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まえがき

本報告書は、東海地震等の発生も予想されているなか、海上保安庁交通部安全課からの委託を受け、津波が発生する場合の港内における船舶の安全確保について調査検討し、その安全対策をとりまとめたものである。
本報告書が各港(各地)における津波対応要領策定のための指針になれば幸いである。
調査検討にご指導、ご協力を賜った専門委員ならびに関係各位に深く感謝する次第である。
日本海難防止協会

序 調査の概要

1 調査目的

 平成15年9月の十勝沖地震に伴う津波により北海道太平洋沿岸を中心に津波警報・注意報が発令された。漁船が岸壁に打ち上げられるなどの甚大な被害が生じ、地震発生から10時間以上の間、注意報が解除されない状況が続き、港湾機能に大きな影響を及ぼした。
 また、平成5年7月に発生した北海道南西沖地震に伴う津波で、一瞬にして奥尻島が大災害にみまわれたのは記憶に新しいところであり、東海地震等の発生も予想されているところである。
 通常の場合、ひとたび津波を伴う地震が発生すると、対応を検討する時間的余裕は無く、事前に十分な対応策を検討しておくことが必要であるが、現状では船舶のとるべき対応として詳細に例示しているものが無いことから、本調査は、津波に関してこれまで各方面で検討されたもの等を整理・検討し、港内における船舶安全対策の提言を行うことを目的とする。

2 調査項目

(1) 津波対策の現状に関する調査
 津波対策の現状に関する既存の資料及びこれまでの研究成果をとりまとめることにより、現状の問題点を抽出した。
①津波について
 「津波の高さ」、「津波の速度」、「津波発生の条件」等、津波の性質を整理した。
②津波情報
 津波対応の立ち上がりとなる気象庁の津波情報の現状及び発出された情報の伝達方法、伝達経路等について現状を整理した。
③津波が及ぼす船舶への影響
 船舶が係留中、錨泊中、航行中等の各状態別及び船舶の大きさ別等に津波から受ける影響について整理した。
④津波に対する船舶の対応
 津波に対する船舶の対応の現状を整理した。
⑤避難の勧告・指示・命令等の措置に関する関連法令等
 津波災害に関連する法令等の現状を整理した。
⑥船舶の安全確保に係る検討の必要性
 上記①~⑤を整理した結果から現状の問題点を抽出し、船舶の安全確保のために必要な検討項目を整理した。
(2) 船舶の望ましい津波対策に関する検討
 船舶の状態別及び大きさ別に、津波予報から得られる津波の大きさ及び到達予想時間を考慮した津波に対する船舶の望ましい対応策を検討した。
(3)各港の津波対応に資する手引きの検討
各港毎に形状が異なり、津波から受ける影響も大小があることから、上記(2)の検討結果を踏まえ、既存の津波シミュレーション等を参考に各港における船舶の津波対応に資する港内津波対策検討手引きを検討・作成した。

3 調査方法

学識経験者、関係官庁職員で構成する委員会を設置し、津波が予想される場合に執るべき船舶の望ましい対応策、有効な避難勧告基準、各港津波対応要領策定のガイドライン等に関する検討を行った。

4 委員会の構成

(1)名称 津波が予想される場合の船舶安全確保に関す調査研究委員会
(2)委員名簿 別紙1のとおり
(3)委員会開催状況
イ 第1回委員会 別紙2のとおり
ロ 第2回委員会 別紙2のとおり

別紙1

委員会
1 名称
「津波が予想される場合の船舶安全確保に関する調査研究委員会」

☆(順不同。敬称略)  氏名欄( )は前任者

2 委員
委員長 高橋 勝 海上保安大学校救難防災学講座教授
委 員 井関俊夫 東京海洋大学海事システム工学科助教授
 〃  半田 収 日本船主協会海務部長
 〃  伊東佳宏 日本船長協会常務理事
 〃  夷子健治 日本パイロット協会顧問
 〃  内田成孝 全国内航タンカー海運組合海工務部長
 〃  清水通雄 全国漁業協同組合連合会漁政部次長
 〃  富田孝史 港湾空港技術研究所高潮津波研究室長
 〃  米山治男 港湾空港技術研究所海洋構造研究室長

3 関係官庁
  難波喬司 国土交通省港湾局海岸・防災課災害対策室長
  西出則武 気象庁地震火山部地震津波監視課長
  松本憲二 水産庁増殖推進部研究指導課調査官
  渡辺一樹 海上保安庁海岸情報部技術・国際課地震調査官
  (長屋好治)
  村上玉樹 海上保安庁警備救難部環境防災課長
  添田慎二 海上保安庁交通部安全課長

4 事務局
  徳野 勤 日本海難防止協会専務理事
  津田眞吾 日本海難防止協会常務理事
  松永敬典 日本海難防止協会企画国際部長
  井村 勇 日本海難防止協会主任研究員
  堀田陽介 日本海難防止協会研究員

別紙2

1 第1回津波が予想される場合の船舶安全確保に関する調査研究委員会

1 日時:平成16年1月26日(月)1430~1730
2 場所:海洋船舶ピル8F第1会議室
3 議題
(1)実施計画について
(2)津波に関する基礎資料について
(3)津波が予想される場合の船舶に対する避難勧告等の措置判断について
(4)津波対策の検討について
(5)その他

2 第2回津波が予想される場合の船舶安全確保に関する調査研究委員会

1 日時:平成16年3月17日(水)1330~1630
2 場所:海洋船舶ビル8F第1会議室
3 議題
(1)第1回委員会議事録について
(2)調査報告書について
(3)その他

本編 港内津波対策の手引き

第1章 津波に関する基礎知識及び対策の現状(既存資料のとりまとめ)

 本章は、これまで各方面で検討された資料等を整理し、取りまとめたものである。

1 津波の特徴

1-1津波とは

 津波は、海域において震源の浅い大地震によって生じることが多く、沖合の深い海域では小さくても、海岸に近づくにつれて大きくなり、時として悲惨な災害をもたらす。
 津波の伝わる速さは地震波に比べて小さいので、適切な予報がなされ、時間的余裕があれば、津波到達前の応急防災対策も可能である。外国の沿岸で発生して日本沿岸に影響する津波(遠地津波)では、地震発生から到達までの時間が長いが、日本周辺で発生した津波(近地津波)では地震発生から到達までの時間が短い。

(1)津波の高さ
 「津波の高さ」とは、津波による水位と推算潮位(津波が来なかった場合に予想される水位)との偏差であり、その最大の偏差を「最大の高さ」、「津波高」ともいう。(図1-1 津波の高さ)
 一方、引き続く水位上昇(山)と下降(谷)との差(全振幅)を「波高」と呼ぶ。(参考資料1-1-1参照)

(2)津波の規模
地震のマグニチュードに対応する津波の規模を示す尺度として、津波階級(津波のマグニチュード)がある。
その一つは、表1-1に示す今村・飯田の津波規模階級で、津波の規模を示す階級として広く使用されている。
(表1-1 津波の規模階級(今村・飯田の規模階級))

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図1-1 津波の高さ
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表1-1 津波の規模階級(今村・飯田の規模階級)
1-2 津波発生の条件(参考資料1-2参照)

(1) 発震機構
 地震は、地下の岩盤が破壊して断層ができることで起こる。断層には図1-2に示すような種類があり、このうち縦ずれ断層が海底にまで達したとき、海底に変動が生じて津波は発生することが多い。日本近海においては縦ずれ断層が多く、海域で地震が発生した場合は、津波の発生を念頭に置かなければならない。

(2) 震源の深さ
 震源が深いほど津波は起こりにくくなる.過去の記録から、80㎞以上の深い地震では、津波はほとんど発生しないと考えられ、50~80kmでは弱い津波となり、それより浅い震源のときは強い津波になる。

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図1-2 断層の種類
1-3 津波の性質
1-3-1 津波の伝播速度

 津波の伝播速度(波速)は、次の式で表される。
V=√gh V:波速(m/sec) g:重力加速度(9.8m/sec^2) h:水深(m)
例えば、水深が100mNの時、速度は31m/sec(時速約110km)となる。
従って、水深がわかっていれば、津波の速度や到着時刻が計算できる。
図1-3は、1983年の日本海中部地震からの津波波面の伝播の様子と、海岸への到達時刻の計算例である。
地震発生後、直ちにこのような計算を行うことにより、各地への津波到達時刻を予測することができる。
(参考資料1-3-1参照)

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図1-3 1983年日本海中部地震の波源域からの津波伝播図
1-3-2 津波の流速(参考資料1-3-2参照)

津波が進行して行くときの流速(水粒子の運動速度)は、次式で表される。
U=η√gh U:津波の流速(m/sec)、η:波面の静水面からの高さ(m)
g:重力の加速度(9.8m/sec^2) h:水深(m)
水深10m、高さ2mの津波では約2m/secの流速が発生し、波の高さが同じなら水深が浅い所ほど流速は大きくなる。

1-3-3 津波の変形(参考資料1-3-3参照)

(1) 水深の影響
① 津波が水深の浅いところに来ると波速が遅くなるが、周期は変わらないので、波長が短くなる。L=T・V L:波長 T:周期 V:波速
② 浅い海域に進行して来た津波の波高は高くなる。
 H∝1/^4√h H:波高 h:水深
(2) 水路幅の影響
 幅が狭くなる湾に進行して来た津波の波高は高くなる。
 H∝1/√w H:波高 W:湾の幅

1-3-4 津波の特異現象(参考資料1-3-6参照)

(1)セイシュ(共振効果)
 湾内や港内で起こりやすい振動に近い周期の津波が進行してくると、湾内での振動がどんどん増幅される。これが湾による共振効果(セイシュ》である。奥行きの長い湾では、チリ津波のような遠地津波に共鳴し、短い湾では、近地津波に共鳴する。
 (2)ボア(段波)
 大河の河口から大潮のときの上げ潮で発生するボアと同じような段波が、津波によっても発生することが確認されており、強力な破壊力をもっている。
 (3) 浅水域による津波の屈折
 浅い海域があるところでは波速が遅くなるので、津波の進行方向が浅い海域を抱き込むように曲がるため、その背後で津波が高くなることがある。

1-3-5 津波の押し・引き(参考資料1-3-12参照)

 最初に来襲する津波(第1波)で海面が上がる場合を「押し」、下がる場合を「引き」と呼ぶ。一般に地震によって海底は、隆起する場所と沈降する場所の両方があり、海面もこれにより上下するが、最初に海岸に伝わって来る津波は、この波源の上下した分布と海岸との位置関係で決まる。
 来襲した津波は海側から退いていくから、水面勾配で海の方へ戻って行く。
 このとき海の方が地盤高は低く、水面は十分低くなることができるから、水面勾配は、津波が来襲したときより急となり、引き波の流速は大きくなる。
 また、引き波は比較的長時間継続することにも留意を要する。

2 過去の津波による被害(参考資料2参照)

2-1 過去の津波事例
2-1-1 日本及びその周辺の沿岸で発生した津波

 日本及びその周辺の沿岸で発生した津波の状況を表1-2に示す。
 発生の頻度で見ると、戦後50年の間に1mを超える津波は13件(平成15年十勝沖地震を入れると14件)発生しており、大きな津波は3~4年に1回位発生していることとなる。
 また、地域別に見ると、規模の大きなものは北海道近海で発生した地震によるものが多い。

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表1-2 日本及びその周辺の沿岸で発生した津波
2-1-2 日本及びその周辺の沿岸に影響を与えた外国の沿岸で発生した津波

 外国の沿岸で発生した津波のうちで、日本及びその周辺の沿岸に影響を与えた津波の状況を表1-3に示す。
 発生の頻度をみると、戦後50年の間に1mを超えている津波は2件発生しているが、最近35年は大きな津波は発生していない。

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表1-3 外国の沿岸で発生した津波のうち日本及びその周辺の沿岸に影響を与えた津波の状況
2-2 過去の津波による船舶被害の具体例
2-2-1 新潟地震の場合

 新潟地震は1964(昭和39)年6月16日13時01分、新潟県北部西方沖の海底、深さ約40㎞で発生し、マグニチュード7.5であった。各地の震度(旧震度表示)は図1-4のとおりであり、震源が比較的浅かったため津波が発生し、地震の約15分後から日本海沿岸各地に到達した。
 地震発生時、新潟港には大型船舶30隻、危険物積載船9隻、機帆船14隻、大型漁船67隻、その他小型漁船約80隻、合計200隻の大小船舶が在泊していた。
 このうち大型船舶及び危険物積載船等約90隻はいち早く港外へ避難したが、岸壁係留中の機帆船、漁船等は、来襲した津波に圧流され、主として信濃川筋及び万代島南東側から水産物揚場付近に、90隻が乗揚げ、転覆または沈没した。
 岩船港においても、在泊していた漁船等32隻が津波により乗揚げ、沈没したが、乗組員に異常なく、また港外では船舶の被害はなかった。
 津波の最高水位は図1-5のとおりであり、日本海沿岸において246隻の船舶が津波による被害を受けた。
 新潟港では地震発生30分後に第1波(波高約lm)、1時間後に第2波と、ほぼ30分間隔で12回以上の津波を受けた。
 この時の状況から、次のようなことがわかった。
① 被害は小型船に集中している。
 震源が近く、津波の到来が早かったため、通信設備の乏しい船に被害が集中している。
 沖出し船に被害はなく、港内残留の大型船はいち早く係留索の増し取り等の対策をとったものと思われる。
② 波はどんな奥まった場所へも遡行する。
③ 波高は湾口近くが必ずしも一番大きいとは言えない。波は地形や水深、港湾施設等の影響により複雑に伝播減衰する。
④ 津波の第1波が必ずしも一番大きいとは言えない。第1波に間に合わなかった避難処置も、周期が十分長いので、第2波、第3波に備える時間がある。

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図1-4 震度分布(気象庁)
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図1-5 新潟地震津波の最高水位(平均海水面上、*はTP上)
2-2-2 日本海中部地震の場合

 日本海中部地震は、1983(昭和58)年5月26日11時59分頃発生し、震源は秋田県入道埼灯台の北西沖合約35海里付近の海底、深さ約14㎞であり、マグニチュード7.7であった。
 各地の震度(旧震度)は図1-6のとおりであり、津波の第1波は、津軽の深浦から男鹿にかけての沿岸では、津波発生から7~8分後に到達し、男鹿半島の南側沿岸では約15~30分後に到達した。
 現地調査による津波の最大高さは図1-7に示すとおりであり、男鹿半島の北側沿岸及び津軽半島で高くなっている。
 この津波によって、この付近の漁港を中心に多大の被害が発生するとともに、表1-4に示すように、日本海沿岸の北海道から島根県にかけて多数の船舶に被害が発生した。

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図1-6 震度分布
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図1-7 現地調査による日本海中部地震津波の最大高さ
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表1-4 日本海中部地震の津波による船舶被害の状況(単位:隻)
2-2-3 北海道南西沖地震の場合

 北海道南西沖地震は、1993(平成5)年7月12日22時17分頃発生し、震源は北海道奥尻島北西沖約37海里付近の海底、深さ約35㎞、マグニチュード7.8であった。
 気象庁が発表した各地の震度(旧震度)は図1-8に示すとおりであり、この地震による津波の最大高さは図1-9のとおりであった。
 この津波により、北海道では13の港湾の岸壁で亀裂、陥没、施設の破損等が発生し、64の漁港でも同様の被害が発生した。特に奥尻島の奥尻港と青苗港は、岸壁の崩壊、港湾施設の流失、防波堤灯台の倒壊水没等の被害を受けた。
 船舶の被害は、北海道で1,514隻(沈没・流出676隻、破損838隻)、島根県までの日本海沿岸で計233隻であった。これらは殆どが小型船であり、この他に港湾工事等の作業船やプレジャーポートも多数流失した。
 また、韓国東海岸では、係留中の漁船15隻が沈没し、11隻が破損する被害が発生した。

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図1-8 震度分布
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図1-9 現地調査による北海道南西沖地震津波の最大高さ
2-2-4 平成15年十勝沖地震の場合

 十勝沖地震と名付けられた地震としては、過去に1952(昭和27)年と1968(昭和43)に発生しており、いずれも津波による大きな被害を伴った。
 2003(平成15)年の地震は、9月26日04時50分に発生し、震源はえりも岬の東南東約80㎞付近の海底で、深さは約42kmであり、マグニチュード8.0であった。
 各地の震度は、図1-10のとおりであり、釧路から浦河にかけて震度6弱を観測した
 ほか、北海道地方、東北地方及び関東地方にかけて、震度1から5強を観測した。
 なお、本震の後の06時08分頃、マグニチュード7.1の余震があり、本震と同程度の震度が観測されている。
 この地震による津波は16分後表1-5各地の検潮記録に釧路、17分後に浦河に第1波が観測されているが、各地の最大波高はその後に観測されている。
 検潮記録による各地の津波の高さは、表1-5及び図1-11のとおりであり、浦河で1・3mが観測されている。
 北海道庁の資料によると、この津波により、30の漁港で146件の施設の被害が発生し、46隻の漁船が転覆その他の被害を受けた。

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図1-10 震度分布
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表1-5 各地の検潮記録
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図1-10 震度分布

3 津波情報

3-1 気象庁の津波情報

 気象庁が発表する津波情報は、防災行政機関や都道府県が行う災害応急対策の初動情報となるため、災害対策基本法や気象業務法の定めにより、関係の機関や報道機関を通じて、住民、船舶等に迅速に周知される。

3-1-1 津波予報(参考資料3-1-1参照)

(1) 津波予報の仕組み
 津波判定・予報伝達などを行う津波予報システムは、1952年に制定された。
 当初は、地震発生から津波予報の発表までに約17分を要したが、1986年までにデータ伝送網が整備され、1987年には地震検知から震源計算までを完全に電子計算機が自動処理する地震活動等総合監視システム(EPOS)が気象庁に導入され、1993年までに地震津波監視システム(ETOS)が、全国の津波予報中枢に導入され、津波予報までの所要時間は7分まで短縮された。
 1993年7月の北海道南西沖地震では、5分後に津波警報を発表したものの、奥尻島では地震発生後3~5分程度で10mを超える津波が来襲し、多数の人命が失われた。
 この災害を教訓に、地震観測網を強化して、地震発生後約3分で津波予報を発表するまでになったが、現在は地震発生後30秒を目指して観測網等の整備を図っている。
(2) 津波予報区と津波予報実施官署(津波予報中枢)
 全国の海岸を66の津波予報区に分け、札幌・仙台・東京(本庁)・大阪・福岡・沖縄の6ヶ所の津波予報実施官署がそれぞれの区域を分担して予報業務を行っており、それぞれの担当津波予報区に対する津波予報を発表している。
 以前の18の津波予報区は、1999(平成11)年4月から現在の予報区に改められた。
 また、震源が日本列島及び南西諸島の沿岸から概ね600㎞以遠にある地震(遠地地震)による津波《遠地津波)の予報は、気象庁本庁が行う。

3-1-2 津波予報及び津波情報(参照資料3-1-2参照)

(1) 津波予報の種類と内容
表 津波予報の種類と内容

(2) 津波情報の種類と内容
津波予報が発表される場合、本庁及び管区気象台等から、「津波情報」として、津波の到達予想時刻、津波の高さの予想及び満潮時刻等、津波への対応に必要な情報が随時発表される。

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津波予報の種類と内容
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津波情報の種類と内容
3-1-3 津波予報・津波情報の伝達経路

(1) 地震データの収集
 地震震度は、全国約3,400箇所(自治体を含む)に設置された震度計で観測され、震度1以上が観測されたら自動的にデータが伝送される。主要な地点については、地上回線に障害がある時または震度5弱以上の時は衛星回線が使用される。
 全国約1,000箇所(大学を含む)で観測される地震波データは、常時最寄りの津波予報実施官署ヘテレメーターで伝達され、即時に自動処理されている。
(2) 潮位データの収集
 全国墨03箇所で観測される潮位データは、常時テレメーターで伝達されている。
(3) 津波予報、地震・震度情報の発表
 津波予報実施官署では、EPOSやETOSにより震源地とマグニチュード並びに津波の大きさを決定し、予報文等を作成・発表する
(4) 津波予報文の伝達
 津波予報文は、もっとも迅速な方法により伝達中枢に送られ、伝達中枢から市町村、市民及び船舶等への伝達は、それぞれに方法を定めている。
 伝達中枢は、①NTT②報道機関③都道府県④海上保安庁⑤警察庁及び都道府県警察本部であり、常設の専用回線で伝達されるが、回線に障害がある時は、緊急衛星同報システムを使用する。

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図1-121 津波予報、地震、震度情報の発表と伝達経路
3-2 海上保安庁による津波情報の伝達

 海上保安庁は、災害対策基本法に基づく海上保安庁防災業務計画及び気象業務法の定めにより、船舶及び沿岸地域の住民及び海水浴客等へ津波情報を伝達する。
(1) 航行船舶への伝達
・地域航行警報・日本航行警報・NAVTEX航行警報・NAVARXA航行警報
(2) 在泊船舶への伝達
① 巡視船艇及び航空機を巡回させ、拡声器、たれ幕等により周知伝達する。
② 海上保安部署の職員が訪船または、船舶電話により伝達する。
(3) 沿岸地域の住民、海水浴客等への伝達
巡視船艇及び航空機を巡回させ、拡声器、たれ幕等により周知伝達する。
(4) 関係者から船舶への伝達
 各海上保安部署から船舶代理店、主な漁業協同組合(漁業無線局)、マリーナ、マリンクラブ、港湾工事安全協議会等の主な港湾海事関係者に伝達された津波情報は、これらの関係者・関係団体を通じて電話、FAX、携帯電話、漁業無線、マリンバンド、工事用無線、訪船等により船舶、各漁業協同組合(漁船)、港湾工事関係会杜(工事船舶)、プレジャーポート等へ連絡されることになる。

3-3 地域防災関係機関の津波情報伝達

 気象庁の津波予報実施官署から発表される津波情報は、伝達中枢(都道府県、報道機関、NTT等)の各機関に伝達されるが、その情報を最終的に地域住民に伝える機関は、市町村と放送機関である。

3-3-1 沿岸市町村

 県、警察署、NTTから沿岸市町村に伝達された地震津波情報は、防災行政同報無線・サイレン・半鐘・広報車により、沿岸地域の住民・海浜に居る人・船舶海事関係機関に伝達される。

3-3-2 放送機関

 災害対策基本法及び気象業務法により、放送機関は防災情報の速報に努めることが義務づけられている。
(1) 緊急警報放送
 大規模地震などの警戒宣言ならびに津波警報が発せられた場合は、地方自治体からの避難命令などの放送要請があった場合、主な放送局から緊急警報放送が放送される。緊急警報受信設備が付いているテレビ・ラジオであれば、電源スイッチがOFFであっても、NHKテレビ総合放送、同ラジオ第一放送ならびに緊急放送システムに組み込まれている主な民放の放送が受信可能である。
(2) 地震・津波情報の放送
 ① テレビ放送
気象庁津波予報実施官署から発表される地震情報、津波情報は、オンライン化されており、直ちにテレビ番組中、スーパー(文字放送)によりそのまま放送されるほか、必要に応じて番組を中断して放送される。
 ② ラジオ放送
NHKならびに民放の各放送局では、テレビ放送用のオンラインによる膿・津波情報・地方気象台からの地震・津波情報、共同通信の速報FAXによる地震・津波情報を基に放送用の原稿を作成し、番組を中断して放送される。

4 津波が及ぼす船舶への影響

4-1 船舶の状態別影響

(1)岸壁係留船への影響、
 岸壁に係留している船舶は、津波による水位変動と流圧による船位の移動で、係留索が切断するおそれがある。
 特に、SpringはHead & Stern lineより索長が短いので、Head & Stern line の張力増加が大きくならないように切断してしまう。
 このため、通常の係留状態における、水位上昇と流圧が同時にかかった場合のSpring切断の限界値についての試算例を示したものが、図1-13である。これによれば、船型の大小で比較すると、大型船は流速に弱く、小型船では水位上昇に弱いことが示されている。(参考資料4-1-1参照)
(2) 錨泊船への影響
 津波のような周期の長い水位変化による、船体の上下動並びに船首の上下動によって起こる伸出錨鎖に働く荷重については、荒天時の錨泊と同様、海底に伸出した錨鎖の余裕把駐力によって吸収する以外にないが、一般的には対応できるものと思われる。
 しかしながら錨泊船が水流によって振れ回り運動をする場合、浅水域(H/d=1.5)では、流速1m/secを超えると一般に荒天時の錨泊限界の目安とされている風速20m/secの中での錨泊に相当する流圧が掛かるとされている。流速2m/secでは風速20m/secに対する正面風圧力の4~5倍の最大張力が錨鎖に加わる可能性がある。
 また流向が反転する時には、概略正面流圧の4倍の最大張力が錨鎖に加わる可能性があるとされている。
 一般的に、船舶が錨泊する湾・入り江・港湾は外海に比して開口部が狭まっており、狭まった開口部で津波の流速が増すことから、錨泊船は走錨の可能性が高いといえよう。(参考資料4-1-2参照)
(3) 浮標係留船への影響
 基本的には、錨泊船と同様であるが、前後係留している浮標係留船についての試算によると、斜めや横方向から流れを受けた場合、45°で正面流圧力の80倍、90°では110倍以上の流圧力が加わる可能性がある。従って、斜めや横方向から流れを受ける場合は、浮標の係留力を超える可能性が高い。
 単浮標係留の場合、振れ回る際に係留索鎖に加わる最大張力は、正面流圧力の3倍程度であるが、流向の変化により流される場合には、大型船においては船体の運動エネルギ一が係留浮標の吸収エネルギーを超える可能性がある。(参考資料4-1-3参照)
(4) 航行船への影響
 沖合での津波の状態は、波長が数㎞と長く波高はせいぜい2~3m程度で小さい。
 また津波の前面が巻波となって砕けるようなことも有り得ないので、沖に出ている船舶は、津波をほとんど関知し得ない可能性が高い。
 一方、湾内や港内を航行している船舶は、水流力により偏位、偏針するとともに喫水に比較して水深が十分でない場合、操船に影響を受ける可能性が高い。
 港内における津波による水流の方向、大きさは複雑で、時には大きな渦を生じることもあることから、津波来襲時に港内を航行することは、大きな危険を伴う。(参考資料4-1-4参照)

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図1-13 Spring切断に至る安全限界
4-2 船舶の被害を左右する要素

 ① 津波の諸元 :津波高、津波周期、津波流速、到達所要時間、津波の形状、来襲方向
 ② 港湾の諸元 :港湾の形状、港内水面積、港口部通水断面積、泊地水深、防波堤・岸壁の天端高
 ③ 船舶の諸元:船種・船型、作業・荷役の形態、在泊船舶数、停泊・係船位置、停泊・係船の形態
 ④ 船舶の対処方法:港外避難係留補強、上架

 港内の波高は、上記①②によって決まるが、通常これが船舶の被害を左右する最大の要素であろう。また、津波周期と津波高との関連では、周期が極端に長い場合は、水位の上昇に対処する時間的余裕が得られるが、周期が短いほど、押し波・引き波の変化が早くなり津波の衝撃力が強くなり、船舶の流出・破損が増加する。
 湾の奥では津波の前面が絶壁のような段波をなして押し寄せて来る。また、遠浅の沿岸では、津波前面の進行が遅れることにより、段波を形成する場合がある。

4-3 小型船への影響(参考資料4-3参照)

(1) 港湾内の小型船だまり・漁港・マリーナの特徴
 ① 港内面積が一般に狭いため、津波の波高が増す。
 ② 港内の水深が一般に浅いため、津波の流速が増す。
 ③ 一般に狭隘な港内に防波堤・突堤等の構造物があるため、港内の地形が複雑で、来襲した津波の波形、波高が複雑に急変し易いうえ、激流、渦流になり易い。
 ④ 防波堤と入港水路は大角度をなしているため、③と同様の影響がある。
 ⑤ 港口をなす防波堤間の水路は狭く、津波の流速が増す。
 ⑥ 係留ブイが多く、短時間に多数の船舶が航行する際の障害になり易い。
 ⑦ 狭隘な港内に在泊船の密度が大である。
(2) 係留中の船への影響
 小型船については、船首索及び船尾索各1本のみで係留している場合が多く、津波による強水流高水位により、係留索が切断する可能性が高い。係留索が切断して無人のまま放流された船体は、岸壁や他の係留船に激突して被害を拡大することになる。
 小型船は、一般に喫水が小さく、係留する岸壁の天端高も一般的には低い場合が少なくないので、岸壁に船体が乗揚げる可能性が高い。
(3) 上架中の船への影響
 小型船は、整備、修理のため、あるいは係留施設の不足等により上架している場合が少なくない。また、小型船の場合、上架は有効な津波の避難対策の一つであるが、漁港、マリーナの天端高と津波高の関係によっては、津波に翻弄される可能性もある。
(4) 航行中の船への影響
 浅水域を航行する機会が比較的多い小型船の場合は、津波による水位変化で触底の危険性が大型船に比して大きいうえ、水流力により偏位、偏針するとともに喫水に比較して水深が十分でないため、水深の変化により舵効に影響を受け、操船・保針が困難になる可能性が高い。最悪の場合、津波の前面が巻き波になり、操縦の自由が失われ横倒沈没するなど、大きな海難に発展する危険性がある。
 また港内における津波による水流の方向・大きさは複雑であり、時には大きな渦を生じることもあることから、津波来襲時に港内を航行することは、大きな危険を伴う。
 さらに小型船の場合は、津波により港内に押し流された漁網、ロープ、流木等の浮遊物により、航行そのものが大幅に制限される可能性が高い。
(5) 津波高の影響
 水産庁漁港部が取りまとめた日本海中部地震における漁港内全漁船の被害率と津波高の関係を図1-14(全漁船の内訳は上架中60%、係留中40%であった)に示す。
 係岸中の船並びに上架中の船とも、被災率と港内最高水位との間には大きな相関があり、波高1m位から被害が出始め、漁港の岸壁天端高に相当する1.5mを超えると被害が増加する傾向を示し、3mを越えると被災率が増大する。なお、図中の数字は参考資料4-3(5)表4-3-1による漁港の識別番号を示したものである。

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図1-14 漁港内漁船の被災率と津波高の関係

5 津波に対する船舶の対応

5-1 津波情報の入手並びに海上保安部署への対応

 津波発生時の情報の流れと船舶の一般的な対応を図1-15に示す。

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図1-15 津波発生時の情報の流れと一般船舶の対応
5-2 緊急避難
5-2-1 緊急避難の判断(参考資料5-2-1参照)

 津波注意報・警報などにより津波来襲の情報を得た場合や地震感知などにより津波来襲の可能性を察知した場合、緊急避難を実施するか、係留場所にとどまって津波に対処するか、あるいは乗組員・作業員だけ陸上避難するかの判断に当たっては、次のような事項を考慮ことが必要である。
(1) 外部的事項
 ① 緊急避難に関する海上保安部署長(港長)の勧告・指示
 ② 緊急避難に関する港湾管理者、漁港管理者、漁港管理受託者㈱業協同組合等)、マリーナ管理者などの指示
 ③ 大型危険物運搬船に係る運航安全対策や荷役管理規定、港湾建設工事に関わる協議会、危険物取扱事業者間の協議会、社内の緊急時マニュアル等に定める津波来襲時の対応
(2) 港湾の状況等
 ① 津波来襲推定時刻における潮高、岸壁の天端高、本船喫水
 ② 過去の津波や津波シミュレーションなどによる港湾域における津波の挙動
 ③ 港内の収容可能隻数(係留、港内錨泊、上架・陸揚げ)
 ④ 港湾の状況と至近の他船の状況
(3) 自船の状況等
 ① 避難準備に要する時間
  (機関用意所要時間、乗客・車両下船と乗下船設備の格納所要時間、荷役中断と船陸荷役設備の格納所要時間、作業中断と作業設備の格納所要時間、漁具等の格納所要時間、作業員・潜水士の収容所要時間、上架・陸揚の所要時間)
 ② 係留場所、錨地、操業・作業海域から安全な沖合までの所要時間
 ③ 緊急避難の方法(沖合避難津波の影響の小さい港内への移動(係留・錨泊)、上架・陸揚げ)と各々の安全性
 ④ 緊急避難の方法別所要時間
 ⑤ 岸壁・錨地・作業海域にとどまって津波に対処する手段と所要時間
 ⑥ 緊急避難に要する乗組員の数と招集に要する時間
 ⑦ 外出先・自宅・職場から本船までの所要時間
 ⑧ 人命の安全を第一とし、乗組員、乗客、作業員の陸上避難場所と所要時間
 ⑨ 自力緊急避難の可否(水先人・曳船手配の可否と所要時間)
  (上架・陸揚げに要する設備・人員手配の可否と所要時間)
 ⑩安全サイドに立った余裕(海上・陸上避難時間、津波来襲時間、津波高)

5-2-2 緊急避難船舶の順序(参考資料5-2-3参照)

(1) 避難に際して余裕時間がある場合
 沖出し避難にあたって、避難順序を調整する必要がある場合は、2次災害の危険度等を考慮して、概ね次の順序とすることが望ましい。なお港湾事情等によって状況が異なるので、関係者間で避難順序を申し合わせている場合はそれに従う。
 ① 危険物を積載している船舶(LNG船、大型LPG船、原油タンカー等)
 ② 旅客搭乗中の旅客船
 ③ クレーン船等運転の不自由な大型船
 ④ 巨大船
 ⑤ その他の船舶(大型船から小型船の順序で行う)
 港湾内の漁船・作業船・プレジャーポート等については、一般船舶と運航事情が異なるので、避難が実行可能な場合、準備できしだい避難することになるが、大型船の離岸操船や他の船舶の交通の妨げとならないよう留意することが求められる。
 漁港にあっては、漁港管理者、漁業協同組合等が避難順序を含め避難・係留強化手段等を予め計画しておき、船長・乗組員ならびに漁港利用者に周知しておくことが望ましい。
(2) 避難に際して余裕時間が少ない場合
 大型船については、曳船の援助が離岸の条件である場合が多く、特に岸壁に本船を押しつける強風下では、条件がより厳しくなる。また、港湾に不慣れな外国人船長が乗り込んでいる大型船は、水先人と曳船の援助が離岸の条件となる場合が多い。
 曳船が常駐する港湾・港区は限られており、津波来襲時には、曳船も沖合避難を迫られる。また、夜間は水先人ならびに曳船乗組員は帰宅しているのが一般的である。
自力離岸する以外に港外避難の方法がないにもかかわらず、自力離岸が困難な船舶は、着岸したまま係留索の増取り等の係留強化で対処することも安全サイドに立った判断といえる。また、自力離岸が可能であっても、安全に沖合まで避難できる見込みがつかない場合も同様である。
 漁船・作業船・プレジャーポート等の小型船については、可能であれば係留強化の処置を行った後、陸上避難するのが望ましい。

5-2-3 緊急避難に要する時間(参考資料5-2-4参照)

 緊急避難に当たっては、津波の到達予想時刻までに安全な海域へ移動できることが必要であり、自船の緊急避難に要する時間を把握しておくことが不可欠となる。
 緊急避難に要する時間は、①避難準備の時間と②安全な海域までの移動時間に分けられるが、①は船舶の状態により、②は港の状況により異なり一律ではない。
 そのため、入港の都度、両者を把握しておくことが必要である。

 避難準備所要時間については、これまでにアンケート方式による実態調査が行われた事例があるので、2つの調査結果を以下に示す。
 ① (社)日本海海難防止協会が平成9年に実施した、日本海沿岸の青森県から石川県までの9つの港を使用する一般船舶を対象とした調査によると、表1-6のような結果が得られている。
 これによると、2/3が30分未満、その半分の1/3が15分未満で避難準備が完了し、残りの1/3が30分以上を要することを示している。
 ② (社)東京湾海難防止協会が昭和59年に実施した、東京湾の入港船舶を対象とした調査によると、岸壁係留中の場合は表1-7(1)、浮標係留中の場合は表1-7(2)に示すような結果となっている。

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表1-6 避難準備所要時間(一般船舶)
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表1-7(1) 避難準備所要時間(岸壁係留中)
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表1-7(2) 避難準備所要時間(浮標係留中)

6 津波災害の防止措置についての関係法令等

(1) 災害対策基本法関連
 市町村長は、災害が発生し、又はそのおそれがある場合は、居住者その他の者に避難のための立退きを勧告し、急を要するときは立退きを指示することができる(第60条)と定めており、この避難指示については、市町村長が指示できないとき又は市町村長から要求があったときは、海上保安官は、必要と認める者に対して避難のための立退きを指示することができる(第61条)と定めている。
 また、市町村長は、必要があると認めるときは、警戒区域を設定し、特定の者以外の者に対して、当該区域への立入を制限若しくは禁止し、又は退去を命ずることができる(第63条)と定め、市町村長等が現場にいないとき又はこれらの者から要求があったときは、海上保安官は、これらの市町村長の権限を行うことができる(第63条2項)と定めている。

(2) 海上保安庁防災業務計画関連
 海上保安庁防災業務計画は、災害対策基本法(以下「災対法」という。)の定めにより海上保安庁の所掌事務に関して定めたものであり、次のように定めている。
 ① 津波による危険が予想される海域に係る港及び沿岸付近にある船舶に対し港外、沖合等安全な海域への避難を勧告するとともに、必要に応じて入港を制限し、又は港内に停泊中の船舶に対して移動を命ずる等の規制を行う。
 ② 危険物積載船舶については必要に応じて移動を命じ、又は航行の制限若しくは禁止を行い、危険物荷役中の船舶については、荷役の中止等事故防止に必要な指導を行う。
 ③ 必要があるときは、災対法第63条の規定により警戒区域を設定し、区域外への退去及び入域の制限又は禁止の指示を行う。

(3) 地域防災計画関連
 災対法の定めにより都道府県並びに市町村で地域防災計画を作成する場合の参考として、津波対策に関する手引きが、関係省庁共同により作成され、各地方公共団体に通知されており、全国の地域防災計画に反映されているものと考えられる。
 この中で、船舶の安全確保については、原則として海上保安庁が対応するとしており、港則法の適用を受けない港湾、漁港においては、港湾、漁港管理者が船舶所有者及び漁業協同組合に船舶の安全対策について、事前に適切な措置を講じるよう協議しておくことが望ましいとしている。

(4) 港則法関連
 港則法では、港長は特定港内において必要があるときは、港内に停泊する船舶に対して移動を命ずることができる(第10条)とし、また、航路や区域を指定して、船舶の交通を制限し又は禁止し、特定の水域に進行してくる船舶の航行を制限し、又は禁止することができる(第37条)と定めている。
 また、同法では、これらの規定は特定港以外の港にも準用され、この場合は当該港の所在地を管轄する管区海上保安部事務所の長がこれらの港長職務を行う(第37条の3)とされている。

第2章 港内津波対策の検討手引き

1 手引きの位置づけ、必要性

(1) 手引きの位置づけ

 本手引きは、津波警報等が発令された場合に、港内の船舶交通の安全を確保するため、津波に対して船舶のとるべき対応の基本的考え方及び港内の津波対策を策定する際の留意事項を提示し、各港(地域)における港内の津波対策の検討を促進することを目指すものである。

 津波対策については、「地域防災計画における津波対策強化の手引き」において、地域防災計画の一部である津波対策についてハード対策、ソフト対策の両面から対策の強化を図ったものを津波防災計画と位置づけ、津波防災対策の基本的考え方をとりまとめている。また、津波対策推進マニュアルにおいては、都道府県、市町村及び住民の役割を提案し、津波避難計画策定指針を提示している。
 しかしながら、これら既存の検討においては、沿岸地域を中心に検討がなされており、港内の船舶に対しての安全対策については十分な検討はなされておらず、津波関係省庁連絡会議での申し合わせである「沿岸地域における津波警戒の徹底について」において、『津波に対する心得<船舶編>』として示されているのみである。また、過去の船舶の津波被害についてのデータが少なく、船舶の船型・状況等によりどのような影響があるのか検討された事例は少ない。
 この手引きは、各方面で検討された既存の研究成果をもとに、港内における津波の特性及び津波による船舶への影響を整理するとともに、各港(地域)における港内の津波対策の検討を促進することを目指して、港内の津波対策を検討するにあたっての留意すべき事項について手引きとしてとりまとめたものである。
 また、本手引きについては、東海地震のように地震予知が可能な場合については、特別な言及をしていないが、船舶の対応及び安全対策の基本的な考え方については同様であり、地震予知時の津波対策の検討についても参考になるものと考えている。
 なお、本手引きについては、現在までの研究成果に基づくものであり、新たな知見・成果が公表された場合には、随時取り入れていくものとする。

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表2-1 (参考)主な既存検討例
(2) 港内津波対策の策定の必要性

 地震発生から津波の来襲まで時間的余裕がない場合が多く,津波の現れ方や船舶への影響等は港(地域)の形態、利用状況等によって異なることから、事前に、港(地域)ごとの港内の津波対策を検討・策定する。

 東海地震等の大規模地震が想定されている地域については、既に津波対策の検討・策定が行われているが、それら地域も含め、具体的に船舶がどのような対応をとるべきか具体的な対策を検討している例は少ない。
 通常の場合、ひとたび津波を伴う地震が発生すると、来襲まで短時間であり、即座に判断して行動しないと被害を食い止めることは困難なことから、船舶の取るべき対応及び港内の津波対策について、事前に十分検討しておく必要がある。

(3) 港内津波対策協議会(仮称)設置の提案

 港内津波対策を検討・実施する上では、各関係機関の役割を明確にし、相互に協力して対応する必要があるため、津波対策を協議する場を設け、日頃から津波対策に関する事項について協議、検討、調整して、津波対策の徹底と円滑な実施を図る。

 地域の実情を詳細に把握した上で港(地域)ごとに港内の津波対策を検討する際には、様々な関係機関との協力が必要となる。また、津波が発生した場合は、短時間で到達する場合もあり、事前に津波発生時の対応を関係者間で申し合わせしておくことが重要となる。
 このため、次のような行政機関、関係団体等による協議の場(港内津波対策協議会(仮称))を設け、日頃から津波対策に関する事項について協議、検討、調整して、津波対策の徹底と円滑な実施を図ることが望ましい。
 なお、台風対策委員会等の既存の協議の場が設置されている港については、これらの組織を活用する方法も考えられる。
(津波対策関係者例)
 ① 市町村等地元自治体、港湾管理者、海上保安部署、警察、消防機関、気象台
 ② 船舶運航関係者、荷役関係者、船舶代理店
 ③ 危険物取扱者、港湾運送事業者、港湾関係団体、その他事業者
 ④ 漁業関係者、マリーナ、救難所、パイロット
 ⑤ 港湾建設工事関係団体

(参考) 台風対策委員会77箇所(特定港:65港、適用港:12港)において設置
(既に地震・津波等に対応する旨会則に盛り込まれているところもある。)
(構成例)
○関係団体
 水先人会、海運関係団体、主要事業者、海難防止団体、漁業関係団体等
○関係行政機関
 港湾管理者、海上保安部署、地方運輸局、気象台等

2 港内津波対策の策定

(1) 港内津波対策の検討手順

 港(地域)ごとに港内の津波対策を検討するにあたっては、津波の地域特性及び津波が及ぼす船舶への影響を把握した上で、具体的な対応策を策定する。

 港内津波対策協議会(仮称)等で港内の津波対策を策定する際の標準的な手順を下記に示す。
なお、下記のフローは、標準的な検討フローを提示したものであり、既に港内の津波対策について検討が行われている場合、または地域特性等により本フローに従って検討することが困難な場合は、本フローに依らなくても差し支えない。

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図2-1 港内津波対策検討フロー
(2) 港内津波影響調査
イ 港湾特性の把握

 津波対策を策定する上で港湾特性を把握する事が必要であり、地形・水深、施設等の津波の来襲に影響を及ぼす自然特性及び施設等配置状況を十分に調査しておく。

 海底地形、海底勾配、水深、海岸地形、海象条件などの自然特性を把握するとともに、防波堤、岸壁等の港湾施設及び危険物施設やドック等の港内の施設配置状況について把握する。特に、危険物施設、貯木場、水産養殖施設等の施設については、流出等により二次災害、航路障害等を招く恐れがあることから、注意を要する。
 確認を要する港内施設、箇所としては次のようなものが考えられる。
 (主な港湾施設等)
 ① 防波堤、防潮堤等の配置、機能
 ② 岸壁、船揚場、物揚場等(水深、天端高、用途)
 ③ 錨地、航路、泊地、船溜まり
 ④ 貯木場、プレジャーボート等小型船の係留場所
 ⑤ 危険物施設、旅客施設
 ⑥ 造船所、ドック
 ⑦ 河川、運河等
 ⑧ 各種設備等
  耐震構造岸壁の場所、屋外照明設備のある場所、消火設備を備えた施設、防災資機材を備えた施設等については、必要に応じて緊急時に活用できるか確認しておく。
 (その他留意すべき箇所)
 ① 海水浴場、釣り場、リクリエーション地区等人の集まる場所
 ② 養殖筏、定置網、その他の海上工作物
 ③ スロープ、傾斜地等津波の遡上しやすいところ
 ④ 天端高の低いところ

ロ 港内利用状況の把握

 津波の発生が予想される場合の船舶の避難等の安全対策を事前に検討するため、日常の港内在船状況、運航形態等を把握しておく。

 港内の津波対策については、日常の港内在船状況、運航形態、海上工事等の状況を把握し、実際の港内の船舶の状況を想定した上で検討する必要がある。また、緊急時において短時間で船舶状況を正確に把握することは困難であるため、日頃から港内の在船状況等を把握しておくことにより、津波発生時の対処についても役立つものと考えられる。
 ① 船種別、船型別船舶入出状況
  時間帯別・曜日別・地区別在船状況、最大荷役船舶、最大入港隻数等
 ② 航路筋等の船舶輻輳水域とその状況
 ③ 錨地の使用状況
 ④ 緊急時に特別の措置を要する船舶の状況
  危険物積載船、木材運搬船、沖荷役船、運転不自由船(係船中の船舶、修繕中の
船舶、淡渫船等)、プレジャーボート、漁船、はしけ等
 ⑤ 船舶の入出港支援態勢の状況
  タグボート、パイロット、連絡艇等
 ⑥ 海上工事の状況
 ⑦ 海上における定例的な行事

ハ 港内津波特性の把握

 港(地域)における津波の特性については、津波防災情報図(津波シミュレーション)、津波浸水予測図、過去の津波被害状況、既往(想定)地震による津波高の傾向等を参考にして、対策を検討する対象津波を設定し、港内の津波特性について、可能な範囲で想定し、把握しておく。

 港内津波対策で対象とする津波については、地域防災計画、過去の津波被害状況等を考慮して、適切に設定するものとする。
港内の津波特性については、上記港湾特性及び港内利用状況を踏まえた港内の区域ごとに、以下の事項に留意しつつ津波の特性(津波高、流速等)を把握する。
 ① 津波が高くなりやすいところ
 ② 水流が大きくなりやすいところ
 ③ 渦が生じやすいところ
 ④ 段波が起きやすいところ
 ⑤ 天端高が低く、小型船が打ち上げられやすいところ
 ⑥ 遡上しやすいところ
 ⑦ 引き波の時、水深が極端に浅くなりやすいところ
 ⑧ 比較的影響が少ないところ

 港内津波特性を把握する上で参考となるものとしては次のようなものがある。
(イ) 津波防災情報図(津波シミュレーション)
 海上保安庁海洋情報部では、津波防災対策に資することを目的として、津波の来襲による人的被害が大きいと想定される海域、海洋施設の被害が懸念される海域、重要港湾及び漁船等の小型船が係留する港等を対象に、シミュレーションによって、津波が来襲したときの水位の変動、水流の流向・流速等に関するデータを図示した「津波防災情報図」の作成が行われている。
 このシミュレーションは、満潮時の水位が持続した状態を仮定して計算されており、実態とはある程度差があることを考慮する必要はあるが、各種の設定条件について作成されている。
 データはCD-ROMに納められ、ディスプレイ上で動画として表示することができるので、来襲時の津波の状況を理解するのに有効である。
 現在までに次の港を対象として情報図が作成されている。
  新島、江ノ島付近、下田、松崎、宇久須、沼津、田子の浦、清水、焼津、御前崎、
 浜名、名古屋北部、同南部、衣浦、蒲郡、豊橋、四日市、尾鷲、鳥羽、下津、田辺、
 串本、大阪、泉北、神戸、小松島、高知及び土佐清水
 これとは別に、(財)日本水路協会では、災害・海難の防止に資するため、過去の津波に関する資料収集を行うとともにシミュレーションプログラム開発を研究し、モデル港湾についての津波に関する情報を予め提供する試みが、平成9年から3カ年計画で行われた。
 ここでは、秋田、酒田、能代、宮古、釜石、大船渡、焼津、尾鷲及び須崎の各港における過去の津波に関するシミュレーションによって、津波の到達時間分布、最大水位分布、波高経時変化、流速ベクトル分布、最大流速分布及び流速経時変化が算定図化され、実データとの比較が行われている。

(ロ) 津波浸水予測図
 津波浸水予測図は、津波予報が発表されたとき、各市町村における個々の湾や海岸が浸水するか否か、浸水する場合はどの程度浸水するかの浸水予想区域を、津波の規模ごとに表示したものである。
 旧国土庁によって全国の海岸域について作成されているが、市町村によっては、独自に更に詳細な予測図が作成されている。
 予測図は陸上の防災対策が主目的であるが、津波の現れ方の予測にも参考になるものと考えられる。

(ハ) 過去の津波被害状況
 関連の文献、報告書に記録されている津波被害状況は、陸上のものがほとんどであって、船舶に関する記録は少ない。このため、海上の津波の状況及び船舶の被害状況については、地元の記録類を調査するとともに、地元住民からの情報収集が必要である。

(ニ) その他の資料
 既往地震の津波規模や特性及び地震の想定等に係る手法についてまとめた「太平洋地震津波手法調査報告書(平成8年度建設省、農林水産省、水産庁、運輸省)」、津波逆伝播図、その他一般的津波特性などから当該港湾の津波影響状況を把握する。
 *参考 既往(想定)地震による津波高の傾向(太平洋地震津波手法調査報告書)
     図2-2(37頁)及び図2-3(38頁)参照

(3) 津波による船舶への影響評価

 上記で把握した港内津波特性により船舶への影響の度合いを区域ごとに検討し、津波に対する区域ごとの危険性を評価し、津波の発生が予想される場合の避難場所・経路、避難順序等を検討する。

 津波の特性(津波高さ、流速等)については、シミュレーション等から定量的に推算可能であるが、津波による船舶への影響については、現時点では必ずしも明らかになっておらず、現状では定量的に評価することは困難である。津波による船舶への影響度の評価方法の確立については今後の課題であるが、第1章表1-1(5頁)に示す津波の規模階級(今村・飯田の規模階級)、図1-13(20頁)、図1-14(22頁)等により、ある程度推定できる。これらから推定される船舶への影響については、条件により精度は期待できないが、相対的な危険度の評価は可能であるものと考えられる。
 上記により評価した区域ごとの相対的な危険性を基に、津波発生時の避難場所・経路、避難順序等を検討することが望ましいが、この際この危険度を図示することにより、検討に資するものと考えられる(港内版津波ハザードマップの作成)。また、このように港内の危険度を図示したものを船舶関係者に配布することにより、防災意識の向上、津波発生時の円滑な避難等に役立つものと考えられる。
 地図上に図示すべき項目としては、津波高さ、潮流、船舶の危険度等が考えられるが、港(地域)の実情に応じて設定することが望ましい。
 その際、津波・高潮ハザードマップマニュアル(平成16年3月津波・高潮ハザードマップ研究会事務局)が参考となる。

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図2-2 既往地震による津波高の傾向(実態調査結果)
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図2-3 比較津波高分布

3 船舶対応策の策定

3-1 避難海域の設定

 津波の発生が予想される場合の各港における対応要領を策定するにあたり、津波の発生が予想される場合の船舶の避難海域・経路について、地域の特性、津波による船舶への影響等を考慮して予め設定しておく。

 避難海域の設定にあたっては、次の点に考慮する。
イ 避難海域の設定にあたっては、周辺海域の津波から受ける影響を十分把握しておく。
ロ 港から比較的近く、津波の影響の小さい海域を選定する。
ハ 通常の港内在泊船舶(隻数)の状況を勘案し、全船が港外退避した場合に収容可能な海域を設定する。(数箇所の海域を選定し、優先順位を付けておく)
ニ 可能な限り、大・中型船舶と小型船舶の避難海域を分けて選定しておく。
ホ 各岸壁から選定した避難海域までの船種毎の必要時間を推定、把握しておく。
へ 港内における緊急避難海域(津波の影響の小さい海域)を設定しておく。(避難が遅れ、港外退避することが不可能となった場合の緊急避難場所等のため)
ト 避難海域の設定にあたっては、安全に航行できる避難経路が存在するか確認する。
その際、防波堤等の近傍では津波の影響が大きくなる可能性があることから、注意が必要である。
チ 津波の発生が予想される場合の船舶の避難時に、気象・海象が悪い場合も想定され、特に小型船が影響を受けることとなるため、対処方法を検討しておく。
リ 船舶輻輳海域(例えば東京湾、大阪湾等)で、隣接する港と避難海域が重複する可能性のあるところは、事前に他港と調整を図っておく。

3-2 船舶の望ましい対応

 津波による船舶への影響を検討した上で、船舶の船型、状況別に、各船舶の望ましい対応の検討を行う。

 津波の発生が予測される場合の各港における対応要領の策定にあたっては、各船舶がどのような対応をとるのが望ましいのか検討しておく必要がある。ここでは、船型、状況別に津波による船舶の影響についてとりまとめ、標準的な対応策を示す。本対応策の活用にあたっての留意事項は次のとおりである。
イ 本対応策は、船舶の船型、状況別に標準的なものとしてまとめたものである。津波の特徴でも述べているとおり、その影響は、各々の地域によって異なるため、地域(港)の特性に応じた対応策の検討が必要である。「津波に対する船舶対応表」(44頁参照)
ロ 本対応策は、過去の調査研究資料に基づいてまとめたものである。しかしながら、これまでの調査研究や地震津波被害調査資料等は、船舶に関するものは必ずしも十分とはいえない。今後の更なる調査研究が待たれるところである。このことを考慮して、十分安全サイドに立って対応する必要がある。
ハ ここでは船舶を大型船舶、中型船舶および小型船舶に区分しているが、これらはトン数により明確に区分できるものではない。大型船と中型船は津波による影響、係留索の切断状況などが異なるが、その対応策に大きな差異はないので「大型船舶、中型船舶」と一つの分類にまとめている。なお、大型船舶は、タグボート等の補助船を要するもの、パイロットを必要とするものが多く単独で出港できない場合を考慮しておく必要がある。また、小型船舶とは、プレジャーポート、小型漁船等で、通常時において施設等の状況から陸揚げ固縛が可能な程度のものを指している。

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津波に対する船舶対応表
(1) 港内着岸船
イ 大型船舶、中型船舶(漁船を含む)

(船舶への影響)
・ 岸壁に係留している船舶は、津波が来襲すると、水位変動と強い流速を受ける。
・ 水位変動による船舶の浮上や、強い流れから受ける流圧による船位の移動は、船を係止している係留索が伸び、係留索張力の増大をもたらす。
・ 船舶の浮上や移動の量が大きいときは係留索が切断し、船舶が岸壁から離れて漂流を始め、衝突、座礁等の事故に発展する可能性がある。
(望ましい船舶の対応)
岸壁に係留している船舶は、係留索が切断する可能性があるため基本的に港外(水深が深く広い海域)退避することが望ましい。津波の高さ1~2m程度から被害が発生するとされていることから、津波警報(津波の高さ1m以上)が発せられた際は港外退避を基本とすることが妥当である。

① 一般船舶(荷役・作業船を含む)
 これまでの調査研究においては、水位上昇2mでSpringが切断するという結果になっている。津波1mの場合は、係留強化で対応も可能と思われるが、過去の調査研究が必ずしもあらゆる場合を想定しているとは言えず、参考となる実例もほとんどない。従って、最大限安全面に配慮して港外退避とすることが望ましい。
 しかしながら、津波到着予想時刻までに安全な海域に避難するための十分な時間が取れない場合は、港内の狭隘な場所で津波の来襲を受ける可能性があり、却って危険性が高くなる。このため、人命の安全を第一として乗組員、乗客、作業員は陸上の安全な場所へ避難する。
 なお、避難に要する時間は各港毎に異なるため、その設定にあたっては個別の検討が必要である。
 また、津波注意報(津波の高さ0.5m)が発せられた場合には、基本的には港外退避が望ましいが、岸壁に係留している場合、先ず索の短いSpringが切断されるのでこれらの係留索をできるだけ長くとることや、増しもやいする等係留場所に止まるための必要な措置を執ることで対応することも可能と思われる。
 荷役、作業中の船舶は、直ちに荷役・作業を中止し、前記の港外退避等の対応をとることになる。
② 危険物積載船舶
  危険物荷役中の船舶は、津波による二次災害が懸念されることから、津波の発生が予想される場合(津波予報が発出された場合)は直ちに荷役を中止し、必要な危険物安全措置を講じなければならない。
 荷役中止後の対応については、可能な限り港外退避とする。
 また、荷役を中断し、緊急離桟するためには船舶と陸上その他の関係者との緊密な連携が重要であるため、津波が予想される場合の対応マニュアルを、予め事業者側の責任において作成しておく。

ロ 小型船舶(プレジャーボート、小型漁船等)

(船舶への影響)
・ 船首索及び船尾索各1本のみで係留している場合が多く、津波による強水流高水位により、係留索は容易に切断する可能性が高い。
・ 係留索が切断し、激流や砕波に無人のまま放流される船舶は、岸壁や他の係留船に激突し、密集した港内の小型船は次々と破壊され、大惨事となる可能性がある。
・ 浅水域を航行する機会が比較的多い小型船の場合、津波による水位変化による触底の危険性が大型船に比して大きい。
・ 水流力により偏位、偏針するとともに喫水に比較して水深が十分でないため、水深の変化により舵効に影響を受け、操船・保針が困難になる可能性が高く、津波の前面が巻き波になり、操縦の自由が失われ横転沈没するなど、大きな海難に発展する可能性がある。
(望ましい船舶の対応)
 小型船については係留索が切断する可能性がある場合は、十分な高さまで陸揚げ固縛することが妥当である。ただし、津波の大きさと照らして、小型船でも十分津波に対応できる海域が港外に存在する場合は港外退避も可能と思われる。

 船体を陸揚げする場合、陸揚げ可能隻数は収容能力を含めた施設の能力に左右されるため適当な避難海域が存在しない場合は、係留強化で対応せざるを得ない状況も有り得る。当該措置を執る目安としては、被害が出始めるとされている津波高1~2mが適当であることから、津波警報の発令をもって判断することが可能である。
 しかしながら、津波警報が発せられた時刻から津波到着予想時刻までに船体陸揚げ固縛に要する十分な時間が取れない場合は、港内の狭隘な場所で津波の来襲を受ける可能性があり、却って危険性が高くなるため、人命の安全を第一として船体陸揚げ作業を中断し、陸上の安全な場所へ避難する。
 また、津波注意報が発せられた場合も基本的には陸揚げ固縛または港外退避することが望ましいが、増しもやい等、係留強化による対応が可能な場合も有り得る。
 なお、小型船が通常陸揚げ固縛されるところはスロープや砂浜等が多いが、これらのスロープや傾斜地は、津波が遡上する危険が高い。また、陸揚げ中の船舶が倒壊・損傷し、これらが流出する事例もあるので、陸揚げ場所には十分注意する。

(2) 錨泊船、浮標係留船

(船舶への影響)
・ 錨泊船が水流によって振れ回り運動をする場合、浅水域では、流速1m/sを超えると一般に荒天時の錨泊限界の目安とされている風速20m/sの中での錨泊に相当する流圧が掛かるとされており、流速2m/sでは風速20m/sに対する正面風圧力の4~5倍の最大張力が錨鎖に加わる可能性がある。
・ 流向が反転する時には、概略正面流圧の4倍の最大張力が錨鎖に加わる可能性があるとされている。
・ 一般に船舶が錨泊する湾・入り江・港湾は外海に比して開口部が狭まっており、狭まった開口部で津波の流速が増すことから、錨泊船は走錨の可能性が高い。
・ 浮標係留船については基本的に錨泊船と同様であるが、前後係留の場合斜めや横方向から流れを受ける場合、浮標の係留力を超える可能性が高い。
・ 単浮標係留の場合、振れ回る際、係留索鎖に加わる最大張力は、正面流圧力の3倍程度であるが、流向の変化により流される場合には、船体の運動エネルギーが、特に大型船において係留浮標の吸収エネルギーを超える可能性がある。
(望ましい船舶の対応)
 錨泊船については揚錨して港外退避することが妥当である。

 錨泊船が津波から受ける影響はその流速に因るところが大きく、流速は海域の地形に左右されるため、事前に錨地として使用されている海域のうち、津波が発生した場合に流速が早くなる可能性の高い海域を調査しておく。
津波警報が発令された時刻から津波到着予想時刻までに揚錨し、港外退避するに十分な時間が取れない場合は、作業中に津波の来襲を受ける可能性があり、却って危険性が高くなるため、錨泊した状態で機関を使用して対応する。

(3) 航行船舶
イ 大型船舶、中型船舶(漁船を含む)

(船舶への影響)
・ 沖合での津波の状態は、波長が数kmと長く波高はせいぜい2~3m程度で小さい。
・ 津波の前面が巻波となって砕けるようなことも有り得ないので、沖に出ている船舶は、津波をほとんど関知しない可能性が高い。
・ 湾内や港内を航行している船舶は、水流力により偏位、偏針するとともに喫水に比較して水深が十分でない場合、水深の変化により舵効に影響を受けるなど、操船上の影響を受ける可能性が高い。
・ 港内における津波による水流の方向・大きさは複雑であり、時には大きな渦を生じることもあることから、津波来襲時に港内を航行することは、大きな危険を伴う。
(望ましい船舶の対応)
港内航行中及び港内向け航行中の大型船については、直ちに港外退避することが妥当である。

 航行船舶については、退避するまでの準備時間は必要ないことから津波の発生が予想される場合(津波警報、注意報の何れを問わず)は、全て港外退避とする。

ロ 小型船舶(プレジャーボート、小型漁船等)

(船舶への影響)
・ 浅水域を航行する機会の比較的多い小型船の場合、津波による水位変化による触底の危険性が大型船に比して大きい。
・ 水流力により偏位、偏針するとともに喫水に比較して水深が十分でないため、水深の変化により舵機器に影響を受け、操船・保針が困難になる可能性が高い。
・ 津波の前面が巻き波になり、操縦の自由が失われ横倒沈没するなど、大きな海難に発展する危険性がある。
・ 港内における津波による水流の方向・大きさは複雑であり、時には大きな渦を生じることもあり、津波来襲時に港内を航行することは、大きな危険を伴う。
・ 津波により港内に押し流された漁網、ロープ、流木等の浮遊物により、航行そのものが大幅に制限される可能性が高い。
(望ましい船舶の対応)
 港内航行中及び港内向け航行中の小型船については、直ちに港外退避又は着岸して陸揚げ固縛することが妥当である。

 しかしながら、小型船でも十分津波に対応できる海域が港外周辺に存在せず、陸揚げもできない場合は、人命の安全を第一として船体陸揚げ作業は行わず、着岸のうえ陸上の安全な場所へ避難する。
 また、津波注意報が発せられた場合も基本的には港外退避又は陸揚げ固縛することが望ましいが、係留強化による対応が可能な場合も有り得る。

4 津波対応計画の策定

(1) 地域防災計画との整合性

 津波対応計画策定に当たっては、当該地区における地域防災計画との整合性を図るとともに、策定した津波対応計画は同地域防災計画の津波対策に反映させる。

 災害対策基本法に基づき、地域における災害応急対策等の防災に関する総合的計画として地域防災計画が定められている。地域防災計画は、都道府県または市町村が定めるものであるが、港湾における津波対策は、当該港湾の関係者により具体的に検討を行い対応策を策定することが望まれる。その役割を担うものが津波対策協議会(仮称)である。したがって同協議会が津波対応策を検討するに当たっては、地域防災計画の各対応策や被害想定等との整合性を図るとともに、策定した津波対応計画は地域防災計画に反映させる。

(2) 関係機関の役割分担

 当該港湾の津波対策を円滑的確に実施するため、津波対策協議会の関係機関の役割分担を定めておく。

 関係行政機関、船舶運航関係者、荷役関係者、漁業者、港湾工事関係者等それぞれの機関において連携を図って津波対応策を策定しておくとともに、それぞれの対応策の間で齟齬が生じないよう津波対策協議会の場を通じて調整を図っておく。
 また、迅速な情報伝達、船舶避難措置の際の関係機関の協力、避難秩序の維持、交通整理などについて役割分担を定め、当該港湾の津波対策を円滑的確に実施できるようにする。

(3) 情報伝達

 通常、地震発生から津波が来襲するまでの時間は短く、津波予報等の情報を迅速、的確に関係者へ伝達することが重要なポイントとなることから、情報伝達の系統及び伝達の手法等については事前に十分検討し、関係者に周知しておく。
 また、関係者は迅速・的確に情報を伝達する必要があることから各船舶の動静を確実に把握しておくか、又は常に連絡が取れる態勢を構築しておく。

 船舶に対する災害に関する情報の伝達は、
① 被害が予想される地域の周辺海域の在泊船舶に対しては、船艇、航空機等を巡回させ、訪船指導のほか、拡声器、たれ幕等により周知する。
② 航行船舶に対しては、航行警報又は安全通報等により周知する。
③ 被害が予想される沿岸地域の住民、海水浴客等に対しては、船艇、航空機等を巡回させ、拡声器、たれ幕等により周知する。
旨海上保安庁防災業務計画に規定されている。
 津波災害に関しては、迅速・的確な情報の伝達が被害を抑えるための重要なポイントであることから、津波対策検討協議会において、情報伝達の系統及び効果的な伝達手法を確立しておく。
 また、船舶代理店、漁業協同組合等の海事関係者は、通常より所属船の動静把握に努めるとともに、津波の発生が予想される場合の確実な連絡設定を行っておく。

(4) 避難方法
イ 避難順序、支援体制

 津波の発生が予想される場合に、安全かつ迅速に港外等へ退避できるよう予め避難順序を定めておく。また、大型船舶等の避難時に必要な避難支援体制(水先人、曳船、綱放し業者等)の非常時対応について、事前に調整し、迅速な対応を図れるような体制を構築する。

 津波の発生が予想される場合の船舶の避難(港外退避)順序については、各港の特性(各岸壁における津波影響の比較、航行水域の津波影響等)、当該船舶が被害を受けた場合の地域に与える影響度、当該船舶への支援の必要性、操船運航の難易度などを考慮してあらかじめ定めておく。
 また、大型船舶等の離岸時等に必要となる避難支援体制(水先人、曳船、綱放し業者等)の非常時対応について、情報連絡、非常時呼集に要する時間等について事前に調整を図り、避難順序に従って安全かつ迅速に避難できるような体制を構築する。
 また、海上交通の安全を確保する必要がある場合は、海上保安部署長(港長)が指導等を行う。

ロ 避難勧告

 津波情報が発令された場合、必要に応じ避難勧告を発することとなるが、短時間で対応する必要があることから、事前に避難勧告の発出の要領等を定めておく。

 船舶に対する避難勧告は、津波情報が出されたときに、海上保安部署長(港長)が必要に応じ当該港湾の津波に対する船舶対応表に基づき勧告することとなる。
 また、津波対策協議会として避難勧告を行うことも考えられるので事前にその要領等を定めておく。
 これらの避難勧告は、海上保安部署長(港長)または協議会が津波情報を受けた後に発するため、その勧告が船舶に達するまでに時間を要する。最近の情報伝達手段の発達により、海上保安部署長等からの津波情報・避難勧告等が伝達される前に、船舶がテレビその他の手段により津波情報を入手し、避難勧告を待たずに避難する場合は当該港の船舶対応表を参考にすることが望ましい。このため、当該港の船舶対応表その他の津波に対する船舶対応策について、日ごろより関係者に周知徹底を図っておくことが必要である。

(5) 避難勧告等の解除時期、再入港の調整等

 津波による被害の恐れがなくなったときには、安全の確認後、避難勧告等を解除するとともに、船舶が安全に入港できるよう情報の周知、入港の調整などを行う。

 避難勧告の解除の時期は、原則として津波予報解除の時期となるが、再入港に際しては、港内施設等の安全に留意する必要がある。
 避難勧告解除後に避難した船舶が再入港する際には地震等による施設被害、航路障害物の有無等を確認し、船舶に周知して被害の防止を図る。更に再入港船舶の集中による交通混乱を防止する。

(参考) 津波対策検討例

 本検討例は、海上保安庁海洋情報部において、津波防災情報図が既に作成されていた清水港を例として、港内津波対策検討手引きに従って津波対策検討を簡易的に実施したものであり、清水港の実情を反映したものではない。実際に港内の津波対策を検討する際には、港内在泊船状況、施設の運用状況等を詳細に把握した上で検討が必要である。

1 津波防災情報図(時系列図)

 この防災情報図は、海上保安庁海洋情報部が平成14年度に第3次東海地震被害想定に基づき計算し作成したものである。これに基づきその概要をまとめた。
 なお、同防災情報図には最高水面時のものと最低水面時のものがあるが、ここでは最高水面時のものを用いて整理した。この防災情報図はCDを用いて動画として作成されており、その中から参考として5枚を抽出し添付した。

(1) 全体的傾向

引波の影響から始まる。

 3分後
 港外の、興津川河口から三保の松原にかけて引波の影響が出始める。

5分後
外防波堤両端付近に強い引波の影響が現れるが、1区、2区および3区内側ではまだ影響がほとんど表れていない。
興中津漁港は水位が下がり露出域が現れ、折戸海岸に非常に強い引波が現れる。

7分後
引波の影響が3区全体に及び2区にも達してきているが、1区にはまだ達していない。
興津埠頭、袖師埠頭間の水域に強い引波が現れている。
外防波堤と三保防波堤の問は非常に強い引波となり、外防波堤北側興津漁港一体の強い引波は海岸に沿って流れ、これらが収斂して興津川河口南西の興津中町付近海岸に押波となっている。
折戸海岸一体は非常に強い押波が打ち上げている。これより南西側の海岸で強い引波となり、これらが回り込んで折戸海岸一体の押波となっている。

9分後
2区で、3区よりも強い引波が現れる。1区ではまだ影響が現れていない。
興津漁港海岸に非常に強い押波が打ち寄せる。同じく駒越海岸に非常に強い押波が打ち寄せる。

11分後
1区に引波の影響が出る。防波堤周辺で押波が港内に入り込んでくる。

14分後
1区引波、2区強い引波、全体的に押波の影響、興津船溜で水位が非常に高くなる。興津漁港及び折戸海岸全体にほとんど影響が見られない。

19分後
1区と2区の境界付近で強い押波が現れる。

25分後
防波堤周辺で引波が強いが、その内側の港内では全体的に影響が少ない。
興津漁港、折戸海岸その他海岸全体に露出域が現れる。

34分後
2区で引波がかなり強く、1区においても引波が強くなっているが、3区は、全体的に弱い。
外防波堤と三保防波堤との間で引波が渦をなしている。
興津漁港は全体的に引波で、駒越海岸では引波が強い。

40分後
港内全体的に引波が弱くなっている。防波堤周辺は押波となっている。駒越海岸では押波となっている。
海岸線及び防波堤から1マイル以遠の沖合いでは影響が少ない。

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図 清水港
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清水港地点別波高等
(2) 地域別特徴

第1区
 引波、押波とも一時期強くなることがあるが、短期間である。折り戸湾奥は影響が小さく、貯木場は防波堤によってほとんど影響を受けていない。従って防波堤、閘門など確実に管理されれば、津波被害を防ぐことが可能と思われる。

第2区
 狭まった水域であり、常に、かなり強い引波、押波の影響を受ける。3区が押波のときでも、静岡市岸壁、日の出埠頭から江尻埠頭前面海域の航路においては、強い引波が現れている。
日の出埠頭前面水域では、進入流速が3.7ノット、引潮流速では7.0ノットに達する。
江尻船だまりにおいて強い引波の影響がある。
巴川においても強い引波がある。
清水船溜り口付近においては5ノット程度の強い流速があるものの、港内においては1ノットとそれほど速くはなく、又水位も最大で2m程度である。この船溜りにおいて、日本海中部地震津波による漁港内全漁船の被災率(参考図参照)を適用してみると被災率は25%程度である。

第3区
 袖師埠頭及び興津埠頭周辺において引き、押し共に強い流れが生ずる。
興津埠頭東側に強い流れが集中する。
袖師埠頭・興津埠頭間の水域に強い流れが生じる。興津船だまりでは、最大水位が3.02mになる。
3区中央部付近の広い水域、袖師前面の航路付近海域は、引波、押波とも流向が一定で極端には強くなっていない。港外に避難が間に合わなかった場合の緊急措置として、同水域で支えることが考えられる。
興津船溜りにおいては、水位は最大で約3mに達し、進入流速は2.8ノットになる。引潮により露出域も多数現れる。漁船の被災率は概ね50%程度が想定される。

防波堤周辺
 外防波堤及び三保防波堤周辺、港口付近は極めて複雑かつ非常に強い流れが生じ、渦も発生する。外防波堤一三保防波堤間では引潮流速が4.9ノットに達し、外防波堤北側では引潮流速が5.3ノットになる。
これらの影響を受けて検疫錨地も複雑かつ強い流れが生じる。港内から港外に退避する際には、これらの港口周辺の強い流れに注意する必要がある。

興津漁港(興津海岸)
 興津漁港区域内は引波、押波とも非常に強い影響を受ける。海岸に寄せる押波も大きく、最大水位は4.3m、進入流速は8.7ノットになる。

真崎一吹合岬(清水灯台)一羽衣の松一折戸海岸一駒越海岸
 真崎周辺は、特に北側に強い流れが生じる。この周辺は海水浴場になっているのでその注意が必要である。引潮時には露出域も非常に多く現れる。
吹合岬(清水灯台)から羽衣の松付近にかけては影響が小さい。
羽衣の松付近から駒越に至る海岸では引き波押し波とも極めて強い流れが生じ折戸海岸では進入流速7.9ノット、最大水位4.96m、駒越海岸では進入流速4.6ノット、最大水位5.1mに達する。露出域も多数現れる。

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画像 参考図 日本海中部地震における漁船の被災率と津波高の関係より
(3) 考察

 上記の津波の状況から特に注意すべき事項は、次のとおりである。
 ① 清水船溜り(2区)と興津船溜り(3区)を比較すると、清水船溜りは、津波高、流速とも比較的小さく、興津船溜りは津波高、流速ともに大きいことから、港内に存する小型船舶は興津辺溜りの方が津波による影響が大きいと考えられる。
 ② 2区における津波の動向を見ると、概ね岸壁に平行して水流が発生しているが、3区においては場所によっては岸壁に直角方向に津波が来襲しているところもあり、3区の岸壁に係留している船舶は注意が必要である。
 ③ 港内の船舶は、5分以内に対策をとる必要がある。
 ④ 港内各区域とも強い影響を受けるので原則として全船港外退避が望ましい。
 ⑤ 検疫錨地も強い影響を受けるので港外退避が望ましい。
 ⑥ 海岸線より2マイル以上の港外退避が望ましい。
 ⑦ 1区折戸湾奥からの退避距離は、5マイル以上を考慮する。
 ⑧ 貯木場は、直ちに水門や閘門を閉鎖するのが望ましい。
 ⑨ 清水船だまり、江尻船だまり、興津船だまりの小型船は、港外退避できない場合は係留強化のうえ陸上避難が望ましい。
 ⑩ 巴川では強い引波に注意する。
 ⑪ 興津漁港一帯の海岸、折戸海岸、駒越海岸一帯では、特に強い押波があるので直ちに陸上の高い場所に避難するのが望ましい。
 ⑫ 真崎海水浴場周辺で強い流れが生じるので、海水浴客等は直ちに陸上に避難する。
 ⑬ 万一港外退避が間に合わず港内に取り残された場合、3区港内中央部付近で支える。

(4) 対応策

 以上の港内津波特性の把握、船舶への影響評価の考察等から、主な対応策あげると次のとおりである。
① 避難海域
 清水港沖合いは比較的急深であるので、200m等深線が海岸線より概ね1~2マイルにあって、これより沖合いは津波の影響が少なくなっている。従って避難海域としては海岸線より2マイル以上沖合いに設定する必要がある。この海域は船舶の大小にかかわりなく全船舶を対象とするものであるが、小型船など風潮流の影響を受けやすい船舶は、津波の影響のほか当時の気象海象に留意する必要がある。
 また、港外避難が間に合わなかった場合の緊急避難海域として、3区港内中央部付近に設定する。
② 船舶対応表
 今回のシミュレーション(東海地震)の設定では、大津波警報で時間的余裕なしに該当するものと思われるが、一般的な地震として、今回のシミュレーションに相当する規模の地震が発生した場合の対応は以下のようになる。時間的余裕の更に詳細な検討を行うことにより、被害を最小限に止めることができる。
③ 避難経路及び順序
 港奥よりの避難経路は、外防波堤北側及び興津漁港一帯は最も大きく津波の影響を受ける海域であるので、外防波堤と三保防波堤の間の航路によって港外退避することが望ましい。
 また、避難順序としては、石油コンビナート等特別防災区域である東燃シーバース、同各桟橋及び袖師第二埠頭の危険物積載船舶並びに日の出埠頭の客船について、優先避難を配慮する必要がある。

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船舶対応表
2 日本海難防止協会の「昭和56年度海難防止の調査研究事業報告書」における清水港シミュレーション

 昭和55年度及び56年度の2ヵ年にわたる日本海難防止協会の調査研究において、代表点47箇所を選定して清水港のシミュレ一ションを行った。その概要は以下のとおりである。

(1) 概況

 a) 1854年の安政東海津波での津波高さは、清水港では2.5-3m(三保吹合岬では6m、折戸東海大学正門附近では5mである)、また、駿河湾西海岸では1-2mの隆起が起ったとみられる。
 b) 想定断層は、水深500m以上のところにあるとみられるから、発生する津波の波速は速く、地震発生後5~10分程度で津波の第1波が来襲し、2-3回押寄せるものとみられている。l
 c) 波長は数10kmで、沖合では波高は1m程度(清水港の津波高さを2.5-3mとした場合)と低いから、沖合の船舶は津波の存在を感知できない程度のものとみられる。流速も10~20m/s程度で、湾岸から沖合に向っての水深の変化も比較的急なので、波が砕けたり、巻波が起ることはないと考えられる。
 d) 津波の周期は10~20分程度とみられている。

(2) 清水港シミュレーション

 a)シミュレーション結果
  主要地点についての、最大振幅(最大水位とみてよい)及び最大流速は次の表のようになる。
 b) 水位上昇
  表にみられるように、港内全般としては水位の上昇の最大は1.4m~3.Omであるが、場所により異なる。
  また、周期が長くなると、水位上昇は一般的に大きくなるようである。
 c) 最大流速
  大流速は、防波堤入口附近及び折戸湾入口の日の出ふ頭前面のように、水面の狭くなっている部分で流速が大きくなる。防波堤入口附近では、強い流れが乱れ、渦が発生することも予想される。
  大きな特徴として、東亜燃料シーバース沖の水面が広くなっているところでは、流速は1m/sを少し上回る程度となり、他の場所に比較して流速の小さい水域が存在する。
 d) 水位・流速変動の位相
  水位変動と流速変動の位相は、折戸湾内での第2波以降以外は概ね一致しており、最大水位変動の生ずる時点で最大流速となっている。流向は、水位上昇の時に満ち、下降の時に引く。
 e) スリップ・船だまりの状況
  興津ふ頭、袖師ふ頭のようにスリップが長く、岸壁に越波のない限り、波が完全に反射されるような場所では、水位の上下は全体的な平均より大きくなる。流速はスリップの奥では0で、入り口に近付くほど大きくなるものと考えられる。
  また、袖師・江尻・三保・新船だまりのような船だまりでは、入口の狭隘部で流速は大きくなるが、奥の広いところは水位の上昇は大きいが、流速は小さいと考えられる。

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主要地点における最大振幅と最大流速
(3) 安全対索

 シミュレーション結果等を参考にすると、次のような対策が考えられる。
 ① 危険物積載船の昭和54年度の一日平均入港隻数は6.7隻であるから、最大隻数は、その2倍の14隻程度と予想される。そのうち、大型船1隻程度を除けば、自力出航可能の船舶と思われる。
   したがって、超大型船1隻について水先人・曳船の手配、緊急沖出し手順を十分に確立し、小型船に対して緊急沖出しの主旨を十分徹底すれば、危険物積載船について警戒宣言発令後、2時間以内の全船沖出しは可能と考えられる。
   ただし、夜間に対する配慮が必要である。
 ② 沖出しの緊急順位の高い岸壁として、次の場所が挙げられる。
 ・ 日の出ふ頭、日本軽金属岸壁
 ・ 折戸湾に面する岸壁
 ・ 江尻ふ頭1-5号岸壁
 ・ 興津第一ふ頭と同第二ふ頭、袖師第一ふ頭と同第二ふ頭の間のスリップの入口に近い岸壁及び先端の岸壁
  ・ 三保船だまり
  ・ 航路に面した金指造船所岸壁
 ③ 折戸湾内の木材船用係船浮標係留船は、折戸湾入り口から折戸湾奥の第二水面貯木場波除場開口部に向う線に沿って前後係留可能のように、浮標配置・係留方法を変更することが必要である。
 ④ 日本鋼管清水製作所の、浮船渠両側の堀込みの奥では水位は高いが、流速が比較的小さくなるので、この堀込み岸壁での修理船を係留することは可能であろう。
  また、浮船渠を水位上昇に耐えるよう係留力を強化して、これに入渠中及び作業用小型船を係留することも可能性があると考えられる。
 ⑤ 止むを得ず錨泊する場合の、安全性の比較的高い水域は、流速の小さい東亜燃料シーバース前面から三保湾に向っての水深15m以上の水域である。
  折戸湾内での錨泊は錨かきは良いが、流速が大きく適当ではない。
 ⑥ 小型旅客船の沖出しは、耐船性の面からみれば、ほとんど不安はない。風速15m/sを超える場合は、沖出ししない方が良い。沖出し位置は駿河湾北部東寄りが望ましい。
 ⑦ 船だまりの中では、流速はさほど大きくないが、水位上昇は高く、溢流もあり得るので、可能な限り沖出しすることが望ましい。

 以上のまとめとして・次のように述べられている。
 ① 安全対策としては、安全側に余裕をもって策定したが、これで十分だという保証はない。とくに小型船・漁船については不安が残っている。
 ② この安全対策は、各港に設けられている安全対策協議会や、港湾の管理に当る機関が具体的な対策を立案される際に、役立ち得る参考資料の作成を主な目的としてまとめたものである。
  一方、各港の形態はまちまちであり、具体的な現実に即した問題点は多種多様で、とても一律に律しきれるものではないので、抽象的・概念的な対策となっていることは否めない。
  たとえば、沖出しすることが不可能で、止むを得ず港内に在泊する小型船や漁船の係留法については、現地でさらに、きめ細かい検討が行われて、具体的な統制のとれた係留法や収容隻数の制限を行わなければ、役立ち得るものとはならないと考えられる。各船の自主判断のみに依存することは、いたずらに混乱を招くことになる。

まとめ

 第1項の津波防災情報図と第2項の昭和56年度海難防止の調査研究事業報告書による清水港シミュレーションは、同様の傾向を示している。56年当時と現在では港の形態が変わっているので細部において異なるが、全体傾向はほぼ同様と見られるのでこれらを把握すれば、おおむね船舶の対応策を検討することができるものと思われる。

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港内版 ハザードマップイメージ図
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清水港 津波防災情報図(時系列図)
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清水港 津波防災情報図(時系列図)00:00:12
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清水港 津波防災情報図(時系列図)00:05:12
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清水港 津波防災情報図(時系列図)00:08:12
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清水港 津波防災情報図(時系列図)00:29:36

あとがき

あとがき
 本調査研究により、船舶の望ましい津波対応に関する検討を行い、各地域において津波対策を検討する場合の参考に資するため、港内津波対策検討手引きを作成した。
 これらは、一般的、標準的なものとしてまとめたものであるが、船舶は、種類、大きさ、形態、航行状態、停泊状態等が各船毎に異なり、更に当該港湾の状況も、形状、利用状況等が異なることから、津波への対応はそれぞれの船舶ごと、港ごとに異なるといってよい。従って、今後、各地域では本調査研究結果を参考に、それぞれの特性等に応じた対応策を検討・策定するとともに、各船舶においても適切な対応策を策定することが望まれる。
 また、本調査研究は、既存の資料及びこれまでの研究成果を整理分析することによりまとめたものであるが、過去の津波災害に関する資料は、陸上災害に関するものがほとんどで、船舶の被害については詳細に分析し、報告された事例は少ない。報告されているものについても、その大部分は小型漁船等の陸上への打ち揚げ状況についてであり、津波規模と船舶被害について検証されている事例はほとんどない。また、大型船舶に関する被害(例えば係留索の切断や岸壁との衝突等による被害など)についてもほとんど報告されていない。
 大地震等の発生が予想され、津波来襲による船舶への被害発生が予想される場合に、船舶の被害状況や被害程度を推定し、それに対する対策を講ずる場合には、過去の津波に関する船舶被害の資料は非常に有用である。よって、このような資料の収集体制を整備し、将来の津波対策に生かせるようにすることが必要と考えられる。
 それには、関係機関が連携し、津波来襲後速やかに調査班等を組織し、港湾を中心に、幅広く船舶被害の状況を調査できる体制を整備すると共に、次のような被害調査を行い、統一的で継続的な調査の実施が望まれる。
 最後に本報告書の取りまとめにあたり、ご協力いただいた関係各位に対して深甚なる謝意を表するとともに、本報告書が港内交通安全の一助となれば幸いである。

平成16年3月

委員長 高橋勝

津波来襲後の船舶被害調査(案)

1. 調査要領
 津波来襲時の港湾内の水流は非常に複雑で、場所によって大きく異なる。したがって、船舶被害を調査する場合も、被害発生場所とその場所の水位変化等の状況とを関連させて、記録する必要がある。また、水位変化等津波の正確な情報については、津波来襲直後の調査では、入手および調査が困難と考えられるので、聞き取り調査等で判明したものを記録し、補足調査をし、追記するシステムが必要である。
2.調査および記入項目(例)
 (1) 番号 ………… 港湾区越図上にこの番号を記入し、位置が特定できるようにする。
 (2) 被害調査日時
 (3) 被害発生日時
 (4) 場所名(場所名または緯度・経度、あるいは顕著な物標からの方位・距離)
 (5) 場所の自然条件(水深、当時の潮位、風向、風速、天候)
 (6) 調査船舶の特定
  ① 船舶の種類
  ② 総トン数
  ③ 長さ、幅
  ④ 喫水(前後部)
  ⑤ 載荷状況等
  ⑥ 乗組員数
 (7) 津波対応要領作成の有無、津波経験の有無
 (8) 係留状態(岸壁係留、錨泊、浮標係留、漂泊、等)または航行状態
   係留状況等は図面入りで詳しく記入する。
 (9) 津波情報入手時刻及び同情報を入手してから津波第一波来襲までの時間
 (10) 津波情報を入手してからの対応
 (11) 津波来襲時の状況
  ① 津波の状況(水位変化、流向、流速の程度、水位変化の回数、感震の有無等判断できる範囲で、聴き取り調査の場合は相手の職種・年齢も)
  ② 船舶の状況(船舶の挙動等を詳しく聴き取り記録、聴き取り者の職種・年齢)
 (12) 被害状況と程度(被害に至らなかったものを含む。)
  船舶、岸壁等の全被害の状況を出来るだけ詳しく、必要ならば図面入りで記述する。
  被害を受けるに至らなかった場合でも津波の影響を受けたとき(係留索の緊張、航行船舶の移動、舵効影響、傾斜等)は、その状況を記述する。
 (13) 津波来襲中の乗組員の対応状況
 (14) 対応等の問題点、その他参考事項(自船以外での特異動向等)
 (15) 被害状況写真
 (16) 津波の状涜に関する事後調査の結果(最大水位変化、流向流速、等)
  ① 地震関連
   震度、発生場所、等
  ② 津波関連
   到達時間、来襲方向、第一波の挙動(上げ、下げ)、最大波
   津波のタイプ(壁のように、ゆっくりと流れるように、普通の波のように)
   来襲時の音、風、特異な現象
 (17) その他
   検潮記録、地震記録、新聞、航空写真、その他

資料編

1 参考資料

1 津波の現れかた

1-1 津波とは

 津波の多くは海域で震源の浅い大地震によって生じる。
 地震による断層運動によって、海底が広範囲にわたって急激に沈降あるいは隆起することに伴い、海面にも凹凸が生じ、それが重力を復元力とする海の波(津波)となって伝わる。津波は沖合の深い海では小さくても、海岸に近づくにつれて大きくなり、時として悲惨な災害をもたらす。一方、その伝わる速さは地震波に比べて小さいので、適切な予報がなされれば津波来襲前に避難することができる。
 地震以外にも火山噴火や地すべり(海底のものも含む)などの地学的現象によっても津波は発生する。台風などの気象的な原因によって生じる高波は高潮と呼ばれ、津波とは区別される。また、震源からの地震波が海水中を粗密波として伝わり船舶などによって感知される現象は、海震と呼ばれる。
 日本における代表的な津波災害の例としては次のようなものが揚げられる。
 1896(明治29)年の三陸地震(M6.9)は、死者数約22,000名という目本最悪の津波災害をもたらした。三陸地方ではその後も1933(昭和8)年の三陸地震(M8.1)によって死者・行方不明者約3,000名という被害が発生した。また1944(昭和19)年の東南海地震(M7.9)や1946(昭和21)年南海地震(M8.0)の際にも津波による死者が数多く出ている。
 1960(昭和35)年には南米チリの地震(M8.5)による津波が約23時間かかって日本へ到達し、死者100名をこえる被害をもたらした。
 最近では1983(昭和58)年日本海中部地震(M7.7)や1993(平成5)年の北海道南西沖地震(M7.8)によって日本海沿岸に津波災害が発生した。

1-1-1 津波の高さ

 津波の高さに関しては、測り方によって幾つかの異なる定義があるので注意が必要である。津波の(最大の)高さ、最大波高、最高水位(潮位)、浸水高、遡上高について違いを述べる。(図1-1-1参照)
 潮汐などによる海面の時間的変化は、港湾や検潮所において潮位観測基準面(DL)、平均海水面(MSL)あるいは東京湾平均海面(TP)などの基準面から測られ、津波による最高水位も、これらの基準面から測る。
 検潮儀などにより海面の時間的変化が記録されている場合、理論計算や前後の記録から、津波の影響を取り除いた海面の高さを推定することができる。これを「推算潮位」と呼ぶ。
 「津波の最大の高さ」とは、津波による水位と推算潮位との差の最大値である。
 すなわち、津波が来なかった場合に予想される水位からの最大のずれである。混乱を防ぐ意味で片振幅とか半振幅とか呼ぶこともある。
 一方、引き続く水位上昇(山)と下降(谷)との差の最大を波高と呼ぶ。こちらも混乱を避けるために全振幅と呼ぶ場合がある。半振幅や全振幅という言葉から分かるように、一般に津波の波高は津波の高さに比べて2倍程度になる。
 検潮儀などの器械観測データがない場合は、現地観測によって浸水高や遡上高を測る。浸水高(痕跡高ともいう)とは、建物や斜面上に残された変色部や漂着物までの高さのことで、遡上高(打ち上げ高ともいう)とは津波が陸地にはい上がった最奥地点の高さのことである。
 これらを測定する際には、基準面(TPが一般的である)を明確にすることが重要である。浸水高は検潮記録上の最高水位に対応するが、検潮記録上の水位よりも大きくなるのが普通である。検潮儀上の記録は、井戸の応答特性の影響を受けるためである。
 なお、(最高)浸水位〔(最高)浸水高〕、(最高)遡上高〔(最高)打ち上げ高〕の定義は以下のとおりで、括弧内の最高は省略されることが多い。
 (最高)浸水位:津波の残した痕跡のうち最高のものの高さを、津波来襲時の汀線から上向きに測った鉛直距離。
 (最高)遡上高:津波来襲時の汀線から上向きに測った、津波浸水域最奥点の鉛直距離。
 浸水域内にある建物等での痕跡高は、必ずしも遡上高とは一致しない。津波で記された痕跡は、汀線から奥に行くに従って高くなることも低くなることもあるからである。
 また、浸水深とは、痕跡値を測った場所での陸上からの水深で、これを浸水高と呼ぶ場合もある。
 昔は遡上高という言葉が使われたが、遡の字が当用漢字にないため、打ち上げ高の方が多く使われている。

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図1-1-1 検潮記録上の津波とその最大の高さ、最大波高、最高潮位の測り方
1-1-2 津波の規模

(1) 今村・飯田の津波規模階級
 地震の震度やマグニチュードに対応する津波の規模を示す尺度として、津波階級(津波のマグニチュード)がある。
 その一つは、表1-1に示す今村・飯田の津波規模階級で、多くの津波資料・記録で津波の規模を示す階級として広く使用されており、最も一般的な津波規模階級といえる。地震でいえば、震度とマグニチュードの中間のようなものである。
(2) 阿部の津波マグニチュード
 阿部氏によって導入された津波マグニチュードMtは、地震のマグニチュードと似た方法で決定される。日本近海で発生した津波に対しては、検潮記録上の津波の片振幅Ht(単位はm)及び波源までの距離Δ(単位はkm)とから
Mt=log Ht + logΔ + 5.8
と定義される。また、日本以外の環太平洋地域で発生し、太平洋を渡ってくる遠地津波に対しては、
Mt=log Ht + 9.1 + C
という式が用いられる。ここで、Cは波源によって異なる定数で、南米からの津波の場合は0.0、アラスカ・アリューシャンからの場合は0.3、カムチャツカや千島列島からの津波に対しては一0.2と与えられている。
 これらの定義式は、津波を発生させた地震のマグニチュード(モーメントマグニチュ一ドMw)とMtとが等しくなるように設計されており、津波を使って地震の大きさを測るスケールということもできる。
 このため、地震発生直後に上式を用いて津波の高さを推定することも可能である。

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表1-1 津波の規模階級(今村・飯田の規模階級)
1-2 津波発生の条件
1-2-1 発生の条件

 地震により津波は引き起こされるが、全ての地震が津波に結び付くとは限らない。
 地下の岩盤が破壊して断層ができることによって地震が起こるが、この断層のずれが海底にまで達して海底に変動が生じた場合に限って津波は発生する。
 従って、内陸の地震、規模の小さな地震、規模が大きくても震源の深い地震など海底に変動を生じない場合には、津波は発生しない。

(1) 地震の規模と津波の規模階級
 地震のマグニチュードMと津波の規模階級mとの関係は、多くの統計的数値から次の2式が得られている。
  ① 東海・南海沖地震m=2.61M-18.44
  ② 日本海 m=2.5M-16.1
 但し、遠地津波である1960年のチリ津波は、近地津波と性質が異なるとして除外される。また、三陸海岸に多く見られるU、V字型湾奥で津波エネルギーの集中と、津波の周期と湾の固有振動周期とがほぼ等しい場合に起こる共鳴現象により、津波高が増幅される事例には同式は当てはまらない。

(2) 発震機構と津波
 ① 断層の形状と津波
 図1-2-1は、断層の種類を示している。発震機構としては、縦ずれ断層(正断層、逆断層)と横ずれ断層(右横ずれ断層、左横ずれ断層)とがあるが、津波を発生させる地震は縦ずれ断層が多く、横ずれ断層で起こるものは少ないと考えられる。
 海域における断層は、ほとんどが縦ずれ断層であることから、海域で地震が発生した場合は津波の発生を念頭に置かなければならない。
② 津波地震
 通常、津波は大きな地震に伴って発生するため、震源に近い沿岸などでは、津波来襲前に強い地震動を感じる。しかし、大津波で有名な1896年(明治29年)の三陸地震津波では、沿岸の震度は2~3、マグニチュードは6.8程度であったが、津波規模mは4と極めて大きな津波であった。このように地震のマグニチュードと比較して大きな津波が発生するものを「津波地震」と呼ぶ。
 津波地震が特別に津波を発生させる理由として、低周波地震による津波の発生が考えられる。低周波地震は、断層がゆっくりと生成されるため、短周期の地震は発生しにくく、相対的に地震波の長周期の波が卓越した地震(長周期地震、ぬるぬる地震、Slow Earthquake)になる。
 地震波のうち人体に感じやすいのは短周期成分の地震波であるが、低周波地震はこの短周期成分が微弱なため、実際に大きく断層が動いて大きな津波が発生しても、震度が小さくなる。

(3) 震源の深さと津波
 震源が深い地震ほど地殻変動が地表面(海底面)に現れにくくなり、津波も起こりにくくなる。過去の海底地震の深さと、それに伴って発生した津波の実績から80㎞以上の深い地震では、津波は先ず発生しないと考えて良い。50~き0㎞では弱い津波となる。厳しいのは、それより浅いところにある震源で、深さh(km)に対し、飯田氏によると次の関係式で示される。
    m>-1 M=6.3 + 0.O1h
    m≧2 M=7.7 + 0.005h
  また、別の資料によれば、次式が示されている。
    m>-1 M=6.42 + 0.017h
    m≧2 M=7.75 + 0.008h
  上記4式は、津波を起こす最小の地震マグニチュードは6.3または6.42で、大きな津波は7.7または7.75から発生するものであること、水深hが小さいほど大津波が起きやすくなることを示している。
  しかし、これらの式は最小自乗法により求められているので、全ての津波に当てはまるとは限らず、M:5.8の地震においても津波が発生している事実があるが、一応の目安としては有効な式と考えられる。

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図1-2-1 断層の種類
1-2-2 地震の大きさ

(1) 地震のマグニチュード
 地震の規模(大きさ)を表す尺度として「地震のマグニチュード」が世界中で使用されている。これは、カリフォルニア工科大学のリヒター教授が1935年に発表した「機器による地震のマグニチュード・スケール」という論文によるもので、「地震のマグニチュードは、震央距離100㎞のところにある周期0.8秒、減衰常数0.8、倍率2,800倍の標準地震計が記録した最大震幅をミクロン(1㎜の1/1000)単位で読み取り、その常用対数で表す。」と定義されている。

 現在は、このような標準地震計は使用されていないし、丁度良く震央距離にある訳でもないが、数値は全て換算が可能である。
 この他にも表面波マグニチュード、モーメントマグニチュード等もあり、気象庁では他と区別するため「気象庁マグニチュード」と表現している場合もあるが、一般には単に「マグニチュード」といい、大文字のMで表現され、地震の規模尺度あるいは規模階級として広く慣用されている。
 表1-2-1に、Mと地震のエネルギー(E)の対照表を示す。
 ※E:エネルギーの単位でMとの関係は次式による。
  log10E=11.8 + 11.5M

(2) 震度
 地震の時の、ある地点での揺れの強さを表す尺度を震度という。従来、震度は観測者の体感や周囲の被害状況により求められていたが、現在では震度計(加速度と周期及び振動の継続時間から算出する)により震度を測定している。
 地震発生直後に各地の揺れの強さを把握し、被害状況や津波の発生を推定するため、震度は地震津波防災上重要な情報として活用されている。
 一般に震度は、震源から離れるほど小さくなるが、地下の岩盤の状況や観測点付近の地盤の性質の影響を受ける。このため、震源からの距離が同じでも震度が異なることがあり、直ぐ隣り合った場所で震度に違いが出ることがある。
 従来の震度階級の「震度5」及び「震度6」は、発生する被害状況の幅が広すぎるため、1996(平成8)年10月1日から、これらを2つに分け、それぞれ「震度5弱」、「震度5強」及び「震度6弱」、「震度6強」として震度階級を10階級とした。改定された気象庁震度階級を表1-2-2に示す。

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表1-2-1地震の規模階級MとエネルギーEの対照表
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表1-2-2 気象庁震度階級解説表(抜粋)
1-3 津波の性質
1-3-1 津波の速度(到達時刻)

 地震によって生じる津波は一般に波長が水深に比べて大きいので、流体力学的には長波(浅水波とも呼ばれる)として扱うことができる。
 このとき、その伝播速度V(m/s)は次の式で与えられる。
    V=√gh
      g:重力加速度(9.8m/s^2) h:水深(m)
 例えば、水深が100mの時、V=31m/sであるから、時速は約110kmとなる。
 従って、水深がわかっていれば、津波の速度や到着時刻が計算できる。
 実際の海は深さが一様でないので、ホイヘンスの原理を使って一定時間ごとの津波の波面を作図によって求める。
 図1-3-1は、1983年日本海中部地震からの津波波面の伝播の様子と、海岸への到達時刻の計算例である。地震発生後直ちにこのような計算を行うことにより、各地への津波到達時刻を予測できる。

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図1-3-1 1983年日本海中部地震の波源域からの津波伝播図
1-3-2 津波の流速と抗力

 津波が進行して行くときの流速(水粒子の運動速度)は、次式で表される。
  U=n√gh   U:津波の流速(m/sec)、η:波面の静水面からの高さ(m)
         g:重力の加速度(9.8m/sec^2) h:水深(m)
 例えば、水深500mと5mの場合では、g/hが9.8/500と9.8/5になり、ηが同じでも、流速には10倍の差が生じる。

 水中及び水面付近の部材及び構造物に作用する流れの抗力は、次式で表される。

   F_D = C_D A U^2 W_o / 2g

   F_D :物体に作用する流れ方向の抗力(tf)
   A :物体の流れ方向の投影面積(m^2)
   U :流速(m/sec)
   W_o:海水の単位体積重量(1.025 tf/m^3)
   g :重力加速度(9.8m/sec^2)
   C_D :定常流中における抗力係数
     円柱:1.0 角柱:2.0 立方体:1.3~1.6
     平板:縦/横の比率により、
        1→1.12、 2→1.16、 4→1.19、 10→1.29、 18→1.40、 ∝→2.Ol
 水深(h)が10mの場所で、波の高さ(η)が2mの津波が来襲してきた場合の、津波の流速(U)は約2m/secとなり、一片が1mの正方形の平板に作用する抗力(FD)は、0.23tfとなる。

1-3-3 津波の変形

(1) 水深の影響
① 波長の変化
 波長(L)と波の周期(T)、波速度(V)との関係は次式で表される。
        L=T・V
 波速はV=√ghで表されるので、波が浅いところに来ると、水深(h)が小さくなるから、波速(v)が小さくなる。しかし、周期は変わらないから、波長(L)は短くなる。

② 波高の変化
 波高(H)と水深(h)との関係は次式で表される。
   H ∝ 1/ 4√h
 即ち、浅い海域に進行して来た津波の波高は、水深の1/4乗に逆比例して高くなる。
 例えば、水深3,000mの所で波高2mであった波が30mの水深の所に来た場合、3,000m対30mの1/4乗に逆比例するから、3.16倍となり、波高は6.3mになる。

(2) 水路幅の影響
   水深が一様な湾の幅(W)と波高(H)との関係は次式で表される。
     H∝1/√w
   即ち、幅が狭くなる湾に進行して来た津波の波高は、湾幅(間口)の1/2乗に逆比例して高くなる。
   例えば、湾口10k皿の所で2mであった波高が、2㎞の幅の所に来た場合、10㎞対2㎞の1/2乗に逆比例するから、2.24倍となり、波高は4.48mになる。

1-3-4 津波の屈折

 波速はV=√ghで表され、波速は水深に比例する。
 従って、波頭をみると、それが等水深線を表している。
 図1-3-2示したように陸岸に平行して水深が変化していると、波頭も大体海岸線に平行になる。波は波頭に直角に進むので、進行途中の水深や海岸の凹凸により、波の発散、収斂がみられる。

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図1-3-2 波の屈折
1-3-5 津波の回折

 波長が極めて短い光の場合は、途中に普通の物体があると、その背後は影になる。
 長波である津波の場合は、進行途中の島、半島、防波堤等の大きさと津波の周期の大小によっては、これらの背後に津波(長周期津波)が回り込む場合とこれらが遮蔽物となり津波(短周期津波)の被害を免れる場合がある。
 津波が段波となった場合、津波は防波堤の背後に十分回り込むことができず、防波堤内外に激しい水位差を生じることが確認されている。
 また、短周期津波の場合は、同一港でも、場所によって波高の違いが顕著な例が確認されている。
 図1-3-3は、1933(昭和8年)の三陸津波における最大波の高さの分布を示したものであるが、えりも岬(図中の□)での平均の高さが3~5mであったのに対して、岬の付け根付近で9m以上に達しているのは、回折現象によるものである。

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図1-3-3 三陸津波(1933年)の高さ分布(×は震央)
1-3-6 津波の特異現象

(1) セイシュ(共振効果)
 タライに水を張ってかき回すと、小刻みな波は直ぐ消えるが、ゆらりゆらりと全体が揺れる波は、なかなか収まらない。これをセイシュといって、スイスのジュネーブ湖のものが有名であり、方言でセイシュと呼ばれていたのが、国際学術用語となった。
 日本語では「静揺」と訳すこともある。長崎でも「あびき」といってその特異な現象を認識していた。
 水をはった入れ物を傾けて波を発生させると、入れ物の中の波は結局、半波長の波となるが、湾の場合、湾奥には入れ物の壁に相当する陸地があり、湾口には壁がない。
 入れ物の中の波でいうと、真ん中で切ったような形になる。つまり湾には波長の1/4が入るような振動が起こりやすい。
 従って、湾内で起こりやすい振動と似た周期の津波が繰り返し進行してくると、この湾奥での振動がどんどん増幅される。これが湾による共鳴(セイシュ)である。
 奥行きの長い湾では、チリ津波のような遠地津波に共鳴し、短い湾では、近地津波に共鳴する。
 チリ津波が来襲した三陸の南半分のリアス式海岸に並んでいる二十数個の湾のなかでも特に共振効果が大きかった湾は、大船渡湾と志津川湾であった。
 三陸はるか沖の津波では、湾口で1.5m程度の津波が宮古湾では湾奥で5m近い高さになったことが確認されている。
 湾は形も複雑であり、その奥行きの方向や開口の方向の固有振動周期などいくつかの固有振動周期を持っており、それに合致した周期の津波がやって来ると共振して大きく揺れだす。ある湾に津波が進入した場合、最初の波は津波そのものであるが、第2波以降からは津波に揺られたセイシュのエネルギーが大部分を占めることがある。

 また、港内においても港の固有振動周期による津波の共振の可能性があり、「港湾の施設の技術上の基準・同解説」にも「港内の津波の波高は周期に大きく影響される。従って、設計に際しては、実測周期ばかりでなく、湾または港の固有振動周期と同じ周期の津波についても検討することが望ましい。」としている。

(2)ボア(段波)
 海に面していて潮の干満の影響を大きく受ける大河の河口部においては、上げ潮の時間が下げ潮に比べて短くなるため、上げ潮の流速は下げ潮に比べると速くなる。
 川幅が徐々に狭くなることによって、また川床の傾斜によって上げ潮が集中され、特に大潮のときには流速が非常に速くなり、ボアが形成される。
 ボアの先端部の状況と津波により発生した段波とは、よく似ており基本的には同じものである。
 津波によるものであれ、潮汐によるものであれ、ボアの切り立った波の壁の後方は、いくつもの波の山が続いているケースと平らな山になっているケースとがある。
 津波によるボアは、日本海中部地震津波の際、河川に限らず沖から長く浅い海底が続いている海岸(男鹿半島の北側から能代市にかけての海岸)でも発生したことが確認されており、過去、三陸地方を襲った津波による破壊状況からボアの発生が確実視されている例もある。
 いずれにしても、ボアが重視されるのは、その強力な破壊力からである。

(3)河川のボア
① ボアが発生した河川
 日本海中部地震津波の来襲によりボアが発生した河川は下記のとおりであった。
 秋田県:米代川(能代港)、雄物川
 島根県:中村川(隠岐島)
② 米代川のボア
 米代川で発生したボアのビデオ記録から下記の速度、高さが求められた。
 速度:7.5m/sec(27㎞/時)
 高さ:2.0~2.5m

1-3-7 海底地形・海岸地形等の影響

 一般に津波の波源に近い海岸ほど津波は大きく(高く)なるが、津波の持つ性質により、海底の水深・地形や海岸の形(湾の形)などの影響を大きく受ける。
 陸上においても地面の傾斜や障害物(崖、建物、建造物)の有無により遡上高に大きな違いがでる。

(1) 浅水域による津波の屈折
 浅い所を伝わる津波は深い所を伝わる津波よりも遅れる。従って伝播する海域中に浅い海域があると、津波の進行方向は、浅い海域を抱き込むように曲がるため、それが凸レンズのような役割をして、その背後で津波が高くなることがある。
 1960(昭和35)年チリ津波の際、津波は太平洋を伝わるうちにハワイ諸島周辺の浅海部分で遅れ、波向線は集束作用を受けたため、三陸沿岸に集中した。
 1993(平成 5)年北海道南西沖地震の津波は、日本海のほぼ中央に位置する大和堆の影響により集束し、隠岐島をはじめ山陰地方で大きくなった。
 同様に、岬や島では、付近の水深分布により波が集束して大きな津波になることがある。

(2) 浅水域による津波の変形
 津波が沿岸に近付き、水深が浅くなるにつれて津波の進行速度は遅くなる。津波の速度が遅くなると、その分振幅(津波の高さ)が水深の1/4乗に逆比例して大きくなり、波長は短くなる。
図 浅水域による津波の変形

(3) 陸棚の影響
 陸棚に達した津波は、強く海底の影響を受け陸棚斜面で一部反射し、大部分は通過する際屈折し、深さ200mの陸棚の外縁までやって来ると波面がほとんど流岸線に平行となり、進行方向は海岸線にほぼ直角になって入って来ることが多い。
 浅海に侵入した津波は、進行速度が遅くなり津波高さが大きくなって陸棚を押し上がって来る。
 海岸線にほぼ直角方向に進行した津波は陸岸で反射され、陸棚縁辺でも一部反射され岸・沖方向の往復運動を繰り返すことになる。この時、津波周期が陸棚の固有振動周期と一致すると共振を起こす。これを陸棚セイシュという。

(4) 海底傾斜の影響
 津波の伝播速度Vは、v = √ghであるが、沿岸部では水深hに比較して波高Hが大きくなるとこの限りではない。その目安はh/H<10とされている。
 このような場合、津波波面の静水面からの高さを考慮しなければならない。波面の上昇分ηを加えると、V = √8(h+η)となり、右図のように次第に浅くなっている海岸に津波が近付くと、波の高い所に位置する波面ほど速く進行し、津波の前の部分が遅れ始める。
 それに後部がどんどん追いついて津波の山の部分が高くなるとともに、波は次第に前傾化することになる。この状態が長く続くと、破壊力の大きい段波(場所的な水位変化が水深に比べて無視できないくらい大きな波をいう)あるいは砕波(波面付近に空気を含んだ白波を呈する状態)に至る。
 港湾技術研究所は、長さ163mの実験水槽で海底傾斜1/200(能代海岸の海底傾斜に近似)と1/50の場合について模型実験を行ない、1/200の場合には段波が発生し、1/50の場合は段波が発生しないという実験結果を得ている。
 また、日本海中部地震・津波に基づく同研究所の報告では、能代海岸は緩い海底傾斜(約1/200)が200m等深線から海岸まで30㎞も続いているので段波ができて砕波が起こったが、七里長浜海岸(青森県鰺ヶ沢湾の北方付近)はその距離が10㎞と短かいので段波もできず、砕波も起こらなかったものと推定している。但し、七里長浜海岸でも、津波の高さが2m以上では砕波が起こる可能性があると推定している。艦作崎(へなしざき、青森県深浦港付近)は、その距離が5.5㎞で傾斜も1/15~1/50であるので、段波も砕波も発生しなかったとみられる。
図 波形の前傾化(室田、1977)

(5)湾・入り江の影響
 波高は、幅の変化(間口の変化)に対して1/2乗に逆比例するので、津波の波高はV字型の湾奥(入り江)へ進行するほど高くなる。更に湾奥ほど水深が浅くなるので、ますます波高が高くなる。
 また、湾の形状等により湾の固有周期と津波の周期がほぼ一致するような場合、共鳴現象(セイシュ)が生じて湾奥では、湾口に侵入する津波の10倍から20倍近い高さとなることがある。
 図1-3-4は1933(昭和8)年の三陸津波と1960(昭和35)年のチリ津波を例にとり、三陸沿岸における湾の固有周期Toと湾口へ襲来した津波に対する湾奥の相対的最大波高(H2/H1:湾奥の最大波高/湾口の最大波高)を示しており、曲線は理論によるものである。直線の一点鎖線はチリ津波で、破線は単独波を理論敵に与えたものであり、いずれも実測とよく合っている。極大のところをみると、三陸津波は約15分、チリ津波は50分以上の所にあることがわかる。
 次ぎに岩手県宮古湾を例にとり、上記2つの津波の場合を図1-3-5に示した。
 横軸は湾内の各場所(x/α:湾口から観測点までの距離/湾口から湾奥までの距離、すなわち湾の長さ)、縦軸は湾内各場所の相対的最大波高(H_x/H_1:x/αの場所の最大波高/湾口の最大波高)を示している。
 曲線は理敬よるものであるが、これから明らかなように、三陸津波では湾口より湾奥へすすむにつれて波高が減少し、チリ津波では逆になっていることが明白で、理論ともよく合っている。
 このことは日本近海で起こる津波と、チリのような外国で起こる津波が、日本沿岸に襲来した場合に現れる顕著な違いを示しており、防災上留意するべき重要な点である。
図1-3-4 三陸沿岸における湾の固有周期(To)に対する湾奥の相対的最大波高
図1-3-5 宮古湾における湾内各場所の相対的最大波高

(6) 海岸線形状の影響
 津波の高さは、海岸線の形状の影響を大きく受ける。
 海岸線の形状を ①直線的 ②緩やかな円弧状 ③複雑の3つの形状に大別すると、
それぞれの海岸線で次のような特性が想定される。
 ①直線的―――――――― 平均的に津波高が大きくなる。
 ②緩やかな円弧状―――― 湾域中央部での津波高が大きくなる。
 ③複雑――――――――― 局所で大きくなる。
 また、海岸線の背後地の地形は、津波の遡上、住民の避難地としての観点から、①平野 ②なだらかな丘陵地 ③山岳地形に大別される。
 津波の遡上を食い止めるためには、ある程度の標高と傾斜が必要であるという点を考慮すると、③山岳地形が最も有効な避難地として期待され、反対に①平野は、避難地になりにくいと考えられる。

(7)港内の津波
 港等の港口幅は、一般に港内・外の水域幅より狭い。そういう所に津波が押し寄せると、港口幅が狭いため、津波の入射が抑えられる。一方、陸岸や防波堤等での津波の反射により港外での水位上昇は、入射幅以上になる。従って、港口では入射津波による流れ以外に港内・外の水位(圧力)差に基づく流れが生じ、非常に高流速となることが考えられる。この内・外の差は、津波の周期が短いほど顕著に現れる。
 短周期波(周期7~8分)であった日本海中部地震津波の際、秋田県、青森県下の多くの漁港で内・外の津波の高さに大きな差が現れたことが確認されている。
 また、津波が高流速となるため、港口の防波堤等の角(水位の低い方)から渦が発生する。同じことは、港内に進入した津波が港外へ出ようとするときにも生じる。
 即ち、港内における津波は、港口に至る沿岸で破壊力の大きい段波・砕波に発達した状態に高流速と渦流が加わる恐れがある。
 また、近年の調査研究によると、海岸から垂直に近い形で長く延びている防波堤の付け根の箇所に津波が集中して、津波高さが防波堤がない場合の倍程度の高さになることがあるとしている。
 一方、港口付近まで段波を形成しないで進行して来る津波の場合、漁港内で、あたかも満ち潮のごとく海面が盛り上がるように来襲した例が日本海中部地震津波後の聞き取り調査により確認されている。また、周期の長いチリ津波が来襲した大船渡でも同様の例が確認されている。

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図 浅水域による津波の変形
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波形の前傾化(室田、1977)
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図1-3-4 三陸沿岸における湾の固有周期(To)に対する湾奥の相対的最大波高
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図1-3-5 宮古湾における湾内各場所の相対的最大波高
1-3-8 波源域の影響

 津波には、いくつかの要因によって特定の方向に大きな波が放出される現象(指向性)がある。波源域は通常楕円形であるが、波源域が細長いと、短軸方向に周期が短く大きな波が、長軸方向に長周期で振幅の小さい波が出る。

1-3-9 津波周期の影響

 津波による被害は、水位の高さによって決まり、津波の押し引きの変化が速くなるとともに、破壊、流失が増加してくる。津波の周期と結び付けるならば、周期無限大では、水立の上昇には無限大の時間が掛かり、浸水被害だけになるが、周期が短いほど衝撃力が強くなる。段波は、周期の短い極限に対応し、水位の場所による変化は極大になり、加速度は非常に大きい。
 また津波の屈折に関しては、津波周期が短いほど、敏感に反応する。津波の回折に関しては、津波周期が長いほど遮蔽物の背後に回り込める。

1-3-10 津波の遡上

 津波は陸上に達してから、斜面にそって陸地をはい上がる遡上現象を起こす。
 陸上では、津波の運動エネルギーが位置のエネルギーに変わるため、津波は海岸での津波の高さより更に高い所まで到達することがある。
 津波は平坦な斜面を遡上するとき、図1-3-6に示すような砕波、巻き波、段波等の
形となる。
 しかし、海岸地形が複雑で、防潮堤、家屋、樹木などの障害があると、いっそう複雑な波となるので、このようなときの、遡上の高さについて、一般に求めたものはない。
 津波の遡上高は、津波の周期、津波波高・形状の変化、海底勾配、陸上勾配などにより影響される。新潟地震津波のように周期が長く、波高が比較的小さい場合は、目立った遡上現象は示さず、水面の昇降を繰り返す箇所が多い。
 一方、1933(昭和8)年の三陸地震津波のように周期が短く波高の大きい場合や、1983(昭和58)年の日本海中部地震津波が来襲した海岸のように、緩やかな海底勾配が広範囲に広がっている場合には、段波状に来襲して激しい流勢で遡上する箇所が多い。
 また、津波は、陸地の傾斜がなだらかであるほどその水流は速く、より内陸まで侵入しやすくなる。海岸の背後に崖などの障害物がある場合、同じ高さまで浸水しても流速が小さくなり、家屋の倒壊などが軽減されることもある。
 日本海中部地震津波の際、秋田県峰浜村では、海岸から800mも内陸に津波が侵入し、田圃を水浸しにし、そこで作業中の二人の命を奪った。
 津波は、第1波より第2波以降の方が大きいこともあるが、同津波の際、より大きい第2波の遡上が第1波の引きと重なったため、遡上高が小さくなった例が確認されている。
 遡上高と検潮記録の高さの関係に関する羽島(1993)の研究結果によると、前者は後者に対して2~3倍、平均的には3倍程度高い記録となることが示されている。

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図1-3-6 津波の遡上直前の波形
1-3-11 河川での津波

 津波は河川を逆流して進み、時には1㎞以上も上流に伝搬し、土手の低い箇所を破壊することがある。また、津波が川を遡る際、河川水による逆流のため先端が切り立った壁状の波(ボア)となって進むことがあり、その大きな破壊力により、川岸に舫ってある小型船などに予想以上の被害を与えることがある。
 段波あるいはそれに近い状態で河口付近に進行して来た津波は、河川水による逆流のため段波の勢力が一層増すことがある。

1-3-12 津波の押し・引き

 最初に来襲する津波(第1波)で海面が上がる場合を「押し」、下がる場合を「引き」と呼ぶ。
 津波の押し・引きは、地震による最初の海底の変動によって決まる。
 一般に地震によって海底は、隆起する場所と沈降する場所の両方があり、海面もこ
れにより上下するが、最初に海岸に伝わって来る津波は、この波源の上下した分布と海岸との位置関係で決まる。
 従って、同じ地震による津波でも場所により「押し」になったり「引き」になったりすることになる。

 なお、この「引きの津波」と来襲した津波が引き潮となって起こる「引き波」は、異なる現象であることを確認しておく必要がある。
 来襲した津波は当然、海側から退いていくから、港内・陸上に溢れた海水は、水面勾配で海の方へ戻って行く。
 このとき海の方が地盤高が低いため、水面は十分低くなることができるから、水面勾配は、津波が来襲したときより急で引き波の流速は大きくなることになる。
 河川に侵入した津波が引く際の引き波も、河川水による流れと相俟って流速が大きくなる。
 また、引き波は比較的長時間継続することにも留意を要する。
 日本海中部地震津波後の主に漁港を中心とした聞き取り調査では、来る波より引く
ときの波の流速の方が速いという報告が多数あり、具体的に「2~3倍」速いという報告もあった。

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図 津波の押し・引き
参考文献

〔1〕津波災害予測マニュアル(平成9年国土庁・消防庁・気象庁)
〔2〕日本海北部・中部海域における津波発生時の港湾在泊船舶の安全対策に関する調査研究報告書(平成10年(社)日本海海難防止協会)
〔3〕日本被害津波総覧「第2版」(平成10年渡辺偉夫)

2 過去の津波による被害

2-1 過去の津波事例
2-1-1 日本及びその周辺の沿岸で発生した津波

 日本及びその周辺の沿岸で発生した津波の状況を表2-1-1に、津波の発生箇所と津波の大きさを図2-1-1に示す。
 発生の頻度で見ると、戦後50年の間に1mを超える津波は13件(平成15年十勝沖地震を入れると14件)発生しており、大きな津波は3~4年に1回位発生している。
 また、地域別に見ると、規模の大きなものは北海道近海で発生した地震によるものが多い。

2-1-2 日本及びその周辺の沿岸に影響を与えた外国の沿岸で発生した津波

 外国の沿岸で発生した津波のうちで、日本及びその周辺の沿岸に影響を与えた津波の状況を表2-1-2に示す。
 発生の頻度をみると、戦後50年の問に1mを超えている津波は2件発生しているが、最近35年は大きな津波は発生していない。

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表2-1-1 日本及びその周辺の沿岸で発生した津波
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図2-1-1 (1)日本及びその周辺の海域で発生した津波(684~1925年)
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図2-1-1(1) 日本及びその周辺の海域で発生した津波(1926~1984年)
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表2-1-2 外国の沿岸で発生した津波のうち日本及びその周辺の沿岸に影響を与えた津波の状況
2-2 過去の津波による被害

 過去に発生した代表的な大地震による津波の被害状況については、概要次のとおりである。
 なお、このうち顕著な地震については津波被害がないものも含んでおり、また、被害については地震によるものか津波によるものかの区別は必ずしも明確ではないものもある。

2-2-1 日本及びその周辺の沿岸で発生した津波による被害

(1) 安政東海地震津波(1854.12.23)
 被害は関東から近畿に及んだ。津波が房総から高知の沿岸を襲い、被害をさらに大きくした。
 この地震の津波による家屋の被害は約3万戸、死者は2,000~3,000人。

(2) 安政南海地震津波(1854.12.24)
 安政東海地震の32時間後に発生し、近畿付近では二つの地震の被害をはっきりと区別できない。
 被害地域は中部から九州に及び、支社は数千人。

(3) 浜田地震(1872.3.14)
 1週間ほど前から鳴動あり、当日には前震もあった。
 家屋の全壊役5千戸、支社552人。石見東部で被害が多かったが、津波の被害はなかった。

(4) 明治三陸津波(1896.6.15)
 地震による被害はなかったにもかかわらず、津波が大きく、いわゆる津波地震である。津波が北海道から牡鹿半島の沿岸に来襲し、死者は約 22,000 人、家屋の被害は1万戸以上、船の被害約7千隻。

(5) 関東地震(1923.9.1)
 地震後各地で火災が発生し、被害が大きくなった。関東沿岸に津波が来襲し、津波の高さは熱海で12m、房総先端の相浜で9m、伊豆大島で12m。
 この地震による被害は、死者・行方不明者14万2千人余、家屋全半壊25万4千戸余、焼失44万7千戸余。

(6) 北丹後地震(1927.3.7)
 被害は丹後半島の頸部が大きかった(震度 6)。この地震による被害は、死者2,925人、家屋全壊12,584戸。
 円山川河口の津居山港で高さ0.3mの小津波を記録。

(7) 昭和三陸津波(1933.3.3)
 地震による被害は少なかった。津波が太平洋沿岸を襲い、特に三陸沿岸に大きな被害をもたらした。
 岩手県沿岸の津波の高さは10m以上に及び、綾里湾の白浜で28.7mに達した。
 この津波による被害は死者・行方不明者3,064人、家屋流出4,034戸、倒壊1,817戸、浸水4,018戸。

(8) 福島県東方沖地震(1938.11.5)
 大規模な群発地震であり、震害は比較的少なく、津波による被害は発生しなかった。検潮所における津波の波高は、鮎川で1.26m、小名浜で1.07m。
 福島県下で死者1人、住家全壊4戸、非住家全壊16戸。

(9) 男鹿地震(1939.5.1)
 男鹿半島頸部に被害があり(震度 5)、死者27人、住家全壊479戸。
 軽微な津波があった。

(10) 神威岬津波(1940.8.2)
 震害はほとんどなく、津波による被害が大きかった。津波の高さは利尻島で2.9m、
 天塩・羽幌で2m。天塩河口で溺死10人。
 ※船舶の被害は、流失644隻、破損612隻となっている。

(11) 日向灘地震(1941.11.19)
 大分・宮崎・熊本の各県で被害があり、死者2人、家屋全壊27戸。九州東岸・四国西岸に津波があり、波高は土佐清水・室戸で1.1m、細島・油津で1m。

(12) 東南海地震津波(1944.12.7)
 静岡・愛知・三重などで合わせて死者・行方不明者1,223人、家屋全壊17,599戸、半壊36,520戸、流出3,129戸。
 津波の高さは熊野灘沿岸で6~8m、遠州灘沿岸で1~2m。

(13) 三河地震(1945.1.13)
 規模の割に被害が大きく、死者2,306人、住家全壊7,221戸、半壊16,555戸、非住家全壊9,187戸。津波の高さは蒲郡で1m。

(14) 南海地震津波(1946.12.21)
 被害は中部以西の各地に及び、死者1,330人、家屋全壊11,591戸、半壊23,487戸、流出1,451戸、焼失2,598戸。
 津波が静岡県から九州にかけての沿岸を襲い、三重・徳島・高知沿岸で4~6mに達した。
 ※船舶の被害は、破損流失2,991隻となっている。

(15) 十勝沖地震津波(1952.3.4)
 北海道南部・東北北部に被害があり、津波が関東地方に及んだ。
 津波の高さは北海道で3m前後、三陸沿岸で1~2m。
 死者28人、行方不明者5人、家屋全壊815戸、半壊1,324戸、流失91戸。
 ※船舶の被害は、沈没3隻、流失47隻、破損401隻となっている。

(16) 房総沖地震(1953.11.26)
 伊豆諸島で道路破損、八丈島で鉄管亀裂などの被害があった。
 関東沿岸で小津波があり、波高は銚子付近で2~3m。

(17) 択捉島沖地震津波(1963.10.13)
 津波により、三陸沿岸で浅海漁業施設に軽微な被害があった。
 津波の高さは三陸沿岸で約2m。

(18) 新潟地震(1964.6.16)
 新潟・秋田・山形県を中心に被害があり、死者26人、家屋全壊1,960戸、半壊6,640戸、浸水15,298戸、その他道路の被害も多かった。
 津波の高さは新潟県沿岸で4m以上に達し、北は男鹿半島、西は能登半島付近までが1~2m。
 ※船舶の被害は、沈没・流失29隻、その他217隻となっている。

(19) 日向灘地震(1968.4.1)
 高知・愛媛で被害が多く、負傷者15人、家屋全壊1戸、半壊2戸、道路損壊18箇所。小津波が発生し、津波の高さは四国南西部で3mに達した所があった。
 ※船舶の被害は、沈没・破損3隻となっている。

(20) 十勝沖地震(1968.5.16)
 青森県を中心に北海道南部・東北地方に被害があった。
 死者52人、負傷者330人、建物全壊673戸、半壊3,004戸。
 津波の高さは三陸沿岸で3~5mとなり、浸水529戸、船舶の被害は流失沈没127隻、破損126隻。

(21) 八丈島東北沖地震(1972.12.4)
 八丈島と青ヶ島で落石・土砂崩れ・道路破損などの被害があった。
 検潮所における津波の波高は御前崎、串本、八丈島、布良などで0.4~0.5m。

(22) 根室半島沖地震(1973.6.17)
 根室・釧路地方に被害があり、負傷者26人、家屋全壊2戸、一部破損1戸。
 検潮所における津波の波高いは花咲で2.5mとなり、浸水275戸、船舶流出沈没が10隻。

(23) 伊豆大島近海地震(1978.1.14)
 前震、余震が多く、被害は伊豆半島東岸に多かった。死者25人、負傷者211人、家屋全壊96戸、半壊616戸、道路損壊1,141箇所、崖崩れ191箇所。
 津波は小さく、波高は岡田で0.7m、布良で0.22m。

(24) 宮城県沖地震(1978.6.12)
 被害は宮城県に多く、死者28人、負傷者1325人、家屋全壊1,183戸、半壊5,574戸、道路損壊888箇所、山崖崩れ529箇所。
 検潮所における津波の波高は気仙沼1.2m。
 ※船舶の被害は、沈没2隻、破損16隻となっている。

(25) 浦河沖地震(1982.3.21)
 この地震による被害は浦河・静内に多く、負傷者167人、建物全壊9戸、半壊16戸、一部破損174戸、鉄軌道被害45箇所。
 検潮所における津波の波高は浦河で1.35m。

(26) 日本海中部地震(1983.5.26)
 被害は秋田県・青森県・北海道で多く、死者104人(うち津波によるもの100人)、負傷者163人(同104人)・建物全壊934戸、半壊2,115戸、流失52戸、一部破損3,258戸。
 船舶の被害、沈没225隻、流出451隻、破損1,187隻。
 津波の高さは、波源域に近い所で10m以上となり、秋田県峰浜村では13mに達した。

(27) 北海道南西沖地震(1993.7.12)
 被害は北海道南西部に集中し、津波によって奥尻島と渡島半島西岸は甚大な被害を受けた。
 死者202人、行方不明者28人、負傷者323人などでその大部分が津波によるものであった。
 津波の高さは奥尻島で30mに達し、渡島半島で2~8mであった。
 ※船舶の被害は、転覆沈没118隻を含んで1,729隻となっている。

(28) 北海道東方沖地震(1994.10.4)
 北海道東部で被害が大きく、負傷者437人、住家全半壊409戸。
 検潮所における津波の高さは根室で1.73m。
 ※船舶の被害は、107隻となっている。

(29) 三陸はるか沖地震(1994.12.28)
 八戸を中心に被害があり、死者3人、負傷者788人、住家全半壊501戸。
 検潮所における津波の高さは宮古で0.55m、八戸で0.41m。
 津波による被害はなかった。

2-2-2 外国の沿岸で発生した津波による被害

(1)アリカ地震(1868.8.13)
 南米のチリ北部アリカ沖で発生した地震。
 チリ北部で大津波となり、アリカでの津波の高さは14m。
 日本沿岸の津波の高さは函館で2mなど。

(2)イキケ地震(1877.5.10)
 南米チリのイキケ沖で発生した地震。
 1868年のアリカ地震による津波以上の大津波となり、太平洋沿岸全域に波及した。
 日本沿岸の津波の高さは函館2.4m、釜石3m、東京湾0.7mなど。
 函館、三陸、房総半島で被害があった。

(3)クラカトア火山(1883.8.26)
 インドネシアのスンダ海峡で発生した火山爆発。火山の大爆発により大津波が発生した。日本では相模湾、四国、九州南部の各沿岸で潮の異常が見られた。

(4) バルパライソ地震(1906.8.17)
 南米チリのバルパライソ沖で発生した地震。
 日本沿岸の津波の高さは函館0.24m、鮎川0.18m、串本0.35m。

(5) アタカマ地震(1922.11.11)
 南米チリのアタカマ沖で発生した地震。
 日本沿岸の津波の波高は花咲0.60m、鮎川0.65m、串本0.70m、細島0.39m。
 三陸沿岸の大船渡で家屋30戸が波に洗われた。

(6) アリューシャン津波(1946.4.1)
 アリューシャン列島東部で発生した地震。
 日本沿岸の津波の高さは鮎川0.56m、八戸0.28m、宮古0.17m、伊東0.14m、内浦0.12m、細島0.10m。

(7) カムチャッカ津波(1952.11.4)
 カムチャッカ半島南東沖で発生した地震。
 日本沿岸の津波の高さは1~3m程度。
 北海道から宮城県にかけての沿岸で家屋の浸水があったほか、三陸沿岸で養殖施設に被害があった。

(8) チリ地震津波(1960.5.22)
 南米のチリ南部沖で発生した地震。
 日本沿岸での津波は、三陸沿岸北部と沖縄で高かった。
 最大の津波の高さは、岩手県野田町玉川の8.1m。
 この津波で死者119人、行方不明者20人、負傷者872人となった(沖縄を除く)ほか建物、耕地、道路などにかなりの被害があった。
 ※船舶の被害は、全国の太平洋沿岸におよび、その数3.671隻となっている。

(9) アラスカ地震津波(1964.3.28)
 アラスカ湾で発生した地震。
 日本沿岸での津波は三陸沿岸南部でやや高く、浅海漁業施設に若干の被害があった。
 険潮記録による平常潮位上の津波の高さは串本の0.28mが最大。

2-3 過去の津波による船舶被害の具体例
2-3-1 新潟地震の場合

 新潟地震は1964(昭和 39)年6月16日13時01分、新潟県北部西方沖の海底、深さ約40kmで発生し、マグニチュード7.7であった。
 各地の震度(旧震度表示)は図2-3-1のとおりであり、震源が比較的浅いため津波が発生し、地震の約15分後から日本海沿岸各地に到達した。
 地震発生時、新潟港には大型船舶30隻、危険物積載船9隻、機帆船14隻、大型漁船67隻、その他小型漁船約80隻、合計200隻の大小船舶が在泊していた。
 このうち大型船舶及び危険物積載船等約90隻はいち早く港外へ避難したが、岸壁係留中の機帆船、漁船等は、来襲した津波に圧流され、
主として信濃川筋及び万代島南島側から水産物揚場付近に、90隻が乗揚げ、転覆または沈没した。
 岩船港においても、在泊していた漁船等32隻が津波により乗揚げ、沈没したが、乗組員に異常なく、また港外では船舶の被害はなかった。
 津波の最高水位は図2-3-2のとおりであり、日本海沿岸において246隻の船舶が津波による被害を受けた。
 新潟港では地震発生30分後に第1波(波高約1m)、1時間後に第2波と、ほぼ30分間隔で12回以上の津波を受けた。
 この時の状況から、次のようなことがわかった。
 ① 被害は小型船に集中している。
  震源が近く、津波の到来が早かったため、通信設備の乏しい船に被害が集中している。
  沖出し船に被害はなく、港内残留の大型船はいち早く係留索の増し取り等の対策をとったものと思われる。
 ② 波はどんな奥まった場所へも遡行する。
 ③ 波高は湾口近くが必ずしも一番大きいとはいえない。波は地形や水深、港湾施設等の影響により複雑に伝播減衰する。
 ④ 津波の第1波が必ずしも一番大きいとは言えない。第1波に間に合わなかった避難処置も、周期が十分長いので、第2波、第3波に備える時間がある。

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図2-3-1 震度分布(気象庁)
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図2-3-2 新潟地震津波の最高水位(平均海水面上、*はTP上)
2-3-2 日本海中部地震の場合

 日本海中部地震は1983(昭和 58)年5月26日11時59分頃発生し、震源は秋田県入道埼灯台の北西沖約35海里付近の海底、深さ約14mであり、マグニチュード7.7であった。
 各地の震度(旧震度)は図2-3-3のとおりであり、津波の第1波は、津軽の深浦から男鹿にかけての沿岸では、津波発生から7~8分後に到達し、男鹿半島の南側沿岸では約15~30分後に到達した。(図1-3-1参照)
 現地調査による津波の最大高さは図2-3-4に示すとおりであり、男鹿半島の北側沿岸及び津軽半島で高くなっている。
 この津波によって、この付近の漁港を中心に多大の被害が発生するとともに、表2-3-1に示すように、日本海沿岸の北海道から島根県にかけて多数の船舶に被害が発生した。

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図2-3-3 震度分布
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図2-3-4 現地調査による日本海中部地震津波の最大高さ
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表2-3-1 日本海中部地震の津波による船舶被害の状況 (単位:隻)
2-3-3 北海道南西沖地震の場合

 北海道南西沖地震は、1993(平成 5)年7月12日22時17分頃発生し、震源は北海道奥尻島北西沖約37海里付近の海底、深さ約35kmであり、マグニチュード7.8であった。
 気象庁が発表した各地の震度(旧震度)は図2-3-5に示すとおりであり、この地震による津波の最大高さは図2-3-6のとおりであった。
 この津波により、北海道では13の港湾の岸壁で亀裂、陥没、施設の破損等が発生し、64の漁港でも同様の被害が発生した。
 特に奥尻島の奥尻港と青苗港は、岸壁の崩落、港湾施設の流失、防波堤灯台の倒壊水没等の被害を受けた。
 船舶の被害は、北海道で1.514隻(沈没・流出676隻、破損838隻)、島根県までの日本海沿岸で計233隻であった。
 これらは殆どが小型船であり、この他に港湾工事等の作業船やプレジャーボートも多数流失した。
 また、韓国東海岸では、係留中の漁船15隻が沈没し、11隻が破損する被害が発生した。

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図2-3-5 震度分布
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図2-3-6 現地調査による北海道南西沖地震津波の最大高さ
2-3-4 平成15年十勝沖地震の場合

 十勝沖地震と名付けられた地震としては、過去に1952(昭和 27)年と1968(昭和 43)年に発生しており、いずれも津波による大きな被害を伴った。
 2003(平成 15)年の地震は、9月26日04時50分に発生し、震源はえりも岬の東南東約80km付近の海底で、深さは約42kmであり、マグニチュード8.0であった。
 各地の震度は、図2-3-7のとおりであり、釧路から浦河にかけて震度6弱を観測したほか、北海道地方、東北地方及び関東地方にかけて、震度1から5強を観測した。
 なお、本震の後の06時08分頃、マグニチュード7.1の余震があり、本震と同程度の震度が観測される。
 この地震による津波は16分後に釧路、17分後に浦河に第1波が観測されているが、各地の最大波高はその後に観測されている。
 検潮記録による各地の津波の高さは、表2-3-2及び図2-3-8のとおりであり、浦河で1.3mが観測されている。
 北海道庁の資料によると、この津波により、30の漁港で146件の施設の被害が発生し、46隻の漁船が転覆その他の被害を受けた。

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図2-3-7 震度分布
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表2-3-2 各地の検潮記録
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図2-3-8 検潮記録による十勝沖地震津波の高さ
参考文献等

[1]津波災害予測マニュアル(平成9年 国土庁・消防庁・気象庁)
[2]日本被害津波総覧「第2版」(平成10年 渡辺偉夫)
[3]日本海北部・中部における津波発生時の港湾在泊船舶の安全対策に関する調査研究報告書(平成10年(社)日本海海難防止協会)
[4]COUNTERMEASUR against Earthquake & Tunami in JAPAN(平成14年 SHIP/SHORE EMERGENCY MANAGEMENT)
[5]気象庁HP、北海道庁HP

3 津波情報の伝達

 津波は、地震発生から来襲するまでに、ある程度時間を要することから、その予報が可能である。
津波に関する情報を迅速かつ確実に沿岸住民や海辺にいる人、船舶港湾関係者に伝達することは、災害の発生を未然に防ぎ、災害の拡大を防止するために極めて重要である。

3-1 気象庁の津波情報

 気象台等が発表する気象注意報・警報、津波予報、火災情報等の防災気象情報は、災害が発生する恐れがある場合、もしくは災害が発生した場合、
そのレベルに応じて都道府県や防災行政機関が行う災害応急対策の初動情報、要員の非常招集、被害状況の推定・把握等のために活用されるほか、
これらの機関や報道機関を通じて住民・船舶に周知される。

3-1-1 津波予報

(1)津波予報の仕組み
 津波は、おおよそ地震の震源域の範囲を波源域として、ほぼ地震と同時に発生する。
 津波の伝播する速さは、海の深さによって異なるが、水深 4000m(太平洋の平均水深は4200m位)で秒速200m位(時速720kmジェット機並の速さ)になる。
 これに比べて、地震波の速度は秒速4~8kmで、津波の速さの20倍以上になる。
 この地震波と津波の伝播時間差を利用して、津波判定・予報伝達などを行う津波予報システムは、1952年に制定された気象業務法に取り入れられ、現在に至っている。
 当初は、地震計の記録データの読み取り、データ通信及び震源決定の各作業を人手を介して行うため、作業時間の短縮が難しく、地震発生から津波予報を出すまでに要する時間は平均で約17分であった。
 その後、1986年までにデータ伝送網が整備され、1987年には地震検知から震源計算までを完全に電子計算機が自動処理する地震活動等総合監視システム(EPOS)が気象庁に導入され、
 1993年までに地震津波監視システム(ETOS)が、その他の津波予報中枢に導入され、津波予報までの所要時間は7分まで短縮された。
 しかし、1993年7月に発生した北海道南西沖地震に対して、札幌管区気象台は5分後に「大津波」の津波警報を発表したものの、
 奥尻島では地震発生後3~5分程度で10mを超える津波が来襲したと考えられ、200名を超える人命が失われた。
 この災害を教訓として、気象庁では全国に新しい地震観測網を整備して、現在では地震発生から約3分後には津波予報が発表されているが、更に、地震発生後30秒を目標にしたシステムの整備が図られている。

(2)津波予報区と津波予報実施官署(津波予報中枢)
 全国の海岸を66の津波予報区に分け、札幌・仙台・東京(本庁)・大阪・福岡・沖縄の6ヶ所の津波予報実施官署がそれぞれの区域を分担して予報業務を行っており、それぞれの担当津波予報区に対する津波予報を発表している。
 以前は18の津波予報区に分けていたが、1991(平成11)年4月から図3-1-1(1~5)に示すような予報区に改められた。
 また、震源が日本列島及び南西諸島の沿岸から概ね600km以遠にある地震(遠地地震)による津波(遠地津波)の予報は、
気象庁本庁が行い、各津波予報実施官署を通じて伝達される。
 なお、各津波予報実施官署が担当する津波予報区は、その予報区番号で示すと次の(表 予報区番号)とおりとなっている。

(3)津波の判定
 地震が発生すると、津波予報実施官署では、地震活動等総合監視システム(EPOS)、地震津波監視システム(ETOS)等により、
テレメーターされた各地の地震計の記録をもとに地震の震源や規模(マグニチュード)を求め、震源の深さ、地震の起こり方などを考慮して、津波予報を発表する。
 日本近海で発生した地震に対する津波予報は、地震観測網の整備や情報処理技術の向上等により、迅速に発表することが可能となった。
 遠地地震では、気象庁本庁で震源とマグニチュードを求め、更に、ハワイの太平洋津波警報センター(PTWC)やロシアとの情報交換を行い、津波予報が判定される。
 その後、随時PTWCへ津波発生の有無について問い合わせるほか、津波到達予想時刻の数時間前から各管区気象台へ津波実況監視を指示するとともに該当地域に対して津波予報を発表する。

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表 予報区番号
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図3-1-1(1) 津波予報区及び予報区番号(その1)
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図3-1-1(2) 津波予報区及び予報区番号(その2)
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図3-1-1(3) 津波予報区及び予報区番号(その3)
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図3-1-1(4) 津波予報区及び予報区番号(その4)
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図3-1-1(5) 津波予報区及び予報区番号(その5)
3-1-2 津波予報及び津波情報

(1)津波予報の種類と内容
 津波予報は、津波警報と津波注意報からなり、予測される津波の高さにより「大津波」、「津波」、「津波注意」の3段階に区分される。
(表 津波予報の種類と内容)

(2)津波情報の種類と内容
 津波予報が発表される場合、本庁及び管区気象台等から、「津波情報」として、津波の到達予測時刻、津波の高さの予測及び満潮時刻等、津波への対応に必要な情報が随時発表される。
(表 津波情報の種類と内容)

 津波は、その発生場所や地震の起こり方などにより様々なタイプがある。
 一般に津波の周期は、数分から数十分と長く、何回も繰り返し来襲し、場合によっては、何時間も続くことがある。
 また、第1波により何回か後の波の方が高くなるのが普通である。
 津波警報や津波注意報が発表されたら、個人の判断や憶測により行動することは危険なので、気象庁では警報・注意報が解除されるまで、テレビ・ラジオなどから得られる情報をもとに慎重に行動するよう求めている。

(3) 津波予報及び津波情報の発表例
 <2003年9月26日に発生した十勝沖地震の場合>
(図 津波予報及び津波情報の発表例(1)(2)(3))

○津波予報 平成15年9月56日04時56分 気象庁地震火山部発表
[見出し]
 津波警報を発表しました。
   北海道太平洋沿岸
 これらの沿岸では、直ちに安全な場所へ避難してください
 なお、これ以外に津波注意報を発表している沿岸があります

[津波予報の本文]
 津波警報を発表した沿岸は次のとおりです
  <津波>
   北海道太平洋沿岸東部、北海道太平洋沿岸中部
 これらの沿岸では、直ちに安全な場所へ避難してください

 津波注意報を発表した沿岸は次のとおりです
  <津波注意>
   北海道太平洋沿岸西部、青森県日本海沿岸、青森県太平洋沿岸、岩手県、宮城県、福島県

 以下の沿岸では直ちに津波が来襲すると予想されます
  北海道太平洋沿岸東部、北海道太平洋沿岸中部

 [津波予報の解説]
  <津波>
   高いところで2m程度の津波が予想されますので、警戒してください
  <津波注意報>
   高いところで0.5m程度の津波が予想されますので、注意してください


○津波情報 平成15年9月26日04時57分 気象庁地震火山部発表

[津波到達予想時刻・予想される津波の高さ]
 津波到達予想時刻および予想される津波の高さは次のとおりです
 予報区名 津波到達予想時刻 予想される津波の高さ
 <津波>
 北海道太平洋沿岸東部 26日05時00分 1m
 北海道太平洋沿岸中部 26日05時00分 2m
 <津波注意>
 北海道太平洋沿岸西部 26日05時20分 0.5m
 青森県日本海沿岸 26日05時50分 0.5m
 青森県太平洋沿岸 26日05時10分 0.5m
 岩手県 26日05時20分 0.5m
 宮城県 26日05時30分 0.5m
 福島県 26日05時00分 0.5m

 なお、場所によっては津波の高さが「予想される津波の高さ」より高くなる可能性があります
 これ以外の沿岸でも、若干の海面変動があるかもしれませんが、被害の心配はありません
 [震源、規模]
  きょう26日04時50分頃地震がありました
  震源地は、釧路沖(北緯41.7度、東経144.2度、えりも岬の東南東80km)付近で、震源の深さは約60km、地震の規模(マグニチュード)は7.8と推定されます


○津波情報 平成15年9月26日04時57分 気象庁地震火山部発表

[各地の満潮時刻・津波到達予想時刻]
 津波と満潮がかさなると、津波はより高くなりますので一層厳重な警戒が必要です
 各地の満潮時刻・津波到達予想時刻は次のとおりです

 予報区名・地点名 満潮時刻 津波到達予想時刻
<津波>
 北海道太平洋沿岸東部  既に津波到達と推測
 釧路 26日02時43分頃 26日05時10分頃
 根室市花咲 26日02時48分頃 26日05時30分頃
 北海道太平洋沿岸中部  既に津波到達と推測
 浦河 26日02時54分頃 26日05時20分頃
 十勝港 26日02時58分頃 26日05時20分頃
<津波注意>
 北海道太平洋沿岸西部  26日05時20分頃
 室蘭 26日14時59分頃 26日05時50分頃
 函館 26日03時09分頃 26日05時50分頃
 苫小牧港 26日02時52分頃 26日05時40分頃
 福島町吉岡 26日03時40分頃 26日06時00分頃
 青森県日本海沿岸  26日05時50分頃
 深浦 26日03時32分頃 26日06時20分頃
 竜飛 26日03時14分頃 26日06時00分頃
 青森県太平洋沿岸 26日05時10分頃
 八戸 26日02時57分頃 26日05時40分頃
 むつ市関根浜 26日02時51分頃 26日05時30分頃
 岩手県  26日05時20分頃
 宮古 26日03時01分頃 26日05時30分頃
 大船渡 26日03時09分頃 26日05時40分頃
 釜石 26日03時11分頃 26日05時30分頃
 宮城県  26日05時30分頃
 牡鹿町鮎川 26日03時17分頃 26日05時50分頃
 福島県  26日06時00分頃
 相馬 26日03時26分頃 26日06時20分頃
 いわき市小名浜 26日03時37分頃 26日06時00分頃


[現在津波予報を発表している沿岸]
 現在津波予報を発表している沿岸は次のとおりです
<津波>
 北海道太平洋沿岸東部、北海道太平洋沿岸中部
<津波注意>
 北海道太平洋沿岸西部、青森県日本海沿岸、青森県太平洋沿岸、岩手県、宮城県、福島県
 これ以外の沿岸でも、若干の海面変動があるかもしれませんが、被害の心配はありません

[震源、規模]
 きょう26日04時50分頃地震がありました
 震源地は、釧路沖(北緯41.7度、東経144.2度、えりも岬の東南東80km付近)で、震源の深さは約60km、地震の規模(マグニチュード)は7.8と推定されます

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表 津波予報の種類と内容
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表 津波情報の種類と内容
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図 津波予報及び津波情報の発表例(1)
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図 津波予報及び津波情報の発表例(2)
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図 津波予報及び津波情報の発表例(3)
3-1-3 津波予報・津波情報の伝達経路

 地震及び津波に関するデータの収集並びに津波予報等の伝達経路は図3-1-1のとおりである。

(1)地震データの収集
 各地の揺れの大きさや被害の目安となり、防災情報として活用される震度は、全国約3,400箇所(自治体を含む)に設置された震度計で観測されており、震度1以上が観測されたら自動的にデータが伝送される。
 主要な地点については、地上回路に障害がある時または震度5弱以上の時は衛星回路により伝送される。
 全国1,000箇所(大学を含む)にある地震観測施設で観測されている地震波データは、常時最寄りの津波予報実施官署ヘテレメーターで伝送され、即時に自動処理されている。(図3-1-1 津波予報、地震、震度情報の発表と伝達経路)

(2) 潮位データの収集
 全国103箇所にある潮位観測施設で観測される潮位データは、常時テレメーターで伝達されている。

(3) 津波予報、地震・震度情報の発表
 津波予報実施官署では、EPOSやETOSにより震源地とマグニチュード並びに津波の大きさを決定し、予報文等を作成・発表する
 地震発生から予報分作成まではほぼ自動化され、所要時間が短縮された。

(4) 津波予報文の伝達
 津波予報文は、もっとも迅速な方法により伝達中枢に送られ、伝達中枢から市町村、市民及び船舶等への伝達は、それぞれに方法を定めている。
 伝達中枢は、①NTT ②報道機関 ③都道府県 ④海上保安庁 ⑤警察庁及び都道府県警察本部である。
 なお、伝達中枢への伝達は、常設の専用回線によるが、回線に障害がある時は、緊急衛星同報システムを使用する。

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図3-1-1 津波予報、地震、震度情報の発表と伝達経路
3-1-4 震度に関する情報

 防災機関が実施する防災活動の初動対応に役立てるため、地震発生直後に震度に関する情報が次頁の要領で発生される。

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図 地震及び津波に関する情報
3-2 海上保安庁による津波情報の伝達

 海上保安庁は、災害対策基本法及び大規模地震対策特別措置法に基づき、防災業務の総合的かつ計画的な実施を図るため、防災に関して執るべき措置等を海上保安庁防災業務計画にさだめており、
 同計画及び気象業務法に基づいて津波情報を伝達する。
 また、海上保安庁防災業務計画は、各都道府県の地域防災計画の作成の基準ともなっている。
 なお、気象庁が発表する津波に関する情報は、「津波予報」と「地震・津波情報」に区別されているが、その伝達については区別されず「津波情報」として取り扱うこととする。

(1)船舶への津波情報伝達手段
① 地域航行警報
 各管区海上保安本部の管内及び付近海域における船舶交通の安全のため、緊急な通報を必要とする情報を、最寄りの海岸局から日本語または英語で無線通話により提供している。
 なおインターネット・ホームページでも提供している。

②日本航行情報
 北太平洋、インド洋および周辺海域を航行する船舶の安全のために、緊急に通報を必要とする情報をインターネット・ホームページで提供するわが国独自の広域航行警報である。
 また、同時に、共同通信社の船舶むけファクシミリ放送及び全国漁業無線協会の漁業無線局からも提供される。
 特に緊急性の高い情報については、随時インターネット・ホームページに掲載している。

③NAVTEX航行警報
 日本の沿岸でおおむね300海里以内の海域を航行する船舶の安全のために緊急に通報することが必要な情報を、
 釧路・小樽・横浜・門司・那覇の各海岸局から中波を利用した文字放送によりNAVTEX航行警報(和文、英文)として提供している。
 航行警報、海気象情報などの海上安全情報は定時に放送されるが、津波などの緊急情報については、随時送信される。
 またこの情報はインターネット・ホームページでも提供している。

④NAVAREA航行警報
 全世界を16の区域に分け、各区域の責任を担う区域調整国が区域内の情報を収集して必要な情報を提供しているもので、わが国は11区域の区域調整国となっている。
 外洋を航行する船舶の安全のために緊急に通報を必要とする情報を、インマルサット静止衛星を使用したEGCシステム(高性能グループ呼び出し)によって提供しているもので
 専用の自動印字受信機を備えることで自動的に情報を入手できる。
 津波などの緊急情報については随時放送される。またこの情報はインターネット・ホームページでも提供される。

(2) 在泊船舶への津波情報伝達手段
① 巡視船艇及び航空機を巡回させ、拡声器、たれ幕等により周知伝達する。
② 海上保安部署の職員が訪船し、または、船舶電話により伝達する。

(3) 沿岸地域の住民、海水浴客等への伝達
 巡視船艇及び航空機を巡回させ、拡声器、たれ幕等により伝達する。

(4) 関係者から船舶への情報伝達手段
 各海上保安部署から船舶代理店、主な漁業協同組合(漁業無線局)、マリーナ、マリンクラブ、港湾工事安全協議会等の主な港湾海事関係者に伝達された津波情報は、
 これらの関係者・関係団体を通じて電話、FAX、携帯電話、漁業無線、マリンバンド、工事用無線、訪船等により船舶、各漁業協同組合(漁船)、港湾工事関係会社(工事船舶)、プレジャーボード等へ連絡されることになる。

3-3 地域防災関係機関の津波情報伝達

 気象庁の津波予報実施管署から発表される津波情報は、都道府県、海上保安部、警察、消防、自衛隊、地方整備局、報道機関、JR、NTT等地域の防災に関わる各機関に伝達されるが、
その情報を最終的に地域住民に伝える機関は、市町村と放送機関である。
 なお、気象業務法第23条では、気象庁以外の者は、気象、津波、高潮、波浪及び洪水の警報をしてはならないとあるが、災害対策基本法第56条ならびに気象業務法施行令第8条により、
津波に関する気象庁の警報事項を適時に受けられない辺すうの市町村長及び津波に関する気象庁の警報を随時に受けることができなくなった地の市町村は、独自に津波警報を発表できる。

3-3-1 沿岸市町村

 都道府県、警察署、NTT、報道機関から沿岸市町村に伝達された地震津波情報は、
 ・防災行政同報無線 ・サイレン ・半鐘 ・広告車
により
 ・沿岸地域の住民 ・海兵に居る人 ・船舶海事関係機関
に伝達される。
 地震津波情報伝達の迅速性・確実性・信頼性に優れる防災行政同報無線も活用されている。
 なお、市町村によってNTT回線または専用回線を利用した有線放送により防災に関わる情報を各家庭ならびに屋外に伝達するシステムを採用している。

3-3-2 放送機関

(1) 各県の地域防災計画における位置付け
 各県の地域防災計画には、「放送機関はラジオにあっては番組間を利用しまたは、番組を中断し、テレビにあっては字幕によるか、番組を中断して公衆に周知し、注意を喚起するものとする。
 津波警報が発せられたとき、または、災害対策基本法に基づく地方自治体からの避難命令などの放送要請があったときは、緊急警報放送を実施するものとする。」と定めている。

(2) 緊急警報放送
 大規模地震などの警戒宣言ならびに津波警報(オオツナミ、ツナミ)が発せられた場合、または、地方自治体からの避難命令などの放送要請があた場合、主な放送局から緊急警報放送が放送される。
 緊急警報受信設備が付いているテレビ・ラジオであれば、受信機の電源コンセントが入っていれば、電源スイッチがOFFであっても、
 NHKテレビ総合放送、同ラジオ第一放送ならびに緊急放送システムに組み込まれている主な民放の放送が受信可能である。

(3)地震・津波情報の放送
① テレビ放送
 気象庁津波予報実施管署から発表される地震情報、津波情報は、オンライン化されており、直ちにテレビ番組中、スーパー(字幕放送)によりそのまま放送されるほか、
 必要に応じて番組を中断して放送される。
② ラジオ放送
 NHKならびに民放の各放送局では、テレビ放送用のオンラインによる地震・津波情報・地方気象台からの地震・津波情報、共同通信の速報FAXによる地震・津波情報を基に放送用の原稿を作成し、
 番組を中断して放送、もしくは、放送中の番組の音声を小さくして情報を重ねて放送される。

参考文献

[1] 津波災害予測マニュアル(平成9年 国土庁・消防庁・気象庁)
[2] 日本海北部・中部における津波発生時の港湾在泊船舶の安全対策に関する調査研究報告書(平成10年 (社)日本海海難防止協会)
[3] 気象庁HP

4 津波が及ぼす船舶への影響

4-1 船舶の状態別影響
4-1-1 岸壁係留船への影響

 岸壁に係留している船舶は、津波が来襲すると、水位変動と強い流速を受けることが予想される。
 この水位変動による船舶の浮上や、強い流れから受ける流圧による船位の移動は、船を係止している係留索が伸び、係留索張力の増大をもたらす。
 船舶の浮上や移動の量が大きいときは係留索が切断し、船舶が岸壁から離れて漂流を始め、衝突・座礁等の事故に発展する。
 このように水位上昇と流圧が同時にかかった場合の係留索切断の限界値を静的・動的(津波周期10分)別に試算した結果を下記に紹介する。

(1) 係留索切断の静的計算
 船型を500DWT型から10,000DWT型までの3段階に分け、その大きさに応じた岸壁に、普通の係留状態をモデル化した係留索配置(図 係留状態をモデル化した係留索配置(1))で係留しているものとして、
 水位上昇と流圧がかかった場合の係留索切断の限界値を水位上昇と流速をパラメーターとして静的計算により求めた。
 船は半裁喫水でトリムではなく、水深は平均水面の状態を基準とし、係留索はナイロン索、太さは船の艤装数に対応させた。
 計算手順は、まず水位上昇による索張力の増加を求め、ある水位変動を与えた後、流圧を加える方法をとった。
 計算結果の主な点は、
① Head & Stern lineに比べてSringが短いため、Head & Stern lineの張力増加が大きくならないうちにSpringが切断してしまう。
② このSprinの切断に至る水位上昇、流速を安全限界とみなすと図4-1-1のようになる。図にみられるように比較的小さい船型では水位上昇に弱く、大きい船型では流速に弱いということができる。

(2) 係留索切断の動的計算
 水位及び流速の時間的変動を与えて
 係留状態での船の運動を計算し、運動に伴う索張力の変動を動的に計算した。その際、索の伸び縮みと索の張力の変化の関係は、索の伸びるときの伸びと張力増加の関係と、緩むときの変位と張力減少の関係は同じではないので、この関係も計算に入れた。
 係留の初期状態は、前記の静的計算の場合と同様とし、500DWT型と10,000DWT型について計算した。
その場合、津波の周期は10分とした。計算結果の主な点は、
① 静的計算の場合と同様、張力の増大が大きいのは、索の長mさの短いSpringで、切断するのもSpringであった。
② 500DWT型については、流速2m/sec、最大水位上昇1m(位相は90°)では索を切断しなかったが、流速2m/sec、水位上昇2mでは、Springが切断している。
 水位上昇が0では、流速4m/secでも索は切断しなかった。
③ 10,000DWT型では、水位上昇0で流速2m/secでは索は切断せず、4m/secで計算した場合は索が切断している。
 位相90°の場合、流速2m/sec、水位上昇3mでも索切断は起こっていない。
④ 静的計算と動的計算を比較すると、同一の外的条件では動的計算の方が限界条件が厳しくなっている。

(3) 索配置を変えた場合の係留索切断の動的計算
 以上の結果から、上記の索配置では、SpringがHead & Stern lineに比べて索長が短いので、船の移動に対する索張力の増加はSpringが非常に大きく、Head & Stern lineは小さい。
 従って、索の有効利用という観点では、この配置は十分ではない。
 そこで、Head & Stern lineとSpringの配置を一般的な索配置のあり方を損なわない範囲で図(図 係留状態をモデル化した係留索配置(3))のような配置として、動的計算を行った。
 その際、水位上昇と流速変動の位相を同一とし、条件を厳しくした。

(4) 静的・動的計算結果の総括
 以上述べた静的・動的計算結果から500DWT型、3,000DWT型及び10,000DWT型について、Spring切断の限界を安全側についてまとめると、図4-1-2のようになる。

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図 係留状態をモデル化した係留索配置(1)
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図4-1-1 Springの切断に至る安全限界(静的)
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図 係留状態をモデル化した係留索配置(3)
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図4-1-2 Spring切断に至る安全限界
4-1-2 錨泊船への影響

 津波のような周期の長い水位変化による船体の上下動並びに船首の上下動によって起こる伸出錨鎖に動く荷重については、
 荒天時の錨泊と同様、海底に伸出した錨鎖の余裕把駐力によって吸収する以外にないが、一般的には対応できるものと思われる。
 しかしながら錨泊船が水流によって振れ回り運動をする場合、(社)東京湾海難防止協会の試算によれば、浅水域(H/d=1.5)では、
 流速1m/secを超えると一般に荒天時の錨泊限界の目安とされている風速20m/secの中での錨泊に相当する流圧が掛かるとされている。
 流速2m/secでは風速2m/secに対する正面風圧の4~5倍の最大張力が錨鎖に加わる可能性があるとしている。
 また流向が反転する時には、概略正面流圧の4倍の最大張力が錨鎖に加わる可能性があるとされている。
 一般に船舶が錨泊する湾・入り江・港湾は外海に比して閉口部が狭まっており、狭まった閉口部で津波の流速が増すことから、錨泊船は走錨の可能性が高いといえよう。

4-1-3 浮標係留船への影響

 基本的には、錨泊船と同様であるが、特に前後係留している浮標係留船には大きな流圧力が加わる可能性があり、
 試算によると斜めや横方向から流れを受けた場合、45°で正面流圧力の80倍、90°では110倍以上の大きな流圧力が加わる可能性があるとしている。
 従って、斜めや横方向から流れを受ける場合、浮標の係留力を超える可能性が高い。
 単浮標係留の場合、振れ回る際、係留索錨に加わる最大張力は、正面流圧力の3倍程度であるが、流向の変化により流される場合には、
 船体の運動エエルギーが、特に大型船において係留浮標の吸収エネルギーを超える可能性がある。

4-1-4 航行船への影響

 沖合での津波の状態は、波長が数kmと長く波高はせいぜい2~3m程度で小さい。
 また津波の前面が巻波となって砕けるようなことも有り得ないので、沖に出ている船舶は、津波をほとんど関知し得ない可能性が高い。
 過去、沖合を航行中地震による衝撃や振動を感じたという報告はあるが、浸水や転覆に至る大事故に発展した記録はない。
 但し、水深25m以浅の水域では、砕波に対する注意が必要であり、小型船の場合は、砕波により操縦の自由が失われ、横倒・沈没の危険性がある。
 一方、湾内や港内を航行している船舶は、水流力により偏位、偏針するとともに喫水に比較して水深が十分でない場合、水深の変化により舵効に影響を受けるなど、総船上の影響を受ける可能性が高い。
 港内における津波による水流の方向大きさは複雑であり、時には大きな渦を生じることもあることから、津波来襲時に港内を航行することは、大きな危険を伴う。
 また震源地が近い地震により水深の変化、航行施設の障害等の発生、津波により流失した材木等の浮遊等の可能性があり、地震・津波によるこれらの間接的影響により港内の航行が影響を受ける場合があろう。

4-2 船舶の被害を左右する要素

 津波による船舶の影響・被害を左右する要素としては、次のような事項が上げられる。
① 津波の諸元:津波高、津波周期、津波流速、到達所要時間、津波の形状、来襲方向
② 港湾の諸元:港湾の形状、港内水面積、港口部通水断面積、白地水深、防波堤・岸壁の天端高
③ 船舶の諸元:船種・船型、作業・荷役の形態、在泊船舶数、停泊・係船位置、停泊・係船の形態
④ 船舶の諸元:港外避難、係留補強、上架
 港内の波高は、上記①②によって決まるが、通常これが船舶の被害を左右する最大の要素であろう。また、津波周期と津波高との関連では、周期が極端に長い場合は、水位の上昇に時間がかかり、水位の上昇に対処する時間的余裕が得られるため、船舶の被害は極小化され、陸上施設の浸水被害だけに限定されることが、周期が短いほど、押し波・引き波の変化が早くなり津波の衝撃力が強くなる結果、船舶の流出・破損が増加することになる。
 湾の奥では津波の前面が絶壁のような段波をなして押し寄せて来る。
 また、遠浅の沿岸では、津波前面の進行が遅れることにより、段波を形成する場合がある。
 段波は、津波周期の短い極限に対応し、加速度は非常に大きい。このような段波が船舶に当たると大変な力を及ぼすことになる。

4-3 小型船への影響

小型船(漁船、作業船、プレジャーボート)であっても、前途の船舶の状態別影響については、基本的に同様であるが、小型船独特の影響並びにその影響がより大きいケースは以下のとおりである。

(1)港湾内の小型船だまり・漁港・マリーナの特徴
 漁港内に設けられている小型船だまり、漁港、マリーナには、次のような特徴があり、津波来襲時、在泊している小型船にその影響を及ぼす。
① 港内面積は一般に狭いため、津波の波高が増す。
② 港内の水深は一般に浅いため、津波の流速を増す。
③ 一般に狭隘な港内に防波堤・突堤等の構造物があるため、港内の地形は複雑で、来襲した津波の波形、波高が複雑に急変し易いうえ、激流、渦流になり易い。
④ 防波堤と入港水路は大角度をなしているため、③と同様の影響がある。
⑤ 港口をなす防波堤間の水路は狭く、津波の流速が増す。
⑥ 係留プイが多く、津波避難時等、短時間に多数の船舶が航行する際の障害になり易い。
⑦ 狭隘な港内に在泊船の密度が大である。

(2)係留中の船への影響
小型船については、船首索及び船尾索各1本のみで係留している場合が多く、津波による強水流高水位により、係留索は容易に切断する可能性が高い。係留索が切断し、激流や砕波に無人のまま放流される船は、岸壁や他の係留船に激突し、密集した港内の小型船は次々と破壊され、大惨事となる。
 小型船は、一般に喫水が小さく、係留する岸壁の天端高も一般的には低い場合が少なくない。従って、その軽喫水と天端高との関係によっては、岸壁に船体が乗揚げる可能性が大型船に比して、より高いと言える。
 さらに、漁船については、漁船同士を繋ぎ合って係留する方法が採られる場合が多く、単独では緊急避難が困難なうえ、津波によりその係留索の元綱が切れ、被害を大きくした例が見られる。
 津波が河川に来襲した場合、ボア現象(段波)が発生することが知られているが、川筋に係留している小型船、プレジャーポートは、単に、「舫いっている」状態が多く、水位の急激な変化による陸上への乗揚げともに、大きな波力による係留索の切断の可能性が極めて高いといえよう。
 川筋に係留している小型船の場合、津波(ボア)の来襲に辛うじて耐えた場合であっても、津波(ボア)が引く際発生する非常に強い引き潮により、係留索が切断されて被災した例が見られる。

(3) 上架中の船への影響
 小型船は、整備、修理のため、ならびに係留施設の不足等により上架している場合が少なくない。また、小型船の場合、上架は有効な津波の避難対策の一つであるが、漁港、マリーナの天端高と津波高の関係によっては、津波に翻弄される可能性が高いといえよう。

(4) 航行中の船への影響
 浅水域を航行する機会の比較的多い小型船の場合、津波による水位変化による触低の危険性が大型船に比して大きいうえ、水流力により偏位、編針するとともに喫水に比較して水深が十分でないため、水深の変化により舵効に影響を受け、操船・保針が困難になる可能性が高い。最悪の場合、津波の前面が巻き波になり、操縦の自由が失われ横倒沈没するなど、大きな海難に発展する危険性がある。
 また港内における津波による水流の方向・大きさは複雑であり、時には大きな渦を生じることもあることから、津波来襲時に港内を航行することは、大きな危険を伴う。
 さらに小型船の場合、津波により港内に押し流された漁網、ロープ、流木等の浮遊物により、航行そのものが大幅に制限される可能性が高い。

(5) 津波高の影響
 水産庁漁港部が取りまとめた日本海中部地震津波による漁港内全漁船の被害率と津波高の関係は図4-3-1(全漁船の内訳は上架中60%、係留中40%であった)のとおりであり、被災率は津波によって被災した漁船を百分率で示されている。
 このときの各漁港の津波高は表4-3-1に示されている。

① 小型船の場合、係岸中の船並びに上架中の船とも、被災率と港内最高水位との間には大きな相関がある。このことは常識的にも当然であるが、波高がほぼ1m位から被害が出始め、漁港の岸壁天端高に相当する1.5mを超えると被害が増加する傾向を示し、3mを超えると被災率が増大する。
 係留漁船に限った場合でも3m位から被災率が大きくなっている。

② 被災率の大きい漁港は、秋田県北部で男鹿半島の北側の付け根から北部に位置する漁港、青森県南部艫作崎周辺の漁港及び奥尻島の青苗漁港であった。
 秋田県の能代海岸の漁港では全体的に被災率が高くなっており、これは暖かい海底傾斜(約1/200)が200m等深線から海岸まで30kmも続いていて、段波が発生して砕波に至ったことによるといえよう。

③ 遠方に位置する隠岐島の諸港では、津波高の割に被災率が大きくなっていた。
 中村漁港では、105隻中77隻が被災した。防波堤も完備しており港内泊地も広く、津波の減殺効果は大きかったと思われるが、実施調査によると、付近にいた船主は、殆ど全員が係留索の補強を行ったが、港内の川筋に係留していた漁船が、強い引き波で係留索を切られて漂流したため、被害が大きくなったと言われている。

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図4-3-1 漁港内全船漁船の被災率と津波高の関係
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表4-3-1 日本海中部地震の際の各漁港の津波高
4-4 船舶が受ける津波の直接的な影響

 津波による船舶への直接的な影響をまとめると、以下のよう(表 船舶が受ける津波の直接的な影響)になる。

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表 船舶が受ける津波の直接的な影響
4-5 地震・津波の船舶への間接的な影響

 大地震の厳しい振動で岸壁、突堤、防波堤等が破損して、港内や水路側に崩れ落ちて避難等の操船の支障となるほか、破損した航路標識は、その用を成さなくなる。
 また、津波に伴う強い流れで防波堤基部を構成する捨石等は基礎の土砂が洗い流されて不安定となり、移動して防波堤の端が崩壊して、水路側に落下すれば水路が塞がれることとなる。津波で運搬された岩石土砂等により、水深が浅くなるほか、津波の引き潮に伴う急激流が海底の岩石土砂を搬出し、水深及び低質を急変させる。
 湾口付近に設置されている定置網は、津波により容易に押し流されるうえ、岸壁上の材木等の貨物、漁網、ロープ等の漁具、材木等が津波によって押し流され、浮遊物あるいは水中障害物となって、船舶の避難航行を阻害する。
 これら船舶の正常な運航を阻害する可能性の高い地震・津波の間接的影響をまとめると、以下のようになる。

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表 地震・津波の船舶への間接的な影響
参考文献等

[1] 地震に伴う津波に対する安全防災対策の調査研究(昭和56年(社)日本海難防止協会)
[2] 日本海北部・中部における津波発生時の港湾在泊船舶の安全対策に関する調査研究報告書(平成10年(社)日本海海難防止協会)

5 津波発生時の船舶の対応

5-1 海上保安庁との通信連絡体制とその対応

 海上保安庁(海上保安部署)が発災前後に実施する船舶に関わる措置、指示、勧告等の把握や支援要請を行うためにも、海上保安部署や巡視船艇との通信連絡手段の確保が必要である。緊急時には、在白中であっても船舶運航管理会社や船舶代理等陸上側スタッフを介した連絡が不可能な事態が想定されることから、船舶にあっては海上保安部署及び巡視船舶との通信連絡手段並びに当直体制の確保が必要である。津波発生時の情報の流れと船舶の一般的な対応を図5-1-1に示す。

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図5-1-1 津波発生時の情報の流れと一般船舶の対応
5-2 船舶の緊急避難
5-2-1 緊急避難に際しての検討事項

 津波注意報・警報などにより津波来襲の情報を得た場合や地震感知などにより津波来襲の可能性を察知した場合、緊急避難を実施するか、係留場所にとどまって津波に対処するか、あるい乗組員・作業員だけ陸上避難するかの判断を迫られるが、このときの検討項目を下記にとりまとめた。
 下記の要検討項目のうち、①~③以外の項目は事前に検討しておき、いくつかの津波来襲所要時間と津波高を想定した準備をしておけば、いざ緊急避難する際、避難に要する時間の短縮に有効である。また、緊急避難の可否判断の過誤により、緊急避難中に津波に翻弄される危険に陥る最悪の事態を防ぐためにも、事前の検討と準備は欠かせない。

① 緊急避難に関する海上保安部署長(港長)の勧告・指示
② 緊急避難に関する漁港管理者、漁港管理受託者(漁業協同組合等)、マリーナ管理者などの指示
③ 津波来襲推定時刻と推定津波高(津波予報、津波情報)
(湾港・沿岸で地震を感知した場合、潮位の異常変化など、津波の兆候を察知した場合は、津波が極短時間で来襲することを想定する。日本海沿岸沖合海域を震源とする地震の場合、津波は短時間で来襲する可能性が高い。)
④ 津波来襲推定時刻の潮高、岸壁の天端高、本船喫水
⑤ 津波来襲推定時刻の航路水深・水路水深と本船喫水
(津波の引き波時に低触の可能性があるか。)
⑥ 過去の津波や津波シミュレーションなどによる港湾域における津波の挙動
⑦ 大型危険物運搬船に係る運航安全対策や荷役管理規定、港湾建設工事に関わる協議会、危険物取扱事業者間の協議会、社内の緊急時マニュアル等に定める津波来襲時の対応
⑧ 緊急避難に要する準備時間
(機関用意所要時間、乗客・車両下船と乗下線設備の格納所要時間、荷役中断と船陸荷役設備の格納所要時間、作業中断と作業設備の格納所要時間、漁具等の格納所要時間、作業員・潜水士の収容所要時間、上架・陸揚の準備所要時間)
⑨ 係留場所、錨地、操業・作業海域から安全な沖合までの所要時間ならびに津波が砕波に至る可能性のある水深(等深線)の海域までの所要時間
⑩ 緊急避難の方法(沖合避難、津波の影響の小さい港内への移動(係留・錨泊)、上架・陸揚げ)と各々の安全性
⑪ 緊急避難の方法別所要時間
⑫ 港内の収容可能隻数(係留、港内錨泊、上架・陸揚げ)
⑬ 緊急避難に関わる本船の性能(速力、保針性、耐波性、復元性、貨物の状況)と避難予定海域の海・気象
⑭ 港湾の状況と至近の他船の状況
⑮ 岸壁・錨地・作業海域にとどまって津波に対処する手段と所要時間
⑯ 緊急避難に要する乗組員の数と乗組員招集に要する時間
⑰ 外出先・自宅・職場から本船までの所要時間
⑱ 人命の安全を第一とし、乗組員、乗客、作業員の陸上避難所と所要時間
⑲ 港湾・漁港における緊急避難の順番・優先順位に関わる取決め・慣習
⑳ 自力緊急避難の可否(水先人・曳船手配の可否と所要時間)(上架・陸揚げに要する設備・人員手配の可否と所要時間)
⑳ 安全サイドに立った余裕(海上・陸上避難時間、津波来襲時間、津波高)

5-2-2 操船限界の目安

 津波が来襲した際、沖合に避難可能かどうかの判断の目安として、港内または港外の比較的浅い海域で避難のため沖合に向け航行している船に及ぼす影響が重要である。
 津波の引き波の大きさと喫水・水深によっては底触の可能性があるほか、操船に及ぼす影響として操縦性の低下と砕波乗り切りの問題がある。

(1) 保針限界の目安と対応
 航行中の船が砕波に至っていない津波に遭遇し、その流れを斜め船首から受ける場合、その回転モーメントに対して舵によって対抗するとして、一般貨物船の針路保持が可能であるかの限界について試算した結果を図5-1-1に示す。
 舵角については、保針に加え変針可能な余裕を確保することから、常用舵角15度としている。流速については、同じ流速に対して船速が速いほど保針し易いことから、船速との相対比で比較した。
 水深10mの海域に津波高2mの津波が来襲したとすると流速は、1,98/sec(約3.85ノット)に達するから、流速の3倍の船速の3倍の船速11.55ノットでは、流向αが7~8度を越えると、舵角15では保針困難となる。波に対して斜めに直進している場合でも、通常、船首がその針路の左右に数度振れる。従って、この場合、船速を上げるとともに、できる限り流れ(津波の進行方向)に立てて航行することが望ましい。
 一般に漁船、プレジャーボート等の小型船は、旋回性能も良いので、一般貨物船より保針限界が高いと思われるが、小型作業船や曳航中の小型曳船については、旋回性能が不十分で船速も遅いことから、一般貨物船より保針限界が低いといえよう。
 特に、低速船については、砕波していない津波に遭遇した場合、津波を直角に乗り切るとしても津波の流速によっては、対地速力を失い危険な状態に陥ることがある。

(2) 小型船と砕波保針限界の目安
①砕波発生条件
 小型船が沖合に向けて避難中に砕波している津波に遭遇した場合、操船が困難な状況に陥り、砕波を横から受けると転覆の恐れがある。日本海中部地震津波による小型船の転覆等の被害は砕波によるものが多かった。
 従来、津波の砕波は、単に水深25m以深では起こらないとみられていたが、日本海中部地震津波の観測・調査や模型実験により明らかになった津波第一波が砕波に至る諸条件を表5-1-1に示す。
 また、体験者によれば、津波の谷から山までの高さが水深の7割前後のところで津波が砕波に至ったという。
 上記砕波発生条件を勘案し、在泊漁港・マリーナ沖の砕波発生しない海賊、漁業活動やレジャー活動の海域付近で砕波発生しない海域を確認しておき、
それらの海域までの距離(推定避難所要時間)を把握しておくことが望ましい。
但し、これらは砕波に至らない目安であるから、安全のためには、より深い海域、海底傾斜がより急な海域へ避難すべきであろう。
②砕波乗り切りの目安と対応
 砕波を乗り切る限度については、横から砕波を受けるものとした実験で、転覆しない限界砕波高(谷から山の高さ)は、船の幅程度としている。小型船のL/Bは6程度であるから、船の長さの0.2倍程度の砕波高が限度ということである。
 実際には、砕波を乗り切ろうとして向かって行く船は、初めから砕波を横から受ける操船はしないから、経験則としていわれている0.5Lの砕波高が妥当な限度の目安であろう。
 漁船のL,B,GTの相関の回帰式L=10,000GT^0.272、により求めた2.5~25トン数、長さ、幅の関係は表5-1-2のようになる。
 0.5Lの砕波高が限界とすると、2.5トンの漁船で約6m、20トンの漁船で約12mの高さの砕波まで凌げそうであるが、津波の流速を上回る船速が必要である。
 沖合に避難する際、砕波が発生しない海域までの所要時間と津波を乗り切る船速をあらかじめ把握しておき、津波来襲推定所要時間や津波の兆候などと合わせて沖合避難の可否を検討する必要がある。
 砕波に遭遇した場合、砕波の波峰線に直角に全力で乗り切ることが肝要であるが、船が砕波の中に突っ込むと、甲板上に海水が落下して来るから、甲板上の開口部は全て密閉し、
移動物を固縛するなど荒天準備をする必要がある。
また、乗組員は救命胴衣を着用し、転覆しても容易に脱出できる場所で待機すべきである。

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図5-1-1 斜め流れに対する保針限界
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表5-1-1 砕波が発生する緒条件
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表5-1-2 漁船の総トン数、長さ、幅の関係
5-2-3 緊急避難船舶の順序

(1) 避難に際して余裕時間がある場合
 沖出し避難にあたっては、港湾の事情等により関係者間で避難順序を申合わせている場合を除いて、在泊船舶は概ね次の順序で避難すべきである。
 なお、海上交通の安全を確保するため、海上保安部署長(港長)の指導がある場合は、それに従って行動する。
①危険物を積載している船舶(LNG船、大型LPG船、原油タンカー等)
②旅客搭乗中の旅客船
③クレーン船等運転の不自由の大型船
④巨大船
⑤その他の船舶(大型船から小型船の順序で行う)

 港湾内の漁船・作業船・プレジャーボート等については、一般船舶と運航事情が異なるので、避難が実行可能な場合、準備できしだい避難することになるが、大型船の離岸操船や他の船舶の交通の妨げとならないよう留意することが求められる。
 漁港にあっては、漁港管理者、漁港協同組合等が避難順序を含め避難・係留強化手段等を予め計画しておき、船長・乗組員ならびに漁港利用者に周知しておくことが望ましい。

(2) 避難に際して余裕時間が少ない場合
 大型船については、曳船の援助が離岸の条件である場合が多く、特に岸壁に本船を押しつける強風下では、条件がより厳しくなる。また、港湾に不慣れな外国人船長が乗り込んでいる大型船については、水先人と曳船の援助が離岸の条件となる場合が多い。
 曳船が常駐する港湾・港区は限られており、津波来襲時には、曳船自体も沖合避難を迫られる。また、夜間には、水先人ならびに曳船乗組員は帰宅しているのが一般的である。
 このような事情から緊急避難に際して、要請しても水先人ならびに曳船の援助が得られない事態や間に合わない事態も想定される。また、夜間緊急避難に要する乗組員が在船していない在泊船舶も少なくない。

 津波が短時間で来襲することが予想される場合、一般的な避難順序を実行することが困難な状況下では、結果として下記の避難順序になることが推定される。
①自力離岸可能な船舶で離岸準備が整った船舶
②水先人が乗船し、曳船が本船サイドに配置に付いた船舶
③曳船が本船サイドに配置に付いた船舶

 自力離岸する以外に港外避難の方法がないにもかかわらず、自力離岸が困難な船舶は、着岸したまま係留索の増取り等の係留強化で対処することも安全サイドに立った判断といえるし、
自力離岸が可能であっても、安全に沖合まで避難できる見込みがつかない場合も同様である。
 漁船・作業船・プレジャーボート等の小型船については、可能であれば係留強化の処置を行った後、陸上避難するのが望ましい。

5-2-4 緊急避難に要する時間

 緊急避難に当たっては、津波の到達予想時刻までに安全な海域へ移動できることが必要であり、自船の緊急避難に要する時間を把握しておくことが不可欠となる。
 緊急避難に要する時間は、①避難準備の時間と②安全海域までの移動時間に分けられるが、①は船舶の状態により、②は港の状況により異なり、一律ではない。
 そのため、入港の都度、両者を把握しておくことが必要である。
 避難準備所要時間については、これまでにアンケート方式による実態調査が行われているので、2つの事例について紹介する。

(1) (社)日本海海難防止協会が平成9年、青森港、能代港、秋田船川港、酒田港、新潟港、直江津港、伏木富山港、七尾港及び金沢港を基地とし、あるいは使用している船舶を対象に実施したアンケート調査の結果から、津波情報を入手してから緊急避難のための出港準備が完了するまでの所要時間に関する部分は次のとおりであった。
① 一般船舶の所要時間
 トン数別にまとめたものが表5-2-1であり、全体の3分の2が30分以内となっている。
 船種別については表5-2-2のとおりであり、危険物積載船及びコンテナ船は70~80%が30分以内、旅客船・フェリーは60%が15分未満、92%が30分未満となっている。
② 小型船の所要時間
 船種別のまとめたものが表5-2-3であり、緊急避難準備開始には、自宅・職場・マリーナ施設等から本船の係留場所までの距離が短い漁船の場合は準備時間が比較的短く、本船の係留場所まで距離が長いモーターボート等のプレジャーボードの場合は比較的長い時間のものが多い。

(2)(社)東京湾海難防止協会が昭和59年に実施した、東京湾の入港船舶を対象とした調査では、避難準備に要する時間(水先人・曳船の到着時間を含まない)について、岸壁係留中の場合は表5-2-4、浮標係留中の場合は表5-3-5に示すような結果となっている。

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表5-2-1 トン数別避難準備所要時間
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表5-2-2 船種別避難準備所要時間
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表5-2-3 小型船の避難準備所要時間
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表5-2-4 避難準備所要時間(岸壁係留の場合)
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表5-2-5 避難準備所要時間(浮標係留中の場合)
参考文献

[1] 日本海北部・中部における津波発生時の港湾在泊船舶の安全対策に関する調査研究報告書(平成10年(社)日本海海難防止協会)
[2] 船舶の地震対策アンケート調査結果(昭和59年(社)東京湾海難防止協会)

6 津波災害の防止措置についての関係法令等

6-1 「災害対策基本法」(抜粋)

第1章 総則
(目的)
第1条  この法律は、国土並びに国民の生命、身体および財産を災害から保護するため、防災に関し、国、地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧及び防災に関する財政金融措置その必要な災害対策の基本を定めることにより、総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り、もつて社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする。

(定義)
第2条  この法律において、次の各号に揚げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 災害
 暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害をいう。
二 防災
 災害を未然に防止し、災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ、及び災害の復旧を図ることをいう。
三 指定行政機関
 次ぎに掲げる機関で内閣総理大臣が指定するものをいう。
 イ 内閣府、宮内庁並びに内閣府設置法(平成11年法律第89号)第49状1項及び第2項に規定する機関並びに国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第3条第2項に規定する機関
 ロ 内閣府設置法第37条及び第54条並びに宮内庁法(昭和22年法律第70号)第16条第1項並びに国家行政組織法第8条に規定する機関
 ハ 内閣府設置法第39条及び第55条並びに宮内庁法第16条第2項並びに国家行政組織法第8条の2に規定する機関
 ニ 内閣府設置法第40条及び第56条並びに国家行政組織法第8条の3に規定する機関
四 指定地方行政機関
 指定行政機関の地方支分部局(内閣府設置法第43条及び第57条(宮内庁法第18条第1項において準用する場合を含む。)並びに宮内庁法第17条第1項並びに国家行政組織法第9条の地方支部分部局をいう。)その他の国の地方行政機関で、内閣総理大臣が指定するものをいう。
五 指定公共機関
 独立行政法人(独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第1項に規定する独立行政法人をいう。)、日本郵政公社、日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関及び電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、内閣総理大臣が指定するものをいう。
六 指定地方公共機関
 港湾法(昭和25年法律第218号)第4条第1項の港湾局、土地改良法(昭和24年法律第195号)第5条第1項の土地改良区その他の公共的施設の管理者及び都道府県の地域において電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、当該都道府県の知事が指定するものをいう。
七 防災計画
 防災基本計画及び防災業務計画並びに地域防災計画をいう。
八 防災基本計画
 中央防災会議が作成する防災に関する基本的な計画をいう。
九 防災業務計画
 指定行政機関の長(当該指定行政機関が内閣府設置法第49条第1項若しくは第2項若しくは国家行政組織法第3条第2項の委員会若しくは第3号口に掲げる機関又は同号二に掲げる機関のうち合議制のものである場合にあっては、当該指定行政機関。第2条第8項、第28条の3第6項第3号及び第28条の6第2項を除き、以下同じ。)又は指定公共機関(指定行政機関の長又は指定地方公共機関)が防災基本計画に基づきその所拳事務又は業務について作成する防災に関する計画をいう。
十 地域防災計画
 一定地域に係る防災に関する計画で、次に掲げるものをいう。
イ 都道府県地域防災計画
 都道府県の地域につき、当該都道府県の都道府県防災会議が作成するもの
ロ 市町村地域防災計画
 市町村の地域につき、当該市町村の市町村防災会議又は市町村長が作成するもの
ハ 都道府県相互間地域防災計画
 2以上の都道府県の区域の全部又は一部にわたる地域につき、都道府県防災会議の協議会が作成するもの
二 市町村相互間地域防災計画
 2以上の市町村の区域の全部又は一部にわたる地域につき、市町村防災会議の協議会が作成するもの

(国の責務)
第3条 国は、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護する使命を有することにかんがみ、組織及び機能のすべてをあげて防災に関し万全の措置を講ずる責務を有する。

2 国は、前項の責務を遂行するため、災害予防、災害応急対策及び災害復旧の基本となるべき計画を作成し、及び法令に基づきこれを実施するとともに、
 地方公共団体、指定地方公機関、指定地方公共機関等が処理する防災に関する事務の又は業務の実施の推進とその総合調整を行い、及び災害に係る経費負担の適正化を図らなければならない。

3 指定行政機関及び指定地方行政機関は、その所拳事務を遂行するにあたっては、第1項に規定する国の責務が十分に果たされることとなるように、相互に協力しなければならない。

4 指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長は、この法律の規定による都道付近及び市町村の地域防災計画の作成及び実施が円滑に行われるように、その所拳事務について、
 当該都道府県又は市町村に対し、勧告し、指導し、助言し、その他適切な措置をとらなければならない。

第3章 防災計画

 (防災基本計画の作成及び公表等)
第34条 中央防災会議は、防災基本計画を作成するとともに、災害及び災害の防止に関する科学的研究の成果並びに発生した災害の状況及びこれに対して行われた災害応急対策の効果を勘案して毎年防災基本計画に検討を加え、必要があると認めるときは、これを修正しなければならない。

2 中央防災会議は、前項の規定により防災基本計画を作成し、又は修正したときは、すみやかにこれを内閣総理大臣に報告し、並びに指定行政機関の長、都道府県知事及び指定公共機関に通知するとともに、その要旨を公表しなければならない。

第35条 防災基本計画は、次の各号に掲げる事項について定めるものとする。
一 防災に関する総合的かつ長期的な計画
二 防災業務計画及び地域防災計画において重点をおくべき事項
三 前各号に掲げるもののほか、防災業務計画及び地域防災計画の作成の基準となるべき事項で中央防災会議が必要と認めるもの

2 防災基本計画には、次に掲げる事項に関する資料を添付しなければならない。
一 国土の現況及び気象の概況
二 防災上必要な施設及び設備の整備の概況
三 防災業務に従事する人員の状況
四 防災上必要な物資の需給の状況
五 防災上必要な運輸又は通信の状況
六 前各号に掲げるもののほか、防災に関し中央防災会議が必要と認める事項

 (指定行政機関の防災業務計画)
第36条 指定行政機関の長は、防災基本計画に基づき、その所拳事務に関し、防災業務計画を作成し、及び毎年防災業務計画に検討を加え、必要があると認めるときは、これを修正しなければならない。

2 指定行政機関の長は、前項の規定により防災業務計画を作成し、又は修正したときは、すみやかにこれを内閣総理大臣に報告し、並びに都道府県知事及び関係指定公共機関に通知するとともに、その要旨を公表しなければならない。
3 第21条の規定は、指定行政機関の長が第1項の規定により防災業務計画を作成し、又は修正する場合に準用する。

第37条 防災業務計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 所拳事務について、防災に関しとるべき措置
二 前号に掲げるもののほか、所挙事務に関し地域防災計画の作成の基準となるべき事項

2 指定行政機関の長は、防災事務計画の作成及び実施にあたっては、他の指定行政機関の長が作成する防災業務計画との間に調整を図り、防災業務計画が一体的かつ有機的に作成され、及び実施されるように努めなければならない。

(指定公共機関の防災業務計画)
第39条 指定公共機関は、防災基本計画に基づき、その業務に関し、防災業務計画を作成し、及び毎年防災業務計画に検討を加え、必要があると認めるときは、これを修正しなければならない。

2 指定公共機関は、前項の規定により防災業務計画を作成し、又は修正したときは、速やかに当該指定公共機関を所管する大臣を経由して内閣総理大臣に報告し、及び関係都道府県知事に通知するとともに、その要旨を公表しなければならない。
3 第21条の規定は、指定公共機関が第1項の規定により防災業務計画を作成し、又は修正する場合について準用する。

(都道府県地域防災計画)
第40条 都道府県防災会議は、防災基本計画に基づき、当該都道府県の地域に係る都道府県地域防災計画を作成し、及び毎年都道府県地域防災計画に検討を加え、必要があると認めるときは、これを修正しなければならない。
 この場合において、当該都道府県地域防災計画は、防災業務計画に抵触するものであってはならない。

2 都道府県地域防災計画は、次の各号に掲げる事項について定めるものとする。
一 当該都道府県の地域に係る防災に関し、当該都道府県の区域の全部又は一部を管轄する指定地方行政機関、当該都道府県、当該都道府県の区域内の市町村、指定公共機関、指定地方公共機関及び当該都道府県の区域内の公共的団体その他防災上重要な施設の管理者の処理すべき事務又は事務の大網
二 当該都道府県の地域に係る防災施設の新設又は改良、防災のための調査研究、教育及び訓練その他の災害予防、情報の収集及び伝達、災害に関する予報又は警報の発令及び伝達、避難、消火、水防、救難、救助、衛生その他の災害応急対策並びに災害復旧に関する事項別の計画
三 当該都道府県の地域に係る災害に関する前号に掲げる措置に要する労務、施設、設備、物資、資金等の整備、備蓄、調達、配分、輸送、通信等に関する計画
四 前各号に掲げるもののほか、当該都道府県の地域に係る防災に関して都道府県防災会議が必要と認める事項

3 都道府県防災会議は、第1項の規定により都道府県地域防災計画を作成し、又は修正しようとするときは、あらかじめ、内閣総理大臣に協議しなければならない。この場合において、内閣総理大臣は、中央防災会議の意見をきかなければならない。

4 都道府県防災会議は、第1項の規定により都道府県地域防災計画を作成し、又は修正したときは、その要旨を公表しなければならない。

第41条 都道府県が他の法令の規定に基づいて作成し、又は協議する次の各号に掲げる防災に関する計画又は防災に関連する計画の防災に関する部分は、防災基本計画、防災業務計画又は都道府県地域防災計画と矛盾し、又は抵触するものであつてはならない。
一 水防法(昭和24年法律第193号)第7条第1項及び第2項に規定する都道府県の水防計画並びに同法第25条に規定する指定管理団体の水防計画
二 国土総合開発法第2条第4項に規定する都道府県総合開発計画、同条第5項に規定する地方総合開発計画及び同条第6項に規定する特定地域総合開発計画
三 離島振興法(昭和28年法律第72号)第4条第1項に規定する離島振興計画
四 海岸法(昭和31年法律第101号)第2条の3第1項の会館保全基本計画
五 地すべり等防止法(昭和33年法律第30号)第9条に規定する地すべり防止工事に関する基本計画
六 活動火山対策特別措置法(昭和48年法律第61号)第3条第1項に規定する避難施設緊急整備計画並びに同法第8条第1項に規定する防災営農施設整備計画、同条第2項に規定する防災林業経営施設整備計画及び同条第3項に規定する防災漁業経営施設整備計画
七 地震防災対策強化地域における地震対策緊急整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(昭和55年法律第63号)第2条第1項に規定する地震対策緊急整備事業計画

第5章 災害応急対策
第1節 通則

(災害応急対策及びその実施責任)
第50条 災害応急対策は、次の各号に掲げる事項について、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合に災害の発生を防禦し、又は応急的救助を行なう等災害の拡大を防止するために行うものとする。
一 警報の発令及び伝達並びに避難の勧告又は指示に関する事項
二 消防、水防その他の応急措置に関する事項
三 被災者の救難、救助その他保護に関する事項
四 災害を受けた児童及び生徒の応急の教育に関する事項
五 施設及び設備の応急の復旧に関する事項
六 清掃、防災その他の保健衛生に関する事項
七 犯罪の予防、交通の規制その他災害地における社会秩序の維持に関する事項
八 緊急転送の確保に関する事項
九 前各号に掲げるもののほか、災害の発生の防禦又は拡大の防止のための措置に関する事項

2 指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体の長その他の執行機関、指定公共機関及び指定地方公共機関その他法令の規定により災害応急対策の実施の責任を有する者は、法令又は防災計画の定めるところにより、災害応急対策を実施しなければならない。

(情報の収集及び伝達)

第51条  指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体の長その他の執行機関、指定公共機関及び指定地方公共機関、公共的団体並びに防災上重要な施設の管理者(以下第58条において「災害応急対策責任者」という。)は、法令又は防災計画の定めるところにより、災害に関する情報の収集及び伝達に努めなければならない。

(防災信号)
第52条 市町村長が災害に関する警報の発令及び伝達、警告並びに避難の勧告及び指示のため使用する防災に関する信号の種類、内容及び様式又は方法については、他の法令に特別の定めがある場合を除くほか、内閣府令で定める。

2 何人も、みだりに前項の信号又はこれに類似する信号を使用してはならない。

(被害状況等の報告)
第53条 (略)
第54条 災害が発生するおそれがある異常な現象を発見した者は、遅滞なく、その旨を市町村又は警察管若しくは海上保安官に通報しなければならない。

2 何人も、前項の通報が最も迅速に到達するように協力しなければならない。

3 第1項の通報を受けた警察管又は海上保安管は、その旨をすみやかに市町村長に通報しなければならない。

4 第1項又は前項の通報を受けた市町村長は、地域防災計画の定めるところにより、その旨を気象庁その他の関係機関に通報しなければならない。

(市町村長の警報の伝達及び警告)
第56条 市町村長は、法令の規定により災害に関する予報若しくは警報の通知を受けたときは、自ら災害に関する予報若しくは警報を知ったとき、法令の規定により自ら災害に関する警報をしたとき、又は前条の通知を受けたときは、地域防災計画の定めるところにより、当該予報若しくは警報又は通知に係る事項を関係機関及び住民その他関係のある公私の団体に伝達しなければならない。この場合において、必要があると認めるときは、市町村は、住民その他関係のある公私の団体に対し、予想される災害の事態及びこれに対してとるべき措置について、必要な通知又は警告をすることができる。

(市町村長の出勤命令等)
第58条 市町村長は、災害が発生するおそれがあるときは、法令又は市町村地域防災計画の定めるところにより、消防機関若しくは水防団に出勤の準備をさせ、若しくは出勤を命じ、又は警察管若しくは海上保安管の出勤を求める等災害応急対策責任者に対し、応急措置の実施に必要な準備をすることを要請し、若しくは求めなければならない。

(市町村長の事前措置等)
第59条 市町村長は、災害が発生するおそれがあるときは、災害が発生した場合においてその災害を拡大させるおそれがあると認められる設備又は物件の占有者、所有者又は管理者に対し、災害の拡大を防止するため必要な限度において、当該設備又は管理者に対し、災害の拡大を防止するため必要な限度において、当該設備又は物件の除去、保安その他必要な措置をとることを指示することができる。

2 警察署長又は政令で定める管区海上保安本部の事務所*の長(以下この頃、第64条及び第66条において「警察署長等」という。)は市町村長から要求があつたとき、前項に規定する指示を行なうことができる。この場合において、同項に規定する指示を行つたときは、警察署長は、直ちに、その旨を市町村長に通知しなければならない。
注*:政令で定める管区海上保安本部の事務所は、海上保安監部、海上保安部、海上警備救難部及び海上保安署をいう。

(市町村長の避難の指示等)
第60条 災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、人の生命又は身体を災害から保護し、その他災害の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の居住者、滞在者その他の者に対し、避難のための立退きを勧告し、及び急を要すると認めるときは、これらの者に対し、避難のための立退きを指示することができる。

2 前項の規定により避難のための立退きを勧告し、又は指示する場合において、必要があると認めるときは、市町村は、その立退き先を指示することができる。

3 市町村長は、第1項の規定により避難のための立退きを勧告し、若しくは指示し、又は立退き先を指示したときは、すみやかに、その旨を都道府県知事に報告しなければならない。

4 市町村長は、避難の必要がなくなったときは、直ちに、その旨を公示しなければならない。前項の規定は、この場合について準用する。

5 都道府県知事は、当該都道府県の地域に係る災害が発生した場合において、当該災害の発生により市町村がその全部又は大部分の事務を行うことができなくなったときは、当該市町村の市町村長が第1項、第2項及び前項前段の規定により実施すべき措置の全部又は一部を当該市町村に代わって実施しなければならない。

6 都道府県知事は、前項の規定により市町村長の事務の代行を開始し、又は終了したときは、その旨を公示しなければならない。

7 第5項の規定による都道府県知事の代行に関し必要な事項は、政令で定める。

(警察官等の避難の指示)
第61条 前条第1項の場合において、市町村長が同項に規定する避難のための立退きを指示することができないと認めるとき、又は市町村長から要求があつたときは、警察官又は海上保安官は、必要と認める地域の居住者、滞在者その他の者に対し、避難のための立退きを指示することができる。前条第2項の規定は、この場合について準用する。

2 警察官又は海上保安官は、前項の規定により避難のための立退きを指示したときは、直ちに、その旨を市町村長に通知しなければならない。

3 前条第3項及び第4項の規定は、前項の通知を受けた市町村長について準用する。

(市町村の応急措置)
第62条 市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生し、又はまさに発生しようとしているときは、法令又は地域防災計画の定めるところにより、消防、水防、救助その他災害の発生を防禦し、又は災害の拡大を防止するために必要な応急措置(以下「応急措置という。」)をすみやかに実施しなければならない。

2 市町村の委員会又は委員、市町村の区域内の公共的団体及び防災上重要な施設の管理者その他法令の規定により応急措置の実施の責任を有する者は、当該市町村の地域に係る災害が発生し、又はまさに発生しようとしているときは、地域防災計画の定めるところにより、市町村長の所轄の下にその所挙事務若しくは所挙事務に係る応急措置を実施し、又は市町村長の実施する応急措置に協力しなければならない。

(市町村長の警戒区域設定権等)
第36条 災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、人の生命又は身体に対する危険を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、警戒区域を設定し、災害応急対策に従事する者以外の者に対して当該区域への立入りを制限し、若しくは禁止し、又は当該区域から過去を命ずることができる。

2 前項の場合において、市町村長若しくはその委任を受けて同項に規定する市町村長の職権を行なう市町村の吏員が現場にいないとき、又はこれらの者から要求があつたときは、警察官又は海上保安官は、同項に規定する市町村長の職権を行うことができる。この場合において、同項に規定する市町村長の職権を行なつたときは、警察官又は海上保安官は、直ちに、その旨を市町村長に通知しなければならない。
注:第36条の命令に従わない場合は、10万円以下の罰金又は拘留(第116条)

6-2 「海上保安庁防災業務計画」(抜粋)

第1章 総則
第1 目的
 この計画は、災害対策基本法(昭和36年法律第223号。以下「災対法」という。)第36条第1項及び第37条第1項の規定並びに大規模地震対策特別措置法(昭和53年法律第73号。以下「大震法」という。)第6条の規定に基づき、海上保安庁が防災に関し執るべき措置及び当該措置に関し地域防災計画の作成基準となるべき事項を定め、防災業務の総合的かつ計画的な実施を図ることを目的とする。

第2 用語の定義
 (略)

第3 実施方針
 この計画の実施に当たっては、人命の安全の確保を第一義とし、関係機関、地方公共団体、関係事業者、ボランティア団体、地域住民等と密接な連携を図り、もって、積極的、計画的かつ的確に防災業務が実施されるよう努めるものとする。特に、災害応急対策にあっては、四面を海に囲まれた我が国としては、海域の安全確保とその活用が必要不可欠であり、これらのことを念頭に置き、臨機応変、迅速かつ積極的な対応が必要である。

第4 防災業務計画の見直し
 この計画は、災害予防の推進、災害応急対策の実施の経験の積み重ね等により随時見直されるべき性格のものであり、必要に応じ修正を加えていくものとする。

第5 マニュアルの作成
 長官及び管区本部等の長は、この計画に基づき、地域の実情に応じ具体的な防災業務の実施内容を明記した災害応急マニュアルを作成するとともに、当該マニュアルについても随時見直しを行い、必要が生じた場合は、その都度これを修正するものとする。
 その中で、海上保安庁の庁舎等自体の機能が阻害されることを想定した災害についても対策を講じておくものとする。

第2章 災害予防
(略)

第3章 災害応急対策

 海上保安庁が災害の発生が予想されるとき及び災害が発生したときに行う災害応急対策に関する事項は、次のとおりとする。
 また、長官及び管区本部等の長は、災害応急対策を講ずるに当たって、船艇及び航空機の運航等による職員の危険の防止に努めるとともに、特定の職員に過度の負担がかからないようにする等職員の保険について配慮するものとする。

第1節 災害の発生が予想されるときの災害応急対策
 災害の発生が予想されるときは、長官及び管区本部等の長は、次に掲げる災害応急対策を講ずるものとする。この場合にあっては、関係機関等と緊密な連携を図るものとする。

第1 情報の伝達・周知(判定会の招集に係る情報及び警戒宣言に係る情報並びに特定事象に係る情報の伝達・周知を除く。)

1 長官及び管区本部等の長は、地震等災害に関する情報について、別に定めるところにより迅速かつ的確に伝達するとともに、必要に応じて関係機関等に伝達するものとする。

2 船舶等に対する災害に関する情報の伝達は、次により行うものとする。
(1) 被害が予想される地域の周辺海域の在泊船舶に対しては、船艇、航空機等を巡回させ、訪船指導のほか、拡声器、たれ幕等により周知する。
(2) 航行船舶に対しては、航行警報又は安全通報等により周知する。
(3) 被害が予想される沿岸地域の住民、海水浴客等に対しては、船艇、航空機等を巡回させ、拡声器、たれ幕等により周知する。

第2 情報の収集及び情報連絡(強化地域に係る大規模な地震災害を除く。)

1 長官、管区本部等の長は、予想される災害応急対策の実施上必要な情報について、船艇、航空機等と密接な情報交換等を行うものとする。

2 本庁、管区本部等、船艇及び航空機が収集した情報は、それぞれ共有されるよう特段の配慮を行うものとする。管区本部等は、必要に応じて情報を関係機関等へ連絡するものとする。管区本部は、収集した情報を一括整理して本庁へ報告するものとする。本庁においては、必要に応じて情報を内閣情報調査室(内閣情報集約センター)、関係機関等へ連絡するものとする。非常本部等が設置されている場合は、本庁及び管区本部等は必要な情報を非常本部等へ連絡するものとする。

第3 情報通信体制の強化
 災害応急対策の実施上必要な情報通信を確保するため、通信施設の配備を強化し、情報通信施設の保守に努めるとともに、次に掲げる措置を講ずるものとする。
(1) 多重通信装置、非常用電源、携帯無線機、携帯電話、携帯ファックス等を搭載した巡視船艇を、可能な場合には、必要に応じて前進配備する。
(2) 非常の場合の通信(電波法第74条に規定する通信をいう。以下同じ。)を確保するための通信施設の配備及び通信要員の配置を行う。
(3) ヘリコプター撮影画像伝送システム等を搭載した航空機を、必要に応じて付近飛行機又は巡視船に前進待機させる。
(4) 関係機関等との通信の確保は、通常用いる通信手段のほか、防災行政無線、携帯無線機、携帯電話携帯ファックス等により行うものとし、必要に応じて議員を派遣し、又は関係機関等の議員の派遣を要請する。
(5) 災害に関する情報収集及び情報収集及び情報提供のためパソコンネットワークへの接続を行う。

第4 活動体制の確立
(略)

第5 船艇、航空機等の出勤、派遣等
(略)

第6 海上交通安全の確保
 海上交通の安全を確保するため、次に掲げる措置を講ずるものとする。
(1) 津波による危険が予想される海域に係る港及び沿岸付近にある船舶に対し港外、沖合等安全な海域への避難を勧告するとともに、必要に応じて入港を制限し、又は港内に停泊中の船舶に対して移動を命ずる等所要の規制を行う。
(2) 港内、狭水道等船舶交通のふくそうが予想される海域において、必要に応じて船舶交通の整理、指導を行う。

第7 危険物の保安措置
 危険物の保安については、次に掲げる措置を講ずるものとする。
(1) 危険物積載船舶については、必要に応じて移動を命じ、又は航行の制限若しくは禁止を行う。
(2) 危険物荷役中の船舶については、荷役の中止等事故防止のために必要な指導を行う。
(3) 危険物施設については、危険物流等の事故を防止するために必要な指導を行う。

第8 警戒区域の設定
 人の生命又は身体に対する危険を防止するため、特に必要が認められるときは、災対法第63条第1項及び第2項の規定により、警戒区域を設定し、船艇、航空機等により船舶に対し、区域外への退去及び入域の制限又は禁止の指示を行うものとする。
 また、警戒区域を設定したときは、直ちに最寄りの市町村長にその旨を通知するものとする。

以下 略

6-3 「地域防災計画における津波対策強化の手引き」(抜粋)

 平成10年・国土庁・農林省・水産庁・運輸省・気象庁・建設省・消防庁

序章
 わが国の津波防災は、過去の津波による被害と多くの犠牲から得られた教訓に基づいて発展してきたといえる。
当然のことながら被害を被った沿岸地域では、すでに津波に対する防御対策が積極的に進められ、さらに、阪神・淡路大震災も契機となり各地方公共団体においては、地域防災計画の見直し等も進められている。
 しかし、現在の技術水準では、津波がいつどこで発生するか予測することは困難であり、また、津波が発生した場合においても、地域の特性によって津波高さ津波到達時間、被害の形態等が異なるため、津波防災対策の検討が極めて難しいものとなっている。さらに、これまでの津波災害は、必ずしも人口稠密な大都市域で発生したものではないため、今後、臨海大都市で発生する危険性がある都市津波災害に対する対策も新たに講ずる必要がある。
 そのため、津波という災害の特殊性を十分踏まえ、総合的な観点から津波防災対策を検討し、津波防災対策のより一層の充実を図ることが必要不可欠となっている。
 以上のことから、本書は防災に携わる行政機関が、沿岸地域を対象として地域防災計画における津波対策の強化を図るため、津波防災対策の基本的な考え方、津波に係る防災計画の基本方針並びに策定手順等についてとりまとめた。この手引きの中では、各種の提言等が示されているが、各地方公共団体においては、地域特性を十分考慮のうえ参考にされたい。なお、ここで、本書では地域防災計画における津波対策を総称して津波防災計画という。

3.2.3.3港湾、漁港の船舶対策
1) 港湾、漁港の船舶対策
 津波警報の発令等当該水域に危険があると判断された場合には、船舶へは海上保安庁から、その伝達あるいは勧告、制限、規制を受けるが、港湾管理者として必要と認める場合、船舶の安全対策について適切な措置を講じるよう関係者に要請することが望ましい。
 なお、港則法の適用を受けない港湾、漁港においては、港湾、漁港管理者は船舶所有者および漁業協同組合に船舶の安全対策について適切な措置を講じるよう事前に協議しておくことが望ましい。

【解説】
 新潟地震、日本海中部地震等による津波によって、港湾内の船舶・プレジャーボート等の小型船、作業船、引船等多くの船舶が流出、沈没、転覆、乗揚げ等の被害を受けている。
 このため、津波警報が発令されるなど、当該水域に危険があると判断された場合には、港則法(昭和23年法律第174号)の適用を受ける港湾については、
港則法に基づき港長の勧告、規制、指示に従い沖合待避等の安全対策を講ずることとなる。
 しかし、港則法の適用を受けない港湾、漁港については、港湾、漁港管理者が船舶所有者及び漁業協会組合と津波警報が発令された場合等において、
船舶の安全対策について適切な措置を講じるよう事前に協議しておくことが望ましい。
 その措置としては次のようなものが考えられる。
 (1) 停泊中の大型、中型船舶は港外に避難する。
 (2) 避難できない船舶について、係留を安全にする。
 (3) 大型、中型船舶は入港をさしひかえる。
 また、地域によっては、津波等により、内航タンカーへの影響が予想される場合は、船舶所有者に対して適切な対策を講じるよう協議しておくことが望ましい。

2)漁船の処置
 津波来襲時における漁船の処置については、人命に危険を与えない範囲で実施するものとする。

【解説】
 津波来襲における漁船の処置には、二つの目的がある。第一は、資産としての漁船の保護である。
第二は、漁船が2次災害を惹起する大型浮遊物とならないようにすることである。
いずれにせよ、津波来襲時における漁船避難については人身の危険を伴うので、一般的な避難指針を作成することは不可能である。
 遠地津波の場合及び近地津波でも津波の到達まで10時間以上余裕がある場合は、漁船はなるべく水深の深い場所(例えば、水深100m程度)へ避難させることが望ましい。
 この場合、気象庁が発表する津波の到達予想時刻の情報に十分な注意を払う必要がある。
 養殖筏の間をあけ、漁船避難用の航路を確保している例もある。
 津波の到達まで時間に余裕がない場合は、漁船の沖合避難は非常な危険を伴うものと考えられる。
従って漁船の係船施設を用いたゆるやかな係留と、充分な余裕を持った錨係留の併用により、陸上への漂流をなるべく少なくする日常の努力が必要である。陸上に陸揚げされている小船舶も、時間的余裕があれば、錨を船外におろし、なるべく津波によって動かされにくくする以外に、今の所良い方法は考えられない、係留索を長く伸ばしておくことは、津波先端来襲時の衝撃および浮力による索の切断を防ぐため、効果があると考えられる。漁船の処置に関しては、海中、港内における津波の挙動等が完全に把握されていないので、今後の研究に待たねばならない。
 また、津波により陸上、特に道路上に打ち上げられた漁船の処置について、その手続きや所有者における合意等を予め検討しておくことが必要である。

3) 予報の伝達
 津波予報の伝達が、迅速かつ正確に伝達される体制の整備に努める。

【解説】
 気象庁は、気象業務法により、津波予報を行うことが義務づけられている。
 津波予報の種類は津波注意報と津波警報に具体的に分けられており、伝達にあたっては、十分考慮する必要がある。
 また、気象庁からの津波予報伝達は、図3-2(省略)の系統により、住民に伝達されるよう定められている。
 気象庁本庁、管区気象台等の津波予報中枢では、地震発生後ただちに津波予報を発表し、消防庁、警察庁、都道府県、海上保安庁、NTT、日本放送協会等へ伝達している。
 しかし、平成5年7月に発生した北海道南西沖地震津波では、地震発生3~5分程度で10mを超える津波が奥尻島に来襲したと考えられており、
また、住民避難、水門の閉鎖などの津波来襲時の対応にも数分程度の時間を要することから、津波伝達に携わる機関は、より一層、迅速かつ正確な伝達を実施する体制を確立する必要がある。
 なお、津波予報の伝達には、次のような問題点がないか検討する必要がある。
 ・ 各集落への連絡がとりにくいことがないか
 ・ ラジオ・テレビの聴取不能地区がないか
 ・ 有線放送難聴地区がないか
 ・ 津波予報に住民が慢性化し、津波予報に注意を払わない傾向がないか
 ・ 漁船への伝達が十分成される態勢かどうか

 都道府県、市町村においては、これらの検討を踏まえ、津波予報の伝達については、同報系、移動系、地域防災無線からなる防災行政無線の整備拡充をはかるとともに、
平成6年度から運用を開始した緊急情報衛星同報システムの受信装置の整備を図り、津波予報中枢からの情報を直後入手できるようにする。

 また、都市近郊の海岸や観光地などでレクリエーションの利用が盛んなところでは、観光客などの外来者に対しては、上述のような地域住民のための連絡系統では情報伝達できなかったり、
津波に対する認識が十分でないために予報や警報が有効に伝わらないことが懸念される。
このような地域では、海兵利用客への呼びかけによる意識の向上や安全情報伝達施設等の整備を推進する必要がある。
 さらに、庁舎、学校、病院等の防災関係機関、生活関係機関を結ぶ地域防災無線の整備により、情報伝達態勢の充実を図る必要がある。

4) 情報通信系統の確保・充実
 津波による人的な被害を極小化するためには、迅速で確実な情報伝達が最も重要である。このため、予報・警報等の情報を伝達する通信システムの強化や多重化を進めることが必要である。

 津波予警報の伝達については、以前は電話のよる人手を介した伝達方法が主流であったが、
その後次第にオンラインによる伝達が用いられるようになり、また平成6年度から運用を開始した緊急情報衛星同報システムでは、静止衛星「ひまわり」を利用し、ほぼリアルタイムで津波予報を受信することができるようになっている。
 このような状況を踏まえ、災害時の通信系統の確保に向けて、有線系の通信はもとより、
衛星系や移動系などの通信を適切に組み合わせて通信システムの強化や多重化を図っていくことが重要である。

6-4 「沿岸地域における津波警戒の徹底について」(抜粋)

平成11年7月12日 津波対策関係省庁連絡会議
 内閣官房・内閣府・警察庁・防衛庁・総務省・消防庁
 農林水産省・国土交通省・気象庁・海上保安庁
一部改正 平成13年1月6日

 関係省庁は、この申し合わせ事項の周知徹底及び地域の実体に即した津波対策の確立に
ついて、それぞれ関係機関に対し、引き続き指導するものとする。

1.事前の備え
  (略)

2.津波警報
(1) 津波警報伝達の迅速化
 気象庁は、津波警報等の発表の一層の迅速化を図り、近海で発生する地震については、地震発生後2~3分程度で津波警報等の発表を行うことを目標として所要の措置を講ずる。
(2) 津波警報伝達の迅速化、確実化
 所定の伝達経路及び伝達手段を点検し、隘路を把握し、津波警報がより迅速に市長村に伝達されるよう改善措置を講ずる。
ア 気象庁から都道府県を通じ市町村への津波警報の伝達は、中継点を少なくし、伝達の迅速化、確実化を図るとともに、気象庁、都道府県、報道機関関係機関は、オンラインや衛生を活用した緊急通信基盤の整備を進める。
イ 警察庁は、市町村への通知を、原則として、警察署から行うこととする。
ウ 休日、夜間、休憩時等における津波警報伝達の確実化を図るため、関係機関は、要員の確保等の防火態勢を強化する。
エ 津波警報、避難勧告・指示等の伝達については、関係機関は、あらかじめ漏れのないよう系統、伝達先を再確認しておくものとする。この場合、多数の人出が予想される漁港、港湾、船だまり、ヨットハーパー、海水浴場、釣り場、海浜の景勝地等行楽地、養殖場、沿岸部の工事地区等については、あらかじめ沿岸部の多数者を対象とする施設の管理者(漁業協同組合、海水浴場の管理者等)、事業者(工事施工者)、及び自主防災組織と連携して、これらの者の協力体制を確保するように努めるとともに、日頃より過去の実例等により啓発活動を行うよう努めるものとする。

(3) 情報・通信手段の確保
 広範かつ確実に津波警報の伝達を図るため、情報、通信手段の多様化、確実化を図る。
ア 海浜にでかけるときは、ラジオ等を携行し、津波警報、避難勧告・指示等の情報を聴取するよう指導する。
イ 放送局が発射する特別の信号を受信し、テレビやラジオのスイッチが自動的に入り、津波警報等の情報を受信することができる、緊急警報放送システムの受信機の普及を図る。
ウ 住民等に対する津波警報等の伝達手段として市町村防災行政無線(同報系無線)の整備を推進するとともに、サイレン、半鐘等多様な手段を活用することにより、海浜地への警報伝達の範囲の拡大に努める。
エ 防災関係機関相互の迅速かつ的確な津波警報等災害情報の収集伝達を行うため、
①都道府県防災行政無線、②市町村防災行政無線(移動系無線、地域防災無線)及び、③市町村、警察署、消防署、海上保安部署等の防災機関が災害現場で相互に通信するものとしての防災相互通信用無線の整備を引き続き推進する。また、船舶については、特に、小型漁船を重点として、無線機の設置を促進する。
オ 重要通信の確保の対象機関(電気通信事業法執行規則第56条に掲げる機関)については、災害時の被害状況把握・迅速な救援活動等に質するため、総務省がその機関を具体的に指定する。

(4) 津波警報伝達等訓練の実施
地域?に関係機関合同の津波警報等伝達訓練を実施し、通信機器等に関する不慣れの解消、誤伝達・伝達漏れの防止等を図る。
 この訓練は、報道機関の放送による津波警報の伝達等をとり入れ、実践的に行うこととする。

3. 避難
(1) 津波警戒の呼びかけ
「強い地震等を感じたら、住民等は海浜から離れ、安全な場所に避難すること、船舶は港外に避難すること」を基本として、別紙広報文の例により、津波警戒に関する周知徹底を図るものとする。
 政府又は関係省庁における通常広報、防災週間広報、県市町村広報等を活用して周知徹底を期する。

(2) 避難勧告・指示
ア 強い地震(震度4程度以上)っを感じたとき又は弱い地震であっても長い時間ゆっくりとした揺れを感じたときには、市町村長は、必要と認める場合、海浜にある者、海岸付近の住民等に直ちに海浜から退避し、急いで安全な場所に避難するよう勧告・指示するものとする。
イ 地震発生後、報道機関から津波警報が放送されたときには、市町村長は、海浜にある者、海岸付近の住民等に直ちに海浜から退避し、急いで安全な場所に避難するよう勧告・指示するものとする。なお、放送ルート以外の法定ルート等により市町村長に津波警報が伝達された場合にも、同様の措置をとるものとする。

(3) 避難場所
ア 避難場所・避難路については、浸水域を想定し、地形・標高等の地域特性を十分に配慮した整備を図る。避難場所としては、公共施設の他、地域特性を考慮して、民間ビルの活用など種々の検討を行い、より効果的な配置となるよう努める。
イ 地域防災計画に定める避難場所や避難路について、当該地域を管轄する国の機関は、あらかじめ把握しておき、実践的な支援対策を検討しておく。

(4) 災害弱者及び外来者の避難
ア 災害弱者の避難を補助するため、自主防災組織、消防団、近隣者を含めた避難の連絡方法や避難補助の方法をあらかじめ定めておく。
イ 観光地や海水浴場等外来者の多い場所では、駅・宿泊施設・行楽地に住民用浸水予測図の掲示、避耗場所・避難路の誘導表示などにより、周知を図る。

(5) 被害状況の把握・共有化
ア 被害状況を映像として早期把握することができるよう、ヘリコプター及び画像伝送システムの整備を推進する。また、様々な通信手段を用いた、ネットワーク化された情報システム構築の検討を進め、防災情報・被害情報の共有化を図る。
イ 救助にあたっては、関係省庁相互の情報を生かし、防災機関との連携を図る。

(別紙)
津波に対する心得
<一般編>
1 強い地震(震度4程度以上)を感じたとき又は弱い地震であっても長い時間ゆっくりとした揺れを感じたときは、直ちに海浜から離れ、急いで安全な場所に避難する。
2 地震を感じなくても、津波警報が発表されたときは、直ちに海浜から離れ、急いで安全な場所に避難する。
3 正しい情報をラジオ・テレビ・広報車などを通じて入手する。
4 津波注意報でも、海水浴や磯釣りは危険なので行わない。
5 津波は繰り返し襲ってくるので、警報、注意報解除まで気をゆるめない。

<船舶編>
1 強い地震(震度4程度以上)を感じたとき又は弱い地震であっても長い時間ゆっくりとした揺れを感じたときは、直ちに港外退避(注)する。
2 地震を感じなくても、津波警報、注意報が発表されたら、すぐ港外退避(注)する。
3 正しい情報をラジオ、テレビ、無線などを通じて入手する。
4 港外退避(注)できない小型船は、高い所に引き上げて固縛するなど最善の措置をとる。
5 津波は繰り返し襲ってくるので、警報、注意報解除まで気をゆるめない。

(注)港外:水深の深い、広い海域。
  港外退避、小型船の引き上げ等は、時間的余裕がある場合のみ行う。

6-5 「港則法」(抜粋)

(移動命令)
第10条 港長は、特に必要があると認めるときは、特定港内に停泊する船舶に対して移動を命ずることができる。

(船舶交通の制限)
第37条 港長は、船舶交通の安全のため必要があると認めるときは、特定港内において航路又は区域を指定して、船舶の交通を制限し又は禁止することができる。

2 (略)

3 港長は、海難の発生その他の事情により特定港内において船舶交通の危険が生じ、又は船舶交通の混雑が生ずるおそれがある場合において、当該水域における危険を防止し、又は混雑を緩和するため必要があると認めるときは、必要な限度において、当該水域に進行してくる船舶の航行を制限し、又は禁止することができる。ただし、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律第42条の8の規定の適用がある場合は、この限りでない。

注:第10条及び第37条の規定は、特定港以外の港にも準用される。この場合は、これらに規定されている港長職務は、
当該港の所在地を管轄する海上保安部又は海上保安署の長がこれを行うこととされている。(第37条の3、港則法施行規則第20条の3)

2 委員会議事録

(1)第1回委員会

 イ 日時:平成16年1月26日(月) 14時30分~17時30分
 ロ 場所:海洋船舶ビル8階第1会議室(港区虎ノ門1-15-16)
 ハ 議事概要(◎ 委員長、○ 委員、◇ 事務局)
  海上保安庁交通部安全課航行指導室長及び日本海難防止協会専務理事の挨拶後、
 ●事務局から配布資料「津波対策の現状について」を説明した~(説明内容省略)~。
<質疑応答>
○ 津波は逆断層・正断層の別なく発生するので、逆断層で多く発生するわけではない。
 縦ずれ断層の説明も加えた方がよい。
◇ 意見に沿って修正する。
○ 津波の基礎知識の説明で、マグニチュード6.5程度以上で発生するということであるが、これは発生条件ということではないのか。
◇ 6.5以下でも発生している例があり、削除する。
○ 津波予報の種類と内容についての表で、50cm以下の場合はどうなるか。
○ 津波予報は、0.5m程度と予測値を発表するが、あらかじめ津波の震源を日本の近海に10万通り位の想定をして、そのシミュレーションをする。
 その結果から津波の高さが0.2m以上だと津波注意という予報をだすことになる。
 それ以下であれば、津波という言葉を使わずに「海面変動のおそれがありますが被害の心配はありません」という。
 津波発生の危険性がないことが判明すれば、「津波の心配はありません」との表現をしている。
○ 十勝沖地震において、陸に上がっている船が地震で倒れ、それが津波で引き出され、港内を漂流した事例がある。
 上架が必ずしも有効な避難対策ではないと思われる。
◇ その旨注記する。
○ 船舶の緊急避難に関し「避難に余裕時間がある場合」という表現が使われているが、漠然としすぎている。
◇ 余裕時間というのは津波来襲までに避難できるかどうかという意味の余裕で、その時の船や港の状態で、一律に何時間というのは決められない。
○ 船舶の避難順序の優先順位について、台風の場合は退避可能な船から避難すべきで、出港しにくい船舶に優先順位があると、
 かえって港内は混雑して効率が落ちると聞いたことがある。
 単純に船種ごとに優先順位などを固定すべきではないのではないか。
◇ 特に大型船については単独では出港できず、タグボートやパイロットを必要とする場合が多い。
 そういった場合の優先順位としては、まず危険物船から避難するということになる。
○ 遠地津波と近地津波に触れておいたほうがよい。
○ 地震予知が出された場合と予知されない場合とを明確にして、それぞれにどのような対応をするのか論議する必要があるのではないか。
○ 津波予報が出されたときに、船舶がどう対応すべきかを事前に勉強しておこうというのが今回の目的である。
 予知までには踏み込まない考えでいる。
○ 地震予知について若干説明したい。日本の地震の予知ができるのは東海地震だけである。
 この予知は2~3日以内に起こる恐れがあると言っているだけで、例えば明日の6時頃地震が起き、その40分後に津波が来るというような予知はできていないのが現状である。
 東海地震対策についていえば、警戒宣言が出された場合、地震発生から津波到達まで余裕が20分しかないからあらかじめ逃げておこうとか、
大阪・名古屋の湾奥ならば数時間の余裕があるので、地震発生後に避難しても良いのではないかというような考え方が、予知があるからこそできるようになる。
しかし今回のこの委員会においては、津波来襲の余裕時間に対する船舶の対応を検討し、津波対策を講じようとするものと理解している。
○ 遠地津波だとある程度到達時間が正確に出る。
 従ってそれに対する対応もできるのではないか。
 東海地震に絞ってしまうと難しいが、予知ができる場合のストーリーも考えられるのではないか。
○ この委員会がめざいしているのは、船舶の交通安全上の問題であり、予知までは想定していない。
 1週間以内に地震が起きるからといって、東京湾に船を入れない事が出来るのか、相当経済的に大きな話になってくる。
  遠地の話は予報の中に時間的余裕として出てくる話であろう。
 だから到達時間というのが予報の中にあって、それをもとに船がどう動けるのか、津波の基本データのなかに遠地津波、近地津波の説明があればいいのではないか。
○ 漁船側から言わせてもらうと、予知があるたびに操業停止といったことになると、経済的負担などからかなりのクレームがくることが予測される。
 予知があった場合の対策をあらかじめ作っておく事はできないのではないか。
 事前準備の程度になるのではないか。
○ 本委員会はあくまでも船舶としてどういう対応をとれるのか、ということを今年度内はあくまでも船舶としてどういう対応をとれるのか、
 ということを今年度内にまとめようとするもので、予知に対する対応までは難しいと思われる。
●事務局が配付資料「津波の発生が予想される場合の船舶の対応」について説明した。~(説明内容省略)~
<質疑応答>
○ 漁船の小型船とは何トンまでを言っているのか。
◇ ここでは、陸上に掲げて対応できる程度の船を指している。
○ 荷役作業中の船舶が、荷役を中止した後は着岸船・錨泊船と同様の対応となるのではないか。
◇ 同様の対応である。
○ 危険物船の荷役というのは基本的には乗組員が揃っているはずなので荷役中止、即出港。これが基本だと思う。
 最終的には船長が判断することになるが、危険物船が陸上避難すると被害が大きくなるおそれがあるので、陸上避難としないほうがよい。
◇ 危険物積載船については、意見を踏まえて修正したい。
○ 港内着岸船の大型船舶の対応について、係留索をできるだけ長くとるということは、逆に大きく揺れることにもなり、ほかの船舶と接触するという可能性がでてくると思う。
 係留索を長くするという表現は、よくないのではないか。
○ 係留索が切れるというのは、索の短いスプリングが最初に切れるということを言っているのではないか。1本切れると、他にも影響がでて被害が大きくなってしまうのではないか。
◇ スプリングを長くとるとの表現に改める。
○ 着岸船舶のうち大型・中型船では、津波1~2mの場合、対応策が一律に大津波の場合と同じになっている。
 岸壁が補強されているところなど、はたして港外退避や陸上避難まで求めることができるのか。
 場合によっては係留強化での対応もできるのではないか。
 大きなコンテナ船あるいは客船で1~2m程度であれば係留強化で対応するという選択肢もあってもいいのではないか。
◇ 2mくらいでスプリングが切れるとの過去のデータがあり、今回は過去の資料を収集整理してまとめたものであることから、このような分類をした。
 ただ、これまでの計算・実験、船舶の被害実態などのデータ資料が少なく、今後はそのような資料を蓄積していく必要があると思われる。
 今回は、3月までに一応のまとめをすることになっており、既存の資料を整理するものである。
○ 船舶の運航形態を航行中、岸壁着岸中、浮標係留中の3つに整理した方が運航者としては分かりやすい。
 今船舶は荷役がない限り殆ど着岸しない。
 入港したら直ぐ荷役、荷役が終わったら直ぐ出港が基本で、着岸船舶と荷役中の船舶とに分類すると違和感がある。
 港内船舶の中で危険物荷役中の対応、その他一般的な場合の対応、旅客船などの対応といった整理のほうが運航者としては整理しやすいのではないか。
◇ 基本的にはその趣旨にそって分類しているが、なお表現を整理する。
○ 船の荷役は、船だけの対応ではなくて陸上との連携が重要である。
 特に危険物船については陸上と船と連携作業について、マニュアルが作成され作業手順、荷役後の対応なども定められ、安全荷役が保たれている。
 そのような連携がなければそういう中止作業は簡単に出来ないと思う。
◇ 意見を踏まえ修正する。
○ 船舶対応表の下段に、津波来襲までの時間的余裕について準備時間とあるが、どのような時間か。
◇ 安全なところまで退避するまでの時間的余裕のこと。適切な表現に改める。
◎ 小型船舶について、十分な余裕がある場合は、陸揚げよりも安全な海域に退避するという選択肢もあるのではないか。
 陸揚げよりも港外退避の方が安全ではないか。
◇ 検討し、修正する。
○ 漁船も大型中型(含む)と書いてほしい。
◇ 修正する。
○ 津波予報の種類との船舶の種類別に資料が整理されているが、津波によって影響の強く出る港湾とさほど影響を受けない港湾があると思われる。
 分類の仕方を港湾内における潮位変動や流速で分けて書いたほうがわかり易いのではないか。
◇ この分類は多数ある港の最大公約数的な表として考えており、詳細は個々の港で決めるべきと考えている。
 ●事務局から配布資料「津波対策委員会(仮称)について」について説明。
  また、清水港における津波シミュレーション(動画)を上映し共通認識を深めた。~内容省略~
 シミュレーションについて長屋委員から詳細な説明があった。
<質疑応答>
○ 津波対策委員会の設置について提案されているが、根拠及び位置づけは何か。
 津波の際の避難などの判断基準を決めるための手引きを作るということでよいのではないか。
◇ 津波対策については地域防災計画等において定められているが、ほとんどが陸上についての対策であり、港については詳細に検討された事例は少ない。特定港については港則法に基づき港長の指揮のもと対応するとの記述がなされている例もあり、この場合港長が地元関係者と事前に調整、取り決めをしておくことが必要である。本委員会の目的は津波に対する基本的事項を手引きと言う形でまとめ、各港の津波対策については津波対策委員会というものをつくり、検討してもらうというものである。台風来襲時の安全を守るために関係者間で組織されている台風対策委員会というものが多くの特定港で設置されており、津波対策についても同様な検討が可能と考えている。津波については、台風対策委員会とは少し異なるが、同様の構成員となることが予想されるため、この台風対策委員会を活用して各港の津波対策を検討しようとするものである。
○ 今回を含め2回の技術的委員会で、この津波対策委員会というものを作るなどと提言できるのか。
◇ 技術的、具体的なことは結局港ごとにやらなくてはならない。基本的事項以外は、港ごとの津波対策委員会で決めてくださいと言うことである。
○ 地元において、保安部や港湾管理者と関係者が検討しているところもあるが、現実にはなかなか進んでいない。かつて港湾管理者に対して津波対策について検討するように言っているが、意識の高い地域を除いて進んでいないのが現実である。本委員会において、各機関の役割、負担等の問題もあり、現地で津波対策委員会を作れるかどうか、もう少し検討すべきではないか。もっと具体的に指示していかないと、多分港湾管理者は動かないと思う。時期尚早ではないのか。
○ この委員会で、やるべきことを決めたら、それをもとに各港長が港湾管理者とお互いに話しをしていけば、港を守ろうとする姿勢はみな一緒なのでできると思う。台風対策委員会という同じような組織がすでに存在しており、少なくとも特定港については、津波の注意報や警報が出された場合の対応を、事前に検討しておく必要があるのではないのかという提案である。それは港湾管理者も同じだと思う。
○ 台風対策委員会と同じようなものを港の中に作ってくれれば、船舶関係者としてもパイロットとしても非常にありがたい。台風対策委員会は、実際に台風来襲に備え、安全を最優先に事前に避難しようというのが目的である。それと同じように津波もこれだけ問題になっており、過去にも実際に津波の被害が発生しているのだから、このような会を作るということは非常にいいことではないか。
◎ 実施に向けては難しい面もあるが、とりあえず本委員会としては、1つの指針を示していきたいと考えている。
~委員から特段意見なし~
以上

(2) 第2回委員会

 イ 日時 平成16年3月17日(水)13時30分~16時30分
 ロ 場所 海洋船舶ビル8階第一会議室(港区虎ノ門1-15-16)
 ハ 議事概要(◎委員長、○委員、△関係官庁等、□事務局)

(イ)第1回委員会議事概要(案)の承認
 事務局から、本(案)は第1回委員会終了後に各委員などに照会し、指摘があった箇所は修正を施したものである旨も説明があった後、特段の意見なく承認された。

(ロ)調査報告書について
△ 第1章10ページの表に「地震が発生した国名」と「日本への津波の到達時間」を入れたほうが良い。
□ ご意見の沿って調べ、可能な範囲で記載する。
○ 第2章32ページの表の右側の「他機関の」とはどんな意味か?矢印の意味が良く分からない。
□ シミュレーション等既に他で検討されているものを活用するということ。津波対策は地域防災計画の中に位置づけられるべきものであるが、港内の対策については検討された事例が少ないため今回検討した。地域防災計画や事業者等の津波対策等と整合を持たせて上で、津波対策検討協議会で検討を行い、結果については地域防災計画の中に反映させるという意味で両矢印にしている。表現については適切に修正したい。
△ 協議会はどこが主導し、予算はどこが出すのかについて検討、提示しないと、地方に落としても実行されないのではないか。この委員会でも提案がされていることを検討するにはかなりのお金が必要だと思う。
□ 予算については必用に応じて各機関で措置するものと考えている。
○ お互いが知恵を出し合って身の回りの資料等によって協議会で考えをまとめるべきではないか
△ 海上保安庁では、本委員会で手引きが作成された後、各部署へ具体的な検討の指示を出す予定である。その際は、水産庁、港湾局等の関係機関にもご相談させていただくのでご協力をお願いしたい。32頁の津波対策検討フローはあくまで標準的なものとして示すものであり、各港の実情に応じた検討を行っていただければよいと考えている。
◎ この委員会は、予算措置まで提言するものではなく、各港での津波対策検討にあたり、手引きとしてどういうものを示すのかを議論する場であると理解している。
○ 41ページでは船舶対応表を作成し、それに基づき避難することになっているが、42ページでは状況を見て船長判断となっている。矛盾していないか。
□ 船舶対応表は強制措置ではない。この報告書を参考に各港が対策を作成することとなるが、船は一隻?に状況は異なるため、最終的には船長判断と理解している。
○ 41ページのロ、「船舶がテレビ等により津波情報入手した場合は~直ちに避難することが望ましい」とは、"緊急の場合は避難マニュアルを無視できる"とも読めるので表現を変えた方が良い。
□ 津波情報が出された場合に、混乱の中で避難勧告を発出し伝達を行うにはタイムラグが生じる恐れがあり、避難勧告を待っていられないケースも考えられる。このような場合に備え、船舶の対応について事前に周知しておくこととしている。
○ 避難勧告を迅速に発出できる態勢を整えることが重要ではないか。津波は人生に一度あるかないか程度であり、また何mの津波までは大丈夫という基準は各港によって異なる。情報を得た場合の判断を全て船長に任せるのは不可能であり、二次災害を招くことを心配している。
◎ 情報を得て直ちに避難したとしても問題ということは無い。人命や船舶の安全が第一であり、むしろその方が好ましい場合もある。
□ 「船長判断」については「避難勧告を待たずに避難する場合は船舶対応表を参照すること」等の書きぶりに修正する。
○ 第2章の3と5のつながりが良く分からない。
□ 5は3(2)を取り出して解説したものであるが、ご指導通り目次を見ただけではわかりにくいので訂正する。
○ 41ページ(4)に「避難勧告の解除の時期は原則として津波予報解除の時期」とあるが、安全を確保した上で入港するとした方が良いのではないか。
□ ご指摘踏まえて検討する。
○ 枠書きの表現で「望ましい」という表現と「必要である」という表現があるが、統一すべきではないか。
□ ご指摘を踏まえ修正する。
◎ 51ページの表は1~3区まで区別するため表に縦線を加えるべき。56ページ以降の表の色に関して凡例が欲しい。
□ 訂正する。
〇 51ページの表で、1区の時間的余裕が無い場合の航行船は港外退避となっているが、5分で水深200m水域まで行けるのか。港外に退避できない場合も当然あるので、例えば港の安全な場所(緊急避難場所等)へ退避とした方が良いのではないか。または、東海地震を想定して様々な対策を立てたらこうなったというストーリーにした方が分かり易い。
△ 時間的余裕が無い場合の1~3区の航行船は港外退避ではなく※印を入れればよいのではないか。そして※印の表現をもう少し工夫すればよいのではないか。
□ ご指摘のとおりに訂正する。
○ 今後の課題について、まず資料の収集について具体的なイメージがあれば教えて欲しい。2つ目に津波来襲後の調査団と正式な調査団の違いを教えて欲しい。
□ 津波協議会主体で調査するものと、それとは別に政府として正式に行われる調査の2通りがあると理解している。ここでは触れてはいないが、正式な調査団もここまで調査して欲しいという意味でこれらの項目を挙げている。
○「正式な調査」ということについてよく理解できない。
□ 表現については修正したい。。
○ ぜひこうした調査をやって、かつ集めた情報をデータベース化して欲しい。
◎ 具体的に実施する時にぜひ検討して欲しい。
◎ これまでの出席者の発言を基に委員長、事務局、関係者の間で必要な修正を行い、報告書としてまとめることで了解願いたい。
以上

奥付

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