參照)。
被害額 貨車
廃 車 1輌 1250円
脱線大破修理 6〃 3000円
脱線小破修理 19〃 3800円
浸水手當 51〃 2250円 }計10600円
2.線路及線路建造物の被害
【例-4】山陽線須磨・明石7km700m~21km600m間の浪害
被害原因 直接原因:颱風による9月21日午前7時30分頃の高潮並に激浪のため
間接原因:
須磨・鹽屋間 逐年潮流の爲め沿岸侵蝕され,風致林も波浪のため次第に枯死したること
鹽屋・垂水間 地質不良にして浸水せば容易に軟化し法面崩壞の傾向あること
舞子・明石間 排水溝断面不足
明石・明石操車場間 法面排水不充分
被害状況 線路支障箇所次の如し。
須磨・鹽屋間
km km
7.719~7.747 築堤流失 約120m^3(延長20m間)
8.110~8.118 路盤沈下,伏樋破損
8.400~8.483 築堤流失 約120m^3(延長約48m間)
9.710~9.900 下り線道床砂利流失 約60m^3築堤陷沒
鹽屋・垂水間
km km
10.860~12.480 土砂流入 約470m^3
舞子・明石間
km km
16.160~17.450
}土砂流入 約850m^3
17.940~18.050
18.460~18.490 築堤流失 約50m^3
21.240~21.580 上線切取崩壞 約30m^3,下線激浪の爲,道床砂利流失 約8m^3
復舊作業大要 崩壞土砂の取片付,流失砂利補充等の応急工事に努力し,須磨・明石間上下線の開通を見たるは21日午前11時30分頃なり。
復舊工事の主要なるもの
km
7.730附近左側土留築堤復舊102m^3
8.118 〃 伏樋一部復舊
8.400 〃 左側土留石垣復舊,石垣約83m^3,盛土約112m^3
10.000 〃 左側防波壁新設,コンクリート壁188m
21.460 〃 切取法面復舊,石垣復舊11m^2,法面復舊10m^3
被害額 応急工事費1261円
復舊工事費
km
7.730 附近左側土留築堤復旧 約1810
8.118 伏樋一部復旧 〃 452
8.400 左側土留石垣復旧 〃1020
10.000 左側防波壁新設 〃3680
21460 切取法面復旧 〃 253
}計7215円
合計 8476
【例-5】西成線大阪・櫻島間0km~7km880m間の浪害
被害原因 昭和9年9月21日午前6時30分頃
1.颱風通過に伴ふ低氣圧による高潮
2.海水の靜振作用による被害
3.灣入せる地形と颱風の方向一致せること
被害状況 線路上に沿線の家屋,板塀,屋根瓦,流木散亂し全線に亘り道床流失,不良土砂流入せり(図-45參照)。
被害額 不良砂利篩分並砂利補足1600m^3,10670円。
【例-6】關西本線今宮・大阪港間0km~7km340m間臨港線の浪害
被害原因 昭和9年9月21日午前6時30分頃高潮襲來のため。
被害状況 今宮起點2km960m附近以西軌道上1m以上浸水,船舶9艘,材木2400本其他の雜物線路上に散亂す。
第1天保山運河
第2三ツ樋入堀 }可動橋橋臺前後20m土砂流出
第3天保山運河
踏切道通路敷石損傷(図-46~51參照)。
被害額(合計31510円)
線路損傷(本線及側線)延長24km200m 7400円 道床バラスト流失 2610m^3, 3800円
線路内流木取除 2400本 650 橋渠損傷 2ヶ所 1360
橋臺背後築堤損傷 3ヶ所 3800 踏切道及軌道鋪裝損傷 5910m^2 14500
3.機械類の被害
機械類の被害は次表に示す如く,之を原因別に見れば風害によるもの2059円,浪害によるもの204437円,水害によるもの1146円にして浪害によるものは全体の98.4%を示す。
然して浪害の大部を占むるは櫻島ガントリー クレーンの被害にして190687円に達し,之に比すれば他の被害は極めて小額にして5000円を超ゆるものは臨港線浪速・大阪港間の可動橋の被害6400円なり。
【例-6】西成線櫻島驛構内ガントリー クレーンの被害
被害原因 高潮襲來のため。
被害状況 高潮襲來と共に船舶,浮流貨車其他の激突により倒壞大破するに至れり(図-52及図-53參照)
復舊作業大要 配炭所設備の石炭用ガントリー クレーン3臺は倒壞せるものを取片付け新に築造し,驛設備の電動ガントリー クレーン1臺は修理復舊せしめたり。
被害額(合計 190687円)
櫻島配炭所石炭用ガントリー クレーン:應急費450円,取片付費 15066円,復舊費 167100円
櫻島驛電動ガントリー クレーン:取片付費 1071円,復舊費 7000円,
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III.風害
1.車輛の被害
【例-1】東海道本線野洲・守山間485km560m地點野洲川橋梁上貨物第281列車転覆事故
被害原因 昭和9年9月21日午前8時23分頃本列車野洲川橋梁通過に際し,図-55の如く側方よりの暴風に遭遇し,此ため上路橋の部分にある貨車は吹倒され,脱線転覆せしものなり。然して最後部の5輛は停止の衝撃によりて脱線したるものと認めらる。ポニートラス上の貨車は河川中心に近きに拘はらず,風圧により脱線することなく却つてアプローチ スパンの上路鈑桁上に於てのみ転覆したるは全く橋梁の構造其物に基因するものにしてポニー トラスにてはトラス メンバーの存在によつて貨車の受くる風圧が著しく減殺されるがためなり。
被害状況 機關車D 50289,現車46輛,換算71.4輛編成の列車なりしが図-54に示す如く橋梁(全長463.6m)を通過し終りし前頭16輛には異状なかりしも,続く第17,及第18,の2輛は線路上に脱線,上路鈑桁上にありし後続11輛は脱線転覆し,内7輛は橋下に転落。次にポニー トラス上にありし30輛目より40輛目まで11輛は異状なく,最後部5輛は1軸又は全軸脱線し,上下線を閉塞せり。
結局転覆11輛,全軸脱線2輛,1軸脱線5輛,計18輛の被害車を出し,此の内大破のため廢車とせるもの9輛,修理,復舊せるもの5輛,他の4輛は修理を要せざりしものなり。
復舊作業大要 復線可能にして,且運転しうるものは復線せしめ,其他は橋梁上より転落せしめて先づ上下線路を開通し,転覆車輛は後に取片付たり。
開通は上り線21日午後7時23分,下り線21日午後11時10分となれり。
被害額 廢車損害見積額9輛18500円,修繕5輛2500円,計21000円。
【例-2】東海道本線草津・石山間498km566m地點瀨田川橋梁上急行第7列車転覆事故
被害原因 昭和9年9月21日午前8時35分頃機關車C5373,現車11輛,換算46.5輛編成の第7列車が瀨田川橋梁(上路鈑桁19連,全長439.83m)上に差し懸るや図-59に示す如く南方より猛颱風が何等の遮蔽物なき瀨田川上を一路橋梁に吹きつけたるものにして,當時の風速は20分間の平均風速40m/sec以上にして,瞬間最大は60km/secと推定せらる。
上路橋なりしため車輛の受くる側圧が何等減殺さるゝことなく,又車体の下部より吹き上げられしことが間接の原因と認めらる。
被害状況 図-58に示す如く,機關車に接せる手荷物車及3等客車は機關車と共に無事なりしも3輛目の3等客車以後9輛は全部橋梁上に転倒し,臺車の片側を下り線枕木上に懸け,車体は上り線に約45度の傾斜(図-59參照)をなし枕木に支へられ,辛くも河中に墜落するを免れたり。然して前部1,2號車が転覆を免れたるは,機關車重量大なるため,之に拘制せられたる事と3號車が2號車と連結を分離して転覆したる爲と認めらる。
之の結果客車6輛は大破の爲め廢車するに至り,3輛は大修繕を加へ復舊せしめたり。
死者11名(男7,女4),負傷者201名(男169,女32)及職員負傷者7名,準職員負傷者7名を出せり。
復舊作業大要 転覆車輛を一旦全部上り線上に移して,下り線の開通を計る計畫の下に上下線鈑桁上に數本の古軌條を架け渡し,之を足場としてジヤッキを用ひて車体を90度傾倒せしめて水平とし(図-63參照),插入軌條上を滑らせて上り線上に移し,次に插入軌條を切断し,彎曲軌條橋枕木等を更換し,24日午後7時20分下り線先づ復舊し,午後7時55分第9列車より下り線單線運転を開始せり。
次に図-64の如く上り線上に橫はれる車輛をレッキング クレーンにて吊上げ其下に特殊構造のローラーを前後2個插入して車体を受けしめ,其儘軌條面上を転じ,機關車にて石山驛まで牽引し,茲にて直立せしめたり。
上り線復舊完了せるは30日午前3時30分なり。
被害額 廢車換算見積額(客車6輛)149000円,破損車修繕費(客車3輛)36000円,計185000円。
【例-3】東海道線攝津富田驛構内1307列車転覆
被害原因 昭和9年9月21日午前8時18分風圧による転覆。
被害状況 高槻驛發車後549km200m附近に於て風速益々猛烈となりたるため,時速16kmにて約100m進行後運転継続危險と認め停止せるに,停止後約10分經過したる時突風のため終に現車6輛中後部寄3輛は上り線側に脱線転覆し,上下急行線を支障したり。負傷者13名(内乘客11名職員2名)(図-65~図-67參照)。
復舊作業大要 自動連結器を瓦斯にて切断し,各臺車は車体と分離して他に移し,次に車体を正位に復しジヤッキにて扛上し,先に分離せる臺車を插入して運転し得る構造となしたり。
被害額 客車3輛 12750円。
【例-4】東海道本線吹田操車場構内貨車脱線転覆
其のI 吹田操車場第1信號扱所附近。
被害原因 昭和9年9月21日午前7時59分風圧による停留貨車流転脱線転覆。
被害状況 第65列車(現車73輛)到着停車中烈風のため東方に向つて逆行流転し,途中の転轍器を割出し,上り引上線の車止を約25m突破し,之がため最後部の3輛は脱線転覆,続く2輛は1軸脱線せり。
前者の3輛は大破のため廢車となし,他の2輛は修繕復舊せり。
其のII 吹田操車場構内東坂阜附近
被害原因 昭和9年9月21日午前7時30分風圧による停留貨車流転追突脱線転覆。
被害状況 線別20番線に收容せる米積車1輛風圧のため東方に流転し,約3分間の後同22番線收容の空貨車4輛流転し,關係転轍器を割出し,逸走して前者に追突し,空車2輛は北側に傾倒し,米積車は屋根を破損し何れも脱線せり(図-68參照)。
被害額 (I),(II)合計 8700円
転覆破碎3輛6000円,脱線大破3輛1500円,脱線小破6輛1200円。
2.建物の被害(図-69~図-73參照)
3.電線路の被害(図-74~図-80參照)
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第6部 電氣工作物
目次
頁
總説………………………………………………1
1.一般對策 2.水力發電所
3.火力發電所 4.送電線路
箇所別被害………………………………………3
1.水力發電所 2.火力發電所
3.鉄塔電線路 4.鉄柱電線路
5.木柱電線路
總説
1.一般對策
(1)風害による通信線の被害多く,水力發電所其の他遠隔なる土地との連絡は非常に困難なりしを以て之等非常時通信設備として短波による無線通信設備の設置を理想とするも少くとも公共事業に對しては公衆電話非常時通信優先權が望ましい。
(2)主として水害に對してであるけれども從業員をして後顧の憂なく,非常時の作業に專念せしめ得る樣,社宅其の他は之等非常時を考慮して安全地帶に強固なるものを建設するを要す。
2.水力發電所
水力發電所の被害は何れもその原因を設計上周到なる注意の缺除,監視の不充分,水門操作の拙劣等に歸することが出來る。即ち
(1)堰堤の破壞せるものは何れも低堰堤にして下流法面特に水叩部は洪水時に於ては水勢のみならず,玉石,砂礫の流下を考慮に入れて設計する必要あるものと考へられる。水叩部は天然の岩盤ありと雖も信賴するは危險であつて,その上を薄くともコンクリートで被覆すべきものと考へらる。低堰堤は決壞するも直接の被害は一般に小なるを以て設計,保守共に不充分となる傾向あるも結果として發電不能に到る被害は同樣なれば設計としては充分な水叩部を設置するは勿論堰堤兩翼部の護岸は強固なるものとするを要す。
(2)水路中に土砂流入を防止するには水門閉塞の時期を失せざる樣不断の訓練が肝要である。尚洪水時は水量のみならず土砂の流下により不測の水位上昇を來すことあるを以て,取水門其の他の構造物は充分に水位の餘裕を取りて設計する必要がある。
(3)土砂崩壞せるため水路を遮断せるもの往々あり,將來土砂崩壞の惧れある場所に設くる水路は蓋渠又は隧道となすを適當と思料す。
3.火力發電所
火力發電所を海邊に設くることは石炭の運搬及冷却水の關係上止むを得ない事であるが,今囘の災害で高潮に對して充分考慮して置かねばならぬ事が明かになつた。對策としては次の事が考へられる。
(1)火力發電所の周圍には豫想高潮に對して充分安全なる堤防護岸を設くること。
(2)以上の堤防護岸の外火力發電所の主要部分に對しては船舶と同樣の防水的構造とすること(高潮の達する範圍が止むを得ざる場合は特殊の構造とし,海水の侵入,流材の衝撃等に備ふ)。
(3)出入戸には水密戸,兩室の隔壁には水密壁を用ふること。
(4)適當容量の排水ポンプを少くとも2臺設置すること。
(5)冷卻水ポンプ,電動機等を竪型とし可及的高位置に設置し操作用器具は之を階上に施設すること。
4.送電線路
被害區域に於ける支持物の種類別に依つて見ると,木柱の被害最も多く鉄柱,鉄塔の順であつて,鉄筋コンクリート柱は皆無であつた。木柱も支線を施せるものには殆んど被害はなかつた。著しい被害は腐朽せるものゝ折損,地盤軟弱なる箇所の傾斜が夥しい。鉄塔,鉄柱に於て被害を受けたるものは殆んど何れも設計上又は基礎の施工上何等かの缺陷あるものと認めらるゝ場合多く,從來の遞信省規定の標準強度以上にその設計を改める必要は餘り認めない樣である。唯河川橫断,長径間,高さ大なる鉄塔等は一考の餘地がある。此の種の鉄塔は送電線路の全基數に比して其の數少く相當な強度とするもそのために線路全体の建設費を著しく蒿むる惧れがない。尚又設計上望ましいことは主要なる送電線路の支持物は今後一層完全なる結構(鉄塔下部主柱材の隅取り,水平ブレイシングを設けなかつたり,鉄塔内に電線を通すために筋違ひ材を省略する等のことをなさざる)とし且成可く足を廣くする構造とし,施工に當つては基礎コンクリートは萬全を期したいのである。
今囘の災害に限らず送電線支持物の被害は基礎の缺點に因るものが甚だ多い,地盤に応じて設計又は施工を適當に変化すべきであるに拘らず多くの場合施工は殆んど土木技術を觧せざるものが監督の任に當つてゐる實情であるから此の缺陷を表すことも誠に止むを得ない。今囘の災害に於て監督の不充分なることを暴露し或は不正工事ではないかと思はれる樣な實例もあつた。被害の原因を一括すれば大体次の樣である。
基礎より倒壞せるものは地盤軟弱なるか,地下湧水烈しき箇所に生じたるもの多く,基礎コンクリート施工不良にして硬化不充分なるため強度不足し基礎コンクリートが或は途中より切断し,或は主脚材離脱し倒壞に至りたるものあり,中には主脚材のアンカー埋込み淺くして基礎コンクリートの中央以下に及ばざるものあり。又高き鉄塔にして主脚の橫振動のため基礎コンクリートが大きく垂直に破壞し,鉄塔構材には異常なく破壞せるものあり。之等はコンクリート工の粗惡なるに其の原因を歸すべく基礎の施工には一層監視を嚴にするを要す。必要に依つて鉄筋を插入するも一つの方法なれども此の場合には一層コンクリート工に注意すべきは論無し。尚破壞鉄塔の多くは主柱材を補強するブレーシングの組み方を誤りしに歸すものと認めらるゝもの多し,即ち鉄塔内に電線を通す等のために筋違ひ材を省きたるに拘らずラーメンとしての強さを有するものと考ふるが如きは其の一例なり。尚又主柱材特に下部に於けるものは隅取り水平ブレーシングを設けざるため主柱材が破壞せりと考へらるゝものも相當多く認めたり。蓋し鉄塔は電氣會社にて施設する場合其の計畫を電氣技術の技師が擔當し,且つ鉄工所に設計を任ね,材料の軽きを誇るが如き實情なるに依り,自然細部に於ける設計上の違算が鉄塔全体の破壞の因となるが如き結果を招來せるものゝ如し。
今囘の災害に於ては設計上豫期せざる如き風圧のため破壞せられたるにあらずやとの考察もあれども,風圧は斯くの如く大なるものに非らざりし樣なり。風圧のための被害なれば其の附近の鉄塔全部は被害あるべきなれども特殊の鉄塔だけ破壞せるを見ても過大なる風圧のためとは断じ難き節あり。即ち河越鉄搭に於で割合被害多かりしは,河越鉄塔は概して其の高さ高く從つて風圧も低地より相當大なりし事が被害の原因とも考へらるゝを以て,今後河越鉄塔に對しては幾分設計を考慮する必要ありと考へらる。
鉄塔が一基倒壞する時は電線を引き張り連続して數基の鉄塔の破壞を見るものなり。今囘の災害に於ても此の例は割合に多し。此の場合も何れの鉄塔が先に倒壞せりや現場にて判定し難き場合多し。右により耐張鉄塔は成る可く數多く設くるを可とす。
可焼鉄塔は特に其の傾向著しく各鉄塔容易にじゅう力に依りて倒れ,其の被害附近の多くの鉄塔に及ぼすを以て可撓鉄塔は成る可く使用せざるを可なりと認む。
鉄柱の被害は大部分基礎の弱きに依りたるもの多し。今後基礎工事に一層留意するを要す尚支線は特に有效なりしを認めたり。
箇所別被害
1,水力發電所
1.京都電灯
被害状況 水路の決潰,損傷或は土砂流入甚だしきは岩和田發電所の如きは增水のため堰堤水路を損壞せり。その損壞は15000円以上に昇れり。
被害總數:水路に被害ありたるもの9發電所,建物に被害ありたるもの28發電所(火力發電所も含む)。
被害金額 28900円(火力發電所も含む)
2.山陽中央水電
被害状況 發電所2ヶ所
荒田發電所:取入堰堤(玉石コンクリート造溢流堰堤)の中央約10m崩壞流失し,取水口の制水門及取入口前庭の沈砂池並に排砂門流失,又取入口砂礫のため埋沒す。水路中約12m決潰流失し,約30mの護岸石垣崩壞せり。水路に土砂流入堆積す。尚猛烈なる降雨のため山土及岩石の落下したるもの多し,被害6800円。
入發電所:改築工事中の取水堰堤にテンター ゲート用トラスの取付中,その一部が增水と流材のため破壞せり,被害148.96円。
被害金額 6948.96円
被害對策 荒田發電所に對しては今囘の如き大洪水に對しては被害工作物は構造稍薄弱なりと思料す。入發電所に對しては大增水により被害を蒙りたるものにして不可抗力と思料す。
3.中國合同電氣
被害状況
羽出發電所:吉井川取入口護岸破壞(被害3000円),羽出川堰堤水叩部及護岸損傷(被害200円)
久田發電所:堰堤水叩一部破壞(被害250円)
富發電所:堰堤水叩護岸一部破壞(被害250円)
勝山第1發電所:取入口護岸及第1號蓋渠,沈砂池の護岸破壞(被害1000円)
被害金額 4700円
4.出雲電氣
被害状況 被害を受けし發電所3ヶ所
乙立發電所:堰堤水叩張石終端約15mの點及中間23m附近の2ヶ所に於て魚道折損し,河床変化に伴ひ約0.5mの沈下をなし魚族の溯上に支障を來するに至れり。復舊工事として舊設の魚道を全部撤去し,鉄筋コンクリートを以てプール型魚道に改修し,尚堰堤水叩終端よりダルマ籠を3列に配列して根固をなせり。
北原發電所:
(1)取水口暗渠側壁約2m決潰し,上部の岩土約200m^3陷沒し,第1號隧道へ流入閉塞し通水不能に至る。
(2)堰堤及取水口護岸工,取入口番人社宅敷地道路の大部分崩壞又は流失す。
(3)沈砂池排砂路の側壁及底面石積工約20m破損す。
(4)發電所護岸石垣延長約40m崩壞す。
復舊工事は(1)は直營にて9月21日復舊す,(2)乃至(4)は請負にて11月末日復舊せり。
湯村發電所:
(1)堰堤中央頂部張石約7m及左岸石垣工の大部分決潰又は流失す。
(2)水槽餘水吐より分水する灌漑用水路約16m崩壞す。
復舊工事は全部請負にて11月末復舊せり。
5.廣島電氣
被害状況
旭發電所:日野川取入口堰堤高さ4.5m,延長75mの表面張石内部玉石入コンクリート造り堰堤に連接し,左岸寄りに高さ2.5m,長14mのテンター ゲートを設けありしも總て流失せり。右岸寄りに長さ25の堰堤部分と左岸寄にテンター ゲート支臺を殘存せるのみなり。
川平發電所:取入口より下流120mの區間,日野川左岸護岸石垣崩壞し,排砂門及魚道の先端附近深さ3.5m掘深される,又右岸護岸石垣は堰堤付根より下流80mの間,高5m崩壞せる外發電所建物外圍護岸石垣一部破壞せり。
江尾發電所:放水路堰堤附近の掘深せられし外壁石垣崩壞流失せり。尚發電所には洪水周圍に堤塘を越へ床上0.8m浸水し,停電せり。之れが復舊に8日間を要せり。
牧發電所:天神川取入口舊堰堤高さ1.5m,延長45mの石造堰堤及左岸寄りの制水門幅1.5m 2門を有する取水口及附屬設備全部を流失せり。其他水路の延長10m,暗渠一部を破壞せり。
下西谷發電所:下畑川筋堰堤直下右岸寄り道路に沿ふ開渠及沈砂池の一部破壞せられ,小溪を橫断する延長約15mの暗渠を破壞する外土砂の水路中へ流入すること甚だしきものあり。
下畑發電所:延長15m,高2mの石造堰堤流失し,左岸寄り取水口一部に被害あり,尚取入口より下流約20m附近に於ける約19mの區間の水路破損せり。
被害金額(合計116307.01円)
發電所 假工事 復舊工事
円 円
旭 4438.01 77500
牧 2535.99 15000
下畑 224.05 2182
下西谷 976.96 2850
川平 8600
計 9175.01 107132
6.因幌水力電氣
被害状況 第18甲號發電所は洪水のため八東川筋護岸堤防決潰し,一部奔流は發電所を衝きたるため屋内は發電機床面上約1尺浸水せり,發電機は下部鉄心一部水漬りとなり,一時發電不能となる。屋外裝置は地面上約3.5尺浸水し,大半磧と化し,油入遮断器操作機構は全部水漬りとなる。放水路は奔流にその背後を衝かれたるため右岸コンクリート護岸石垣約15間決潰し,是等砂石の堆積により一時放水不能となる土捨場は溪流出水氾濫したるため其の基礎を洗はれ一部崩壞せり。
7.其の他
阪神急行電鉄 被害なし。 京阪電氣鉄道 被害なし。 千早川水力電氣 被害なし。
京都市 被害なし。 南海水力電氣 記載事項なし。 土佐電氣 被害なし。
高知縣 被害なし。 四國水電 被害なし。 安喜水力電氣 被害なし。
伊豫鉄道電氣 被害なし。
2.火力發電所
1.京都電灯
被害状況 建物の屋根窓の破損,附屬建物の倒壞甚だしきは伏見火力發電所の如き,屋根のスレートを多く飛散せしものにして損害約8000円なり。
被害金額(水力發電所の項參照)
被害對策 屋根の平板瓦棒葺は廉價なる上風に對しては效果的なる樣思考せらる。
2.神戸市
被害状況 湊川火力發電所の導水路及沈砂池の被害(約500円),搬炭設備(700円),石炭陸揚場の岸壁上部約68m損壞(300円),その他附屬設備損害(500円),高潮侵入による屋根窓等の破損あり。
被害金額(2000円)
被害對策
(1)既設發電所には全然風水害を防止する施設は種々の困難を感ずるを以てなざず,只ある程度の漏水は止むを得ぬものと考へ只發電作業に支障を來さゞる程度に補修改良をなし豫備設備を施すことゝせり。
(2)高潮浸水に對しては發電所復水放棄溝出口際に鉄管を設置して逆流制止弁を取付け,又發電所出入口等には防潮壁を設け尚漏水せるものは地下室の凹所に導き排水喞筒にて排水するべく夫々喞筒を設備す。
(3)海岸附近又は海水面或は道路面より低き床面を有する發電所は1.5m以上の防水壁或は2.5m以上の防水堤を其の外廓に廻らし入口を防水扉となすこと。
(4)發電所出入口扉窓通風筒等を高潮及水圧,暴風雨,風圧に充分耐ゆる構造たらしむること。
3.關西共同火力
被害状況 尼ヶ崎火力發電所は高潮のため發電所内一階床面上2.75mの浸水,屋外変電所及貯炭場地面上1.75m浸水のため發電不能となり,被害は補助機用電動機,蓄電池計器用変成器及配電盤等なり。
被害對策
(1)發電所建物一階窓を可成り上部に設け且水密式にすること。
(2)出入口の扉を水密式とすること。
(3)ケーブル ダクトより浸水を防止するためコムパウンド等により之を閉塞すること等を適當と認む。
4.南海鉄道
被害状況 堺發電所は浸水約2mのため一時發電不能となりたり。
5.其の他
山陽中央水電 記載事項なし。 中國合同電氣 記載事項なし。 京都市 被害なし。
廣島電氣 被害なし。 南海水力電氣 記載事項なし。 新宮電力 被害なし。
土佐電氣 被害なし。 高知縣 被害なし。 四國水電 被害なし。
3.鉄塔電線路
1.京都電灯
被害状況 被害送電線數:45送電線, 被害鉄塔數:倒壞:10基,傾斜 4基
被害金額(鉄柱,木柱を合せて) 120000円
被害對策
(1)風の方向と同方向にある線路は殆んど破損なく,風と直角なる方向にて地盤軟弱なる支持物の倒壞せるもの多し。
(2)鉄塔の倒壞
(イ)其の基礎施工に當り湧水のためコンクリートの硬化不充分なりしに起因するもの
(ロ)構材の細長比の大に過ぎしもの多し
(3)今後考慮すべきことはコンクリート基礎にして湧水多く,コンクリートの完全施工困難なる所は土壤基礎としても耐へ得る如き設計とする要あり。
2.山陽中央水電
被害状況 成羽川送電線路に於て1基倒壞,洪水のため附近堤防決潰し,コンクリート基礎激流並に流材のため掘り洗はれ転覆せり。
被害金額 202.59円(復舊工事費)
被害對策 コンクリート基礎工事には缺點なきも,稀有の洪水により堤防が決潰したるためにして不測の被害と思考す。
3.關西共同火力
被害状況 共同送電線路:尼ヶ崎發電所より11.5kmの地點に於ける添架電話電纜が1條近接せる竹林と接觸断線せり。
被害金額 200円
被害對策 線路に近接せる竹林等は今囘の如き颱風を豫想して伐除すること。
4.大阪市電氣局
被害状況 鉄塔連続14基倒壞,その前後1基宛2基折損
被害對策 本送電線はその下に將來家屋の築造せらるゝことあるも支障なき樣電氣工作物規定第69號により施設し,家屋は木造にして高さ地上12.7m以下と見做し,その最高點より本線までの間隔を5.0mとせり。
今囘風害を被り倒壞せるは主として径間150mの郡部にして,市内の径間:130m以内のものは倒壞を免れたり
本電線路の如く囘線數多く(地線1條,本線12條)且塔高の著しく高きものは更に安全係數に餘裕を見込み且鉄塔形状に於ても充分研究考慮の要あるものと認め目下鋭意之が政善に努めつゝあり。
5.京阪電氣鉄道
被害状況 倒壞 2基,上部折損 2基,コンクリート基礎折損 1基
被害金額 38000円(但し鉄柱をも含む)
被害對策
(1)電線路に直角に近く風圧を受けたるもの被害多し。
(2)基礎破壞せるものは地盤軟弱にして且湧水の爲等により,コンクリート施工完全ならず,軟コンクリートと其の上部基礎体との接合不充分なるものゝ如し。
(3)折損せるものは隣接鉄塔が倒壞せるため重量附加し,計算外の荷重を受けたるものゝ如し。
(4)基礎の敷コンクリートと其の止部体コンクリートとの接合を完全ならしむる爲,鉄筋を插入する必要あるものと考へらる。
6.大阪電氣軌道
軌道,鉄道關係の部門に報告せるも,被害は奈良線,八木線に於ける電車線側柱に添架せる部分のみなり。
7.宇治川電氣
被害状況
支持物種別 倒壞 傾斜 小計
特殊型4脚鉄塔(4囘線) 7 - 7
普通型 〃 (2囘線) 4 4 8
2脚鉄塔(可撓鉄塔) 60 20 80
合計 71 24 95
被害對策
(1)鉄構關係:特殊鉄塔は用地の都合上1鉄塔に對し77000V送電線12條を添架し,地上の高さ高く尚電線全部を鉄塔の胴体内に貫通せしめたるものにして其のため結構上無理あり且風圧荷重の影響する率も普通の2囘線型に比し遙に大なりし爲,被害を受けたり。此の鉄塔に對しては胴体内電線貫通の場合電線支持物法を防振式として以て完全結構を結成せしむることに改良したり。
(2)普通型4脚鉄塔:普通型4脚鉄塔は堺市三寶濱防潮堤決潰のため奔入せる潮波のため3基倒れ,又他に於て隣接鉄柱の倒れたるため之れに引かれて1基折損したるものと合計4基にして他は全部被害なし。普通型4脚鉄塔は風圧荷重の外に電線切断せし場合生ずる不平均張力をも支持し得る設計なるに依り不本均張力を受けずして風圧のみを受けるときは強度に充分の餘力あるを以て今囘の風圧にも堪へ得たるものと認む。此の鉄塔は從來の設計にて不安無けれ共土質軟弱なる箇所にありては基礎を一層注意すれば充分なり。
(3)2脚鉄塔及鉄柱:本鉄塔並に鉄柱は設計荷重としては風圧荷重のみを考慮し,電線切断の場合生ずる不平均張力を支持せざる樣設計され居るがため,今囘の如き風圧を受くる場合は荷重に依る応力が支持物の強度を超過し破壞せるものと認めらる。尚1基倒れるときは隣接支持物は橫の方向に引かるゝものなるが此の種鉄塔は上記の如き程度の強度なるを以て倒れたるものが隣接支持物を引き倒したるものもあり,依つて今囘鉄構並に基礎の補強としてその兩側に支線を設くることゝなしたり。
(4)基礎關係:鉄塔損壞は大部分基礎先づ破れ,其のため鉄塔損壞せり。基礎の破損せるは總て張力を受くる側にてコンクリート施工上遺憾の點ありしものあり,又降雨のため地盤弛みたる事實も原因の一と考へらると雖も土質軟弱なる箇所に於ても今少し強固なる基礎を施す要あるものと認む。
依つて今後の設計に於ては土壞の息角の値を充分少なく採り,基礎の強固を計り,尚工事の施行に充分の注意を拂ふ方針なり。
(5)總括的意見:今囘の風圧に因る鉄塔の倒損は風圧荷重のみを支持する設計のものが被害を受け,又特殊構造のものが被害を受けたり。
風圧荷重の外に電線切断の場合鉄塔の受くる不平均張力をも累加支持する鉄塔(普通型4脚鉄塔)は被害を免れたり。
風圧のみを考慮せる支持物(2脚鉄塔及鉄柱)に對しては支線を設けて補強するを安全と認む。2脚鉄塔の損壞は基礎の引揚げられたるに因するもの多し。
一般に鉄塔の基礎は土地軟弱なる場合に於ては今少し強固なる設計とし工事施行に注意し設計と實際の出來高とが一致する樣注意を怠るべからざるものなることを痛感す。
特殊鉄塔は用途の目的上完全結構となし難き場合多し,然れども出來る限り完全結構を結成せしむる樣考慮するを要す。
一般に鉄塔の接続用ボールトは計算上の必要數にては不足を感ず,故に計算上の必要數よりも更に約3割位餘分に增加するを要するものと認む。普通型4脚鉄塔の設計は從來通りにて何等不安なきものと認む。
8.大同電力
被害状況 鉄塔:倒壞 5基,折損 17基, 可焼鉄塔:51基
被害金額 118470円
被害對策
(1)新淀川送電線21號鉄塔は基礎近くにて屈撓し,第2節以上は何れも倒壞の原因と認むべきものなく又基礎にも異状なし。本鉄塔の如く(新淀川橫断)河越箇所にて途中何等障害物なき場所に於ては風速等も他の場合に比して特に大なりしものゝ如く認めらる。京都送電線125號鉄塔も同樣にして倒壞せるものと考へらる。
(2)新淀川送電線14基倒壞せるは之等の鉄塔が水路上に沿ひて建設せられたる特殊鉄塔にして架渉線は何れも鉄塔内を通過する構造なるため斜材の用法,アーム強度に缺陷ありたるものと考へらる。
(3)大同日電送電線は2基の基礎は湧水多き砂層にしてコンクリート工不良なりしため倒壞せるものと考へらる,京都送電線160號鉄塔も同樣と考へらる。
(4)巽,玉川送電線の連続51基の倒壞は巽方面の約半分は東西に,玉川方面の約半分は南北に建設せられたる可撓鉄塔にして途中引留鉄塔を使用せず建設せられたるものにして,最初38號鉄塔の角度箇所に於て風圧をうけ,支線取付金具伸長し,支線断線状態となりしため鉄塔倒壞且線間短絡のため3線の内2線断線の状態となり,巽方面は東南風を受け線路方向と20~30度の方向に地上にて大部分はアンカー ボルト切断のため倒壞,玉川方面は線路方向に何れも地際にて倒壞せるものなり。
9.日本電力
被害状況 倒壞 6基,折損 1基
被害對策
(1)倒壞鉄塔の内5基は何れも河越の長徑間に於ける高さ50m以上のものにして,斯くの如き高き鉄塔の上部に於ては其の周圍に何等の遮散物無きため風速も猛烈なるものと想像し得べく,之が此種鉄塔の被害を大ならしめたる一因と思料す。
(2)鉄塔倒壞の原因は高潮により突進し來たれる木材の衝撃によるもの1基を除いては何れも過大風圧に基くものなれども,鉄塔の弱點は必ずしも同一ならず,154KV木津川橫断箇所(M型)のものは上流堤防側の主柱脚部とコンネクチングプレートの継手ボールトが剪断力により切断されしが原因なるべし。之の継手ボールトの數は主柱材片の強度と均しく決定されたるものなるも特に多數のボールトを使用せる斯る箇所に於ては全部のボールトが嚴密に一致して応力を支持する樣仕上げられざるを以て特に大なる応力を受けたるものより順次切断せるものと推定せらる。次に33KV界線の淀川橫断箇所の鉄塔(S.H.型)は既述の如く線路方向の風圧により破壞せるものにして原因は鉄塔自体の風圧に基くものなり。而してこの風圧の下に於て線路に並行せる面の1本のブレーシングのボールトが切断し因りて主柱の傾斜を來せるものなるべし。
次に77KV大同連絡線の1基(A型)の破損に就ては以上と其の趣を異にするものなり。
この附近は地盤軟弱なるアンカー スタブの根卷コンクリートが細過ぎたる爲に過大風圧により先づこの部分のコンクリートが破壞し,アンカー スタブが露出し從て主柱の支點間隔が過大となり,彎曲を來せるものと思料す。
(3)當社鉄塔の被害状況を綜合するに,河越の高き鉄塔に於て特に設計上考慮を要するものゝ如く,斯る鉄塔に於ては風圧は特に猛烈なる上,其の主脚間の開きも大きくメンバーも粗なるべき故今後此種鉄塔の設計に於ては風圧は從來通り200kg/m^3とするも受圧面積は鉄塔片面の一倍半にとらずして,より大きくとりて計算さるべきものなるべし。尚継手ボールトの數は材片の強度より2割程度の余裕を保持せしむべきものと思料す。而して此種鉄塔は線路全体の基數に比し使用數僅少なるを以て將來かゝる特殊場所に使用すべき鉄塔に對してのみ特に堅牢なる設計を施すことゝせば之に依りて全線路の建設費に著しき影響を與へずして而も全線路の送電安固を期し得らるゝものと思はる。
10.中國合同電氣
被害状況 倒壞1基,屈曲1基,勝山送電線第219號鉄塔に大なる流失家屋引懸り,之に加はる水圧のため同鉄塔と基礎際に於て主脚屈曲して倒る,此の影響により架渉電線に大なる張力起り,第218號鉄塔をその中央部に於て甚しく屈曲せしめたり。
被害金額 1100円
11.因幡水力
被害状況 鉄塔倒壞1基,樹木その他の遮蔽物全くなく,風圧の最も強く當る場所に建設されたるものにして主柱第1節より折損し,之がため基礎コンクリート一部破壞され,原因全く颱風と認めらる。
被害金額 3000円(通信用電話線を含む)
12.其の他
神戸市電氣局 被害なし。 兵庫縣電氣部 被害なし。 南海鉄道 被害なし。
阪神急行電鉄 被害なし。 干早川水力電氣 被害なし。 大阪電力 被害なし。
大阪鉄道 被害なし。 阪和電鉄 被害なし。 信貴山急行電鉄 被害なし。
信貴山生駒電鉄 被害なし。 京都市 被害なし。 出雲電氣 記載事項なし。
廣島電氣 送電線路被害金額 4249.28円 參宮急行電鉄 被害なし。
南海水力電氣 被害なし。 新宮電力 被害なし。 土佐電氣 被害なし。
4.鉄柱電線路
1.京都電灯
被害状況 鉄柱倒壞 11基,傾斜12基
被害對策 風の方向と同方向にある線路は殆んど被害なく,風と直角なる方向にて地盤軟弱なる支持物の倒壞せるもの多し。
2.山陽中央水電
被害状況 兒島送電線 22基倒壞,被害鉄柱附近の掘溝等增水泥濫し,基礎地盤軟弱となり,強風のため転覆せり。
被害金額 1020.44円(復舊工事費)。
被害對策 軟弱なる地盤に對しコンクリート基礎工事幾分不充分なる樣考へらる。
3.京阪電氣鉄道
被害状況 倒壞69基,折損2基,傾斜73本,折損の原因は隣接鉄柱が倒壞せるため其の重量附加し一方それ自身の基礎堅固なりしため倒壞せず折損せるものゝ如し。
被害對策
(1)基礎の敷コンクリートと其の上部体コンクリートと接合を完全ならしむるため鉄筋を插入すること。
(2)從來より支線を增加すること。
(3)地盤により根枷の數を增すこと。
4.宇治川電氣
被害状況 倒壞 50基,傾斜9基。
被害對策
(1)設計荷重としては風圧荷重のみにして電線の切断の場合の木平均張力を考慮せざるため,今囘の如き風圧を受くる場合は荷重による応力が支持物の強度を超過し破壞せるものと認めらるゝ。尚1基倒るゝときは隣接支持物は橫の方向に引かるゝものなるが,鉄柱は上記の如き程度の強度なるを以て倒れたるものが隣接支持物を引き倒したるものであり,依つて今囘鉄柱並に基礎の補助として其の兩側に支線を設くることゝなしたり。
(2)風圧外に電線切断の場合の不平均張力をも考慮すること。
(3)支線を設けて補強すること。
(4)基礎の破壞は引き揚げられたるに因るもの多し,一般に基礎は土地軟弱なる場合に於ては今少し,強固なる樣設計し,工事施行に注意し設計と實際の出來形とが一致する樣注意を怠るべからざるものなることを痛感す。
5.大阪鉄道
被害状況 倒壞1基(但し風圧荷重に耐へられず倒壞せるものでなく,附近の松の大枝倒れそのために倒壞せるものなり)。
6.阪和電鉄
被害状況 倒壞なし,傾斜あり。
被害金額 35791.97円(建物,木柱を含む)。
被害對策
(1)基礎の設計施工につき調査を要すること,特に大地の土圧安息角の値に關し日本固有の實験値を定むる必要の痛感すること。
(2)ラーメン式鉄柱の成績良好なりしに鑑み更に一層の研究調査をなし,之れを標準化するの必要を認むること。
7.其の他
神戸市 記載事項なし。 兵庫縣 被害なし。 大阪市 記載事項なし。
南海鉄道 記載事項なし。 阪神急行電鉄 被害なし。 千早川水力電氣 記載事項なし。
大同電力 記載事項なし。 大阪電力 被害なし。 信貴山急行電鉄 被害なし。
中國合同電氣 被害なし。 京都市 被害なし。 出雲電氣 記載事項なし。
廣島電氣 記載事項なし。 因幡水力電氣 記載事項なし。 參宮急行電鉄 被害なし。
南海水力電気 記載事項なし。 新宮電力 記載事項なし。 土佐電氣 被害なし。
高知縣 被害なし。 四國水電 記載事項なし。 安喜水力電氣 被害なし。
伊豫鉄道電氣 被害なし。 大阪電氣軌道 鉄道,軌道部門參照。
5.木柱電線路
1.京都電灯
被害状況 木柱折損倒壞 782本,流失 110本,傾斜 1233本。
被害對策
(1)風の方向と同方向にある線路は殆んど被害なく,風と直角なる方向にて地盤軟弱なる支持物の倒壞せるもの多し。
(2)折損は主として地際又は其の附近にて折損せるものにして相當の年を經しため材質脆弱となれるによるものと思考せらるゝもの多し。
(3)土地軟弱なる箇所は根入を大にとり根枷の支線を增加する樣設計せば相當被害を局限し得るものなるべし。
2.神戸市
被害状況 折損 33本(全部不注入柱にして建設後5年以上10年未滿のもの4本,10年以上のもの29本なり), 倒壞 17本,流失 2本。
被害金額 13410円
被害對策
(1)被害を受けたる木柱は何れも短尺物を主とし,原因は不可抗力と認めらるゝも建設後相當年數を經過したるもの多し。
(2)保守を充分にして腐蝕木柱の建替加工をなし基礎を強固になし支線を可成り多く使用すること。
(3)変電所引出口附近に於ける幹線を多く架設せらるゝ電柱は特に堅牢にすること。
(4)從來より市街地にありては成る可く鉄柱採用の方針ありしため木柱漸減しつゝあるも今次の風水害に鑑み益々その必要を感ぜしむ。
3.南海鉄道
被害状況 3本倒壞折損(堺送電線),7本倒壞,17本傾斜(松原送電線),7本倒壞,23本傾斜(喜志送電線)。
被害金額 4300円
4.京阪電氣鉄道
被害状況 倒壞141本,傾斜860本。
被害對策 支線のあるものは倒壞折損を免がれしも,なきものは倒壞せり。支線を設くるを要す。
5和泉電氣
被害状況 倒壞3本,折損17本,傾斜76本。
被害金額 1105円
6.阪和電鉄
被害状況 傾斜あり,倒壞はなし。
被害對策
(1)地際附近の腐朽に注意すること。
(2)直線部分の線路に對して可及的支線を施設すること。
(3)根枷を上下2段にし,從來之を■縛せし電線を廢し,鉄ボールト等にて緊結する方法を採用すること。
(4)木柱敷に於ける大地の耐荷重値を大ならしむること。
(5)軌道の兩側に木柱を建設する場合は軌道敷の下部にて根元を連結するを可とすること。
(6)木柱の代りに鉄筋コンクリート柱を使用するの可否を研究するの要あり。
7.信貴生駒電鉄
被害状況 傾斜5本(鋼索線山下・信貴山間),折損4本(枚方線枚方・私市間)。
被害金額 220円
8.安喜水力電氣
被害状況 倒壞35本,傾斜188本。地際に於て折損す,地質軟弱なるためと思料す。
被害金額 6000円
9.其の他
山陽中央水電 記載事項なし。 兵庫縣 被害なし。 大阪市 記載事項なし。
阪神急行電鉄 被害なし。 宇治川電氣 記載事項なし。 千早川水力電氣 被害なし。
大同電力 記載事項なし。 大阪電力 被害なし。 大阪鉄道 記載事項なし。
信貴山急行電鉄 被害なし。 中國合同電氣 被害なし。 京都市 被害なし。
出雲電氣 記載事項なし。 廣島電氣 記載事項なし。 因播水力電氣 記載事項なし。
參宮急行電鉄 被害なし。 南海水力電氣 記載事項なし。 新宮電力 被害なし。
土佐電氣 被害なし。 高知縣 被害なし。 四國水電 記載事項なし。
伊豫鉄道電氣 被害なし。
第7部 土地,建築物
目次
頁
總説………………………………………………1
1.總論 2.建築物被害原因 3.建築物各府縣別被害状況 4.災害對策
府縣別被害………………………………………5
1.大阪府に於ける被害 2.京都府に於ける被害 3.兵庫縣に於ける被害
4.和歌山縣に於ける被害 5.岡山縣に於ける被害 6.奈良縣に於ける被害
7.鳥取縣に於ける被害 8.島根縣に於ける被害 9.高知縣に於ける被害
10.香川縣に於ける被害 11.德島縣に於ける被害
總説
1.總論
今囘の災害が土地建物に限らず全体的に見て風に依る被害より水に依る被害の方が遙かに甚大であつた。由來我國は地勢の關係より海に接する都市が非常に多く,又内陸都市も多くは河川等の水邊に發達してをる。從つて之等都市に於ける土地建物は必然的に水災に直面してをると云つても過言ではないのであつて,水災に對する土地建物の防護即ち多くの土地建物を包含する都市そのものを水災に對し防護すべき施設に對しては特別の考慮が拂はれねばならない。過去幾度かの大水災に依るいたましい犧牲に拘らず,水災は我國に於ける宿命的存在と考へ,殆んど防護の施設を行はず,或ひは又舊態依然として災害的家屋が建築せられ,根本的の防水害施設乃至は對策の實現せられざるは甚だ遺憾である。今囘の被害中にも見る如く一部の防水害施設の存在がかなりの效果を擧げてゐる例もあり(高知縣奈半利町東濱に於ける防潮堤の施設図-1),又小高地に於ける家屋が之より僅か低地に於ける家屋が全滅せるに比し殆んど被害なく尚後方地帶の家屋の流失を防ぎたる(高知縣室戸岬町菜生図-2)等僅かの施設或は建築敷地の適地が相當被害を軽減し得た事は注目に價する所である。尚建築被害に關しては被害を與へた,風向風力に對して構造其の物の不良に由る所大なりしは將來の建築設計及工事に對し充分考慮すべき問題なりとす。
風害,水害,津浪別の被害を示せば図-3の如くである。
4.災害對策
a.建築物災害對策
(イ)材料及構造:永久的構造となし耐水,耐風的と爲す事は最も理想的である。木浩建築の場合にありては部材を強大にし,接手,仕口及基礎との取付部分を特に補強する要あり。尚斜材を充分に使用して耐風性を增す必要あり。
(ロ)敷地の選定:地質,地形を考慮し既往最高水位より高所にある土地を選び,排水よき土地を選定する要あり。場合に依りては市街地の変更も必要である。昭和8年3月の三陸地方浪災に對し被害部落228に對し98部落の市街地変更を爲し成功を收めたる例に倣ひ數部落の高地移転を必要とする。其の他土砂崩壞の虞れある土地,低濕地等にして改良を施し得ざる地には建築制限を爲す必要あり。
b.土地災害對策
(イ)防護工作物の施設:一部防護工作物が今囘の被害に於てかなりの役目を爲した事は前に述べた如くである。今囘の被害中高潮に依る被害が最も甚大なりしに鑑み,先づ高潮を防ぐべき,防潮堤,防潮林の施設を必要とする。又市街地の高地移転を誘導する爲には道路の高地移転が絶對に必要である。又河川の氾濫に依る被害に對しては堤防の補強,嵩上を必要とする。又非常時に處する避難道路を計畫し,之を相當強固に且高く築造し,水防の用に兼用せしむる必要あり。而して之等防護工作物は設計の基準を數十年に一度と云ふ大災害を目途とする事は經濟上許されざる所と考へるを以て,設計以上の災害に對しては浸水せる土地を最も敏速に舊態に復せしむべき完全なる排水設備の施設を必要とする。
(ロ)建築地盤高の統制:從來建築物は市街地建築物法適用區域内に在つては其の接する道路境界に於ける路面より高からしめる事を原則としてをり,道路は國道,府縣道に於てはその路端の高を近接する水面の平水位より60cm以上,最高水位より30cm以上高くする事を原則としてをるから,この兩規定の適用を受ける部分の建物は附近の最高水位より30cm高き位置にある事になつてをるが,この兩規定が同時に適用される範圍は極めて小範圍と云はねばならぬ。依つてこの兩規定中の上記項目が總ての建築敷地に適用され得る如き途を開く必要がある。先づ全國に於ける水面の既往最高水位を調査し,之を基準として地盤高の統制を行ひ,建築適地を確定する必要がある。
(ハ)土地利用の統制:今囘の災害に於て市街地が市街地としての利用不適當の位置にありたる爲,被害を受けたるものあり。大阪市港區の如きこの例にして今日に於ては市街地の移転も亦地盤高の統制も不可能の状態にあり。市街地の發達乃至土地利用の開發に關しては水害防備をも一要素として考慮し以て綜合的なる調査の下に土地の利用を統制する必要あり。この爲には一般の土木事業が土地の用途を限定する結果となるに鑑み先づ土地の用途を定めこの用途に對応する如く土木工事をして一層綜合的なる計畫の下に立案實施せしめる必要がある。
c.防風水害對策の普及
從來水害を受けたる苦き經験の土地に何等防護施設を施さずじて再び家屋を建築する爲に再度水害の厄に逢つてゐる例が多い。斯樣な土地は建築敷地として不適當の土地なる事は論なき事實なるを以て水害防護の施設無き限り,寧ろ他の用途に利用せしむる樣一般の注意を喚起せしめる必要あり。又一度被害を受けた家屋に對してはその被害箇所の修理に止めず,根本的なる防風,防水構造たらしむべく家屋所有者自身の考慮を促す必要あり。
府縣別被害
1.大阪府に於ける被害
大阪府下に於ける被害は颱風に依つて惹起された高潮によるものが特に甚大であつた。
高潮による浸水面積は大阪市内に於て59.3km^2にして大阪全市面積の31.5%に當る。
風害により倒壞せる市内小学校は250校中40校に達し堺,岸和田及郡部にあつては314校中89校に達した。
2.大阪府に於ける土地の被害
土地の被害は海岸及河川堤防の決潰によるものであつて,その一,二の例を示せば次の如くである。
【例-1】大阪市西淀川區川北耕地整理地區(布屋町並矢倉町,海岸堤防)被害
被害原因 這般に於ける本地區未曾有の災害は一に本地區を包圍する潮受堤防並に神崎川堤防の決潰に歸因す。而して潮受堤防の決潰は最も甚しく,其の原因種々有るも在來堤防天端標高はO.P+16.0尺内外にして表面のみ法1~1.5割の空石積護岸に施せるも,別に波返し無く而も内面は土砂のみを以て築造せり。9月21日の高潮はO.P+16.6尺に達したるものゝ如く,風向亦西南風なくして以て波浪は堤防に略直角に激突激成され一瞬にして表石積を支ふる築堤土を流失し,遂に堤防全線に亙り崩壞するの慘を起したるものなり。唯本地區に内堤防の存在せるは中島及西島兩町の人畜の被害をして比較的小範圍に止めたるものと謂ふべし。
被害状況 潮受堤防は布屋町側430間,矢倉町側90間何れも全壞し,更に内堤防の一部も決潰せるため,内部耕地約240町歩に亙り海水浸入し農作物の收穫は皆無となれり。耕地は全般に亙り1~3寸の泥土堆積し,又一部には洗掘箇所を生ずる等全く荒廢に歸し,水路(8572間),樋管(4箇所),排水機(3箇所)等何れ名埋沒又は大破し關係農民は唯一の生業を失ひて徒に日を過す状態にして實に悲慘の極なり。
災害對策 之等荒廢耕地中將來長く耕地として利用し得べき約80.8町歩に對し,堆積土砂の除去,洗掘箇所の埋戻を行ふ外,布屋町,矢倉町等の如く其の後長期に亙り海水に浸る箇所約26町歩に對しては特に平均厚8寸の地上を施行し,道路,水路,中堤防,橋梁等復舊と共に内部耕地の完全なる復舊を計らんとす,而して道路水路は單に舊態に復するに止まらず,將來の發展其他を考慮して配置し,道路幅員は20及2.5間,水路は水面幅2~4.5間とせり。又潮受堤防は直接耕地興廢と所在住民の生命財産に重大なる關係を有するを以て堅牢なる工法を採れり。而して本地區は新に耕地整理地區を設立せしめ施工するものにして此が事業總額は次表の如く602474円の豫定なり。尚耕地復舊には1/3,公共復舊には1/2の補助金を各其の決算額に對し交付するものなり。
【例-2】堺市大和川耕地整理地區(鶴松町,緑町,北生島町,中生島町,南生島町,立花町)被害
被害原因 昭和9年9月21日當地方未曾有の暴風雨起り爲に高潮襲來し,本地域西南部海岸潮受堤防及大和川下流左岸堤防は何れも全壞又は半壞し以て之等堤防土の地區耕地に海水と共に流入し土砂の堆積又は作土の洗流等よりして全地區は殆んど荒廢せり。
被害状況 當地方荒廢耕地約160町歩中將來耕地として永続し得る新阪堺線以西,被害地中央以北の約75町歩に對して復舊を計らんとするものにして,前項に述べし如く海岸潮受堤防1400間及大和川下流左岸約500間の堤防決潰により,一時に高潮襲來し堤防決潰箇所附近は土砂の堆積甚しく數尺に及ぶ所有り,即堆積深さ尺以上に及ぶ面積は10町歩餘りに達し,3寸内外の土砂又は塵芥の堆積せるは殆ど全地區に及べり。
尚地區南方海岸堤防沿の1町4段歩餘りは作土流失せり。而して地區内道路,水路,橋梁並に樋門等は何も流失し,破壞し又は埋沒し全く耕作不可能に陷り實に悲慘を極む。
災害對策 荒廢耕地は被害甚大なる部分約28町5反歩に亙り,堆積土砂の除去,洗掘箇所の埋戻を施工すると共に地區内全耕地59町6反歩に亙り表土の繰返を行ひ以て耕地の復舊を計んとす。又道路,水路は舊態の復舊に止らず,將來農耕地の利便を考慮し幅員,配置等を決定せるものにして主要道路の幅員を3間,他は2間とせり。
水路は舟運の便を計るため幅員3間,支線は1間とす。尚水路は土質の關係上將來埋沒を考慮し,何れも高さ3.5尺又は3.0尺の板柵護岸を施工せんとす。而して復舊道,水路延長は道路25線5055.7間,水路は24線4358.9間とす。其他大和川堤防に接する繋船場,樋門等の破壞箇所復舊をなし又地盤高位部には5箇所の井堰を設け耕耘上水位の調節を図らんとす。因に大和川堤防は府に於て海岸堤防並に附帶樋門は堺市に於て復舊に努めつゝ有るを以て地區内水路の改修と相俟つて排水の完全を期し耕地の復舊を全らんとす。而して總事業費は140870円,是に對する補助金53475円とす。事業費の内譯次の如し。
耕地費 47300円(堆積土砂取除,洗掘箇所埋戻し及表土繰返工費),道路費7660円
耕地復旧費 101760円{
水路費 49800円(水路掘鑿工費全部第3,第7,第24號水路護岸並に排水土管費)
水路費 12580円(第1,第2,第4,第5,第6水路護岸費)
公共費 39110円{
橋梁費 26040円,井堰費 300円 樋門費 190円
2.京都府に於ける被害
3.兵庫縣に於ける被害
1.建築物被害概況
(1)神戸市に於ては兵庫及林田方面は高潮による被害甚大にして沿岸附近では
住家 浸水 10643戸 全壞 41戸 半壞 65戸 流失 55戸
非住家 〃 177戸 - - -
に及んでゐる。神戸港の各突堤,上屋倉庫は浸水甚だしく在庫品の損害甚大である。
(2)攝津方面は颱風及高潮による被害激甚である。
(イ)尼崎に於ては浸水家屋實に12411戸に及び重工業地帶たる同市の工場の被害も亦甚大である。
(ロ)西宮署管内も亦被害甚だしく就中武庫郡大庄村に於ては丸島及大濱の兩部落は高潮の爲,全戸流失せり。
(3)丹波方面
多紀,氷上各郡の被害は他に比し軽少にして全壞232戸,半壞154戸,河川による浸水731戸である。
(4)但馬方面
豪雨により円山,出石,矢田,岸田の各河川氾濫し城崎,豐岡,日高,出石,香住地方で全壞321戸,半壞1064戸,流失481戸,浸水19959戸に及んだ。
(5)播磨方面
この方面の被害は割合少くたゞ明石郡沿岸地方で全壞699戸,半壞890戸,流失16戸,浸水3518戸に及んでゐる
(6)淡路方面
本島の風速最も大にして高潮の暴威亦甚しく,福良は高潮による浸水家屋約1200戸に達し小学校の倒壞,殊に沿島は高潮の爲,倒壞30戸,半壞70戸,浸水200戸に及び,由良町の浸水800戸小学校舍倒壞の外全壞1681戸,半壞2287戸,流失65戸,浸水7718戸に達した。
即ち次の如し。
被害家屋中洪水により流失或は崩壞せるもの及浸水せるもの最も多く,暴風により毀損崩壞せるもの之に亞ぎ,主として外的原因による被害である。
今被害状況別にすれば次の如し。
更に建築物種別にすれば
最も被害甚大なりし阪神間海岸地方に於ける建築物888戸(946棟)に對し調査せる結果は次の如し。
地域別に示せば次の如し。
構造別によれば次の如し。
2.耕地關係の被害概況
被害原因 河川氾濫,高潮襲來による耕地の流失と堤防決潰,山地崩落による埋沒を主たる被害とす。
災害對策 被害耕地の複舊には農道及水路,井堰其の他の土木事業と河川復舊土木事業との關聯を考慮して急速に整理又は復舊工事を施行し,河川に就て災害の原因を精査して根本的の修理を必要とする。
3.阪神工業地域と高潮に對する對策
阪神地方今囘の被害を考ふれば高潮の影響を蒙りたる海岸の方面,殊に阪神間に於ても大阪に隣接したる尼崎,西宮の海岸大部分は工業地域である爲,工場の大部分は被害を蒙つてゐる。由來尼崎市は全部低地であつて平常下水の處理等に於ても動力に依る必要ある處であるが今囘各所の堤防の破壞に依つて侵入せる海水は廣大なる海岸土地を一望沼地の如く化し去つた有樣であつた。この海岸には埋立會社の經營地が多いが此の海面埋立に於て其のレベルを何程にするかと云ふ事が案外簡單に取扱はれて居る樣に考へられる。將來の埋立に際しては從來より高位に埋立を計畫するの要があると認められる。又現在の埋立地に於て將來工場等を計畫する場合適當なる盛土又は床の位置を相當高くする樣な事は是非共考慮せねばならぬことゝし考へられる。又この海岸に於ては波浪に耐ゆる爲に木造建築の場合には相當深さの基礎及腰積をコンクリート煉瓦の如きものにて構造しておくことは最も必要のことゝ考へられる。
次に今囘の工場被害を見るに此の浸水の爲に第一に原動力たる電氣の供給の断たれたることであり,從つて直ちに工場の機能の全く中止せられたる事であるが,此の送電能力の復活せる曉に於てさへ全く活動し得ざる状態を継続したるものあるは各工場に於てモーターの海水に浸されたるに基因することが多い樣である,依つてモーターの位置を高くしておく事も一応は必要なる事と考へられる。特に火力發電所の設置箇所又是に伴ふ適當なる施設等は工業界全般に關係する問題として今後充分に考慮の要あるものと考へらる。
今囘の災害に際しては海濱に於ては流木,又は漂浪船舶の激突に依る家屋破壞も亦數多い,是には防潮林の如きも考慮の要あるものと考へられる。
計畫道路の實現の問題に關しては,現在之等工場地帶に通ずる甚だ狹少なる道路は何れも5~6尺乃至8~9尺で,今囘何れも潮水をあびたのであるが,附近の住民の避難の爲だけでも甚だ覺束ない路幅であり,平時に於ける原料製品の運送の爲にも新計畫道路の實現,避難道路の新設及永久構造の橋梁の架設等は必要と考へらる。
4.和歌山縣に於ける被害
3.災害對策
一般家屋に對しては低地の盛立と床下排水の完備更に構造,殊に基礎を強固にし,小学校等大なる建物に對しては鉄筋コンクリート造等の永久的建物となすを第1とし木造の場合は充分強大なる材料を用ひ,且出來るだけ柱,斜材等を多くし基礎との取りつけ,接手等を充分強固ならしめ耐風力を與へる事。
5.岡山縣に於ける被害
6.奈良縣に於ける被害
7.鳥取縣に於ける被害
4.災害對策
1.内的對策:耐震,耐風,耐水的の建築物たらしめる事。
(イ)材料及構造
木造の場合は構造を剛にする事,部材,断面を大きくし接手,仕口及基礎との取りつけを金物等により緊結する事。
斜材を充分使用する事。
(ロ)敷地の選定
土砂崩壞と洪水による被害が最も高いのであるから出來るだけ是等の影響少き所を選ぶ事。
2.外的對策:防風林,河川改修工事其の他の土木工事の完全により建物の水害を防止すること。
8.島根縣に於ける被害
以上被害家屋棟數5736中崩土により半壞せる木造小学校1例の他5735は總て一般木造家屋である。
3.災害對策
浸水に對して地盤の盛立を最も必要とし基礎の完全床下排水の完備を要し流失又風力による全半壞に對しては構造を強固たらしめ殊に基礎を完全にする事が緊要である。
9.高知縣に於ける被害
反 反
高岡郡:洗堀 0800(1000円),土砂堆積 3000(1500円),
反 反
浸水 11500(2000円),計 15300 4500円
【例-1】高知縣安藝郡室戸岬町に於ける土地,家屋の被害(被害金額 200932円)
被害原因 外的原因:高浪並に暴風雨の襲來に依る。
内的原因:地盤低く(標高6.0m内外)高浪容易に襲來し,家屋木造なりしを以て流失す。
災害對策 室戸町室津より室戸岬町津呂に至る間は土地,家屋の被害の外道路の災害も亦多大なるを以て,此の間の道路は山手に廻し其の標高を高くし10.0m程度の高浪に對して安全ならしむる必要あるものにして現在府縣道津呂,室戸線にそひ存在する家屋も山手に移転する必要あるものと認めらる。
【例-2】高知縣安藝郡奈半利町に於ける土地,家屋の被害(被害金額 105300円)
被害原因 外的原因:高浪並に暴風雨の襲來に依る。
内的原因:標高低き海濱に家屋密集せると建築材料の不完全且大工仕事の粗雜なりしことに依る,六本松に於ては營林署木材置場なる關係上木材高浪に伴ひ家屋に激突せしによる。
被害状況 家屋に對する被害
住家流失 91戸, 全壞 51戸, 半壞 67戸 此の被害金額 60700円
非住家流失 215戸, 全壞 110戸,半壞 91戸 〃 41600
土地に關する被害
土砂の堆積せる田 10反000 〃 1000
〃 畑 20反000 〃 2000
105300
災害對策 被害の最も大なるは東濱にして本箇所は海岸に巨大なるコンクリート防潮堤(図-1)ありしも尚高浪浸入家屋の一部を流出せるものにして此れが嵩上並に延長と共に防潮堤附近には人家を建つるを禁止する必要あり。
六本松に於ては住宅復舊の可能性を認むるも海岸より60mの位置にあり將來危險なるを以て山手に沿ひて道路を移転するを適當なるものと認む。加領鄕にては後方に餘地なく且漁港に面するを以て宅地を移転するを適當なるものと認む。尚本宅地は図-4に示すが如き工法にして標高10m迄の高浪に對しては安全なり。
10.香川縣に於ける被害
11.德島縣に於ける被害
其の他町村学校にして被害の大なりしもの次の如し。
海部郡鞆 奧村 鞆奧尋常高等小学校 風害 倒壞又は大破
〃 三岐田町 田岐 〃 〃 及高潮による水害 〃
〃 〃 志和岐 〃 〃 〃 〃
〃 阿部村 阿部 〃 〃 〃
〃 〃 伊座利 〃 〃 〃
那賀郡板 野村 新開尋常小学校 〃 〃
〃 平島村 中島 〃 〃 〃
〃 中野島村 中野島尋常高等小学校 〃 〃
〃 寶田村 寶田 〃 〃 〃
〃 美能林村 美能林 〃 〃 〃
3.災害對策
木造建築の場合は特に
1.軸部と土臺との緊結を完全にすること
2.軸部と小屋との 〃 〃
3.軸部には斜材を增加し,三角形を構成せしむること
4.仕口に依る木材の損傷を軽減せしむること
5.控柱又は添柱を設けること
6.瓦の緊結を完全にすること
7.建具の締りを完全にすること
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第8部 上下水道
目次
頁
總説…………………………………………………1
1.上水道に關する對策 2.下水道に關する對策
箇所別被害…………………………………………2
1.大阪市に於ける被害 2.京都市に於ける被害
3.堺市に於ける被害 4.尼崎市に於ける被害
5.明石市に於ける被害 6.岡山市に於ける被害
7.德島市に於ける被害 8.其他市に於ける被害
總説
昭和9年9月關西地方を襲ひし颱風及豪雨による上下水道の被害原因,其の状況及各都市の對策意見を參照檢討し之れが全般に亙る對策を攻究要約すること次の如し。
1.上水道に關する對策
(イ)上水道の系統を決定するに當りては取水,送水及配水全部自然流下により行ひ得る樣計畫實施すること。
(ロ)地方状況により全部自然流下による能はざる場合に於ても配水丈は可及的自然流下によること,即ちたとへ配水池の位置が給水區域を遠ざかり,其の爲當初の築造費を比較的多額に要することあるも之れを適當の高地に設置して自然流下により配水を行ふこと。
(ハ)已むを得ずポンプによる取水,送水及配水を必要とする場合にありてはポンプ機,原動機に十分の豫備機を用意し置くべきは勿論,殊に動力設備に於ては確實なる豫備設備を實備し置くこと肝要にして,電氣の供給設備の如き,今囘の風水害の結果より見るに常備,豫備共全部損害を受くることを避け難き状況なるに鑑み,各企業都市にありては適當なる豫備動力の自家發生設備を有すること必要なり。
而してポンプ場は之れを河川,海岸等の附近氾濫の虞ある場所に設置の要ある場合には其の敷地は氾濫水位以上相當の餘裕を見込みて盛土築造し,ポンプ室自体を強固なる構造とすべきは勿論,若し現場が十分なる盛土を不可能とする場合にありてはポンプ室周圍を防水壁を以て圍繞するか,少なくともポンプ室に氾濫水の侵入せざる方法を講じ置くべく,又電動機等の原動機は出來得る限り之れを高位置に据付け置くを安全とす。
(ニ)河川附近地に水源及降水等の設備を設置する場合には從來の洪水氾濫状態を精査し,其の敷地高の如き浸水位以上十分なる餘裕を存せしめ置くこと。
(ホ)河川水源に於ける取水設備は河川自体の安全個所を選ぶべきは勿論,其の環境の地況,諸物件が風水に對して最も安全性に富む場所を選ぶこと。
(ヘ)急速濾過機の洗滌用水の如きもポンプ直送を避け,なるべく適當の高所に一定量の貯水槽を設置して之れに揚水貯溜の上自然流下により送水洗滌の方法を講じ置くこと。
(ト)水管類の布設に當りては水管橋と伏越とに萬全の注意を拂ひ,水管橋は橋臺,橋脚の根入を十分にし洪水位上,橋下迄の餘裕高は持に十分の安全を見込み置くを要す。
河口に近く高潮の影響を受くる虞のある所等殊に然りとす。
伏越箇所に於ては河川の一般性状,河底の状態等を精査し,出水時洗掘,露出等の障害を受けざる樣十分の深さに埋設し一面水管自体の保護工を安全になし置くこと。
(チ)一般水管の布設に際しても水管其のものゝ布設を安固にすべきは言を俟たず,布設すべき道路の安否,兩側に既存する物件の風水害に對する安全性をも十分考察し,河川,海岸の堤防,高き盛土道路等には出來得る限り布設することを避け,勾配急なる坂路に於ては管の支保を強固にし,又大木の根幹等の附近には埋設せざるを安全とす。
(リ)配水管網に於ける断水區域はなるべく之れを小區域とすること。
(ヌ)消火栓はなるべく地上式によるをよしとす。
(ル)浸水の虞ある區域内の量水器はなるべく柱付とするを安全とす。
2.下水道に關する對策
(イ)今囘の風水による下水道の被害は管渠及其の附屬構造物にありては殆ど見るべきものなく,被害の主要なるものは高潮氾濫のため浸水による排水ポンプ場自体の機能停止と,運転動力たる電氣供給の断絶による運転不能とにあり。全能力を擧げて排水機能を發揮すべかりし時に於て却つてポンプ運転の休止を招來し,氾濫による被害を累加したる状況なりしなり。故に下水道に於てポンプ操作を行ふ必要ある場合に於てはポンプ場の安固と適當なる運転動力の自家發生設備を用意し置き,外部よりの受電に故障を生じたる時等に於ては応急自家發生の動力を使用し得る樣設備し置くを要すること,上水道對策の(ハ)に於て述べたる如し。
(ロ)海岸及感潮河川其他水位差の甚しき河川等に吐口を有する場合に於て吐口が高水位より下位に設けらるゝとき防潮扉を必要とすること勿論なるが,此の防潮扉は自働的に確實鋭敏なる機能を發揮する構造とし且平素の維持管理に萬全の注意を拂ひ如何なる場合に於ても完全に其の機能を發揮し得る状態となし置くこと。
箇所別被害
1.大阪市に於ける被害
A.上水道の被害
被害金額 81900円(内譯 淨水場設備 54500円 配水管及附屬設備 27400円) 復興費 2928500円(内譯 淨水場設備 2148200円 配水管及附屬設備 780300円)
被害原因 這般の風水害による停電の爲,大阪市上水道は水源及淨水場に於て取水及送水電動喞筒全部運転不能となり,水害地區にありては堤防決潰及橋梁墜落等のため配水管及附屬設備に被害あり。
被害状況
(イ)淨水場設備:暴風による送電の断絶の爲,蒸氣喞筒のみに依り給水を継続せしが取水電動喞筒運転不能の結果淨水貯水量減少せるに拘はらず,受電の見込なきを以て茲に応急對策として時間給水を爲すことに決せり。
此の間纔に自家用小發電設備に依り貯水量を補給することゝし給水を開始せしが,一面受電に關し電力關係者と折衝極力善後策を講じたる結果午後5時に至り市電氣局より受電することを得たるに依り取水量を復舊し,引続き宇治川電氣株式會社よりの受電復舊したるを以て前記時間給水は實行に至らずして之を廢止するを得たり。
淨水場構内の木造建物は殆んど全壞或は半壞となり喞筒場其の他建物,柵垣等の破損被害多し。
(ロ)配水管及附屬設備:上本町より住吉町に至る高地區一帶は停電と共に断水せるにより朝來兵營,病院等に對し配水車に依る臨時給水を爲し,其他に對しては午前11時50分臨時給水實施のことゝなせり。而して配水車は水道部備付配水車竝に土木部及市内衞生組合等より借入たる撤水自動車を合せ27臺を2班に編成し,輸送臨時給水をなし,翌22日午前1時に及びたり。
水害地區に於ては鉄管の破損漏水及鉄管流失等の被害多く,之等に對しては直ちに応急修理其の他布ホース假設等適當の處置を施し,配水に勉めたるが浸水の爲,作業頗る困難を極めたり。
配水管応急修理を終り,給水開始後に於ても需用家一齊に使用を始めたる爲,管末に於ける給水不十分となりしを以て是等の地域に對して自動車を以て臨機上水の配給を爲したり。
浸水地區に於ける量水器は高潮により地盤の損傷,家屋の倒壞又は量水器内への汚泥の侵入等より破損せるもの多數にして其の概數次の如し。
地區 取付總數 浸水量水総數 破損數
大正區,港區,此花區,西淀川區 115921 109413 1850
大正,港,此花,西淀川の4出張所建物は暴風雨と高潮浸水の爲大破し,給水課廳舍其の他上水關係建物の破損を受けたるもの多數あり。
災害對策
(イ)淨水場設備
(A)發電所擴張 今日迄の事實に徹するに使用電力の大部分を占むる外部よりの電源電路は停電囘數多く,特に今次の大暴風雨に於けるが如き長時間の停電に際しては到底給水の安全を保し難きを以て,既設發電所を擴張して自家發電力を增加し蒸氣タービン直結發電機2100K.W.のもの4臺(内1墓豫備)を設置し,水源擴張用所要電力量の全部を供給するのみならず,餘力を生ずる場合は既設の電動喞筒にも之を供給するものとす。
尚大手前高地區配水喞筒の運転を安全ならしむるため前記自家發電所より專用電纜を埋設し送電するものとす。
(B)城内配水池改造 淨水場に於ける現在の貯水量は普通時に於ては十分に機能を發揮するに足るものなるも今囘の如き災害時にありては配水池貯水量の豐富なること極めて重要なるを以て城内配水池を改造し,其の貯水量を3萬m^3に增加せんとす。特に本配水池は高地に存在するが爲,一時送水喞筒の停止することあるも自然流下により給水し得る利點あるものとす。
(ロ)配水管設備
給水の安全を期するため特に墜落流亡の危險多き水管橋に代ふるに河底橫断水管敷設に改む。現在設置の制水瓣は配水調節に不便なるものあり,之等を整理し配水の萬全を計らんとす。
又防火栓は現在地下式なれば浸水の虞ある地域に於ては之を地上式に改造すると共に之が配置を整理す。
B.下水道の被害
被害金額 114800円(内譯 抽水所及作業場 56600円 汚水處理場 58200円) 復興費 1213000円
被害原因
(イ)抽水所 暴風雨に際し各下水抽水所は全部停電の厄に會ひ同時に低地區所在の恩貴島,境川,市岡,小林,櫻川及傳法の各抽水所は襲來せる未曾有の高潮の爲,附近河川又は水路より路上に氾濫せる海水を混へたる泥水の侵入する所となり,其の高さ喞筒室腰壁以上に達し水圧のため其窓硝子,出入口扉等を破壞せられ遂に室内に流入浸水せり。
(ロ)處理場設備 津守及海老江兩處理場は構造上今次の程度の高潮に對しては相當餘裕を存し安全なるものなりしも兩處理場共工事施行中なりしがため喞筒排水管插入口及喞筒井流入渠の假閉塞個所等水圧に耐へず,破壞せられ室内に浸水を見たるものなり。
被害状況
(イ)抽水所及作業場 喞筒室内に泥水侵入し,喞筒電動機及附屬電氣設備殆んど全部を水底に沒したるを以て排水電動喞筒は全く運転不能となり,下水排除の機能は極度に低下せられ,溢流渠を通し僅かに干潮時を利用して自然放流をなせるのみなり。
されば暴風雨經過後に於ても汚水は各排水區内低所に停滯し就中恩貴島,境川,市岡,小林及傳法各抽水所排水區に於ては其の被害基大を極めたり。
仍て応急處置として小型ガソリン喞筒多數を購入し,各浸水抽水所に配屬せしめて先づ喞筒室の排水を行ひ各電動機其の他附屬裝置を取出し応急處理に努め,他方ガソリン喞筒,消防喞筒及重油機關付排水喞筒等により下水道内の排水に努めたるも排水能力の不足に加ふるに浸水掃除の爲,各戸汚水排出量平常に十數倍せる爲,減水意の如くならず,漸く抽水所電機設備の応急修理完了と送電開始とにより順次其の機能の恢復を見,災害後2~10日にして逐次常態に復したり。
猶各抽水所及作業場に於ては建物,屋根窓,壁等に被害あり構内樹木及木柵等の倒壞せるもの多し。
(ロ)汚水處理場設備 目下工事中の津守及海老江兩汚水處理場構内全面に浸水し,既成の喞筒室内据付中の電動喞筒,工事用排水喞筒其他は水浸りの厄に遭遇せり。
又事務所其の他附屬建物の屋根は暴風のため剥脱飛散し,工事用諸材料は浸水流失の難を受け當時建設中なりし曝氣槽,排水井等多大の損傷を蒙れり。
災害對策
(イ)抽水所 喞筒室腰壁の高さを高め窓は水密構造となし網入硝子を使用し,尚外周に鉄格子を設け外部よりの破壞に備へ各出入口も亦之を高め,水止堰板の裝置を施し防水構造の鉄扉を設備するものとす。既設電動喞筒機械は一部之を堅軸型に取替へ若くは構造上許容の範圍に於て成るべく高位置に電動機を据替へ,調帶其の他に依り喞筒と連結せしむると共に配電盤其の他の電機設備も同樣高位置に据替ふるものとす。
既設抽水所にありては構内地盤面の嵩上に努め小林,市岡及恩貴島各抽水所にありては在來のコンクリート周壁を利用し,天端高O.P.上5m程度の堅固なる鉄筋コンクリート防水壁を築造し,その入口に堅牢なる扉を設備し尚水止堰板插入の裝置とす。
尚ほ構内の沈砂池,避溢溝内の扉室周圍にも成るべく所要高の防水壁を築造するものとす。
喞筒室内漏水を吸揚するため小林,市岡,境川,恩貴島各抽水所に小型排水喞筒を各1臺新設するものとす。
(ロ)處理場設備 津守及海老江兩處理場喞筒室共出入口地覆石面をO.P.上4.6mに改造し,最下端の窓部を水密構造となし網入硝子を使用し,更に外部より鉄格子を以て保護す。出入口には水止堰板の裝置を施すものとす。
又兩處理場共敷地周圍に天端高O.P.上5mの防水壁を築造し,浸水防禦に備ふるものとす。處理場用喞筒其の他の原動力は系統異なる2電源より供給を受くる豫定なりしも,今次の經験に微し運転の安全を保する爲,兩處理場共排水喞筒全容量の約5割に相當する自家發電設備を施すものとす。
【例-1】市岡抽水所
被害金額 4500円 (復興費36800円)
被害原因 暴風雨に際し排水喞筒の原動力たる供給電力は停止し,同時に襲來せる未曾有の高潮は忽ち附近河川及水路より路上に氾濫し抽水所構内に入り或は直接排流溝,排出井を通じて河水構内に逆流し遂に其高さO.P.上4.5m即ち構内地盤面以上1.20mに達せり,其の僞,喞筒室窓硝子,出入口扉等破壞せられ忽ち室内に海水を混へたる泥水充滿せり。
被害状況 喞筒室内設置の電動機,喞筒機械及附屬電機設備等全部侵入せる泥水中に沒したるを以て,下水排除の機能は全く止み僅かに干潮時を利用して溢流渠を通じ,一部の自然放流をなし得たるのみなり。されば高潮退下後に於ても汚水は容易に排除せらるゝの途なく,排水區内各低所の路面家屋の床下に停滯し,其汚穢不潔極りなし。仍て小型ガソリン喞筒を用ひて喞筒室内の排水を行ひ,電動機其他附屬裝置を取出し応急修理に努め且つガソリン喞筒,消防喞筒,重油機關付喞筒等を使用して極力下水道内の排水を行へり。斯て災害後6日に至り送電開始さるゝに及び応急修理の完了せる喞筒より順次運転を始め,次第に抽水所機能を恢復するに至れり。
災害對策 本抽水所は河川及水路に近く,今次の高潮による浸水高に鑑み,喞筒室腰壁天端高をO.P.上5.5mに高むると共に窓は水密構造に改め,更に外部に鉄格子を設けて保護し,各出入口扉も亦防水構造となすものとす。
喞筒室内配電盤其他電機設備設置床面低きを以て之を構内地盤と同高即ちO.P.上3.3mの高さに改造するものとす。
喞筒室周圍壁は防水構造となすと雖も尚安全のため一部排水喞筒電動機を構造上許容の範圍に於て高位置に据替へ尚室内漏水を排除するため小型ガソリン喞筒を新設す。
又抽水所周圍には在來のコンクリート柵を利用し,天端高O.P.上5mの堅固なる鉄筋コンクリート防水壁を築造し,其出入口には堅牢なる防水扉及水止堰板插入の設備を施し,構内各水門井の周壁をも同樣O.P.上5mに嵩上をなし,其の他排出井の全面を鉄筋コンクリートの床版に改め,共に逆流による河水の氾濫を防止するものとす。
【例-2】小林抽水所
被害金額 2600円(復興費 42400円)
被害原因 市岡抽水所に同じ,但し構内浸水高O.P.上4.6mなり。
被害状況 市岡抽水所に同じ。
災害對策 市岡抽水所に同じ。
【例-3】境川抽水所
被害金額 2100円 (復興費 27100円)
被害原因 暴風雨に際し原動力たる供給電力は停止し,同時に襲來せる未曾有の高潮は附近運河より路上に氾濫,抽水所構内に侵入し來り,其の高さO.P.上4.1m即ち構内地盤面上08mに達し,遂に喞筒室内に泥水充滿するに至れり。
被害状況 本抽水所にありては氾濫せる泥水比較的低く,喞筒室内に侵入する事も幾分遲かりしを以て排水喞筒原動機2臺は安全の位置迄取外すを得たるも,停電の爲如何ともなすを得ず,僅かに干潮時を利用し溢流渠を通じて一部の自然放流をなし得たるのみなり。されば高潮退下後に於ても汚水は容易に排除せらるゝ途なく,排水區内低所に停滯し不潔極りなし。仍て先づ小型ガソリン喞筒を用ひて喞筒室内の排水を行ひ,浸水せる電動機其他附屬品の応急修理に努むる内,災害後2日にして送電を見たるを以て直ちに安全なりし2臺の電動機により喞筒の運転をなし,下水道内の排水を行へり。斯くて順次電機設備の修理完了すると共に漸次抽水所機能を恢復するに至れり。
災害對策 本抽水所に對しては今次の浸水高に鑑み,他抽水所に於ける如く周圍防水壁は設けず,5.5m喞筒室周圍のみを堅固なる防水性たらしむるものとす。即ち喞筒室腰壁天端高をO.P.上5.5mに高むると共に窓は水密構造に改め,更に外部に鉄格子を設けて保護し,各出入口扉も亦防水構造となすものとす。
喞筒室周圍壁は防水構造となすと雖も尚安全のため一部排水喞筒電動機を構造上許容の範圍に於て高位置に据替へ尚室内漏水を排除するため小型ガソリン喞筒1臺新設す。
【例-4】恩貴島抽水所
被害金額 2100円 (復興費 31300円)
被害原因 暴風雨に際し原動力たる供給電力停止し,同時に襲來せる未曾有の高潮は附近正蓮寺川堤防を越へ路上に氾濫抽水所構内に侵入し來り,其高さO.P.上4.9m即ち構内地盤面以上1.6mに達せり。
其の爲,喞筒室窓硝子出入口扉等破壞せられ忽ち室内に海水を混へたる泥水充滿せり。
被害状況 喞筒室内に侵入せる泥水の爲,喞筒電動機損傷され,下水排除の機能全く止み僅かに干潮時を利用して溢流渠を通じ,一部の自然放流をなし得るのみなるを以て高潮退下後に於ても汚水は排水區内各低所の路面家屋の床下に停滯し,其の汚穢不潔極りなし。仍て先づ小型ガソリン喞筒を用ひて喞筒室内の排水を行ひ,電動機を取出し応急修理に努め,且つガソリン喞筒,消防喞筒,重油機關付喞筒等を使用して,極力下水道内の排水を行へり。斯くて災害後8日に至り送電開始さるゝに及び修理の完了せる喞筒より順次運転を始め次第に抽水所全機能を恢復するに至れり。
災害對策 本抽水所は正蓮寺川に近く今次の高潮による浸水状況に鑑み,喞筒室腰壁天端高をO.P.上5.5mに高むると共に窓は水密構造に改め,更に外部に鉄格子を設けて保護し,各出入口扉も亦防水構造となすものとす。喞筒室周圍壁は防水構造となすと雖も尚安全のため一部排水喞筒電動機を構造上許容の範圍に於て高位置に据替ふるものとし,尚室内漏水を排除するため小型ガソリン喞筒を1臺新設す。
又抽水所周圍に在來コンクリート柵を利用して天端高O.P.上5mの堅固なる鉄筋コンクリート防水壁を築造し,其の出入口には堅牢なる防水扉及水止堰板插入の設備を施し,構内各水門井の周壁をも同樣O.P.上5mに嵩上をなし,其の他排出井の全面を鉄筋コンクリートの床版に改め,共に逆流による河水の氾濫を防止するものとす。
【例-5】津守處理場
被害金額 48200円(復興費 507000円)
被害原因 本處理場は工事施行中にして,其喞筒室は腰壁高其他構造上場内侵入高潮位O.P.上3.45mに對し安全なるものなりしも,工事中の鉄管插入口其他より室内に侵入したるものなり。
被害状況 喞筒室内に侵入せる海水を混へたる泥水のため据付中の電動喞筒機械其他は多大の損傷を蒙り,又事務所其他附屬建物の屋根は暴風雨のため剥脱飛散し,工事用諸材料は浸水流失し,建設工事中の曝氣槽,排水井等も損傷を蒙れり。
災害對策 今次の災害に鑑み既定計畫一部変更の要あり,即ち喞筒室出入口地覆石面をO.P.上4.6mに改造し,最下端の窓部を水密構造となし,網入硝子を使用し,外部より鉄格子を以て保護す。出入口には防水扉を設置するものとす。
處理場周圍には天端高O.P.上5mの防水壁を築造し,浸水防禦に備ふるものとす。
喞筒其他の原動力は系統異なる電源より供給を受くる豫定なりしも,今次の經験に微し運転の安全を保するため排水喞筒全容量の約5割に相當する自家發電設備を施すものとす。
【例-6】海老江處理場
被害金額 10000円(復興費 493000円)
被害原因 本處理場は工事施行中にして其喞筒室は腰壁高其他構造上場内侵入高潮位O.P.上3.25mに對して安全なるものなりしも工事中の鉄管插入口より室内に侵入せり。
被害状況 喞筒室内に泥水侵入せるも据付喞筒機械類小數なりしを以て被害小なり。其他は津守處理場と同樣なり。
災害對策 津守處理場に同じ。
c.塵芥處理の被害
被害金額 434700円
被害原因 這般の颱風の襲來に依り家屋建造物の倒壞破損せらるゝもの多く,未曾有の高潮は忽ち港,大正の兩區を初め此花,西淀川,西成,住吉の各區を襲ひ海水を混へたる泥水の浸す所となり,其の深きは地上3m内外に及び其の爲,塵芥燒却場に於ても下記の如き被害を見るに至れり。
被害状況
(イ)塵芥燒却場及其他淸掃施設 大阪市に於ける最大の塵芥處分場たる木津川燒却場は木津川河水の氾濫のため電動機に損傷を生じ,其他沈沒石炭船の入堀閉塞等のため一時全く操業不能に陷り,又水陸運搬の中継點たる市内25ヶ所の塵芥蒐集場(船積場)中3ヶ所は倒壞,他は悉く大小の破損を蒙り更に塵芥運漕船(汚泥船を含む)も169隻中流失又は沈沒32隻,大破28隻を算せる外殘餘も小破損を受けざるもの殆どなし。
其他淸掃區事務所,工作場,器具置場,汚泥函,公共便所等に至る迄併せて倒壞27,破損64の多きに達し,斯くて其淸掃施設は一時殆んど作業休止の已むなきに至れり。
(ロ)街路淸掃 氾濫せる泥水の退下せる後には一面の汚泥と塵芥の堆積を殘し,加ふるに飛散せる瓦礫,木片並に濡疊類路上に充滿せり,仍て是等を除去するため市は取敢へず街路淸掃班17班を組織し,23日よりトラック20臺を以て活動を開始し,漸次其能率を上ぐるに努めしも,浸水したる古疊は1枚の重量30貫に上り,汚泥,瓦礫,塵芥を合せ約2萬立坪の大量に上り,之が淸掃は最も難事たる折柄26日の降雨のため状態は益々惡化せり。茲に於て27日より更に淸掃班の組織を擴大し,之を港,大正,此花,西,浪速,西淀川,西成,住吉區等の罹災地に配置し,一面各地元衞生組合に對し計42000円の淸掃費を交付して橫町,路地内の搬出作業を分擔せしめ,市は專ら主要街路に於ける堆積物の運搬に主力を注ぐ方針の下に必死の作業を継続せり。斯くて漸く10月18日を以て至難なりし淸掃作業を完了するに至れり。作業開始以來實に二十有六日に及び此の間本市に於て使用せる車輛延數はトラック5466輛,馬力車8075輛,リヤカー及塵芥車,手車等3120輛にして使用人夫は53736人に達せり。其外東京,名古屋,神戸諸都市よりの応援トラックの出動及民間諸團体の勞力奉仕等あり。
淸掃したる塵芥,汚泥,瓦礫類は24146立坪,濡疊は10654立坪,(約64萬枚)の多數に上れり。
是等廢棄物は取敢へず最寄の空地に搬出集積し,其の終末處理に就ては状況の許す限り可燃物は一旦燒卻減量し,場所的状況により現地處理可能のものは之をなし,他は適當なる埋立地を物色して転換處理をなせり。
2.京都市に於ける被害
上水道の被害
被害金額又は復舊工事費 停電被害のみにて直接金額上の損害なし
風害状況 昭和9年9月21日午前8時30分頃に松ヶ崎淨水場に至る送電線切断し,停電せしため,該淨水場より松ヶ崎配水池への送水ポンプ運転中止の止なきに至りたり。これがため配水池水位遞減したるを以て午前11時配水を一時中止すると共にこの断水區域に對しては幸に停電を免れをる蹴上淨水場より配水せしむることゝし,午前11時區域切替作業を開始,午後1時完了したるも,午後2時頃より蹴上高區配水池の水位も遞減を來したるを以て調制しつゝ配水を継続したるため,一部高地區には給水不十分の個所を生じたり。而して午後3時50分頃送電を受くるに及び直に送水ポンプの運転を開始し,松ヶ崎配水池に滿水を開始し,午後7時頃大部分に行亙り,午後9時40分に蹴上及松ヶ崎淨水場共全く平常に復したり。以上の状況にて直接被害は尠かりしも相當時間減水又は断水のため需用家たる市民に相當大なる間接の被害を蒙らしめたり。
3.堺市に於ける被害
上水道の被害
復舊工事費 14200円
被害原因
(1)發電所及送電線路破損及浸水の爲,停電断水す。
(2)高潮溢流に依り埋沒場所の土砂を洗掘せられたる爲,配水管及利水用具を流失破損す。
(3)家屋倒壞,流失及潮水浸水の爲,量水器の故障及破損を生ず。
(4)颱風に依り倉庫の倒壞及建物の屋根,柵等破損す。
被害状況
(1)本市上水道は半ば喞筒直送式なるが故に停電と同時に配水不能となりたるも配水池滿水(容量約2000m^3)なりし爲,午前11時迄給水を持続するを得たり。然るに其後断水せるを以て極力送電線の復舊を計り,當日の午後11時に至り辛ふじて給水を開始するに至れり。
(2)高潮非常なる勢を以て溢流せるため萬一を慮り,浸水地域方面に對する制水辨の閉鎖をなし,退潮後地域を調査せる結果一部配水管の継手脱出あり被害僅少なりしも,消火栓及制水辨等の鉄蓋の流失及桝の破損,給水管の破損は相當多きに達せり。
(3)家屋倒壞及流失に依り量水器の破損多く且つ浸水區域内の量水器は海水侵入の爲,量水不能となりたるもの殆ど全部なり。
(4)颱風のため淨水場の倉庫一棟倒壞し,水質試験用の器具を大破し,其他建物の全部に亙り大小の破損ありたり。
災害對策
(1)電力網發達し2囘線以上を有する都市と雖も,本市の如く動力を生命とする水道にありては將來の萬全を計る爲豫備動力の自家發生設備の必要を感じ目下考研中なり。
(2)今囘洗掘脱出せる配水管は堤防兼用の道路に布設せられたる部分なりしを以て將來斯かる場所に鉄管を布設する場合は大に考慮を要するものと認む。猶浸水の虞ある地域の消火栓は僅かなる浸水にても其位置不明となり失火の場合發見困難にして其の用をなさざるを以て地上式に改良の要あり。
(3)低地域の家屋に用ふる量水器は成るべく柱付にする必要あるを感じ目下研究中なり。
(4)倉庫の如きも場合により重要なる機具物品を格納するを以て相當建築に考慮を要する事を痛感せり。
4.尼崎市に於ける被害
上水道の被害
被害原因 颱風の爲,送電線に故障を生じ,停電の結果取水及送水用喞筒の運転停止し配水全く不可能に陷れり。
被害状況 上記配水の断絶は9月21日午前より翌22日午前5時迄継続し,此の間市内井水は高潮により海水の侵入を受けて全然使用に堪へず,災害時市民生活上非常なる困却を來したり。22日午前5時後は受電舊に復し,喞筒運転を開始し,給水は完全に恢復したり。
災害對策 水道操作に喞筒を使用する所にありては斯かる災害時に給水の断絶を免るゝ爲,豫備施設として動力の自家發生裝置を必要と認む。
5.明石市に於ける被害
上水道の被害
被害金額 約470円
被害原因
(1)明石川右岸堤防上に於て老大松樹の幹根と内径100mm鉄管と交叉し布設しありしものが暴風の爲該,樹倒壞の際鉄管曲折,断面一直線に切断せられたり。
(2)電力8時間送電不能のため4時間の断水をなす。
(3)配水支管(内径100mm)坂路に布設しありたるもの路面の洗掘により直線管路約15m露出架空の状態となる。
(4)淨配水場内樹木倒れ公舍屋根等少破あり。
被害状況
(1)單線配水支管にして制水瓣1箇所の操作にて断水し得る個所にして被害は曲折切断1箇所にして當日中復舊完了洩水も30分にして事濟みたり。
(2)送電不能8時間なりしも,晝間4時間の断水にて(配水池は最低有效水深0.85mを以て断水實行)給水需用家に對し甚大なる支障を來さしめざりき。
(3)當日中假支保工を實施し,暴風雨休止後復舊せり。
(4)暴風雨休止後復舊せり。
災害對策
(1)樹根上に管線を交叉し布設することは成るべく之れを避くるを安全とす。
(2)本市の如く豫備動力なく專ら電動力のみにより揚水及濾過操作等をなす所に於ては非常なる不安を感ずる所なり,故に非常時其他に對し豫備動力自家發生設備の必要を認む。
(3)出來得べくんば成るべく断水區域を縮少する如く制水瓣の設置を希望するところなり。
(4)出來得べくんば公舍等も鉄筋コンクリート建築となしたし。
6.岡山市に於ける被害
上水道の被害
被害金額 11303円
被害原因 岡山市上水道に於ける被害の原因は主として颱風による送電線の故障により取水,配水兩電動ポンプの運転停止と豪雨による旭川の出水,氾濫の結果配水管布設道路の決壞,水管橋の流亡,河底伏越箇所の洗掘等により配水管の折損,脱落等を招來したるものなり。
被害状況 岡山市上水道に於ける取水,配水用ポンプ動力たる電氣は山陽中央水電及中國合同電氣の2社2系統より供給を受け居れるも異常の大風の爲,2系統共送電線の故障を受け,9月21日未明より時々電圧の降下を來して運転不定の状態を持続しつゝありたるが,午前5時40分に至り,遂に全然停電して運転不能となり,漸く配水池の殘水を以て制限給水しつゝありしも,午前10時に至り,全市に亙る断水の已むなきに立ち至れり。
斯くて午後1時40分に至り,漸くにして中國合同電氣のみ送電し來り,直に運転を開始して一部の給水を復活したるが所要全動力の復舊を見たるは午後4時30分にして實に前後6時間30分の断水を餘儀なくせられたるものなり。
送電の復舊後も浸水の爲,制水瓣の開放不能のものあり,全市の完全通水を見たるは22日朝にして市外給水は實に26日に至り漸く恢復を見たる状態なり。
配水管の被害は兵團及内山下,櫻の馬場,石關町,第6高等学校附近,山陽高等女学校附近,鐘紡岡山工場附近等道路決壞による鉄管露出折損,寶來橋流亡に伴ふ添架鉄管の流失,中橋,小橋河底洗掘による伏越鉄管の接手脱損等にして其の概要下の如し。
以上各種被害の外消火栓10,制水瓣4,異状を呈したるものあり。
水源地:淨水場等にありては大なる被害なく單に水源沈砂井の覆蓋及塵除を破壞せられたるに止まり,淨水場に於ては異常の濁水の爲,濾過層の詰塞甚しく,著しく濾過作業を阻害せられたる程度なり。
災害對策
(イ)水道用ポンプ動力には相當の自家發生動力を豫備し置くこと。
(ロ)出水により水流の激突,氾濫區域内にて決壞の虞ある道路,堤防には水管類を埋設せざること。
(ハ)水管の河底伏越に際しては洗掘により災害を被らざる樣相當深所に埋設し強固に保護し置くこと。
(ニ)原水はなるべく地下水を選ぶこと。
7.德島市に於ける被害
水管橋並に水管の被害
被害金額 218円
被害原因 本市上水道にありては津田町と齋田町を結ぶ津田橋水管橋が災害を被りたるものにして,其の原因は海水の上昇と風浪により諸種の船舶が上流に向つて押流され,本橋に激突したるによるものなり。
被害状況 水管橋2径間(約15m)屈曲し200mm配水鉄管が切断され延長約60mが橋外に脱落せり。
假修繕に2晝夜を要し,通水に支障なからしめ,橋梁水管共完全復舊迄には約2週間を要したり。
8.其他市に於ける被害
神戸市,西宮市,姫路市,鳥取市及高知市に於ては本項に於ける被害なし。
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