まえがき
この報告書は、当協会が財団法人日本船舶振興会から事業補助金を受けて、海難防止に関する調査研究事業の一環として、昭和55年・56年度にわたり実施した「地震に伴う津波に対する安全防災対策の調査研究」の結果報告をとりまとめたものである。
調査研究にあたっては、委員会としては安全防災対策の指針となるべく鋭意にとりくんだのであるが、この種の調査研究は、はじめての試みであり、短時日であったため、資料不足、解析困難な事項が多く、調査不十分であることは否めない。したがって、今後さらに地道な研究が続けられることが望まれる。
この調査研究を実施するにあたって、ご協力をいただいた関係機関及び各位に深く謝意を表す次第である。
昭和57年3月
社団法人 日本海難防止協会
委員会の名称及び構成
1. 委員会の名称
「地震に伴う津波に対する安全防災対策の調査研究」
略称「津波対策研究委員会」
2. 委員会(順不同、敬称略、〇印は作業部会、括弧内は前任者)
委員長 ◎〇鞠谷宏士 東京商船大学教授
委員 〇桑島進 東京商船大学助教授
〃 〇鶴田三郎 東京商船大学講師
〃 〇〇本田啓之輔 神戸商船大学教授
〃 〇高石敬史 船舶技術研究所海洋開発工学部長
〃 〇安藤定雄 船舶技術研究所海洋開発工学部運動性研究室長
〃 〇合田良実 港湾技術研究所水工部長
〃 宇野公一 日本パイロット協会(東京湾水先区水先人会)
〃 坂入 正 日本船長教会常務理事
〃 森川 卓 日本船主協会常務理事
〃 (真田 良)
〃 圷 敏男 全国内航タンカー海運組合(昭和油槽船(株)安全管理室長)
〃 内田輝久 大日本水産会常務理事
〃 山本雄三 石油連盟(東亜燃料工業(株)環境安全室長)
〃 (出島史郎)
〃 宇田川 達 日本船主協会(日本郵船(株)海務第一課長)
関係官庁 浅井敏明 運輸省大臣官房環境庁
(高島 等)
戸田邦司 運輸省大臣官房技術安全管理官
堀井修身 運輸省港湾局計画課港湾計画審査官
鈴木正明 海上保安庁警備救難部航行安全課長
(加藤書久)
新井佼一 海上保安庁警備救難部海上防災課長
〇渡辺偉夫 名古屋気象台台長
杉江正文 水産庁漁港部防災海岸課長
橋本長太 清水海上保安部長
(片岡勝之)
宮川 汜 静岡県地震対策課長
稲田藤次 静岡県清水港管理局長
上記委員等の外、下記の方にもご協力をいただいた。
玉井 信 日本船長協会
甚目 進 石油連盟(東亜燃料工業(株))
藤城 稔 日本船主協会
斉藤 武 日本パイロット協会
宮村弘明 運輸省大事官房環境課
真嶋 洋 運輸省大臣官房技術安全管理官
松浦和行 海上保安庁警備救難部航行安全課
鈴木良孝 同上
増田正司 海上保安庁警備救難部海上防災課
坂井 淳 水産庁漁港部海岸防災課
浅岡邦一 同上
木村義晴 同上
槇野賢司 清水海上保安部
渡辺定弘 静岡県地震対策課
梅原昭二 静岡県清水港管理局
三好 寿 東京水産大学
<事務局>
船谷近夫 日本海難防止協会常務理事
塩原礼次郎 日本海難防止協会安全調査第一部長
川端英一 日本海難防止協会安全調査第一部主査
横山和弘 同上
目次
頁
第I編 調査の概要…………………………………………………………1
1.1 調査目的…………………………………………………………………1
1.2 調査経過…………………………………………………………………1
1.3 調査結果の概要…………………………………………………………3
1.3.1 津波について………………………………………………………3
1.3.2 岸壁係留船の安全性について……………………………………5
1.3.3 浮標係留木材船の安全性について………………………………7
1.3.4 錨泊の安全性について……………………………………………9
1.3.5 沖出し小型船の対波性について…………………………………10
1.4 安全対策…………………………………………………………………11
1.4.1 警戒宣言発令後の安全対策………………………………………12
1.4.2 事前の安全対策……………………………………………………16
1.4.3 むすび………………………………………………………………17
第II編 調査の内容…………………………………………………………18
2.1 警戒宣言が発令されるまでの手続……………………………………18
2.2 発生する津波……………………………………………………………20
2.3 岸壁係留船の津波による挙動と安全性………………………………29
2.3.1 岸壁係留船の静的な安全性………………………………………29
2.3.2 岸壁係留船の動的な安全性………………………………………41
2.4 浮標係留船及び錨泊船の津波による挙動と安全……………………46
2.4.1 浮標係留船の前後係留……………………………………………46
2.4.2 流向が変動する際の係留船の挙動………………………………55
2.4.3 津波による船舶の漂流と単浮標係留船・単錨泊船の安全性…59
2.5 沖出し小型船の安全性…………………………………………………65
2.5.1 沖出し小型船の耐波性の数値計算………………………………65
2.5.2 駿河湾の波浪推定…………………………………………………75
2.6 在港船舶の沖出し所要時間の調査……………………………………80
2.7 付録………………………………………………………………………82
2.7.1 各港在泊船舶統計…………………………………………………82
2.7.2 清水港自然条件……………………………………………………84
2.7.3 清水港内の津波・水位計算結果…………………………………88
2.7.4 水位上昇と流速が係留索に与える影響の動的計算結果図……92
2.7.5 津波による船舶の被害統計………………………………………114
2.7.6 清水港の津波対策の現況…………………………………………116
第I編 調査の概要
1.1 調査目的
駿河湾を震源域として発生することが予想されている大規模の東海地震による津波が、湾内諸港(清水港・田子の浦港及び焼津漁港を対象とする)に在泊している船舶の安全性に及ぼす影響を調査研究し、安全対策を検討して大規模地震対策に役立てようとするものである。
1.2 調査経過
1.2.1 調査期間
昭和55年度及び昭和56年度の二か年にわたり調査を行った。
1.2.2 調査の進め方
(1)大規模地震対策特別措置法の概要、地震の規模、警戒宣言発令までの手続と時間経過、情報の流れと内容等につき把握する。
(2)発生が予想される津波の状況を把握する。とくに、港内に侵入する津波の状況、すなわち水位変動・流速・流向等を調べる。そのために、必要な場合はシミュレーション計算を行う。
(3)現地調査を行い、調査対象港湾の現状を把握する。
(4)上記で得られた資料をもとに、津波来襲時に、津波にともなう水の動きが係留の安全性に及ぼす影響を、予想される船種や係留法について検討する。
また、船舶の沖出しの安全性についても検討する。
(5)わが国における過去の津波による船舶や港湾の被害状況を、文献・経験談等により把握する。
(6)現地での津波対策の現状と問題点を把握する。
(7)以上を総合して、安全対策を立案・検討する。
1.2.3 調査の経過
(1)昭和55年度
昭和55年度は、下記の日程により委員会を2回、作業部会を4回、現地調査を開催し、調査を進めた。
委員会 第1回 昭和55年6月3日
〃 第2回 昭和56年2月27日
作業部会 第1回 昭和55年7月3日
〃 現地調査 昭和55年8月28日、29日
〃 第2回 昭和55年11月7日
〃 第3回 昭和55年12月15日
〃 第4回 昭和56年1月30日
第1回委員会では、調査目的・調査方針と内容について検討した。
作業部会と現地調査では、第1回委員会の審議に基づき、主として次のような事項について調査した。
a)予想される東海地震の規模、警戒宣言発令手続と情報の内容、時間的な流れを調査した。
b)現地調査による、清水港・田子の浦港・焼津漁港の現況(港湾施設・入出港船舶・在泊船舶の状況、港湾管理・水先・曳船の状況、船舶運航状況等)を調査した。
c)現地調査により、現地の地震津波対策の現状・問題点等を調査した。
d)津波の港外と港内状況については、他の機関の調査結果を利用する予定であったが、間に合わないことが判明したので、シミュレーションを行うこととし、方針の検討を行い、それに基づいて計算を実施した。
e)岸壁係留船の係留の安全性についての静的検討を行った。
f)過去の地震・津波のうち、チリ地震津波(昭和35年)、新潟地震(昭和39年)、十勝沖地震(昭和43年)等による船舶の被害状況を調査し、また経験者の体験談を聞き、また関連文献を参考とした。
g)以上をふまえて、いつ発生するかもしれない東海地震に備え、清水港を対象に当面の安全対策を策定検討した。
h)上記の当面の対策では、警戒宣言発令後全船舶沖出しを原則としたので、現地で問題となった駿河湾内を航行する小型旅客船の沖出し中の安全性について検討することとし、その方針の検討を行った。
第2回委員会では、以上の作業部会の作業に基づく中間報告書案について審議した。
(2)昭和56年度
昭和56年度は、下記の日程で委員会2回、作業部会4回を開催した。
委員会 第1回 昭和56年6月12日
〃 第2回 昭和57年2月24日
作業部会 第1回 昭和56年7月10日
〃 第2回 昭和56年10月16日
〃 第3回 昭和56年12月14日
〃 第4回 昭和57年1月25日
第1回委員会では、昭和55年度の中間報告についての現地関係者の意見が報告された後、昭和56年度の検討項目について検討した。
この中間報告は、調査が十分進まない時点での当面の対策が主体であったので、シミュレーション結果による港内各所での津波の状況をふまえ、岸壁係留船、浮標に係留する木材船、錨泊船の安全性等についてさらに検討し、また、小型旅客船の沖出し後の安全性にも検討を加えて、中間報告のややきめのこまかい見直しを行うことを本年度の作業内容とした。
作業部会では、委員会の方針をふまえ、次の調査を行った。
a)岸壁係留船については、水位の変動、津波にともなう流れの変動による船体の運動を、弾性特性がヒステリシスをもつ係留索により係留されているものとして解析し、係留索の張力による安全係留限界について検討した。
b)木材船の浮標係留については、単浮標係留中、流向が変った場合の船の運動と、それにともなう係留の安全限界を、船舶技術研究所の水槽実験の結果をもとに調べた。
その結果及び前後係留で横から強い流れを受けた場合、流圧がきわめて大きくなることから木材船の浮標係留は、主流向に沿って前後係留する必要のあることが明らかになったので、そのような係留状態での安全性を静的に調査し、実行の可能性を検討した。また、錨泊船の安全性についても検討した。
c)小型旅客船の沖出し中の安全性(耐船性)については、3ノット以下の速力で風浪に向首するものとして、海水の打込みに関する波高・波周期の安全限界を検討し、さらに、このような限界以上の海況が発生する確率を調べた。
d)これらの検討結果を用い、港内の津波の状況を考慮して、中間報告で示した安全対策の再検討を行い、報告書草案をまとめた。
第2回委員会では、作業部会でまとめた報告書案について検討した。
1.3 調査結果の概要
1.3.1 津波について [2.2参照]
(1)概況
a)予想される東海地震による津波の規模は、波源域、地震の規模等よりみて、静岡県沿岸については、1854年の安政東海津波と同等程度のものと推定されている。この津波での津波高さは、清水港では2.5~3m(三保吹合岬では6m、折戸東海大学正門附近では5mである)、田子の浦港では3m、焼津漁港では5m程度とされている。また、駿河湾西海岸では1~2mの隆起が起ったとみられる。
b)想定断層は、水深500m以上のところにあるとみられるから、発生する津波の波速は速く、地震発生後5~10分程度で津波の第1波が、調査対象各港に来襲し、2~3回押寄せるものとみられている。
c)波長は数10㎞で、沖合では波高は1m程度(清水港の津波高さを2.5~3mとした場合)と低いから、沖合の船舶は津波の存在を感知できない程度のものとみられる。流速も10~20cm/s程度で、湾岸から沖合に向っての水深の変化も比較的急なので、波が砕けたり、巻波が起ることはないと考えられる。
d)津波の周期は10~20分程度とみられているが、田子の浦港では、これに長周期(60~70分程度、高さは低い)が重畳する可能性があるとみられる。
(2)清水港(図1.3-1清水港概要図参照)
a)シミュレーション結果
清水港の外防波堤入口周辺から港内にかけて、船舶の運航や係留に関連の深い場所(代表点47箇所を選定)附近の津波による、水位変動、流向・流速変動を調べるため、シミュレーションを実施し、計算結果に検討を加えた。
シミュレーションでの津波の入射波は、東南東方向(外防波堤法線に直角)から進入する正弦波とし、振幅は1.5mで、周期を10分・13.3分・17.7分・20分・25分・30分の6ケースとし、3周期分の計算を、計算時間間隔5秒で行った。
主要地点についての、最大振幅(最大水位とみてよい)及び最大流速は表1.3-1のようになる。
b)水位上昇
表にみられるように、港内全般としては水位の上昇の最大は1.4m~3.0mであるが、場所により異なる。また、周期が長くなると、水位上昇は一般的に大きくなるようである。
c)最大流速
最大流速は、防波堤入口附近及び折戸湾入口の日の出ふ頭前面のように、水面の狭くなっている部分で流速が大きくなり、この流速は周期が長くなると、大きくなる傾向を示している。なお、防波堤入口附近では、強い流れが乱れ、渦が発生することも予想される。
大きな特徴として、東亜燃料シーバース沖の水面が広くなっているところでは、流速は1m/sを少し上回る程度となり、他の場所に比較して流速の小さい水域が存在する。
d)水位・流速変動の位相
水位変動と流速変動の位相は、折戸湾内での第2波以降以外は概ね一致しており、最大水位変動の生ずる時点で最大流速となっている。流向は、水位上昇の時に満ち、下降の時に引く。
e)スリップ・船だまりの状況
興津ふ頭、袖師ふ頭のようにスリップが長く、岸壁に越波のない限り、波が完全に反射されるような場所では、水位の上下は全体的な平均より大きくなる。流速はスリップの奥では0で、入口に近付くほど大きくなるものと考えられる。
また、袖師・江尻・三保・新船だまりのような船だまりでは、入口の狭隘部では流速は大きくなるが、奥の広いところは水位の上昇は大きいが、流速は小さいと考えられる。
(3)田子の浦港(図1.3-2田子の浦港概要図参照)
田子の浦港については、シミュレーションは行っていないが、港内の面積は清水港に比して狭く、入口が幅120m、長さ約600mの狭い水路で絞られ、比較的単純な形状しているので、理論的に推算が可能である。
それによると、港外の津波高さを3m、周期10分として、入口の狭水路では4.3m/s以上の強い流速を生ずるが、港内ではこの流れが渦をともなって拡散し、中央ふ頭・吉原ふ頭では流速は入口流速の半分の2m/s以下、鈴川ふ頭・石油ふ頭では、入口の強流域から直角に入り込んでいるため流速1m/s程度になると推算される。水位上昇も港内面積が小さいので、港外の津波高さより大きくなることはないと思われる。
(4)焼津漁港(図1.3-3焼津漁港概要図参照)
焼津漁港、小川地区とも、シミュレーションは行っていないが、港の形状は複雑であって、港内も入口水路もともに狭い。
焼津漁港附近では、港外の津波高さは5m程度とみられるので、入口水路では流速は非常に大きく、7m/s程度に達するものと推算される。
この強い流れが港内に入って渦をともない拡散するが、直接この流下にあるとみられる岸壁は流れが早い。流れが小さくなるとみられるのは、焼津地区では第二船渠内、小川地区では第二船渠内と思われる。
しかし、水位上昇は少くとも3mに達するとみられるので、岸壁の低い両船渠では溢流が予想される。
なお、焼津地区の船渠外の北防波堤と北岸壁、西岸壁に囲まれた水域(焼津地区外港)は、水位上昇は港外と同様であるが比較的流れの小さい水域と思われる。
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1.3.2 岸壁係留船の安全性について [2.3参照]
a)津波の水位変動と流速による係留索切断
岸壁に係留している船舶は、津波が来襲すると、水位変動と強い流速を受けることが予想される。
この水位変動による船舶の浮上や、強い流れから受ける流圧による船位の移動は、船を係止している係留索が伸び、係留索張力の増大をもたらす。船舶の浮上や移動の量が大きいときは係留索が切断し、船舶が岸壁から離れて漂流をはじめ、衝突・座礁等の事故に発展する。
b)係留索切断の静的計算
昭和55年度は、船型を500DWT(載貨重量トン、以下略)型から10,000DWT型までの5段階に分け、その大きさに応じた岸壁に、普通の係留状態をモデル化した係留索配置(下図)で係留しているものとして、水位上昇と流圧がかかった場合の係留索切断の限界値を、水位上昇と流速をパラメータとして静的計算により求めた。
[2.3.1参照]
船は半載喫水で、トリムはなく、水深は平均水面の状態を基準とした。係留索はナイロン索とし、太さは船の艤装数に対応させた。
計算手順は、まず水位上昇による索張力の増加を求め、ある水位変動を与えた後、流圧を加える方法をとった。 計算結果の主な点は、
i)Head & Stern lineに比べSpringが短かいため、Head & Stern lineの張力増加が大きくならないうちに、Springが切断してしまう。
ii)このSpringの切断に至る水位上昇、流速を安全限界とみなすと、図1.3-4のようになる。
図にみられるように、小型船は水位上昇に弱く、大型船は流速に弱いということができる
c)係留索切断の動的計算
昭和56年度は、水位及び流速の時間的変動を与えて係留状態での船の運動を計算し、運動にともなう索張力の変動を動的に計算した。その際、索の伸び縮みと索の張力の変化の関係は、索が伸びるときの伸びと張力増加の関係と、ゆるむときの変位と張力減少の関係は、同じでない(いわゆるフックの法則は成立せず、ヒステリシス現象がみられる)ので、この関係も計算の中に入れた。[2.3.2参照]
係留の初期状態は、前記の静的計算の場合と同様とし、500DWT型と10,000DWT型について計算した。その場合、津波の周期は10分とした。
その結果の主なものは次のようである。
i)静的計算の場合と同様、張力の増大が大きいのは、索の長さの短いSpringで、切断するのもSpringであった。
ii)500DWT型については、流速2m/s、最大水位上昇1m(位相は90°)では索は切断しなかったが、流速2m/s水位上昇2mでは、Springが切断している。水位上昇が0で流速4m/sでは、索は切断しなかった。
iii)10,000DWT型では、水位上昇0で流速2m/sでは切断せず、4m/sで計算した場合はSpringが切断している。
位相90°の場合、流速2m/s、水位上昇3mでも索切断は起っていない。
vi)静的計算と動的計算を比較すると、同一の外的条件では動的計算の方が限界条件がきびしくなっている。
d)索配置を変えた場合の係留索切断の動的計算
以上の結果から、上記の係留索配置では、SpringがHead & Stern lineにくらべて索長が短かいので、船の移動に対する索張力の増加はSpringが非常に大きく、Head & Stern lineは小さい。したがって、索の有効利用という観点では、この配置は十分ではない。
そこで、Head & Stern lineとSpringの配置を、一般的な索配置のあり方を損なわない範囲で図のような配置として、動的計算を行った。その際、水位上昇と流速変動の位相を同一とし、条件をきびしくした。また、3,000DWT型についても計算した。
計算の結果によると、500DWT型では水位上昇2m、流速2m/sでSpringが切断しており、索配置を変更した効果は挙っていない。これは、基本的な係留索が短かすぎることによるものであると考えられるから、さらに係留索を長くとることが必要である。
10,000DWT型では、流速2m/sで水位上昇4mでは索は切断しないが、5mとなるとSpringが切断している。
また、3,000DWT型では流速2m/s、水位上昇5mでも索切断は起らなかった。
e)静的・動的計算結果の総括
以上述べた静的・動的な計算から、500DWT型・3,000DWT型及び10,000DWT型について、Spring切断の限界を安全側についてまとめると、図1.3-5のようになる。
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1.3.3 浮標係留木材船の安全性について [2.4参照]
折戸湾の木材船は、浮標に前後係留して荷役を行っている。警戒宣言発令と同時に荷役を中止したとしても、木材の固縛に時間がかかり、短時間に沖出しができないおそれがある。
そこで、津波来襲時の浮標係留船の安全性について検討することとした。
a)前後係留の場合の流圧力
まず、通常入港している木材船を例にとり、h/d=1.2として、折戸湾中央の流速を考慮して、3m/sの流れを船首尾方向に対して、0°・45°・90°の方向からうけた場合の流圧力を求めた。[2.4.1参照]
流向が船首尾方向の場合の流圧力は、長さ150m型船で12トン程度、長さ100m型船で3.5トン程度であるが、流向が90°の場合の流圧力は、正面流圧力の110倍以上、45°の場合は80倍以上(流圧合力方向は88°で、ほぼ正横)であった。
折戸湾の係船浮標の錨及びシンカーの重量は、8トン~10トン地鎖3本であるが、その係留力は80トン~160トン程度であるから、3m/sの流れを斜めに受けた場合は、係船浮標の係留力をはるかに超える流圧力がかかることになる。
したがって、流れを船首尾方向に近く受けるよう単浮標係留とするか、津波時の流向に一致させた前後係留状態とするような方法が考えられる。
b)単浮標係留の場合の流向変化による係留索張力
単浮標係留とした場合、船は流れに立つ(振れ回わりは起ると考えられるが)ので、流圧力は流向にいくらかのずれがあったとしても正面流圧の3倍程度とみられる。しかし、津波の場合は、流向が一周期の間に180°近く変わることが考えられる。したがって、流向が変化した場合、船がどのような運動をして、反対方向の流れに立つようになるか、また、その際浮標係留索にどのような張力が生ずるかが問題になる。
このような挙動を調べるため、船舶技術研究所の海洋構造物試験水槽において、長さ4.5mの大型タンカーの模型を用いて模型実験を行った。[2.4.2参照]
実験は、一定の流れの中で、船首に2mの係船索をつけ、船尾に流れを受ける状態で張り合わせた状態を初期状態とし、船を放した後どのような運動をするかを調べた。
船は、船尾から流れを受ける状態でそのまま前進して、係留索が後方に張り、船の前進の行脚が止まった。(このときに最大張力F_1が働く)、そのころから、旋回をはじめて流れに向いはじめる。この間、複雑な張力変化を繰り返す(この状態での最大張力をF_2とする)、そして、ついに流れに立つ(この時にも大きな張力F_3がかかる)、その後は流れにより振れ回わり運動をはじめる。
このような運動の中で係留索にかかる張力は
F_1≒0.305・Δ・U (㎏)
Δは排水量 ㎏
Uは流速 m/s
であり、
F_2≒0.32F_1、F_3≒0.50F_1
であった。
この式を、そのままU=3m/sとしてF_1を求めると、F_1は排水量の90%程度の非常に大きな値にある。
このF_1は、船が流れに乗って前進し、係留索が張りはじめるときの船の速力v、船の質量M、係留索の弾性の函数と考えられる。
実際の津波の場合は、一方向に流れが止まった後、反対方向の流れがはじまるので、実験状態と流れの様子は異なり、実験状態よりも係留索に張力がかかりはじめるときの船の速力は小さくなるであろう。
また、浮標係留の場合、一方の流れを受けた状態から、反対方向の流れを受けて張力がかかるまでの船首の移動距離は、実験状態での係留索長が2m(0.44L)の場合より小さい。したがって、実験状態よりも張力がかかりはじめるときの速力は遅くなるであろう。
さらに、実験状態では係留索は弾性係数の大きい伸びの少ない索を用いているので、索の伸びによる運動エネルギーの吸収量は、浮標の係留索のそれより小さく、このため、索に大きな張力を発生することになるが、浮標係留の場合は同じ運動エネルギーを吸収するとしても、最大張力は小さくなるであろう。
c)単浮標係留の流向変化による運動エネルギー
実験結果によると、無拘束状態で船首尾方向から流れを受けた場合、船はほとんど旋回運動を起さずに漂流をはじめることが明らかになったので、まず、津波が来襲し流速が増して行く場合の船の漂流速度と漂流距離を計算した。[2.4.3参照]
一方、係留浮標にかかる水平力0の状態から、係船索が一杯に張り、水平力が無限大になるまでに、浮標の係留鎖・沈錘・地鎖が立ち上ることによる係船浮標系の吸収エネルギーを求めた。
そして、漂流速度によって船の持つ運動エネルギーは、この係船浮標の吸収エネルギーによって吸収され、運動エネルギーが吸収エネルギーより小さければ、船は安全に係止されるが、運動エネルギーが吸収エネルギーより大きい場合は、係船浮標の錨が海底を引きづられて、そのエネルギーで残りのエネルギーを吸収するようになる。このような状態が繰り返されると、係船浮標は所期の係留力を保ち得なくなるので、安全性が保てなくなると考えられる。
すなわち、津波によって流される船を安全に係止し得る限界として、
(船の漂流による運動エネルギー)≦(係船浮標の吸収エネルギー)
を設定した。
清水港の木材船の係船浮標の吸収エネルギーは、水深10.5mとして、No.2浮標が106ton・m、No.3浮標は79ton・mである。No.1浮標は、これらより小さい。
150m型船(喫水9m)が船首尾方向に漂流して、この浮標の吸収エネルギーに等しい運動エネルギーを持つときの漂流速度は、No.2浮標で0.3m/s、No.3浮標で0.25m/sである。
係船浮標の主鎖が海底にねている長さは14.5mであり、係留索の水平力0から無限大までの浮標移動距離は10m弱であるから、水平力0の状態から水平力無限大になるまでに船が漂流する距離は、最大14.5m×2+10m=39m+α(αは船の係留索長さ)である。この距離を漂流したときの漂流速度は、150m型船で、津波周期10分では0.55m/s、20分で0.5m/sとなり、上記の浮標の吸収エネルギーに相当する漂流速度の2倍に達する。したがって、安全に係止できる限界を超えていることになる。
d)前後係留の最善策
以上の検討の結果から、単浮標係留は流向の変動による船の漂流を考慮すると適切でなく、また、前後係留船で流れを斜から受ける状態となるものも、係留力不足であることが明らかになった。
したがって、残された方法として、予想される津波の流向にほぼ平行に、両舷錨を使用して前後係留する方法を検討した。
使用海面との関係、係留操船の可能性等より案出された。係留法は図1.3-6のようである。[2.4.1(4)参照]
この図では、津波の予想流向150°に対してB船・E船は15°、A船・D船は10°の斜の流れを受けることとなるが、流速3m/sに対して、係留力を静的に計算した結果係留可能と判断された。
ただし、錨は両舷5節以上、開き角20°以下の二錨泊とする必要がある。また、浮標への係留は錨鎖によることが望ましい。
なお、警戒宣言発令後に、このような係留状態に変更することは実行上困難が予想されるので、平常時から、このような係留法で荷役を行うことが必要である。さらに、将来は浮標の配置を津波の流向に沿って前後係留できるように、変更設置することが望ましい。
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1.3.4 錨泊の安全性について [2.4.3参照]
錨泊船の安全性については、1.3.3で述べた単浮標係留の場合と同様の問題点がある。
強い流れの中で錨泊している船は、振れ回わり運動を行うが、流れの中の振れ回わり運動については、未だ文献はない。
a)錨泊の最大係留力
錨泊船は流れに立つが、前述の150m型船を参考にすると、正面流圧は流速3m/sで12トンとなっている。
150m型船の錨は5.7トン、錨鎖は60㎜程度であるから、錨鎖を8節(220m)伸し、水深20mの所に単錨泊したとすると、錨の把駐係数4、錨鎖の把駐係数を0.75として、最大係留力は、静的に28.6トンとなる。
振れ回わりによる錨鎖最大張力を、風による振れ回わりを参考に、正面流圧の4~5倍とすると、この最大係留力で保持し得る流速は、2.3~2.1m/sである。
b)錨泊に耐えられる最大流速
流向の変動による振れ回わりを考えると、このような錨泊状態での錨鎖の最大吸収エネルギーは144.72ton・mである。
この最大吸収エネルギーで、吸収できる船の速力は0.35m/sとなるが、錨泊状態の場合は、一方向の流れが0になってから反対方向の流れにより前進し、錨鎖張力が働きはじめるまでの距離は長いから、漂流速度は、その流速での最大漂流速度に達する可能性が大きい。このことから逆算して、上記の0.35m/sが最大漂流速度となる流速を求めると、津波の周期10分では1.52m/s、20分では0.95m/sとなる。
c)結論
以上の考察からみて、津波来襲時は錨泊船は沖出しすることが必要であり、錨泊を余儀なくされる場合は、最大流速1.5m/s以下の水域に錨泊し、機関を用意して走錨の危険に備えることが必要である。
また、隣接錨泊船との間隔は、できるだけ十分にとることが望ましい。
1.3.5 沖出し小型船の耐波性について [2.5参照]
津波来襲の際、全船舶沖出しを原則としているが、この方針に関して、現地から、駿河湾内に就航している小型旅客船を、沖出ししても大丈夫だろうかという意見が出されたので、このことについて検討した。
a)沖合での津波の危険性
沖合での津波の状態は、波長が数10㎞と長く、波高は1~1.5m程度で小さく、また、波の前面が巻波となって砕けるようなこともあり得ないので、沖に出ている船舶は、津波をほとんど感知し得ないような状態と考えられるため、津波によって、船舶の安全性を損なう危険は皆無と考えられる。
地震による衝撃や振動を感じたという報告はあるが、そのため浸水や転覆のような大事故に発展した記録はない。
b)沖出し小型船の波高安全限界
したがって、沖出し小型旅客船の安全性が危惧されるとすれば、駿河湾奥で二、三日漂流している間に気象・海象状態によって安全性が損なわれないかどうかという点である。
これを調べるため、清水~松崎間に就航している総屯数180トン型の小型鋼製旅客船について、耐波性を計算により検討した。この鋼製旅客船の航行区域は沿海区域で、定められた復原性基準に合致している。[2.5.1参照]
検討の条件として、本船は漂流中も機関は準備されているので、強い波に遭遇した場合、風浪に船首を立て、風速3ノット以下で荒天をしのぐ操船を行うものとした。
i)このような状態、すなわち向い波の状態について、まず規則波中の船体応答を調べた。その結果、縦揺れ、上下揺れとも、波長が船の長さの1/2附近の波で最も動揺が大きく、相対水位変動が波振幅の2倍程度となった。
ii)次に、不規則波中の船体運動を調べた。この場合、不規則波のスペクトラムは、一般的に船体運動の調査に用いられているISSC型スペクトラムを用いた。
このような不規則波中での船体運動による縦揺れ、及び船首・船体中央・船尾の相対水位変動スペクトラムを、平均波周期4、5、6、7、8秒について求めた。
これを用いて、荒天中甲板上への海水打込みが、船の動揺50回に1回以上起るような、各平均波周期に相当する有義波高を求めた。即ち、海水打込みが50回に1回以下(波周期6秒ならば5分に1回程度海水打込みが起る)ならば、安全であろうと判断した。
海水打込みといっても、船首の乾舷の最も高いところと、船首より後方の舷の低いところでは、当然値が異なるので、本船の構造、出入口、客室の窓の配置等よりみて、最も有義波高の低くなる、上甲板縁没水を安全性の基準と考えることとした。
このようにして求めた、各平均波周期に対する限界有義波高は表1.3-2のようになる。
c)駿河湾北部における限界波高の発生確率
次に、このような限界有義波高が清水港沖(駿河湾北部)で、どのような確率で発生するかを調べることとした。
しかし、目的とする水域での、波高別・周期別頻度表は得られなかったので、風向・風速の頻度分布から、予想地点(清水港外防波堤沖3マイル)と風向別陸岸までの距離から当該地点で発生する波を計算して、これにより限界有義波高の出現確率を求めた。[2.5.2参照]
駿河湾内の波浪分布は、北寄りの風では湾内北部で波高、周期とも小さいが、南寄りの風では、外海からの波が直接進入してくるため、湾内全域で波高・周期が大きくなる。湾内北部では風速15m/sの風が連吹すると、波高が2mを越えるが、周期も7.5秒と大きい。東寄りの風では湾内北部では、波高は1.4m以下、周期は4.5秒以下であるが、西寄りの地域ほど波高は高くなる。西寄りの風では湾内北部で、波高1.6m以下、周期5.5秒以下であるが、波高の高い区域が湾内奥深く進入している。
小型船の沖出し避難海域を真崎灯台の東3.5マイルの地点とすると、表1.3-2に示した安全限界を越える波浪の出現確率は、年間平均0.72%であり、季節的な条件を考慮に入れても1%を越えることはないが、夏から秋にかけて確率が高い。
駿河湾においては、西から北にかけての風向の出現率は低いから、上記沖出し地点よりも、駿河湾北部の東側(沼津沖)の方が安全性は高いということができる。
なお、風速が15m/sを越える場合は安全限界を越える可能性が大きいから、沖出しは避け、港内の流速の低い場所で、機関を用意して錨泊することが望ましい。
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1.4 安全対策
津波来襲時の安全対策を策定する場合、警戒宣言発令以後の対策と、その対策を迅速安全確実に実行に移し得るための事前対策に分けて行うべきであると考えられる。
また、今回対象とした清水港・田子の浦港・焼津漁港は、港の規模、在泊する船舶の大きさ、種類がそれぞれ異なっているので、対策として、各港共通の対策とそれを受けた各港別の対策を策定すべきであると考えられる。
以上の考え方に基づいて、2年間にわたって行ってきた前述の調査結果を参考として、下記のように安全対策をまとめた。
1.4.1 警戒宣言発令後の安全対策
(1)一般的安全対策
a)沖出しの原則
在泊船舶は、全船沖出しを原則とする。
沖出し場所は、防波堤、海岸線等より3海里以上沖合であることが望ましい。
入港を禁止し、入港中の船は反転沖出しさせる。
b)沖出しの緊急順位
沖出しの緊急順位は、次の通りとする。
(1)危険物積載船
(2)岸壁係留船で次に該当する船舶
i)水位上昇が2.0mを超えると予想される岸壁に係留している小型船(500GT(総トン数以下略)以下)
ii)喫水が浅く、右図のa/bが1/2以下になると予想される船舶
iii)水位上昇2.5m以上で流速が2m/s以上になると予想される岸壁に係留している船舶
(3)最大流速が、1.5m/sを超える水域の錨泊船
(4)流れを船首尾線方向から、左右20°以上の方向から受けると予想される前後浮標係留船
(5)上記の条件以外の船舶
c)沖出し不能船の処置
(a)平水区域の小型船、小型漁船、プレジャーボート
(1)予想津波高さ以上の場所に、引き揚げておくことを原則とする。
(2)予想高さまで引き揚げ得ない場合も、できるだけ高所に引き上げ、岸線に直角に保ち、強固な埋没アンカー(引き潮による土砂の洗堀を考慮すること)を用いて、前後係留とする。
(3)引き揚げることが不能な船は、予想される流向に前後係留できるような杭をもうけて、係留しておくことが望ましい。
杭は、数隻が集団係留できるような構造強度配置を考慮する。
(b)造船所における新造船・修理船で、自船不能の船舶
(1)スリップに引き揚げ中の船は、できるだけ高所に引き揚げ固縛する。引き揚げ可能の船も、引き揚げ固縛する。
(2)大型船は、予想される流向に沿った前後浮標係留とする。(この際、係留索の操作可能な作業員を船上に残すこと。)
(3)小型船については、前述の(a)-(3)の立杭による前後係留を行うことが望ましい。
(c)浮標係留船
(1)沖出しを原則とするが、荷役中止後貨物の固縛に時間を要すると予想される船は、予想流向に沿う前後係とした後、貨物の固縛作業を行い、作業終了後沖出しするものとする。
(2)その場での前後係留への移行が不可能の船舶は、シフトを行い、流速が小さい場所に錨泊して後貨物の固縛作業を行い、終了後沖出しするものとする。
d)沖出し作業中の地震発生
沖出し作業中に地震が発生したときは、沖出し作業を中止し、現係留場所で係留力を強化して、津波来襲に備えることを原則とする。
ただし、すでに航行状態に移り、防波堤入口より1.5海里以内にあり、最大速力8ノット以上を保ち得る船は、そのまま沖出しする。上記の条件を満たさない船は、できるだけ流速の小さい水域で錨泊するものとする。
係留力の強化方法としては、各船とも機関・舵・係船機はスタンバイ状態とし、錨の投下準備をするとともに、岸壁係留船は係留索をできるだけ長く前後方向にとって、増し取りし、張り合わせること。
浮標係留船は係留索を増し取りし、船が流れに立つよう、前後の係留索の巻き込み、巻き伸しの操作を行うとともに、流向の変更にともなう船の運動に注意を払い、係留索の過大張力の防止につとめる。
錨泊船は振れ止め錨を使用し、係留力の強化と流向の変転にともなう船の運動の抑制を行う。必要に応じて機関を使用する。
なお、小型船で喫水が浅く、岸壁の天端高の低い岸壁に係留している船は離岸し、港内の広い流速の小さい場所に錨泊するか、機関を適宜使用しながら漂泊することが必要である。
e)その他
(a)木材船の荷役により、海面に浮遊している原木等、重量・容積の大きい木材は、速やかに貯木場に引込むこと。
また、貯木場の木材の流出防止の作業は緊急を要する。
(b)津波により流出が予想される、質量の大きい浮遊物は、津波高さ以上の場所に引き揚げるか、固縛して流出を防止すること。
(c)地震により、油等の危険物が海面に流出しないよう万全の処置を取ること。危険物積載船の緊急沖出し後、油送管系に残留する油の処置に特に注意が必要である。
(d)岸壁に設備される荷役機械・設備類の、地震による倒壊の防止処置を行うとともに、倒壊があっても、係留船舶や作業員に危害を与えないよう、荷役機械の移動・固定を行うこと。
(e)旅客を搭載して航行中の旅客船は、旅客を揚陸させた後沖出しすること。
(f)沖出しは、沖出し可能な最少要員が得られれば直ちに行うこと。
(2)各港別安全対策
a)清水港(図1.3-1清水港概要図参照)
シミュレーション結果及び本調査の調査結果を参考にすると、上記一般的安全対策に加えて、次のような対策が考えられる。
(1)危険物積載船の昭和54年度入港隻数は、2,400隻余りでそのうち、3,000GT以上の船は44隻、500~3,000GT船が1,100隻、500GT以下が1,200隻余である。したがって、一日平均隻数は6.7隻であるから、最大隻数は、その2倍の14隻程度と予想される。そのうち、大型船1隻程度を除けば、自力出航可能の船舶と思われる。
したがって、超大型船1隻について水先人・曳船の手配、緊急沖出し手順を十分に確立し、小型船に対して緊急沖出しの主旨を十分徹底すれば、危険物積載船について警戒宣言発令後、2時間以内の全船沖出しは可能と考えられる。
ただし、夜間に対する配慮が必要である。
(2)沖出しの緊急順位の高い岸壁にとして、次の場所が挙げられる。
〇日の出ふ頭、日本軽金属岸壁
〇折戸湾に面する岸壁
〇江尻ふ頭1~5号岸壁
〇興津第一ふ頭と同第二ふ頭、袖師第一ふ頭と同第二ふ頭の間のスリップの入口に近い岸壁及び先端の岸壁
〇三保船だまり
〇航路に面した金指造船所岸壁
(3)折戸湾内の木材船用係船浮標係留船は、折戸湾入口から折戸湾奥の第二水面貯木場波除堤開口部に向う線に沿って前後係留可能のように、近い将来、浮標配置・係留方法を変更することが必要である。現状の対策は、1.3.3.d)及び2.4.1(4)による。
(4)日本鋼管清水製作所の、浮船渠両側の堀込みの奥では水位は高いが、流速が比較的小さくなるので、この堀込み岸壁での修理船を係留することは可能であろう。また、浮船渠を水位上昇に耐えるよう係留力を強化して、これに入渠中及び作業用小型船を係留することも可能性があると考えられる。
(5)止むを得ず錨泊する場合の、安全性の比較的高い水域は、流速の小さい東亜燃料シーバース前面から三保湾に向っての水深15m以上の水域である。
折戸湾内での錨泊は錨かきは良いが、流速が大きく適当ではない。
(6)小型旅客船の沖出しは、耐船性の面からみれば、ほとんど不安はない。風速15m/sを超える場合は、沖出ししない方が良い。沖出し位置は駿河湾北部東寄りが望ましい。
(7)船だまりの中では、流速はさほど大きくないが、水位上昇は高く、溢流もあり得るので、可能な限り沖出しすることが望ましい。
沖出し不能の場合は、溢流による乗揚げ防止をも考慮して、係留索を長くとり、沖側船首尾に錨を搬出して、図のような馬つなぎ係留とすることが必要である。この場合、主流向に立てるよう係留することが望ましい。
また、図のような立杭による係留も考えられる。
b)田子の浦港(図1.3-2田子の浦港概要図参照)
(1)まず、危険物積載船を沖出しさせる。船が小さいから自力出港は可能である。
(2)大型船で、沖出しに曳船の援助を要する船は、清水港からの水先人・曳船の来援が遅れることが予想されるので、係留索を長く出して増し取りし、張り合わせ係留力を強化して、曳船の来援を待ち、その後沖出しする。吉原ふ頭の2号上屋より奥、中央ふ頭は、流速は2m/s以上にはならないであろう。富士ふ頭は最も安全度が低い。
(3)鈴川ふ頭は水位上昇はあるが、流速はさらに小さいから係留索を長くとり増し取りすれば、安全性は高い。
(4)地震が発生した後は、沖出しは止めることが必要である。
(5)沼川橋水門は直ちに閉鎖し、材木の流出、津波の和田川への遡上を止めることが必要である。
(6)港内での錨泊は、強流を受けるおそれが高いから止めるべきである。
(7)漁港は溢流のおそれが高いので、沖出しするか、不能の場合は鈴川ふ頭側に避難することが望ましい。
c)焼津漁港(焼津地区、小川地区)(図1.3-3焼津漁港概要図参照)
(1)まず、危険物積載船を沖出しさせる。
(2)予想津波波高は、清水港・田子の浦港に比較して大きく、5m程度と予想される。また、漁港であるため岸壁の天端高が低いこと、形状が複雑で港内も狭いが、港口も狭く長いことのために、港口の流速が非常に大きいので、港内に入って拡散するとしても、流速の高い場所が多い。
比較的流速が遅いため、他に比して安全の高いのは、焼津地区第二船渠、小川地区第二船渠内のみであり、そのほか焼津地区外港が挙げられる。
しかし、これらも清水港船だまりに比較すれば安全度は低いといえよう。さらに、溢流が超えることが当然予想される。
したがって、万難を排して在泊船を沖出しさせることが、船舶の安全性からみて必要である。
(3)しかしながら、漁船の入港後の態勢は、一般商船とは大きく異なり、乗組員の休養、補給、船体・機関・漁具の保守整備の状態にある。また、乗組員に地元出身者が多く、地震に関しては、家族の安全確保が乗組員に課せられている。
したがって、沖出しを行うことが非常に困難な状態にあることも、認識しなければならない。
(4)焼津漁港の利用延べ隻数の1日平均は、昭和54年度で430隻(内 地元船340隻、外来船90隻)であり、うち、10トン以上の船では168隻となっている。各地区別には、焼津地区では221隻、小川地区では209隻となっている。
ところが、在泊に利用可能とみられる水面の面積は、焼津地区第二船渠では31,000m^2程度、小川地区第二船渠では28,000m^2程度である。
岸壁の溢流を考慮し、岸壁から10m離す余裕を見積ると、中に密に係留するとして、利用可能な水面面積は焼津地区で約25,000m^2、小川地区で22,000m^2程度である。
漁船の一隻の平均専有面積を500m^2(35m×14m)とすると、焼津地区で50隻、小川地区で44隻程度でとても一日平均延べ利用隻数には達しない。
焼津地区の外港岸壁に2隻横だきにして係留しても、岸壁の長さが610mで、船の長さを30mとして40隻程度である。
したがって、漁港の利用態勢を考慮に入れるとしても、焼津地区で130隻程度、小川地区では170隻程度は沖出ししないと、安全とはいえないということになる。
10トン以上の耐波性の高い船、家族の安全確保を必要としない外来船は、できる限り沖出しさせるべきである。
(5)このようにして、止むを得ず港内に在泊する船について、係留方法を考えるのであるが、焼津地区の第二船渠は水深-5m、小川地区の第二船渠は-3mであるから、津波による引き潮のときは、大型漁船は座洲し、船底の平担部が少ないので、座洲した場合傾斜・転覆するおそれがある。したがって、両地区の残留大型漁船は、焼津港外港に係留させるのが良いと考えられる。
残留した小型漁船は船渠内で係留させる。
(6)係留方法は、予定場所は比較的流速が小さいから、グループの中の大型船を、図のように船首アンカー、船尾係留の馬つなぎ方式として、錨が互いに重ならないように、係留索・錨鎖長を水位の上昇によって、係留力を損なわれない長さとした強固な係留とし、両舷に小型船を数隻横抱するような係留方法が考えられる。しかし、具体的な方法については、さらに詳細な検討が必要である。
(7)なお、各地区に在港する長期係留船舶(売船又は廃船予定船等)については、乗組員も存在せず、安全対策に支障を来たすおそれが大きいので、特別の配慮が必要である。
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1.4.2 事前の安全対策
(1)周知・訓練等
(1)予想される東海地震について、地震防災対策強化地域の指定を受けている域間に存在する港であるということは、警戒宣言が発令されたときに取るべき対策・処置について、即応できる態勢が、陸側のみでなく、在泊する各船舶についても常時整っていることを要請されていると解すべきである。
(2)地元在籍の船舶を除いて、各港に入港する船舶の乗組員は、東海地震についての平常の教育・訓練を受けておらず、関心も薄いので、入港の機会に地震防災対策強化地域の意義を理解させるよう、常時広報を行い関心を高めることが必要である。
(3)警戒宣言が発令されたとき取るべき対策・処置について、各バース、各在泊船毎に具体的に文書等で明示して、即応態勢が短時間でとれるよう、強力な指導が必要である。
(2)陸側の一般的事前対策
(1)船舶への情報伝達、指示、指導体系を一本化し、流言飛語等による混乱を避けることが必要である。
そのため、必要な通信連絡情報網を整備することが望ましい。
(2)入出港船、在泊船の動静を常時把握しておく必要がある。
(3)各バース毎、各船毎、毎日定時に、警戒宣言発令時に取るべき具体的処置として、出港順序、出港不能時の処置等を指示し、短時間に即応できる準備をしておくよう要請することが望ましい。
このためには、警戒宣言発令時の対策・処置について、港湾全体を包括した基本的な策定が、安全対策協議会においてなされ、それを受けて、毎日の船舶の動静に対応した具体的策定が、毎日の定例作業として行われる必要がある。
その際、水先人や曳船を必要とする船舶に対する、行動順序も同時に策定して、必要の向に連絡しておく必要がある。
(4)岸壁作業員、荷役作業員、所要の作業船等に対しては、安全対策協議会において策定された、警戒宣言発令時の処置に対応できるよう、事前に指導し、体制を作成しておく必要がある。
このためには、地震発生時のこれら関係者の避難場所を、作業場所附近に設定しておくことが望ましい。
(5)地震にともなう、港湾施設、建造物の倒壊、破損、火災の発生、木材の流出等の被害が在泊船舶に直接及ばないよう、例えば、警戒宣言発令時の荷役機械の移動場所や、固定方法等の対応策を策定しておく必要がある。
とくに、危険物積載船の緊急沖出のための、マニホールド部でのパイプ切離しの具体策について十分の検討が必要である。
(3)船舶の一般的事前対策
(1)現地の対策協議会で策定された対策に順応して、秩序ある運航がなされることが、第一に要望される。
(2)着港時は、自力出港可能なような状態に係留すること。
警戒宣言発令時には、特別な限られた船を除いて、水先人や曳船の短時間内での来援は期待できないからである。
(3)機関・舵・係船用機器は、在泊中いつでも使用できる状態とすること。
(4)出港に際し、水先人・曳船の援助が必要な船は、その旨連絡するとともに、曳船索を船首尾に準備すること。
(5)緊急連絡、警報の受信に即応できる態勢を取ること。
(6)荷役の段取りや実施についても、緊急沖出しの必要が不時に起ることを配慮すること。
(7)乗組員の外出や上陸については、緊急出港があり得ることを前提として対処すること。
警戒宣言が発令されると、陸上の交通機関は麻痺状態となることが予想されるし、電話による連絡すら困難になるおそれがある。
1.4.3 むすび
(1)津波に対する港内在泊船の安全を考える場合に先ず問題となるのは、津波による港内各場所での水の動きである。これを調べるため清水港についてシミュレーションを、田子の浦港、焼津漁港については推算を行ったが、周期に10~20分と幅があるうえ、港外津波高さも安政地震津波と同程度という推定をもととしている。また、焼津漁港や清水船だまりのような場所については、地形的な影響が大きく、まさに推算の域を出ない。
したがって、安全対策としては、安全側に余裕をもって策定したが、これで十分だという保証はない。とくに小型船・漁船については不安が残っている。
(2)この安全対策は、各港に設けられている安全対策協議会や、港湾の管理に当る機関が具体的な対策を立案される際に、役立ち得る参考資料の作成を主な目的としてまとめたものである。したがって、船舶の運航者に対しては、不行届きの面も多いと考えられる。
一方、各港の形態はまちまちであり、具体的な現実に即した問題点は多種多様で、とても一律に律しきれるものではないので、抽象的・概念的な対策となっていることは否めない。
たとえば、沖出しすることが不可能で、止むを得ず港内に在泊する小型船や漁船の係留法については、現地でさらに、きめ細かい検討が行われて、具体的な統制のとれた係留法や収容隻数の制限を行わなければ、役立ち得るものとはならないと考えられる。各船の自主判断のみに依存することは、いたずらに混乱を招くことになる。
警戒宣言が発令された時点を想定すれば、策定された安全対策の半ばが達成されれば良しと評価せざるを得ないであろう。それだけに、現地の事情を十分にふまえた、きめ細かい対策が実行の可能性の十分な検討を経て、策定されることが必要である。
(3)2年間にわたり調査検討をつづけたが、調査不十分な点や、資料不十分な事項、あるいは、解析困難な事項が数多く残されている。いわば、調査検討の緒についたといえるのが現状である。今後も地道な検討が休みなく続けられることを期待する。
第II編 調査の内容
2.1 警戒宣言が発せられるまでの手続き
大規模地震対策特別措置法に基づいて、昭和54年8月7日に地震防災対策強化地域(地下強化地域という)が図2.1-1のとおり指定された。
この強化地域を中心に、気象庁はテレメータによる常時監視システムを整備した。昭和56年まで整備したものが図2.1-2である。
この図から分るように、地震観測(陸上及び海底)、地殻岩石歪観測、地殻変動観測(伸縮、傾斜)、検潮観測及び地下水観測があり、担当機関として気象庁のほか東京大学、名古屋大学、国立科学技術防災センター、国土地理院及び工業技術院地質調査所である。このようなシステムにより、将来東海地域において発生する可能性のある大規模地震の前兆を的確には握することができるであろう。
以上の各種の観測データを常時監視することによって異常現象が発見されると、地震防災対策強化地域判定会(以下判定会という)が開催される。大規模地震発生のおそれがあるという判定結果が出されると、気象庁長官は地震予知情報を内閣総理大臣に報告する。この報告を受けた内閣総理大臣は地震防災応急対策を緊急に実施する必要があるかどうかを判断し、必要があるときは閣議にかけたうえで警戒宣言を発する。これらの流れは図2.1-3のとおりである。
地震予知情報の内容は、地震の発生するおそれのあると認める旨及びその理由、時期、震源、地震の規模と震度、津波の予想等である。
昭和55年9月1日の防災の日に行われた地震防災訓練の際報告された訓練地震予知情報は次のとおりである。
「9月1日5時頃から御前崎、榛原、浜岡のひずみ計、御前崎、岡部、野田沢の傾斜計、相良の水位計及び御前崎-田子の浦潮位差が同時に異常な変化を示しています。また、駿河湾南方沖には微小地震が多数発生しています。
これらの現象からみて、2・3日以内に駿河湾及びその南方沖を震源域とする大規模な地震が発生するおそれがあります。この地震が発生すると、静岡県を中心とした強化地域では震度6以上、その周辺の地域では震度5程度になると予想されます。
この地震により伊豆半島南部、駿河湾沿岸に大津波のおそれがあります。」
ここで、特に問題となるのは時期であるか、「数時間以内」と「2・3日以内」の2通りの表現が考えられている。過去の大地震の例では、直前の前兆である異常現象から数時間以内、長くても2・3日以内である。このような例によって上記の2通りが用意された。ただし、「2・3日以内に〇〇を震源域とする大規模地震が発生するおそれがあります」とある場合でも、地震発生のおそれの危険は、現時点から2・3日の全期間を通じて同じであって、はじめの数時間が安全であるという意味ではない。「数時間以内」の表現は、とくに異常現象の出現が広範囲にわたり、かつ、極めて急激であるような場合に使用されるかも知れないが、このような場合の可能性は少ないと考えられ、「2・3日以内」と表現される場合が一般的であろう。
なお、判定会は気象庁長官の諮問機関であって、会長は地震予知連絡会長である浅田東大名誉教授、委員は地震予知連絡会委員の中から在京の5名の大学教授が任命されている。
参考 津波予報文とその説明
抜粋:地震防災対策強化地域の指定について(報告)
昭和54年5月12日
中央防災会議地震防災対策強化地域指定専門委員会から中央防災会議事務局長あて
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2.2 発生する津波
(1)東海地震の想定断層モデル
昭和54年5月12日、中央防災会議地震防災対策強化地域指定専門委員会から中央防災会議事務局長あてに、「地震防災対策強化地域の指定について」という報告がなされた。この中で次のように述べている。
想定される東海地震の断層モデルについては、これまで各種の観測・測量・研究等の成果、歴史地震から得られた事実等をふまえて検討を行った結果、その形は、南北方向100~200㎞程度×東西方向50㎞程度であり、傾斜角20度~30度の逆断層であると推定した。その位置は、多少幅をもって考えることが妥当であるが、東辺は駿河トラフ沿いの線に沿い、北辺は駿河湾奥までと考える。なお、西辺以西については、1944年東南海地震により歪エネルギーが既に放出されているものと考えられるので、1854年安政東海地震のように遠州灘西南方に及ぶ可能性は少ない。地震の規模は、概ねマグニチュード8程度と考えられ、破壊は断層の南部から始まる可能性が大きいと思われる。
以上の推定断層モデルを図示したのが図2.2-1である。
この図は、南北方向120㎞×東西方向50㎞の場合であるが、南北方向100㎞の場合は北辺が駿河湾奥までと考えると、沖合いが20㎞短くなる。
以上のモデルは、プレート・テクトニクス流にいうならば、フィリッピンプレートが駿河トラフでアジャプレート側に沈みこんでいることを前提としている。この沈みこんでいるプレートに沿って地震が発生するというのが従来から常識である。ところが、この常識からはずれるような事実があれば、このモデルは再検討する必要があることになる。(地震予知シンポジウム(1980年)の中の名古屋大学青木教授の論文)
(2)駿河湾内(港外)の津波
東海地震によって発生するであろう津波については、本項(1)に述べた想定断層モデルに基づいて推定することが可能である。これは、断層地震によって海底面が隆起あるいは沈降し、これによって海水が持ち上げられ、あるいは引き込まれて海面がゆがみ、これが水平面に戻ろうとして振動を起す過程を数値計算するもので、最初の海底面の鉛直変位の値と、その広がりによって津波の大きさが左右される。東海地震に対する断面モデルでは、駿河トラフに沿って海底が1.2~1.5m程度隆起、駿河湾西側沿いで0.8~1.5m程度隆起、トラフの東側で0.1m程度の沈降が生じるものと推定されている。
こうした、断層モデルによる津波の数値計算は、いくつか試みられているが、目下検討中のものもあるなど未だ公表される段階に到っていない。しかし、地震の規模等からみて安政東海津波とほぼ同程度であろうということは一般に認められている。安政東海津波の際の浸水高(これを津波の高さまたは津波高という)については羽鳥(1)その他の調査があり、伊豆半島西岸でおおむね4~6m、駿河湾西岸でおおむね3~5mと推定されている。このうち、田子の浦では3m、清水では2.5~3m(ただし折戸では5m)、焼津付近はデータがないけれども用宗および吉田の津波の高さから判断して5m程度とされる。
津波の周期については一般に津波波形が不規則であり、また港や湾に固有な振動特性の影響を強く受けるなどのため、単一の値を述べることがむずかしい。数値計算でも計算手法によって代表周期の値がかなり異なることがある。しかしながら、一、二の数値計算の中間的結果などを参照すると、清水から御前崎にかけては、周期10~15分程度の水面振動が基調になって、これにさらに長周期の振動が重なっているようである。また、田子浦付近は駿河湾の湾振動である約60分周期の振動の上に、5~7分程度の小さな振動が重なった波形となる計算結果もある。しかし、この付近の津波波形は地震断層の起き方によって影響されるところが大きいので、はっきりしたことはいえない。結局、津波の周期としては10~数十分程度の範囲を考えておく必要があると思われる。
なお、津波に関する理解を深める目的で、津波に伴う流れの性状について、以下に簡単に解説しておく。
津波が広い海域を進行する場合、たとえば東海地震のときに太平洋の方へ向うであろう津波などは、進行性の波動としての性質を持つ。したがって、水面の上下(これをηで表わす)に応じて水粒子は前後に運動し、これが往復流として現われることになる。この往復流の流速をuで表わし、津波の波形を簡単のために正弦波で近似すると、ηおよびuは次のように記述される。
(2.2-1)式
(2.2-2)式
ここに、a:津波の振幅、T:津波の周期、h:水深、g:重力の加速度(=9.80m/s^2)、x:距離、t:時間
式(2.2-1)と(2.2-2)を比べてみると明らかなように、津波の波形と流速は位相が同じであって、津波の山のときは津波の進む方向へ水が流れる。また、津波の波形は√ghの波速で進行するけれども、流速の最大値はそのa/h倍に過ぎない。たとえば、水深h=1000m、振幅a=1mとすると、波速は√gh=99m/sであるけれども、流速は0.1m/sに過ぎない。なお、津波は周期が長いので、水深が数千mあっても流速は水面から海底まで一様と考えられる。
次に、津波が海岸にやって来た場合には、津波が海岸の傾斜面で反射されて入射波と重なり合い、重複波、あるいは定常波が形造られる。一般には、海岸線の形状が複雑なので定常波も3次元的となるけれども、いま、図2.2-2のようにx=0の所に反射壁面がある2次元的な定常波を考える。これは、清水港の興津第1~第2埠頭間のスリップなどにほぼ相当する。このときの波形及び流速は、次のようになる。
(2.2-3)式
(2.2-4)式
ここに、H:スリップの奥の水位振幅(≒津波の高さ)
この定常波の場合には、水位と流速の位相が1/4周期だけずれており、一方が最大のときに他方は0となる。また、流速はスリップの奥では0で、入口に近づくにつれて次第に増加する。表2.2-1は津波の高さがH=3.0mのときの流速最大値を、いくつかの水深及び距離について求めたものである。
この計算例から水深が浅くなるほど、また、周期が短くなるほど流速が速くなることがうかがわれる。なお、実際の水域では流れの片寄りや渦の発生などのために、こうした2次元的定常波としての値よりも大きな流速を生じるものと思われる。
さらに、船だまりの入口などのように波除堤などで口が狭められている場所での流速は、内側の水面の奥行きが津波の波長(=T√gh)の1/10程度の場合には、内水面がほぼ一様に昇降するものと考え、内外水面の水位差に呼応して水が流入・流出するとして略算することができる。詳細は文献[2]によるものとして、その結果求められる流速の最大値は次のように表わされる。
(2.2-5) 式
(2.2-6) 式
(2.2-7) 式
津波の高さがH=3mの場合、この考え方による流速の最大値は5~6m/sとなる。またH=5mでは6~8m/sとなる。この式(2.2-5)の右辺の上限値が港内において予想し得る津波の流速の上限値と考えてよい。
なお、津波が浅いところで砕けるが否かという問題がある。潮汐に関しては満ち潮が川を遡るとき、水面が壁のような段波となって砕けながら進行するボア―(bore)という現象があり、中国の銭塘江やインドのカルカッタ港(フーグリー河)などが有名である。また、風浪の場合には日常良くみるように海浜で大きく巻き込んで砕ける。津波については津波の形を詳しく観察し、記録した事例が少ないために確言することができないけれども、もし砕けるとしても潮汐ボアーのような形であって、それもある程度流化する流れのある川筋に限られると思われる。また、その場合も日本の地勢が急勾配であることを考えると、全面的な段波ではなくて砕波が波頂の一部に限定された弱いボアー、すなわち波状段波であろう。なお、潮汐ボアーの最大流速はボアーの進行速度に等しく、対水速度でほぼ√g(h+H)とみなすことができる。
(3)清水港内の津波
a)清水港内の津波の数値計算
清水港は興津ふ頭から折戸湾の奥まで6km以上ある上に形状も複雑であるので、前項で述べたような一般的性状に基づいて港内の流況を推定することができない。このため、清水港については以下のような数値計算を行って港内の津波の推定を試みた。
計算の基礎となるのは、式(2.2-8)、(2.2-9)の運動方程式および式(2.2-10)の連続方程式である。
(2.2-8)式
(2.2-9)式
(2.2-10)式
なお、運動方程式は右辺第4項に示されるように海底摩擦による抵抗を考慮したものであり、また、計算の過程では折戸湾貯木場入口その他数箇所で、流速の局所的増大に伴うエネルギー損失を取り入れている。
計算は地形を三角形要素で表示する有限要素法(FEM)によることにし、清水港を図2.2-4のような形状で近似し、これを図2.2-5のような要素に分割して、各要素ごとに、その中央位置での水深を代表値として用いた。ただし、数値計算を実行する際の便宜上、5m以浅の箇所はすべて水深を5mとして取扱っている。図2.2-4の破線は実際の水際線であって、実線との差が地形の近似誤差である。また、右上の幅一様な部分は仮想的な水路であって、この右端から津波が来襲し、港内で反射されて沖へ戻っていくようにしてある。この仮想水路は水深30mと一様にし、その長さは計算時間内に反射波の影響が港内の津波計算結果に現われないよう、十分な長さを与えた。これは津波の周期によって異なる。さらに、左下の細い水路は巴川を模式的に代表させたものである。
津波としては、表2.2-2のように周期T=10~30分、入射振幅a=1.5m(一様な海岸での津波高さH=3.0mに相当)のもの6ケースを想定して計算した。波形は先端に緩和区間(3/8周期)を持つ正弦波である。
計算結果のうちから、代表例として周期13.3分の想定津波による地点A, B, C(図2.2-4参照)の水位、及び流速の時間変化を示したのが図2.2-6, 2.2-8である。いずれも上段が水位、中段が流速の絶対値と流向、下段がxおよびyの方向は図2.2-4に示したとおりである。これらの図から流れは水位の正弦的変化に応じて往復運動をすることが分る。また、外港防波堤と三保防波堤の間のA地点では水位と流速の位相がほぼ一致していて進行波的な様相を保っているが、港内のB,C地点では位相関係がかならずしも明瞭でない。
こうした水位・流速の時間変化から、各地点の水位・流速の最大値の分布を求めた結果が図2.2-9,2.2-10である。水位については港内の最大値が約3mであって、津波高さとして3mを設定した条件がほぼ満足されている。また、流速については興津ふ頭と外港防波堤の間、外港防波堤と三保防波堤の間、ならびに日の出ふ頭の前面で3m/sを超える流れが出ている反面、東亜燃料前面のシーバース付近は、流速1m/s以下の結果となっている。
他の周期についても、同様な水位・流速の時間変化や最大値の分布図その他が求められている。
b)清水港内の流況の考案
上述の数値計算結果は、港内の流況を判断する上で欠かせないものであるけれども、計算を実施する際の制約条件や、数値計算における誤差の累積現象その他のために、計算結果をそのまま実際の流況とみなすことができない。特に、この数値計算では地形をできるだけ詳細に再現しようとして、計算にあたっての地形要素を非常に小さくとっているために計算誤差が無視できなくなり、本来は、流速が0となるべきスリップの奥でもかなりの流速が現われたり、また、折戸湾奥の貯木場の水位が次第に上昇するなど、二, 三疑問な点が生じている。したがって、港内流況については本項(2)に述べた津波の流況の性質を加味して考察する必要がある。
その第1は各船だまりの入口の流況である。数値計算では狭い入口を取り入れることができなかったので、前項の式(2.2-5)~(2.2-7)を用いて船だまり入口の最大流速を推定すると、表2.2-3のようになる。ただし、津波の周期としては流速が大きくなる10分の場合を推定したものである。ただし、速度係数はCv=0.7としている。
この表から、各船だまり及び第一水面貯木場の入口では4~5m/sという強い流れが生じるものと推測される。なお、第一水面貯木場は水位が一様に昇降するとすれば振幅が0.4mであるけれども、実際には、この水域の水深が浅い割には奥行があるために、水位は場所によってかなり変化し、最大振幅としては1m以上になるのではないかと思われる。また、木材荷さばき水面及び第二水面貯木場については、波除堤が現在のところ下部が空いているカーテン式構造であって通水断面積が大きいため、流速はあまり大きくならないと推定される。
上述の各水域の入口で強い流れが生じると、津波の流入時には内側、流出時にはその外側で顕著な渦流が発生する筈である。こうした渦流は1968年の十勝沖地震の際に八戸港で観察されている。したがって、水位としてはほぼ一様に昇降するとしても流速の速い領域が各水域の内外に現われると考えられる。
また、数値計算との第2の相違点は興津第1~袖師第2ふ頭の三つのスリップの奥の流速である。数値計算では3m/s以上の値が出ている場合があるけれども、実際には本項(2)に述べた2次元定常波に近い状態となり、流速が小さいものと思われる。
以上のような点を勘案し、さらに周期10~30分の数値計算の結果から、いずれかの周期において流速3.0m/s以上の流れが生じると推定される流域を示したのが図2.2-11である。一方、どの周期においても流速が1.5m/sを超えることがないと思われる領域を示したのが図2.2-12である。強流速の生じる可能性のあるのはいずれも流れが絞られるような箇所であり、津波の周期にあまり関係しない。
なお、各領域の最強流速は周期によって異なるけれども、すべての周期の最大値で考えると4~5m/sに達する。
一方、流速が弱いと思われるのは港外、シーバースから三保海水浴場にかけての水域、及びスリップの奥である。このうち、シーバース前面の水域はここが水深20m以上と深いこと、及びこの部分が袋状に広がっていることの二つの理由で流れがゆるやかになるためと思われる。なお、以上は津波の高さが3.0mの場合であって、津波の高さが増すと流速の値も増大する。その増大率は数値計算を行ってみなければ確言できないが、強流速の箇所では津波高の平方根(√H)に比例し、流速の弱い箇所では流速に比例するような形をとるのではないかと思われる。
(4)田子の浦港内の津波
田子の浦港は、清水港に比べて港内水面積が遥かに狭く、また、港口が三重の防波堤・突堤で絞られていて、幅約120m、長さ約600mの狭水路となっている。田子の浦港については津波の数値計算を実施していないけれども、水面積が約4.3×10^5m^2 と小さいところから、(2)項の一様水位変化の方式で検討してみる。
港口の断面積はA≒1.4×10^3m^2 であり、速度係数としては水路がやや長いことなどを考えてCv=0.6とする。田子の浦港に来襲するであろう津波の周期については不明な点があるけれども、仮に周期10分、津波高さ3.0m とすると港口の水路には最大4.3m/sの往復流が生じるものと推定される。しかし、津波の波高が小さくて周期の短い振動と波高のやや大きな長周期の振動で構成されているとすると、港口水路の流速はもう少し小さくなる。たとえば、波高1.5m・周期5mmの津波では3.2m/s、波高3.0m・周期60mmの津波では1.6m/s程度と見積られる。
こうした津波の流れが港内に流入すると渦を形成しながら港内に拡散する。しかし、港内が広くかつ吉原ふ頭が突出していることなどのために渦の流勢はあまり強くならないのではないかと推測される。ふ頭沿いの流速を予想することはむずかしいが、あえて見当をつければ、中央ふ頭及び吉原ふ頭沿いで2m/s以下、石油ふ頭および鈴川ふ頭では1m/s以下であろう。
(5)焼津漁港内の津波
焼津漁港についても数値計算を実施していないので、詳細な検討はできないけれども、田子の浦港と同様な方法で津波の概況を考察してみる。
まず、この付近に来襲する津波は津波高さが5m程度と想定される。焼津地区は、津波の周期が20分前後であれば内港の水位はほぼ一様に昇降し、津波の高さが3m程度となる。津波の周期が10分前後のときは津波によって水面が共振する危険性があり、このときは内港の奥では外側とあまり変らない津波高さとなろう。いずれにしても、内港の入口では最大流速が7m/s近い往復流が発生する。港内に入るにつれて流速は次第に減少するけれども、津波の流入時にはこの流れが第1船渠西岸壁、第3船渠の新座西岸壁などにぶつかって渦を生じる形になると思われ、この両岸壁沿いにはかなり速い流れが残るであろう。これに対して第2船渠内は比較的流勢が弱いものと思われる。
一方、焼津地区の外港においては津波高さは来襲波と同じで、ほとんど減衰しないと考えられる。また、北防波堤と西防波堤の間はほぼ南防波堤に沿う流れが出るであろうが、その流速は3m/s程度以下と思われる。
小川地区は焼津地区内港と同様、入口で7m/s程度の非常に速い流れが発生し、これが流速を次第に弱めながらも航路北側係船護岸及び石津西岸壁に沿って流れることになる。小川地区の場合も第2船渠内は比較的流勢が弱いであろう。港内の津波の高さは2~3m程度ではないかと思われる。
参考文献
[1] 羽鳥徳太郎:静岡県沿岸における宝永・安政東海地震の津波調査、静岡県地震対策課地震対策資料(津波-1)、No.1-1977、または地震研究所彙報第51巻、1976年、pp.13-28。
[2] 佐藤昭二・合田良実:海岸・港湾、彰国社、1972年、pp.131-134。
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2.3 岸壁係留船の津波による挙動と安全
2.3.1 岸壁係留船の静的な安全性
ここでは、港内の係船岸に係留している船の安全確保について取り上げ、係船索が津波により切断するか、しないかという外的条件から安全限界の一応の目安をとることにした。
津波は、かなり長周期の波であり、狭く、しかも浅い水路でないかぎり、段波の形で港内に来襲することはあり得ないから、港内水位の上昇と潮流の流速の変化が、係船索の索張力に与える外力条件となる。船は水位の上昇で接舷側に傾き、潮流の抵抗で一方に移動することになろう、さらに周期的な運動を伴えば、係留システムの固有周期との同調によって、ますます索張力は急増し、切断する可能性を高めることになる。
今回の計算では船の動きを静的なものとし、次の事項を条件とした。すなわち、
(1)船型は500~10,000DWTの標準貨物船とする。
(2)流圧抵抗には、固定プロペラ抵抗の増加と水深の影響を加味する。
(3)水深は平均水面上に半載状態で接岸係留しているものとする。
(4)水位の上昇に対しては上下移動、流圧に対しては船首尾方向のみ移動し、他の連成運動を伴なわないものとする。
(1)船型と主要目諸元
船型は、貨物船型の500・1,000・3,000・5,000・10,000DWTとし、主要目諸元は港湾技研資料[1]の次の相互関係式によるものとする。
log × = A+B log(DWT) ………………(2.3-1)式
ここに、A, Bは表2.3-1に示す係数である。
(2)船首方向からの流れを受けたときの流圧抵抗
係岸線に沿う流れが接岸係留中の船に働くと、船の流圧抵抗は船体自身の水抵抗の外に、固定したプロペラ抵抗と水深の影響による抵抗増加を考えておく必要がある。
船首方向から受ける船体自身の流圧抵抗は、港湾構造物設計基準[2]によれば、次式
Re = 0.14 Aw Vc^2 …………………(2.3-2)式
ただし、Aw=船体浸水部表面積(m^2)、Vc=流速(m/s)によって求めることができる。しかし、ここでは次に述べる補正項を考えて、必要な抵抗値を算出することにする。
a)固定したプロペラ抵抗
他船を曳航する場合、プロペラを誘転させる場合と固定した場合でかなり被曳船の抵抗値に差があるといわれる。例えば、航海参考資料[3]によれば誘転せざる場合は、摩擦造波合併抵抗の1.2~1.4倍、横田真一氏[4]によれば、Reciproは全抵抗の75%、Turbineは45%くらいの抵抗増、英国海軍の運用教書[5]によれば、浸水部水抵抗よりも大きくなることもあるといわれ、造船設計便覧[6]には固定したプロペラ抵抗Rp(kg)として次式がみられる。
(2.3-3)式
表2.3-3は、実船にみられるプロペラ寸法諸元の一例であり、表2.3-4は、上述の(2.3-3)式から求めたRp/V_A^2の値と、表2.3-3の実船のデータに対し、すべての貨物船型とみなして前述の(2.3-1)式から推定した船体抵抗Rc/Vc^2との差ηを求めたものである。
表2.3-4のη値が、ほぼ1.0に近い値であることから、このことは船側を流れる流速Vcとプロペラ付近の流速V_Aが等しければ、固定したプロペラ抵抗は、およそその船の船体抵抗と等しいことを示す。しかしながら、船尾浸水部はwakeのため流速が30%程度減少するから、プロペラ付近の流速V_A≒0.7Vcとみられる。したがって、流速の2乗に比例する抵抗比は(V_A)^2/(Vc)^2=(0.7)^2=0.5となり、船側を流れる流速Vcで換算すると、概略
プロペラ抵抗Rp=船体抵抗Rc×0.5 …………(2.3-4)式
となる。
b)船体抵抗に及ぼす水深の影響補正
英国の造船研究協会報告[7]によれば、抵抗に対する水深影響の補正係数(CF)として図2.3-1を与えている。表2.3-5は、水深Hと喫水dの水深比(H/d)による値を図から読取ったものである。
c)プロペラ抵抗・水深影響を考慮した船体抵抗
上述の影響を考慮すると、船首尾方向から流速Vc(m/s)の流れを受けたときには、固定したプロペラ抵抗を加味した船体抵抗Rcp(kg)は(2.3-2)式の1.5倍となり、水深の影響を考えると、次の算式となる。
Rcp=0.21 Aw・Vc^2・CF …………(2.3-5)式
流速Vc(m/s)をVck(ノット)の船型につきH/d=1.2,1.5,2.0,3.0,6.0以下に対するRcp(トン)との関係を図2.3-2~6に示す。
(3)接岸係留状態の諸元
a)保有する係船索の太さとその破断力及び伸び率
船が保有すべき係船索(マニラ索)の太さは、船舶設備規程第4号表に表示されているが、ここでいう係船索は実情から推して、表2.3-6に示すマニラ索と同じ強度のナイロン索を使うものとする。
係船索の伸びは、ナイロン索の伸び特性をそのまま活かすこととし、径の太さに関係なく、図2.3-7の索の伸び率εiに対する索張力比pi(T社のナイロン索60Φの引張り試験結果による)をもつものとする。
b)接岸係船時の船の姿勢と係船索の取り方
概して、係船耐力の小さい曲げ係船柱を利用して係船し、係船索はHead & stern line,spring のみとしbreast line は使わないものとする。また、増し掛けをしたときその張り合せの不均一さを考えて、合計破断力は3本以上から、1本につき0.5本相当の荷重負担になるものとし、次の相当破断力をもつものとする。(表2.3-7)
係船索の取り方と索条数は、図2.3-8の要領とする。
c)係留状態における位置諸元の設定
船は半裁(満載排水量の70%)の喫水状態で、平均潮位の水面(平均水深)で係留されているものとする。
i)係船索の係止点の位置
図2.3-8、図2.3-9の位置にあり、船体中央に対し、前後対象の位置に在るものとする。
ii)岸壁のビットと舷側との間隔
V型フェンダーが設置されているものとし、その主要寸法を考慮して岸壁垂直壁とフェンダー外端線との間隔となるフェンダー厚み(b)を表2.3-8の値とする。
iii)水深と岸壁の天端高さ(表2.3-9)
(注)清水港岸壁の天端高(略最低々潮面からの高さ)
興津第1ふ頭2,3,4,5号…………3m
興津第2ふ頭}
袖師第1ふ頭}…………………3.5m
袖師第2ふ頭}
iv)平均水面から船上係止点までの高さ
表2.3-10に示す舷弧端の高さ(Z_1)を平均水面上から船上係止点までの高さとする。
v)水深H/喫水dの範囲(表2.3-11)
したがって、H/dの範囲は満載状態ではH/d=1.1~2.04、半載状態ではH/d=1.2~2.3となる。
vi)船上の係止点を岸壁上の係止点との位置関係
船は半載で係留しているものとし、船首端の高さを船上の係止点とすると、図2.3-12のz,y_0,y_1は表2.3-12の値となる。
(4)水位の上昇による係船索の伸び率と残留張力(Pi)
この項の静的計算にあたっては、前述の条件の外、さらに次の条件を追加する。
(1)船上係止点の高さzは、Head & stern line,spring共に同じ高さとする。
(2)すべての係船索は、各索とも同程度に張り合わされ、初期張力として10%の伸びをもつ。
(3)すべての係船索は、ナイロン索の伸び特性(図2.3-7)をもち、伸び率50%で破断するものとする。各径に対する破断強度は表2.3-6のものとする。
以上の条件に基づき、水位の上昇(⊿z)と、各係船索の伸び率(ε*i)を計算すると、図2.3-13のような関係が得られる。
しかし、索の伸び率ε*は、初期張力をもつ場合の伸び率であるから、図2.3-7のように初期張力のないときの伸び率(εi)と張力比(P/P_B)の関係から、ε*iに相当の張力比を求めようとすれば、ε*iに対して次の理由により修正が必要である。
いま、初期張力による伸び率εoをもつ係船索の停止点間の長さl*i が、図2.3-14に示すように水位が上昇して⊿l*i伸びたとすると、このときの伸び率⊿l*i/l*iは、初期張力による伸び⊿loを含む値であるから、図2.3-7に示す伸び率εiに改めるためには、初期張力による伸び⊿loを取り除いた係止点間の長さlo(=l*i-⊿lo)に対する全伸び量⊿li(=⊿lo+⊿l*i)の比、すなわち、初期張力のない索長loに対する次の伸び率の関係式で修正しなければならない。
図2.3-14において、
(2.3-6)式
しかるにεo=10%とみているので、εiとε*iとは次の関係にある。
(2.3-7)式
Spring切断時の水位の上昇量(⊿z)と、そのときのHead & stern linesの伸び(ε*i)を図2.3-13から読み取ると、表2.3-13の値がえられる。この表中には、ε*に対するεiを求めて図2.3-7から読みとったHead & stern linesに対する張力比を示す。
また、Springが切断するまでの水位の上昇と、これによって生ずる各索の伸び率εiに対する残留張力比Pi(=1-Pi)との関係を求めると、図2.3-15のようになり、水位の上昇に対し、Springの残留張力比がHead & spring linesに比べて急増することがわかる。
明らかに船体の係留は、索の長いHead & stern lineの増し掛けによって補強すべきであって、Springによる増し掛けは切断の可能性が強いことを示している。
(5)水位上昇後の限界流速の静的計算
接岸係留中の船が水位の上昇後、船首尾方向からの潮流の流圧抵抗を受けるものとし、このときに耐えられた索の限界張力から潮流の限界流速を算出してみる。
a)設定条件
実際には、船の姿勢は流れや、係船索の伸びにより船首揺れ(yaw)、横揺れ(roll)、縦揺れ(pitch)をするので、これらの影響を考えるべきであるが、ここでは前述のように、船の運動はすべて垂直上下方向の移動以外はすべて拘束されているものとして、次の条件のもとに静的計算を行う。
i)船は半載状態で、平均水面上に接岸係留する。
ii)係留索はHead line, stern line 共に各々4本(相当破断力は3本分)、前後のspringは各2本とし、配置は図2.3-8の要領とする。
iii)流れは、船首方向から船首尾線に沿って流れるものとし、その流圧抵抗Rcpと流速、水深比の関係は(2.3-5)式によるものとする。
iv)流圧に抵抗する係船索は、Head lines(4本)と後部Spring(After backspring 2本)のみとし、同種類・同径の索とする。
v)水位の上昇による係船索の残留張力比(Pi)は、図2.3-15の関係をもつものとする。
b)水位上昇時にSpring切断するときの限界流速
図2.3-15にみられるように、水位の変化に対する残留索張力は、Haed & stern linesよりもSpringの方が小さい。したがって、船に働く流れ強くなると、まずSpringが切断し、さらに流速が大きくなると、次にHead & stern linesが切れるという順序をふむ。このSpringが切断しない状態を接岸係留予告的な安全限界とみる。
この計画手段としては、(1)水位の上昇位置におけるSpringの切断するまでの残留伸び(⊿l)を求め、この残留伸びが船の圧流によって全くなくなる。つまりSpringが切断する船の後方移動量(⊿x)を求める。
次に(3)この⊿xによって生ずるHead linesの索張力を求め、(4)このx方向(船首尾方向)の張力成分とSpring破断荷重のx成分の和が、船体に働く流圧抵抗と等しいとみた関係式から流速の限界値を導き出す。
図2.3-17において、船上の係船点Siが水位の上昇⊿zによりSaiに位置し、圧流抵抗によって⊿x移動し、このため初めの索長liが伸び率εiをもつ索長l´iになったとすれば、既知のyi,z,⊿z,βiから次の関係式をうる。
(2.3-8)式
(2.3-9)式
(2.3-10)式
(2.3-8~9)式から、⊿xと⊿zとは次の関係式で示される。
(2.3-11)式
ここにε*iは(2.3-7)式から、
ε*i=(εi-0.1)/1.1 ………(2.3-12)式
i)Spring line(i=2)が切断する瞬間の⊿x
εi=0.5とおいた(2.3-12)式のε*iを(2.3-11)式に代入すれば、次式で求められる。
(2.3-13)式
ii)⊿xの移動によって増大するHead line(i=1)索張力
i=1とおいた(2.3-9)式の⊿xに(2.3-13)式を代入し、(2.3-8)式(2.3-10)式から、そのときのε*iを(2.3-7)式から求めて、εi(i=1)に対する図2.3-7のPi(i=1)を求める。
iii)索張力のx軸方向の張力成分の合計
l´1, l´2のx軸方向の張力成分l´1x´, l´2x´をP1x,P2xとすれば、図2.3-18から求められる。
Head line(3本相当)では
(2.3-14)式
Spring(2本)では、
(2.3-15)式
iv)限界流速(Vcc)
3P_1x+2P_2x=Rcpの式において、Rcpに(2.3-5)式を代入すると、限界流速Vcc(m/s)は次の算式となる。
式:Vcc
図2.3-19は、Vcc(m/s)を図示したもので、半載状態における水位上昇後のSpring切断時の流速を示す。1,000DWT型のVccが大きく出ているのは、保有係留索の太さが3,000DWTと同一径の索を使用しているためである。
c)水位4mの上昇時にHead lineが切断するときの限界流速
津波による水位の上昇が4mになると、前項の船型のSpringはすべて切断され、Head lineのみが残る。このような係留状態においても、なお、Head lines 4本で船首方向からの流れに耐抗しようとするなら、表2.3-14に示す流速で索が切断することになる。
試算にあたって、εiとpiとの関係は図2.3-7を部分的に拡大した図2.3-20を、H/dとCFとの関係は、図2.3-1を部分的に拡大した図2.3-21による読取値を用いた。
参考資料
[1] 稲垣紘史他、「けい船柱の標準設計(案)、港湾技研 No.102(1970.6月)
[2] 日本港湾協会:港湾の施設の技術上の基準、同解説 P2-11
[3] 海上保安庁、航海参考資料その1、運用編、書誌 No.811(昭和25.12月)P74
[4] 横田貞一、海難救助、海文堂(昭和35.11月)P221
[5] Admiralty,manual of seamanship, vol.3(1964)P114
[6] 関西造船協会編、造船設計便覧、海文堂(昭51)P403
[7] BSRA:Research investigation for the improvement of ship mooring method No.2(1969)P137
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2.3.2 岸壁係留船の動的な安全性
津波の水位上昇と流速による岸壁係留船の運動と、それにともなう係留索張力の変動について動的計算を実施して、安全性を検討した。
(1)計算条件
昭和56年度の資料に基づき、対象を船型500DWT, 3,000DWT及び10,000DWTの貨物船とした。表2.3-15に主要諸元を示す。また、計算に用いた各船の係留索の索種・索径及び破断力を表2.3-16に示す。
係留索の荷重伸び特性は、次に示す3種類の形で近似した。(図2.3-20)
(1)荷重時及び抜重時の特性が等しく、特性曲線が2次曲線である場合。(ただし、伸び率10%以下では索張力は0とする。)
(2)荷重時と抜重時の特性が異なり、ヒステリシス特性を有する場合。荷重時の特性曲線は2次曲線、抜重時の特性曲線は1次曲線とする。(ただし、伸び率10%以下では、索張力は0とする。)
(3)(2)と同様な特性を有するが、抜重時の特性曲線の傾きが(2)の倍の大きさである場合。
係留索の配置については、基本的には図2.3-21とし、2種類の配置を想定した。
(A)図2.3-21の索配置の場合。
(B)図2.3-21における、Head line及びStern lineの岸壁に対する水平角が45゜、Springのそれが30゜となるように索をかける岸壁のビットを変えた場合。
索の船上の係止点(F)と岸壁上係止点(B)の位置関係を表2.3-17に示す。同表中の(A),(B)は索配置の種類を示す。また、表2.3-18に係船岸のCDL、天端高及び水深を示す。
流圧抵抗(Rcp)は、下に示すように本報告書32頁の(2.3-5)式を用いて計算することとし、流れが計算開始直後に船尾から船首の方向に流れるように流向を設定し、この流向を(+)とした。
Rcp=0.21・Aw・Vc^2・C_F
(Aw:浸水面積、Vc:流速、C_F:補正係数)
水位については上昇を(+)とし、索配置(A)の計算においては水位の位相が流速の位相より90゜遅れるように、また、索配置(B)の計算においては同様に90゜遅れる場合と、位相が等しい場合の2種類の状態を設定した。
計算を行うにあたっては、索張力の船首尾方向成分のみによって船体の前後動を計算し、フェンダの摩擦力等は最悪の場合を考えて無視した。計算は最大で1周期の時間範囲について行うこととし、索張力が表2.3-16に示す破断力を越えた場合はそこで計算を終了させた。
(2)計算ケース
「清水港内流速・水位計算」の結果を参考にして、周期は10分の場合についてのみ計算を行うこととした。表2.3-19に索配置(A)についての計算ケースを示す。索の特性の違いの影響をみるため、索特性(1)と(2)を比較する目的で計算番号1及び4を行った結果、両者には大きな差があるため、より現実の索特性に近いようにヒステリシス特性を考慮することとした。ヒステリシスを有する索特性(2)と(3)を比較する目的で計算番号2,3及び8,12を行った結果、大きな差がみられないため計算番号4~22では1種類の索特性(2)についてのみ計算を行った。計算番号4~7は500DWTの船型についての計算であり、4~6は最大流速2m/sで最大水位を変えた計算である。計算番号8~12は10,000DWTの船型についての計算であり、計算番号8~11は最大流速2m/sで最大水位を変えた計算である。
表2.3-20に索配置(B)についての計算ケースを示す。計算番号13~15は水位の変化と流速の変化との間に、計算番号1~12で考えたのと同様の位相差がある場合についての計算であり、計算番号16~22は水位の変化と流速の変化との間に位相差が無い場合についての計算である。16~22は最大流速2m/sでの限界を見るために最大水位を変えた計算である。
(3)計算結果
a)索配置(A)について
計算番号1及び4は、500DWTの船型についてヒステリシスの有無の影響をみたものである。表2.3-21及び図付1(付録2・7・4の図番号を示す。以下同じ)、付4に示すように船体の最大前後動の大きさや索張力の大きさについても、また、その変化の様相についても両者には大きな差があり、ヒステリシス特性を考慮した、より現実に近い索の特性を入れた計算の方が前後動や索張力の大きさが大きいことから、計算番号2~12では索は、ヒステリシス特性を有するとして計算を実施することとした。また、抜重時の索の特性を変えた計算を10,000DWTの船型について、計算番号2,3,8,12で行ったが、数値及び時間特性には大きな差がみられないため、過去の実験例を参考にして、計算番号4~12にでは索が(2)の特性を有するものとして計算を実施することとした。
計算番号4~6は、500DWTの船型について最大流速が2m/sの場合に最大水位を変化させて、その影響をみたものである。同様に計算番号8~11は、10,000DWTの船型について最大流速が2m/sの場合に最大水位を変化させてその影響をみたものである。計算番号4,5及び8,9,10において最大水位が大きくなるにしたがって、最大前後動量は徐々に大きくなるものの、最大索張力は、反対に徐々に小さくなる傾向が、500DWTの船型についても10,000DWTの船型についてもみられた。想定最大水位がある値を越えると、最大索張力は反対に急激に大きくなる傾向がみられ、特にFore springでその傾向は大きく、索長が4.73mと短かい500DWTの船型においては、想定最大水位が2.0mの場合にFore springの索張力が破断力7.05トンを越えた。本節2.3.1によると、流速が0の場合、500DWTの船型については約2.3mの水位上昇で、また、10,000DWTの船型については約4.1mの水位上昇でSpringの張力が破断力を越えており、500DWTの船型については、水位上昇とともに流圧を受ける場合には、この水位上昇量よりも小さな上昇量で索の張力は破断力を越えるということができる。
計算番号7は500DWTの船型について、計算番号12は10,000DWTの船型について想定最大流速が4m/sで、水位変化のない場合について計算したものである。最大流速が2m/sの場合と比較すると、500DWTの船型の場合については最大前後動量及び最大索張力は大きくなっており、Springについては、索張力は約2.8トンとかなり大きくなっている。10,000DWTの船型の場合、想定最大流速が4m/sではFore springの索張力が破断力26.4トンを越え
た。本節2.3.1によると、水位の上昇が無い場合、約4.4m/s(約8.5ノット)でSpringの索張力が破断力を越えており、静的計算よりも小さな流速で索の張力が破断力を越えている。静的計算においては、500DWTの船型の方が10,000DWTの船型よりも大きな流速に、水位上昇が無い場合耐えられ、また、水位上昇の影響は、500DWTの船型において著しいと報告されている。計算番号4,7で500DWTの船型について、計算番号8,12で10,000DWTの船型について示したように、今回の計算においても前者の方が大きな流速に耐えることができた。また、計算番号4~6で500DWTの船型について、計算番号8~11で10,000DWTの船型について示したように、想定最大流速が2m/sの場合500DWTの船型については、Springの索張力が想定水位上昇2mで破断力を越え、静的計算と同様の傾向を示している。しかしながら、索張力についてみた場合、今回の計算の方が大きな数値を示しており、500DWTの船型の場合、静的計算では水位上昇量が2mの場合、流速約7.4m/s(約14.3ノット)でSpringの索張力が破断力に達するのに対し、今回の計算においては同じ水位上昇量の場合、流速2m/sでSpringの索張力が破断力を越えており、その数値に大きな差がある場合がある。計算条件に多少の違いがあるものの、今回の計算の方が大きな最大索張力を示し、そしてその差が大きくなる場合があることについては注意する必要がある。
図付・1~付・11に計算番号1~10及び12の計算結果を示す。図には2秒毎の計算結果を示し、索張力が破断力を越える場合については、越える直前の計算結果までを示した。
索の特性の異なる図付・1と図付・4とを比較した場合、最大流速及び水位変化量についての条件が等しいのにもかかわらず、索の特性が(2)の場合の方が変化の周期が短かく、また、索張力の変化は大きい。Springの索張力についてみた場合、流向が反転した直後に大きな索張力が現れる場合がある。(図付・4-2、付・5-2)10,000DWTの船型については、この傾向は顕著ではないが、同じ最大流速の場合水位上昇量が大きくなるにつれ、流向が反転する前後のAfter springの索張力は最大時と比較すると小さくなっている。(図付・8-2、付・9-2、付・10-2)Head lineについては、流向が反転した直後に絶対値としては小さいが最大値との比でみた場合では、大きい索張力が現れる傾向がある。前後動及び索張力の周期についてみた場合、500DWTの船型の方が周期は短かく、最大流速2m/sの場合約15~20secであるのに対し、10,000DWTの船型の場合、同じ最大流速で約45~50secである。
図2.3-22に計算結果をまとめて簡単に示す。
b)索配置(B)について
計算番号13~15は、索配置(A)での計算と同様に水位の変化の位相が流速の変化の位相よりも90゜遅れている場合について、索配置(B)での係留した計算である。表2.3-22および図付・12、付・14に示すように、船体の前後動の大きさや索張力の大きさについても、また、変化の様相についても、索配置を変えた影響はあまり顕著にはみられない。
計算番号16・17は500DWTの船型について、最大流速が2m/sの場合の最大水位の影響をみたものである。同様に、計算番号18~20は3,000DWTの船型、計算番号21・22は10,000DWTの船型について、最大流速が2m/sの場合の最大水位の影響をみたものである。
計算番号16~22においては、水位の変化と流速の変化の間に位相差がない条件で計算を実施した。500DWTの船型については、設定最大水位が2mの場合Springの張力が破断力を越えた。3,000DWTの船型については、最大水位が5mの場合では、いずれの索の張力も破断力を越えてはいないが、Springの張力は破断力16.5トンに近い数値になっており、最大水位が6mの場合にはSpringの張力は破断力を越えるものと思われる。10,000DWTの船型については、設定最大水位が5mの場合Springの張力が破断力を越えた。
図付・15~付・21に計算番号16~22の計算結果を示す。水位の変化と流速の変化との間に位相差がないとしたことにより、船体前後動等の変化の様相は、計算番号4~12とは大い異なる。船体前後動について述べれば、水位が上昇している間の移動量が極めて小さいこと、水位の下降とともに船体は流圧の影響を大きく受けるようになること、そして、それに付随して船体前後動に索の影響による短周期運動が顕著にみられるようになることが特徴としてあげられる。
図2.3-23に計算結果をまとめて簡単に示す。
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2.4 浮標係留船及び錨泊船の津波による挙動と安全
2.4.1 浮標係留船の前後係留
(1)清水港木材船バースにおける前後係留の現状
木材船バースの係船浮標は、図2.4-1に示すように折戸湾内にあり、3個の浮標は、それぞれ三角形の頂点に位置するように設置されている。図中の●印は、その現在位置を示す。
図2.4-2は、前後係留の一例を示し、係船浮標の構成主要目を表2.4-1に、各浮標の詳細図を図2.4-4・図2.4-5・図2.4-6に、また、係留船の主要目、及び係船索の取り方等については、表2.4-2・表2.4-3・図2.4-7に示す。
以下、述べる前後係留の安全性検討については、これらの係留船(木材運搬船)を対象とする。
(2)浮標の係駐力
a)基本式
図2.4-8のように、3本の地鎖(ground chain)が、Y字型に埋設された単浮標係留施設を考え、外力方向に引張ったときの係駐力を求める。ここでいう係駐力とは、アンカーの把駐力と海底に横たわる錨鎖の摩擦抵抗力の和をいう。
仮定として、シンカーの係駐力は全周からの外力に対して効くものとし、また、ムアリング錨と地鎖のもたらす係駐力は、外力と反方位線をはさむ地鎖と、錨のもつ係駐力のみの合力とする。表2.4-4に計算要素と計算係駐力を示す。
図2.4-8に示す方向の係駐力Fθは、次式で与えられる。
(2.4-1式)
b)清水港木材バース各浮標の係駐力
折戸湾内の木材バースNo.1~3各浮標の係駐力を、流向方位150゜に対し(2.4-1)式で算出する。この流向については、図2.4-1から巴川のA点から貯水場水門の中央B点に至る方位150゜とする。
(3)船に働く流圧力及び流圧モーメント
a)算式
静止している船体に働く流圧力及び流圧モーメントは、SR155部会の資料(日本造船研究協会:SR155部会、係船システムの研究、資料No.269(昭和52.3)P170)から次式で求められるものとする。
(2.4-2)式
(2.4-3)式
(2.4-4)式
ここに船の重心を船体中央とし、重心Gと流圧中心Eとの船首尾線上の水平距離をaとすれば、(2.4-3)式、(2.4-4)式から
(2.4-5)式
(2.4-6)式
(2.4-7)式
(2.4-8)式
b)3点浮標に前後係留した場合、方位150゜の流れを受けたときの船体に働く流圧力と流圧モーメント
仮定として流速Vc=3m/s、水深H=10.5mとおき、図2.4-2のような係留状態にある各船(満載)に潮流が働いたとき、流圧力と流圧モーメントを前述の算式から求めると、表2.4-5のような計算結果となる。
表2.4-5に示すごとく、船首尾線方向に働く流圧力Fcxは、横の流圧力Fcyに比して著しく小さいので、その合力F_Rは、横の流圧力とほぼ等しく、合力は船首尾線とほぼ直交しているとみることができる。
c)船体に流入角Φc=0゜,45゜,90゜の流れを受けたとき、船体に働く流圧力と流圧モーメント
表2.4-5の船に対し、正船首(Φc=0゜)斜め方向(Φc=45゜)、正横(Φc=90゜)から3m/sの強い流れを受けたとき、船体に働く流圧力と流圧モーメントの計算結果を表2.4-6に示す。
浮標に前後係留した船は、流れを斜めから受けるほど、前後係留索は図2.4-12に示す平衡状態となり、非常に大きな張力を受けるようになる。この状態を持続することは危険で、流下側の係留索を解き放し、一点係留状態にする必要が認められる。
(参考1)前後係留索をたるませたときの静的平衡状態
図2.4-12に示すように船に働く力、T_1,T_2,F_R 3力が釣合うためには、図上ではそれぞれの作用線が一点0に会する必要があり、式では力とモーメントが釣合う次式を満足しなければならない。
式:ΣX・ΣY・ΣN
(4)強い流れに対する木材船バースの対策的な係留方法
木材船バースに方位150°の強い流れが生じたとき、表2.4-4に示すように、各浮標が保持する計算係駐力は、表2.4-5の各船に働く前後方向の流圧力と比較すれば係駐力に余裕はあるが、特にNo.2,No.3浮標に前後係留するA船の場合は、流速3m/Sの流れが働くと、強烈な正横流圧力のため係留索を切断し、船は流される危険性があるので適当でない。
したがって、図2.4-2の現在実施されている係留法は、図2.4-13に示す次の対策を講ずることにより、一層の安全性を確保できるものと思われる。
a)No.2とNo.3浮標に前後係留する船Aは、港外に避泊させるか、図2.4-13に示すように、船首は方位320°に立てて両舷錨鎖の水平開き角20°としたOpen moorの状態とし、船尾はNo.3浮標に係留する。
b)No.1とNo.2浮標に前後係留する船Bは、出船つなぎとし、片舷の投錨準備をしておく。
c)No.1,No.3に船尾浮標係留、船首Open moorのD船・E船は、折戸湾内の水域事情から適当である。
d)浮標係留用索は、強度とショック吸収の点からChainの方が望ましい。
e)Open moorをする場合、両舷錨鎖の長さは5節以上とし、両舷錨鎖の開き角を大きくせず、20°程度が適当と思われる。
潮流下の振れ回りと、それによる錨鎖張力の大きさについては、推定(参考2)に必要な計算要素の資料が得られないので、この点については今後研究すべき課題である。
(参考2)振れ回りによる錨鎖張力の推算
重心Gに対する回転運動方程式は図2.4-14より、
式:I・φ
ここにFcy・a=Mcφの流圧抵抗モーメントであるから上式に代入すると
式:T
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2.4.2 流向が変動する際の係留船の挙動
(1)水槽模型試験の実施
本水槽模型試験は、港内または港内付近に一点係留方式で係船されている船舶が、津波によって係船索が張られた状態に戻り流が作用して船舶が逆方向に張られる過程において、係船索に働く張力を概略的に把握することを目的として実施したものである。
(2)供試模型船
今回の水槽模型試験に使用した模型は、保有していた大型タンカー模型である。その主要目を表2.4-7に、船型の概要を図2.4-15に示す。
(3)試験方法
誠験は、海洋構造物試験水槽(長さ40m、幅27.6m)において水深1.2mで行った。
図2.4-16の上図に示すように模型船を7×7のステンレスワイヤロープ(1.0mmφ)と、係船索に働く張力を計測するリングケージとを介して架台に係止した。
模型船は、係止点に対して2.0mの範囲で挙動できるような係船索長で係船されている。
なお実際に則し、係船浮標を想定して上流における拘束位置は、係船浮標を通る流線上より0.71BShiftしてある。ただし、水槽模型実験では、そのずらした影響についても調べた。
試験は、表2.4-7に示す状態で時計回りと反時計回りとを行った。
(4)試験結果及び考察
今回の実験を省略して、一様流中における船の振れ回りと呼ぶこととする。
一様流中における船の振れ回り試験時の係船索に働く張力の記録例、船の大略的な姿勢及び経過時間を図2.4-17の(1)(2)(3)に示す。
この図から判るように、模型は初期拘束位置(A)から一様流れに乗って係船索が緊張する(B)まで直進し、ここで、係船索にF_1なる張力が働き、その後、模型の船尾が外側に回転(C)しながら係船索に複雑な張力が働く(F_2はその中の最大値)、そして、模型が180°すなわち反対側に流されて係船索にF_3なる張力が働く、その後は一般にいわれている一点係留方式の振れ回りが生じる。
ここでは、通常の振れ回りによって係船索に働く張力は別途考えるとして、前述のF_1,F_2及びF_3だけを取り扱うこととする。
まず、流速を変化させて係船索に働いた張力のF_1,F_2及びF_3を実測値で示したものが、図2.4-18の(1)(2)(3)である。図中の丸印はShiftが零の場合で、三角印はShiftが0.71Bの場合であり、模型の時計回り及び反時計回りは約半分づつ行っている。
これらの図から、実測値の単純平均線を実線で示すように、F_1,F_2及びF_3とも流速に対して非常に複雑である。そこで、実測値の最大を直線(破線)で結ぶと係船索に働く張力としては、いたって安全側になるが、流速変化に対して大略傾向を示すことが判る。
なお、Shiftが零の場合と0.71Bの場合では、係船索が14度程度の差を生じるが、係船索に働く張力にすれば3%程度小さくなるといえる。
図中の直線を用いてF_1,F_2及びF_3を排水量(△)との比を求めると、
F_1≒0.30*△*U
F_2≒0.08*△*U≒0.27F_1
F_3≒0.12*△*U≒0.4F_1
となり、F_1が最も大きく、次にF_3がF_1の40%程度であり、F_2が最も小さくF_1の27%程度である。
ここで、注意すべきことは、船舶の係船浮標への突入である。
つぎに、排水量を変化させて係船索に働いた張力のF_1,F_2及びF_3を実測値で示したものが図2.4-19である。
この図からも、係船索に働く張力は、安全側に取って図中の実線で予測することとした。この直線からは、
F_1≒O.0357*△≒O.305*△*U
F_2≒0.0114*△≒0.097*△*U≒0.32F_1
F_3≒0.0177*△≒0.151*△*U≒0.50F_1
が得られる。その結果は、前述の流速変化に対して求めたF_1,F_2及びF_3との関係が大略一致する。
以上の結果を集約して、F_1に対するF_2及びF_3の関係を概ね予測すると、次の関係にあるといえそうである。
図:F_2・F_3
したがって、F_1を精度よく推定できれば、上式の関係からF_2及びF_3が予想できる。
そこで、係船索に働く張力のF_1を単純な仮定に基づいて再解析する。直進している物体を急激に停止させる時に要するエネルギーを、次式で求められるとする。
式:E_0
である。この場合のE_0は力積であるため、正確にはF_1を積分すべきであるが、ここでは簡略化して三角形で近似する。
図2.4-18の(1)のF_1について、E_0を求めた結果を図2.4-20に示す。
そして、各実験点の一番低い値を除外して単純平均をした点は、図中に実線で示すように大略E_0はUに比例していることが判る。したがって、破線で近似すると、
E_0≒0.15*△*U
なる関係式が求まる。
船の排水量及び流速が設定されれば、係船索と係船浮標の係留を考慮してTを設定すると係船索に働く張力のF_1,が求められる。
参考(1)係船浮標が索でtaut(45°)に係留している状態に対して、鎖でslackに係留している状態では、船舶の衝突によって係留ラインに働く張力は約1/10程度である。
(2)係留索を合成繊維ロープにすると、作業時間が伸びをほとんど考慮しない索(今回の試験に用いた係船索)より約3倍程度長くなるといえそうである。
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2.4.3 津波による船舶の漂流と浮標係留船、錨泊船の安全
(1)まえがき
津波の流向が変動するときの浮標係留船の挙動を調べるために、模型実験を行った結果について本節2.4.2に述べた。
この実験は、一定の流れの中で、流れに沿って流上に係留索を張った状態を初期状態とし、突然拘束を解いた場合を調べたものであるので、実際に津波が来襲した場合と次の点で異なる。
a)津波が起る以前に、その場の風・流れに立って静止していた船が、津波によって、ある方向の強い流れを受けて、流れに立つようになる。その間、流速は0からだんだん大きくなる。
b)また、流れに立っていた状態から津波の流速が弱まり、その後、ほぼ反対方向から強い流れを受けるようになり、船は流下に流されて、係留索や錨鎖が張り、船が回頭して流れに立つようになる。
実験は、上記b)の状態を想定した基礎的実験であるが、実際は、流れがだんだん強くなって行く点が異なる。
c)また、係留索の状態は、実験では4.5m模型船に対して2mの長い弾性係数の大きい索を用いており、係留索が張るまでに、ほぼ船の長さ移動し、速度もかなり大きい(流速の80~90%)状態での船の運動エネルギーを係留索が吸収するような状態で、係留索に大きな衝撃的張力がかかっているが、実際は、浮標係留では船の移動量は、それほど大きくならないで係留索が張り始めることになり、その際の船の速度は、実験状態ほど大きくはならないであろうと考えられるし、浮標系の弾性吸収エネルギーは、実験状態での係留索のそれよりずっと大きいから、最大張力は小さくなることが予想される。
錨泊状態では、船の移動量はかなり大きくなることが予想されるが、錨鎖系の吸収エネルギーは、やはり係留索よりずっと大きいことが考えられる。
一方、実験中の船の挙動で、流れに沿って船尾から流れを受けると、船はほとんど旋回運動をすることなく、流下に流れて行き、係留索が張って船首が拘束された後、流れに立つような旋回運動が始まるということは、実験によって得られた貴重な知見である。
そこで、ここでは船首尾方向から津波による流れを受け始めたとき、無拘束の状態で、その姿勢を保ちながら流れるとすると、漂流速度や距離はどのように変化するかをまず調べてみることとした。
そして、浮標係留状態、錨泊状態で津波を受けた場合、係留鎖索が働き始めるまでに、船の速度がどの程度に達するかを調べ、その船の持つ運動エネルギーを、係留索が無理なく吸収できるかどうかを検討することとした。
(2)津波による船舶の漂流(無拘束状態)
津波の水位変動は考えず、流速変動のみを考え、流れの中での船の運動を次式で示すことにする。
(2.4-9)式
この式は、船の流圧抵抗を相対流速に比例するとみたものである。Кは比例常数
実際は、流圧抵抗は相対流速wの2乗に比例するから、流圧抵抗を相対流速により図のように折線で近似することとした。
そうするとRw=К_1w^2として
式:К・V
のように表わすことができる。
(2.4-9)式の解は、α=К/mとして、
(2.4-10)式
移動距離は
(2.4-11)式
P,Cは、積分常数で、次のような初期条件から求めることができる。
式:i)・ii)
…以下同じ
計算例
Lpp150m船を対象として、U=3m/s,T=10mm,20mm,H/d=1.2として
(1)船首尾方向からの流れを受けた場合の計算結果は図2.4-21、図2.4-22のようになる。但しw_1=1m/s,w_2=2m/s,w_3=3m/sとする。
図にみられるように、津波の周期が長くなると最大漂流速度は大きくなるが、0.5m/sに達するときの時間と移動距離は、周期10分では約3分で35mであり、周期20分では約4.2分で40mとなる。
(2)流れを、流圧モーメントが0に近い船首よりほぼ80°附近から受けた場合について、船がそのままの姿勢で流れるとして、津波周期10分について求めると、図2.4-23のようになる。
図にみられるように、横の流圧力は大きいから漂流の最大速度は非常に大きくなる。0.5m/sに違するのは50秒程度で、移動距離は9mである。
(3)係留系の吸収エネルギー
a)錨泊の場合
右図のように錨鎖の水平力H=0のAの状態から流れを受けて船がA→B→Cと移動するにつれて錨鎖の水平力は増大し、一直線に張った状態では、右図のようにH=∞となる。その間、海底にねていた錨鎖は、もち上げられる。
これにより、錨鎖が吸収する最大エネルギーは、錨が動かないものとして、
(2.4-12)式
で求められる。
実際はHが錨鎖系の最大把駐力をこえると、錨は動き出し、錨が海底を引かれる抵抗により、
∫Rdx の吸収エネルギーが船の運動エネルギーを吸収することになる。
錨鎖系の最大把駐力は、
(2.4-13)式
よりSを求めることによって、求めることができる。
b)係船浮標系の場合
係船浮標系についても、錨泊の場合と同様に考えれば
(1)一本の地鎖と浮標係留鎖が直線状に張られるまでの吸収エネルギー
(2)シンカー及び沈鍾鎖が海底上に引き上げられることによる、位置のエネルギー
(3)他の2本の地鎖が垂直に引き上げられる位置のエネギーの和として、浮標系の最大吸収エネルギーを求めることができる。
ただし、実際は地鎖及び浮標係留鎖が直線に張られる前に、錨が引けることになろう。
計算例
(1)錨泊時の静的な最大把駐力
Lpp150m型船が次のような状態で錨泊しているものとする。
錨鎖伸出長 L=220m(8節)
y=20m
錨重量 5.7t
錨鎖径 60mm(83kg/m)
錨把駐係数 λw=4
錨鎖把駐係数 λc=0.75
(2.4-13)式について計算すると、最大把駐力に達するときの錨の懸垂部の長さは、127.26mで、そのときの最大把駐力は、28.57tとなる。
(2)錨泊状態での吸収エネルギー
上記(1)のような状態で錨泊している場合の、錨鎖のカテナリー部の最大吸収エネルギーを(2.4-13)式により計算すると、次のようになる。
式:∫ Hdx
H=0からH=∞までの移動距離 D=19.09m
(3)係船浮標の吸収エネルギー
清水港折戸湾のNo.2及びNo.3浮標について計算すると、下図及び下表のようになる。
(4)津波来襲時の単浮標係留船の安全性
静的にみた流圧力と浮標の係留力との関係については2.4.1で検討されているので、ここでは、流向・流速の変動とそれによる船舶の漂流が、係留の安全にどのように影響するかを調べてみる。
前節で、係船浮標の吸収エネルギーを錨が動かない場合について求めた。したがって、この点よりみれば、船の運動エネルギーが求められた係船浮標の吸収エネルギーより大きければ、余分のエネルギーは錨を引きづって吸収することになる。それ自体が直ちに危険とはいえないとしても、変動する流向・流速によって、そのような状態が繰り返されるならば、安全とはいい得ない。
そこで、ここでは、
(船の運動エネルギー)≦(係船浮標の吸収エネルギー)
の状態を安全性の判断の目安とすることとする。
係船浮標の吸収エネルギーは、150m型船について求められているから、これが、この船のどの位の速力に相当するかを調べると、
E=1/2 W/g v^2
で、L×B×d×Cb=150m×24.6mx9.Om×0.7の船についてみると、下表のようになる。
この速力は、ある方向の流れが始まって船が移動し、係留索張力が無限大になる位置まで無拘束の状態で移動したと考えたときの船の漂流速度と考えるのが、漂流速度が増加傾向にあるときは安全側にあり、漂流速度が減少しているときは、水平力0でこれから係留索張力が増し始めるときの漂流速度とみるのが安全側である。
本項の(2)で考察し、計算例で示したように、上にのべた漂流速度は、ある方向の流れが始まってからの船の漂流距離を、実際に起り得る状態を考慮しながら考察し、それに相当する漂流速度を調べるのがよい。そこで、次の二つの場合について、計算例をもとに検討してみる。
a)津波の第一波が来襲するとき
単浮標係留で津波がくる直前の状態は、その場での風や流れ、あるいは、その合成方向に船は向いており、初期姿勢は津波の流向に対して不定である。
そこで、比較的影響の大きい状態として、
i)右図のようにAの状態の船に、船尾から津波の第一波を受け、船が前進してBを通りCで係留索が張る状態を考える。
この場合、AからCまでの船の移動距離は37.65mとなる。したがって、図2.4-21・図2.4-22よりC点に達したときの漂流速度を求めると、下表のようになり、安全限界速度を越えることになる。
ii)また、右図のAのような状態を初期状態とすると、図2.4-23よりCに達したときの漂流速度は、0.55m/sとなり、やはり、限界速度を大幅に超えることになる。
b)津波の第一波がくる前、右図のAのような状態にあったとして、第一波の返しとして、反対流向の流れが作用する場合
この場合、第1波が来襲するときは、船が後方に下って係留索が張るまでの移動距離は小さいから、漂流速度も小さく、むしろ強い流れを受けての振れ回わり運動にともなう張力変動が、まず問題になる。
しかし、流速3m/sとしたとき流圧力は12tで、振れ回わりによる張力変動は資料がなく不明であるが、風による振れ回わり運動を参考とすれば、正面流圧の3倍を超えることはないとみられるから、錨・沈鍾の把駐力で対応できると思われる。
その後、流速が小さくなって0になると、Bのような状態となり、その後反対方向の流れが始まり、船が前進の漂流を始める。このような状態で、船が前進して係留索が張るまでの移動距離は38.9mとなる。したがって、この場合は、a)のi)で検討したのと同様程度で、やはり安全限界をこえる漂流速度に達することになる。
以上の結果よりみて、津波による漂流を考慮した場合、単浮標係留は安全であるといいきれない。
浮標係留による安全性を保とうとすれば、津波の流向に船を立てて、前後係留とし、漂流による移動量を少くすることが必要であると考えられる。
(5)単錨泊船の安全性
a)流れを受けて振れ回わり運動をする場合
流れの中での振れ回わり運動と、それにともなう錨鎖張力の変動については、先に述べたように、資料がなく不明であるが、風による振れ回わり運動より類推すると、単錨泊の場合は、浮標係留より船の拘束度が弱いので、大きな振れ回わり運動をすることが考えられる。
したがって、錨鎖にかかる最大張力は、正面流圧の4~5倍に達するおそれがある。
本項(3)で述べたように、150m型船で8節錨鎖を延していたときの最大把駐力は28.57tであるから、この把駐力で耐え得る正面流圧は、振れ回わりによる錨鎖最大張力を正面流圧の4~5倍として、7.2~5.7tである。
この正面流圧に相当する流速は2.32~2.07m/sである。
b)錨泊していて津波が来襲する場合
この場合も、津波来襲直前の船の姿勢は、その場の風・流れの影響を受けているので不定であるが、浮標係留と比較すると、船が漂流して錨鎖が張るまでの移動距離は、ずっと長くなる可能性がある。したがって、本項(2)で計算した最大漂流速度に近い速度に達することが十分考えられる。
一方、Lpp150m型船で8節の錨鎖を伸出していた場合の錨鎖の吸収エネルギーは、144.72t・mである。
この吸収エネルギーに等しい運動エネルギーを持つ船の速度は、0.345m/sである。
したがって、この値を安全な最大漂流速度と考えると、津波の最大流速は、津波周期10分の場合は、津波の流速3m/sに対する最大漂流速度が0.68m/sであるから、両者が比例するものとして略算すると、
0.345÷0.68×3=1.52(m/s)
津波周期20分では 0.95(m/s)
となる。
以上、a)・b)を総合した場合、津波来襲時に錨泊の安全を保つためには、津波の最大流速が1.5m/s以下の場所に錨泊する必要がある。
その場合も、船の初期姿勢を考えた場合十分安全とはいえず、機関のスタンバイは勿論のこと、流向・流速の変更に注意を払い、走錨を起さないよう十分な監視と適切な操船が必要である。
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2.5 沖出し小型船の安全性
2.5.1 沖出し小型船の耐波性の数値計算
警戒宣言が発令されると、港内停泊船は原則として港外へ避難する方針となっている。その場合、小型船にあっては、気象・海象の影響を強く受けるので、どの程度の海象まで沖合で安全に船を保持できるかを予め検討しておき、港外避航の指針を作っておく必要がある。そこで、波浪中における船体動揺の理論計算により、小型船の耐波性を求め、安全に避泊できる波浪の限界値を推定した。
(1)対象船
検討の対象に選んだ船は、清水港-松崎間に就航している180GT型鋼製旅客船である。本船は、冬季を除く4月~10月の期間に就航している。船の要目を表2.5-1に、正面線図を図2.5-1に、一般配置図を図2.5-2に示す。本船の航行区域は沿海である。
(2)計算条件
沖出しの場合には、当然旅客は下船した状態であるが、船体運動の計算は計画満載状態に対して行った。計算はストリップ法〔1〕により行われた。
船体運動としては規則波中における縦揺れ、上下揺れ、左右揺れ、船首揺れ及び横揺れを、波長/船長比(λ/L)が0.4~10の間に対して計算した。これを基にして、規則波中における船側の相対水位の変動応答を船首部(F.P.)、船体中央部(midship)、船尾部(A.P.)について計算した。
次いで実際海面におけるこれらの応答の性質を示すため、不規則波中における応答を計算した。不規則波のエネルギースペクトラムとして、Moskowitz-Pierson型のスペクトルを採り、平均波周期は4秒・5秒・6秒・7秒・8秒の5種類を選んだ。波スペクトラムの形を図2.5-3に示す。
船速はゼロと3ktで前進中の2種類、波との出会角は正面向い波(χ=180°)と、船首方向から30°だけ偏った斜め向い波(χ=150°)の2種類を、それぞれとった。
(3)計算結果及び考察
本船が港外に避泊し、荒天に遭遇した場合、波に船首を立てるよう操船することが可能であると仮定し、船が正面向い波中で船速が3ktの微速前進状態の計算結果を中心に考察する。
a)規則波中の船体運動
規則波中の縦揺れと上下揺れの振幅応答を図2.5-4及び図2.5-5に示す。図中の実線は船速ゼロ、点線は3ktの場合をそれぞれ示す。図の横軸は√L/λ(Lは船の垂線間長、λは波長)で表されており、縦軸は縦揺れ角を波の最大波傾斜角で割った値(θa/kζa,k=λ/2π,ζa波の振幅=波高の1/2、θa:縦揺れ振幅)及び上下揺れ振幅(Za)を波の振幅で割った値である。船速が低いので縦揺れ、上下揺れとも、波の表面の動きよりかなり小さい応答である。
次に船首部(F.P.の側面)、船体中央部及び船尾部(A.P.の側面)における船側相対水位変動の振幅応答を図2.5-6及び図2.5-7に示す。図2.5-6は船速ゼロ、図2.5-7は3ktである。図中の線は、実線が船首部、点線が船体中央部、鎮線が船尾部をそれぞれ示す。これらの図によると、√L/λ=1.4、即ちλ/L=0.5の付近で船首部の相対水位変動が最も大となり、波振幅の約2倍となることがわかる。船体中央部と船尾部の相対水位変動は、船首部に比べて小さく、最大でも波振幅程度である。
b)不規則波のエネルギースペクトラムをSw(ω)、船体運動の振幅応答をA(ω)とすると、不規則波中の応答のスペクトラムSr(ω)は、線形重ね合わせの理論が適用されるとして、次式により求められる。
Sr(ω)=IA(ω)I^2・Sw(ω)…………(2.5-1)式
正面向い波中における縦揺れ及びF.P.船体中央部A.P.における船側相対水位変動のスペクトラムを、図2.5-8~2.5-11にそれぞれ示す。図中の実線は船速ゼロに、点線は船速3ktに対応する応答のスベクトラムである。
スペクトラムの面積、即ち
(2.5-2)式
が、応答の分散σ^2を表し、応答のエネルギーEと次の関係にある。
E=2σ^2 ……………………(2.5-3)式
不規則波中における応答の振幅の出現確率は、このEの値を用いて求めることができる。〔2〕(表2.5-2参照)
相対水位変動のスペクトラムより求めたσの値を表2.5-3に示す。これによると、船首部の相対水位変動は最も大きく、次いで船尾部、船体中央部の順になっている。
表2.5-2に示す関係を用いて、N=50に対する最大振幅の期待値を表2.5-3に示してある。即ち、荒天中において甲板上への海水打込が50波のうち、1回程度が船の耐波性の限度と仮定する。この表の数値は有義波高が1m対するものである。この値は、有義波高に比例すると考えることができるから、有義波高に対する最大振幅期待値H_N=50は図2.5-12、図2.5-13のようになる。
c)海水打込の限界波高
海水打込の限界波高を求めるため、図2.5-12と図2.5-13の図中に、船首部・船体中央部・船尾部におけるブルワーク上端、上甲板縁の水面上高さの値を横軸に平行な線で表している。船首部では、そのほか、フォクスルデッキ縁の水面上高さの線を記入している。
例えば、図2.5-12において、H_N=50=3.25(m)の線が、H_N=50~H1/3の斜めの直線と交る点のH1/3の値をとると、これがF.P.のプルワーク上端を越えて海水打込が50波に1回起きる海象の有義波高である。
このようにして求めた限界波高の値を表2.5-4に示す。
これらの結果から定性的に次のようなことが言える。
i)ブルワーク上端が海水につかる波高は、船首部に対するものが最も小さく、船体中央部に対するものが最も大きい。船首部のブルワーク上端が海水につかる波高は、船体中央部や船尾部のブルワーク上端が海水につかる波高のほぼ1/2である。また、船尾部と船体中央部ではあまり差がない。
ii)上甲板縁が海水につかる波高は、ブルワーク上端が海水につかる波高のほぼ1/2である。これは、それぞれの水面上高さに比例するためである。
iii)船首部のブルワーク上端が海水につかる波高と、船尾部の上甲板縁が海水につかる波高はほぼ等しい。
d)海水打込限界の波浪の出現頻度
表2.5-4に示すような波の出現頻度を調べれば、港外避泊船が耐波性の面から危険であると考えられるような波浪に遭遇する確率が明らかとなり、避泊船の安全対策の指針が得られる。
波浪観測データの統計として、清水港あるいは東海地方の海岸に関するデータが見当らないので、太平洋岸に面した場所として代りに、鹿島港及び波浮港の波浪データと対照してみることにする。
表2.5-5は鹿島港を、表2.5-6は波浮港を示す。表中に示した実線は、船首部のブルワーク上端を越えて海水打込が起こる限界波高線を表し、点線と鎖線はいずれも船首部のフォクスルデッキ縁及び上甲板縁が海水につかる限界波高を示している。
これらの限界線が通っている枠及びそれより高い波高の枠の中の数字を足し合わせると、海水打込の起こる海象の出現頻度が求まる。それを示したのが表2.5-7である。
この表から概略次のような結論が導かれる。
i)船首部のブルワーク上端が50波に1回の割で海水を冠るような荒天が出現することは、非常に稀れである。
ii)船首部のフォクスルデッキ縁が50波に1回海水につかるような荒天は、約2%の出現頻度である。
iii)船首部の上甲板縁が50波に1回海水につかるような荒天は、約10%の確率で出現する。
上記の結果は、年間を通しての値であり、季節によって変動することに留意する必要がある。即ち、波の高い季節では上記の数字も当然大きくなる。
船の操船の目安で言うならば、上記の値は船が正面向い波中を3ktの微速前進で荒天支船を行っている場合のものであり、船速がゼロに近づくと表2.5-2に示すように同じ海象の中でも海水打込の頻度は小さくなる。
即ち、σの値が船速ゼロの場合は、3ktの場合に比べて約85%になるから、表2.5-2のE〔ξ_N/√E_O〕とNの関係から、同じ海象では海水打込の頻度が50波に1回から、300波に1回程度に緩和される。
船と波の出会角を正面向い波から、30°斜め向い波に変更しても、船首部の打込み頻度には、ほとんど変化がない。
船首部で、どの辺りまで海水につかるのが耐波性の限界と考えられるのかという点に関しては、50波に1回という頻度と関連づけて検討する必要がある。その場合、本船の運航者の体験や意見が一つの目安を与えてくれるであろう。
(4)むすび
清水港の180GT型鋼製旅客船について、波浪中の船体運動を計算により求め、船側からの海水打込を起こす限界波高を推定した。そして、その結果を波浪観測の統計値と比較し、本船が安全に港外に避航できる確率を導いた。
この結果は、船が制御能力を失わないで、0~3ktの微速で向い波中において船を支えている状態を想定している。
なお、船が操船の自由を失い、横波を受けて漂流している状態では、横揺れとそれに伴う復原力が問題となる。本船は沿海のクラスを持つ旅客船があり、このような状態を想定して定められている復原性規則に合格していることは、建造時に確認されている。
参考文献
〔1〕高石敬史、黒井昌明:波浪中船体運動の実用計算法:第2回耐航性に関するシンポジウム、日本造船学会、昭和52年12月(P.109)
〔2〕山内保文:海洋波中の応答、耐航性に関するシンポジウム、日本造船学会、昭和44年7月(P.53)
(参考)モデル船しずなみ船長意見
この結果にもとづいて、モデル船しずなみ(180GT型鋼製旅客船)船長から意見を聞いた結果は、次のとおりである。
(1)「しずなみ」が運航する航路(清水~松崎)は、11月から翌3月まで運航を休止する。
(2)運航管理規程では、松崎航路は風速16m、波高2m以上となると運航を中止する。(清水港周辺では、東風12m・西風15m・波高1mで運航中止)
(3)東風は力が弱い。南西の風は力が一番強い。
(4)過去の経験では、松崎港を出たところが一番きつく、最高波高は3mぐらいである。
(5)機関3/4(10ktぐらい)で走るとき、波高3mが限度と思う。
(6)「しずなみ」のバウは水面より3.5mぐらいあるので、(3ktで走るということは経験したことはないが)波高3mの波は越えることはないと思う。
(7)したがって、50回に1回上甲板縁が水につかるという確率は妥当なものと思う。
(8)駿河湾では、台風以外の風波で、波高が5mを超えることはないであろう。
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2.5.2 駿河湾の波浪推定
2.5.1で述べたごとく、駿河湾における観測データが見当らないため、本節においては数値計算による推定を試みる。ただし、ここでは駿河湾外からのうねりはないものとし、湾内において生起する「風浪」のみを対象とする。
(1)波浪推定方法
計算の条件としては、駿河湾内に一様な風が吹いたものとし、それから湾内の波を推定するのであるが、この場合
(1)吹送時間は十分長く、波は定状状態に達しているものとする。
(2)基本計算式は、有義波法であるWilsonの式〔3〕を使用する。
(3)ただし、波の進行方向は風向に対応した風下の一方向に限らず、あらゆる方向成分ごとに有義波高成分を計算し、波高はその成分の重ね合わせ、周期は成分の最大値を示す方向に応じた周期を採用する。
(4)成分の方向分布を決める方向分布関数は、光易型方向分布関数を使い易く実用化した合田らの手法〔4〕を準用する。
(5)陸岸における波の反射、あるいは浅水影響などは全て無視する。
(6)吹送距離は、計算点から各方向に応じた海岸までの距離とするが、海岸のない外海方向に対しては御前崎と石廊崎を結ぶ線より以遠に250㎞増しとする。
以上の条件をもって駿河湾におけるあらゆる地点で、あらゆる風速、あらゆる風向に対応した有義波を計算できる。
(2)湾内波浪分布
図2.5-14~図2.5-21は、計算結果の一例として、風速15m/sの風が8方位の方向から吹いた時に、駿河湾内で発生する波を間隔2kmの格子点毎に有義波高と、有義波周期を示した。なお、実線は0.2mごとの有義波高の等高線を、点線は0.5秒ごとの周期の等値線を示している。
これらの図より、北寄りの風(NW~N~NE)の時は、湾内北部で波高・周期とも小さく、湾口に行くほど大きくなる。ただし、湾口においても15m/sの風に対しては2mの波高、5.5秒の周期を越えることはない。
一方、南寄りの風(SE~S~SW)に対しては外海からの波が直接進入してくるために、湾内全域で波高・周期が大きくなる。
ここで、吹送距離の大きい湾北部の方が逆に波高が小さくなるのは、計算条件の(3)で述べた波の方向分布を考慮した結果であり、現実においても吹送距離の増大に基づくエネルギー増より、波の方向分散による海岸での消滅エネルギーの方が大きいために起こる現象として理解できる。
次に、東風に対しては吹送距離の関係から湾内東部から西部にかけて波が大きくなっているのは当然だが、松崎沖から静岡沖を結ぶ線以南は外海からの波が卓越していることがわかる。
そして、西風については、東風とは逆に湾内東部の方が西部より波は大きく、外海からの波の影響は、湾内全域に東風より大きく及んでおり、卓越方向波として湾内深く、沼津沖まで達している。
ここで述べた駿河湾の推定波浪は、運航者の証言と比較ができる。運航者とは2.5.1の対象としている清水~松崎を航路に持つ180GT型鋼製旅客船(しずなみ)の船長である。
同船の航路の波は、本節で示した図2.5-14~図2.5-21をみれば明らかなように、南西から西よりの風の時のみ等波高線を横切る型となり、他の風向の時は大略等波高線に沿う航路となっている。したがって、本船が11月~3月までは運航を休止していることについては、付録2.7.2で述べる季節別ウインドローズより明らかなように、南西から南々西の風が卓越する時期であることから、航路の波浪条件からいっても穏当なやり方といえる。
また、過去の経験では松崎港を出たところが一番きつい(波高約3m)との証言に対しては、本節の計算結果からも同航路においては、同じ風速であるならば南、あるいは南西風の時が最も波は高く、場所も松崎港近くといえる。図2.5-18、図2.5-19では、風速15m/sで松崎沖は2.8mの波高を示している。
(3)清水港避難海域の波浪予測
対象の旅客船は、清水港を定係港としている。清水港からの避難海域はどこかが問題となるが、1.4の安全対策で述べたように、「防波堤から沖合3マイル以上」を考慮して、ここではとりあえず真崎燈台の東3.5マイルの地点を想定する。
この避難地点における波浪を風向16方位に対し、風速1m/s~20m/sの風が吹いたとした場合について計算した結果が、図2.5-22~図2.5-24である。
図中、記号の違いにより風向の違いを表し、記号わきの数字は風速を表している。図2.5-22は、主として南よりの風の時を示しているが、この場合、卓越成分波向は外海からということで卓越波周期は、ほとんど風速のみによって決まることになる。また、図2.5-23にその例が多いが、風速が増すにしたがって、ある風速を越えると周期の増大傾向に不連続が生じている。これは、周期の表し方として、卓越成分波高の方向に対応した周期を採用しているためであり、不連続点ではその方向が変化したことを示している。
図中の太い点線が、2.5.1で述べた小型旅客船に対する上甲板縁に海水打ち込みの限界波浪を示している。
これらの図より、清水港沖の避難海域においては真南を中心とする南よりの風の時が波高が高い。しかし、同時に周期の方も大きくなるため、結果として、小型旅客船にとっては安全サイドの波となっている。
図2.5-23に示した西から北々西にかけての風の時は、避難海域が駿河湾の西寄りということもあって、波高はそれほど大きくならず、これまた小型旅客船にとっては安全サイドの波となっている。
そして、図2.5-24に示した北から東よりの風の時は、風速の増大に伴い波高も増大するが、周期の方の増加率がそれほど大きくないため、結果として、対象の旅客船にとって安全サイドを越える波が出現している。図より東風の時が最もきびしく、16m/sで安全限界となり、東北東の風で17m/s、そして北東から北々東を通って北にかけた風向では18m/sの風速までが安全サイドということになる。
清水港沖の波浪については、前に述べた対象の旅客船船長の証言がある。それによれば、「運航管理規定において松崎航路の場合、風速16m/s、波高2m以上となる場合は運航中止となっている」。この証言に対しては、風向要素が含まれていないため正確ではないが、図2.5-22~図2.5-24にみられる通り、波高2m以上となるのは、南よりの風向の場合であるが、上述したように東風の場合16m/sが安全限界であることから、妥当な結果と思われる。
さらに「清水港周辺では東風で12m/s、西風で15m/sの時、波高1m」の証言に対して、計算では図より東風では11m/s、西風では12m/sの時、波高1mの結果となっている。西風の場合に計算結果の方がややきびしい結果を示しているが、大体において証言内容と一致している。
次に、避難海域の波浪の出現率を風の出現率から推定した。付録2.7.2にある通り清水港付近の風について、5ケ年分の平均として、16方位の風向ごとに風速別の出現確率が示されている。そこで、この風が駿河湾で一様に吹いているものと仮定して、この風の出現率に対応する清水港沖、避難海域における波の出現率を計算したものが表2.5-8である。
表中、太い点線が対象の旅客船に対する上甲板縁に海水打ち込みの限界線である。
この限界線を越える確率を合計すると0.72%となる。ただし、この値は年間平均であり、風の季節別出現風向をみると、避難海域の対象旅客船にとって、厳しい波を発生さす東寄りの風は冬から春より夏から秋にかけて多く出現している。したがって、夏から秋の時期には上記の確率より大きくなることが予想されるが、それでもせいぜい1%程度と思われる。
また、駿河湾における西から北へかけての風向出現率は、かなり低いことから避難海域として、さらに東寄りの海域を選定すれば耐波に関する安全率はさらに増加することが予想される。ただし、この場合は安全サイドの波ながらも南西よりの波が高くなることは当然である。
参考文献
〔3〕Wilson,B.W.;Numerical Prediction of Ocean Waves in the North Atlantic for December 1959,Deut Hydrogr Zeit,Jahrgang 18,Heft 3,P.P.114-130,1965
〔4〕合田良実、鈴木康正;光易型方向スペクトルによる不規則波の屈折、港湾技研資料No.230,45P.Dec.1975
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2.6 在港船舶の沖出し所要時間の調査
2.6.1 主要港湾における在港船舶の台風来襲時の避難所要時間
警戒宣言が発令された場合、在港船舶は沖出し避難を原則とするが、大型船の沖出しの所要時間の参考とするため、過去の主要港湾における台風時の避難実績について調査した。その結果は次のとおりである。
(1)京浜港横浜区・川崎区の例(横浜海上保安部記録より調査)
防波堤外避難対象船舶は、原則として次に掲げる船舶とする。
(1)総トン数1,000トン以上の危険物積載タンカー。
(2)ブイ(シーバースを含む)係留中の船舶。
(3)高乾舷船(カーフェリー、コンテナー船、自動車運搬船等)。
(4)風浪から比較的遮へいされ、防波堤外に避難する必要がないと判断されるバース以外のバースに係留している総トン数1,000トン以上の船舶。
(2)京浜港東京区の例(抜粋:海と安全80-9)
(3)神戸港の例(神戸海上保安部調査)
防波堤避難対象船舶の基準
原則として、ドック修繕船を除き総トン数500トン以上の船舶
(4)大阪港の例(大阪海上保安監部調査)
(5)荒天避泊実施船の荒天処置の時刻経過の一例(昭和45年台風12号)
抜粋:東京湾安全対策報告書 昭和46年3月 運輸省第二港湾建設局 日本海難防止協会
2.6.2 危険物運搬船の警戒宣言発令後、離桟準備完了までの時間
清水港の東亜燃料工業(株)清水工場に離着桟する大型タンカーの港外避難の所要時間について、同工場で調査した結果は次のとおりである。
(1)警戒宣言発令より離桟準備完了までの時間:45分
作業内容
(1)荷役中止作業
(2)作業員動員
(3)オイルフェンス撤収
(2)離桟準備完了(水先人乗船)より沖出し完了までの時間:60分
作業内容
(1)水先人・曳船要請
(2)入船着桟の場合
(3)DWT20万トン級
(4)船首回頭後自力航走
(3)DWT20万トン級タンカー引出しに必要な曳船隻数
最低2000■曳船3隻必要(引出し時の天候による)
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2.7 付録
2.7.1 各港在泊船舶統計
(1)清水港
a)入港船舶(昭和54年港湾統計)
b)在泊状況
i)一搬船舶
昭和55年2月22日1200時点 抜粋:(静岡県地域防災計画 昭和55年 東海地震対策編(資料編)静岡県防災会議)
ii)小型船舶 昭和55年7月現在、静岡県清水港管理局調査
(2)田子の浦港
a)入港船舶(昭和54年港湾統計)
b)在泊状況 昭和55年2月22日1200時点 抜粋:(静岡県地域防災計画昭和55年 東海地震対策編(資料編)静岡県防災会議)
(3)焼津漁港
a)登録・利用漁船(昭和54年、静岡県焼津漁港管理事務所調査)
b)在泊状況 昭和55年2月22日1200時点 抜粋:(静岡県地方防災計画 昭和55年 東海地震対策編(資料編)静岡防災会議)
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2.7.2 清水港自然条件
抜粋 港湾審議会第94回計画部会資料
清水港港湾計画資料(その1)昭和56年7月 清水港港湾管理者
気象
ア 気候略
イ 風況
本地域は三保半島、日本平(有度山)及び庵原山地の影響を受けて局地風が現われやすく、本港付近の風は、
運輸省第五港湾建設局清水港工事々務所(清水市日の出町)の観測記録によると、表3-2-5、図3-2-6に示すようにNE~E方向の風が多く、発生回数が全体の27%を占めている。
10m/s以上の強風は表3-2-6、図3-2-7に示すようにSSW~WSW方向及びNE~E方向の風の発生回数が、それぞれ全体の40%、34%と多く、特にWSW方向の風の発生回数が全体の18%と卓越しているが、清水港内の静穏度はNE~E方向の風の影響が大きい。
また、季節別では表3-2-7、図3-2-8に示すようにNE~E方向の10m/s以上の強風は秋季に最も多くみられ、その季節別出現頻度は45%を占めている。
(4)波浪
本港は駿河湾奥部に位置し、外洋に対しては三保半島および外港防波堤により遮蔽されている。表3-2-9によれば、外港防波堤沖において波高別出現頻度は1m以下の時が97%を占めている。その主方向は、ESE~SSEで80%となるが、この波は外洋よりのうねりや風波が三保半島で回折してくるものである。
本港に対する異常波浪には、駿河湾内発生風浪と台風が考えられるが、湾内発生風浪は、フェッチが最大30km程度と短いため、比較的小さい。台風による波浪は沖波がH1/3=10.5mと非常に大きいため三保半島により屈折しても、外港防波堤沖でH1/3=7.5mと大きな値を示す。
ア 通常波
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2.7.3 清水港内津波の流速・水位計算結果
(1)概要
今回の清水港における津波シミュレーションの目的は、清水港に津波が来襲したとき、港内の水位・流速にどのような変化をもたらすかをシミュレーションによって明確にし、その結果をもとに、港内船舶のより適切な退避場所や退避方法等を検討することである。
そのために、港外に水深一定で十分に長い仮想の水路を設定し、その仮想水路の入ロで強制水位を与え、その影響による港内水位と流速の状況を有限要素法による流動計算プログラムを用いて計算した。
(2)計算モデル
a)来襲津波の設定について
清水港の港口で実際の津波来襲時の状況を再現するため十分に長い仮想の水路を設け、その入口で、片振幅1.5mの正弦波形の強制水位を与えることにより、港ロ付近で片振幅約3mの津波が来襲するという状況を設定した。
また、津波の方向(即ち、仮想水路の方向)としては、港ロ付近の水深30mの等深線に対して、直角の方向に設定した。
b)仮想水路について
実際の津波の状況を港口付近で再現するために設定した水路であり、設定津波の一波長分以上の水路を設けることにより、少くとも3周期分の津波のシミュレーションが行えるようにした。
(3)計算ケース
タイムステップに関しては、水深・メッシュ辺長を考慮の上5秒と決定した。この際、テストケースでタイムステップ1秒でケースNo.1のみ試計算を行ったが、5秒の場合と比べて殆んど差異がなかった。したがって、タイムステップ5秒で十分安定条件を満たしているものと考えられる。
(4)計算方式
有限要素法(F.E.M)を用いて計算を行った。
a)要素数、節点数について
要素数………約850~1050
}※仮想水路の長さが異なるため
節点数………約550~650
b)基礎式について
式:基礎式
c)境界条件について
式:強制境界(水位のみ)
d)港口損失の代入について
防波堤、船溜り入口付近に、港口損失の考えを導入した。その際、港ロ損失を考慮した要素に対する基礎式は、
式:基礎式 f=1.5
となる。
(5)計算結果
計算結果は、本文の2.2に例示したとおりであるが、さらに清水港内の代表地点(図2.7-1)における津波の最大振幅、及び最大流速を示すと、表2.7-1、表2.7-2のようになる。
こうした計算結果のうち特徴的なことを述べると、次のとおりである。
a)清水港内の水位
i)貯木場付近(代表点1~9)を除いては、各ケースとも最大水位は2.5m~3.5mの値を示している。
ii)また、貯木場付近の最大水位に関しては、周期10分から周期30分の間では、想定周期が長いほど水位が高くなっている。
さらに、この付近の代表点の経時変化図をみると、水位波形の中分面、すなわち平均水位が次第に上昇する形を示している。(例図参照)
これは、有限要素法のメッシュ分割の際の貯木場入口のメッシュ数の影響により、この付近の水の流れが緩慢になり、貯木場内部の水位の周期が外部と比べて相対的に長くなり、その結果、貯木場の外側の水位周期との関係で、このような現象が現われているものと思われる。
iii)表7.3-1では、前項の数値計算に特有な見掛けの現象を除外するため、隣り合う波水位の山と谷の高さの1/2を津波振幅と定義し、その最大値を読みとった。この最大振幅は、ほぼ津波による最大水位と考えてよいo
b)清水港内の流速
i)港口の防波堤付近(代表点41~45)や、巴川の出口付近の水域面積の小さい場所(代表点11,13)では、各ケースとも、相対的に大きな流速(2.5m/s~4.5m/s)の値が出ている。
ii)それに比較して、港の中央部付近(代表点23付近)では、各ケースとも、最大流速が1.0m/s~1.5m/sと小さい。これは水域面積の広さとともに、水深が他の場所と比べて大きい(約20m)という状況によるものと思われる。
iii)巴川の河口(代表点12)の流速に関しては、その周辺(代表点10,11)に見られる流速と差異はなく、巴川に対する特別な現象はみられない。
Vi)貯木場の入口付近(特に代表点6)で、相当大きな流速(5.Om/s~7.0m/s)がみられる。
V)船溜りの奥部(特に代表点25,33,36)で、比較的大きな流速が見られるが、これは、船溜りの地形に沿って渦が発生しているものと思われる。
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2.7.4 水位上昇と流速が係留索に与える影響の動的計算結果図
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2.7.5 津波による船舶の被害統計
(1)チリ地震津波(昭和35年5月24日)
第二管区海上保安本部調査
a)被害種別、船種別、隻数及びトン数調
b)トン数別船種別隻数調
c)巨岸別船種別隻数調
(2)新潟地震津波(昭和39年6月16日)
第九管区海上保安本部調査
a)船種別被害状況
b)トン数別被害状況
c)地域別被害状況
(3)十勝沖地震津波(昭和43年5月16日)
第一及び第二管区海上保安本部調査
a)第一管区海上保安本部管内
b)第二管区海上保安本部管内
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2.7.6 清水港の津波対策の現況
〔別紙〕
東海地震予知がなされた場合の在港船舶に係る取り扱いは下記の通りとします。
記
1.警戒宣言が発令された場合、在港船舶は速やかに港外へ退避させる。
2.退避行動に係る関係者の準備行動開始の時期は判定会招集情報公表の時点とします。
3.情報伝達の手順
(イ)代理店会地震防災委員会が判定会招集の情報を得たときは直ちに在港船取扱い代理店へ連絡があります。
(ロ)警戒宣言が発令されるまでは各代理店が本船へ伝達します。
(ハ)警戒宣言が発令された場合
・海上保安部巡視艇より、マイク、吊幕、発光信号等により伝達されます。
・陸上ではサイレン45秒(発音)、15秒(無音)の間隔で連続吹鳴されます。
4.パイロット
警戒宣言が発令されると出港準備完了の合図の有る船舶から順次指導を行います。
この際、原油船、その他危険物積載船、旅客搭乗中の客船は最優先に退避させます。
昼間 G旗(又はZ旗→PILOT不要時)
夜間 白灯3ケ連携
原則として退避の順位は港長の指示によります。
5.曳船
パイロットの指示に従って行動します。
曳船の近くに係留中の船舶で退避準備が完了し、パイロット乗船を待たず退避可能な場合は臨桟にタグ・ボートの助力が得られます。この場合はZ旗を掲げる。
本船の港外退避が完了後はタグ・ボートも港外へ退避します。
6.網放し
警戒宣言が発令されると作業員は全員避難しますので主に本船乗組員にて実施せねばなりません。
7.通船
警戒宣言が発令されると全船通船止めとなります。
上陸中の乗組員で本船退避に不可欠な者については、ボートサービス待合室に集合してもらい、海上保安部が緊急輸送を行います。
その他の者についてはポートサービス職員の誘導により第三中学校(第一次避難場所)へ避難します。
8.警戒宣言発令後の港内交通整理は海上保安部によってなされます。
9.警戒宣言が発令されると一般船舶の入港は禁止されます。
10.退避後の本船は運航船社よりの直接指示で行動させて下さい。
11.官庁関係の諸手続きは臨桟に代理店が行うことになります。
12.本船係は訪船の際に地震の対処について十分理解を得るよう努めるものとします。
社団法人 日本海難防止協会
本部(役員、総務部、広報部)
〒105 東京都港区虎ノ門一丁目15番16号
船舶振興ビル8階
TEL O3(502)5281・2068(直通)
03(502)2371(ビル代表)
トミタヤ分室(安全調査第一部、安全調査第二部、研究部)
〒105 東京都港区虎ノ門1-8-7 トミタヤビル6階
TELO3(502)2951(直通)
森ビル分室(公害調査部、顧問室)
〒105 東京都港区虎ノ門1-17-3第12森ビル7階
TELO3(504)2708(直通)
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