はしがき
昭和34年9月26日夜半,近畿,東海地方を中心として襲つた伊勢湾台風(台風第15号)は,ほとんど全国にわたつてなんらかの被害をあたえたが,とくに三重,愛知,岐阜3県下は,昭和28年これら地方を襲い,かなりの災害を起こした台風第13号をはるかにしのぐばかりか,わが国において過去最大の台風といわれた昭和9年の室戸台風,昭和20年の枕崎台風をもしのぐばかりの猛威をふるい,海岸および河川の堤防破壊または越水,流木,山地崩壊,暴風などによる人命の損失,建物の破壊と流失など当地方に今まで無かつた大災害を起こし,被災地は言語に絶する惨状を呈した。ことに名古屋市南部港湾地区一帯と名古屋市西南に隣接し,木曾,長良,揖斐3川の合流して伊勢湾に流入する付近の殻倉地帯,鍋田・城南の両干拓地,半田市の一部臨海地帯の高潮あるいは河川はんらんによるきわめて多数の人命の損失は,世人の心にはげしい衝動をあたえた。
これら災害の激しさの陰に隠れて,かならずしも世人の強い注意をひかなかつたが,林業関係においてもきわめて重要な問題が台風通過のあとに残された。すなわち,愛知県の奥三河地方,三重県中部山地の優良林業地帯とこれに隣接する奈良県吉野林業地帯の一部などには,豪雨によるかなりの山地崩壌,土石流出,流木により相当の災害が起こり,三重,愛知両県下の太平洋沿岸部においては数千haにわたつて激しい潮風(暴風と塩風)による林木の枯死,風倒,風折が発生している。また高潮に対し,あるいは激しい潮風に対して背後の建物,農耕地を防護するのに相当の効果を発揮したと考えられる海岸防災林も,自体は潮風害もしくは潮害をこうむつている。
さて,山地災害の問題は台風襲来ごとに発生し,最近では昭和33年狩野川台風,昭和34年台風第7号によつて伊豆地方あるいは山梨県下などに発生しているが,大面積森林の塩風害,高潮の発生とこのような台風時の海岸防災林の防潮,防風効果の2問題はその例かならずしも多くない。
よつて林業試験場では科学技術庁の要請と農林水産技術会議の配意もあつて,これらに関して前後2回にわたり調査を行なつた。すなわち,海岸防災林の高潮ならびに潮風害に対する防止効果,防災林自体の潮風害および潮害,これらより考えられる海岸防災林の今後のあり方,潮風害を受けた森林の実態と今後の取扱い方とこの地方における造林上の対策などをできる限り明らかにするため調査を行なつた。
第1次調査(昭和34年12月中旬)は,防災部から仰木前部長,中野技官,岩川技官,保護部から藍野技官が参加して,三重県志摩郡の磯部,浜島,阿児,大王,志摩各町の一部地区で塩風被害林を,鈴鹿市の千世崎,長太,若松各海岸および四日市市霞ケ浦海岸の各海岸林を踏査した。また愛知県では渥美郡の渥美町,赤羽根村,田原町の太平洋沿岸の海岸防災林を踏査した。
第2次調査(昭和35年2月初旬)は,造林部から坂ロ部長,保護部から日塔技官,防災部から中野技官,樫山技官が参加して,三重県北牟婁郡長島町古里,道瀬両海岸,海山町小山海岸,熊野市新鹿海岸,熊野市から御浜町,紀宝町を経て鵜殿村に至る,いわゆる七里御浜海岸,志摩郡浜島町南張海岸の海岸林を,また度会郡の南島,南勢両町,志摩郡の浜島,阿児,大王,磯部各町の塩風被害林を,さらに伊勢市では伊勢神宮林の暴風害,塩風害を踏査した。
しかし,広範囲の海岸線に点在する海岸林,広大な面積にわたる森林の塩風害に対してきわめて短時日の,しかも災害後かなりの時日を経てからの踏査であり,十分なことはもちろんできなかつたが,両県の主務課・出先事務所,三重県農業試験場などのご好意による資料などをも参照して海岸防災林の効果と森
林の潮風害の実態の概要などを取りまとめたので,ここに報告する。なお,台風・高潮および被害の概要については中野,海岸防災林関係は中野・樫山,森林の潮害・潮風害関係は坂ロ・樫山・岩川,虫害関係は藍野・日塔が主として執筆を分担し,これらを仰木・坂ロ・中野が総括し,昭和35年6月末とりまとめを終わつた。
調査にあたつていろいろ便宜をあたえられた三重県林務課倉田課長・岡課長補佐・幸治係長・萩原技師・石崎技師・喜多村技師,伊勢林業事務所和田所長・田中課長,四日市林業事務所拓植所長,尾鷲林業事務所小林所長,熊野林業事務所上杉所長,三重県立農業試験場紀南分場下迫分場長,愛知県林務課中野課長・渡辺係長,治山課和田課長・青井係長,東三河地方事務所伊沢技師・星野技師,三重大学農学部飯塚教授・山下助教授・矢頭助教授,名古屋大学農学部河田助教授,伊勢神宮司庁林務課岩田課長,新宮営林署楠原署長,三重県熊野市坪田市長・前技師,長島町林助役,磯部町平石町長・坂本森林組合理事,南島町島田課長,西飯浜島町森林組合長,愛知県渥美町鈴木町長・小久保助役など関係各位に深じんなる謝
意を表する。
I 台風・高潮および被害の概要
1.台風の概要 1)18)26)48)
昭和34年9月21日マリアナ諸島の東方海上にあつた弱い熱帯低気圧(1008mb)が発達して,22日9時に台風第15号となつた。台風はその後勢力を増し,急速に超大型となつた。すなわち,23日15時には硫黄島の南約500kmの海上を25km/hの速さで北西に進み,はやくもこの台風の最低気圧である895mb(中心気圧)を記録した。中心付近の最大風速75m/s,中心から半径300㎞以内では25m/s以上の暴風雨と発表されている。このように台風第15号は発生期,発達期ともきわめて短く,その発達率はほぼ90mb/day(22日9時~23日9時)という大きな値を示した。
25日正午には紀伊半島の南方950㎞の海上に進み,26㎞/hの速さで北西あるいは北北西に進んだ。中心気圧は905mb,中心付近の最大風速は60m/s,暴風雨の範囲はきわめて広く半径400㎞以内の東側と300㎞以内の西側では風速25m/s以上の暴風雨となつた。降雨の範囲はしだいに広がり,25日夜には関東から四国までが雨となり,なかでも関東と近畿地方が激しかつた。これは本土の南岸にあつた秋雨前線が台風の影響を受けはじめたためで,昭和33年の狩野川台風と同様な大雨による大被害がまず心配された。
その後,26日0時には潮岬の南南西およそ700kmの海上に達し,28㎞/hの速さで北西あるいをま北北西に進んだ。中心気圧は910mb,中心付近の最大風速は60m/s,前日同様の範囲が風速25m/s以上の暴風雨圏となつた。26日午後には東海地方から九州まで暴風雨圏にはいり,紀伊半島から四国東部では20~25m/s,中国,九州は15~20m/sの暴風となつた。14時半には気象庁は「19時ごろ紀伊半島に超大型のまま上陸する」ものと発表している。そして四国以東では高潮,大波のおそれもあり,この台風と襲来コースや時期が似ている狩野川台風,カスリーン台風(昭和22年),ジェーン台風(昭和25年)などすべて大水害をもたらしているので気象庁も強く警戒をうながす発表を行なつている。26日9時までに雨量は,尾鷲で242mm,亀山で162mm,名古屋で92mmに達した。
三重県では26日11時30分高潮波浪警報を発令している。
26日18時20分,強い破壊力をもつたまま潮岬の西方に上陸した。18時13分に潮岬測候所では最
低気圧929.5mbを記録し,台風眼を観測している。また19時すぎ潮岬付近で最大瞬間風速48.5m/sが記録された。
その後しだいに速度を増して北北東に進み,19時奈良,和歌山県境,20時奈良県中部,21時亀山西方,22時揖斐川上流,23時高山西方,27日0時富山付近を経て日本海た抜けて,1時には中心気圧970mbになつた。
この台風は6時間あまりで本土を縦断し平均速度は70km/hであつた。26日21時ごろから急に速度を増した。この間,台風圏の東半円にあたる中部,関東では20m/s内外の強風が吹き,海岸地方では最大風速が30m/sを越えた。各地の最大平均風速(かつこ内は最大瞬間風速)は名古屋37.0m/s(45.7m/s),岐阜32.5m/s(44.2m/s),津36.8m/s(51.3m/s),伊良湖42.7m/s(55.3m/s)などが測定された。中心コースから約300kmはなれた東京でさえ最大風速27.0m/s(37.0m/s)が測定された。名古屋,津における前記の値は各地方気象台はじまつて以来の記録といわれる。名古屋市北郊の小牧や渥美半島の福江では観測限度の60m/sを突破している。また三重県志摩郡大王岬灯台では最大瞬間風速61m/sを記録して風速計を破壊されている。
21時すぎころから愛知,三重県下で強風がおさまりはじめており、台風は27日2時には佐渡島付近を通過し,日本海岸沿いに北上し,9時には秋田の北に達して984mbとなつた。
大体,中心気圧の低いほど台風の勢力は強いといえるが,前記929.5mbは,昭和9年9月の枕崎台風の916.6mbについで陸上測定では3番目の記録である。しかし暴風圏がきわめて広く,勢力がおとろえぬまま上陸したので,その強さは室戸,枕崎両台風をしのぐほどで,戦前戦後を通じ,勢力の点では最大の台風と気象庁では見ている。
愛知,三重県下各地点と浜松の最低気圧・最大風速・最大瞬間風速など表示すると第1表のようである。
さらに参考のため,調査地域の主要観測点たる尾鷲,津,名古屋における気温,湿度,風向,風速,降雨量の毎時観測表をあげると第2表のようである。
降雨状況を見ると,23日夕方ごろから本州南方海上の前線が活発となりはじめ,九州南部と紀伊半島南東部斜面で降雨がはじまつた。この雨は前線上の波動が東にぬけるとともに終わつて,24日夕方ごろから本州南岸で小雨が断続する程度となつた。しかしこの台風が本邦のはるか南方海上を北上し,北緯28°線に到達した26日早朝から,四国東部,紀伊半島南部で台風による本格的降雨がはじまり,四国,近畿南部をむすぶ線上で強雨が断続した。このころから台風はしだいに速度を増しながら本土に接近し,26日18時すぎ潮岬西方に上陸したわけであるが、速度が大きいため台風の規模の大きい割合に降雨時間は比較的短く,最も雨が強く降つたのは近畿,四国東部で26日昼ごろから夜半までであつた。25~27日における三重・愛知両県下各地の降雨量は第3表のようである(9時~9時の値)。
このほか奈良県日之出岳で622mm(25日—195mm,26日—427mm),山上ヶ岳で603mm(25日—120mm,26日—483mm)などが測定されている。
台風はその後岐阜県の西部から高田の西方へ出て日本海にぬけたが,この間,たとえば岐阜県広瀬で368mm,愛知県田口町で318mmが測定された。この地方では26日18時ごろから27日の3時ごろまでが雨が強かつた。
なお,調査地域における21日以降の降雨状況を尾鷲,吉津,度会,浜島,鳥羽,伊良湖の6地点における日降雨量で見ると第4表のようである。
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2.高潮の概要
いわゆる津浪とは,海底地震,海中火山の爆発,海上に出現した優勢な低気圧により海面が潮汐表に予報できる潮位以上に異常上昇し,異常な波となつて陸地に侵入することである。そして原因が地震,火山爆発のような地変である場合を地震津浪または単に津浪,低気圧の襲来である場合を暴風津浪または高潮というようである28)。もつとも学者によつて異見もある43)。
高潮の原因は,(1)低気圧の中心の通過により気圧が低下し,その吸い上げ作用によつて海面が異常上昇すること,(2)強風により海水が湾奥に吹きよせられること,(3)湾内に副振動が発達することなどがおもなるもののようで,これらが全体として潮位上昇を起こす。とくに強風の作用が大きく働くようである。すなわちV字型湾の湾奥への強力な吹きよせと台風が陸地に近づいたとき,いわゆる台風域の危険半円内において起こる風速分布の不連続な変化が重要な関係をもつようである。そして台風の通過が比較的遠方であるときは海水はしだいに海岸に吹きよせられて普通の海水侵入が起こる。ところが近いと前述の不連続性もはつきりし,風速も強くなり,不連続線に向かつて吹き集められた海水は,その勢力のあまりに強いために,波の前面の傾斜がしだいにけわしくなり,ついにはくずれかかりながら進んでゆくようになる。これは台風の進行に追随して進行し,海の深さに関係する。一見重力長波のようであるが,もとは吹送流であるから重力波と異なり海面から海底まで流れが一様でなく,海面がいちばん速い。そして岸に吹きたまつてくると底部では吹きたまつた水の圧が沖より大きくなるので逆流が起こる。浅い海では逆流を防ぎやすいが,深い海ではさまたげられない。このため暴風津浪はとくに浅い海に発達し,しかも伊勢湾のように湾奥にいくにつれてせばまりV字型湾では吹きよせられる水量が増すので一層潮位は高められる。ともかくこの吹送流によつて海岸の障害物は大きな圧力を受け,あるいは内陸への海水侵入が起こり,構造物の破壊,内陸での浸水,冠水被害が起こる。しかも内陸の地形によつては侵入した海水がさらに激しい流れをなして被害を増大することが考えられ,また漂流物がのつているときは衝突力の増大で被害は倍加される。
伊勢湾台風による高潮は以上の典型であつたと思われる。気象庁の調べ18)によれば,今回のものは高潮としては,1900年以後の記録では最高のものであつたという。9月26日夜半小潮ではあつたが,伊勢湾,知多湾および渥美湾内一帯は2m(東京湾中等潮位—T.P.—上,以下同じ)以上の高潮が起こつた。伊勢湾ロの鳥羽港で2.1m,湾奥にいくにしたがいしだいに高くなり,名古屋港では最高3.9m(26日21時35分)に達した。気象庁の予想は2.5mであつたという。既往の最高潮位は大正10年9月26日の2.97mで,これを約1mも越している。この主要な原因は,前述のように,小潮とはいえ,19時ごろから満ちはじめた時刻に,典型的なV字型湾である伊勢湾,三河湾などの左側を猛台風の中心が通過したという最悪のケースであつたことにある。
名古屋における気象潮(気象の諸要素,主として気圧と風の影響により起こる潮汐の1種で,天体潮からの偏差を一般に気象潮としている。)は3.5m,最高潮位はD.L.(各検潮所に固有の基準潮位で,最低潮位に一定数を加えた潮位)上5.81m,T.P.上3.89mであつた。鳥羽における最高潮位はD.L.上4.04mであつた。次に伊勢湾,知多湾,渥美湾内の最高潮位を第2図に示す18)。図中の資料は気象庁海洋課の調べである。
とくに最高潮位を示した名古屋港の検潮自記記録を参考までに第3図にあげる。
ここで高潮すなわち吹送流の速度が問題であるが,今回の高潮も夜間であつたためたしかな資料がない。室戸台風のとき,大阪木津川尻飛行場で観測された,「瀑水は4m/sの速さで進んできてアッという間に観測所に侵入し,以後水かさはぐんぐん増した」という記録がある28)。
また,以上のように高潮の激しさは南西に開口したV字型湾の湾奥にはなはだしいといえるが,ほぼ直線的な海岸でも強風の方向に対して汀線が直角あるいは凹曲線をなす場合にも相当の潮上昇が見られる。海岸近くの海の深さとの関係は踏査でに明らかにできないが,「湾内では判然たる差異を認めがたいが,外海に面しているところでは,深海となつておるところが高潮は大であつた」という報告もある30)。最近の水路部の調査によれば鍋田干拓堤防では“みお筋”にあたるところに破壊が起こつているという。
これらのことは調査では明確にできなかつたが,防潮対策をたてる上に重要なことであろう。
高潮の場合,以上の高水面上にさらに烈風によつて生ずる怒とうが重なることを考えねばならない。この風浪が加わるとき被害は著しく大きくなる。この風浪が地震津浪と高潮の差異の重要な点である。風浪の周期はきわめて短いのが一般で,したがつて家屋その他の障害物にぶつかつて急速に減衰されてしまうから,陸上内部までの浸水の高さを高める作用はないが,そのもつている勢力は大きく,かつその勢力を一挙に放出するため,打ちつける物に及ぼす破壊力は非常に大きい。吹送流であるから相当の速さで内陸に海水を侵入させるとしても,地震津浪とは異なり浸水被害のわりに家屋の破壊などの被害は少ないはずであるが,しかしこの風浪のために海に直面する家屋だけは徹底的に破壊されることが多い。
また,防潮堤などに高潮,風浪がぶつかると水塊は非常な高さにはねあがり,その先端は激しい飛まつとなり,これは強風によつて風下にたたきつけられ,あるいは豪雨のように降下する。ときにはかなりの石礫をまじえていることがある。このように跳波も高潮の場合,被害に関連して看過できない現象である。
今回の踏査では風浪,跳波など波浪の激しさや規模を知る適確な資料は得られなかつたが,浜島町南張付近の断崖海岸で高さ約10mに位置する道路上に波が打ち上げた事実があるようであり,また熊野市楯ケ崎の突端(海抜高約60m)や,長島町古里沖の丸山島(海抜高約40m)は風速最大時には波浪で洗われたといわれることなどから高潮および風浪,跳波の高さを想像するほかはない。湾奥の鍋田干拓地,四日市市,桑名市の臨海地帯では高潮の高さ約5.8mに風浪2~3mを加え,波高は7~8mに達したといわれる。三河湾奥の半田でも最高潮位3.1mに2m前後の風浪が重なつたという。いずれにしても,名古屋港,鍋田干拓地,城南干拓地,半田市海岸などにおける海岸堤防の破壊はいうに及ばず,調査した地域でも四日市市富田浜,霞ケ浦海岸,長島町海岸,熊野市新鹿海岸など多数の海岸における防潮提,海岸護岸の破壊,家屋の破壊によつて高潮,風浪など波浪の総合された力の激しさは想像される。
長島町海岸では風速の増すにつれて跳波,風浪による飛まつは石礫をまじえて弾丸のように民家の壁や屋根をつらぬいて屋内にはいり,風浪は柱を折り,打ち上げられた漁舟は屋根の上にのり上げるという惨状であつたという。19時ごろ風速最大で,このとき潮位上昇は約1.7mというから,もちろん高さ4m程度の堤防では激しい風浪や跳波は防がれず,細長い海岸通りの街全体をおおつたと思われる。西長島の海岸通りでは高さ8mの堤防が破壊されており,長島町の海岸部落全体で流失家屋42戸,全壊家屋85戸,半壊家屋126戸を生じている。この町の海岸通りは防潮堤を境として海に直面し,防災林はない。このように石礫をまじえた風浪,跳波の激しさは浜島町南張海岸でもみられたという。
写真18は長島町海岸におしよせた高潮と跳波を示す。この地では高潮襲来の最盛時は17~18時の間であつたから,これらの写真は3~5時間前の干潮時の実況である。それでも高さ4mの防潮堤を越える波高は7~10m近いものであり,写真に見られるような激しさであるから最盛時のそれは想像にあまりある。防潮堤の大部分は直立型であるから,この跳波のはげしさはいよいよ無視できない。強風中に含まれる海水飛まつは,このような猛台風の場合,洋上はるかから大量に含まれてくることは想像に難くな
い。しかし,前述のように風浪が海岸に衝突した場合打ち上げられる跳波の先端のはげしい飛まつが強風によつて大量に海岸線近距離地帯に持ち込まれることもまた想像できる。ことに三重県の志摩地域ではリアス式海岸で断崖が多く,このことが激しいと思われる。また防潮堤にたたきつけられる風浪によつて起こる跳波の先端は写真19によつて想像でき,地元での聞き取りによつてもうかがわれるようにきわめて有力な飛まつ,したがつて塩風の生産源である。かえつて,海岸に防潮堤,護岸のない方が,この点だけからいえば有利とさえ見られるくらいである。このような跳波の先端の飛まつがどのくらい上昇するかは調査では明確にし得なかつたが,三重大学の飯塚教授はところにより100mくらい上昇するようであるとし,この飛まつ生産を重視している。
要するに,伊勢湾は太平洋側で,南西の方向に開口し,水深は比較的浅く,しかもV字型湾の奥は低地帯である。また,熊野灘の沿岸地帯にも同様な条件の小湾が多い。しかも,これら地域の西側を接近してまれに見る猛台風が最低潮位よりも満潮期に近い時刻に通過した。さらに台風の通過速度が波頭の速度と大体同じであつたことなどがかなりの高潮とその被害を起こした原因と考えられている。
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3.被害の概要1)2)18)26)
伊勢湾台風における災害の特徴は,猛烈な暴風による被害や強雨による被害に加えて,とくに高潮による災害があつたことである。高潮をともなうと台風災害は激じんとなるのが通例とされている。関東大震災にも匹敵する大災害とまでいわれる有力な原因は高潮被害,とくに高潮による人命損失の多大であつたことによる。由来,伊勢湾は有明海,大阪湾,東京湾などとならんで高潮の危険性の最たる湾である。これは前述したような理由による。しかも,災害の中心地たる伊勢湾沿岸地域は紀伊半島という自然の防壁のため,台風の中心が近畿地方か東海地方東部にそれる場合が多く,少なくとも過去に猛台風に直接来襲された例が少ない。最近では昭和28年の台風第13号が割合大きかつたくらいである。このことが伊勢湾沿岸地域の産業とくに工業開発の好条件とさえいわれてきた一因である。したがつて,住民の台風災害に対する観念もおのずから知られよう。きらに一帯は名古屋市をはじめとし,人ロちゆう密である。しかも前述のように高潮の最も高くなる湾奥がもともと干拓,埋め立てで前進してきた土地であり,三河地震以来地盤沈下で問題となつている土地である。これらのことから四日市市から北の沿岸低地帯にとくに高潮による大被害が発生し,今次災害が重大問題となつた主因をつくつた。もちろん,暴風,強雨による被害もじん大であつた。
林業関係でも,豪雨による林地の崩壊,海岸防災林の効果,森林の潮風害の3点を主として重要な問題が発生した。
次に一般的被害と調査した愛知,三重両県下の林業関係被害の概要を述べる。
昭和34年11月5日現在警察庁調べ18)による全国の被害状況は次のようである。死者4,640人,行方不明537人,負傷者35,724人,建物被害では全壊35,125棟,半壊105,371棟,流失4,486棟,床上浸水194,397棟,床下浸水228,317棟,一部破損696,031棟,非住家被害152,972棟,水田被害では流没11,298ha,冠水145,597ha,畑被害では流失埋没6,249ha,冠水32,363ha,道路損壊11,856箇所,橘梁流失4,281箇所,堤防欠壊5,998箇所,山(崖)くずれ7,701箇所,鉄軌道被害674箇所,木材流失468,299m^3,通信施設被害187,745回線,船舶被害では沈没1,145隻,流失1,306隻,破損6,282隻などとなつている。
全般に被害の激じんであつたのは愛知,三重,岐阜の3県で,このほか兵庫,奈良,滋賀,和歌山・京都,鳥取,山梨,長野,静岡の各県も相当の被害を受けている。他の全国各県もなんらかの被害を出している。ことに愛知,三重両県下での人的被害ははなはだしく,前者は死者3,063人,行方不明367人,後者はそれぞれ1,196人,80人といういたましさであつた。
さて,三重県下における林業関係の被害状況を三重県調べの資料26)により見ると,被害総額62.2億円といわれ,そのうち治山関係被害では山地崩壊9,370箇所,25.8億円,治山施設24箇所,1.9千万円,林道被害は785箇所,42,421m,2億円,林産物関係被害では立木の風倒折損1,106千石,26.6億円,素材流失64千石,1.8億円,製材流失11千石,5.4千万円,薪炭原木流失5千石,1.9百万円,木炭流失32,486俵,7.5百万円,薪流失7,570石,2.6百万円,幼木被害5,339千本,7.2千万円,その他竹材,わさび,しいたけなどの被害,林業施設関係被害では木材・木炭の倉庫335棟,2.4千万円,炭がま崩壊1,514基,2.3千万円,製材施設406棟,3.5億円,貯木場6,409坪,1.4千万円,その他流送路,苗畑,わさび田などの被害がかなりあつた。
地域別に見ると,久居,松坂,伊勢各林業事務所管内に林業関係被害はとくに大きく,山地崩壊は久居管内,とくに片麻岩地帯の一志郡美杉村に表層剥離型のもので多く,松坂管内古生層地帯の飯南郡飯高町に地辷型のもので多い。ともに三重県下でも有数の林業地である。伊勢管内は潮風害が主要な被害である。風倒風折は全県下におこつている。
次に愛知県における林業関係の被害状況を愛知県調べの資料1)2)により見ると,被害総額約88億にのぼり,最も大きいのは立木風倒で,三河山間部の美林をはじめ,各地で年間伐採量の約1.9倍にあたる約63万m^3,38億円の被害という(国,県有林ふくむ)。林地崩壊は奥三河地方を中心として467haに及んでいる。すなわち,新生および拡大崩壊地は渓流,山腹をふくめ2,504箇所,5.2億円の多きに達し,主として表層剥離型のようである。また,潮風害は渥美半島,豊橋市および蒲郡市の海岸林で,52.2ha,1千万円という。さらに伊良湖岬の海岸砂地造林施行地は85haにわたつて冠海水の被害を受け,1.7千万円の被害という。
なお,三重県の被害総額は1,793億円,愛知県では3,130億円と見積もられている。
II 海岸防災林の効果
1.三重・愛知両県下の海岸防災林
昭和34年3月31日現在で三重県調べによれば,三重県下海岸の防災保安林は防風林254箇所,206ha,潮害防備林9箇所・6haとなつている。同様にして,愛知県では飛砂防備林6箇所,628ha,防風林5箇所,13ha,潮害防備林34箇所,131haとなつている。このほかに両県とも実質的に防災林的効果をもち,その意義が認識され地元で維持されているが,保安林ではない海岸林が多い。
また両県とも海岸には風致保安林,魚つき保安林,航行目標保安林が多い。たとえば三重県では風致林538箇所,605ha,魚つき林491箇所,823ha,航行目漂林8箇所,6haがある。もつとも風致林は海岸に限らない。いずれにしてもこれらの中には防風,防潮効果の期待できるものが多い。前記の愛知県渥美半島の太平洋岸の土砂流出防備林は波浪の浸食により年々断崖をなして後退する海岸にあるが,これは海岸防風林としての効用も地元できわめて高く評価されている。
三重県の場合,前記防風林,防潮林を所有別面積で見ると,
防風林{国有112ha 市町村有28 共有42 個人有24
防潮林{国有2ha 市町村有1 共有2 個人有1
となつているが,いずれも戦後はその意義が認識され,よく保護されているという。しかし,一方防潮堤,護岸の土木的施設がすすむにつれて伐採され消滅することが多いのは問題である。
樹種はほとんどクロマツである。また,三重県の場合,その90%が80~200年生の老樹林であるといわれる。
2.防潮効果
最近,津浪と塩風の両者に対して保全的効果を示す森林が潮害防備林すなわち防潮林といわれている場合が多いが,本来は対津浪効果を期待する森林が防潮林で,潮風中の塩分補捉作用を持つ森林(林帯),すなわちこの報告でいう塩風に対する防災的効果は防風林の働きの一部というべきであろう。したがつて,ここでは高潮,風浪などによる海水侵入が内陸の社会,産業に対して及ぼす災害を潮害といい,その防除効果をもつ海岸防災林を防潮林ということとしたい。しかしながら,さらに現実を考えると海岸にある林帯は同時に防浪,防風,飛砂防止,風致などの効果を多面的に示す場面がほとんどで,ただ場所によりそのうちの一種の効果に着目され,名称が冠せられているにすぎないからここではすべての海岸防災林が,ここにいう潮害を防除,軽減する効果について考えることとする。
さて,従来高潮に対する海岸防災林の防潮効果を調査した好例はすくないが,地震津波に対しては,昭和8年3月三陸地震における津浪と昭和21年12月南海地震における津浪についてはそれぞれ各方面からの詳細な調査研究がなされ,多数の文献3)14)15)27)31)40)が見られる。これらの文献によれば,海岸防災林の対津浪効果は次の2点にあると認められている。(1)津浪に対して防災林が摩擦抵抗の役割をなし,そのため侵入海水の水勢を減じ,その破壊力を軽減することができる。(2)津波により二次的に生ずる船や流木などの漂流物が侵入海水にのつて内陸に侵入することを阻止し,これらの激突により各種構造物などがこうむる津波被害の倍加を防止することができる。
今回の踏査においても,この2点に関しては一応認められるようである。2~4ヵ月経過後の短時日の調査であるため的確な事実を確認し得なかつたが,次にいくつかの調査事例あげる。
四日市市霞ケ浦海岸は海水浴場であるため,汀線に防潮施設なく砂浜で,これに海水浴場,遊園地の施設が進出している。しかし,これら施設の後方には延長200m,幅10~15mのクロマツ林帯(樹齢80年,樹高15m,胸高直径30~40cm)がある。下木,下草はない。潮位上昇は名古屋港における5.8mに近いものと考えられ,この上に2m前後の風浪が重なつて襲来したものと思われる。このことは漂流物によるクロマツ樹幹の皮はげの高さが3m近くに及んでいることからほぼ推定される。そして海水は300mくらい内陸に侵入したといわれる。ここで海水浴場施設は大半破壊せられ,家屋5戸が全壊した。これらによる流材などの漂流物はほとんど林帯で阻止せられ,後方の民家は床下浸水にとどまつている。すくなくとも漂流物を林帯が阻止したため,後方の民家の被害が軽減され,耕地を荒されずにすんだことは認められよう。また,2~3列のクロマツ(70~80年生,胸高直径40cm,樹高15m)樹帯の後方では浸水程度の被害であつたが,その隣接地で林帯のなくなつたところの後方家屋は半壊あるいは全壊の被害を受けている。他の条件はほぼ同様と思われるが,すでに災害後の整理が終わつていて当時の条件を知り得なかつたので,直ちにいわれるような樹帯の効果があつたかどうか断定できない。隣接する富田浜では林帯を伐採し,高さ6mのコンクリート防潮堤が築設されたが,一部破壊されて後方の家屋は全壊もしくは半壊の被害を生じている。
鈴鹿市長太町海岸では,従前かなりの幅のクロマツ林帯があつたが,一部は戦時中に開こんのため伐採され,また前記台風第13号後防潮堤築設のため伐採された。しかも残存林帯の前方に漁業用作業小屋,人家が進出した。残存林帯の幅は広いところで40~50m,せまいところは5mくらいのクロマツ林帯(80年生,胸高直径30cm,樹高12m)で,これが断続しており,下木草はない。ここでは前述の霞ケ浦より幾分潮位上昇は低いと見られるが,風浪は同様と考えられる。林帯前の家屋は,防潮堤(高さ3m,コンクリート)の破堤地域はもちろん,越水地域でも破壊流失し,疎開林内の家屋も被害じん大であつたようである。しかし林帯のととのつたところでは,後方の人家,耕地の被害は軽微であつた。破堤地域でも堤防の内陸側に林帯の残つているところでは家屋の流失全壊などの被害はほとんど受けていない。樹幹に見られる傷から前方での家屋破壊による流材,または舟などの漂流物の衝突のはげしさが想像された。越堤した海水の浸食によつて根元を掘られ倒伏したクロマツも見られた。ここでも林帯前に進出した家屋は当然風浪によつて激しくたたかれたため破壊されたことは想像にかたくない。林帯後方の家屋は,林帯で風浪の勢力が一挙に減衰されて保護されたこと前述のとおりである。防潮堤が破壊され,林帯もないところの家屋の被害は当然であろう。
鈴鹿市若松海岸では,明治年間に築設された伊坂堤防に植えられたクロマツ林帯の一部が残つている。すなわち,4.5m幅の道路を兼ねた,高さ6mの護岸工の後方に幅10~15m,数列の樹帯(胸高直径20~30cm,樹高12m)があり,その後方は耕地である。樹帯によつて耕地が保護されたというが.この程度の幅で,しかも枝下高の高い樹型では効果の程度は低かろう。ただ,護岸による跳波のはげしさは想像され,跳波の飛まつの耕地への落下をかなり阻止したといわれる。
鈴鹿市千世崎海岸は,高さ3mの階段状コンクリート防潮堤の後方30mに幅30~50mのクロマツ林帯(70~80年生,樹高15m,胸高直径30cm)が延長2㎞にわたつて整備されており,この後方の部落,耕地はほとんど完全に防護されたといわれる。林帯の直後で,30cmくらい高くした基礎の上の民家では急速に浸水位が林帯で低下して,床下浸水被害もなかつたという。しかし断定はできなかろう。
北牟婁郡長島町古里海岸は,約600mの奥行の浅い湾内の弧状海岸で,部落は海岸に接している。かなり幅の広い防潮林があつたが,戦時中防潮堤工事で大部分が伐採された。しかも土地所有者への補償問題などから堤防は無理な曲線と位置で,練石積で築設されている。すなわち,東半分は林帯のかなり前方にパラペットもなく,低く(3m),西半分は林帯の後方で部落に近く,パラペット付で,東半分より1m高くなつている。東側の林帯は2~6列のクロマツ(80~100年生,胸高直径20~40cm,樹高15m)で,西側の堤外地には同様なクロマツが30本くらい立つている。調査で数量的な資料は得られなかつたが,波高は大体6~10mに達したといわれる。前述のように,この海岸の沖にある丸山島は最盛時に波がかぶさり見えなくなつたといわれるくらいであるから,いずれにしても,高潮,風浪,跳波の激しさは想像に難くない。
東半分の防潮堤の半ばは上部半分が欠壊している。西半分は欠壊していない。湾の形から見て,かえつて西半分の方が,前述した“みお”の延長線上にあるように推定される。もつとも汀線からの距離は東半分の方がわずかに短い。ともかく他の条件が全く同一と思われないから完全な比較はできないとしても西半分の堤前の林帯の効果も無視できないと考えられている。ことに前述のように風浪のはげしさが破壊力の主因と思われるときはしかりであろう。東半分についても林帯が整備されていたならば後方部落,農地の被害はさらに軽減されていたものと考えられる。この貧弱な林帯でも堤防決壊による間知石の移動は大部分林帯付近でとまつたようである。なお,海水の内陸への侵入は300mに及び,3日間冠水したという。家屋の流出1戸,半壊9戸をだしている。
熊野市新鹿町海岸は奥行のきわめて浅い湾内の弧状海岸で,里川を中心として東西に2分されるが,いずれも昭和28年台風第13号後,高さ5mの防潮堤が築設された。東側の一部には幅約5mのクロマツ樹林(胸高直径30~40cm,樹高15m,60~80年生)が約50mあるが,他は樹帯なく,防潮堤に接していた家屋4戸が波浪により全壊している。この付近に点在するクロマツ弧立木を連絡して推定すれば,この林帯は従前かなりの大きさのものであつたようで,この林帯を大部分伐採して(防潮堤築設にともない),住居が防潮堤近くまで進出し,この災にあつたものとか考えられる。樹幹のきずから波高7m,跳波の高さは15mにおよんだと推定される。
西側にも古くは幅50mくらいのかなり整つたクロマツ林帯があつたといわれる。その中に低い土堤防があり,この土堤防の海側にあたる林帯中には幅20mくらいのメダケの叢生があつたようであるが,過去において台風被害や戦時伐採により全くなくなり,現在の高さ約7mの防潮堤が築設された(写真13)。堤内地では越波により家屋8戸全壊と,かなりの浸海水被害をだしている。堤防そのものは破壊されていない。町当局ではここでも堤外地に防災林造成を意図されているようであるが,地下塩水のため植栽に問題があろう。
北牟婁郡海山町小山海岸は南向きに開口した湾奥の弧状海岸で,その西半分には低い土堤防があり,その内外に樹高15m,胸高直径20~40cm,70年生のクロマツ林帯がある。堤内地では幅15m,外地では2~3列の樹帯となつている。ここでの波高などは明らかでないが,隣接する尾鷲湾では潮位上昇1.95mというから,これに近いものであつたと思われる。もつとも湾の形により極端にちがう場合もあるので断定はできない。土堤防の高さ2m,堤冠2.5m,堤敷6mくらいで砂礫まじりの土を盛つたものである。表面は雑草がしげつている。波は越堤しているが堤防はほとんど破壊されていない。クロマツの倒伏もほとんどなかつたようであるが一部に根の洗い出されたものが見られた。ただ,内陸から海岸に出る道路がこの堤防と林帯を直角にきつているため,ここからの海水の侵入がことに激しく,内陸における浸海水被害の主要な因となつている。
七里御浜海岸,すなわち熊野市有馬町羽市木から熊野川口に至る,幅50~120mの砂浜をもつ直線海岸には延長20kmにわたつて平均幅50m(40~130m)のクロマツ防風林がある。大体100年生で一部に30~50年生あるいは更新のための幼齢林分がある。樹高20m,胸高直径30~60cm,最大100cmである。このうち羽市木から南地部落に至る間は民有林,他はすべて国有林で,国有林の面積は111haという。
この民有防風林の幅は広いところで50m,一部に5~6mのせまいところがある。戦前は整つていた林帯も風折などでしだいに減少し,そのあとへ民家が進出したものである。そしてこの民有林の部分だけ戦時中に防潮堤が築設された。しかし,砂礫をまじえた波浪が越堤し,堤内地で家屋倒壊の被害を出している。破堤はしていないが,このような被害は出ている。同じように南牟婁郡御浜町阿田和部落は林帯を伐開して海岸に漁家が進出し,部落の一部に相当の潮害を出している。国有防風林の地域では林帯は大体において整つており,防潮堤はないが,大した潮害を出していない。このことは一応林帯と潮害の関係を示すものと考えられる。もちろん,外海に直面する直線海岸であるから,どこも海側の条件はほぼ等しいが,内陸側には地形的に相違があるから局部的には異論があろう。
七里御浜防風林のうち,熊野川口に隣接する南牟婁郡鵜殿村と紀宝町井田海岸の林帯前面には熊野川上流から海に流出してきた流れ木約6,000石が幅約100m,延長約4kmの砂浜にわたつて漂着した。この海岸では台風,豪雨ごとに流れ木が漂着するといわれるが,もし,ここに林帯がなければこれらのおびただしい流れ木はところにより内陸に流れこんで家屋などの被害を増大するものと考えられる。
以上各海岸のほか,三重大学農学部の飯塚教授,三重県庁林務課の調査によれば,鈴鹿市鼓ケ浦海岸でも海岸林帯の防潮効果が認められたという。すなわち,海水浴場で汀線に防潮堤なく,砂浜の奥に高さ約2mの土堤防を中心として海側に胸高直径70~100cm,堤防上および内陸側にも同様20~40cmのクロマツ林帯が平均幅10mで存在するため,波浪は越堤し,あるいは一部で破堤したにもかかわらず越水の勢力は減殺されて堤防より内陸にある海水浴場施設,民家はほとんど重大な潮害を受けなかつたという。もつとも適正な比較事実がないようであるから断定はできない。
以上、概括的な聞き取り調査から,適確ではないが,最初に述べた2項の効果は整備された林帯でも,ときには1列程度の並木でも認められるものと考えるが,地震津浪と異なり,(1)項の効果に関してはとくに高潮そのものによる侵入海永の勢力減殺ということももちろんであるが,風津浪に特有の風浪,跳波の勢力を一挙に減殺する効果に注目すべきであろう。高潮による海水の内睦への侵入を絶対に阻止するためには,適確な上昇潮位の予想とこれによる完全な防潮堤の築設以外にはない。林帯では当然のことながら海水侵入を阻止することはできず,その侵入勢力を減殺するにとどまる。しかし,防潮堤でいつも完全に津浪による海水侵入を阻止しようとすることはむずかしい。津浪の高さの予想がきわめて困難であり,かりに予想し得ても前述のように異常な高さとなる可能性のある津浪や風浪に常に対抗する高さを保持しようとすることは経費の点からも,海岸線の経済的利用の点からもきわめて困難な場合が多い。また,破堤の危険も完全に除くことはできない。かりに万全の設計,施工をしても年とともに堤の強度低下は免れない。さらに防潮堤はかえつて激しい跳波を起こす。このことは今回各地で破堤,海水の越堤侵入,風浪や跳波の強風によるたたきつけによる海岸線の家屋の被害がはなはだ多かつたことから明らかである。この予想外な高さに達する風浪と跳波のたたきつけに対して林帯はかなりの災害軽減効果を示すものと考えられる。前述のように周期の短い風浪は,その幅と高さと弾力性をもつ林帯によつて一挙に勢力を消耗させることができ,また,想像を絶する高さにのぼる跳波による水塊と飛まつが強風によつて内陸にたたきつけられ,あるいは吹きこまれるのを防ぐには十分な幅をもつた林帯に依存する以外にない。また,ときに風浪や跳波にふくまれる石礫も大部分林帯によつて捕捉することが考え得られ,これらのことによつて内陸の家屋,農耕地,海岸道路などは保護されるこというをまたない。
以上,林帯の防潮効果を定性的に認めることには問題ないと思われるが,定量的に侵入海水の勢力減殺を調べることは非常に困難であり,したがつてこのような調査研究の事例はほとんどなく,今後の研究にまつほかはない。
3.防風効果
台風襲来時における防風林(垣)の防風効果については,暴風による林帯の破壊を招かない限りでは,一般にその効果は大きいと認められている。しかしながら,効果の程度についての量的調査結果は,常風に対する効果事例に比べて,発表されたものがまことに少ない。そのおもなものをあげれば,次のとおりである。
大分県東国東郡地方で昭和26年10月のルース台風の際に調査された結果によると,同地方海岸林(主林木クロマツ)をその構成によつて良・中・不良に大別し,防風林保護区域内(林縁から300m以内のところ)・保護区域外(1km以上のところ)および無保護区(防風林がなくて海岸から300m以内のところ)の中で,水稲の倒伏しなかつた箇所計21箇所で調べたモミの脱落状況は,良防風林の保護区域内の反あたり脱落量を100とした場合に,保護区域内100~240・保護区域外470~590・無保護区740であつて,防風効果が明りように現われていた34)。また,この台風の場合に鹿児島湾重富海岸の林帯は,その直後の水稲の倒伏防止に効果を発揮した4)。
昭和29年9月の台風第12号の際に,宮崎市の平坦水田地帯で測定した結果によると,高さ2mのキンチク垣(密閉度30%)の風下側地上1mの風速は,原風速(最大17.1m/s)を100とした場合に,風下2h(hは垣高)で最小値67を示し,5hで74,8hでは98であつた12)。
昭和30年9月の台風第29号の際に,鹿児島県下の畑地にある高さ1.8m・高さ15mのカンシヨヅル防風垣の風下側地上1mの風速は,原風速(最大17.6m/s)を100とした場合,風下3h(hは垣高)で41,5hで42,10hで52,12hで92であつた。この場合に,風速比率50以下,陸稲倒伏株数で10%以上の差のあつた区域は,垣の風下7hまでであつた16)。
昭和31年9月の台風第12号の際に,鹿児島県下の陸稲畑にある亜熱帯飼料作物ネーピアグラスとグラガの混植垣(高さ1.8m,密閉度は地上1mまで80%それ以上は90~100%)の付近で,自然風速の最大が15.0m/sであつた場合に,地上1mの風速減少効果は風下16~17h(hは垣高)まで認められ,風速半減範囲は7~8hまでであつた17)。
森林の防風作用と風速との関係については,風速が10m/s以上になると効果が減ると認めた例もあるが36),このよう風速の場合の測定結果が少ないので,まだ定説とはなつていない。台風時などの暴風の場合は,樹体の変形が林帯の風に対する抵抗を低下し,また樹体の動揺が風下側の風の乱れを増加する方向に作用するものとみられるので,防風林の効果範囲は狭くなると考えられる。しかし,この場合の林帯付近の風速の水平分布がどのような形になるかは,現在のところ不明確である。
今回の伊勢湾台風の場合についても,防風効果の量的調査はほとんど行なわれていないが,三重県熊野市—和歌山県新宮市の間の七里御浜(熊野浦)にある国有防風保安林については,顕著な効果事例が知られている。新宮営林署所管のこの海岸防風林は,延長13.55km,面積111ha,100年生以上のクロマツ林を主体とし,一部には海側に30~50年生クロマツ林分を伴つて複層林型となつている。この林帯は平均樹高約20m,胸高直径平均約40cm(最大100cm),平均幅50m前後である。その内陸側には,40m前後の幅に昭和24年植栽のクロマツ造林地(樹高3~4m)が接続している区域が多い。南牟婁郡御浜町志原地区は,この林帯の北半部内陸側にあつて柑橘類を主とする果樹栽培地帯である。汀線から30~40mの平坦な砂地を経て上記の約50m幅のクロマツ老齢林帯となり,その内陸側に果樹園が広がつている。海岸林からの距離とミカン類の被害との関係は,この地区にある三重県立農業試験場紀南分場の調査によると,この林帯の風下5h(hは樹高)までは全く被害がなく,5hを越えると落葉・落果がはじまり,8~10hでは相当の落葉・落果を生じ,10h以上では樹体が倒伏したり,樹齢によつては潮風害で枯死する被害となつた。また,モモは潮風に最も弱い果樹であるが,防風林の効果範囲内にあつたため,全く被害がなかつた。結局,この地区の約100haのミカン・モモ園のうちで約30%が防風林で保護されたという。この地域では,台風直後に約20mmの降雨があつたため,内陸奥への被害は純粋の暴風害とみられているが,風害地域は内陸3.5~4kmに及んでいて,海岸線に並行して走る海抜200m前後の丘陵地帯の風上斜面で終わつている。
農作物に対する防風林の効果範囲は,被害発生の限界風速(作物の種類および同じ作物でも生育段階に応じて変化する)によつて左右されるものであるから,一般作物に対する台風時の防風効果範囲をこの例のみから推定することはできないが,この調査結果は問題解明上貴重な資料を提供するものといえるであろう。
また海岸林が海風の中の塩分を捕捉・ろ過する作用は,常風の場合にはかなり顕著であるが5)6)11)20)21)44),雨量の少ない風台風の場合には,空中塩分の絶対値が垂直的にも極端に大きくなるため,このろ過作用の効果も風下側の狭い範囲に限定されることは,台風による従来の潮風害の例からも十分に察知される。伊勢湾台風の場合も,潮風被害の実態からみてその例外ではありえなかつた。
以上,農作物に対する防風効果のほか,林帯の風下側の建築物などに対する防風効果が各地で認められた。愛知県渥美半島の遠州灘沿岸の渥美町,赤羽根町などは温室園芸地帯で,たとえば赤羽根町では30,000坪の温室があり,町農業生産額の約60%を占める重要産業であるが,今回の台風によりじん大な被害をこうむつた。すなわち,倒壊したもの114棟,ガラス100枚以上を破損したものは全棟数の約65%にのぼつているといわれる。
これらの被害は海岸林帯(主林木クロマツ,幅10~50m)の欠除した風下地域に集中しており,ことに林帯の風上側に進出したものは徹底的被害を受けたという。これに反して整つた林帯の風下では被害はきわめて軽微であつたといわれる。したがつて,この地域では林帯の防風効果に対する評価はきわめて高く,今後高価な農地を買収して欠除した林帯の補強を行なう計画があるようである。
そのほか,一般家屋で林帯風下側のものが暴風被害から守られた事例は踏査地域の至るところで聞かれた。これらも十分な客観的資料をうることはできなかつたが,定性的には十分認め得られることであろう。
III 森林の被害
1.潮害
海岸防災林は台風などの災害時に大きな効果を発揮するが,ときによつては防災林自体が高潮や津波によつて潮害を受けることもある。この場合の被害形態は,波浪の力による森林の破壊や長時間の海水浸水による林木の枯死などの形となる。
伊勢湾台風の場合にもこの形の被害の現われた海岸林があるので,被害発生の機構とおもな被害箇所の状況について述べることにする。
1)被害の機構
高潮のため塩水が侵入し,しかも長時間にわたつて滞水するときは,根系部は樹冠部における潮風害(後述)の際と同じような塩分の害および呼吸阻害50)等の生理的被害をうけることになる。冠水が深い場合には,幼齢林地では樹冠部も浸つて被害が著しくなるが,冠水が短時間であつても被害地は汀線の近くにあるから,その付着塩分とともに潮風害も強くうけ,地上部,地下部ともに激害をうけることになる。
植物は塩分の濃度がきわめてうすい場合にはかえつて発育が促進されることもあるが,一般に0.1%以上になるとわるい影響があらわれ,0.3~0.5%以上では枯死するようになるといわれ,水稲栽培は0.1%
以下とされている。林木では,伊藤・稲川8)がクロマツおよびアカマツの1年生苗について,海水ならびに食塩を用いて,水耕栽培した実験結果によると,溶液に0.2%ていどのNaClの存在は,クロマツでは稚苗の発育ならびにタネの発芽が促進されたが,それ以上では害があらわれるといい,また,濃度別のNaCl溶液に時間別に浸漬したクロマツとアカマツの1年生苗を床替えして,活着状況をしらべた結果は第5表のようであつた。
なお山田・近沢50)はアカマツとクロマツの根の呼吸におよぼす海水の濃度ならびに温度の影響について実験を行い,クロマツはアカマツより根の呼吸阻害の影響が大きいようであるとのべている。
また,高潮は機械的な被害をともない,波浪による根もとの洗掘のため根返りや傾斜をおこし,漂流物の衝突によつて壮齢以上の林では樹幹剥皮がみられ,幼齢林地では漂流物の堆積のため被圧させるものもある。潮風による被害は多くは樹冠または枝葉の部分的被害にとどまるが,冠塩水地帯では1個体における被害が著しく,ことに幼齢林地では枯死にいたるものも少なくないので,浸水地域のくぼ地では群状枯死もみられ,部分的には被害が激じんとなる。
2)被害状況
三重県下では県南部と伊勢湾西岸の海岸林に被害が発生したが,調査した箇所の被害状況は次のとおりである。
熊野市から南南西に和歌山県新宮市につづく七里御浜(熊野浦)の平坦な海岸に沿つて成立している延長13.55kmの国有保安林のうち,その中央からやや北寄りにある南牟婁郡御浜町向井地海岸の林分(市木松原国有林80林班ほ小班)は,幅が20m以下できわめて狭くなつている。林木は胸高直径30~60cm,平均樹高20m,100年生以上のクロマツ老齢木である。内陸側には約50m幅に昭和24年植栽のクロマツ造林地(樹高3~4m)がつづいているが,部分的にこれを欠いて畑地となつているところがある。この箇所の林分は3~4列のクロマツ老木が残存しているにすぎない。そのため林帯の内陸側林縁に接してつづく夏ミカン園の台風による落果が,この箇所のみ極端に多いのが目だつほどである。この林の幅の特に狭い箇所を中心として,南北約150mの範囲の海側林縁木は,汀線からの距離は約50mであるが,高潮の波浪によつて根を洗掘されて,細い帯状に根返りした。高潮による根の洗掘については従来から報告があるが4)30),この被害地ではクロマツ倒木の浅く偏平な根部が,高潮のもたらした小礫層(根株跡の穴も平らに埋めつくしている)の上に裸の状態でつき出ていたのは,高潮の波浪の土壌浸食力の強さを示すものと見られた。
この長い海岸林のうちで,高潮のために大きな根返り被害を生じたのはこの箇所のみであることと,同じ林帯の他の地区で第一線老・壮齢クロマツ林分の幅が50m前後あるところでは,ほとんど林木の高潮被害を生じていないことと考えあわせると,海底地形や潮流などの影響もあろうが,この現象は林帯の幅が極端に狭いと高潮による林床の洗掘が激しくなることを示すものと思われた。したがって,潮害防備林の幅には林帯自身の保持上からもある限度があつて,その限度以下の幅の狭いものは,災害時の効果を期待できないものと考えられる。
この点からみて,この国有保安林の内陸側に昭和24年にクロマツを植栽して林帯の更新を計つているのは,まことに機宜をえた処置であって,関係者の努力に敬意を表するものである。
同じ国有保安林帯南部の南牟婁郡紀宝町下場海岸では,幅20m程度の老齢林分(阿田和松原国有林81林班と小班)の海側に接して,昭和29年植栽のクロマツ幼齢造林地が約5mの幅でつづいている。樹高30~50cmであるが,高潮による冠水のため,根は洗掘されずに立つていながら,葉が褐色になつている。被害は汀線に近い列のものほど激しく,死活の境にある程度の被害状態と見られた。
伊勢湾西岸部では一帯に高潮の侵入をうけているが,このうち鈴鹿市の若松海岸および四日市市の富田浜,霞ケ浦等のクロマツ林を実見した。
若松海岸の一帯は,汀線ぞいに防潮堤が構築され,その背後に幅10~15mの壮齢クロマツ林帯があるが,樹冠部に潮風害がみられるほかは著しい被害はなく,わずか一部に傾斜したものや,北浜付近では冠塩水のために植栽幼齢クロマツの枯死したものが多少みられた。
富田浜,霞ケ浦の一帯は,遊園地および海水浴場となつていて,汀線からは内陸になめらかな砂地となり,50~100mのところに幅約10~50m,樹高15m以上の壮・老齢クロマツ林帯がある。防潮堤はなく,高潮は直接侵入したものとおもわれ,林内にある建築物が大惨害をうけているが,この破壊漂流物が,背後にある林木に衝突して,クロマツ樹幹部の高さ1.5~3.0mの範囲に剥皮をうけているところがみられた。しかし被害は樹幹の半面までのようであるから,生育は十分保たれるものとおもわれた。伊勢湾西岸部におけるクロマツ林帯はほとんど壮齢以上であつて,高潮の一時的侵入だけでは,著しい影響はないようで,外観的には潮風害による被害が大きいものとおもわれた。
伊勢湾東側の愛知県下では,知多半島西岸,半田市,武豊市,碧南市,一色町,田原町および渥美町等に高潮害が起こつたといわれるが,今回は渥美半島の先端部を実見した。
伊良湖から小中山に至る海岸砂地には,汀線から100mほど後方に,昭和32年ころから植栽されたクロマツ幼齢林地がつづいている。砂地の前面には高さ1~2mの砂丘が汀線ぞいにつづいているが,砂丘のところどころに20m前後の幅に通路状の切り取り部分があつて,前砂丘としての形が破壊されているため,ここから侵入した高潮により,内陸部の植栽地に1~1.5mの冠塩水がおこり,停滞林は4~5日つづいたといわれる。したがつて砂地のところどころにある低地では,0.5~1.5mに成長したクロマツが,茶褐色に群状枯死するのがみられ,植栽地約300haのうち被害は約85haにおよぶといわれる。
また渥美半島南岸部の堀切海岸では,汀線から50~70mの後方に,樹高3~10m,樹齢20~30年,幅30~50mのクロマツ林がある。この林帯の西南端の高所から一望すると,全林帯が褐色をおび,ことに汀線側が著しく変色しているのがみられた。ことに堀切付近では,200~300mにわたつて林帯前面部の幅20m前後が全く枯死する驚異的な激害地もあつた。この砂浜は汀線までかなりの傾斜があるので,高潮による波浪は林帯まで達しても,停滞水とはならなかつたとおもわれるので,跳波および潮風害も加わつて,被害が激じんをきわめたものとおもわれる。
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2.潮風害
森林の潮風害を便宜的に暴風被害と塩風被害とに大別することにした。ここにいう暴風被害とは,森林が風の機械的な力によつて根返りや幹折れなどの形で破壊されるものとし,また塩風被害とは,林木がおもに海風の中の塩分の作用によつてその組織に生理的な障害を受け,これに風の機械的作用も加わつて樹体の一部ないし全部が枯死するものを意味する。調査を行なつた海岸地域では,これらの被害形態は相互に重複して現われている場合もあつたが,被害の状況から見て,そのほとんど全部が塩風被害の部類にはいるものであつた。
1)暴風被害
伊勢湾台風による森林の暴風被害は,近畿・中部・関東・東北・北海道の各地方にわたつて発生し,国有林関係約690万石,民有林関係も大体同量程度とみられ,立木被害総材積1,400万石をこえる大被害であつた。これは,昭和29年の北海道森林の大風害を別にすれば,本州においては空前の大被害である。
今回調査を行なつた海岸地帯では,森林の暴風害はほとんど発生しておらず,また内陸の暴風被害地は調査する余裕がなかつたので,被害地の状況等については知ることができなかつた。したがつて,ここでは三重・愛知両県下の被害について,関係当局の調査結果を紹介して,じん大な被害の概況を察知するための一助とするにとどめることにした。
2)塩風被害
i.海風の中の塩分量
海水の飛まつは,大体は直径数10μ程度以下の微細な水滴の状態で風に乗り,内陸へ運ばれながらしだいに水分を失なつて塩分結晶の形となつてゆく。このため,海岸地帯で海から内陸に向かつて吹く風の中には,常時塩分が含まれていて,しだいに落下しながら内陸へ吹き送られるので,海岸から内陸数kmまでは明確にこれを検出することができる。
海風の中の塩分量測定には,わくに張つたガーゼの面を風向に直角に保持しながら1~2時間風に露出し,その間にガーゼに付着した塩分を蒸留水に浸出させて,その中の塩素量を定量する方法が最も広く行なわれている5)。量的な表示としては,1時間に1m^2のガーゼに付着する量(㎎)に換算するのが普通であるので,以後これを付着塩素量(mg/m^2/h単位)と略称する。最も定量的な方法としては,一定量の空気を蒸留水をくぐらせてポンプで吸引し,水中に移行した塩素量を測定するものがある、この方法によれば,空気中の塩素濃度(空気1m^3中の塩素量で表わすのが普通である)が知られるが,測定結果の発表されたものは少ない。
ガーゼに付着する塩分量は,その面を通過する全塩分量ではないが,風速1m/sでも約90%が付着し,風速が増すほど付着量も増加して,風速2.5m/s以上では通過量の95%以上が付着するものとみられている44)。したがつて,通過塩分量を表わす比較値としては,付着塩素量は実用上十分に意義があるものと認められるので,これによつて空中塩分を表わすことが一般に行なわれている。
海岸地帯の空中塩分量は,風向・風速等の気象条件のほかに海岸の地形,海岸からの距離や地形などによつて大きく影響されるので,測定値は場所によつて,また同じ場所でも測定時期によつて非常に広い範囲に変動している5)6)7)10)11)20)21)25)44)。汀線付近で測定された付着塩素量の例としては,次のようなものがあるが,風速10m/s以上の場合の測定値はきわめて少なく,またその値の変動の範囲がいかに大きいかが知られる。
したがつて,一般に空中塩分が海岸地帯で常時どの程度に存在するかを推定することは困難である。
地図からの高さと塩分量との関係は,海から吹く常風の場合は,地図近くでは大きいが,高さとともにはじめは急激に減少し,次にしだいに緩やかに減る分布を示す。汀線近くではこの変化が特に著しいようである44)。塩分粒子の上昇する高さはきわめて大きく,雨滴の凝結核となるほどであるが,植物に塩害を与える程度の塩分が,常時どのくらいの高さまで上がつているかは明らかではない。
海岸からの距離と地表付近の空中塩分量との関係は,汀線近くで最大を示し,内陸に進むにつれてはじめは急激に減少するが,その後は緩やかに減り最後は非常に緩やかに減少する5)10)44)。地表への落下塩分量の水平分布も空中塩分の場合と全く同じ形であつて,しかも単位表面積に単位時間に落下する塩素量は地上1m付近の付着塩素量と数値的にもほとんど同じ程度である49)。
風速と空中塩分量との関係については,風速の増加につれて単位体積の空気中に含まれる塩分量も増加するものと認められているが,この点についてはあまり明確な測定結果は発表されていない。しかしながら,付着塩素量と風速との関係は明りようであつて,付着量はほぼ風速に比例して増加することが知られている25)44)。その1例として静岡県御前崎測候所で測定された結果を示すと次のとおりである。
この場合,風速が大きくなるとガーゼの風上面に渦流が生まれ,そのために塩分粒子の付着作用は減少するものと推定されているので,もとの空気中の塩分量は風速の増加につれて上表の値よりもさらに急激に増加するものと考えられる。同じ測候所で風向別に付着塩素量を測定した結果によれば,地形の関係で風向Nの場合に付着量が最大となり,その平均値は30.6mg/m^2/hでそのうちでの最大値は57.6(夏)であつて,平均値の約2倍であつた。この関係は,絶対値はこれよりも小さいが,他の風向の場合にもほぼ同様に成立している。
台風の場合の空中塩分量の測定結果はきわめて少なく,わずかに神戸海洋気象台で測定された例があるのみである25)。これによると,台風時の空中塩素濃度として,1,300×10^-5mg/m^3(昭和12年9月)と252×10^-5mg/m^3(昭和15年7月)という値がえられている。同所の昭和16年の測定では,塩素濃度は(560~6,700)×10^-5mg/m^3の範囲に及んでいる。また,雨水の中に含まれる塩素量は,雨量に影響されるところが大きいが,これについても,昭和9年の室戸台風の場合に,同所で平常の雨水の中の平均濃度の100倍以上に達したとみられている23)。これらの測定の行なわれた場所は,海岸から1kmあまり離れた約50mの高台の上にあるが,上の諸結果からみると,台風時の空中塩分濃度は平常時の10倍以上とみられ,この場合は風速も10倍程度になるので,風向に直角な断面を単位時間に通過する空中塩分量は,平常時の100倍程度には増加するものと推定される。
したがつて,外洋に直面している海岸地帯の地表近くでは,雨量の少ない台風の場合には,単位時間に通過する空中塩分量は平常時の数100~1,000倍程度に増加するのではないかと思われる。この場合には,空中塩分は垂直的にも当然大きく増加するので,これが暴風とともに内陸部深くまで侵入して,農作物や林木の塩風害を発生することになるのである。
ii.暴風と降雨の状況
台風などの暴風によつて極度に増加する空中塩分は,雨量の多いときは,空中にあつても,また物体に付着してもすぐに洗い落とされるので,塩風被害はあまり明りようには現われないのが普通である。したがつて,台風に伴う雨の大半が暴風の最盛時以前に降り終わるか,あるいは最盛時以後まで相当の降雨がつづくかは,被害の発生を左右する重要な因子である。
伊勢湾台風の場合についてみると,その関係は次のとおりである29)。
この台風の場合に,10分間平均風速で20m/s以上の暴風の吹きはじめた時刻は,伊勢湾入口の志摩半島東部と渥美半島先端が最も早く26日13時ごろである。この暴風は台風の北上に伴つてしだいに伊勢湾・渥美湾の奥に侵透していつた(第4図)。この地域では,暴風はEまたはESEの風向からはじまり,風速が強まるにつれて風向は時計まわりに回転し,SE~Sの風向の時に最大風速が現われた。各地の最大風速(10分間平均)の分布を見ると(第5図),その出現時刻は三重県南部に早く,しだいに愛知県南部に及んでいるが,風速は志摩半島・渥美半島西部・知多半島では40m/s以上に達し,ことに志摩半島大王岬では最も強く50m/sを観測したとされている。
この地域では最大瞬間風速も大きく,志摩半島東端(大王崎灯台)と渥美半島先端(小中山)では60m/s以上の鷲異的風速を記録した。最大瞬間風速の出現時刻と最大平均風速の出現時刻とは必ずしも一致しないが,この台風では大体30分以内の時刻差で現れたところが多い(第1表)。
10分間平均風速20m/s以上の暴風の継続時間は,最大風速の分布と同様に,吹走時間の長い区域が伊勢湾入ロ付近を中心として湾の奥に広がつている(第4図)。
以上の分布図からみると,この台風では志摩半島・渥美半島西部・知多半島南部の暴風は特に強烈であり,しかもその吹走時間も他の地域に比べて相当に長く,その間にSEを中心とする暴風が外洋から直接に内陸奥へ吹走したことが明らかに認められる。
次に,この台風の場合の降雨状況をみると,台風の襲来以前の前線活動による雨が,23日昼ごろから26日朝まで断続したが,26日午前中は小止みになり,三重県南部では同日昼ごろから台風による強い雨が降りはじめ,降雨域は海岸地帯ではしだいに東に広がつた。台風による雨は,各地とも夜半ごろまでで終わつているが(第7表),海岸地帯では雨量は比較的少なく,特に志摩半島南部と渥美半島では少なかつた模様である(第6図)。
最大風速の出現した時刻ごろまでの雨量は,第7表に示したように場所によつて相当の差があるが,三重県から愛知県へつづく太平洋岸では,その西部で総雨量の50~60%,志摩半島で70%前後,渥美半島では80%以上と推定される。志摩半島から渥美半島にかけては,その後1時間前後の間に残りの雨が降り終わり,さらにその後2~3時間は風速20m/s以上の暴風が吹き荒れたものと認められる。
以上の状況からみると,志摩半島・渥美半島・知多半島各地域には,雨にうすめられないきわめて多量の塩分がSE~Sの暴風よつて海上から内陸深くまでもたらされたことは明らかであつて,これが今回の大潮風害発生の原因となつたわけである。
iii.被害の機構
塩分の植物に対する害作用に関する諸説をみると,まず,
(a)おもに葉および若い枝の気孔や表皮から,組織内に侵入した塩分が,直接化学的作用によつて内部組織を害し,また細胞に原形質分離をおこして,凋萎,枯死をきたすことである。
樹葉に対する塩分の侵入について調べた倉内の実験22)によると,Cl'があまり葉内にはいらず,表面についたままでいる付着型と,葉内に侵入しやすい侵入型とに区別される。また葉の上半または下半を実験的に海水につけ,これをガラス鐘内に入れて10mmHgに30分間減圧し,あと水道水で洗つてびんにさしておく(BOYCE 1954)と,侵入型は常圧にもどすと同時に浸水部に海水が侵入して,濃緑色半透明となり,上下いずれの側へ浸海水しても,葉の先端,上部周辺,上部葉脈間に黒色または褐色の変化があらわれ,枯死してくる。被害が枝葉の先端部や周縁部に著しいのは,この作用によるのも一因で,BOYCEのいうようにCl'が葉の上記部分に移動して,ある濃度にいたると害をあらわすものと考えられ,付着型の葉では全く侵水がみられず,1週間以上も緑色を保つていることをのべている。また葉の表面をサソドペーパーでこすつて傷つけるか,葉の中央に傷をつけて,海水をsprayすると,その部分が変色し,しだいにいたみが広がるのがみられ,機械的な損傷部分からは,塩分の侵入が促進され,傷害が広がることがしられる。また小林が風力の機械的作用によつて枝葉に生ずる傷についてしらべた実験によると19),スギの3年生苗木を人工的に乱れを大きくした風洞の風にあてたところ,肉眼的に見られる傷を生じたが,この傷は擦過傷ではなくて,針葉の先端がぶつかつて孔をあけた刺孔傷であつた。この孔傷は苗木全体に平均して分布することはなく,何箇所かに固まつて生じ(枝のぶつかるところが大体きまつていたのであろう),風速5m/s,10m/sでは傷の数は少なくて枝先の柔らかい部分にかぎられ,15m/s以上では枝の基部のほうまででき,特に20m/s,25m/sでは幹の部分にも刺孔傷を生じその数も多く,新梢では針葉上の孔傷が融合して深いみぞができて,ついに萎縮して枯れる。さらにスンプ法によつて観察すると,大きい刺孔傷のほかに浅い小さい傷が見られ,この傷も刺孔傷の見られる部分あるいはその近くに現われ,刺孔傷のない部分にはほとんど見られないので,やはり風をあてた時に針葉がふれてできたものと考えられている。この結果からみても,強い塩風が吹いた後には,野外の林木の枝葉にも当然このような損傷部分が生じ,それが塩分の侵入を促進して,塩風被害を拡大するものとみてよいであろう。
伊藤・稲川3)は,クロマツの耐塩性を調べ,海水およびNaCl水溶液に,濃度別,時間別に苗木を浸漬した実験などによつて,稚苗はNaClとの間の浸透圧によつて,はじめ奪水され,ついで細胞内浸透による吸水のため水分増加をきたし,活着型のものはさらに漸次増加するが,枯死型のものはふたたび吸水が衰えて水分が減少し,凋萎,枯死をきたすことを調べ,塩害を起こす原因の1つは,奪水による水分の不足,すなわち生理的乾燥によるものと考えられるとしている。
ところで,樹葉に付着する塩分量,または葉内に侵入した塩分量については,門田11)は,神奈川県鵠沼海岸において,風速6m/s以下のときに,汀線から約80~90mのところに生立する弧立木状のクロマツの,海側樹冠表面における針葉の付着塩素濃度は,生重量1gあたり0.01~0.05mgであつたとしており,熊谷21)は昭和29年9月の台風第15号が通過した7日あとで(この間無降雨),福岡県粕尾郡雁巣の北側海岸で,汀線からの距離70m,地上高1.5mの直立したクロマツの枝に着生した葉のとらえた塩素量をしらべ,変色した葉(a)では平均0.157mg/cm,変色しない葉(b)では平均0.0338mg/cmであつた。また昭和30年10月4日の台風第23号が九州東方を北上してから11日後(この間無降雨),同じ場所でしらべたところ,(a)では0.103mg/cm,(b)では0.0383mg/cm,汀線から500mのところでは(a)は0.124mg/cm,(b)は0.0224mg/cmであつた。これらの測定結果から,強風後に変色した針葉に付着した塩素量は,平均0.1mg/cmをこえることが認められたとしている。
倉内22)は,常時外洋の中程度の強さの塩風をうけている健全な葉(8月中旬に採葉)と,1955年の台風第26号のとき,割合よわい塩風をうけたときの健全葉について,内部のCl'量を第8表のようにしらべ,また台風時に強い塩風をうけて葉面のほとんどが枯死したもの(全面枯死)と,先端,周辺など葉面積の1/2見当が枯れたものとについて,内部のCl'量をしらべて,第9表のような値を測定している。
これによると付着型の常緑樹のものでも,相当量のCl'がはいつているが,侵入型では一層多く,中程度の塩風で,付着型のものが5mg/sq.dm前後にたいし,侵入型の葉には10~15mg/sq.dmもはいつて枯死してしまう。これによつて葉の枯死するCl'量の大体の見当がつけられるが,耐塩性は,塩分が葉内にはいりにくいか,はいりやすいかでまずきまり,次に塩分がはいつても,これに対して強い抵抗性をもつか否かで決定されるとしている。
(b)葉面に塩分の結晶ができて気孔をふさぎ,呼吸作用を妨げる。
今回の調査地でも,志摩半島地帯の海岸近くでは,台風後に林内を歩いたときには,衣服が塩分で白くなつたといわれ,植物体に塩分の結晶がかなりの期間付着していたことがうかがわれる。しかし潮風害の広い地域を全般的にみれば,呼吸阻害による影響がどの程度まで被害現象として現われているものであるかは明りような資料がない。むしろ付着塩分が潮解することによつて,前項のような塩分害をおよぼしていることが考えられ,さらに塩分が漸次地表に達し,表層ちかくの根系や土壌微生物にも悪い影響が及ぶことも推察しうることである。
松平24)は,付着した塩分は湿度70%以上だと潮解して液体となり,以下だと結晶となるといい,関谷39)は,ケヤキの塩風害の調査および従来の記録等より,風速18m/s以上,雨量5~30mmのとき害が発生しやすいという。
倉内22)は,Cl'が葉内に侵入するためには,溶液状となることを要し,害を与えるためにはある濃度を要するとしている。また1954年の台風第15号のとき40mmの降雨がヤブニクケイ,タブ,マサキにつくCl'の80~90%を洗い流すことをみ,また1955年の台風第22号のとき,元宇品町の海岸で,南または南南西の風に面したところで,常緑樹がV字型いたみや全面枯死を示していたが,広島地方気象台の報告(1955)によれば,この風向のときは20m/s内外の風であり,雨量はほとんどなかつた。1953年の台風第13号のときは,海岸から10~12kmの内陸でも,常緑樹が害をうけたが,このときも雨の少ない風が吹いた。潮風害には,ある濃度以上のCl'液が必要であることがわかるとしている。
(c)以上のほか,直接塩分の害ではないが,台風時の激しい空気の動揺のため蒸散作用が促進され42),凋萎,乾燥をきたして枯死に至るとみるものもある。
台風の際の異常な強風,乾燥その他の気象条件,機械的傷害,あるいは台風通過後の強烈な日射等があいまつて,樹体の水分需給のアンバランスが促進されて乾燥害をきたすことが考えられる。しかし,潮風被害は海岸に近い地域ほど激害がみられ,塩分の検出結果や,塩分による実験等によつても,多くの説は強風による乾燥作用よりは,秦内にはいつたCl'が主要な因子であるとしている。たとえば倉内22)は,樹葉をデシケータ内に放置して乾燥死させても,潮風害のときのいたみ方をあらわさず,また同じ枝の1側枝を乾燥剤を入れてつつみ,1側枝に海水をsprayして包んでおくと,sprayした枝の葉はいたみの様子がでるが,他は生気を保つていることを実験しており,その報告のなかで,BOYCE(1954)もフィールドおよび室内で塩分と植物の関係を詳細にしらべ,細胞壁に乾燥の特徴であるfine invaginationがみられないから,風による単なる乾燥死でないとのべているとしている。
すなわち,潮風害は潮風によつてもたらされる塩分が主要な因子であるとみられ,乾燥等の諸作用は,この塩分害を一層促進するものとみられる。
なお,調査地のところどころにおける土壌中の塩分含有量をしらべた結果は第10表(1)のようであつた。台風後すでに2~4カ月以上経過し,降雨もたびたびあつたあとであるから,塩分の大部分は流去しているものと思われる。この表における砂地の塩分は,平常における塩分量とあまり変わらないものとみられ,被害時の土壌中の塩分量をしることはできない。ただ冠塩水したところで,滞水機間の長かつたところでは,含有量の多いことがうかがわれ,また内陸部の激害地でもかなり多い。粘土を多く含む土壌では砂土より塩分の流出がおそいため,本表における数値では多く現われたものとみらる。なお,南島町,浜島町におけるスギ,ヒノキ等内陸部の林地の測定値は,普通の林地にはみられない量であるから,被害発生当時の塩分降下量がきわめて多いものであつたことがうかがわれる。
いずれにしても,塩分の流去は早いものとみられるから,土壌ならび植物体における塩分量等については,台風後降雨などによつて影響をうけないうちに,すみやかに試料をとることが必要である。
また調査地で採取し樹葉等について,塩素量を調べた結果は第10表(2)のようである。概して汀線に近いところでは検出量が多く,ことに枯死葉の塩分が多いようにみられ,内陸部の激害地では,生葉にもかなり多く含まれているようであるが,被害当時からすでにかなりの時日を経過しているので,この資料による測定結果から,被害じの植物体における塩分について推察を行なうこと無理である。
汀線から1~2km以上はなれた内陸部の林木では,被害葉に含まれた塩分は,すでに大部分消失しているものとみられ,常時の海風による塩分の影響もほとんどうけないので,検出塩素量は少なかつたものとみられる。また,生葉における塩分は,汀線付近における生葉の場合と考え合わせると,土壌あるいは樹体の他の部分から生理的にもたらされたものではないかとおもわれる。
汀線に近いところの林木では。枯死葉における塩素量が多い傾向がみられるが,葉面に付着した塩分は,枯死した葉では,葉の内部まで比較的容易に侵入しやすいのではないかとみられ,採取時までにおける海風による付着塩素量の影響も含まれているようにおもわれる。
いずれにしても,この資料からは生葉と枯死葉の比較や,被害時の塩素量の吟味をすることは無理で,やはり被害後に諸影響をうけていない,早期に採取した試料をうることが必要である。
iv.被害発生範囲と被害量
三重県においては,森林の塩風被害は昭和28年台風第13号によるものが大きかつたが,伊勢湾台風による被害はこれをはるかに越えるため空前の大被害といわれるほどであつて,被害は外洋に面した県南部の森林に発生した。この地域でも南西部(熊野林業事務所管内)は微害であつたが,尾鷲市から東へ志摩半島鳥羽市に至る海岸地帯(尾鷲および伊勢林業事務所管内)の被害は著しく,志摩半島には大被害地が現われた。この地帯では,被害は一般に海岸沿いが激しく,内陸にはいるにしたがつて減少しているが,地形によつては10kmまたはそれ以上の奥地まで微害地が現われている。鳥羽市では,この地区で雨量が局地的に多かつたためか,菅島・神島・答志島などが激害を受けたほかは,内陸部の被害は比較的少なかつた。被害最奥地のひとつである伊勢神宮の内宮・外宮神域地区は,暴風の風向の向きに海岸から約20kmの奥地にあるが,ここでも針葉樹・広葉樹ともに立木の樹冠の風衝面が被害で変色した。
愛知県においては,外洋および伊勢湾・渥美湾に面した沿海地帯に被害が現われ,その範囲は春日井市・豊田市・安城市・新城市を結ぶ線に及んでいる。その最奥地は海岸線から約20kmの距離に達している。
関係当局の調査による塩風被害量は第11表のとおりである。なお,愛知県下では,塩風被害地のほかに,被害状況からみて高潮と塩風の両被害が重複しているため,両被害を分離して集計するのは困難な被害地もあるので,両者をあわせて表示することにした。また,これらの表には第6表に示した暴風被害は含まれていない。
v.被害状況
被害の実態については,三重県下で伊勢林業事務所管内の主要被害地の一部と伊勢湾西岸部について概況を調査したほかは,愛知県下で渥美半島の一部被害地を調査したのにすぎなかつた。広大な被害地域にしたものである。
対して調査箇所はきわめて少ないが,その状況は次のとおりである。
三重県伊勢林業事務所管内の被害は,同事務所の調査によると大体は第7図に示すように現われている。実見したおもな被害地の状況を以下に述べて,簡単な考察を加えることにする。
南島町東宮字下小納戸地区では,5年生以下の幼齢林地の被害が面積的に大きかつた。この地区のウツギ谷を南流する沢の上流部では,海岸から2,300mのあたりまでは,屈曲部の沢沿い斜面に飛び飛びに被害地が現われている。これは,沢をさかのぼつた塩風が,地形にしたがつて沢の屈曲なりに曲りながら北上したため,屈曲部の斜面やそこに突出した斜面などに衝突して被害を与えたためと思われる。林分としての被害はヒノキ・スギの壮齢林で,大体はSE向き斜面に立つものである。被害の軽いものは風上側樹冠だけが褐色になつている。沢の中流部にはヒノキ造林地の大面積被害地がある。左岸W向き斜面上であるので塩風が横風となつたためか,斜面上のきわめて浅いくぼみの中の植栽木は,まだ多少は緑が残つているが,ほかは全面的に褐色になつている。樹木が小さければ,微細な地形も被害の発生に影響することが知られる。ただ,斜面上部の尾根近くに帯状に植栽されているマツは,被害を免れて緑色を保つている。下流の沢部にはスギとヒノキの幼齢小林分があつて,樹高3m前後の2林分が下流から上流へ約10mの間隔で並んでいるが,いずれも風上側林縁木の樹冠の褐色化が著しい。しかし林内にはいるにつれて被害は少なくなり,最後は梢頭の被害だけで終わつている。その下流部のスギ幼齢林(樹高3m前後)は,海岸から約800mの距離にあるが,林木の全樹冠が褐色になり,梢頭と枝端部は灰白色に近い色に変わつているほどの激害で,回復不能と見られた。付近のヒノキ幼齢林も同様の状況であつた。さらに下流部では,林木は斜面凹地の中のスギ壮齢林も風上側樹冠は褐色になつており,また尾根の上のアカマツも多少は被害を受けている。タケは中流部以上では被害を見なかつたが,この付近では全く落葉しているのが見られた。
南島町東宮字小浜地区では,ESEの向きに開いた沢地形の中に小さな尾根がいくつか突き出ているが,その風上側斜面の幼齢クロマツ(6年生ぐらい)は樹冠が完全に褐色になつているのに,小尾根の上から風下側斜面にかけては被害は見られない。その小尾根のひとつの上に立つ樹高約12mのアカマツ孤立木は,汀線から約200mの距離にあるが,樹冠の海側の面だけが褐色になり,特にその下部は落葉しているほどの激害である。これを見ると潮風が斜面を吹きあげたことは明らかであつて,小尾根の頂上部で被害の少ないのは吹きあげ風の影響の現われと見られた。
南島町東宮字石淵の被害地は,WSWの向きに開いた広くて大きな沢地形の中のS向き斜面に大被害が現われている。斜面の向きがEまたはW寄りになると被害はあまり明りようではない。ただし,沢地形の入ロに近い地区では,斜面の向きにかかわらずスギ壮齢林の風上側樹冠は被害を受けて褐色になり,タケも落葉している。約50年生・樹高12m前後・胸高直径21~22㎝のヒノキ林分の大面積被害地は,全体としてはS向き斜面上の広い凹地形の中で,海岸からの距離約1,300m・傾斜約30°のSE面上部からほとんど尾根上までつづき,被害面積約3haである。土壌の浅い岩石地で,風倒方向Nの倒木も多少ある。被害木の相当部分がすでに伐採されていたが,残存木の樹冠は全面が褐色になつている。この地区からSSE方向を望むとよく開けていて,贄湾から吹く暴風が障害物なしに一直線にこの斜面に衝突してこの激害を生じたものと見られた。
浜島町浜島から同町南張に至る海岸地帯では,海沿い斜面で高潮をかぶつたクロマツが,すこし内陸にあつて塩風だけを受けたところのクロマツよりも,葉の褐変の程度が少ないのが見られた。直接に海水をかぶるか短時間浸水の形の場合は,樹体の表面に付着して残る塩分は海水の中の濃度以上にはあまり増加しないとみられるが,塩風を受ける場合は,濃縮された海水滴がつぎつぎに枝葉に付着するので,その単位表面積あたりの付着塩分量は,台風の最盛時直後ころまでには,直接に波をかぶつた場合よりもはるかに多くなるものと思われる。台風通過後もしばらくの間は,空中塩分も非常に多く,特に汀線近くが多いので,汀線付近とその内陸との付着量は平均化されてゆくはずである。しかし,この時には急に風向が変わつてW風となり海へ吹き出す風となつたので,この平均化作用はあまり進行しなかつたのであろう。したがつて,最終の段階での枝葉の単位表面積あたりの塩分残留量は,汀線付近よりもすこし内陸の方が多かつたものとみられ,これが上記のクロマツの被害状況の差となつて現われたものと考えられる。
浜島町南張の激害地は,Wの向きに開いた浅くて広い沢地形の中にある。若い広葉薪炭林分の被害地は海岸から約900mのS向き斜面にあつて全林木が落葉しており,シイが最も被害が大きく,樹高9m前後・胸高直径4~10cmの立木の上部0.5~1mぐらいまでは枯死している。モチは比較的被害が少ないようである。この林分は枯死することはないと見られたが,放置するのと皆伐萠芽させるのとどちらが経済的に有利かが問題である。この点については,現在15年生ぐらいで最も成長良好な樹齢であること,薪の市場価格が低いため伐採しても引き合わないことなどの理由から,伐採しない方が有利と考えられた。この沢地形の中には,18年生・樹高3~5m・胸高直径6cm前後のヒノキ林分の被害地があつて,梢頭から下へ2m(直径3cm)までは枯死しているものもあつて,生存の見込みはないと見られた。また,N向き斜面の浅い凹地の中のヒノキ壮齢林分の被害地もあつて,海岸からの距離は約900mであるが,海抜120mぐらいの平らな尾根を越して吹きおろした潮風による被害と見られた。
志摩町大野のクロマツ激害地は,深谷水道西岸沿いで面積5~6ha,南側は高さ約20mの断崖になつて外洋に接している。35~40年生で樹高4~7mの林木の被害で葉が相当に褐変しているが,特に林地南東部の最前線近くは葉の色も一面に灰白色に変わつていて,枯死は必至と見られた。この実態からみると,高さ20m程度の断崖では塩風被害を免れないことも明らかに知られた。
磯部町五知のヒノキ町有林の激害地は,SSEの向きに流れる五知川をはさんで,左岸の青峰山(336m)のWSW面上部と,右岸斜面中~下部に現われている。林木は37~38年生で樹高10m前後・胸高直径20cm前後であるが,被害面積はそれぞれ約7haであつて,全面的に葉が褐変している。左岸被害地を遠望すると,ひと続きの斜面の上の小地形の差によつて被害が現われ,SW~W向きの斜面は緑であるのに,SE~S向きの斜面は褐色で,その対照はまことに顕著である。右岸被害地は全体としてSSE向き斜面であるが,NWの向きを中心として団状に風倒木の生じているところもあつて,塩風被害と暴風被害とが重なつて現われている。この地域は潮風の風向の向きに測つて海岸から6m以上離れていて,しかも海岸沿いには海抜150~200m級の低い山系が走つているが,SEの風向を中心とする暴風の風速が大きく,その継続時間も特に長かつたので,潮風は海岸沿いの山系の尾根上のいくつかの鞍部を越して侵入したため,このような激害地が現われたものと思われた。
伊勢湾西岸では海岸線にそつて平地がつづき,田畑,人家,工業地帯などとなり,汀線ぞいに防潮堤が構築されるところが多く,その背後には幅10~50mのクロマツ林帯があるのが一般のようである。これらの林帯は汀線にきわめて近いところにあるにもかかわらず,志摩半島,渥美半島などの外洋にでた海岸地帯にくらべれば,全般的に被害が少ないようである。
鈴鹿市の千代崎海岸では,防潮堤の後方30~50mのところに樹高15~18m,直径30~40cm,幅30~50mのよく整備された壮齢クロマツ林帯があるが,ここから南西の海岸線ぞいに約2㎞にわたつて続いている。波浪および跳波は林内まで達したようであるが,風表側の樹冠部に葉枯れ,小枝おれがかなりみられたが,林帯内および風裏側では,被害はごくわずかのようであつた。
南若松,北若松の海岸では,汀線ぎわに堤防が築かれ,その背後に接して樹高12~14m,直径20~30cm,幅約10mのクロマツ林帯がある。樹冠部は直接跳波をうけたものとみられ,葉枯れして着葉密度もうすく,小枝おれや傾斜したものもあり,林帯の幅もないので樹冠部は著しくすいており,千代崎のクロマツ林帯に比べれば被害を強くうけている。しかし林帯の一部にみられた高さ2mくらいの幼齢クロマツは,葉枯れはほとんどみられず緑色を保つていた。
南浜,北浜地区では,汀線ぞいの防潮堤の後方約30mのところに樹高10~12m,直径20~50cm,幅10~40mの壮齢クロマツ林帯がある。波浪による洗掘のため一部に傾斜したものがみられ,枝おれなどもあるが,枯死するほどの被害はないようであつた。下木にはトベラ,ツバキ等があるが,これらには被害はほとんどみられなく,ササ類は全面的に葉枯れしているがすでに新葉が伸びている。
この地帯の海岸を通じてみると,クロマツ林の被害にくらべて,かえつてその内陸部にある人家のまわりのスギ,イヌマキ等の庭木,生垣などでは葉枯れが著しく,樹冠部が全面的に灰茶褐色に変わつているのが少なくなかつた。
伊勢湾東側の愛知県下では,知多,渥美両半島が潮風害をつよくうけ,とくに両半島の突端部の被害がはなはだしいといわれるが,今回はおもに渥美半島の西南端部を調査した。
渥美町一帯で,最も被害の激しかつたのは,伊良湖岬地区および,これから小中山にいたる海岸砂地一帯と,堀切,小潮津海岸等であつた。伊良湖付近一帯の山腹は,外洋からまともにうける激し潮風と跳波によつて,広葉樹は落葉がはなはだしく,クロマツ林も葉枯れ,落葉して樹冠の枝葉の密度が著しくまばらになつており,生育には大きな影響があるものとおもわれた。ことに伊良湖の暖帯樹種原生林は,従来にみられないほどの激害をうけ,全面的に葉枯れ落葉し,幹や枝条は灰白色状に露出しているのが,下方の道路からながめられた。しかし,常緑広葉樹類は萠芽性が強く,伊良湖灯台付近の汀線に接した斜面の潮風害樹林では,全く葉枯れし着葉もまばらな状態のものでも,幹および枝条にはすでに萠芽がかなりみられたので,これらの広葉樹林は激害をうけながらも,回復するものと思われる。
伊良湖から小中山にいたる海岸砂地におけるクロマツ植栽地の高潮害についてはさきに述べたが,この幼齢林地の内陸部には,樹高3~5m,幅約50mのクロマツ林帯があり,その内陸部には入植者の開拓地がある。この開拓地のなかにも,樹高4~5mのクロマツにオオバヤシヤブシを一部に混植した幅約5~10mの防風林帯が2~3列あるが,これらはいずれも潮風によつてかなりの葉枯れ,小枝おれがみられた。
堀切海岸におけるクロマツ林帯の被害は,波浪の侵入ばかりでなく,跳波,および潮風による塩分被害が激しかつたものとみられるが,このような場所でも,枯死林帯の背後につづいて,汀線から100m前後にある樹高20m,直径約50cmの道路ぞいに並木状にあるクロマツ林帯は,比較的被害が少なく,樹葉も緑色を保ち,林下のクロマツ稚樹もほとんど被害がみられなかつた。枯死林帯内では,ハマゴウ,ハマエソドウなどの海浜植物は芽を再生していた。またこれらの林帯から内陸部へ100~200mのところを,海岸線にそつてつづいている山腹面には,主としてクロマツ林がみられるが,潮風害をうけて全面的に褐色をおび,クロマツ林の間にあつたスギ,またはヒノキ林は,褐色の度合いがつよく,被害度のちがいがみられた。
小潮津付近では,地盤沈下にともなう海岸の浸食が著しく,汀線は10~15mの高さのがけ状になつており,このがけぞいにはクロマツを上木とし,常緑広葉樹を下木とする幅20~50mの防風林帯があるが,幅はしだいにせまくなつているといわれる。この林帯は内陸部の耕地およびことに温室(花の栽培)の保護に大きな効果があつたといわれるが,林帯自体は風表側林縁木にかなりの葉枯れや小枝おれ,一部には根返りしたものもみられたが,幅10~20mていどの林帯でも,その風裏側では被害が著しく軽減されている。林内のトベラ,カクレミノ,ツバキ,ヤブニクケイ,マルバグミ,ササ類,ツワブキなどは被害が少なく,また被害をうけたものもすでに萠芽がみられた。
vi.樹種・林相構成別の被害状況
(a)樹種
植物の潮害ならびに潮風害に対する抵抗性については,台風の際の被害観察および室内実験等によつて,樹種別の差異は大よそ知られている13)22)33)37)40)。
今回の調査地でみられた樹種別の被害は,ほぼこれらの調査結果にみられるものと同じような傾向である。すなわち総括的にみれば針葉樹ではクロマツがもつとも抵抗性が強く,たとえば,同じ場所に単木的に生育していたクロマツ,アカマツ,スギ,ヒノキ等があつたが,アカマツ,スギ,ヒノキはクロマツに比べて被害が著しく,抵抗性の差が明らかにうかがわれ,志摩半島や伊勢湾西部の海岸でも,スギ,ヒノキなどはそれらの前面に生育しているクロマツよりも被害が著しいのが一般であつた。
アカマツとクロマツの耐塩性について,実験的な報告もしばしばみられ,山科51)は両者の当年生苗に対してNaClを散布し,伊藤・稲川8)は種子の発芽や幼苗でNaClに対する抵抗性を実験して,アカマツはクロマツよりも弱いようであるとのべ,伊藤9)はダイナ台風(1952年6月)の際の事例では,アカマツはスギ,ヒノキと同程度の害をうけていると報告している。
広葉樹では,落葉樹はほとんど葉枯れしていても,常緑樹の角質の葉をつけているものは被害が少ない。潮風害のひどいところでは,広葉樹は0.5~1.0cmくらいの小枝まで枯れ,落葉するので,一時は著しい被害状況を示すが,一般に萠芽性がつよく,すでに枝あるいは幹には多数の新芽の再生するのがみられた。
次に,台風および津波等による災害の際の林木の被害調査例の2,3によつて,植物の種類別の被害状況をのべ,多少の考察も加えてみる。
倉内22)は1953年の台風第13号,1954年の台風第12,15号,1955年の台風第22,26号のとき,および1956年の夏海岸で塩風が運んでくる塩分と植物の関係を調べ,さらに室内実験を加えて塩風害の発生につき次のように報告している。
(a)台風または常時の風が運ぶ塩分を表面につけたままで内部に入れにくい付着型の葉と,容易に葉内にはいる侵入型の葉が区別される。前者は常緑樹のものに多く,後者は落葉樹のものに多い。
(b)付着型の葉をもつものは,クロマツ,ヒメユズリハ,ヤブニクケイ,ツバキ,モチノキ,カクレミノ,タブ等があり,海岸林をつくるおもな樹種であつて塩風に対して一応強いものである。
(c)侵入型の葉をもつものにはイヌビワ,エノキ,アカメガシワ,クサギ等があり塩風に弱く,Cl'到着量の少ないところにはえている。
(d)葉の内部に多量のCl'がはいつて抵抗性のはなはだ強いものがある。マサキ,トベラ,マルバグミ,オオバイボタ,オオバヤシヤブシ等である。他にハマヒルガオ,フジナデシコその他の海浜草本がある。
谷ロ45)は,1953年の台風第13号における潮風害とともに,冠塩水害についても調べ,被害状況をまとて次のように述ベている。
「各植物の冠塩水時間別および塩風による被害状況は,同じ冠塩水日数に対しても津市橋北地方の如く南北に河川をもつ地帯と,安乗,浜島の如き外洋に面した地帯とでは被害程度が若干異なる。これは塩分濃度に差異があるためだと思われる。また一般に各地点による若干の差異は塩分濃度のほか,波浪の強さ,高さ,方向,漂流物の多少などが関係したものと思われる。また伊勢湾内の砂丘あるいは河ロ付近,志摩半島における太平洋海岸あるいは入江で植相,地形,波浪その他の地位条件で異なる。
A.まず冠塩水時間の長短による植物被害を記せぱ次のようである。
(a)1日冠塩水地帯:
被害を受けたもの。草本ではヒメムカシヨモギ,ヨモギ,クマザサ,ハラン,エノコログサ,コシダ,ヤブソテツ,オニヤブソテツ,サルトリイバラ,コマツナギ,木本ではクロマツの稚樹,モチノキ,イヌマキ,ヒノキ,ネズミモチ,ヒサカキ,ハマボウ,ウバメガシ,イブキ,ハマヒサカキ,チヤ,アカメガシワ,ヤマモモであつた。
被害を受けないもの。コウボウムギ,チガヤ,ケカモノハシ,ゴキダケ,ノゲカモノハシ,ギヨウギシバ,ツワブキ,ギシギシ,ノイバラ,ハママツナ,ホソバハマアカザ,ハマゼリ,ハマナデシコ,ハマヒルガオ,ハマスゲ,ヤブニクケイ,カラタチ,ミカン,キンカン,シヤリンバイ等。
(b)2日間冠塩水地帯:
被害を少し受けているもの。マサキ,ネズミモチ,クロマツ,ヒノキ,アカメガシワ。
被害を受けていないもの。トベラ,タブ,クコ,クロガネモチ,ケカモノハシ。
(c)3日間冠塩水地帯:
全く葉が枯死しているもの。クロマツ幼樹,ヤマモモ,アカメガシワ,ノリウツギ,モクセイ,チヤ,ケカモノハシ,サルトリイバラ,コマツナギ,シヨウガ。
多少被害を受けているもの。クロマツ,アラカシ,ヤマブキ,ハマゴウ。
(d)7~11日冠塩水地帯:
ほとんど枯死のもの。オオイヌタデ,イヌビエ,オヒシバ。
異状ないもの。ハマスゲ,ハマナデシコ。
(e)1ヵ月以上冠塩水地帯:
異状ないもの。イタドリ,ハマヒルガオ,ギシギシ,ハマゼリ,ハマスゲ,アカザ。
(f)わずかな冠塩水による葉の被害部位の概況
L1:サルトリイバラ,ハマヒサカキ,ハイネズ。(L1等の説明は42頁に記す)
L2:ツバキ,アキグミ,ヒサカキ。
L3:ツツジの1種,ヤマイモ,タブ,タイミンタチバナ,イブキ。
L4:ウバメガシ,シイノキ,ハマボウ,ヤブソテツ,ケカモノハシ。
B.潮風に対する,植物の種類別による被害程度は次のとおりである。
(a)強塩風に対しては,スギ,ヒノキ,ヤマモモ,モチノキ,シイノキ,アカメガシワ,クスノキ,クロガネモチ,ウバメガシ,ヒサカキ,ハイネズ、オニヤブソテツは相当被害を受けている。
ツバキ,センダン,イヌマキ,イスノキ,タブ,イブキ等も多少被害を受けている。
ハマヒサカキ,シヤリンバイ,トベラ,マサキ,ノイバラ,アゼトウナ,ダンチク,ツワブキ,フウトウカズラ,キノクニシオギクは異状ない。
(b)スギ,ヒノキ,ヒヨクヒバ,イブキ,ハイネズ等のヒノキ科植物は冠塩水にも強塩風に対しても抵抗力弱く,葉が赤褐色に枯れてしまう。すなわち海岸地方の防潮林や庭木としての植樹にはヒノキ類は不適当と思われる。しかしながら,ミカン,キンカン,カラタチ等のサンシヨウ科植物は冠塩水に対して被害を余り受けていない。
(c)一般に海岸性植物であるハマスゲ,ハマユウ,ハマナデシコ,ホソバノハマアカザ,ケカモノハシ,ハマヒルガオ,ハマエンドウ,キノクニシオギク,アゼトウナ等は冠塩水および塩風に対して抵抗力が強いが,ウバメガシ,ハマヒサカキ,ハマボウ等のように被害を受け易いものもあるから,一概に海岸性植物は一般に対塩性が強いとは極言できない。
(d)オニヤブソテツ,ヤブソテツ,コシダ,ホソバカナワラビ等のシダ植物は塩風に対して弱く,葉は茶褐色になり枯れ易い。
(e)ノリウツギ,アカメガシワ,ヤマブキ,サルトリイバラ等落葉樹は常緑樹に比し被害を受け易い。とし,次のように摘要している。
塩分に対する抵抗性は,各種植物によつて異なるが,概してサンシヨウ科植物は強いのに対し,ヒノキ科植物およびシダ植物の多くは弱い。また落葉樹は常緑樹よりも弱い。
海岸性植物は一般に対塩性が強いといわれているが,直接の冠塩水害に関する限りは,必ずしもすべてがそうとはいえない。
糟谷・長谷川13)も同じく台風第13号の際における調査で,汀線から50~100mのところで波をかぶつたものでは,ツルナ,コウボウムギ,ハマスゲ,カモノハシは枯死,ハマ二ガナ,ハマヒルガオ,ハマボウフウはほとんど無害で100~200mにあつてしぶきをうけたところでは,コウボウムギ,カモノハシは,葉は枯れても地下部は枯死せず,ツワブキ,トベラ,クロマツなどは害がなかつたとしている。
なお,今回の台風における三重県農業試験場の調査では,第12,13表のようである。
四手井・渡辺40)は,1946年の南海地震の際の津波による被害調査にあたつて,クスノキ科のものは根だけ浸つたと思われるものまで枯死し,ウバメガシ,アオキ,ヤマモモ,トベラなどの葉のかたいものは,海水に浸つても害をうけていない。ミカン,ナツミカン,ウメなどは抵抗性が弱く,ソラマメ,エンドウ,ムギ類は枯死していると述べている。
以上によつて植物の種類別の被害状況はしられるが,われわれの観察では,さらに,これに次の3点をつけ加えねばならぬ。
(1)1個体でも組織の充実の程度によつて異なる。すなわち,組織形成の新しいほど,充実度(硬化の程度)の浅いものほど被害をうけやすい。たとえば,スギにおいては,梢頭部,各枝等の先端部は,最も被害をうけやすく,第1次的な被害をうけている。針葉樹・広葉樹とも梢頭部と枝端部の被害が特に著しい点については,これらの部位の充実度のほかに,空中の塩分粒子の付着作用は直径が細くなるほど盛んになるため先端部の付着量が特にに多い44)ことも影響するものとみられ,両者あいまつてこのような部位に激害を生ずるものと考えられる。
(2)機械的障害を全く無視するわけにはいかない。これについては前述の小林の実験もあり,またわれわれの調査区域で,被害木の幹ならびに枝の剥皮を行なうと,風にもまれたと思われるものは形成層に褐色の横筋がみられることからも,また製材した場合に,もめ割れによる造材歩合の減少からもうもうかがわれる。これに塩分の被害が加わつて,枯損を助長することも考えられる。
(3)枝条(foliage)の着生状態によつて,塩分のろ過機能がいちじるしく異なる。たとえばアカマツの針葉は,潮風をうけた場合,流通が比較的容易なため少なくとも潮風をうけた面の針葉は大部分が被害をうける。しかし,スギは枝条がいちじるしくこみあつて,小枝条の複合体となつているので,潮風をうけた面の針葉は,表層の小枝条は被害をうけるが,内部に塩分が到達しないため生き残つていることがある。
したがつて,被害のうけかたは樹種ごとに特性をもつているので,簡単にアカマツとスギで,被害の抵抗性をうんぬんすることはできない。すなわち樹種ごとに被害の様相のちがうことを認めなければならない。
(b)林相
谷口は,伊勢湾沿岸部の暖地性植物の分布47),および神島の植物群落46)を調べ次のように述べている。
この地帯の林相は,第1層はクロマツが,第2層はトベラが優占して,クロマツ—トベラ群叢をなしており,これは志摩半島,渥美半島,伊勢湾沿岸,三浦半島,紀州などでも認められ,広くわが国太平洋岸の暖帯地方にみられる群落とおもわれる。
その構成は,クロマツを主とし,これにウバメガシ,スダジイ,ヒメユズリハ,モチノキ,サカキ,トベラ,カクレミノ,シヤシヤンボ,マサキ,オオバイボタ等の常緑樹およびイヌザンシヨウ,ネムノキ,サンシヨウ等の落葉樹がまじつている。灌木にはヒサカキ,ハマヒサカキ,センリヨウ,テリハノイバラ,カマツカ,アキグミ,モチツツジ,アリドウシ,ハイネズ等があり,藤本植物にはフウトウカズラ,キヅタ,マルバグミ,ツルウメモドキ,テイカカズラ等の常緑性のものが多く,その他サルトリイバラ,ハスノハカズラ,ガガイモ,カニクサ,イヨカズラ,クサスギカズラ等がある。地床植物にはヒトツバ,フモトシダ,コシダ,ウラジロ,ゼンマイ,ヘラシダ等のシダ類が多く,さらにユキノシタ,チドメグサ,ジヤノヒゲ,ツワブキ,ススキ,アゼトウナ,ツボクサ,ヤブコウジ,ハマゼリ,ノカンゾウ,ヤブラン等がある。
本群叢はさらに,A;カクレミノ,ヒサカキ,サルトリイバラを識別種とするクロマツ—トベラ—ヒサカキ亜群叢と,B;マルバグミ,ハマヒサカキ,ツワブキ,イヨカズラを識別種とするクロマツ—トベラ—ハマヒサカキ亜群叢とに区別することができ,後者は直接潮風の影響をうける外洋に面した地域にみられる。
また海岸草原は,ハマゴウ—ハマグルマ群叢とみられ,さらにハマヒルガオ,ホソバアカザ,イヨカズラ,フジナデシコ,ハマゼリ,ヨモギ,ツボクサ等が若干混生するとしている。
熊野灘,志摩半島,渥美半島の沿岸部の,小丘陵が海に迫つているところでは,暖帯性海岸植生が発達し,人工植栽林はスギ,ヒノキを主とし,砂地ではクロマツの海岸林となる。伊勢湾西岸部では,海岸の後方は一帯に平地で,耕地や人家が広がるところが多いので,概して海岸堤防を前にしたクロマツの海岸防災林が多い。
志摩半島,渥美半島などの外洋に面した海岸ぞいの丘陵斜面や砂浜などで,波浪,跳波を強く受けたところでは,樹種や林相にあまり差別なく被害がみられた。たとえば,渥美半島の伊良湖付近のように,暖帯樹種原生林でも,全林一帯に落葉し,外観的にはほとんど枯木状態にあるのがながめられるようなところではクロマツ林もはなはだしい葉枯れ,落葉がみられ,堀切海岸における20~30年生以上の壮齢クロマツ林帯が全く枯死したところもある。しかし,やや内陸部になればスギ,ヒノキの単純林が,一様に葉枯れが著しく,褐色になつている場合でも,クロマツ林や常緑広葉樹林では著しい被害を示さず,また被害をうけた林木がすべて新芽を出しつつあるところが少なくない。なお樹齢別にみるとごく幼齢のものでは老齢のものにくらべて,個体における全枝葉量に対する被害割合が大きいことや,根系部も浅く,抵抗性も弱いことから,被害度が大きいものと考えられる。ことに砂地のクロマツ植栽地では,汀線に近いところに幼齢林が多くなるので,立地的にも不利な条件も加わつて,被害が大きくなる。
vii.地形と被害
林木の塩風被害は,従来の例を見ても内陸奥深くまで及んでいる。たとえば,昭和27年6月のダイナ台風の際には,遠州灘沿岸地帯で汀線から2~3Kmのところにも被害が見られた9)。また,昭和28年9月の台風第13号の際には,房総半島東海岸では汀線から約4kmまでは被害を受けた場所が現われた13)。今回の被害地は,さらに内陸深くまで及び,三重県下では汀線から10km以上の距離まで被害が発生したところがある。被害の発生には地形の影響も大きいので,両者の関係を大地形と局所地形とに分けてみると次のようになる。
まず大地形と被害との関係であるが,三重県の鳥羽市—尾鷲市間の海岸地帯では,汀線から数~10数kmのところにほぼ海岸線に並行して走る山脈があり,海抜高は大体250~650m程度であるが,被害はその南斜面まで及んでいる。しかし,潮風も大体はこの線で阻止された模様で,この山脈の北斜面からは被害を見なくなるのが一般であつた。
海抜高が最高の被害地は南島町能見坂であつて,海岸から3km・海抜約400mのところまで相当の被害が現われた。これからみると,この台風時の潮風の中の塩分は垂直的に非常な高度までその濃度が高かつたことは明らかで,志摩町大野海岸の高さ20m程度の断崖や,磯部町の海岸沿いに走る海抜150~200m程度の山脈が,その内陸側の被害を防止できなかつたことも,これらの地域の潮風が特に強烈であつたとみられるだけに,当然のこととうなずかれる。
次に局所地形と被害との関係では,被害の発生と斜面の向きとの関連はきわめて顕著であつて,一般に暴風に直面したSE~S向きの斜面に激害地が現われ,風裏の斜面やひとつづきの斜面上でも局所的に斜面の向きがこの向きから変わつているところでは,被害がないかまたはあつても明らかに少ないことが,磯部町五知などの場合に明りように現われている。この現象は,南島町東宮の例からも知られるように,林木の樹高が低いほど明らかに現われ,微細な地形の変化も被害の発生に影響するようである。南島町古和および奈屋浦の付近の湾内に面した斜面をおおつているシダ類が,海へ落ちる小尾根を境にして,風表の面は被害のため全面が褐色になり,風裏の面は緑のままで,線を引いたように明確に色がわかれていたのも,その適例であろう。
また,風向に近い向きに開いた沢地形の中では,潮風は沢の曲折に従つてさかのぼるので,沢の屈曲部の斜面やそこに突出した斜面などの,風あたりのよいと見られる箇所に飛び飛びに被害地が現われることは,南島町東宮の例にも見られるとおりであり,また磯部町から鳥羽市に至る広い沢地形の中の国道沿いにも,峠に至るまでの間にこの種の被害が現われていた。
このような沢地形の沢がしらの斜面は,特に被害の多いのが各地で見られ,またこの形の被害地はかなり内陸奥まで現われていて,磯部町檜山から浜島町浜島に通ずる峠の下りロ付近(海岸からの距離約3km)などにもその顕著な例が見られた。
viii.被害程度が生育におよぼす影響
従来の台風被害の際における,林木の潮風害について行なわれた被害度の類別をみると,沼田・島田・永島33)は,植物体の上部もしくは下部から傷害をうける型,葉のまわりもしくは先端から枯れる型があり,下部の葉から,そして葉のまわりからいたみはじめるものが非常に多いようであるとし,糟谷・長谷川10)は0——ほとんど被害の認められないもの,I——葉の先端が黒褐または灰白色などに変色したもの,II——枝葉の大部分に葉枯れの認められるもの,III——地上部茎葉枯死,に類別し,谷口45)は潮害および潮風害を通じて,個体および葉の被害度について,個体の被害:A——個体の外縁部の葉がおもに被害,B——Aとは反対に内部の葉がおもに被害,C——本年の新葉が主として被害し,旧葉は被害なし,D——すべての葉が一様に被害をうけたもの,とし,また葉の被害については,L1——1枚の葉全体枯死,L2——先端部枯死,L3——前半部枯死,L4——縁辺部枯死とし,被害度を,じん大——落葉もしくは葉枯死が個体のおよそ1~3/4(100~75%)(全枯死も含む),大——同じく3/4~1/2(75~50%),中——同じく1/2~1/4(50~25%),小——同じく1/4以下(25%以下),無——全く被害の跡なきもの,などとしている。
次に,これらの被害程度が林木の生育にどのように影響し,または将来枯死するかという問題であるが,これに直接的に答える文献は,遺憾ながら見あたらない。
岡上35)は,昭和31年4月30日に愛知県下に発生した森林の凍霜害について,次のような結果を発表している。
昭和31年度調査の際,ヒノキ30年生造林地では被害林分中の特定木の被害を葉の変色程度によつて調べ,次の3階級にわけた。
健全木:全く被害をうけてないもの,および下枝の一部に葉色の変色した程度の被害は見受けられるが,生活力が盛んで今後間違いなく成長を続行すると考えられる軽被害木。
半被害木:凍霜害により,枝葉の半ば以上がいためられ,葉の色が黄緑~黄褐色になり,今後の生育に疑問がもたれるもの。
被害木:6月25日(昭.31)の調査当時すでに枯死していたもの,および被害はなはだしく,もはや生存の見込み全くないと認められるもの。
この特定木につき3年経過後の昭和34年2月末に再調査を行なつた結果から次のとおり報告している。
健全木および半被害木は一本も枯死せず,青々と葉をつけており,外観上昭和31年の被害をしのばせるものはなかつた。しかし,ここで被害木と認定されたもの7本中には,枯死したものが4本,気息えんえんの状態のものが1本あつた。半被害木で,大体が黄緑色~黄褐色に変色していて,その後の回復に若干疑問をもたれているものも,その後十分回復していることがわかつた。しかし,半被害木は健全木に比し成長量が,いちじるしく低かつた。
と述べている。
ここにいう半被害木の枝葉枯損の程度,たとえば部位等が明らかでなく,また回復後の様相もつまびらかでないので,この報告を,そのまま今次の潮風被害に適用することはできない。
本調査にあたつて潮風害をうけた林木についてみると,針葉樹の場合は,被害が軽度のものは梢頭や枝端だけの変色にとどまるが,被害が激しくなるにつれて樹冠の風上面(全樹冠面の半分)が変色し,最激害の場合には全樹冠が変色するのが一般である。この関係は広葉樹についても同様であり,樹種によつて時間的の差はあるが,被害部の葉はやがて落葉するようになる。針葉樹でも最激害部の葉は脱落するのがヒノキの場合特に目だつていた。
落葉広葉樹は被害後落葉する現象が特に顕著であるが,これによつて枯死に至ることは少ないようである。伊勢湾台風後に三重県林務課で志摩地区を調査した結果によると,広葉樹被害木で落葉したもののうち,クリ・アセビ・シイ・サクラ・エゴノキ・ナラ・ハゼ・リヨウブ・フジ・アカメガシワ・モチノキ・ウバメガシ・ヤマモモなどは,10月31日現在ですでに芽が出たり葉が開いたりしていて,自然回復可能と見られたという。
われわれの観察では,針葉樹と広葉樹,さらにそれぞれの被害程度から,常識的と現場における診断とを合わせて,およそ次のように推察する。
(1)針葉樹は,一般に萌芽力が弱く,葉量の50%以上が被害をうけた場合は,林業上の観点からみて,まず回復に期待をかけることは得策でないと思われる。
(2)広葉樹は,一般に萌芽力が強く,たとえ葉量の100%が被害をうけた場合でも,再生能力が多いものと思われる。この場合でも樹種により被害の程度がことなることと,同一樹種でも組織の軟弱な梢頭部の枯損することは前述のとおりである。
このような観点から,三重県林務課で行なわれた被害地調査基準で被害程度100%を激じん,80~99%を大,40~79%を中,40%以下を軽微とし,中以上に属する1,800haを要改植面積の対象とした数字のみを尊重すれば,50~40%までを見込んだことに,やや過大詳価の感がみられる。しかしながら本文でもふれたように,その調査は被害直後早急の間に調査されたため,はつきり肉眼的に判別せられるもののみが掲上され,その後時日の経過とともに被害地面積が増大しているので,これらを見込めば,三重県調査の数字はほぼ妥当のものとなろうか,と思われる。
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3.虫害
1)調査林の概況と害虫の発生状況
三重県北牟婁郡長島町古里の小面積のクロマツ防潮林は樹齢80~100年,胸高直径20~40m,前線に構築された防潮堤は決壊し,その破片が移動し樹幹に損傷を与えた立木も観察された。しかし潮害はほとんど認められず,大部分の立木における針葉の色彩は健全木と変わりなく,また多少褪色の傾向にあつた立木でも,靱皮部は健全で害虫の攻撃はおこつていない。
本林分では折損枝の発生が多く,その大部分は樹上にとどまつていた。それが落下したものと思われる大枝を剥皮調査した結果,クロキボシゾウムシPissodes obscurusの蛹室にはいつた老熟幼虫が多数発見され,さらにキイロコキクイムシCryphalus fulvusの新成虫が密に樹皮下で越冬していた。以上の種類の発育状態からみて,枯損枝は風害直後に産卵を受けたものと推定され,また樹上に残つている枯枝にも上記の種類の繁殖がおこつているものと思われた。
防潮林の内陸側にある畑の周辺に植栽された生垣はスギ,イヌマキからなつており,針葉はすべて変色していたが幹部の靱皮部はいまだ生の状態でもちろん害虫の加害を許していない。
道瀬付近の海岸には小面積の防潮林が散在し,山が海岸へせまるにしたがつて防潮林は海岸へ接近してくる。このような場所のクロマツは強く潮風害を受けたようで樹冠全体が一様に褐変したクロマツが散見された。しかもその変色の状態からみて樹幹部にマツノキクイの穿孔が始まつているのではないかとの疑いももたれたが,調査の機会が得られなかつた。
北牟婁郡海山町小山のクロマツ防潮林は樹齢70~80年で,海岸に防潮堤を伴わないため波浪に直接根部が洗われタコの脚のように露出していた。しかしこれでも針葉,樹幹ともに健全で害虫の穿孔を全く受けていない。
本林分にはきわめて少数の根返り木が発生したもののようで,幹部,枝条はすでに搬出されていたが,放置された伐根から小型ないし中型のマツノシラホシゾウCryptorrhynchidius insidiosusが多数採集された。これらは前年伐採後,切断面の乾燥に伴つて産卵されたものであろう。さらに今春に至り,樹皮部に少数のマツノキクイ Myelophilus piniperdaの穿孔をみているが,靱皮部は完全に生の状態で,穿孔部からPitch-tube(松脂の管)が突出し成虫が外部へ押し出されたものが多く,また穿孔に成功した場合にも母孔は短くいまだ産卵を認めない状態にあつた。
熊野市新鹿のクロマツ防潮林。内陸の民家に与えた潮害がはなはだ大きかつた割に防潮林自体の被害は少なく,風害木は林分の裏側に1本発生したにすぎない。この風害木は樹幹の分岐したもので,その二又部で割裂しその基部の樹皮下にマツノシラホシゾウムシの小幼虫がはなはだ多数繁殖していた。その部分の靱皮部は生の状態を保つていたことなどからして,風害年の晩秋に産卵したものであろう。
本防潮林は堤防上に植栽されたので,道路沿いの立木の根は相当いためつけられている様子で立枯木も混在した。これにはヤマトシロアリLeucotermes speratusが繁殖していた。このような貴重な防潮林の保健の意味からして道路問題が検討されるべきであろう。
熊野市有馬から紀宝町に至る七里御浜のクロマツ防風林は熊野灘に面し,面積111ha・13kmの距離にわたる樹齢100年の美林で,今回の伊勢湾台風の際に防風防潮の機能を遺憾なく発揮したもののようである。
この防風林に対し次の4箇所で調査を行なつた。
熊野市有馬の林分は外観的には過熟状態にあつた。今回の台風の際には大して潮害や風害を受けなかつたようで,潮風害によつて針葉の変色をおこした立木は全然見あたらない。林縁に発生した大径のざ折木の折損部について調査したところ,マツノシラホシゾウムシの老熟幼虫が多数発見され発育のとくに進んだものはすでに成虫となつていた。成虫の混在したところから一応伊勢湾台風前のざ折木とも考えられるが,大部分が幼虫であつたので今回の風害の結果生じた倒木とみなすべきであろう。なお,この部分からカミキリムシの幼虫も採集された。害虫の繁殖はざ折部のせまい範囲に限られ,ほかは生の状態で残されていた。
防風林の前線にある小径のクロマツは風に対する抵抗力が弱いのか衰弱木となり,マツノキクイの春の穿孔を許していた。
御浜町神志山の防風林の前縁または孤立状態にあるクロマツ立木は強く風圧を受け衰弱をきたしたことが考えられる。この衰弱木には今春になつてマツノキクイが穿孔し母孔をかなり長くうがつており,また産下された卵の一部はすでにふ化して食害が進行していた。さらに全樹冠の針葉が赤褐色となり,枯色が鮮明で営林署が伐採予定木としていた。
御浜町向井地の防風林は幅がせまく,そのため風が内陸に通り抜けた場所で巨木が多数根こそぎに倒れ,これらの樹幹基部の樹皮の厚いところに少数のマツノキクイが穿孔していた。それらは母孔がかなり延び,卵がすでにかえり幼虫孔も認められた。
また点在した針葉の赤変木にも倒木より密にマツノキクイが穿孔していた。
紀宝町下場地域の防風林にも立枯木が多く,これには前と同様にマツノキクイの繁殖をみている。また林内に発生した小径根返り木でさらをこ根元でねじれ縦裂したクロマツを調査したところ,これにはマツノシラホシゾウムシ,クロキボシゾウムシが繁殖し,クロキボシゾウムシはすでに蛹室にはいり老熟状態にあつた。また幹の上方は乾燥し,この部分にキイロコキクイの穿孔をみ,老熟幼虫の状態にあつた。
南島町東宮地区に生立するヒノキ,スギ,アカマツ,クロマツは著しい潮風害をこうむり,とくにヒノキやスギでは全樹冠が赤変をきたしたものが多かつた。さらに地域によつては根返り木の発生をみている。
潮風害スギ,ヒノキ立木の幹部は生存するものが多く,なかには枝や幹の上半の枯死した幼齢木もあつたが,その衰弱をおこした時期がこれらの樹種を加害する昆虫の活動終息後にあたつたためであろう害虫の穿孔は全く認められていない。また根返り木でも同様の理由で全然害虫の穿孔はおこらなかつた。
アカマツ,クロマツ潮風害木でも害虫の加害は認められない。風害木の伐倒玉切られた丸太においても同様であつた。この地域で採集し得た害虫はマツノシラホシゾウムシおよびクロコブゾウムシNiphades variegatusの2種で,これらはともに老熟状態で伐根の皮下で発見されたものである。この伐根が風害時どのような状態にあつたか不明であるが,伐根の高さやき裂からみてざ折木であつたと推定された。
南勢町神津佐のアカマツ,クロマツで塩風害による針葉の赤変をおこした立木が虫害を免れていたことは前と同様であつた。この地域では風害木を観察する機会が得られた。
すでに根元から鋸断されたアカマツざ折木の伐根にはマツノスジキクイHylurgops interstitialisの穿孔がみられ,さらに密に寄生したマツノシラホシゾウムシはすでに老熟状態で採集された。幹部には今春マツノキクイが穿孔し,また枝条部ではマツノキクイのほかトサキクイIps tosaensisの成虫が少数採集された。
南勢町南張地区内陸の民有林には広葉樹を主体とする薪炭林が多く,今回の潮風により著しい被害が生じほとんど落葉し,部分的に枝枯れをおこしている。しかしこのような被害は害虫の活動終息後に起こつたもののようで,全く害虫の穿孔をみていない。またこの地方では薪炭林内に保残木状に点々とマツ類を残し立てる慣習がある。このマツは孤立木同様であるために風害ならびに塩風害をとくにひどく受けたことが想像され,針葉を完全に失い裸木状態から緑葉を一部残すものまで各段階の被害が観察された。それらについて虫害を調査した結果は次のようである。
根返り木:アカマツ根返り木の幹の基部にはマツノシラホシゾウムシ,幹の中部以上さらに折損枝にはクロキボシゾウムシが蛹室内で採集された。
被害立木:これの針葉の状態から次のように分けた。
緑葉の一部が残存するアカマツ:樹幹部には害虫の穿孔は全く認められていない。
針葉は赤変しているが大部分が樹上に付着しているアカマツ:この幹部にはマツノキクイが穿孔を開始していたが,風害年には全然虫害を受けていない。
針葉の変色著しくむしろ褪色し,多量に落下したアカマツ:風害年秋に産卵したマツノシラホシゾヴムシの老熟幼虫が樹幹下部で繁殖し,さらに枯枝にはクロキボシゾウムシが老熟状態で蛹室内で蟄伏していた。
針葉が落下し全然樹上に残存しないアカマツ:この樹幹にはマツノシラホシゾウムシの老熟幼虫がきわめて多く発見された。これには前の場合と同様にマツノキクイの穿孔が認められていない。
南張海岸のクロマツ防潮林は著しい潮害を受け針葉は一様に褐変しているが,大部分のクロマツの樹幹は生存状態にあつて害虫の穿孔を許していない。しかし,このなかでとくに著しく潮害を受けたものであろうか1本の落葉木の幹部に少数のマツノキクイの穿孔のこん跡があり,これより松脂の管,すなわちPitch-tubeが突出していたが,そのなかに母虫は認められなかつた。このような状態の立木でもいまだ靱皮部は完全に生で害虫の穿孔に適さないことがわかる。
また枝条部も生存し害虫は繁殖していないが,折損枝にキイロコキクイが穿孔繁殖し,成虫,幼虫の状態にあつた。
志摩町深谷水道のクロマツ壮齢林はきわめて広範囲にわたつて潮風害を受け,しかも潮風害が顕著に現われた地域である。すなわち,約20mの断崖海岸上のせき悪クロマツ一斉林(40年生)は約500haにわたり,潮風(主として塩風)による激害を受けて赤褐色を呈し,ほとんど枯死状態に至つた。新しい風害木に寄生していた穿孔虫はキイロコキクイが多く,調査木5本のうち3本に寄生が認められた。その他マツノキクイも寄生していた。この地帯は被害面積が広いのに調査本数が少ないのでよく分らないが,おそらく前記以外の穿孔虫も寄生しているのではないかと考えられる。
しかし,この団地の西向斜面で道路に接する地域はいくぶん風うらにあたるため事情が異なり,観察範囲では針葉の変色の時期はおそく幹の靱皮部は健全で全然害虫の攻撃を受けていない。しかし,ざ折木では事情が違い,ざ折部以下の幹部に前年の産下卵からかえつたマツノシラホシゾウムシの老熟幼虫が多数蛹室内で見られ,折損部以上の幹枝にはマツノシラホシゾウムシ以外にキイロコキクイの成虫,幼虫が多数発見された。さらにトサキクイの成虫も少数枝部で採集された。
磯部町五知のかなり深い内陸に生立するヒノキ37~38年生林が山越しの風により潮風害を受け6割以上の被害木を出した林分について調査した。根返り木,ざ折木ともに多く,これらの大部分は虫害を免れていたが,ごく少数の根返り木の枝の分岐点に樹脂粒が付着し,そのなかに枝の先に向かい短い単縦孔をうがつキクイムシの食こんが発見された。少数の幼虫も同時に採集できたが成虫はついに発見されず種名については明らかにされなかつた。しかし幼虫および母孔の形からヒバノキクイPhloeosinus perlatusのとくに活動期の遅れたもののように思われた。この点はこれまで観察したヒノキの被害林の場合と異なつていた。
志摩郡阿児町横山のクロマツ林でクロマツざ折木や道路沿いの衰弱木について調査した結果,樹幹部からマツノシラホシゾウムシの若齢から老熟までの幼虫が採集された。
鈴鹿市千世崎,南若松,北浜,南浜各海岸のクロマツ林は老齢木が多く,千世崎,北浜,南浜の立木被害は枝折れ程度で被害は比較的少ないが,南若松では風倒木や折損木も見られた。潮風害木で穿孔虫の被害を受けたものは認められなかつたが,この台風前に枯死していた太い枝にはマツノマダラカミキリ,マツノキクイ,マツノコキクイの寄生が認められた。
四日市霞ケ浦海岸のクロマツ林は,約80年生の老齢林帯で風倒木がかなり見られ,新しい風倒木には穿孔虫の寄生は認められなかつた。しかし台風前の枯損木にはマツノシラホシゾウムシ,クロキボシゾウムシの寄生がはなはだしかつた。
愛知県渥美半島先端部の小中山から伊良湖崎に至る砂地造林地のクロマツ幼齢木は1週間くらい侵入海水に浸つていたため,極小団地状に枯損したものが多く,この造林地奥の既成防風林の壮齢木は枝の折損がきわめて多かつた。しかしこの地域の潮風害木には穿孔虫の寄生は見られなかつた。
渥美町堀切部落付近の海岸林は壮齢木で,塩風害による枯損は激じんであつた。なお,実地調査は行なわなかつたが,部落後方で半島の中央峯筋の東斜面のクロマツ林は葉の枯死によつて褐変し,塩風害のはなはだしかつたことが推測された。海岸林で風害を受けたクロマツにはマツノシラホシゾウムシなどのゾウムシ類およびマツノキクイが調査木5本のうち2本に寄生しており,今後穿孔虫の被害発生に関して注意すべき地域と考えられた。
赤羽根町の海岸林は,はなはだしい塩風害を受けていたが,調査本数が少なかつたためか,穿孔虫の寄生は認められなかつた。
田原町東神戸,南神戸における海岸林の被害もはなはだしく,とくに被害の著しかつた東神戸のクロマツ林では針葉は全く落下し,団地的に枯死していた。潮風害木に寄生していた穿孔虫はマツノマダラカミキリおよびマツノシラホシゾウムシなどのゾウムシ類であつたが,とくに後者の寄生が多く認められた。
2)潮風害木の外部形態と虫害との関係
前記の各調査地で得られた潮風害木の外部に現われた形態上の差と加害虫との関係を第14表に一括して示した。
i.スギ・ヒノキ
風害発生の時期が9月26日で,スギ・ヒノキに加害するカミキリムシ類,キクイムシ類,ゾウムシ類などの主要害虫は大体活動を終えた時期にあたり,したがつて風害年に虫害を免れたのは当然といえよ
う。東宮地区の潮風害を激しく受けたスギ・ヒノキ立木はもちろんのこと,この地方で単木的または集団的に発生した根返り木,ざ折木においてもついに害虫の穿孔を認め得なかつた。この傾向は五知の風害木においても同一であつたが,この地域に多い根返り木の一部にごく少数のキクイムシの1種(ヒバノキクイ?)の穿孔が風害年に起こり,幼虫態で越冬していたがこれはむしろ異例と称されよう。
ii.アカマツ・クロマツ
アカマツおよびクロマツの場合はスギ・ヒノキの場合と多少事情が異なり,温暖なこの地方ではマツの穿孔性害虫の一部は風害時にいまだ活動しており,さらに早春活動を開始するマツノキクイがあつて,これらは風害形態の違いによつて異なつた加害状態を示した。
(a)ざ折木
ざ折木は風害後速やかに害虫が産卵しうる条件を具えたものであろうか秋季遅くまで活動を継続するクロキボシゾウムシやマツノシラホシゾウムシあるいはキイロコキクイムシが風害年に産卵し,それらはかなり発育のすすんだ状態で越年していた。すなわち2種のゾウムシは大部分が老熟状態にあり,なかには成虫態にあつたものもきわめてまれに見られた。キイロコキクイムシは成虫ならびに幼虫で越年した。
なお,ざ折木の一部にはキクイムシ類の若干の種類の穿孔を認めた。
(b)根返り木
マツ類の根返り木については多数観察する機会は得られなかつたが,東宮地区のアカマツ,クロマツの根返り木やまたこれを玉切つたと推定される丸太にはマツノキクイすら穿孔していない。これに反し南張内陸のアカマツ根返り木には蛹室にはいつたマツノシラホシゾウムシやクロキボシゾウムシが老熟幼虫態で発見され,また御浜町向井地の大量の根返り木のごく一部に対しては今春に至つてマツノキクイの穿孔をみた。このようにこの形態の風害木に虫害の差が現われた理由は,地域的な害虫の密度の違いや根返りの状態,すなわち根の土への付着の状態の差などから生ずるものであろう。
(c)塩風害木
アカマツとクロマツでは同一位置にあつても塩風害を受ける程度ははなはだ違い,アカマツの針葉は早期にその諸機能を失い,立木自体が衰弱したことが想像される。その例として南張内陸のアカマツ立木では2月の調査時に針葉が変色から一歩進んだ落葉木が散見され,これには根返り木同様にマツノシラホシゾウムシ,クロキボシゾウムシの繁殖がみられた。しかるに塩風害程度の低い,したがつて変色をきたした針葉がまだ樹冠上にある立木には前年秋には害虫の攻撃を受けることなく,本春活動するマツノキクイが穿孔を開始していた。なお一部緑葉の混在する立木ではマツノキクイさえ穿孔をはじめていない。
クロマツはアカマツより耐塩性が強いためか内陸では針葉の変色をおこした立木は少ない。しかし海岸に近い林分,ことに南張海岸や深谷水道付近のクロマツの塩風害は顕著で緑葉を全く認めない程度まで激害を受けた。この外見上の被害と立木自体の衰弱とは必ずしも一致するものでなく,調査時の変色木は靭皮部は健全でマツノキクイの攻撃すら受けていないものが多い。しかし深谷水道の海岸近い潮風激害木には害虫の穿孔がみられているところからして潮風害の程度によつて虫害にも差があるようである。クロマツの塩風害木で虫害を受けた例として阿児町横山の1立木があげられる。このクロマツは塩風害の程度は低く緑葉が大量に付着しているにかかわらず樹幹の1面ではマツノシラホシゾウムシが繁殖に成功していた。この被害木は道路に沿つて立ち,根が常時踏みつけられる関係で衰弱をきたしたものであつて潮風害とは無関係であろう。
(d)潮風害の外部特徴の現われない衰弱木
七里御浜の防風林のクロマツは潮風害の特徴は現われていない。それにもかかわらず多数の虫害立木が発生した。この立木枯死に関係した昆虫はすべて今春活動したマツノキクイで他の地域では見られない現象であつた。
立木被害発生の原因としては,(1)本林分は過熟状態にあり,とくに風害を受けなくとも衰弱木が発生し,毎年かなりの量が虫の攻撃を受け枯死していたこと,(2)潮風害の外部特徴は認められなくとも強風のため根がゆるみ衰弱に輪をかけたこと,(3)害虫の飛翔距離内に駅土場や工場の土場が存在し,そこで繁殖した害虫がこの老衰木からなる林分へ侵入し,その密度が常時高まつていたことなどである。
(e)枯損枝および伐根
風害枯損枝や風倒直後の伐根を風害年に害虫がおかしたのは当然である。
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IV 対策
1.海岸防災林に関する対策
この台風災害の経験から,わが国海岸線の防災対策,とくに防潮堤を中心とした防潮対策に世人の関心は高まりつつあるが,三重・愛知両県下でも,前述のように有数の高潮危険地域と目される伊勢湾沿岸はもちろん,三重県の太平洋岸に多い,南西に開ロしたV字型小湾(ここでは地震津浪の危険性も多い)で防潮対策強化の必要は明らかである。
海水の侵入を阻止するためには,十分な設計・施工による防潮堤が,まず,施設される。
その設計は今回の経験にてらして,既往の最大津浪にさらにかなりの安全率を加えた基準により万全を期すべきであるといわれている。しかしながら,津浪対策は防潮堤・護岸のみでは万全を期しがたい。
前述のように将来の津浪の規模を完全に予測することはきわめてむずかしいようであり,かりに予想できたとしても,非常に高い潮位上昇が考えられるときは経費と沿岸の産業活動の点から施設することはきわめて困難な場合が多い。また,どのような防潮堤も将来絶対破堤しないとは断定できない。上昇潮位の予測を誤り,防潮堤が低きに失した場合,あるいは防潮堤が破壊された場合にはかなり水勢をもつ,すなわち破壊力をもつ海水侵入を考えねばならない。また,前述のように風浪のはげしさ・高さも予想が困難であり,かりに予想し得たとしても,これに完全に対処できる防潮堤の築設は前述するところからも不可能に近い。さらに防潮堤はかならず跳波を起こす。跳波の先端は大量の水塊・飛まつをつくる。これらが台風に吹かれて内陸にたたきつけられ,あるいはかなりの奥へ吹き込まれ,塩風害の大きな原因となる。また,これらに砂礫がかなり含まれて害をなすことも前述したとおりである。
以上,これらの害を軽減または防止するためには,防潮堤とともにかならず潮害防備林帯を造成し,あるいは整備すべき必要性が認められよう。しかもいつたん成立した林帯は前述したように防潮効果のみならず,きわめて有効な防風・風致・飛砂防止・魚つきなど広汎な効果をあわせて示すこと,今さら多言を要しない。以上から海岸防災林帯存在の意義は十分に認められよう。
一方,林木は弾力性に富み,幹枝は円形であるためきわめて有利な条件で強大な水勢・風力に対抗し,前述のように壮齢木では案外に折れの被害は少なく,根元の土壌洗掘がないかぎり倒伏も案外に少ない。また,平常“訓練”されている海岸のクロマツは塩風に対する抵抗性も相当に強い。
以上,海岸防災林の効果と自体の抵抗力の強さから考えて,海岸に敷地が得られるならば防潮対策とし
ては防潮堤と防災林を共存せしめることがきわめて望ましいことがわかる。
事実,三重・愛知両県下の海岸地方では,このような認識は深められ,海岸防災林帯の維持・増強が考えられている。すなわち,今次の高潮害の激しさと防潮堤に期待できる限度の認識から,愛知県の鍋田・碧南,三重県の城南などの各干拓地の防潮堤対策として,また平時の常風・塩風対策として干拓堤防に防災林を併設する必要があるとの議論がなされており,また,防潮堤のみに潮害防止を期待していて,しかも破堤による海水侵入,あるいは風浪・跳波による大被害を受けた地域・強風・塩風による被害を受けた地域,たとえば三重県では,桑名郡木曾崎村・長島町伊曾島,四日市市富田・三重郡川越村・鈴鹿市長太町・下箕田・若松・千世崎,松坂市松名瀬,多気郡明和町大淀・村松,志摩郡磯部町的矢,大王町船越,志摩町布施田,北牟婁郡長島町古里・道瀬,海山町小山,熊野市新鹿・波田須の各海岸で,約80haの防災林の新造成あるいは補強の計画があるといわれる。愛知県でも渥美半島の遠州灘沿岸の温室経営地帯では,今回塩風害を受けた海岸防風林の補強と同時に,欠除した部分は高価な農地を買収してまで防風林を造成する計画があるようである。
これらの事実からも,海岸防災林のあり方については,今後なお十分に考究する必要がある。
さて,短時日の踏査で適確な対策を考えることは容易ではないが,気付いた点を次にのべる。
(1)塩風・風倒・風折の被害を受けた林分の復旧をはかる必要がある。造林条件が悪いから容易ではないし,復旧(成林)は長時日を要するわけであるが,将来のために早急に補植を行ない,補強を考えねばならない。このような復旧事業は世人の関心の高いうちに復旧を強力にすすめることが望まれる。
風倒・風折被害や後述する虫害は概して老齢衰弱木が受けやすい。しかも老齢木はとくに枝下高高く,林帯を疎開させ壮齢木に比べ防災効果を減少せしめるとともに自体の外力に対する抵抗性は弱い。三重・愛知両県下のクロマツ海岸林の大部分が老齢木である現状からも,上記の復旧と同時にこれらの更新を考え,林帯の防災機能の補強改善をはかる必要がある。また従来,欠除したままに放置された部分の後方保護対象に被害が集中し,林帯全体としての効果を減殺している場合が見られたが,上記2項の補強施策と同時に,敷地を得られるかぎりこの部分にも林帯造成の必要がある。
さらに,これらの補強事業実施を機会に海岸防災林の維持管理の完全を期する方策が望まれる。防災林は直接生産的効果を期待し得ないため,とかく慢然と放置される場合が多く,落葉,落枝の採取さえ行なわれていたが,これらによつて長期間にしだいに林帯を弱体化して,災害時に十分な効果を期待し得なかつたものもある。よつて所有事情のいかんを問わず,所有者または地元民が積極的に維持管理する意欲を持ちうるよう,よりよい方策の樹立が望まれる。
従来ややもすると狭い国土の利用にあたつて立派な防災林が伐採されて耕地や住宅地に変貌した例が多い。調査した両県下にも各地に見られた。このことは土地の生産力と尊い人命を危険にさらしているものといえよう。狭い国土を集約に使うには地形に応じて防災林をできるかぎり設置あるいは存置することが,かえつてこの目的にかなうゆえんであろう。
(2)前項の対策のためには,まず海岸防災林に適当な主林木の樹種,すなわち,潮害・強風・塩風害に強い樹種を地域ごとに決定する必要がある。三重・愛知両県下の海岸林はほとんどクロマツである。前述のようにクロマツは上記の条件にかなう樹種であるが,場所によつてはやはり風害・塩風害により枯死している。両県下でごく一部地域に見られたツバキなどは比較的諸害につよく,塩風害を受けた場合も被害後萌芽によつて間もなく立ち直つており,このような樹種も場所によつてはクロマツとの混植を考える
ことはよいであろう。
(3)前記の主林木に対する考慮は必要であるが,現状ではやはりクロマツが主体となる場合が多いと考えられる。現実には両県下の海岸林は単純なクロマツの老齢一斉林であり,その枝下高はきわめて高い。一度枯損がはじまるときわめて不健全な林となる。これを防ぐためには枝下高を高めないような施業方法を積極的に採用するか,下木下草の積極的な混植により林帯を複層化することが防災林の効果を増し,林帯維持のためにも必要と考えられる。
海岸防災林は用材生産が目的でなく,防災効果を最高度に果たすことが目的であるから,原則として優良形質の幹材を生産するような一般用材林の仕立て方にすることなく,林分閉鎖を保ちながら林分を構成する個樹の下枝を枯らさないような本数密度をもつ仕立て方を理想とする。この理想的本数密度は,吉良らのいわゆる競争密度効果式において,各齢階のそれぞれについて各林分の総収量の等しい範囲の最小密度,別の見方をすれば各個樹の収量の等しい範囲の最高密度を理想とするものであると考えられる。
なお,防災林の多くは汀線近くの低位生産地帯に造成されるから,混植が地力維持に必要な林分構成をはかることでもある。たとえば混交林,2段林,肥料木の混交などを考える必要がある。調査によればトベラ,マツバグミ,マサキ,ハマヒサカキ,シヤリンバイ,ツバキ,ウバメガシ,ハマユズリハ,ヤブニクケイ,ヤマモモ,モチノキ,その他前述のような耐塩性の強い樹種で肥料木的効果の期待できる樹種を混植して林帯の複層化をはかることにより,上述の必要を満たすことができるかもしれない。なお,この場合林分の構成に応じて耐陰性の考慮もはらわれなければならない。
(4)海岸防災林の幅を適切にする必要がある。防潮効果からは広ければ広いほどよいと考えられているが,防風効果からは効果の限度と幅には関係があり,防潮効果のようにはいえないようである。前述のように海岸線の狭い土地に防災施策が求められることが多く,このため直接生産的でなく,かつ防潮堤に比し広い土地を要する防災林はとかく好意的に見られない場合が多い。また,せまい林帯で十分な効果が期待できればこれに越したことはない。防風林の場合かならずしも広大な幅を要しないようである。また,七里御浜防風林のうち御浜町向井地で見られたように林帯自身の保護のためにもある幅が必要のようである。これらの点から幅は適正であることが望まれる。潮害防備林の幅は従来実験的な研究はない。大体災害ごとの調査と経験からいろいろいわれているが,漂流物阻止の効果は1列でも,極端には数本の木でよく効果を示すことさえある。しかし,前述のように広ければ広いほどよいと考えられるが,得がたい海岸のせまい土地を考えるとき結局海岸防災林の幅は主として防風林としての立場からきめるのが適当であろう。そして効果の限度との関係からきめるのはもちろん,ながく防風効果を維持するため林帯の更新をも考慮に入れて決定されるべきである。しかし,この方面の知識はなお不十分な現状であり,今後の研究を促進する必要がある。
(5)海岸防災林の倒伏被害は林帯が極端に幅せまくなつた部分が強風にさらされた場合,あるいは侵入海水によつて根元土壌が浸食された場合におきていることが多い。調査によればクロマツ林帯はこの土壌浸食がないかぎり,今回のような強風,波浪によつても倒木を生じた例は案外に少ない。浸食された場合は倒木によつてかえつて被害を増し,逆効果となることが考えられるので,林帯自身の保護のためにもこのことを考慮する必要がある。前述のように防潮堤と林帯が共存することはこの意味でも理想的であるが,とくに防潮堤が施設されないときでも林帯の前面にはなんらかの簡単な浸食防止工が付帯して施工される必要がある。ことに汀線に近く林帯を設けるときはこの害が多い。汀線からできるかぎり離すのがよ
いが,現実にはほとんど余地のない場合が多く,このようなときにはことに上述のような施設,簡単な護岸,土堤防の施設が必要である。
(6)三重県海山町小山海岸や愛知県渥美町海岸のクロマツ林帯で見られたように林帯が汀線に直角に,または主風方向に並行に伐開されていることは,侵入海水の水勢および風力の突破ロをつくるもので好ましくない。このため林帯を通つて汀線に出る道路などの伐開線はS字型に設けるか,あるいは汀線または主風方向に斜に設けるようにすべきである。同様なことが林帯をきる河川についてもいえる。しかし,調査区域では適当な事例が見られなかつた。
(7)今回の経験から干拓地に防災林を造成する必要ありや否やの議論が行なわれているが,高価な土地へ,直接生産的でない林帯の導入であり,その要ありとする議論も多いが軽々にその要否を決定し得ない。今後の研究にまつべきであろう。すなわち,まず各干拓地における潮害,潮風害の実態とこの事実のもとに期待できる林帯の効果を調べる必要がある。さらに林帯導入の必要が認められたとしても,干拓地の悪い環境(主として土壌,地下水)のゆえに造林技術上研究すべき問題は多い。鍋田干拓地では数本のクロマツを植えたことがあり,一応活着したが生育はきわめて不良であつたといわれる。とにかく今後の重要な研究課題であろう。
2.潮風害林に関する対策
1)造林対策
(1)三重・愛知両県下の海岸地帯の森林に潮風害をひき起こす可能性のある台風は,その中心経路が決まつていて,外洋から直接上陸して今回の伊勢湾台風の経路付近と昭和28年9月の台風第13号の経路(南島町贄湾から伊勢市西部にかけて志摩半島を横断した)付近との間の地域を通過するものに限られるとみてよいであろう。このような経路をとる台風が過去においてどの程度発生しているかをみると,明治24年から昭和34年までの69年間に約30回ある。台風の規模や降雨状況などが被害の発生に大きく影響するので,この全部の場合に被害が発生したのではないことはもちろんであるが,被害記録が不明であるので,被害発生のひん度を推定することは不可能である。ただ,この経路をとる台風がかなり多いことから,森林の潮風害発生の危険性はあまり小さくはないといえるであろう。
被害発生状態からみると,暴風被害では壮齢以上の林分に激害を生ずるのが一般であるのに,塩風被害は樹齢にかかわりなく大面積にわたつて幼齢から老齢までのすべての林分に発生する。1回の被害としてどちらの被害額が大きくなるかは,時と場合によつて異なるであろうが,被害の現われ方についてのこの差異は十分に留意されなければならない。
被害を発生する暴風の風向は,この地帯ではほとんどSE~SSWの風向にかぎられるので,被害の現われる場所は一般的にいつて,海に面したSE~SSW向きの斜面上に限定されるとみてさしつかえない。
被害発生の場合の潮風の中の塩分は,垂直的にも非常に濃くなるので,人工的な防風施設などによつて全面的に林木の被害を防止することは,実行上不可能であろうから,被害の防止は樹種によるほかはないと考えられる。
被害の発生が地形上不可抗力である地区,すなわち海岸地帯で外洋に直面しているSE~SSW向きの斜面には,クロマツを植栽することが最も安全な潮風害防止策であると思われる。そして反対側の斜面に土壌型に応じスギ,ヒノキ,マツ類を植えることが安全であろう。
(2)三重県の南部地方,すなわち鳥羽市の南部,磯部町の南部,阿児町,大王町,志摩町,浜島
町,南勢町の南部,南島町,紀勢町などは地質年代が一般に新しく,土地の生産性が低く,海岸地帯の一部にはいつそう生産性の低い場所がある(例 志摩町深谷水道付近のクロマツ林)。したがつて極力針葉樹に肥料木(ヤマモモ,ハンノキ類)を混植し,林分の健全性を増すことが必要である。とくに今次のような潮風害木発生後に大発生の予想されるマツクイムシ類に対しても,これら混交林は虫害発生の危険を低減するであろう。
2)虫害予想と対策
i.スギ・ヒノキ潮風害林
従来,スギ,ヒノキ立木が穿孔性害虫によつて加害され立枯れをおこした例が少なかつた理由としては害虫自体の加害習性,林分の取扱いと材の利用の点が考えられる。すなわち,スギ,ヒノキにはトウヒやモミあるいはマツにおけるように強力で一次性を帯びた害虫が少ないこと,造林地の多くは里に近く便利な肥沃地が選ばれ,しかも集約な経営がなされているために害虫の選好する過熟林分が少ないこと,また利用面からみても材の価値が高い上に樹皮にも価値があるため,多くの地方で樹皮を剥ぎこれを利用する慣習があつた。
以上のことはすべて害虫が集団発生する機会を少なくしていたものと思われる。
しかし,スギ,ヒノキにも穿孔性害虫の種類は多くキクイムシ科に属するスギノコキクイ Cryphalus cryptomeriae,ヒバノキクイ Phloeosinus perlatus,ヒノキノキクイ P.rudis,ハンノキキクイ Xyleborus germanus,ハンノスジキクイ X.seriatus,ブナツツキクイ X.validusなどがあり,またカミキリムシ科のヒメスギカミキリ Semanotus rufipennis,スギカミキリS.japonicus,ゾウムシ科のオオゾウムシ Sipalus hypocritaなどの靱皮部から材の内部にまで穿孔し,材の価値を落とす種類のあることに注意を要する。
前記のように今回の潮風害は害虫の大部分が活動を終えた後におこつたため塩風害木,根返り木,ざ折木も虫害を免れていたが,これらの樹種で繁殖する穿孔性害虫の大部分は早春3月ないし4月から成虫は活動期にはいり,潮風害木を加害する可能性がきわめて大である。被害の結果は材の価値を著しく落とし,大損害を招くほか害虫の密度を高めて潮風害によつて衰弱した立木を枯らす危険をはらんでいる。
したがつてその防除対策を樹てる際最も重要なことは,処理の時期を失しないことであり,また防除の方法は一般の穿孔虫の防除法に準じて行なえばよい。
(a)潮風害木の早期処理
早期処理のねらいは主として材の利用率の低下を防ぐ点におかれていることは前述のとおりであるが,その具体的処置は次のようになる。
速やかに潮風害木を伐倒し玉切つて林外へ搬出する。3月末までに処理木を製材するならば剥皮の必要もおこらないが,その後まで林内や山土場に残置するときには皮付丸太にはオオゾウムシ,カミキリ類,穿材性キクイが材へ孔をうがち材は利用不能となる。また風害木を餌木として利用し,林内の害虫の密度の低下をはかることも一応考えられるが,最初から材部へ穿孔する害虫も多いので,この方法は避けるべきで,材の保護の面から剥皮に重点をおくべきである。
(b)薬剤散布による防虫
潮風害木の伐倒搬出または剥皮ができず林内にこれらが残る場合には,材の保護のために薬剤散布の方法がある。その際に使用される薬剤の種類はいろいろ考えられるが,BHCγ1.0%乳剤の散布が最も実
用的で石あたり0.5lの使用で十分と思われ,その効力期間は2~3カ月である。しかしこれも前記の方法の補助手段として考えるべきであろう。
ii.マツ類の潮風害林
マツ類はスギ,ヒノキの場合と異なり加害虫の種類がはなはだ多く,しかも春から秋までいずれかの種類が産卵を行なう。またマツ林に対する施業もスギ,ヒノキの場合のように集約でないため風害林分も無処理のまま放置されるおそれがある。このような理由から従来風害林分を繁殖源として害虫が異常発生し,長期間にわたつてマツ林に惨害を与えた例がはなはだ多い。この被害を未然に防ぐには風害木の経済的価値を考慮外として風害初期の徹底した処置が望まれる。処理の方法はすでに論じつくされているし,また根本的にはスギ,ヒノキの場合と異なるところがない。
次に潮風害形態別処理方法について検討してみる。
(a)ざ折木
ざ折木には観察範囲では例外なしにマツノシラホシゾウムシ,クロキボシゾウムシ,キイロコキクイなどが風害年に産卵し,かなり成長した状態で越冬しており,活動期のはやい種類は4月から脱出することになろう。したがつてその処理は1日もゆるがせにできない。処理は剥皮焼却または樹皮を滲透し皮下の害虫を殺す殺虫剤の散布も早期処理のためにはやむを得ないであろう。
(b)根返り木・傾斜木
調査例が少なく資料はあまり得られていないが,観察範囲では大部分のものは風害年の秋まで害虫の産卵を免れていた。しかし若干のアカマツ根返り木にはマツノシラホシゾウムシやクロキボシゾウムシなどの風害年秋の加害が観察され,さらに本年早春活動するマツノキクイが穿孔していた。現在虫害を免れているこの形の風害木や傾斜木の一部を除き本年中に虫害木となるおそれがあるので,早期に処理し害虫の繁殖場をなくすことが肝要である。
現在害虫の穿孔している風害木の処理方法は,ざ折木の場合に準じて行なえばよい。また虫害を現在免れているこの種の風害木は6月上旬までに完全に剥皮をするか,少なくとも八方剥ぎを行ない害虫の繁殖を阻止すべきである。
(c)立枯木
今回の潮風害に直接関係をもつて発生したと見なされる立枯木はきわめてまれであつた。しかし,激しく潮風害を受けたアカマツでは早期に衰弱をおこしたようで,すでに風害年に虫害を受け,また本年早春にマツノキクイの穿孔がおこつた。
なお,ここに注意を要するものに七里御浜の防風林の立枯問題がある。現在発生をみている立枯木はことごとくマツノキクイの加害によるものである。この立枯れの原因は潮風害の影響も無視できないがそれよりも林分全体が老衰状態にあつて,そのなかでとくに衰弱した立木が害虫の攻撃の対象となつたものであろう。したがつてこの林分内の立枯木を十分に処理しても今後継続して被害が発生するおそれがある。このような林に対しては今から更新の方策をたてておくことがむしろ賢明である。
立枯木内の害虫の駆除は,周知のように被害木の発生のつど伐倒剥皮焼殺を行なうか,または殺虫剤を散布し樹皮下の害虫を殺す方法をとるべきである。
(d)枯損枝
風害木の樹上に折損した枯枝がかかり,これには薄皮部で繁殖するキイロコキクイやクロキボシゾウムシの食害が認められた。害虫の繁殖を抑制する意味からその処理も重要であるが,実際問題として,それをきり取ることが困難であるし,またその樹皮面積は幹部に比較して狭小であるので幹部ほど害虫の密度を高める結果とならないので,放置することもやむを得ないであろう。
(e)塩風害木
海岸からかなり深いところまで潮風を受けたマツは針葉の変色をおこしている。しかし針葉枯死の時期が風害後かなりの期間が経つてからおこつたもののようで,塩風害年に害虫の繁殖が見られたのは南張のアカマツの一部のみであつた。南張海岸や深谷水道のクロマツの塩風害はとくに著しく,海側斜面の林分では今回の風倒木や枯損木に穿孔虫がすでに寄生している。したがつて,被害木の処理を5,6月ごろまでに完全に行なわない場合は,今後虫害木が相当発生するものと予想される。本調査から,針葉が褐変して枯死状態になつているマツ林は皆伐して改植する必要があると考えられた。しかし,内陸側斜面の林分では,樹冠全体が変色をおこしているにかかわらず生命を保ち,わずかに攻撃したマツノキクイも樹脂の分泌によつて撃退されたと見られた。よつて,この塩風害木を今後いかに処分するかが重要な問題となる。現在のところ,害虫が容易に穿孔するほど衰弱していないようであるが,開葉期までこの状態を保ちうるやいなや,また芽の大部分が塩風害をこうむり,開葉数の減少をきたし最後に害虫の穿孔を許す結果にならないか,これらのことは塩風害の程度にもよることと,風害による根のゆるみの程度によつても異なることと思うが,処理は開葉後でも遅すぎることはないので,その時期まで待つことが望まれる。
愛知県渥美半島渥美町の小中山から伊良湖崎に至る間の塩風害を受けたクロマツ防風林は,風害木の処理を完全に行なわない場合は多量の虫害木発生のおそれがある。また同町堀切部落から赤羽根町に至る地域は花卉の温室栽培が盛んで,今回の台風に対しても防風林はこれら温室などを保護するのに大いに役だつたため,地元では塩風害枯損木さえ伐倒することを望んでいないように見受けられた。しかし,これらの潮風害木を処理しない場合は今後穿孔虫の被害もおこりうるであろう。
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A Survey on the Effect of Coastal Forests for Disaster Control and the Salty Wind Damage to Forests at the Typhoon "Isewan" Juzo OGI,Katsumi SAKAGUCHI,Hidenori NAKANO,Tokuji KASHIYAMA,Mikio IWAKAWA,Sukehisa AINO and Masatoshi NITTO
(Resume)
On Sept. 26, 1959, the typhoon "Isewan" (No.5915) overtook the Kinki and Tokai districts in the central part of Japan, and caused some damage in all parts of the country. Especially affected were Mie and Aichi prefectures, suffering serious damage by the wind storm and storm tides which broke out at Ise and Mikawa Bay, Kumano-Nada and Enshu-Nada.
In regard to forestry, the effects of the coastal forests for disaster control, and salty wind damage of forests in both prefectures mentioned above became an issue, so we therefore made an on-the spot survey to inquire into the actual state of the problem, and to study ways and means that should be applied to coastal forests in future.
By the survey, the following points were made clear:
1.The coastal forests for disaster control proved effective in diminishing the destructive force of tide-water and wind surge and in obstructing the driftage-boats, drifting timber, etc.—secondarily produced by the storm tide.
On the other hand, coastal windbreaks were seen to show considerable protection against wind, even in cases in which the storm of the typhoon raged about with a maximum in-stantaneous wind speed of 45~65m/s, and in consequence crops and buildings in various places escaped destruction. A remarkable example of the fact is as follows: A windbreak of Japanese black pine (Pinus Thunbergii PARL.) about 20m high, having diameter breast high of about 40cm was situated with mean width of 50m along the flat seashore. Mandarin orange trees planted on the leeward side of it suffered no damage at the time of the typhoon as far as the distance of 5 h (h is the tree height of windbreak) from the shelterbelt. Beyond
this distance appeared the first signs of leaves and oranges falling to the ground, and the damage became heavier at the zone 8~10 h distant from the shelterbelt. In the area over the distance of 10 h some orange trees were blown down and others were withered up by salty wind.
The damage itself of such coastal forests was far less than we feared from tide damage, salty wind damage and wind storm damage.
From the above facts, deliberations on coastal damage control forests demand consideration of the following:
(1) The complete measure to tide-water control must ensure coexistence with the tidewater control forest and the bank.
(2) The restoration of the damaged stands, the reinforcement of lack parts in belt of trees, and the regeneration of old-age stands must be urgently enforced.
(3) At the present time, the damage control coastal forests are nearly pure forests of Japanese black pine, but hereafter such salty-wind-resistant (and if possible soil improving) tree species as Camellia Japonica LINN., Elaeagnus macrophylla THUNB., Euonymus Japonicus-THUNB., Eurya emarginata (THUNB.) MAKINO, Quercus phillyraeoides A. GRAY, Myrica rubra SIEB. et ZUCC., Cinnamomum Japonicum SIEBOLD, Ilex integra THUNB. etc. must be mix-planted together with black pine to make sound compound storied forest.
(4) As seaside flat is limited, width of belt of trees must be rationally decided.
(5) Boundary line and road through the belt should be askew or S-type against the beach line.
(6) To prevent tumbling of trees due to soil scouring at the front of stand by the tidewater, simple coast protection works must be enforced.
2. The total volume of windfalls caused by the wind storm in forest land amounted to about 4,000,000m^3 in the Kinki district and northward of Japan, in Mie Prefecture to 322,000m^3 and in Aichi Prefecture to 479,000m^3.
Moreover, by the salt contained in the sea wind and the mechanical action of strong wind, leaves of trees and even many trees themselves were withered up in the coniferous stands of 8,800ha and the broad-leaved forests of very wide area along the Pacific coast in Mie and Aichi prefectures. The damage extended inland in some places to more than 10 km away from the seashore. It was observed that among coniferous trees Japanese cedar (Chamaecyparis obtusa S. et Z.) and Japanese redwood (Cryptomeria japonica D. DON) were most susceptible to salty wind damage, and that Japanese red pine(Pinus densiflora S. et Z.) was next to Japanese cedar and redwood in the susceptibility. Japanese black pine was confirmed to be the most resistant species to the damage. The greater part of the broad-leaved trees that suffered damage, shed their leaves, but most of them were observed to begin to sprout after a few months. In general, old trees suffered heavier damage than young trees, and as individual trees the younger tissue was more susceptible to the damage. As the wind direction of the storm was for the most part ESE~SSW in the investigated regions, the greater part of the damaged site in forest area was topographically confined to the slope facing the direction of SE~S.
Soon after or before visitation of the typhoon, some wind infested and dead stands of Japanese black pine in those areas were and had been injured by Monochamus tesserula, Pissodes obscurus, Cryptorrhynchidius insidious, Niphades variegatus, Myelophilus piniperda, Cryphalus fulvus, but none of the Japanese redwood and Japanese cedar had been attacked by
those noxious insects excepting Phloeosinus perlatus on Japanese redwood. In all cases, many trees of those stands damaged by the typhoon will grow weaker or will die. Therefore, serious insect injuries are likely to occur under unsuitable control measures in the near future.
In view of the foregoing facts, attention should be paid to the following:
(1) On the slopes facing the direction of SE~SSW in this district, the seedings of Japanese black pine which are most resistant to salty wind damage should be planted.
(2) The soil fertility of those regions is poor, so mixed plantations of soil improving trees and main coniferous trees are favourable to the building up of a sound stand for the prevention of insect injury.
(3) The wind-damaged trees should be cut and removed from the forest area as soon as possible. If this treatment is impracticable, the bark of the trees must be stripped off and burnt up, or the spreading of insecticide such as BHC E.C. should be applied to the extent needed.
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